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3rd Anniversary.
登場人物一覧
アーリア・スピリッツ(p3p004400)は自他ともに認める飲んだくれである。
楽しいことがあったら酔って良い具合になりたいし、大変な事があれば飲まなきゃやってられない。そして依頼が終わればお疲れ様の一杯である。
そんな彼女からすればお酒やつまみの美味しいお店を知っておくことは勿論、その新規開拓にも余念がない。もちろん幻想だけではなく鉄帝に海洋、深緑その他エトセトラ。人生は楽しんでなんぼである。
「そういうわけでぇ、連れて来ちゃった!」
「僕未成年なんですが!?」
ふわふわにこにこ笑うアーリアにブラウ(p3n000090)が目をくわっと開く。まさか――いいお姉さんだと思っていたのに――未成年へ酒を飲ませる悪いお姉さんだったのか。
「もう、ブラウくんは私のことなんだと思ってるのぉ?」
「飲んだくれおねーさんです」
正解~などと満面の笑みで言うあたりもう酔っぱらっているのだが――つまりブラウとの合流前にゼロ次会ということで1人酒をしてきたわけだが――存外その足取りは確かである。勝手知ったるというようにブラウをカウンター席へ座らせ、あれやこれやとつまみを注文する。
「ご機嫌ですね?」
「そりゃあ、イレギュラーズにとってはお祭りみたいなものだものぉ」
大規模召喚から丁度3年――節目、とでも言うべきか。アーリアは大規模召喚から遅れて召喚されたし、ブラウはイレギュラーズですらない。けれども仲間のお祝い時と思えばこそ。
「ブラウくんは飲み物大丈夫?」
「はい。では――」
乾杯!
軽くグラスを合わせ、酒を呷るアーリア。そのうち彼女の髪先はこの酒の色へ変わっていくのだろう。心地よい香りと酔いに微笑みを零せば、ブラウがしげしげと彼女を見つめた。
「なぁに~、見惚れちゃった?」
「え! あ、いや、」
ぼふん、と顔を赤らめるブラウ。ソフトドリンクを注文していたようだが、まるで酔ってしまったかのようだ。初心ねぇ、と笑う彼女にブラウは小さく咳払い。
「そ、それにしても! 結構人が多いみたいですね」
「そうねぇ。いつもはここまで多くないんだけれど……」
視線を店内へ巡らせるアーリア。お気に入りの店のひとつだが、いつもは程よく席が空いているのである。ところが今日は見事に満席だ。早めの時間に来ておいて良かった、と内心思っていたアーリアの耳に、「やっぱりあれですかねぇ」と何かに思い至ったブラウの声が入る。
「あれ?」
「え、んん? てっきりそれでここに決めたのかと思ったんですけれど」
違うんですかと目を瞬かせるブラウ。同じように目を瞬かせたアーリアには知らない情報を知っているようだ。
なんでも本日、この近くで灯篭祭りのイベントがあると。無数の灯りが夜空へ浮かんでいく様は幻想的で、毎年大好評なのだと言う。海へ向かって放たれることから灯篭祭りが見える店は多く、恐らく今夜はどこも満員御礼で盛況だろう。
「……そんな話もあったかもしれないわねぇ」
アーリアは彼の話を聞いて思い返すアーリア。最近は自領で飲むことも多いし、それ以外にも行きつけの店はあって頻繁に来ると言うわけではない場所だ。しかし1ヶ月ほど前にそんな話を小耳に挟んだような、挟んでいないような。
ともあれ、ここまで盛況という事はこの店舗からも当然空を飛ぶ灯篭が見えるという事になる。
「あ、上に行く人がいますよ。僕たちも行ってみます?」
「そうしましょうかぁ」
美しい景色を肴に酒を飲むのもまた良し。そうと決まれば、と2人はそれぞれ飲み物を持って酒場の2階へ上がった。
「あ、ここはテラスなんですね」
「そうそう。天気が良い日はここで飲むのもいいわよぉ」
階段を上がり、扉を開けると潮の香りが鼻を突き抜ける。ここで飲むと後々全身がべたべたになるのだが、展望はひたすら良い。
「あ、アーリアさん! あそこ!」
人があまりいない場所へ向かうと、ブラウがぱっと目を輝かせる。転びそう――なんて思えば当然、彼の事だから。
「あっ」
「っぶなぁい」
つんのめった彼の腕を支え、間一髪事なきを得る。彼のオレンジジュースは若干地面に零れてしまったが、これならすぐ乾くだろう。
「あ、ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして」
礼を言ったものの、ブラウのグラスにはもうジュースが残り少ない。頼んできます、というブラウを見送ってアーリアはテラスの外側へ歩み寄る。
「すごい……」
そこには光の川があった。海から放たれ、空へ呑み込まれていく川だ。予想以上に美しい光景はまるで今日が特別な様に感じさせる。
(ううん、特別なのよねぇ)
大規模召喚という、世界の運命を動かし始めた日から3年。この日はイレギュラーズだけでなくて――世界中の人々にとっても、特別な1日なのかもしれない。