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恋のしかばね、愛を恋う

登場人物一覧

プルサティラ(p3n000120)
元・楽園の
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣

●恋のしかばね、再び出会う
「さて――今日も今日とて『腹が減った』な」
 愛無が訪れたいつもの場所(ローレット)は今日も平常運転。いつものように『美食を求め』、依頼の物色を行う。舞い込んでくる依頼に結果報告、世界の情勢。義憤に悪意に悲喜こもごも、多種多様な想いが行き交い、見ているだけでもそれなり腹が膨れる。
「……ん?」
 ふと、ニュースのひとつが目に留まる。己が参加したザントマン事件の一角、『楽園の東側』の元司教がローレットを訪れ、情報屋としての活動を始めたとか。
「ああ、あの娘か」
 愛無が別れ際にかけた言葉に頷き「生きる」と言った彼女だが、ローレットに来る事までは読めなかった。情報屋なら、ギルド内に居るだろうか。挨拶をしておこうと、ギルド内を見渡す。不慣れな様子でテーブルに着いている見慣れない幻想種の姿は、すぐに見つける事ができた。
「あら、あら――貴方は」
「恋屍愛無。あの時一度名乗ったが、覚えているだろうか」
「ええ、ええ……とてもよく、覚えています。覚えていますとも。お名前に『愛』を持つお方」
 愛無がずっと気になっていたのがその点だ。あの時も今も、彼女はこの名前、この単語に強い反応を示している。何故? と問えば。
「愛。愛という言葉が、その概念や在り方が、私にはとても、とても大事なのです――とても単純な理由、です」
 そういえばこの、元楽園の女――プルサティラはあの時、愛しい人を失ったと話しており、そういう事かと合点がいった。
「この名を気に入って貰えたなら僥倖だが。生憎これは元々の名ではないし、そもそも『愛』だって持ち合わせてはいない。君のご期待に副えず、申し訳ないのだが」
「え? それは、それはどういう……」
 いつ頃の話だったかと、愛無は過去の記憶を辿る。混沌に来たばかりの頃出会った、実に人間らしい誰かの姿が浮かんで。
 愛無き、と自身が評したその心に、ほんの気まぐれが生じる。普段はあまり語らない昔話を、何故か彼女に語ってみる気になった。 
「僕の名は――」

●その『愛』がはじまった日
「お前さんにゃ、愛が足りん」
 大規模召喚よりも前に混沌に降り立ち、名前も存在意義も無いまま彷徨っていた『怪物』を拾ったのは、ソレを討伐しに来たラサの傭兵団だった。その団長が怪物を見るなり言った言葉がこれだったのを、今もよく覚えている。
「愛とは」
「あー、やっぱり分からんか」
 怪物と対峙した女、「幻戯」の団長。ルウナ・アームストロングがほほうと笑う。
「だ、団長。そいつ、怪物じゃなくて旅人みたいですが……しかし、まさか」
「ああ、拾っていくぞ」
「なんかやべードロドロが出てますぜ……?」
 構成員たちが不安げな反応を見せる。幻戯にはこの怪物同様、旅人など居場所のない「はぐれ者」が多く、元居た場所や姿かたちも多種多様だが、それにしても目前のソレはだいぶ異質だ。元居た「世界」は、自分たちの考えが及ぶ「世界」ですら無いのかも知れない、と。
「馬鹿もん、お前らも似たようなもんじゃろ。旅人が旅人にびびるでない」
「僕が混ざっていいのか。――確かに、この顔ぶれなら僕が混ざってもそう浮かないとは思うのだが」
「ああ。お前は面白そうじゃからの。……ああ、面白くなりそうだ!」
 混沌を彷徨う中、少なくない人間を見てきたが、こんな事を言ったのは彼女が初めてで。名も無き怪物はそれをこそ「面白い」と思った。
「愛が分からんと言ったが、安心せい。儂が愛っちゅーもんが、どんなもんかじっくり教えてやるゆえに」
「ふむ。ではお言葉に甘えて、教えて貰うとしようか」
「あー、それとお前、名前が無いんだったな……名前も愛も無いなら……よし! 今日から、お前の名は……」
 この日、怪物は『幻戯の愛無』として二度目の生を受ける事になる。

「おいこらー、愛無! 今日のメシ不味いぞ! 女将を呼べ!」
「そうか。君達の好む味は、まだ分からないな。面目ない。そして女将も居ない」
「女将は冗談だ、アホか!」
 傭兵団全員で、家族のように囲む食卓。今日の料理当番は愛無だ。彼の調理は、平均的な味覚で言うと「食べられるがいまいち」程度。その横で、ルウナが豪快に食事を平らげていく。
「好き嫌いするんじゃない。それに、こいつは養生に良い。愛無はそこまで考えたんじゃろ。……この前怪我した間抜け共には、特によく効きそうじゃ」
「うっ……すんません」

 よく笑いよく怒りよく泣く、ころころと表情を変えるルウナがよく繰り返していた言葉は『愛と平和』。優しげな言葉を口にしながら、平気で他人を蹴落とす事もあり。言っている事とやっている事が、今ひとつ合致しない気がする。何故、と愛無は問う。
「いいか愛無。『愛』は簡単に手に入るモノじゃない。こうやって勝ち取り、踏み躙ってでも守らなければ『平和』だって守れやせん」
 言われてみれば。甘ったるい言葉を口にしながら、何ひとつカタチに出来なかった者は何人も居た。ルウナは彼らと決定的に違う。

「愛と平和とは綺麗事に非ず。覚悟の形ゆえに、な」
「そういうものか」

 愛とは何か、人間とは何か。彼女を追っていればすべて分かる、そんな気がしていた。
 しかしある日、幻戯は依頼に失敗。要の彼女の生死は知れず、残った仲間も一人、また一人と去っていき。
「こういう時――人間は寂しい、と思うのだろうか」
 愛を知らない怪物は広い砂漠の空の下、再び独り考えた。

●どんなカタチでも
「――それで、諦められなかった僕はローレットに所属する事にした」
 長らく話を聞いていたプルサティラは、特に口を挟むでもなく「ええ、ええ」としきりに頷く。
「そういう事があったのですね。……では、それでは、苗字の方は?」
「何の事はない。恋は屍。愛も無き僕ゆえに。己の弱さを忘れぬために。無くしたものを取り戻すためにも」
 報酬に対しても強欲な彼だが、それはいつか彼女が帰ってきた時、あの場所を取り戻すため。素敵な事だと、プルサティラは思う。
「ですから……ですから、愛無さんに愛が無いようには、私には思えません」
「何故?」
「愛、というのは気持ちも大事ですが、見えるよう正しく示さなければ、無いと同じことで――貴方は、貴方は言葉で、行動で、しっかりと示してくれましたから」
 私にはそれが出来なかったと、プルサティラはぽつりと零す。不器用な愛と叶わぬ想い。悲しみのあまり身を堕とした、ありふれた女のモノガタリの断片。
「他にもっと、もっと辛い方も大勢居るというのに」
 私は弱い。顔を伏せる女の言葉に、怪物が感想を述べる。
「気持ちや価値観に貴賤などあろうか。君は実に人間らしい――そう、きっと」
 愛無にとってプルサティラ達は実に『人間』であり、彼女の『愛』が興味深く。
「ゆえに、殺すのはつまらないと思って。ちょっかいをかけさせて貰ったわけだ」
「……お優しいのですね」
 優しさ、というのもよく分からず「そうなのか」と返す愛無に、プルサティラは感じたままを告げる。

「愛無さんの中に、愛はしっかり――団長の方から受け継いだ愛が、確かにあると。あの時、そして今。貴方は見えるカタチで示してくれたと、私は感じましたよ」
「……ふむ?」

 かつて死を望んだ女と、生(にんげん)を恋う怪物が交わしたささやかな会話。
 プルサティラは温かい気持ちで一言「ありがとうございます」と礼を告げた後、情報を集めるべくギルドを後にした。

  • 恋のしかばね、愛を恋う完了
  • GM名白夜ゆう
  • 種別SS
  • 納品日2019年11月24日
  • ・恋屍・愛無(p3p007296
    ・プルサティラ(p3n000120

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