PandoraPartyProject

SS詳細

悪い男と飲むコツ

登場人物一覧

アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人



 幻想王国レガド・イルシオンのとあるバー。特異運命座標イレギュラーズが特に多く集まる国とあって、冒険者が集まりそうなギルドや酒場は数多く存在するが、ここはその中でも他とは違い静かで大人な雰囲気のバーとなるであろう。
 席と席が程よく離れ、このホールの中央に置かれたピアノで奏者がしっとりとしたメロディーを奏でる。客層も上流階級の雰囲気を匂わすところを垣間見れば、ここは所謂格式高めなショットバーなのであろう。
「きょ……今日は、宜しくお願いしますなのだわ……!」
 そんなバーで、この場には少し場違いな程に元気よく、礼儀正しい声が響いた。その金髪の少女……『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が緊張した様子でバーの一角にある席に座り、その彼女と同席していたのは……
「はぁい、おねーさんにお任せあれ!」
 グラスを片手に既に緩くふんわりと酔い色を見せている『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)であった。
 可憐で純情そうな少女と色香る大人なお姉さん、二人の共通点は……それがどんな形であれ各々の心にいる例の人物蒼剣に他ならない。
 一見すれば険悪なムードになりかねない関係性ではあるのだが、この二人の間で争いにならないのは、二人の性格……そして特異運命座標として、友人としての信頼関係がそれ程に強い事を表しているのだろうと言う事は見て取れる。
 そんな二人が何故この格式高いバーに居るかと言えば、華蓮が成人を迎えた時に思い浮かべたの為に、今出来る事をと考えた際にまず思い浮かんだのが『酒』だった。
 ついでにその酒を飲み交わす仲としてアーリアが一番最初に思い浮かび余計な事嫉妬も考えてしまいつつも、だからと言って成人したばかりの自分ではの良い飲み相手になれないかもしれない。
 そう考えていた時に偶然にもアーリア本人が通りかかったものだから「お酒を教えて欲しいのだわ!」と、勢いに任せてお願いしてしまったのが今回の流れ。アーリアも華蓮の気持ちには察しがついており、微笑ましいその様子を見ていつも通りにこやかに承諾したのだ。
 して、せっかくのデビューになるのだからと、この格式高いバーを選んだのもアーリアなのである。オーセンティックバー式の店も探せばあるが……今回のこの二人、特に華蓮にはやや早い雰囲気になるだろうと目的が優先出来るようにと気遣いがあった。

「あらあら、そんなに緊張しなくてもいいのよぉ〜」
「ご、ごめんなさいなのだわ! でも……こ、こんな素敵なバー……緊張してしまうのだわ……っ」
「最初は誰でもそうよぉ〜でもリラックス、りらぁ〜っくす!」
「り、りらぁーっくす……」
 オドオド構えてしまう華蓮に優しく接するアーリア。
「大丈夫、お酒は正しく飲めば楽しい飲み物よぉ。そのお作法をこのおねーさんがちゃーんと教えてあげるわぁ〜」
「はいなのだわ! ……変な酔い方をしてレオンさんに迷惑をかけない為にも……」
「うふふ、華蓮ちゃんは真面目で良い子ねぇ〜」
 真面目でいい子は真面目でいい子故にお酒に飲まれやすい。だからこそちゃんとそうならないコツを伝授しなくては。アーリアはのんびり柔らかな口調の裏でである彼女を心配していた。だからこそ彼女からは予想外ではあったものの、来る時に自分からも提案出来ればと思ってはいた事なのだ。
「さて、まずは何を飲もうかしらぁ〜。あ、華蓮ちゃんはロングから挑戦してみるといいわよぉ〜」
「ろんぐ? なのだわ?」
「そう、ロングドリンクね。カクテルにはロングとショートがあるんだけど、ロングは氷が入っているタイプになるの。ショートとアルコール度数は変わらないけど、物によっては氷や炭酸水が入る分少し控えめになるのよぉ〜」
「な、なるほどなのだわ……! カクテル一つでも結構違うのだわね」
「そうよぉ〜じゃあ華蓮ちゃんはこれで、おねーさんは……今度はこっちをお願いしちゃいましょ!」
「はいなのだわ!」
 配置されていた店員を呼び止めたアーリアはスラスラと注文を済ませる。そんな仕草にすら華蓮は大人の雰囲気を読み取ってしまう。
「アーリアさんは凄いのだわ……そんな素敵なバーでも堂々としていて……」
「うふふ、お酒が楽しみなだけよぉ〜。それに……ここよりいいお店も知ってるんだけど、そこはまぁそのうち華蓮ちゃんもお呼ばれすると思うから特訓しなくちゃねぇ〜?」
「お呼ばれ……なのだわ?」
 なんの事かよくわかってない華蓮を見ながらアーリアはニコニコと微笑む。彼女は自分達に可愛らしい一面ヤキモチを露わにしてくれるけれど、あの男はそんな彼女の事も相当に気に入っている。であるからにしてあのに呼ばれるのも時間の問題なのだ。そんな少女を思えば顔を緩まさずに居れるだろうか、とアーリアは前もって飲んでいたカクテルを一気に飲み干す。
「……あら、タイミングを見計らっていたのかしらぁ?」
「え?」
「失礼します。ご注文の──」
 飲み干したアーリアの前にタイミングよく先程注文したカクテルが届く。華蓮のものは初心者にオススメと説明書きに書かれていた爽やかな色合いのレモンのロングドリンク、アーリアのものは赤が鮮やかなブラッドオレンジのショートドリンクだ。
「最初はゆっくり飲むといいわよぉ〜。一気に飲むと一気に酔っちゃうからねぇ」
「はいなのだわ!」
 アーリアの言葉通りチビチビと飲み始める華蓮の姿はやはり微笑ましい。

「んん……これは何ていうお酒なのだわ……? レオンさん好きかな……?」
 少しづつ飲んでいた華蓮の頬は少しずつ赤く染まり始めていた。
「これはゴッドファーザー、ウィスキーがベースだしレオンくんも好きだと思うけど……ちょーっと強いから、まだだぁめ」
「あ……そうだったのだわ? じゃあ……これは? これは甘くて飲みやすそうなのだわ?」
「甘いお酒は飲みやすいけど、実は牙を剥いてくる『レディーキラー』もあるから……気を付けるのよ?」
「んむむ……難しいのだわ……っ」
 少し酔い始めて惚けている華蓮は無意識のうちに強いお酒を指さしてみるものの、おねーさんにやんわり止められてしゅんとお酒選びの難しさに肩を落としている。
「うふふ、こういうお酒はもう少しお酒慣れしてからの方が華蓮ちゃんは楽しめると思うの。いつか飲める日が来るわぁ〜」
「はぁい、なのだわぁ」
 この二点のお酒を試そうと思う前にも何杯か試していた華蓮は、すっかりふわふわした状態で。そんな華蓮は徐にアーリアの傍へ近づく。
「あらあら?」
「アーリアさんは綺麗で大人で羨ましいのだわ……」
 アーリアさんみたいになれたらレオンさんにもっともっと見てもらえるかな? と、彼女に近づいていた華蓮はそんな事を呟きながらアーリアに甘えるようにその肩に頭を乗せた。
「うふふ。普段しっかり者の華蓮ちゃん、今日は甘えたさんかしらぁ?」
「まだ二杯? しか飲んでないのにふわふわなのだわぁ……」
「ざぁんねん。華蓮ちゃん、実は四杯目よぉ〜」
「……そうだったのだわ?」
「うふふ、また練習しましょ? 少しずつ慣れていつかレオンくんと一緒に飲めるようになりましょうねぇ」
「えへへ、はいなのだわ! レオンさんと飲めるようになるのだわぁ〜」
 普段しっかり者の少女がこうして甘えてくれるのは素直に嬉しい。



 この甘えん坊さんは暫くアーリアだけの秘密。

  • 悪い男と飲むコツ完了
  • NM名月熾
  • 種別SS
  • 納品日2021年09月11日
  • ・アーリア・スピリッツ(p3p004400
    ・華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864
    ※ おまけSS『おまけSS『マスターの手記』』付き

おまけSS『おまけSS『マスターの手記』』



 今日のお客様の中には普段から常連としてご贔屓にして下さっているアーリア・スピリッツ(p3p004400)様とそのご友人と思われしき方が来店されていた。
 ご友人の方はお酒には慣れていないようで、アーリア様と会話をされながらお酒を楽しまれていたようだ。
 このバーの雰囲気もあってかかなり緊張していたようだが、アーリア様と会話をされるうちにお酒の量も増えているように見えた。
「……あら、マスター」
「お連れ様は楽しまれていらっしゃいましたか?」
 酔いを落ち着かせるソフトドリンクのサービスを片手にアーリア様の席の様子を伺ってみた。
「うふふ、グッドタイミングよぉ〜。楽しくてちょっとはしゃぎ過ぎちゃったみたい」
「慣れていないと自分がどのくらいお酒に強いか図れませんからね……」
「でも華蓮ちゃんの甘えたな可愛いところが見れたから満足よぉ〜」
「それならば。我々も貴女方に楽しんで頂けましたようで何よりです」

「また来ると思うわぁ。あの悪い男は彼女を甘やかすとは思うんだけど、華蓮ちゃんが納得しないと思うから」
「……ふふ、なるほど。我々もいつでもお待ちしております」
 アーリア様のその言葉でこの金髪のレディーもあのあの男ギルドマスターに夢中だと言う事は察しがついた。
 彼の噂は現役よりは落ち着いたとは聞いているが……四十路を迎えた現在もなかなかどうして。それが事実でも偽りでも本人があの様子では確かめる術も少ないだろう。
 だがそんな悪い男だからこそ大抵注目を集めやすいのだと我々は分析する。
「全く……こんな純粋な子まで虜にしちゃうんだからぁ……」
「ふふ、罪な方でございますね」
「もうほんとよぉ〜」
 苦笑するアーリア様も……きっと一言では言い表せられない複雑な感情をお持ちなのかもしれないが。

「さて、華蓮ちゃんもふわふわしちゃったし送り届けないとねぇ〜そろそろ行くわぁ」
「お気をつけて。改めてまたのお越しをお待ちしております、アーリア様、金髪のレディー」

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