PandoraPartyProject

SS詳細

おてんばメープルと、紅の。

登場人物一覧

メープル・ツリー(p3n000199)
秋雫の妖精
ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド

●「迫る回転ノコギリと壁! でも今回もきっと抜け道があるはず!」
 特異運命座標に選ばれた物ならば誰もが一度は足を踏み入れる空中神殿。
 天気も風景大きく変わらず、神託の少女が佇む他は時折転移のポータルとして、時折能力の可能性を発見するべく金槌抱えた男女が走り回るぐらいでそれはもう、静かなものである。

 ……今朝もその筈だった。

「はぁ……今日は多いな」
 地面に散乱する無数の欠けたハンマーの残骸にサイズはため息をつき、夜中に散らばったそれを拾い集める。能力を失ったそれに使用価値は無いが、鍛冶に使うハンマーの代わりぐらいにはなる。
 集めたハンマーが一つの山になり、ふうと額の汗を拭ったサイズの前で光の柱が浮かび上がり、サイズは顔をしかめる。
「それにゴミ拾いはしないとな――ん?」
 この神殿に何か異変が起こるとすれば世界が大きく揺れ動いた時ぐらいだろう。そうでなければ答えはひとつ。
「ほぎゃー!?」
「わっ!?」
 光の柱から立ち上がる絶叫に思わずサイズは飛び退く。草木の心地よい風が空中神殿に吹き荒れる。
「抜け道ないー?! はい私終わったー!?」
 光から現れたのは蝶の――モナーク・バタフライ蝶の帝王の様な鮮やかなオレンジの大きな翅、風に飛ばされ大きく乱れる茶の鮮やかな髪。そしてギフトで姿を変えた自分とほとんど変わらぬ小さな妖精。
 目を護る様に身構えていた腕と本体を下ろし、サイズは冷静さを取り戻す。騒がしいのはよくある話だ。イレギュラーズに選ばれるのは死に瀕した者や一度死んだ者も例外ではない、それに自らと同じ妖精ならば事態を説明しなだめるのも容易いだろう。
 そう一通り巡らせ正常化したサイズの思考は、その3秒後、妖精メープルの姿を見た時に跡形もなく吹っ飛ぶ事になる――

「罠の次はサイズさん!? これ走馬燈って奴!? なんかでかいけど!」
「……」
「……走馬燈ならなんかいってよー!」
 戻るサイズの意識、だけどとりあえず理解が足りない。
「メープルさん、ですよね?」
「そうだよ? ……あっ、もしかして脱出そーちが働いて助かったとか!?」
 メープルは訳の分からぬ事を呟いて辺りを見回し腕組み熟考、浮かんだ疑問をぽつりとつぶやいた。
「……ところでここ何処? 妖精郷おうちじゃないよね? なんでサイズさん大きいの!?」
「それは、えっと――」
 矢継ぎ早に飛んでくる質問の答えを一つ一つ考えながらサイズは思わず頭を抱えそうになるのであった。嗚呼、どこから説明しようか。

●そうして彼女は一つの欠片となる
「それで、妖精郷の迷宮の遺構を弄ってたら罠に押しつぶされそうになったって?」
「うん、流石の私ももう終わったかと思った!」
「どうしてそんな危ない事していたんだ……」
 所は変わりローレット。テーブルを挟むように翅を動かし浮かぶサイズとメープル。
 暖色系の灯が照らすその室内で、メープルは今までの経緯をおーざっぱに、サイズはメープル自身の事情を丁寧に説明しているのであった。
「なんとなく? まあ前にサイズさんと話したかもしれないけど――」
 半年前、妖精郷に封印されていた冬が本格的に訪れ全ての生命が停止しようしていた時、メープルは仲間を連れ出し少しでも暖かい所へと逃げ出していた。メープルはなんとなく思った、このままじゃダメだって。
「だから私達も次があってもいいように仲間と一緒にイセキを探検していたのだ! なんかあるかなって!」
 ……とは言っても妖精の事だ、ちょっとした肝試しの様なものに違いない。
「身を護る為に死んだらダメじゃないか、召喚されなかったらメープルさんだって……」
 眉をひそめてサイズに対して手を合わせ舌を出して謝るメープル。
「ごめんごめん! 次は言われた通りサイズさんと一緒に行きます! あ、でも深緑もりに帰る方法探さないと!」
「メープルさん、言ったよね、俺達イレギュラーズは」
「そうだ、空中神殿!」
 ハッと目を見開くメープルにサイズは頷いて見せる。良かった、ちゃんと説明した事が頭に入っていた。
「そっかぁ、私もイレギュラーズかぁ、嬉しいな!」
――ガシっ。
「え?!」
 腕を引かれた感覚に目を見開けば目の前にはメープルの顔、思わず後ろに下がりかけたサイズの様子もお構いなしにメープルは目に星を浮かべて叫ぶ様に喜んで見せるのであった。
「だって私だってサイズさんみたいに戦えるんだよね!? 誰かを助けれる様になるんだよね!? 戦えるようになるんだよね!」
「え?! 確かに強くなったレベル1のメープルさんならそうだけど……」
「えへへ、やったやった!」
 その言葉に今度はメープルはサイズの腕を離し、空中をくるくると回りながら両腕をあげて喜んだ。憧れの存在、妖精達の救世主サイズたちに近づいた喜びを、精一杯に。
 そしてまだ腕を掴まれる、本当にこの子はせわしない。
「それじゃ、お外行ってみようよサイズさん! おてんばメープルのイレギュラーズ活動第一弾!」
「まってメープルさん!? 外は冬だぞ!? 幻想は危険だし……」
「平気平気! あの時よりはずっとマシ! それにサイズさんなら護ってくれるでしょ!」
 妖精にこうも頼りにされれば断れない。サイズは頷く間もなく、メープルに外へと引っ張られていくのであった。

●種は芽吹き、運命は絡み合う
『ねえねえサイズさん、久しぶりにお話ししよ! 場所はねえっと、地図に点打って送っとく!』
 妖精達にとってはあっという間だけど、時は早いもので2週間。ある昼下がり、サイズはメープルに突然手紙で呼び出され指定にあった幻想王都のとある植物園へと急いでいた。
 あれからメープルは情報屋や仲間に連れ出され、新米イレギュラーズとしてまともに研修を受けているという。
 時折ギルドや街角で声をかけてくるメープルの表情も何処か凛々しくはっきりと……いや、調子に乗って来た気がする。
 そういえば、何か時々呼び捨てで呼ばれたり、距離が近い気がするけどきっと気のせいだろうか――
「さいずさーん」
「わわっ!?」
 上から呼びかけられ、意識が朦朧としていたサイズは思わず手に持っていた物を落としてしまう。
「危ない!」
 メープルの叫び声。直後、サイズが落したそれは不思議と光り輝き、ふわりとサイズの目の前へと浮かび上がるのだった。それは輝く白い金属の杖、サイズがメープルの大きさに合わせて作った白鉄の杖である。
「ありがとう、メープルさん」
「ふっふーん!」
 指を振り、満面のドヤ顔でメープルはその杖を右手に握りしめ、サイズに煌めく眼を細めて見せるのであった。
「早速特訓のせーか、見せちゃったね?」
「ああ、綺麗な神秘術サイコキネシスだったよ」
「そしてサイズさんはこの杖をごほーびとしてくれるわけだ! うんうん! がんばったもん!」
「いや、別にそう……まあそれでいっか、あげるつもりだったし」
「うっわ! すっごく手に馴染む、それに翅の先から手まですっごく来る! 魔力感じるよサイズさん!」
「……メープルさーん?」
「あっ!? うんうんちゃんと聞いてるよ! 杖ありがとサイズさん!」
 メープルはその言葉に激しくうなずきながら杖を抱きしめる。そして遠方に見える植物園の方角を指さすと、サイズへと手招きして見せるのであった。

「うーん、でも結局キカイに頼らなくても戦えたなんて複雑かもー、妖精郷あっちでもサイズさんが戦い方を教えてるんでしょ? あたしみたいにー、あたしみたいにー!」
「女王様に頼まれたからにはな……それにどんな人にも向き不向きがあるから仕方ないさ」
「むむ、その人の名前を出されちゃメープルは何も言えない……あ、でもでもエイガで見たチェーンソーはかっこよかったよ! こう、ぎゅいーん、ばりばりーって!」
「……メープルさん、練達で何を見てきたの?」

 街を巡って扉の向こうは一面のガラス張りの室内、辿り着いた所は各国の草木が生い茂る植物園。
 室内に入るや否や、サイズと仲良く談笑していたメープルは大きく目を見開き、建物の奥へと突進しだす!
「みんなー、こんにちはー!」
「メープルさん!?」
 突然の行動にサイズは驚き慌てるも案外周囲の様子は穏やかで、むしろ慣れ親しんだという雰囲気であった。
 まさかと思い植物園の奥へと進んだサイズが見たものは……木の枝に腰掛けサイズを呼ぶメープルの姿。
「それでね、あの花金妖精よっぱらいが酒瓶を振り上げてさー……あ、来た来た! こっちだよサイズ!」
「メープルさん、もしかしてここに俺を案内したかったのか?」
 サイズの言葉に大きく頷くメープル、そして先程受け取った杖を振り上げると植物園に心地よい風が吹く。
「そう、みんなにサイズさんを紹介したくて! えっとね、あっちは天義から来たクラリス、あっちは深緑こきょうの――」
 メープルはにっこりと頷くと翅をぱたぱたと動かしながら木を一本一本指さし、サイズに木の名前を伝えていくのだ。崩れないバベルで翻訳された種の名でも俗名でもないその名前にサイズは一瞬たじろぐも、彼女の説明を聞くにつれて次第にその意味を理解した。
「すごいな、メープルさんはもうみんなと仲良くなったんだな」
「ふふん! 凄いでしょー! これがメープルの能力なのだ!」
「……ああ、確かにそれはメープルさんの力だ」
 植物疎通者にも似た、木々とより強く思いを交わせる力。あの空色の泉に、そして妖精郷の甘い樹液を提供する楓の木メープル・ツリーと関わって来た彼女にギフトにこれ以上相応しい能力もないだろう……そう伝えたサイズの言葉にメープルは首を傾け静かに微笑み、近くの枝に腰かけたサイズと二人きりの世界に入り込んでいく。
「それじゃサイズさん、お話しよ! サイズさんの今までの冒険とか聞きたいし!」
「いつも急だなあ……いいさ、でも長くなるぞ」
「だいかんげー!」
 サイズの紺色の翅に合わせて自らの翅を動かしながらメープルはサイズの話に聞き入る。彼女はそれに頷き、笑い、怒り、時には失われた仲間に涙して。サイズの話にお返しをする様に自らの身の上を話して聞かせるのであった。ずっとずっと長い間、友達と一緒に楽しく気ままに過ごしてきたこと、深緑の外を見るのが夢だったこと。

「一杯外を見て、妖精姫って言われるぐらい偉くなって。そして、そして。何時か女王様たちののがメープルの、願いなの」
「女王の思いを、繋げて? 良くわからないな」
 首を傾げたサイズにメープルは人差し指と中指を唇に当て、どこか寂しげにほほ笑んで見せるのだった。
「……ヒミツ」
 その時の、メープルの中にちらりと見えた決意の眼差しは、妙にサイズの記憶に残っている。

「サイズさんまだ体硬いよー?」
「そ、そうかな? メープルさんの気のせいじゃないか?」
「うんうん、領主さんやってる時も何時も体こわばってるし! 後輩としてここは一つ私ぐらいは呼び捨てで呼んで欲しいな!」
「メープルさんと領地は関係ないですよね!?」
「えー、いーじゃーん! それじゃあ秋の妖精として秋の都に楓の木おやつを一本……」
「そ、そっちは考えておく、余裕があったらな?」
「いやったー!」

 お転婆な彼女に振り回されて、ちょっと疲れるけどサイズは何故か離れる事は出来なくて。そんなどこか楽しくも悲し気な時間はあっというまに――きっと妖精じゃなくても――過ぎていく。終わってしまう。
 硝子越しの空が赤く染まり、そして夜になり、時折彼らの話に耳を傾けを眺めていた人々の影が遠くなり、満月が空高く浮かんだ頃。サイズの瞼は重くなり、その意識は闇の中へと沈み込んでいくのであった。

●――淡い█心きまぐれ
「寝ちゃったかな、サイズさん」
 暗闇の中、メープルがサイズを呼びかける。鎌を背負い目を瞑ったまま、うつらうつらと漂っているのを確認すると、ひっそりとメープルは杖を振り上げた。
 夜の闇をメープルの杖が明るく照らし、彼女の腰かけていた木の蕾が開く。満開の桜となったそれを見上げながら、メープルはどこか寂しそうに木へと語りかける。
「見せわすれちゃったなぁ、メープルの癒しの力、芽吹かせる力。小太郎がもっと早く教えて使っていいよって言ってくれれば、サイズさんももっと褒めてくれたかもしれないのに」
 ふわりとメープルは眠りについているサイズの頬に手を伸ばすと、寂しそうにつぶやく。
「でも、いっか。今度見せればいいし、それになんだっけ。私の誤解おまぬけだったみたいだし?」
 なんだ。

「なーんだ、んだ。芽吹かせるまでもなかったんだ」

 なんでだろう、一回花開いたつぼみが硬く、硬く、かったーく閉じちゃってるけど。ま、いっか、探るのはしつれーだよね。

「い、いいもん! 私の思いは尊敬だから! 感謝だから! 天地万物ひっくりかえっても違うもん!」
 周りの樹木に何か揶揄われたのか、広げた両腕をぶんぶんとふって慌てて拒否するメープル。彼女はそっとサイズの傍から離れると、再び元の枝に腰掛け、流れ星が流れる星空を眺めながら木々へと語りかける。
妖精わたしたちは悪戯が大好きだもん。これもそーゆーこと!」
 だからこれからも忘れたころに呼び出して精一杯巻き込んでやろう。助けてもらった命と故郷の恩人に、今度は後輩としてたっぷりと迷惑かけてやろう。

「いやなんていわせないよ、愉しみにしておいてよね、サイズさん!」
「ん……」
「あ、寝てるんだった、テヘペロ♪」

 悩んでる事はきっと、いつになるかわからないけど、きっと全部上手く行くよ、サイズさん。だってこのメープルが着いて応援しているんだから!


●おてんばメープルはこれからも
「サイズさん、こっちこっちー!」
「今行くよ、メープルさん」
 これはそう遠くない未来の話、もしかしたらちょっと遠いかもしれない未来の話。

「やっほ~! 妖精のメープルだよー! みんな今日は私の新人研修に来てくれてありがとー!」
「依頼を出したのは私、それに新米研修じゃない」
「いいじゃんカルっち! 呼んだのは私なんだからさ、ほらほらもっと盛り上げて!」
 呼び集めたイレギュラーズが呆然とする中、メープルは情報屋の頭の上でぴょんぴょんと跳ね周囲を見渡し、ちらりとサイズの方へと目を見やる。
 最近はヒーラーとして目覚めた様だがまだまだだ、メープルはサイズの力を求めている。
 きっと彼女の口から出る言葉はまたとびきりの無理難題だろう。それは遺跡探検か、異国旅行か、はたまた魔種討伐か。
「……まったく、メープルさんは」
 それでもサイズは断らない。おてんば妖精の頼みならば、可能な限り力を貸すのが妖精の刃としての自分の在り方なのだ、と。
「よーし、みんな集まったね! それじゃあー、今回のお仕事はこちら!」
 そして多分、あのめんどくさくて御転婆な妖精姫を満足させる最善策だろうから――

 つづく?

  • おてんばメープルと、紅の。完了
  • GM名塩魔法使い
  • 種別SS
  • 納品日2021年02月02日
  • ・ツリー・ロド(p3p000319
    ・メープル・ツリー(p3n000199

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