PandoraPartyProject

SS詳細

甘い空気と2人の1日

登場人物一覧

フレイムタン(p3n000086)
焔の因子
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

 キィ、と扉の蝶番が鳴る。ローレットへ足を踏み入れた炎堂 焔(p3p004727)の視線はいつも無意識に彼を探す。彼とよく会える場所はここだから。
 しかし、本日ばかりは意識して彼を探していた。毎日いるとは限らないけれど、いてほしいと思いながら――。
「――フレイムタンくん!」
「ああ、焔か。どうした?」
 カウンターで情報屋と話していた『焔の因子』フレイムタン(p3n000068)が彼女の言葉に振り返る。それじゃあまた後で、と情報屋のひよこは片翼あげて、カウンター越しにとことこと歩いて行った。
「ごめんね、お話途中だったかな?」
「いや、問題ない。それよりも、何か用があったのだろう?」
 フレイムタンの言葉に焔は満面の笑みを浮かべて頷いた。
 グラオ・クローネ。深緑発祥の御伽噺は混沌各地へ広がっており、それに伴う催しも多い。もちろん、ローレットがあるこの町にも。
「フレイムタンくん、よかったら一緒に行かない? あちこちで今日まで限定のスイーツを売ってるんだよ!」
「ふむ、息抜きに良さそうだ。……しかし、食べ過ぎると泣きを見る事になるぞ、焔」
「わ、わかってるよ!」
 うら若き乙女になんてことを言うのか。口を尖らせるとフレイムタンが苦笑交じりの謝罪しながら席を立つ。流れるようにローレットを出た2人は、スイーツの屋台が立ち並ぶという広場へ向かって歩き出した。
「ローレットも甘い匂いがしていたが、外もなかなかだな」
「うん! あちこちで食べ歩きしてる人もいるみたい」
 見れば道行く人々はカップを持っていたり、同行者とそれを分けっこしていたりしているようだ。もちろんスイーツショップのペーパーバッグを持っている者もいる。
(今日も一緒にいっぱい遊んで、最後に渡すんだ!)
 そう気合を入れる焔。彼女のバッグの中には一昨日頑張って作ったブラウニーがある。1日置いたブラウニーはしっとりとして味の深みが増すのだ。しかし日を過ぎれば当然悪くなっていくので、今日渡し損ねるわけにはいかない。
「ああ、あれか? チョコレートドリンクを売っているようだ」
「え、あった!?」
 人混みの向こうを指すフレイムタンに焔はぴょんぴょんと跳ねる。確かにキュートでポップな屋台と、そこに並ぶ人々の列が見えた。
「あれだよ! 行ってみよう!」
 焔はフレイムタンの手を引いて列へ並ぶ。甘い香りが近づいたことでさらに増した。しかしメニューを見るにはもう少し近づかないと見えないだろうか?
「トッピングができるらしい」
「そうなの? フレイムタンくん、よく見えるね!」
 しかし、長身のフレイムタンは今いる場所からでも見えるらしい。
 焔の身長では見えないと気付いたフレイムタンがメニューを上から読んでくれる。ホットとコールドから選べて、上にマシュマロや生クリームを増したり、よりビターな味わいにすることもできるようだ。ワンサイズ上げると2人で1カップをシェアできるようになるらしい。
「ああいうものが差さるようだ」
「え? あれは……の、飲みにくいんじゃないかな!!」
 フレイムタンが指したのは購入を終えた客の1人――だが、そのカップに差さっているのは俗にいう『カップルストロー』である。思わず焔が声を上げると、フレイムタンはそれもそうだなと頷いた。
(ボクとフレイムタンくんはお友達だし、あれは誤解を与えちゃうよね! でもそうか、恋人がいるとああいうのが頼めちゃうんだ……)
 羨ましい、よりは恥ずかしい気持ちのほうが先行するかもしれない。今はまだ、恋人同士でもああいったものを使える人たちはすごいと思うだけだ。
(ボクに恋人がいたら……?)
 なんて物思いにふけりそうになった時、フレイムタンに呼ばれて我に返る。いつの間にか列は進み、もう注文口だったようだ。
「ボクはホットにマシュマロ追加で!」
「我は……そうだな、ビターに生クリームを」
 注文からはさほど時間もかからない。それぞれのカップを手にした2人は混ぜつつ飲みつつ、ぶらぶらと歩きながら気になった場所で足を止める。
「あ、あそこ!」
「うん? あの店を知っているのか?」
「もちろん! 有名なパティシエさんがいるんだよ!」
 ワゴンにはひっきりなしに人が立ち寄り、買い物をして去っていく。その流れに乗った2人はしげしげと商品を眺めた。
「今年はバリエーション豊富なチョコレートカップケーキなんですよ」
「すごい! クマさんだ! こっちは……ブタさん?」
 デフォルメされた動物の顔を模したカップケーキに歓声を上げる焔。けれどどうしよう、どれも可愛らしくて選べない。

 ――食べ過ぎると泣きを見る事になるぞ。

(って言われちゃったし! うーん、でも選ぶなんてできないよ)
 欲望のままに買ったらフレイムタンに呆れた目で見られてしまうかも。しかし選ぶとなると目移りしてしまって仕方がない焔の耳に、フレイムタンの小さな苦笑が聞こえた。
「……折角だ、ローレットの情報屋にも買っていけば良い。皆で食べるのなら特段問題ないだろう」
「! うん、そうだね!」
 ぱっと顔を上げた焔は頷き、店員へあれとそれとこれと、とカップケーキを詰めてもらう。今日とてローレットは通常営業、情報屋たちは忙しなく働いている筈だ。少しくらい今日の雰囲気を味わって、ついでに糖分補給もしてもらおう。
 だから、そう。少し多く買い過ぎたとて、問題はないのである。
「ありがとう、フレイムタンくん! ばっちりだよ!」
「それは何よりだ」
 2人は再び辺りを散策し、気になった店――主に焔が気づいて、フレイムタンが教えてもらっている――を梯子していく。けれど時間などあっという間で、お土産のカップケーキもあるから戻ろうかと告げたフレイムタンを焔は呼び止めた……のだが。
「……どうした?」
「……」
「焔?」
「えっ!? あ、えっと、ごめんちょっと待ってて!!」
 固まっている焔の様子を窺えば、彼女は弾かれたようにどこかへと走っていく。フレイムタンはその背中を見つめるが、待っていてほしいと言われてしまえば無理に追う訳にもいかない。
 ――一方の焔はと言えば。
(な、なんだろう……うまく切り出せなかった)
 走って鼓動の速い胸を押さえながら視線を彷徨わせる。ブラウニーなんて普通に渡せばそれまで。そのはずなのに、謎の緊張で言葉が紡げなかった。
(待たせ過ぎたらいけないよね。うん、大丈夫。……行こう!)
 深呼吸をして、踵を返して。近くのベンチで待っていたらしいフレイムタンの元へ直行すると、ずいっとブラウニーの入った包みを差し出す。
「これ、頑張って作ったんだ! 受け取ってくれる?」
 大丈夫。普通に振る舞えている筈だ。内心ドキドキしながら見つめる焔に、フレイムタンは勿論と笑みを浮かべて受け取る。
「それでは、これも後で食べるとしようか」
「うん! ローレットに戻ろう」
 いつも通りで、少し味気ないような気もするけれど――これで良いのだ。そう納得する焔の前に手が差し出される。
「まだ人通りも多い。はぐれても心配はいらないだろうが……はぐれないに越した事はないだろう?」
 そう告げる彼が、ほんの少し照れくさそうに見えるのは気のせい、だろうか?
「……ふふ、そうだね!」
 焔は、深く考えないことにした。今日は彼と出かけて、菓子も渡せたのだから、それで十分だ。
 しっかり手を繋いだ2人の姿は、雑踏に紛れて行った。

  • 甘い空気と2人の1日完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年09月24日
  • ・炎堂 焔(p3p004727
    ・フレイムタン(p3n000086
    ※ おまけSS『その後、ローレットにて』付き

おまけSS『その後、ローレットにて』

「ううっ……本当に、本当にこうするしかないんだね……?」
「……いや、それ以外に無いだろう?」
 心底悲しそうな顔をする焔に、フレイムタンは同意を得るような視線を周囲へと送る。たまたまばっちり目があったブラウ(p3n000090)は頷いた。
「ええ。だって――上から切り分けないと、誰かがチョコのかかってない部分を食べる事になるじゃないですか!!」
「でも顔を切るなんて! 可哀想だよ!!」
 そう、ここで焔が嘆いているのは『お土産カップケーキの等分方法』であった。ただのケーキと言われればそれまでなのだが、これは可愛い動物の顔が書かれたカップケーキなのだ、というのが焔の談である。
「うーん、じゃあ……縦じゃなくて横に切ります? 一番上のチョココーティング部分は、ジャンケンで勝った人が食べると言うことで」
「ボクはいいよ!」
「……まあ、ブラウが良いなら良いだろう」
 目を輝かせた焔と、何とも言えない表情を浮かべるフレイムタン。その理由は――ジャンケンに全敗するブラウという結果が全てであった。

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