PandoraPartyProject

SS詳細

魔眼の射手

登場人物一覧

オルタニア(p3x008202)
砲撃上手


 介入手続きを行ないます。
 存在固定値を検出。
 ――■■■・■■■■■・■■■■■、検出完了。
 世界値を入力してください。
 ――当該世界です。
 介入可能域を測定。
 ――介入可能です。
 発生確率を固定。
 宿命率を固定。
 存在情報の流入を開始。
 ――介入完了。
 Rapid Origin Onlineへようこそ。今よりここはあなたの世界です。



 ぱちりと目を開ければ、そこには現実と遜色ない世界が広がっている。『砲兵隊長』オルタニア(p3x008202)は何度か目を瞬かせて、それからゆっくりと周囲へ視線を巡らせた。見たことのあるNPC。幻想の酒場にあるサクラメントからログインしたようだ。前回は何をしていたのだったか……と考えながら酒場を出る。
 途端、ふわりと流れた空気がオルタニアのポニーテールを揺らした。違和感がないくらい、自然に。
 空から差す太陽の日差しも、近くのレストランから匂いを運んでくる風も、それになびく草木も。どれもあまりに現実らしく、けれど窓に映る自身の姿がここは現実でないと思い出させる。
(あの人は、本当はどんな姿だったのかな)
 かつての恩人。その人のシルエットと色合いを真似てアバターを作ってみたけれど、実際細かなところまでは覚えていない。このゲームの中では現実の本人そっくりなNPCや、知人に似たNPCもいるというから、もしかしたら――。
 なんてとりとめもなく考えつつ、オルタニアは射撃場へと向かった。この先には広い土地を生かして複数の射撃場が作られており、アマからプロまで様々な者が練習へ訪れるのだ。プレイヤーを飽きさせない為か、毎日何かしらの小さなイベントデイリークエストも行われており、故にオルタニア以外にもそこそこプレイヤーの姿が散見される。
 ネクスト内の日付が変わると同時に変化するデイリークエストは経験値が貰える他、時としてレアなアイテムが景品として挙がっていることもある。それを目的として射撃の腕を上げる者も少なくないそうだが、オルタニアが訪れる理由はあくまで腕試しの色合いが強かった。
「今日はなにかな……っと」
 複数の射的場を抜け、広場へ辿り着いたオルタニア。そこに設置された掲示板を眺め、今日のイベントや込み具合なども見ていく。どうやら今日は景品のでる射的大会があるらしい。そこまでレアリティの高いアイテムではなさそうだが……。
(見に行ってみようか)
 急ぎでやらねばならないクエストもなし、時間はたっぷりある。オルタニアはそちらへ足を伸ばすことにした。

「ここみたいね」
 オルタニアが訪れるまでに、数人の男たちとすれ違った。既に大会へ出たプレイヤーのようで、その様子からすると景品をゲットできなかったのだろう。
「そんなに的も早くなかったのになあ」
「調子悪かったんじゃね? 悉く外してたし」
 そうかなあ、と意気消沈する男性プレイヤー。オルタニアはそれを横目で見ながら会場へ到着した。
 会場は景品付きだと言うのに、観客もまばらだった。どうやら景品が全くもって減っていないらしい。異質な大会に残っているのはNPCばかりで、プレイヤーは興ざめとでも言った所か。
 丁度次の挑戦が始まったところだったようで、的から離れたところに立っているのは1人の少年だった。まだ成長期前といった背丈の彼は銃を構えるが、腕に覚えがあるプレイヤーたちでさえ射止められなかったものを彼が命中させられるわけもない。彼はがっくりと肩を落とすと会場を出ていってしまう。
「ねえ、キミ。ちょっといいかな?」
 出てきた彼に声をかけたオルタニアは、次は自分が挑戦すると伝えた。当てた景品は彼へ譲るとも。
(さっきの弾の軌道……)
 あの距離ではなんとなくの違和感しか感じられなかった。しかし自身で打てばそれもより明確になるだろう。
「あの、僕、ハンスって言います。あそこの景品、値が張る物もおいてあるから……母ちゃんの薬代にあてたいんです!」
「なるほど。それなら高値で売れそうなものが良いのね」
 訳アリのNPCだったらしい。しかしそういう訳ならば純粋に景品を取ってあげたくなるではないか、とオルタニアは気合を入れてエントリーした。
「試し撃ちしてもいいかしら?」
「構わんよ」
 中にいる者へ声をかけてからが本番という訳らしい。オルタニアは的のない場所へ適当に2発、3発と発砲する。

 ――キィン。

 甲高い音と共に、その左目は弾丸を視界へ捕らえた。その軌道からは特に違和感を感じない。至って普通の銃、弾丸のようだ。
 ならばとオルタニアは視線を巡らせ、NPCへ本番に挑むことを伝える。そして左右へと動く的の前へ立った。
「全部で5発。2発当てれば景品ゲットだ!」
「2発ね」
 動く的もさして早くない。先ほどの弾丸の動きであれば、当てる事はそう難しい事ではないだろう。
 オルタニアは深呼吸を一つ、そして瞑目する。意識を集中して視界を開き――そして、見つけた。
(茂みに1人……持っているのは銃かしら)
 的から離れた場所に隠れている人間がいる。何となくこの大会のカラクリが見えたオルタニアは的へ向かって銃を構えた。良く狙って銃声が3つ。すぐさま彼女は瞬きを2回繰り返す。
(――狙う!)
 アクセスファンタズム『魔眼の射手』。些細な動作によるその発動は誰にも気づかれることはない。最初の3発が的に当たらず、ヤケクソ気味に残りの2発を放ったと、そう見えたことだろう。
「なっ……!?」
 しかしその2発は急な弧を描いて的へ軌道を修正する。誰も予測しないその動きにオルタニアを見守るスタッフのNPCは絶句し、『不発にされる』前に的へと命中する。
「2発。これで良いのよね?」
 束の間、しんと静まる会場。しかし次の瞬間観客席がドッと湧いた。
「すげーぞ姉ちゃん!」
「やっと1人目だ!」
「よぉし俺も挑戦してくるか!!」
 そちらへひらりと片手を振ったオルタニアは、腰を抜かしているスタッフへと近づく。見下ろされる男は小さな悲鳴を上げるが、オルタニアは気にした風もなく小さく笑みを浮かべると耳元で囁いた。
「――イカサマ、アタシにはバレてたから。次は脳天撃ち抜いてあげようか?」
「ヒェッ……ゆ、許してくれ! もうこんなことはしない!」
 悪さをする割りに気は小さいらしい。ぺこぺこと頭を下げる男にオルタニアは肩を竦め、景品を受け取りに向かった。ちらりと視線を向ければ茂みにはもう誰もいない。大会の様子にこれ以上のイカサマはできないと踏んだか。
(それなりの腕を持っているでしょうに)
 的へと撃ちだされる弾丸は、あの男によって全て狙撃され、衝撃で爆ぜていた。弾丸を後から調べれば違和感に早く気づけたのだろうが、わざわざ主催へ調べさせろと物申す者もいなかったのだろう。
 弾丸を狙うのは、あの的を狙うよりもかなり難しい。それをやってのけるまでの腕を持つ者――今後またどこかで相まみえるかもしれない、とオルタニアは記憶の片隅へ残すことにした。
 景品を手に会場を出れば、興奮した様子のハンスが駆けてくる。
「お姉ちゃん、すごかった! 格好良い!」
「ありがと。ほら、景品はこれで良いかしら」
 オルタニアが景品を差し出すと、ハンスは嬉しそうに、けれど少し緊張した面持ちでそれを受け取った。首を傾げるも、彼ほどの年頃では高価な薬など買う機会もないだろうと思い当たる。子供1人で行っても高い金額を吹っ掛けられるかもしれない。
 ふむ、と考える素振りをしたオルタニアはハンスを見下ろす。乗り掛かった舟だ、最後まで付き合っても良いだろう。
「1人で怖いなら、お姉さんと買いに行く?」
「……! うん!」
 オルタニアを見上げた少年が嬉しそうに笑う。先ほどまで銃を握っていた手は、代わりに小さくて柔らかなそれを握って。
 2人は連れ立ってハンスの母のため、薬を買いに向かったのだった。

  • 魔眼の射手完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年11月14日
  • ・オルタニア(p3x008202

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