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アレクシアとスティアの話~ショートジャーニー~

登場人物一覧

スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
天義の聖女
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊

 誰かと出かけるのは心浮き立つ。それが友と呼べる人ならなおさら。
 転移装置を抜けると、そこはニンファエア樹層区だった。大樹ファルカウ内部、最下層に位置する居住区だ。さんさんと陽の光が入っており、スティアは塔から見える一面の果樹園へ敬意にも似たあこがれを抱いた。
「本当にいいところ……」
「でしょう?」
 アレクシアは自分を褒められたかのように自慢気に笑った。
「お招きありがとうアレクシアさん」
「こちらこそ、来てくれてありがとうスティアさん」
 ふたりはお辞儀をし合った。
「こうして遊ぶのは女子会以来ね」
「そうね、依頼では何度か顔を合わせていたけれど」
 気の合う人と、もっと仲良くなりたい。そう思うのは自然なこと。新芽が若葉になるように、川がやがて海へ流れ込むように。何度も顔を合わせた二人の心が沿うのも当然だった。
 スティアがなにか取り出す。
「これ、今日のお礼に」
「えっ、わざわざ用意してくれたの!? ありがとう!」
 かわいらしく包装されたチョコチップクッキーにアレクシアの胸が踊る。
「おいしそう。これ、どんな紅茶が似合うかな。キャンディやキャラメルみたいにあま~い香りのフレーバーティーも良さそう」
「あ、それは盲点だったかも。私もそれ試してみたい」
 なんて話ながらふたりは大通りを抜けて足取り軽く歩いていく。
「まずはどこへ行くの?」
 スティアの問いにアレクシアはウインクした。
「役所!」
「役所? どうして?」
「この自治区を知ってもらうためにスタンプラリーを開催してるんだ。全部回ったらすてきなプレゼントがもらえるんだよ」
「なにそれ楽しそう」
 役所へつくと、様々なチラシの入った木製ラックがふたりを出迎えた。さっそくスタンプラリーの用紙を二枚抜き出す。
「イラストかわいい~。ミニマップになってるし、手が込んでるね」
「そうなの! 見てるだけでも楽しいよね」
「おや、スタンプラリー参加者様ですか」
 ふたりが振り返ると温厚そうな男が庁舎へ入ってきたところだった。どうやら見回りから帰ってきたらしい。
「執政官さんこんにちはー」
「はい、こんにちはアレクシアさん。よければスタートのスタンプを押す名誉を私に授けてくださいませんか、お嬢さんがた」
 善良な執政官はほがらかに笑うとぽんぽんとふたりの地図へスタンプを押した。
「それでは楽しんでくださいね」
 笑顔で去っていく後ろ姿にアレクシアとスティアも手を振った。
「すごいね、アレクシアさん。偉い人と知り合いなんだ」
「んーん、田舎だからね。みんな顔見知りなの」
「なるほど。言われてみればうちもそうかも」
「じゃあまずは商人ギルドに行ってみよう~」
 ほどよく渋い面構えのギルドへやってくると、おひげのおじいさんが応対してくれた。もう何百歳になるのだろうか。検討がつかない。
(これでも現役バリバリの商人なんだよ)
(ええー、そうなんだ。すごーい)
 それから水道橋でスタンプのついでにカードをもらったり、水道施設を見学させてもらったり。宿屋に農場、そして果樹園。観光地ではないかも知れないけれど、見どころはなにげにたくさん。日々の営みがそこここに刻まれ、歩いてまわるだけでも楽し。
「この果樹園はさっき塔から見えたやつね」
「うん、そうそう。今は葡萄に梨に、桃! 果物狩やってるよ、していく?」
「するする」
 なんでもトライしてみるのが乙女なのです。ターゲットを桃に定めて、バスケットのなかへそうっと詰めていく。
「ここの果物を使ったフルーツケーキが名産品なのだっけ? アレクシアさん」
「うん、そうそう! 覚えててくれたんだスティアさん」
「もちろん、だって今日のお目当てはそれなんだもの」
 スティアは今から楽しそうに微笑んだ。
「それにしても静かで、きれいな果樹園ね。こうしているとなんだかふたりじめしたみたい」
「本当だね。貸し切りみたいだ」
 アレクシアはもうひとつ桃をもいだ。産毛がさらさらと心地よく手のひらで転がすと心地良い。我慢できなくなってかぷりと歯を立てた。じゅわっと口の中へ果汁が広がる。
「あ、一番乗り取られた!」
「んふふ~、おいしいよ。スティアさんも食べてご覧よ」
 さらりと涼しい風が吹き、木々が歌う。
「もう秋だね」
「今年の秋は秋らしいよね」
 アレクシアが相槌を打つと、スティアはほうと吐息をこぼした。
「この果樹園を見ていると今の時期に訪れてよかったと思えるね」
「食欲の秋?」
「そうね。しっかりたっぷり堪能しちゃいましょう! 梨も食べてみたいな」
「じゃあ移動しようか」
 梨はもちろん葡萄にまで手を出して、ちょっと味見をしながらバスケットへつめて。きっといいお土産になるだろう。最後は忘れないようスタンプをぽん。
「だいぶ埋まってきたわね」
「うん、あと二箇所」
 ふたりは道をトコトコ。歩いているうちに立派な図書館へついた。三階建ての重厚な作りで、ひさしからはブロンズ製の鳥の雨樋がのぞいており年季を感じさせる。スティアの目が輝いた。
「すてき! こんな情緒のある図書館で本の世界にひたれたら最高ね!」
「まだ時間はあるから図書カード作っていきなよ」
「ここの住民でなくても作れるの?」
「作れるよ。本を愛する心と貸し出し期限を守る几帳面さがあればね」
「あはは、それなら大丈夫」
 スティアは鼻歌を歌いながら図書館へ入っていく。アレクシアもついていった。さっそく図書カードを作り、貸出用の本を鵜の目鷹の目で選び始めるスティア。アレクシアがくすりと笑った。
「スティアさんうれしそうだね」
「だって本が大好きなんだもの」
「どんなのを読むの?」
 そうね、とスティアは頬に手を当てた。
「魔法関係の本はなんでも読むわ。それから冒険譚とか物語系のお話ね」
「魔法関係ならとっておきがあるよ。おいで」
 アレクシアが司書のところまで歩いていく。
「司書さん、第三書庫の本を読ませてもらえないかな」
「いいわよアレクシア。隣のスティアさん、だったかしら。その方もイレギュラーズなのよね」
「はい、そうです」
「だったら大丈夫ね。くれぐれも不意打ちには気をつけてね」
 不意打ち? スティアの頭の中で「?」がぐるぐる回っている。
 司書さんはアレクシアがお願いしたとおり、第三書庫の鍵を開けた。半地下になっているのか、うっすらと寒い部屋だ。中央に読書用の大きなテーブルが置かれている以外はひたすら本棚が並んでいる。
「ここは?」
「魔法関係の本ばかり集めた書庫だよ。まだ体が弱かった頃、よく勉強に来てたんだ」
 アレクシアは懐かしそうに本棚を眺める。スティアは棚へ近づいてみた。
『初めてのおまじない』
『よくわかる白魔法』
『ファルカウ東部地方の伝統的祝祭魔法』
 初心者向けから論文まで多彩な棚作りになっている。
「おもしろそうな本がいっぱいね、少し読ませてもらってもいいかしら」
「かまわないよ。私も読書と洒落込もうかな」
 スティアは『水晶魔法の応用』という本を手にとった。開くと見開きで多種多様な水晶の紹介、それを使うにふさわしい魔法が熱のこもった文章で書きつけられている。すべて手書きだ。活版印刷の魔法書では味わえない情緒に知識とともに舌鼓をうっていると、ふと背後に妙な気配がした。
「スティアさん!」
 向かいに座っていたアレクシアが立ち上がる。そしてデコピンするみたいに空中を弾いた。同時にスティアの肩の後ろでバチンと大きな音がする。驚いて振り返ると、床に一冊の魔法書が落ちていた。
「こ、これは?」
「『ナイトスリープ』っていう、読んだ人を眠らせていい夢を見せる魔法書だよ。私も何度かお世話になったな。でも書庫に入れられてからは誰も読んでくれないものだから、こうして入ってきた人に忍び寄って居眠りさせちゃうの」
「ええっ、他にもそんな本がたくさんあるの?」
「あはは、あるにはあるけど、適切な処置をされているから大丈夫だよ。『ナイトスリープ』は比較的無害だから放っておかれてるだけ」
「おおらかね……」
「魔法書は読んでもらってなんぼだからね、いたずらしたくなっちゃう気持ちもわかるな」
「この本、外に出すとこんなふうにいたずらして回っちゃうかしら?」
「読んでくれる人がいればおとなしくしてると思うよ」
「なら私、これを借りていこうっと。どんな夢が見れるか楽しみ」
「スティアさんもけっこうチャレンジャーだね」
 貸し出し手続きを済ませると、司書はスタンプを押してくれた。最後の場所をのぞいてみると……「全部回ったあなたへは、ご褒美に菓子工房『フローラリア』で好みのケーキをプレゼント」。
 スティアが目をぱちくりさせる。
「『フローラリア』ってもしかして」
「うん、大当たり! お目当てのスイーツ屋さんだよ」
「ラリーの最後がお菓子屋さんなんて気が効いてるね」
 たどりついた菓子工房は甘い香りであふれかえっていた。噂に聞いた木の実の入ったふわふわパウンドケーキや、さくさくした食感が売りのミルフィーユが並んでいるけれど、やっぱり目を引くのは季節の果物をふんだんに使ったフルーツケーキ。
 最後のスタンプを押してもらった二人は、さっそくフルーツケーキを注文してテラスの席へ座った。紅茶はあっさりしていながら柑橘系の香りがほんのりと香るレディーグレイ。フルーツケーキの濃厚なクリームを洗い流してくれる。
「これ、おかわりいけちゃうかも」
「うん、わかる」
 アレクシアの言葉にスティアも同意。だって甘いものは別腹ですから。そうこうしているうちにアレクシアがなにか迷うようにフォークを揺らした。
「どうしたのアレクシアさん」
「あのね……スティア君って呼んでもいいかな?」
「もちろん、喜んで!」
 今後ともよろしくねと、ふたりは笑いあった。

  • アレクシアとスティアの話~ショートジャーニー~完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別SS
  • 納品日2020年10月14日
  • ・スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034
    ・アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630

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