SS詳細
シェヴァリエ家の靴音
登場人物一覧
名前:シューヴェルト・シェヴァリエ
一人称:僕
二人称:君、呼び捨て
口調:だ、だろう、だろうな?
特徴:
(外見)【儚い】 【長髪】 【騎士風】 【貴族風】 【オッドアイ】
(内面)【律儀】 【お人よし】 【平和主義者】 【真面目】
設定:
騎士としての家名を背負い、青年は靴先を前へ向けてきた。
父は言った。民を正しく導くことこそ、貴族騎士たる者の使命だと。
母は言った。どれだけ無力を感じようと、心を傾け、歩み続ければ未来は切り拓けると。
それは騎士として、貴族としての心構えであり、力や名を有する家の者なら恐らく誰もが学ぶもの。
しかし彼の家は少し違う。かつて天義において荒くれる『正しき心』に辛抱ならず、動いたことがあった。
哀れむべき罪咎に容赦なく裁きを下す者あらば、かれらの逃げる道を敷く。
醜行とも呼べる断罪の刃が振り下ろされるならば、その刃を一瞬でも鈍らせるため声を張る。
自らの正義に則った断罪行為に迷いも沈思もしない者へ立ち向かい、挫き、そうして民を救うのが受け継がれてきた『正心』だ。
天義の地より逃れた民は、シェヴァリエ家に深々と頭を下げて別れた。
故郷の土から離れず生きる民も、断罪を免れて頬を濡らし、シェヴァリエの家名を胸に刻んだ。
たとえ旧き正義だと嗤われても、上手い生き方をしろと他貴族から罵られようと、シェヴァリエの――騎士の名に恥じぬ道を彼の家は、彼の血は築いてきた。
だが天義という国で点した一火は、風前へ置かれたに等しい。
罪を篤と視よ。そう呪いは我らを嘲笑うのだと、言い伝えられている。
罰を傾聴せよ。そう呪いが囁き血族の夢に現れるのだと、言い伝えられてきた。
眸を逸らすことを、耳を塞ぐことを決して許さぬ呪いだ。
それは天義から追放された一族に――シューヴェルト自身にも、多くの惨状を目の当たりにさせた。
民が喘ぎ苦しむ有様は、彼の心を痛め付ける。そして己に足りぬ力を、シューヴェルトは思い知らされる。
けれど彼の『正心』は折れやしない。
祖が紡いだ絆は、今なお各地でひっそりと息衝いているから。
祖により生まれた命の系譜は、正心の満ちる世を求め続けているから。
何よりも彼自身の性分が、靴音が止み、惑うのを拒んだから。
――僕は歩みを止めない。前を向き、民を導くために立ち続ける。
見ることも、聞くことも、恐れない。……それが貴族騎士たる者の務めだ。