PandoraPartyProject

SS詳細

2月14日、そして。

登場人物一覧

メープル・ツリー(p3n000199)
秋雫の妖精
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
ハッピー・クラッカー(p3p006706)
爆音クイックシルバー


 清潔感のあふれる白い天井の下で、無数のシャンデレラが黄金色の輝きを放つ。どこからか鳴り響く幻想的な音楽の中、小さな妖精達がお互いに手を組み、白いクロスの上にご馳走が山盛りになったテーブルの間を通り抜けながら宙を舞う。まるで誰も居ないパーティ会場に妖精たちがこっそり忍び込んで楽しんでいるような、そんな幻想的な光景は見たものに夢か幻の中にいるような錯覚をも与えるかのようであった。

 妖精郷アルヴィオン、冬が訪れる事のない永久なる春の国。かの地には、秋の植物に満ちた不思議な街がある。とある旅人の妖精が妖精達から半ば押し付けられるように与えられ発展させてきたその街へ、妖精たちは珍しいものを見たい興味心に、あるいはその領主を慕い、訪れる。オータムシェルと妖精たちが呼ぶそこは、幾千もの妖精が集まるエウィンにも負けないくらい大きな街。
 その街の中の中、花畑に満ちたフェアリーガーデンの一番大きなホール会場で、領主が催した大パーティ。グラオ・クローネとも関連つけられたそのお祭り騒ぎに遊び好きな妖精たちは迷わず集まり、各々の好きなように踊り、そして――遊びよりも大好きなあの人のために盛り上げるのだ。
 その当人、否、当妖精――サイズは、ゆっくりと口の中の唾を飲み込む気分であった。特注の黒のメンズスーツに背負った本体であるはずの鎌がひどく重く感じられる。
「……うん、行くぞ」
 サイズは心のなかで揺らぐ決意を固め直しながら白手袋をはめると、足を早め通路を歩く。壁越しに微かに聞こえていた華やかな音楽が次第に大きくなり――聞き慣れた甲高い声にかき消された。
「ほら、失礼の無いようにしないとダメだよ。皺も伸ばさないと」
「一人で着れます! 着れるってば……!」
 半ば閉じていた目を開き、丁字路の反対側へと視線を動かすと翅を持つ妖精たちが何人か。そのうちの一人はヤママユガの翅を持つ少年の妖精、そしてもう一人は鮮やかな橙の蝶の翅。これでもかと言わんばかりに紅葉を意識した鮮明なオレンジと透き通るような藍に包まれたドレスに纏った妖精メープルはサイズに気づくと、顔を赤らめ静まり返った。
「……メープル、似合ってるよ」
「な、何さ、キミが作ったドレスだ……当たり前だろ」
 髪の紅のリボンを後ろ手にきつく縛りながら、恥ずかしがるメープルはサイズの手を掴むと、会場へ急ぐように引っ張っていく。彼女の友達である妖精たちが、送り出すように手を振っているのにも気づかぬまま。
「も、もう、何さ……私達二人だけ呼ぶのかと思ったらこんなに豪勢にしちゃって……もう、サイズのバカ」
 小さな声を震わせてつぶやくメープルの髪にそっと手を伸ばし、サイズは彼女の緊張を解きほぐすように優しく言葉を投げかける。彼女は自分がイレギュラーズに選ばれた理由を考えすぎるあまり、《よほど》の事態でなければ戻らぬと片意地を張っているほどだ。故郷のパーティともなれば、なおさらだろう。
「メープルは人気者だろ? これでも足りないくらいだよ」
「べつに……変わり者なだけだよ」
 どこがさ、そう言いたげにはにかみながらメープルは肩をすくめ肺に溜まった空気を吐き出した。
「早く行こ、《待たせちゃ悪いよ》」
「ああ、そうだな」
 ホールに繋がる大きな扉が重い金具の音をあげてゆっくりと開く。人の大きさに合わせて作られ、妖精の体で見ればまるで大扉の様にも見えたその隙間からは涼し気な秋の風が吹き、オーケストラの音楽が一段と強く鳴り響く。ざわめき、何組かの妖精が、こっそりとサイズ達を見つめているのが見て取れた。
「……確かに、ちょっと集めすぎたかもしれないな」
 この数に見られるかと思うともう少し練習しておけばよかったかと、そんな事を想いながらサイズは赤いカーペットを蹴り、宙へと舞い上がる。その手には秋の妖精の手が重なり精神が昂ぶるもつかの間。
「お手並み拝見、伊達に長く遊んで生きてきたわけじゃないんだぜ?」
 転調し、テンポが早まったと認知するもつかの間、サイズの両腕はメープルにしっかりと掴まれて、回る、回る、世界が回る。世界を回る、回される。ぐるぐると回される内に音楽は次第に上り詰め、そして、絶頂へ。
 静まり返った世界の中でサイズの体はぎゅっと、抱きしめられて――離された。
「おっと」
 サイズは重力に引っ張られてふらりと暖かいなにかに着地し、そっと背を支えられるように大きな指が添えられるのを感じた。見上げてみれば、鮮明なドレスに身を包んだ金色の幽霊の笑顔。
「メープルさん、上手かったねー」
「ハッピー、さん……恥ずかしいところを、見せちゃったかな」
 サイズは首を振り、ハッピーの肩から飛び降りるとその身を風に包み、彼女の背丈に合わせた身長へと転身する。そして地に足をつけゆっくりと回るとハッピーの手へとサイズは手を合わせ、ゆったりと流れる音楽に合わせて踊りだす。
「そんな事ないよ、精一杯なサイズさんも素敵だった」
「……ありがとう」
 もしハッピーの長いドレスの下に足があったのなら、きっと不揃いな歩みであったのだろう。けれど、サイズはハッピーの潤んだ瞳を見つめながら、意識を集中させて慎重にお互いの距離がずれないようにと足を運ぶ。
 ハッピーは何も言わず、サイズに合わせてゆっくりと動き、回り、手と手を組み合わせる。その微笑む眼差しは、サイズにはとてもあたたかく、眩しい。まるで、あのシャンデレラの光のようだ。幸せの中に包まれるというのは、こういうことか。
 会場の中を静かに通り抜ける秋の風に揺れるハッピーの髪に心を揺らしながら、サイズは時間を忘れてしまったかのように踊り続ける。時が止まって欲しい、夢なら覚めないで欲しい、ハッピーさんとこのままずっと、そう思わず身の丈に合わない願いを抱いてしまう――
 だけど。けれど、だが、しかし。ハッピーがわずかに見せた寂しげな笑顔が、サイズの意識を引き止めた。
(思い出せ、サイズ。俺は何をしに二人を呼んだ? わざわざ空いた時間を合わせて、いつでも呼べるようにしたんだ?)
 そうだ。いつまでもこの綿あめのように甘い空間に、水飴のような気持ちに、浸ってはならない。夢はいつか終わらせなければならないものなのだ。なぜなら、自分は。

 二人に想いを、ハッピーさんとメープルの告白の答えを、伝えるために、呼んだんだから。

 ゆっくりとオーケストラのがフェードアウトする。か細くなっていく楽器の音とともに、二人の歩幅はゆっくりとなり、止まった。サイズは深く息を3度吐き、瞳を閉じる。数秒後にゆっくりと目を開けると、後ろでじっとこちらを見上げていた妖精と瞳を合わせて、そしてハッピーさんの方へとシンプルに要件を、伝えた。
「二人とも、大事な話があるんだ……少し、来て欲しい」
 もう、うしろは振り向かない。きっと二人は、来てくれるから。


 白く彩られた大理石の階段を登ると、明るい暖色の輝きが薄れ蒼白い光が差し込んでいく。雲ひとつ無いカラッとした空に、満月に近い月が空高く浮かんでいた。周りにはガラスケースが並び、サイズが持つ様々な曰く付きの装備品レリックが鈍い光を放っている。戦いの知らない妖精たちの殆どは恐れて立ち寄る事のない、サイズが一人で考え事をするための場所。
「こんなところで、すまないな」
「っはは、全然平気だよ、これより物騒なもん見慣れてるわけだし?」
「そうそう、こんな武器じゃ全然私にトドメさせなさそうだし!」
 振り返り謝罪するサイズへハッピーとメープルは声をかけながら、ちらりとお互いの目を合わせる。そして、彼を挟むように、静かに風景を見渡せる縁へと体重を預け、じっとサイズの方を見つめていた。
(……まあ、当然だよな)
 その意味はサイズにも理解はできた。
『彼女たちは何故呼ばれたか理解している、そして自分の言葉を待っている』
『どちらを選ぼうとも悔いはない、貴方の気持ちを聞かせて欲しい』
 自分だって言いたい、言いたくて言いたくて胸が張り裂けてしまいそうだ。『これが許されるのか』、そんな気持ちはもう必要ない、これ以上良識を抱くふりをして濁して傷つくのは、他ならぬ彼女たち自身だろう?
「……俺は、もう真面目にはならないさ」
 月に照らされた影が自身にかかり、拳を握りしめる。小さく零した決意の言葉に気づいたか偶然か、顔を見上げたのはハッピーの方。
「ハッピーさん、なんだ、まあ、さ」
「……うん」
 ハッピーはサイズの言葉にじっと相槌を打ち、静かに耳を傾ける。もう自分の気持ちを止める存在は、この世のどこにも存在しない、から。
「小さなきっかけが積み重なって、一緒に出掛けるようになって…それがいつの間にかデートになってて……
うん、楽しかったよ、ハッピーさんとの日々が長く続いて欲しいと願う自分がいたよ……まあ、たまに大胆過激するぎることもあったが……あれは俺が返事を渋っていたのもあるからな……もう、二年か……待たせすぎて悪かった……俺はハッピーさんのやさしさに甘えすぎていたみたいだ……恋慕の思いは伝えられるうちに伝えないとな……!」
 一歩、ハッピーの方へと足を踏み込む、彼女がみせた希望の眼差しに思わずこっ恥ずかしくなりながら、何が悪いか言ってみろと言わんばかりに、出せる限りの大きな声で――
「ああ、そうですよ、好きですよ!」
 声は草木にかき消され、秋の風に流されていく。ただ、静寂の中、小さな声が、サイズの耳に届いた。
「サイズさん、ありがとう。私も……大好き。とってもとっても嬉しい」
「……ハッピーさん」
 静々と頭を下げて、ハッピーはサイズへと歩み寄り、ぎゅうと、その左腕にしがみついた。
「不束者ですが……よろしくお願い致します」
「……ああ、よろしく」

 サイズはそっとハッピーを軽く抱きしめて、そっと離す。すっと腕が軽くなったかのようにハッピーが離れると、真後ろへと振り返る。
「……メープル」
 秋の妖精はうつむき、手を後ろに組んだまま振り向かない。ただ静かに、表情も見せず、ただサイズの言葉を待っている。
 良かった、本当に待ってくれて、良かった。
「俺は妖精武器として必要以上に妖精と干渉しないように、妖精には敬語を使っている……お願いされて敬語やめるのも一時的だったな……だけどメープルにだけ敬語をやめてそのまま直さないのは……俺がキミとは対等になりたかったからだ……妖精には忠義を尽くすべき妖精武器なのにな……」
 ちらりと、少しだけ振り返ったメープルの片目だけが見えた。サイズは言葉を必死に練り上げて、ゆっくりと搾りだす。
「そしてメープルを意識し始めたのは……俺が作ったドレスを着て押し倒した時からだよ……それ以降から妖精女王の後を継ぐじゃなくて、妖精女王の短命の定めを変えるために動いてるのも俺の思いを汲んでくれたんだろうし……俺が色欲に気を取られて選んじゃった水着を着てくれたし……一緒に過ごしてくれた……特別に思ってしまうよ……忠誠じゃなくて……そう思ったのはROOでメープルさんに会った時だ」
 想えばこの言葉を絞り出すのに、何かと半年は引っ張られてしまったのだろうか、半年かけて、この気持ちに気づけたのかも、しれないけれど。
「彼女に会ったとき、妖精全般に持つ感情に近いと感じた。幻なんかじゃない、個のメープルさんだと認識した……けど、本物の――現実の『メープル』さんは、例外だ。俺は、俺と共に過ごしたメープルの隣に居たい、妖精だからじゃない! ……君だから、俺は君の隣に居たい、です、好きです……」
「サイズ」
 張り詰めた時間の中、小さなため息が流れる。呆れた様な、笑い声。
「キミは、どっちも好きだから、居て欲しいって?」
「……そうだよ」
 そうさ、そう言われるのは覚悟の上だ、なら、その上を超えてやる。
「俺は、選べない。愚かだから一人だけを愛するなんて選択肢は選べない、ふるということができない! そんな事無理だ! これは悲恋の呪いのせいじゃない!」
 そうさ、他の何も原因じゃない、これは俺自身の――
「俺自身のカルマだ! だからこれが俺の選択です!」
 静まり返る、耳が痛くなるような静寂の中、不器用な武器妖精の荒い吐息が、聞こえる。ああ、言った、言ってしまった、言い切った。もう自分には何も残っていない。それでいい、たとえ嫌われようと、殺されようとも。悔いはない、愛した二人の女性に思いを伝えたのだから。サイズは、もう十分やりきった、もう――
「……ったく、本当に《たらし》だね、キミは」
「メープルさん、いいよね?」
「うん、ちゃんと言い切ったんだ、ちゃんと、私も言わなくちゃ――」
 ハッピーの言葉にメープルはふわりと宙で振り向くと、俯いた顔から上目遣いに、サイズの方へと目を向ける。
「大好きだよ、恥ずかしくって、歯切れも悪いしカッコつけないと言えないけどさ、キミの事は、他の何よりも、愛してる」
 そして、メープルは目を細めてにっこりと微笑むと、サイズの右肩へと勢いよく飛び乗ってその頭に掌をのせ、首を大きく縦に振った。
「ふふ、なーんだ、意外と言ってみれば大したことなかったじゃん、お互い?」
「……メープル……」
「なにさー、そっちから告って来たんだろ! あんなやけっぱちみたいな顔までして『ホントにいいのか』って顔しないでよ、もうっ!」
 頬を膨らませて肩の上で器用に膝立ちをして見せて、悪い笑みを浮かべながらサイズの頬をぺし、ぺしと叩く。ああ、張り手の一つは甘んじて受け入れなければならないな、そう思ったサイズは――頬に触れた熱い感覚に両目を思わず閉じてしまう。
「……っへへ、こんな事までしちゃうんだからなー?」
「メープル、な、何をして……!」
 驚いて振りのけようとしても後ろからいつの間にか抱きついていたハッピーに止められて、ああ、どうやら、二人に強くアプローチされた時点で自分はこうなる運命だったのだとサイズは悟る。
「そうだぞそうだぞメープルさん! サイズさんも二股宣言して先にキスさせるなんていい度胸してやがるよ!」
「キスしてませーん! まだ指押し当てただけでーす!」
「そうだった! じゃあ一緒にしちゃいますか! 絵になるしね☆ミ」
「うんうん、それがちょうどいいよ、ね? サイズ♪」
 サイズが当たりを見回そうにも二人以外見えるのは月と星空と花畑と、あとは月明かりに照らされた鈍い武器がいくつか。そうこうしてるうちにメープルもハッピーも顔を近づけてきて、両側から蕩けるような甘い声が響いてくる――
「選ぶ事の出来ないサイズさん…優しい優しいサイズさん。そういう所も、大好きだよ」
「選べないのなら、私達二人で一杯愛してあげるよ? せいぜい観念して、溺れちゃえ♪」

「サイズさん」「サイズ」
「「だーいすき♪」」
 色々、コアが溶け出してしまうくらいに甘い言葉を囁かれて、何度もキスされた気がするけれど。
 キスの数だけでも、5回か、10回か。それ以降は、何をされたのか、何を言われたのか、思い出そうとしても、サイズはもう、思い出せない――



 屋上のベンチに座り込みながら、吹き付ける秋の涼し気な空気でサイズは頭を冷やしていた。
 あれから何分が経過したのだろう、月はすっかり傾きかけ、かろうじて動けはするけれど、体も頭も働かない。
「あうう、ちょっとその場の空気で強烈にやりすぎたかも」
「私もメッチャ恥ずかしくなってきたりして……」
 ハッピーとメープルに介抱されて、暖かい抱擁を受けながら、彼女たちが仲睦まじく会話をしているのを、聞き続ける。まるで自分へと見せつけるように、月明かりの下で妖精と幽霊がキスはしないけれども、スキンシップをしながら自分を介抱している。告白の際に懸念していた二人の不仲はどうやら問題がないようだ……問題がなさすぎて困るほどには。
「サイズさんがその気なら、私はメープルさんともお付き合いするもんね! だから嫉妬しても知らないからねー♪」
「そうそう、デートもお泊りもしちゃうぞ! 置いてけぼりにならないように、しっかり着いてきなよ?」
「は、ははは……頑張る、よ、みんな人生、長いんだからな……」
 サイズは辛うじて苦笑いを浮かべながら、これからパーティをお開きにする体力があるのか、そして、明日からどうやって乗り切ることができるのだろうか、答えの出ない問答を、延々、延々と続けてしまう。
(……うん、俺たちの人生は長いんだから、今日はもうやめて、明日以降考えよう……)

 問答を続ける内にサイズの瞼は疲労からかゆっくりと閉じていき、意識が朦朧としていく。人生が長くても、サイズの女難が解決するとは、到底思えないけれども。それでも。なんだかんだ、これからはいい人生になるといいなと、サイズも、メープルも、ハッピーも、みんな、みーんな、考えてしまうのでありました。

 おしまい。

  • 2月14日、そして。完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別SS
  • 納品日2022年02月15日
  • ・ツリー・ロド(p3p000319
    ・ハッピー・クラッカー(p3p006706
    ・メープル・ツリー(p3n000199
    ※ おまけSS『2/15 メープルからの手紙+あとがき』付き

おまけSS『2/15 メープルからの手紙+あとがき』


 やあ、サイズ。ハッピーさんもそこにいるかな? 見せちゃってもいいよ。今日のは大事な要件もあるし。ふたりとも、昨日はチョコありがとね。サイズはパーティも!
 昨日は色々と疲れたでしょ? ふふ、お疲れ様! 昨日はキミだったけどハッピーさんともキスしまくってやるからなー! ほらほら嫉妬しろー!
 ホントはキミと二人きり、いや三人でゆっくりと私が産まれた楓の木とか案内してさ、思い出話に花咲かせたかったところだけどね。
 なんだか外に出た時に嬉しかったのに、なんでか寒気を感じて……キミを叩き起こして帰って、結果的には正しかったみたいだ。覚えてないと思うけど。
 この手紙を受取る頃には、キミもきっと深緑の異変についてある程度耳に入ってると思うんだ。何って、もし数時間のんびりしてたら、私達、帰れなくなってたんだぜ。
 私も、のんきにこんな手紙を書くくらいにはどうやら現実を理解できてない。
 あんなに綺麗な街に、3人で踊った妖精たちの舞踏会に、もう戻れないなんて。つい昨日のことなのに、覚悟をしてたって信じろって方が無理だよ。

 怖いよ、ひどいよ、サイズ。
 今も幸せなのに、こうして世界は私達を祝福してくれる時間すら与えてくれないなんて。
 こういうときくらい、幸運幸せハッピーでいいじゃあないか。何も憂いなくめでたしめでたしな回が一回あったっていい、そう思わないかい? 私はキミに一個も憂いなく過ごしてほしかったのに! どうやら私が許しても世界が許してくれないってやつみたいだ。魔種ってやつはどうやら付き合う相手も居ないぼっちみたいだね!
 ……多分信じてない気がする!? 本当だぜ!? そりゃあキミが頑固でたらしで意気地なしだからちょーっと悪戯してやった事もあったけどさ!? もうそれも解けてすっきりさわやかだろ?! ね、信じてよ!

 大丈夫、絶望なんてしちゃいないさ、キミがここにいる、ハッピーさんもここにいる、そして私も、仲間のイレギュラーズたちもここにいる、くじけるもんか、負けるもんか!。
 なら負けっこしないさ、妖精郷にも戻れる! だから今は、みんなを信じて、頑張ろう?
 ……昨日の勇気を想えば、これくらいへっちゃらだよ、ね!?
 だから、私も、前は恥ずかしくてぐちゃぐちゃって消しちゃったお手紙の言葉を今はっきりと書きます! キミは手紙のシミだと思って覚えちゃ居ないと思うけれどね!

 それじゃあね! サイズ大好き! 愛してる!

 キミの大切な妖精 メープルより

追伸
 あ、そうだ。
 そういえば大丈夫かい? なんだかキミ、ぼーっとして意識とか記憶とか飛んじゃってたっぽいけど。今頃自分の仕出かした事思い出して顔も鎌も真っ赤にしてたりしてないよね! なんつって!

●あとがき
 受け取った時からずっと考えてる内にお返事おまたせしてしまいました。どうか末永くお幸せに。
 恋愛は既定路線では勿論なく、メープルは遠く離れた場所から一番尊敬する人の恋路を応援する、《はず、でした》が何があるかわからないのがPBWですね。
 想定していたルートのうち一番予想外、とっても狭い道筋をバールでこじ開けられた気分です。これからもまた色々あると思いますが、その時はその時でよろしくおねがいします。
 それではご依頼ありがとうございました、またの機会をよろしくおねがいします。

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