SS詳細
幸あらんことを
登場人物一覧
名前:アーリア・スピリッツ
一人称:私/お姉さん
二人称:くん、ちゃん
口調:ゆるふわのんびり/〜ねぇ、〜よぉ
特徴:ゆるふわへべれけお姉さん
設定:
時計の針は進んでいくのに。
私の中の彼女の笑顔は少しずつ薄れていくようで、残った思い出に縋り付く。
塗りつぶされないように記憶の中の彼女を繰り返し反芻した。
部屋を出てリビングに向かう。
隣に座る廻とあまね。机の向こうには龍成としゅうが居る。
彼女の命を奪った憎い獏馬の成れの果てと共に食卓を囲んでいるのだ。
なんて、滑稽なのだろう。
決して彼女ではない事を知りながら、その輪郭をあまねとしゅうに見てしまう自分が居る。
どうして、その似姿を取ったのかと問い詰めたくなる。
それは『朝倉詩織』のものだ。
髪型や髪色は違えど、その瞳と輪郭、柔らかな唇は――
この手の中で事切れた、彼女のものだ。
屈託無く笑い、頬を膨らませ、悲しみに眉を下げたのは彼女なのだ。
どうして、お前がその姿をしている。
どうして、お前が生きている。
どうして、詩織は死ななければならなかった。
――私の記憶を塗りつぶさないでくれ。
気を抜けば彼女と同じように獏馬の命の灯火を消してしまいたくなる。
憎悪が消える訳がない。
今、この瞬間にも刀で首を刎ねたいと思っている。
醜い衝動だ。
その度に、導く者として、この燈堂を守る者として。
私情でこの地を穢す事はあってはならないと自分に言い聞かせる。
この地に封ずる『アレ』に付け入る隙を与える訳にはいかないのだ。
私は『刀憑き』としてこの燈堂を守らねばならない。
此処が崩れれば、霊脈の上に均衡を保つ『深道』と『周藤』をも潰すことになる。
朝比奈と夜見の身を危険に晒すことになる。
刀を背負うと決めた時から、寄辺は己自身だけだと、覚悟をしたのだから。
「アーリアくん、君は死なないでくれたまえよ」
「どうしたの? 急に」
「いや……子供じみた感傷かな」
詩織は死んでしまったけれど、アーリアには進むべき未来があるという事実は救いだったから。
「運命に愛された君の道行きが幸多いものでありますようにと願うよ」
心からそう願うのだ。