SS詳細
Summer Avatar
登場人物一覧
セイラー・サマーフェスティバルに向け、ショップでアバター衣装を売り出したネクスト。カンパニュラ(p3x000406)とトゥリ(p3x008152)が興味本位で買いに行ったのも、周りのプレイヤーたちがそんな話で盛り上がっていたからである。よくわからないけれど楽しそうな話なら乗ってみなくてはと思ったのだ。
最も頼りになるのはゲームに精通しているトゥリ。彼女自身も初ログイン時に他人へ聞いたり、クエストに行ってみたりした程度の知識なのだが、カンパニュラよりは余程精通しているというべきだろう。故に、カンパニュラはトゥリと共にサマーアバター衣装を買いに向かったのだった。
さて、若干前置きが長くなった。ここで何が起こったか簡潔に示すとすれば。
トゥリの付いた嘘、バレちゃった⭐︎
「トゥリ~~~~~~!!!!!!!」
聞き覚えのある声にトゥリはどうしたのかと振り返る。そしてぎょっと目を見開いた。
「カ、カ、カンパニュラさんっ!?」
「トゥリ、話と違うんだけど!!」
「えっ? じゃなくて先ずは
動揺している合間にもむにむにとほっぺをむにられるトゥリ。痛くない。でも痛くないとか言ったらおもちみたいにびろーんって伸ばされちゃうかも! って思ったから言わない。ぷんすこしてるカンパニュラ(火)に油をぶちまけることになりそうだから。
「
「パーティの分配なんてないって聞いたんだけど! あたしこの水着じゃなくても良かったじゃん!」
どうしよう、痛くないとか言わなくてもほっぺが伸ばされる。痛くないけどでもこのまま伸びきっちゃったらどうするの! カンパニュラさん気づいて! 一旦離して!!
……そんなことになっているそもそもの発端はといえば、トゥリが水着選びの時についた嘘から始まる。
――どうしよう、私が布沢山使うやつ選んじゃったから、カンパニュラさん分の布が足りないよー。
――夏の間は
あれやこれやと嘘を重ね畳み掛け、カンパニュラにセクシーな水着を着せることに成功したトゥリ。あまりにも鵜呑みにする彼女に楽しくなってしまったとは言えない。言えないでしょうこの状況!
「……んぁ。これだとトゥリの言ってることわからんね」
やっと気づいたカンパニュラ。手を離されたトゥリはほっぺをさすってビロビローンと重力に従い落ちてしまわないことを確かめる。
「とりあえず、カンパニュラさん」
ひとしきり頬の無事を確かめたトゥリは、カンパニュラを見上げて――目に入らずにはいられないおバスト様に空を仰いだ。
なんて大きなおバスト様。しかもこれ見よがしに水着で見せてくる! 防御力の薄そうな見た目装備グッジョブ! ていうかそうじゃなくて、
「服、着替えよう? なんで水着のままなの?」
「あ、そうそう。着替え方教えて欲しいんだよね」
「え?」
「え?」
暫しの無言。トゥリとカンパニュラは互いに見つめ合った。
「これでできるんだー」
ほぁぁ、とカンパニュラは感嘆の声を上げながらウィンドウを操作し、装備変更を繰り返す。傍目から見ても、その操作は明らかに『初心者です』といった様子だ。
だがしかし、先程の水着にはもう着替えないから恥ずかしかったのだろう。着替え方がわからなくて外を突っ走ってきたものの、カンパニュラとて恥じらいはある。
トゥリはそんな彼女を見ながらやれやれとため息。流石に買った水着を、あれ以降ずっと着ていたとは思わなかったものだから。
だってあそこで着替えられたならその後も問題ないと思うじゃん? これが問題ありありだったわけなんだ。
「で! トゥリ!」
「んえ!?」
再びむにぃっとされるトゥリ。もちもち柔らかほっぺにカンパニュラがちょっと楽しくなっていることなどつゆ知らず、トゥリはあうあうとよくわからない言葉を発している。
「パーティで布面積の分配とかないんだよね?」
「うっ」
「あの格好で戦ったりもしないって聞いたけど」
「うっっ」
まったくもってその通りである。カンパニュラはゲーム知識こそないものの、ちゃんと他の人に相談できる子だった。
あの水着姿で誰に聞いたのかと言う話はまあさておくとして、真っ赤な嘘だったと知ったカンパニュラはおかんむり、トサカに来ているのだ。
「ぷあっ、ま、まずは話を聞いて欲しい! ね!!」
そんなカンパニュラの手からほっぺを救出したトゥリ、開口一番に叫んだ。
いやだってこのペースに呑まれたらさしものトゥリもごめんなさいするしかない。謝ればいいじゃんって意見は受け付けません。カンパニュラが不慣れな間はまた悪戯しちゃうと思うんだ。
カンパニュラもトゥリの内心はともあれ、その言葉に渋々と頷いた。確かに一方的に責め立てるばかりでは解決しない。ここでトゥリの意見――嘘であることは確定なので弁明か――を聞くのも大事だろう。きっと多分。
「カンパニュラさん、私に水着は任せるって言ってくれたでしょ?」
「言っ……、……た。言ってた」
言ってないと言いかけて思い出す。確かに言った。でもあの時はすでにトゥリが水着選びにやる気だったし。
「だから私はちゃーんとカンパニュラさんに似合う水着を探したんだよ?」
「そう……かな。ええ……似合う水着ぃ……?」
釈然としないカンパニュラ。だからってもっと他にもあっただろう。嘘をついてまで肌を見せる水着を着せるのか。
「だって! このおバスト様を見せつけないでどうするの!」
「にぇえ!?」
むんずと持ち上げられるおバスト様。手から溢れるほどのそれがぽよんぽよんと揺らされる。
「ト、トゥリ!! こら!!」
「カンパニュラさんのおバスト様を隠す水着なんてとんでもない! 見せてなんぼだよ!!」
「あたしだって恥じらうんだけど!?」
変わらず持ち上げられぽよぽよされるおバスト様。確かに見せつけるような水着だった。というか全体的に肌を見せるデザインだったが???
「そこまで勧めるんならトゥリだって着てみろぉい!!」
再びおかんむりのカンパニュラ、勢いのままに例の水着をトゥリへ押し付ける! 慌てて手が滑ったか、ピロリンとトレード完了の通知音が鳴り、トゥリは「へっ?」と目を丸くした。
「あー!! キャンセルするつもりだったのに!!!」
「返品は受け付けないからねー」
カンパニュラの言葉に、ぐぬぬとアイテム欄に入った水着を睨みつけるトゥリ。しかし睨んだところで消える訳もないのだが――アイテム破棄という手段を思いつかなかったのが運の尽きだったのだ。
「こ、こんなのダメだよ! えっちなのはいくない!!」
「えぇ……そんなこと言うなら――」
なんだかにぎにぎしはじめるカンパニュラの両手。それがほっぺを狙っていることに気付いたトゥリはひぇ、と小さく悲鳴を上げる。ほっぺをむにられるか、この水着を着るか。
普通に考えたら前者の方が良いと思うのだが、カンパニュラの執拗なむにむに攻撃を喰らったあとでは十分な脅迫である。痛くないのに恐ろしい。こわ。
かくして。
「や、やっぱりこれはカンパニュラさんだから良いんだよ!」
「あたしでも良くないよ!!」
少しでも体を隠そうとトゥリは自らを抱きしめる。だがしかし、この水着でそんなことをしても焼け石に水だ。不幸中の幸いなのは、2人がやりとりしていたのは海岸にほど近い場所だったため、水着でいてもそこまでの違和感を感じさせないところか。
幸いにしてカンパニュラの溜飲も下がり、早々にトゥリは服を着替える。布が多いって素晴らしい。
「というわけで、また水着買いに行こっか?」
「え?」
きょとんとするトゥリ。水着はこれで十分では――と言いかけて、気付く。
「やーほら、あたしの水着はトゥリにあげちゃったし? 新しいもの買いに行かなきゃなー」
そうである、カンパニュラの水着を押し付けられたのだ。トレードで返してしまえば良いのだが、カンパニュラが素直に受け取るとは思えない。
「――とは思うけどまあほら、カンパニュラさん。試着させてくれてありがとね」
「んぇぇ!? あげるっていったのに!!」
ピロピロと両者間でトレード画面を開いたり開かれたりする音が鳴る。地味な攻防戦は断固として受け取らないカンパニュラに軍配があがったのは、まあ当然というべきか。
「えぇ、じゃあこれはお蔵入りかー」
気に入ってたのに、というのは勿論『カンパニュラの着た姿が』である。こういうのはほら、自分じゃあないんだよ。
「……カンパニュラさん、やっぱりもう一度だけ着ない?」
「着ないよ!? どうして!?」
そんな悲鳴や笑い声を響かせながら、彼女たちの足音は遠ざかっていく。今度こそ無事に水着を選べるよう――また違う悪戯をトゥリが思いつかないよう、祈るばかりであった。