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SS詳細

常春の君 ~咲くは宵々、夢の花~

登場人物一覧

咲々宮 幻介(p3p001387)
刀身不屈
エルシア・クレンオータ(p3p008209)
自然を想う心
リディア・T・レオンハート(p3p008325)
勇往邁進
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼

●注意書き
 当ゲームはフィクションであり、実在の人物、地名、商品などとは一切関係がありません。

●キャラクター紹介
咲々宮ささみや 幻介げんすけ
「拙者は咲々宮一刀流が後継者にして当主、咲々宮幻介に御座る。どうぞ、よしなに」
「拙者に恋を……? は、は。笑止千万に御座るな、他を当たるべきで御座る」
「――嗚呼、そうか。俺は屹度、」

 本作の主人公。
 咲々宮――始末人一族の名。言わずとも知れた。否、知れてしまった処刑人の苗字。
 祖国に居た過去、想い人を自らの失敗で喪い、恋をすることに躊躇いを持つ。故に逃げてばかり、友からは逃げるなと石を投げられる。
 けれど遂に彼は手を取る。逃げ続けて尚――己を愛してくれた、ヒロインの為に。

・ウルズ・ウィムフォクシー
「あたしはウルズ。ウルズ・ウィムフォクシー、いい名でしょう?」
「……ねえ、先輩。あたし、嘘をついたことはあっても、先輩に対する好きだけは、嘘をついたことはないんっすよ」
「他の女なんか見ないで……って言っても、本心だって思ってないんでしょう。あたし、解ってるんっすよ?」

 本作のヒロインの一人。
 混沌に来て出会った幻介に恋をする。
 立てばホラ吹き座れば適当、歩く姿は嘘塗れ。出生、家族、その全てが謎に満ちている少女。
 故に本心を見せることはなかったのだが――全ては幻介に崩される。

・エルシア・クレンオータ
「エルシアと申します。貴方は……?」
「お慕い申し上げます。喩え貴方が、私より先に逝ってしまうとしても」
「どうして……どうして、優しくするの!」

 本作のヒロインの一人。
 記憶喪失で、療養の為クレンの森にて静かな時を過ごしていた。
 特異運命座標イレギュラーズとなり戦い、ついに記憶を取り戻すが、以前までの記憶も持ち合わせていた為に混乱を強いられる。
 そんなエルシアを支えた幻介に、彼女は恋をする――

・リディア・Tターキッシュ・レオンハート
「レオンハート皇族が一人、第一皇女のリディアです。どうぞ宜しくお願い致します!」
「だーかーらー、貴方は活き餌侍! 一度私と稽古で勝ったからって、調子に乗らないことです!」
「……馬鹿っ、煩い、今は此方を見ないでくださいっ!!」

 本作のヒロインの一人。
 異世界、レオンハート小国より召喚された王女様。
 幻介とは悪友のような関係だった。其の筈なのに。
 幻介が不意に見せる切なげな表情に、いけないとは解りつつも惹かれてしまう――

●ウルズ Ed.2『このひだまりの中で』
 たわわに実った葡萄畑を進み、幻介は進む。愛しい人が待つ地へと。
 ウルズワイナリー――自らの名前を冠したワイン工房。最初は領民が経済基盤を獲得するための小規模かつ自己満足的なものに過ぎなかった筈なのに、いつの間にやらこんなにも大きくなってしまった。嬉しいような有り難いような、そして照れくさいような。
 ウルズは待つ。幻介が来るのを、葡萄畑のその奥、小さな別荘で。
(美味しいのは解ってるんっすけど、やっぱり特別っすね……)
 大切な人に渡すワインともなればやはり違う。どうしても一番を、特別を、とびっきりをあげたくて、沢山の人に協力して貰った。迷惑を沢山かけて申し訳なかったのに、笑って許してしまうのだから尚更に申し訳ない。其れでも妥協出来なかったと知られているのだろうけれど、それはそれとして、だ。
(……会える。漸く、会えるんだ)
 幻介が仕事で忙しかったのもあるけれど、ウルズもウルズで幻介から離れると宣言していた。其れは想いが通ったあの日、貴方の隣に居るのに相応しい女になると決めたから。
 二人分のグラス。それから、普段よりも気を遣った装い。折角なら可愛くね、なんて領に住む女性たちに着せ替え人形にされたけど、なんだかんだ有り難かったし、姉のように慕う彼女達も応援してくれているのだからやはり今日は頑張るべき日なのだろう。
(でもやっぱり、此れはやり過ぎじゃないっすか……)
 何を思ったのかは知らないが、普段着ていたスーツはそのままに下だけパンツルックではなくタイトスカートに、靴は赤いパンプスに変えられてしまった。それから、トレードマークの帽子は今日だけお預けに、首元には甘いコロンを塗って。こんなにも『一生懸命準備しました!』とありありと告げてしまっては、彼だっていたたまれない気持ちになるのではなかろうか?
 否、其れは本人のみ知るところなのだけれど――本人ですらないのに要らぬ心配が頭の中を走り回ろうとしたとき、待ちわびた其の音が響く。

 ガチャ

 別荘の、たったひとつしかない扉を開く音。
 待ち合わせは此処で、と決めていた。恐らく。願った通りであるならば、領民ではないだろう。
 聞き飽きた。安っぽい同情の言葉も。優越感に浸るための薄い配慮の言葉も。
『会わないんだ?』
(会いたくない訳ない)
『寂しくないの?』
(寂しくない訳ない)
『其れって、』

『付き合ってるって、言えるの?』
(そんなの、)

 ――あたしが一番解ってる――

 いいや、明確には付き合っては居ない。其れでも想いは通っている。けれど、周りから見たら?
 他の愛らしい少女たちに加えて、ウルズは女性らしさを考えたことがない。ときには色仕掛けだって使ってみたりはしたけれど、一番にアピールしたのは其処じゃあない。
 其れに、此れが二人の選んだ道なのだ。だから、迷う必要はないと解っているのに。
(久々に会うから、嫌なこと思い出したっす……)
 はぁ、と溜め息をついたウルズ。そんなウルズの心を知ってか知らずか、幻介はすたすたとウルズの隣へやってくる。
「待たせたか、ウルズ」
「……ほんとっすよ。待ちました、幻介先輩」
「……余計なことは考えるな。今は、再会を喜ぼうぜ」
 暗がりの見えたウルズの顔に幻介は笑った。其れから、ぽんぽんと頭を撫でる。
(嗚呼、)
 此れだから、あたしは。
 此のひとを好きになったのだ。

 多くは語らず。「ワイン飲みますか」「ああ」のやりとりを交わし、決して安くはないウルズワイナリーのワインを幻介に注ぐ。此の人の為に大きくしたと言っても過言ではない。
(ワインを飲むときは、)
 あたしを思い出せばいい。他のワインと比べて。他の女と居るときだって、あたしを思い出すようになればいい。
 嫉妬だってするけれど、付き合いだってある。だから他の女と出かけることを咎めはしない。ただ、一層深くあたしの色を刻めばいいから。
 漂うのは芳醇な葡萄の香り。赤ワインだ。其れを幻介は口に含み、ふぅと息を吐く。
(其れは、あたしが先輩から離れている間に作り上げた成長の証)
 幻介だけに頼っているわけではないと。独立しているし、いつかくる天命――別れが来たとしても、後悔はないと示す為に。
 病弱だったのだといつか語ってくれた幻介。其れは、常人にはない弱点。年老えば老う程に酷くなる、刀で言うところの錆のような部分だ。
 だからこそ幻介は拒絶した。己が好きになられるところはない。共に戦場を駆ける訳でもなし、いつかお前の知らぬところでお前を置いて死ぬのかも知れないぞ、と。
 そう告げられたとき、ウルズは否定できなかった。でも、とか。だって、とか。そういった言葉が口から溢れるばかりで、得意な嘘もホラ吹きも出来なくて。
 けれど。
(もう追い掛けるだけのあたしじゃない、今なら先輩の隣でも恥ずかしくない。そう言えるから)
 だから、幻介を呼んだ。次の行き先だけが書かれた手紙を領地に送ってくる貴方を漸く呼び止めたのだ。
 今、ウルズのグラスは空っぽだ。酔っていると流されたくはないから。
 想いは同じと解っているのに、其れなのにどくどくと高鳴る胸を押さえつけて、ウルズは上擦った声で肩を叩く。

「……ねえ先輩、あたしの事を受け入れてくれますか?」

 想いを振り絞ったにも関わらず、幻介は表情ひとつ変えやしない。ただ、グラスの中のワインを飲んで味わうばかりだ。
 心臓の音が聞こえてしまいそうだ。なんとも言えない沈黙が部屋を包む。ちく、たく、と秒針が時を刻んでいく音だけが響いて。
(嗚呼、)
 もう、何とか言ってくれたら良いのに! 此れでは己が馬鹿みたいではないか。
「……なんでも、ないっす」
 取り繕う。なんでも無いわけがないだろう、馬鹿! 恥ずかしくて、悔しくて、みるみる熟れていくウルズの頬。
 ごく、ごく、とグラスの中のワインを一気に飲み干す音がして。かん、と勢いよく机の上に置かれる。
(……そんなに気に入ったんっすね)
 其れは嬉しいけど。次の一杯を次ぐためにボトルを握る。
 その時。
 大きな手のひらがウルズの頬を撫でる。かさついて、固くて、まめのある、大きな手。
「え?」
 幻介の手だ。其れは、机とグラスしか見ることの出来なかったウルズの視線を無理やり幻介の方に引き寄せるもので。
「嗚呼、受け入れるさ」
「……え? 今なんて?」
「だから……受け入れるって。いいや、もう受け入れては居たな。此れからは、」

 ――何も案ずることはない。俺達は、恋人だ。

 薄く弧を描いた口元。意地悪く笑う男の顔。何が起ころうとしているのか。
 そんなウルズの華奢な指に男らしい骨ばった指が絡み。腰が引き寄せられて、無理やり幻介の膝の上に座らせられる。
「受け入れ……え?あの、この指なんすか、え、すごい絡んでくる、うわっ恋人繋ぎ!?」
「此れからは恋人で良いだろう? 好き合って居たのだから……其れとも、まだ足りないのか?」
「い、いや、ちょっ先輩!? 待って心の準備が!」
「何を準備することがある? 今まではお前から追ってきていたのに」
「あ、あの、せんぱい?」
「……なんか、甘いな。お前の匂い」
「ちょっ……あの、聞いてくださいっす」
「いいや、お前が聞かなかった分、俺だって聞かないさ――なあ、ウルズ」
「あっちょ、顔近――?!」

 近くて遠い二人の影。その後のことは、二人だけの秘密。

●エルシア Ed.1『何度でも』
 春。咲き始めたたんぽぽとすみれ。雪になることはなく、雨として草木を伝う雫。貴方と恋をした季節。
「幻介さん……お慕い申しております」
 なんど好きだと伝えただろうか。
 思い出せるだけでも両手の数はあるし。日記を振り返るともっとありそうだ。我ながら苦笑してしまう。
 エルシアも今となっては立派な女性。少女だった頃、貴方に出会ったのだ。遠き日を思い出しては、くすくすと笑みが溢れてしまう。
 最初は右も左も解らなかったローレットの特異運命座標イレギュラーズとしての活動も、貴方の手助けが合ったからこそ今がある。
 ローレットの文字通りの古株となったエルシア。幻介が使っていた刀を譲り受け、今は刀の鍛錬もしている。次に出会うときはちゃんと、貴方を守れるように。
 此の刀を振る度に、幻介がどんな重みを背負っていたのかが解る。最初は握って振ることもままならなかった。だんだんと手のひらの皮が捲れて、血が出て。痛かったけれど、其れでも手放すことはやめなかった。軈て剥けた皮膚が堅くなって、どんどんまめになっていった。そして今となっては、貴方と似た、固くてかさついた手のひらになっている。
(……最後に、幻介さんの手を握ったのは、いつだったでしょうか)
 近くて遠いような貴方。追いかけて追いかけて、手を伸ばしたって届かないのに、うずくまって泣いているときには寄り添ってくれる。そんな貴方。今だって、何も言わずに鍛錬を見守ってくれている。
「……もう、何見てるんですか」
「……」
「恥ずかしいから、あっち見ててください」
 ジャージ姿で汗まみれ、なんて、好きな人に見られて嬉しい姿ではない。一生懸命頑張っている姿を見られるのは嬉しいけど、強くなるための鍛錬ともなると少しだけ照れくさい。生まれたときから強かったと示すように、努力している姿を見せたくはないのだ。
「な、なんですか……可愛い、って言いたいんですか?」
 心做しか頬が赤いような気が、する。
「……もう、ありがとうございます」
 見られている。それに、応援されている。其れだけで元気も勇気も出てくると言うもの。さらに強くなるためにはやはり努力を欠かせないのだ。
「どれだけ時を重ねても、貴方に追いつけそうにはありませんね……」
 遠い、幻介の背中。追いかけても追いかけても届かない刀の実力。素直に指南を乞うことはできないし、できたとしても教えてはくれないだろう。
(……遠い)
 こんなにも近くに居ると言うのに。
 付き合って、結婚式だってあげた。あれは何年前だったか。
 真白いウェディングドレスとタキシード。大好きな花を集めて作った色とりどりのブーケ。長い長いヴェール。花の冠。どれもどれもエルシアと幻介の結婚式のためだけに用意された、唯一無二の贈り物。
 青い空の下、美しい花々に囲まれたチャペルで、大切なひとと挙げる結婚式。母も父も、どちらとも出席はないけれど、其れが二人の在り方だ。
「……エルシア」
「はい、幻介さん」
「拙者は、必ずお前を独りで残して逝くだろうな」
「……はい」
「其れでも、何度だって巡り合えると信じている。今生の別れではなく、来世もまた会えると信じている。だから、今誓おう」

 ――新郎は。咲々宮幻介は、新婦エルシア・クレンオータを永久に愛し続けると誓います。

 花が風に躍る。差し伸べられた手はただエルシアの為だけに。優しく微笑んだ幻介の表情は酷く優しくて。
(嗚呼、)
 まるで童話の中の王子様じゃないか。夢を見ているんじゃないか、なんて思ってしまうほどに。瞼の裏が熱くなって、喉の奥が苦しくなって。折角綺麗に化粧を施してもらったのに、ぼろぼろと涙が溢れるものだから、幻介も不安そうに此方を伺う。
「ご、ごめんなさい、私、わたし……っ!!」
「……嗚呼、解るさ」
「……っああ、」
 どうしてそんなに優しいのか。朝の光で溶けてしまう霜に触れるように、そっと抱き寄せる。白いタキシードにぽたぽたと涙の跡がついて、アイシャドウのラメが落ちて、頬の赤みがおちていく。
「嗚呼もう、そんなに泣くなよ……」
「だって、だって、」
「仕方ない女だな」
 胸に挿していたハンカチでぽんぽんと、化粧が伸びないように拭き取ってくれる。アプリコットピンクのハンカチが少しずつ汚れていく。
(どうしてそんなに……)
 幸せそうに、笑うのか。涙で濡れた視界の中、そんなことを考えたのを今でも覚えている。

(懐かしいですね……)
 慣れ切ってしまった左手薬指の小さな重み。控えめな煌めきを携えたダイヤモンド。初任給がどうこう言うらしいけれど、幻介はわざわざ自分で見つけてきた鉱石を指輪に加工してもらったのだ。
「この指輪は俺たち二人だけのものだ。だから、誰にも渡さないし、お前も渡すな」
「はい……はい。勿論です」
「ん」
 わしわしと整えた髪をわざわざ丁寧に汚く乱された。其の約束は今も変わらず、エルシアの指の中で煌めき続けている。
「幻介さん……お慕い申しております」
「……」
(そう言うといつも邪険にしてくる幻介さんが……今日は私をじっと見つめて下さっている)
 照れたり、鬱陶しがったり、そんな様子はなく、今はただ受け止めてくれる。そんな変化がくすぐったい。
「今日は試しに私から冷たくしてみたのに……」
 其れなのに、貴方はそんなこと気にしてなんか居ない素振りで背中から抱きしめて。
(ああ、ようやく二人の愛が成就したのですね……)
 そうだ。成就したのだ。したの、だが。
「幸せな結婚式を挙げて、幸せな生活を始めたと思ったのに……で幻介さんが天に召されてしまうだなんて!」
 彼女は幻想種。つまり長命種だ。一方の幻介は江戸を生きた侍。衛生環境も劣悪だった時代を生きていたし、何より元来虚弱で病弱だ。
 幻介は老いて先に逝った。来世の約束を交わして。次は必ず添い遂げるから、と。
 墓の傍らに植えた桜の苗は今やすくすくと伸びてエルシアの体躯をとうに越えた。幻介の故郷にも咲いていた花。豊穣に同じ花があると聞いて、二人で約束したのだ。幻介が死んだら、其の傍らには桜を植えようと。其れは幻介よりもエルシアの願いだった。いつだって、貴方を思い出せる此の木が良いのだと。
「いいのか? エルシアの故郷の木だって構わないんだぞ?」
「でも、私は桜がいいんです。だって、幻介さんの故郷にもあった木だし……桜は、四季を教えてくれるから。其の度に、貴方と過ごした季節を思い出したいのです」
「……そうか。なら、止めはせんさ」
 そうやって語った日はいつだったか。日記を捲れば、思い出せるだろうか。
「でも大丈夫ですよ幻介さん……幻介さんのお墓に植えた苗木が、こんなに立派に育ちました」
 揺れる桜の花。ひらり、ひらりと舞い踊って。思い出すのは、桜の中で鍛錬をしていた貴方の面影。雪のように降り注ぐ桜の花弁をかきわけて、私の名前を呼ぶ貴方の面影、其の輪郭。
「……そうだ、伝えましたっけ。名前も幻介さんの名前をつけたんですよ」
 いつかまた貴方に会える日に、此の木は役目を終える。其れまでは貴方と共に、此処に居るから。
 だから早く会いに来て。叶うなら見つけに来て。私だけの王子様。
「さあ幻介さん、今日も日がな一日一緒に過ごしましょうね……」
 桜の木の根に並んで肩を寄せたエルシア。その視線の先には、青い空に桜の雨が降り注いでいた。

●リディア Ed.3『An Happy Ending』
「幻介さん……本気、なんですか?」
「……だって、『こう』するしかないだろう」
「ま、まぁそうなんですけど!」
 此処はリディアの私室。洋風な家具に包まれている和服の幻介はまさに異世界より来たった旅人其の物。
 そんな中にどうして幻介が居るかと言うと。そもそもは本来のリディアと幻介の関係にあるからなのである。
「ま~た会いましたね!」
「嗚呼、そうだな。にしても何日も顔を合わせるとは……もしかして暇なので御座るか?」
「其れはブーメランってやつですよ活き餌侍! 全く……折角一人で楽しめると思ったのになあ」
「生憎だが其れは此方もでな。良ければ今宵くらいは此の場を譲って頂きたいので御座るが」
「はぁ?! だめでーす、私が先に来たんですからね! 貴方が何処かへ行くべきなんです!」
 だのなんだの、此れは実際にあったエピソードの一つだが、一々いちゃもんをつけては何かとくだらない小競り合いをしては喧嘩をする悪友のような関係なのである。
 リディアは恋をしていた。幻介に。ただ、年頃の女の子であるリディアは素直になることが出来なかった。好意を素直に伝えることが出来なかったのである。
 其のため。
「あっ、活き餌侍じゃないですか! ちょうど良いところに居ましたね、どうせ用事もないでしょうしちょっと付き合ってくださいよ。あっても大した用事じゃないでしょうしね!」
(訳:一応念の為予定が出来ないように根回しはしたので、一緒にでかけませんか)
 とか。
「ちょっと、活き餌侍! なんでこんなところに居るんですか、ストーカーですか? 犯罪ですよ、通報しますよ! 憲兵さーん!」
(訳:どうしてこんなところに居るんですか、会えると思っていませんでした。どきどきするので此方に来ないでください)
 とか。
 言い訳にしては苦しいかもしれないが、しかし通用してしまうのが幻介なのである。
 幻介は鈍い。鈍いけれど其れだけではなかった。むしろなぜ其処まで冷たくあしらわれるのか。其処までされるとむしろ絡みたくなる。そんな心なのであった。故に、一層近い距離で幻介は声をかけてくる。リディアは逃げる。逃げていたのは幻介の筈なのに、なぜか追いかけてくるのだ。おかしい。
「あっ」
「あっじゃねえ、待てリディア!」
「嫌です追いかけないで近寄らないで活き餌菌がうつるでしょうやーーーーだーーーーーあっち行ってばーかばーか!!!!!!!」
 けれど機動力と反応特化の幻介からは逃げられない。手首を掴まれて、決して兄のようにたくましい身体というわけではないのに、ぐいと引き寄せられてしまう。
(……どうして)
 女より太い。ただそれだけじゃないか。他の男に比べたら細くて折れてしまいそうな其の腕で、どうして。
(どうして、私は今押し倒されているのか!!)
 詳しい人が居たら教えてほしい。此の男の情緒。其れから思考回路とか。あとはエトセトラ。
 どうして今押し倒されているのか。いや二重に言いたいくらい混乱してるんだ。許して。
「お前は俺のことを唯の友人と思っているのだろうが――」

 ――俺は男だし、俺はお前を友人ではなく唯の女だと思ってる。だから、あまり巫山戯た真似をするなよ?

 要するに、幻介が言いたいことはこうだ。
 男女が。しかも年頃の。二人きりで部屋にいるなんて、いけないと。
「……不用心だな、お前は」
「なっ、なな、なにするんですか! 流石に度が過ぎますっ、降りてください!」
 瞳がみるみる赤く染まっているのが解る。熱を持った眼。其れから、幻介の瞳に釘付けになっているから。鏡のように映った己の其の情けない顔が丸見えなのだ。
(嗚呼、嗚呼! なんて顔をしているんですか、私は!)
 じたばたと足掻いては見るものの、やはり男女の体格差も合ってか動けない。其れが悔しい。
「――俺がお前のことを好きじゃなかったら、そうしてるさ」
「……へ?」
「こんな体勢で言うのもあれだが……俺はお前が好きだ。今すぐにでもとって食っちまってもいい位には、な」
「な、な……!」
 江戸時代の日本において何よりも重視されるのは後継ぎだ。後継なき家庭は血を残せない。故に家を、其の脈々と受け継がれた血筋を、技術を、伝統を残せない一族は必然的に『負け』てしまう。其れは咲々宮家においても同じで、幻介の姉たる彩柯は其の強さより男として生まれていれば、と幾度言われていたのかは聞くまでもない。幻介が生まれて尚虚弱だった幻介を隠すために矢面に立っていたのだ。姉は泣かなかった。けれど其の辛さは身にしみるほど解る。世継ぎの重要性は、何よりも幻介が解っているのだ。
 そんな時代背景もあり、幻介は子を成すことに躊躇いがない。けれど箱入り王女様は情操教育も慎重of慎重、どうしようもないくらいに初なのである。よって、今、彼女は真っ赤なのだ。
(だって貴方と私は、互いに軽口を言い合うような悪友の間柄。だからそれ以上は望まない――いや、望めないと思っていたのに……)
 なのに、こんなにも熱烈な愛の告白をされてしまったら、混乱も動揺もしてしまうというもの。
「そんな風に真剣な表情で愛を告げられたら、私だって……私だって、同じ気持ちですよ!」
 けれどリディア。箱入り故の曲解。
「身分の違いなんて関係ありません!」
「へ?」←幻介
「皇族の作法を全て身につけるのは、少しだけ大変だと思いますが、この愛の炎! 極限まで高めれば! できない事などありません!」
「」←全てを理解した幻介
 リディアは幻介を逆に押し倒し、そしてソファに座らせた。かくいうリディアは想いが通った興奮からかティーカップを用意しアフタヌーンティースタンドに菓子を盛り付けていく。上質な茶葉をふんだんに使い紅茶を入れて、にこにこと微笑んで幻介の隣に腰掛けて。
「……あの、リディア?」
「さぁ行きましょう! まずは食器の持ち方から、私が付きっきりで教えて差し上げますからね!」
「……俺、婿養子?」
「だってお兄様はお婿に行くと思いますから、そうしたらレオンハート小国は後継者がいませんもの。幻介さんの剣技にだって精通する部分があると思いますし、何より絶対に役に立ちます!」
「は、はぁ」
 興奮冷めやらぬ様子は其の真紅の瞳より感じざるを得ない。
 幻介の方を見つめながらとくとくとくと溢れないように紅茶を注ぐ姿は嫌でも彼女がレオンハートの第一王女であることをわからされる。
「……で、あの。どうしてフォークとナイフがこんなにあるんですか……?」
「……えっ」
「えっ」
「そ、其処からですか……?」
「……俺、一応和風と呼ばれる世界文明の出自なんだが」
「……ま、まぁ解らないなら教えるまでです。おまかせください!」
 きゃあきゃあわあわあとはしゃぐ声が、薄く開いた窓から聞こえてくる。
 春風がくすぐるカーテンは幻介とリディアの笑い声と叫び声を青空へと運んで。
 嗚呼、そうだ。いつだって、こうやって。時にはぶつかって、時には笑って、知っていけばいいのだ。お互いのことを。
 解らないなら手伝えばいいし、知りたいなら教えよう。だって俺/私達は背中を預けあえる悪友で――

「そういえば、その、私達」
「?」
「……恋人で、良いんですよね?」
「……嗚呼。勿論。お前は、嫌か?」
「い、いえ、そんなことは!」

 遠回りはしたけれど。好きという想いが通った恋人だから。

  • 常春の君 ~咲くは宵々、夢の花~完了
  • NM名
  • 種別SS
  • 納品日2022年04月01日
  • ・咲々宮 幻介(p3p001387
    ・エルシア・クレンオータ(p3p008209
    ・リディア・T・レオンハート(p3p008325
    ・ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291
    ※ おまけSS『Ed.???』付き

おまけSS『Ed.???』


 常春の君 ~咲くは宵々、夢の花~とは、PC向けノベル風恋愛ゲームである。ノベル風という『風』の字が示すように時折戦闘ミニゲームが合ったり、好感度を高めるための救済措置があるのが魅力的なゲームである。
 それぞれのストーリーはいくつかの分岐によって違ったエンディングやスチルがあることも魅力であり、同社作の別ゲームでは糞野郎のド畜生として名高い幻介が真っ当に想いを受け止めて彼女たちの誰かを愛する姿はまさに作者の幻覚と名高い。

 常春の君 ~咲くは宵々、夢の花~
 というタイトルは、幻介というキャラクターの祖国が日本であることから、春に咲く桜のように過去の怨嗟や苦しさを振り切って、満開の桜が咲いたように幸せな春が訪れることを願ったものである。尚当作品はエイプリル企画のために夢の花(恋人)というタイトルになっている。


「うわあああああああああああ?!!!!」
 飛び起きた幻介。顔色は真っ青。
(……え、どんな夢だ。なんで場面展開したんだ???)
 動揺のあまり己の左手薬指を見たり、まず寝ている家が普段寝ている家であるかを布団から飛び出して確認する。
 家も、家具も、服も、下着も普段と何ら変わりない。だからこそどうしてこんな夢を見てしまったんだ畜生め。俺を殺せ!
(流石に、最悪すぎるだろう……)
 彼女たちの想いは解っている。解っているが、だからといって夢の中ですら踏みにじって良いはずがないのに。
「……はぁ」
 次に会うのが憂鬱になった幻介なのだった。



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