PandoraPartyProject

SS詳細

天空に懸念はありて

登場人物一覧

エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
只野・黒子(p3p008597)
群鱗

 そんな場所のドアが開いて、エッダが現れる。
 何重ものフェイクを通り抜け、正しい場所に来られるのは招待した客人のみ。
 此処はそういう部屋であり、だからこそエッダが来たのだと黒子はそう確信することが出来た。
 隣に座ったエッダに黒子は「本日は御足労いただきまして」と定型の挨拶をする。
「今回も「僅かな縁故を頼って営業攻勢をかけている諦めの悪い商人」を装うために手土産もご用意してあります申し訳ないですが、お持ち帰りいただけると助かります」
 エッダが視線を向けたのは、机の上の果菜類。
 どれも瑞々しい色をしており、それなり以上の高級品であると一目で分かる。
「今回は米関係ではなく、果菜類を手土産に。うち、田畑以外にも果樹園も経営してましてね。甘味は正義。疲労回復とかで男女問わず人気のある品です」
「そうでありますか」
 カバーストーリーは大事だ。互いにそれは理解している。
 特に鉄帝国軍部が機密特権と階級を盾に強引な派閥形成を始めたパトリック・アネルの『特務派』と、彼に反感を抱く軍人達で形成される『軍務派』とに分かれ始めている現状、怪しまれないように細心の注意を払う必要がある。
「……で、本題は何でありますか?」
「前回のサシで「こちらで手に入れた情報もお出しします」と申し上げたと思いますが。その一環です。他意はないですよ」
 他意はない。これほど権謀術数蠢く世界で信用の無い言葉もそうはないだろうが……。
 というか「他意はない」と言われて「そうですか」と返す愚図が生き残れるほど優しい世界ではない。
 故にエッダも非常に複雑な表情を浮かべるが……すぐにいつも通りになる。
 黒子流の冗談だと理解したからだろうか。
「さて、まず前提としてローレットの報告書はお読みになったと思いますが……」
 黒子が示すのは「<Celeste et>ゴーレム・リビルド」……案件1と呼称する報告書と、「<チェチェロの夢へ>秘密仕掛けのチェスゲーム」、案件2と呼称する報告書の件だ。
 その概略を説明すると、黒子は本題を切り出す。
「まず、先の3者密談?を後日精査して気づいた懸念が一つ。「アーカーシュが他国圏内へ移動する可能性」です。お気づきでしたら申し訳ない」
 これは当然の懸念だろう。恐らくは鉄帝上層部でも話はしているだろうと黒子は考えていた。
「……「勝手にそうなる」ことはもちろん、「航行装置の類による操縦」の可能性もあります。これに関しては経過観察や今後の調査が必要ですが、準備をしておいたほうが良いかもしれません。当事国との協議内容の目星、後は「誰かに持ち逃げされた時」の手順が該当します」
 ここで懸念するのはパトリック・アネルの『特務派』のことだ。
 あのいけ好かない男のことだ。何を考えていてもおかしくはない。
「例えば、特務大佐殿の腹の中次第では「これを手土産に条件が良いところへ」はまあなくはないでしょう。もちろん、それ以外の第三者による横取りも十分ありえます」
 その言葉にエッダは静かに頷く。
 肯定も否定もしない。懸念は懸念として受け止め、事実確認は行うからだ。まあ、何処まで探れるかは分からないが……。
 あの特務がそう簡単に腹の内を探らせるはずもない。
「次に案件2に於いて「別タイプが有る」事が判明したんですが。「指揮官型が居てもおかしくない」んじゃないですかね? 確認を兼ねて説明しますが、ここでの指揮官型は「戦場での指揮を担うモノ」を指しています。となると、何らかのその他個体への統制手段が口頭や無線の通信可能圏が数十mならいいんですが、「アーカーシュ全土」だとちょっと厄介ですかね。
それを利用した“「第三者」主導による一斉蜂起”なんかも出来ますし」
 確かにゴーレム……セレストアームズとも呼ばれるそれらに、そうしたものが存在しないとは誰にも言えない。
 そこに何かのコードが仕込まれていたところで、おかしくはないだろう。
「ここでの第三者に関しては特務大佐「だけ」ではありません。その機構を簒奪もしくは“割り込んだ”他国家、『新世界』等の組織、魔種なんかも含みます。こちらに関しては、その機構の管制部分の究明、保全の徹底と「裏口がないかの確認」を提案します」
 これに関しては何とも言えない。
 しかし当然懸念すべきことではあるだろう。まあ現状、他国家の侵入の可能性については現地の帝国基地の連中の無能を晒すことにならなければいい……程度ではあるが。
「そして。以下の類似事例の積み重ねに基づいた推測なので確度はあまりないのですが」
 黒子が示すのは本当に推測……有り得るかもしれない、程度の予測の話だ。
・『電子生命体が人工身体に定着した』タイプの発生
・案件1にて遭遇した「アクス・ツー」のもつ「人間味」
・戦術には戦略、「ヴィジョン」という上流が存在する
・ゴーレムの強靭な戦闘力とその機構の解明により、今後「その強化型が発掘/開発される」可能性
 これらの懸念について、黒子は自分の出身世界での言語で口にする。
 だが崩れないバベルはそれらをエッダにほぼ正しく理解させる。
『What is the definition of human beings?』
 おおよそそんな感じで発音された言葉を崩れないバベルで理解すれば……おおよそ、こんな感じである。
「国家元首となりうる自我を発現させたゴーレムが存在するのでは?」
「あの島の国家元首がインストールされたゴーレムが居るのでは?」
「ゴーレムに人格をインストールする技術があるのでは?」
「指揮系統を司るゴーレムが反転する可能性があるのでは?」
 ……どれも「今は分からない」が答えになるだろう。
 だからこそ、精査する価値もまたあるだろう。
「急に早口? ……「幾つかの含意が一斉にバベルで翻訳された」みたいですね。便利ですなぁ………うちの世界にあれば、もう少し戦争が減ったかもしれません。もちろん、「“分かる”のと“分かり合える”のはまったくの別物」ですけどね」
 失敬、話が逸れました、と黒子は苦笑する。
「私からはこんなところです。本日はご足労いただき、ありがとうございました」
 どれも今すぐに返答が出来るものではないだろう。
 だが……どれも注意深く見ていかなければならない問題である事もまた、確かだった。

  • 天空に懸念はありて完了
  • GM名天野ハザマ
  • 種別SS
  • 納品日2022年05月27日
  • ・エッダ・フロールリジ(p3p006270
    ・只野・黒子(p3p008597

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