PandoraPartyProject

SS詳細

鴉ノ跡

登場人物一覧

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!

 ラサはそのほとんどが砂漠に占められている。あとはぽつぽつと点在するオアシスと、多くの遺跡と――一層大きなオアシスこと首都『ネフェルスト』。定住はなかなか難しいが、商人や傭兵たちの仕事は沢山ある。
 故にその一休みの場として、或いは情報交換の場所として、酒場は他国より多く構えられている方だろう。交易によって珍しい酒や素材が手に入ることもある。ネフェルストの観光ついでにそういったものを楽しむ者も少なくない。

 ――裏に生きる者も、また然り。

 このラサには商隊が多く訪れる故に、そして未踏破の遺跡も眠っているが為に盗賊やならず者たちもそれなりの規模で存在している。彼らにも酒や食事を楽しめる場は必要だ。
 今日のキドー(p3p000244)はそんな酒場のひとつで酒を入れていた。飲む、と言うよりは入れているという表現が正しい。アルコールの程よい酩酊感を味わいつつも、周りの下びた笑い声などを耳にしつつも、あの頭を占めるのはある人物のことであったから。
(……コルボ)
 大鴉盗賊団の頭領。貪欲に、強欲に、自らの願いへ突き進む男。その姿は妬ましくも羨ましい。
 けれともキドーは彼がどうしてそこまで突き進むのか、そこまでして叶えたい願いを知らなかった。いや、問いかけはしたのだ。結果、鼻で笑われたけれども。

 ―― ビビって尻尾巻いたやつに教えるつもりもねェな!!

(誰が尻尾を巻いた、だ。誰が間抜けなツラだ!)
 ダン、とグラスをカウンターに置く。もはや大して酒も残っていなかったが、残っていた氷が場違いに高めの音を鳴らした。
 だが、あの海で――絶望の青で怖れを抱いたのは紛れもない事実だった。まるで人が虫けらの如く容易に死に、沈み、または消し飛ばされる様に恐怖を抱かずとはいくまい。もしかしたらあのコルボでさえも。
 いや、あの男であればまた違った感想を抱くかもしれない。あの男は自分が揺らがない。
(どうして……テメエはそんなに強くいられる?)
 強さを信じて疑わぬ馬鹿か。それとも絶対的な確信を得られる経験のある猛者か。
 マスターへ次の1杯を頼んだキドーは、不意に『大鴉盗賊団』の言葉を聞いて振り返った。声の元は近くのテーブル席。3人ほどのいかにもガラの悪そうな男たちが顔を突き合わせていた。キドーは黙って立ち上がり、今しがた出されたグラスを手にそちらへ向かう。
「なあ」
「あ?」
 キドーの声に振り向いた男たちは、キドーの言葉に顔を見合わせた。
 大鴉盗賊団の、コラボの話なら聞かせちゃくれねえか、と。
「話題のファルベライズについてはいらねえ。それより前のことだ」
「話して俺たちに何の得があるってんだ? え?」
「そうさなあ」
「つまるところ、てめえが欲しいのは『情報』ってこったろ?」
 ニヤリと笑う3人。キドーは渋面を浮かべながらも「グラス1杯だ」と告げる。酒の銘柄は指定しない――彼の言葉に3人は笑みを深め、マスターへ注文の声を上げた。

「いいぜ、このグラスが空になるまでは話してやるよ」
 まずは一口。喉を潤すようにグラスを傾けた男は過去を思い返すようにグラスの水面を見下ろす。
「にしても、ヤツらの悪事ねえ……一昔前は名も聞かないちっぽけな盗賊団だぜ」
 大鴉などと大層な名前を掲げていても、その実態はほとんど名前だけ。所属する団員はフリーで活動しているような連中だったと言う。話に聞くような悪事もてんでなく、それを変えた者こそがあのコルボだと。
「あいつは前の頭領をブチ殺してあの地位まで成り上がったんだ。前の大鴉盗賊団はもう影も形もありゃしねえ」
 前頭領を潰し、そちらへ加勢する団員も潰し、賛同する者を引き入れる。元より肩書きだけがあってないような盗賊団ではあったが、コルボが上り詰めたことによってすっかり新生したというわけだ。
「『砂蠍』の時こそヤツらも大人しくしていたが、それも落ち着いてからは数々の商隊やオアシスを襲ったモンよ」
「同業もだいぶ潰されたか、吸収されたってな」
「俺達も怯えたモンだ。中には自ら参加に下ったヤツらもいるらしい」
 砂蠍とは以前このラサで大きな勢力だったキング・スコルピオ率いる盗賊団のことであるが――彼らが告げているのはイレギュラーズたちによる討伐ではなく、その前の幻想へ逃げ延びた一件か。幻想の盗賊たちが活発になったといくつかの報告書で挙げられていることだろう。
「商隊やオアシスってことは、物資か」
「だろうな」
 貴賤など盗賊たちにとっては知ったこっちゃあない。邪魔になりそうな存在は容赦なく殺し、見込みのある者は勧誘する。断ったら殺す。遺跡を踏破して出てきた傭兵を殺して金品強奪し、仲間たちの装備を整える。
(変哲もねえことばっかりじゃねえか)
 そこらの盗賊とやっていることは変わらない、とキドーは思った。けれども――それらが全て、今回の布石なのだとしたら。
「そうそう、コルボっていやあれじゃねぇか」
「早く教えやがれ」
「落ち着けよ。ほら、」
 空だと男たちはグラスを振った。キドーはますます顔を顰める。聞きたい事を聞けるまでに一体何杯奢らされるのか。自分でもどうしてこんなことをしてまで話を聞いているのかよくわからなくなってきたが、ここで引けば掴みかけた話がどこかへ消え去ってしまう。
「もう1杯だ。それで聞かせてくれ」

「『鋼鉄の』アラノギってやつが昔いたんだよ」
 キドーが声をかける前から相当飲んでいたのだろう。かなり酔っぱらってきた3人が口々にキドーへ喋り始める。
 曰く。鋼鉄の二つ名を持つその男は傭兵だったと言う。どこの傭兵団へ属するわけでもなく、そして彼らのような盗賊団相手を主とした依頼を良く受けていたそうだ。その仕事ぶりは堅実であり、傭兵の中ではかなりの実力を持つ存在。故に盗賊団からすれば天敵であり遭遇したくない相手であった。
「ラサに来る商人や一般人からすりゃ『正義の味方』ってやつに見えんだろうなあ」
「ケッくだらねえ」
「で? そいつがコルボとどう関係があるんだ」
 愚痴で脱線しそうな気配をいち早く察したキドーが軌道修正し、再びその続きが語られる。
 コルボたち大鴉盗賊団にとってもアラノギは目の敵とも言うべき相手。その相手を彼はある遺跡へ呼び出して――決闘を持ちかけたのだと。
「決闘ぉ?」
「おうよ。あの金歯は決闘の証らしい」
 双方とも格闘術のパワーファイターだったが為、そのストレートをモロにくらったらしい。だが今コルボが生きているという事は、その決闘に勝ったという事だろう。
「アラノギはどうなった」
「死んだよ。決闘に負けたんだ」
「『正義の味方』は盗賊風情に敗北し、俺たちゃまた伸び伸びと強奪の限りを尽くしてるってわけだなあ」
 ギャハハハハハ、と笑い声が響く。笑ったことでまた酔いが回ったのか、ふらりと内の1人が体を揺らした。
「おい、まだ潰れんなよ」
「ダメだ、こいつ完全に落ちてやがる」
 他の2人が突っ伏した男の体をゆすっているが、キドーはこれ以上酒を奢る気も無ければ丁度良い具合に話を聞けたのでこれ以上は一先ず良い。
「いい話をありがとよ」
 大鴉盗賊団の悪行――というにはあまり変哲もなかったが。ラサの悪人に広く周知されるような強者を打ち倒したのならばコルボに注目が集まるのもまた道理。
(だが、テメエの思うようにいくと思うなよ)

 決戦は――もうすぐ。

  • 鴉ノ跡完了
  • GM名
  • 種別SS
  • 納品日2021年02月04日
  • ・キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244

PAGETOPPAGEBOTTOM