魁美少女伝説・壱

登場人物一覧

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　これは同人サークル『美少女道場』が制作した同人誌『魁美少女伝説・壱』……の、制作風景である！
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『わたし咲花・百合子１７歳！』
　銀河トーンで星まみれになった大きな目。細い首とシュッとした指先の少女マンガした少女が背景を埋め尽くすレベルの花と虹トーンを背負って現われた。
『いっけなーい、遅刻遅刻！』
　恐らく家から飛び出して通学路を走っている筈だがもう背景が花と虹しかなかった。
『キャー！』
　途中で誰かにぶつかったっぽいし目もバッテンになってるけどやっぱ背景は花と虹しかないし相手のイケメンらしき人も花と虹に覆われていた。

「恐ァ……！？」
　原稿用紙を握った『自称未来人』ヨハナ・ゲールマン・ハラタ（p3p000638）が恐怖のあまり作画が変わった。
「えっなんですかこれ狂気！？　狂気ですよ！」
「馬鹿な……一流の生徒会長ともなればこの程度の花はさいて当然であろう」
　『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子（p3p001385）がううむと唸りながら原稿用紙（っていうか石版）をヨハナから奪い取った。
「やはりトーンなど使うから味が落ちる。ここは七草殿から譲り受けたＧ（ゴォッドォ）ペンで……！」
　マグロの背骨みたいな巨大なペンをずるりとどっかから引き抜き振りかざす百合子。
「やめてくれ！　石版といえど粉になる！」
　腕にガッとしがみつく『風読禽』カイト・シャルラハ（p3p000684）。
「あと俺の船も粉になる！」
　いまになって風景を引いてみれば、そこが船の甲板であることが分かるだろう。
　広い海のど真ん中。即売会前にカンヅメになって仕上げようと言い出したのは誰だったのか。
　ホテルをとってもすぐ遊びに出ちゃうだろってことで海のど真ん中に船を浮かべて缶詰したわけだが……。
「やあ、進んでいるかい」
　人数分のお茶をトレーに乗せて、『祖なる現身』八田 悠（p3p000687）がやってくる。
　百合子の原稿石版を覗き込み、うーんと唸った。
「いっそ、筆ペンで書いたほうがいいね」
「なるほど……なれば月見草殿から譲り受けたこの……！」
　身の丈ほどある毛筆を引っ張り出してくる百合子。
「やめろ！　それはそれで船が壊れる！」
「なるほど、どんなことにも全力で挑む……それが美少女なのですね」
　開いたノートに一生懸命メモをとりつつ、自分の原稿を進める『死力の聖剣』リゲル＝アークライト（p3p000442）。
　リゲルはリゲルで形から入るタイプなのか、専用定規やパース計算機といった様々な道具を駆使して入念に、そして狙って派手な絵を描いていた。
「みんなもっと、丁度良く書けないものですかねえ……なんとなくやればなんとなくできると思うんですけど」
　一方のヨハナはといえば、特にたいした道具を使うこともなく、なんとなくサラサラっとやるとそれなりに上手に描けるという才能マンっぷりを発揮していた。
「いや、なんとなくではダメだ。漫画を書く以上は徹底的にやらなくちゃあな」
　カイトは自分のＧペンをとり、見開き原稿へと向かいなおした。
　見開き一ページを描くのにえっらい時間がかかるのが難点だが、その分ページに籠もった気合いと書き込みの細かさは随一である。
　さて、この時点でこの子らが一体何をしようとしているのか……もうおわかり頂けるだろう。
　彼ら……もとい彼女たちはこたび開かれる同人誌即売会に向け、サークル『美少女道場』として合同誌を発表するつもりなのだ。
　全員で協力し、一つの作品を作り上げる。
　しかしそこは美少女道場。皆のやりたいことをド直球に貫き合ったがために、内容がかなり喧嘩していた。
「吾は……全員が流派を名乗るシーンは絶対に入れたい。そして花も背負いたい」
　原稿石版を掲げ、うーんと唸る百合子。
　湯飲みを手に、悠はみなの原稿を一通り観察しはじめた。
「なら、全員集合シーンは必須だね。軽快な言葉遊びも入れたいな。カイト君は……」
「俺はこのページさえ完成すればもうなにもいらない」
　文字通り猛禽類の目をギラリとさせるカイト。同時にペン先までもがギラリと光り、もしページを落としたら人を殺しかねない空気を漂わせていた。
　咳払いするヨハナ。
「あー、ヨハナはやっぱり、葛藤や成長を書きたいですよねー。強い力をもつ美少女たちが見せる精神的な弱さってやつですか？　その辺りをこう、二百ページくらいつかってですね……」
「いやいや待ってください。それでは俺のバトルシーンがおろそかになってしまいませんか」
　手を翳し……つつも丸ペンと定規で丁寧に線をひいていくリゲル。
「いや見開きこそ重要だ」
「宇宙トーンも入れたい」
「うーーーーーーーーーーん…………」
　誰も譲らない。さすがは美少女道場のメンバーである。
　悠は腕組みをして天をあおぎ、そしてぽんと手を打った。
「よし、筋書きを整えよう。僕が丁度良く間をとりもつから、おのおの与えられたページでやりたいことをするんだ。いいね？」
「ほう……面白い！」
「やってやろうじゃないか」
「自由こそ最大の連携ってやつですね！」
「皆の全力をかけあわせ、必ずや最高の同人誌にしてみせましょう！」
　全員の気合いはマックスにまでのぼり、燃えさかる炎のごとく漫画を書き上げた。
　そんな中で悠は……。
「まあ、なるようになる、か」
　持ち前の異次元な柔軟性でページの間を埋める作業を始めるのだった。

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　おまちかね！
　ここからは同人サークル『美少女道場』が制作した同人誌『魁美少女伝説・壱』である！
　実在の人物団体美少女とは一切関係ないのである！　活ッ！
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　――時は戦国嵐の時代！
　混沌美少女学園生徒会の派遣を巡り幾多の勢力が名乗りをあげ、そして潰えていった。
　屍の山がいくつも生まれ、連なり、合わさり、連峰となったその時……五人の美少女が、それぞれの頂に立っていた。

　コマから完全にはみでた花トーンが隅々まで張り巡らされているページの中で、黒髪の乙女が振り返った。
「白百合清楚殺戮拳――咲花・百合子！　見参！」
　台詞の部分だけ豪快な毛筆で描かれている。
　そんな百合子が髪をかきあげただけで空に虹がかかり小鳥たちが歌い地に花が咲き乱れた。
　次のページでは、突如見開き全体を使った赤い美少女が燃えさかる町とどこまでも続く廃墟街の風景を背に、髪を激しく靡かせていた。
「緋桐天女舞踏拳――カイト子・シャルラハ。推参」
　そのまた次のページではいきなり画風が落ち着いたなんか若干手抜きっぽいビル群（？）を背景に、ロッドをくるくると回した美少女がポーズをとった。
　コマとコマの間に『犬書いたつもりがネコに～』とか『町です！　町なんです！』とか『アイスモナカおいしい』とかすげーちまちま書いてあった。
「花車溌剌千本槍――ヨハナ子・ハラタ。参上です！」
　でもって次のページに至ると、いきなりシュッとした繊細なタッチで描かれた白成分多めなコマで、無口な銀髪美少女騎士がすらりと剣を抜いていた。
「麝香豌豆銀閃騎士王拳……Ｒ・アークライ子……」
　ページの右下には著者を示すためか筆記体で『リヴェル』のペンネームが刻まれている。
　百合子、カイト子、ヨハナ子、アークライ子……そんな画風からして違う四人がタッチそのままで集合し、円形に向かい合っているさまが描かれた。
　ふわりと浮き上がり、その一端に立つ悠……いや。
「水蓮微睡抱擁拳……八田 悠子。参上いたしましたわ」

　（豪快な毛筆で）
　学園に生き残った五人の美少女！
　最終決戦の火ぶたは……切って落とされた！！

　そして突如始まるフラッシュバックシーン。
　雨降る都会の真ん中で、百合子は雨に打たれていた。
　腹に穴を開けられた美少女の手には、熊のぬいぐるみ。
　添えられたメッセージカードには『お姉ちゃん、お誕生日おめでとう』から始まる幼い子供の字が綴られていた。
「吾はなぜ、強くなってしまった……なぜ……貴殿は強くなれなかった……なぜ……」
　雨は降り続けている。
　途端に、町。広い広い町の風景が見開きで細かく描かれた。
　次のページにも町……ではあるが、その中央が爆発を起こし、そのまた次のページでは周囲の全てが、それを見ている人々でさえも一度に吹き飛び、炎と光に呑まれていく。
　破壊は空へと舞い上がり、泥のような銀色の雨を降らせ始める。
「あれは……一体！？」
　河原で戦っていたアークライ子と悠子は、爆発へと振り返った。
　降り注ぐ銀色の雨を手に取り、ぎゅっと握りしめる悠。
「どうやら、戦いに水をさした何者かがいるようですわね」
「私たち美少女の神聖な戦いを汚す者が！？　そんな者がいるわけが……」
　身を乗り出すアークライ子。その先を阻むように、あたりからゆらりゆらりと黒づくめの男たちが現われた。
　急に顔の圧を上げた男たちが、彫りの深い手を翳す。
「我ら、美男子同盟！　世界の破壊者である！！」
　毛筆で激しく叫ぶと、全員が達人のごとき構えで飛びかかっていった。
「「美少女――死すべし！！」」
　大きく、そしてあくどく歪む男たちの顔。
　が、その瞬間。
「破ァッ！」
　無数に分裂した槍が男たちを貫き、そしてすべて爆発四散させていく。
「この技は……」
「ヨハナ子様！」
「どうやら、間に合ったようですね」
　槍を地に立て、ヨハナ子は不敵に笑った。
　そしてまた突如始まるフラッシュバック。
　膝を突いて泣く幼女ヨハナ子の姿があった。
　周りの大人たちは口々に言う。なんて弱い子なのかしら。お友達に腕相撲で負けたんですって。あれじゃあ将来が不安ね……。
　美少女世界は弱肉強食。泣いているヨハナ子に手をさしのべるものはない。
　ひとしきり泣いて、泣いて、涙が涸れ果てたとき、自分の手をひくものを見つけた。
　そう。
　地面に強く突き立った、一本の槍である。
　もし己が立ちゆかぬ時があったとしても、槍のように太く、堅く、力強く月立てば……けっして倒れることはない。
　ヨハナ子は、ヨハナ子自身を救うため、槍を引き抜いた。
　で、次のページでいきなり膝を突いているカイト子。
　見開きページの中央やや右よりの位置で、血にまみれ暴風に髪を靡かせる女子高生制服のカイト子がいた。
　彼女を取り囲む黒づくめの男たち。その数なんと二万人。
　その全てが収まっているのではないかと思うほど緻密に、ページの全体にわたって男たちがかき分けられていた。
「ここまで……なのか……」
　吐いた血をぬぐい、見上げるカイト子。
　そんな彼女に、全ての男たちが一斉に、そして別々の拳法を用いて飛びかかった。
　が、次の瞬間！
　天空から舞い降りた虹と花のトーンが全てを包みこみ閃光が走り抜けていく。
　大地に美少女着地した百合子が、飛びかかる男たちをはねのけたのだ。
「百合子……」
「カイト子殿。吾との決着……」
　次のページでいきなり毛筆になり、百合子は振り返りざま見開きアップで叫んだ。
「忘れたとは言わせんぞ！！」
　対するように、見開きアップかつ毛筆で叫ぶカイト子。
「応！！」
　次の瞬間。大地を割り巨大な男が飛び出してくる。
「美少女がこれほどのものとは。だがここで終わりだ。美男子の力にひれ伏すがいい！」
　力こぶを作っただけで爆発がおき、カイト子たちは吹き飛ばされた。
　しかし――。
　かけつけた悠子、アークライ子、ヨハナ子が彼女たちを受け止めた。
「皆……！」
「ここは美少女の世界。美少女の決着は、美少女がつける！」
「いかにも……大きいだけの男が、出る幕などありません！」
「さあ皆様、『美少女力』を開放するるのです」
　見開きページに花と虹を満開にして、美少女たちは仁王立ちした。
　それぞれの顔アップが、大きく名乗る。
「白百合清楚殺戮拳――咲花・百合子！」
「水蓮微睡抱擁拳――八田 悠子！」
「緋桐天女舞踏拳――カイト子・シャルラッハ！」
「花車溌剌千本槍――ヨハナ子・ハタラ！」
「麝香豌豆銀閃騎士王拳――Ｒ・アークライ子！」
「「我ら――美少女五人衆！！」」
　同時に飛び立つ美少女たち。
　小癪な！　と叫ぶ男に、五人は一斉に必殺技と打ち込んだ。
　拳が、蹴りが、手刀が、槍が、剣が、巨大な男を粉砕する！
「な、なんだと……！？」
　五つの美少女力がひとつとなり、巨大な男が光に包まれていく。
　空には虹が架かり地は花に満ち小鳥は歌い動物たちは踊り美しき光がページのすべてを覆い尽くす。
　次のページでは、真っ白なページに文字だけがあった。

　――これが、美少女か。

　広い花咲く見開き草原の中心に、小さく、五人の美少女が立っている。
　彼女たちの顔アップがページ四隅と中央にわけて描かれ、皆がフッと笑ったのがわかった。
「どうやら、決着をつけ損ねたしまったようですわね。皆様？」
「おっと、では引き分けにしますか？　今年の生徒会長は五人ということで」
「フフ……笑えぬ冗談よ」
　瞑っていた目を開き、拳を握りしめる百合子。
「吾等美少女――骨の一本になろうとも戦い続け、頂点を競うがさだめ」
　剣を抜き、アークライ子が目を光らせる。
「決着は後日……などとは言わせない」
「上等……！」
　カイト子は目に炎を燃やし、タンゴダンサーの如く鋭く美しく構えた。
　背景に花が咲き乱れ、美少女力が再び解放される。
　アークライ子の剣が、カイト子の手刀が交差する。
　宇宙誕生のごとき爆発の中を突き抜けて、ヨハナ子の槍と百合子の拳が正面からぶつかり合った。
　乱れ交差する虹を振り払い、悠子が全ての美少女へと同時に異次元な拳を叩き込んだ。

　（毛筆で）
　そう
　美少女は
　いつまでも

　戦い続けるのだ！！