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酔っぱらうも他生の縁
登場人物一覧
●たのしいおさけ
鉄帝は刹那的な生き方に優しい町だ。何処に行っても酒場があり、何処に行っても酔っ払いがいる。
だからこそ「これ」もまた普通の光景の1つ。珍しいのは……その組み合わせだろうか?
「……今日は正気みたいですね」
「あーっ、酷いわぁ。私はいつも正気だもん!」
「いつも正気……!?」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)はここ最近で『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が請けた仕事の記録を思い返す。
酒の仕事ばかりだからそういう話になるのは仕方ないとして。
鉄帝の伝説にある酒の精霊を捕まえようとしたり覇竜でネオサイクロプス相手にプロレスを仕掛け……いや、確かプロレスは素面だったか。
「そっか……いつも正気です。うん、分かったです」
「何か酷い誤解を受けてる気がするわ!」
「いえ、別にJK28歳はキツいとは思ってないです」
「OLもやったもん!」
「OL経験のある28歳のJK名乗りとか、控えめに言って、その……」
「わーっ、チーサちゃんの合法ロリ!」
泣き崩れるふりをして言葉のバックドロップを叩き込んでくるアーリアに、チーサが呑みかけていたお酒を軽く吹く。
「チーサちゃんだってリボンいっぱいフリルいっぱい夢いっぱいじゃない! いつまでその路線でいくのぉ!?」
「くっ! 打撃ポイントを心得た攻撃! 私の方が不利な気がするですよ! マスター、一番強いの!」
出てきたブランデーをチーサがゴワンゴワンとグラスに注ぐと、アーリアはニコリと笑って瓶をスッと手に取る。
迷いのない動きだった。呑みなれていないと、こうはいかない。
ゴキュ、ゴキュ……と喉を鳴らしながら、ボトルをテーブルにおいて「ぷはー!」と一息。実に気持ちの良い呑みっぷりだ。
「まずはストレートで楽しんだ後にロック。これがオツなのよね」
「オツというかオチというか……ほんと、いつ見ても呑み方が豪快なのです」
実のところ、チーサもそういう呑み方は嫌いではない。
美味しいものを美味しく飲む。美味しく食べる。
それはあらゆる食品にとって、最高の食べられ方だ。
マナーがどうのこうのというのは、その後についてくるものに過ぎない。
「マスター、もう1本」
だからこそ、チーサは同じものを追加で頼む。
美味しいものを美味しく楽しめる人には、それだけで輝くような素晴らしさがある。
アーリアもまたチーサが知る限りでは、その「素晴らしい人間」の1人であり……だからこそ、こうして時間が合えば一緒に呑んでいるのだ。
今日この酒場は、貸し切りだ。食べたいもの、呑みたいものを好きなだけ。
それをする為には、他の客は邪魔だからだ。
楽しい空間には、それを楽しめる「仲間」だけいればいい。
「チーサちゃん! 呑んでるぅ!?」
「はいはい、呑んでるですよ」
「はーー、お酒は楽しいわぁ! やっぱり誰かと呑んでこそよねぇ!」
「ええ、私もそう思うです」
1人で呑むお酒もいい。そういう大人な時間だって必要だ。
けれど、誰かと呑む酒もいい。それは得難い何かに変わる。
アーリアはそれを無意識のうちに理解している。
世に良い酒と悪い酒があるなら、これは間違いなく良い酒だろう。
「じゃあ、今日は此処のお酒全部呑み尽くすわよぉ!」
面白い冗談だ、とチーサは思う。
それが出来るなら、本物の酒豪だろう。
だからこそ、チーサも応える。
「ええ、そうですね。2人で全部呑んでやるです」
そうして、グラスを重ね合わせ鳴らして。
翌日の朝。
ズキズキと痛む頭を押さえながら、チーサは床からムクリと起き上がる。
なんで自分がアーリアの服を着ているのか、よく分からない。
あんまり記憶がないが、酔っているうちに何かあったのだろうか?
周辺を探してみると……チーサの服を着たアーリアがダイイングメッセージ殺人事件のポーズで寝ているのが見える。
赤ワインで書かれたその文字は……「タダ酒サイコー」のようだ。中々器用だ。
「……」
ちょっと考えたチーサは、アーリアを転がしてみる。
幸せそうなその笑顔を見て、自分を服を着ているその姿を見て。
「……意外と合うのでは?」
頷いて、アーリアの服のまま帰る事にしたが……その後起きたアーリアに凄い勢いで捕まったのは、また別の話である。