シナリオ詳細
<アンゲリオンの跫音>真っ白な正義をわらおう
オープニング
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天義、聖都フォン・ルーベルグ近郊。
甲高い悲鳴のような号令が、昼下がりの空気を引き裂いた。
「撃て! 撃て! 撃て!」
号令によって、弓兵が光の弓を番える。
光が収束する独特の音の後、放たれた矢は……美しい放物線を描いて“彼ら”に迫る。だが其の矢が届く事はない。“彼ら”は装備していた武器からあっという間に天幕を覆うような弾幕を展開すると、光の矢を四方八方から粉々にした。
「うて」
「まもれ」
「ころせ」
先程とは違う幼い囁くような声が、端的に命令をする。
すると“彼ら”を守るように整列している黒い“彼ら”は、先程弾幕を展開した『まるで練達から持って来たかのような』これもまた真っ黒な兵器の影を構えて、再び撃つ。
其の一撃は強大である。砲の一撃で弓兵を守っていた盾兵の半数が吹っ飛んだ。悲鳴の一つすら、上げる時間は与えられなかった。
「可哀想な人たちね」
“彼ら”が繰り出す弾幕は、最前線を歩く女を避けて奔り、弓兵の命をいとも簡単に奪っていく。
其れは戦闘ではない。蹂躙であった。
不可思議な影による砲撃で近寄る事は叶わない。そして、優美な獣のように前線に接敵した女が、両手に持った十字剣を振るうと――すぱん。まるで手品のように弓兵の頸が飛ぶ。
其れはカルヴァニヤの慈悲だ。
偽りの正義に踊らされているのなら、一思いに命を断ってやろうという慈悲に違いない。
或いは彼女は子どもを可愛がっているから、大人になんて興味がないだけなのかも知れないが。
「預言が出たんでしょう? じゃないとこんなに豪勢なお出迎えは出来ないわよね」
カルヴァニヤと子どもたちは天義の兵を蹂躙していく。
あるものは撃ち。あるものは貫き。あるものは斬り。
踊るように長身の女が刃を振るえば幾人かが死んだ。砲撃の音がして、悪魔の笛が鳴って、着弾の衝撃と共に数人が命を落とした。
そうしてあっという間に天義の迎撃戦を打ち破った彼らは……笑っていた。
「あっはっはっは!」
笑うのは女。
「あっはっは!」
「あっはっは!」
追従するのは純真無垢な子どもたち。
沈黙するのは影。子どもたちが静かに手を翳すと、艦隊たちは一旦其の姿を霧散する。
「あー面白かった! 紙切れみたいだったわね! さあ」
――可愛い子どもたち。
――あたしと一緒に、偽りだらけの正義を淘汰しに行きましょう!
●
「遂行者が動き出したよ!」
リリィリィ・レギオン(p3n000234)は慌てたようにカウンターに飛び出して来る。
其の日のローレットは騒がしかった。リリィリィは其の喧騒に負けじ、と声を張り上げる。
「“遂行者”カルヴァニヤ! 堂々と聖都に向けて進軍中だ! 連れてるのは子どもと砲兵、らしいけど」
少年らしい薄桃色の唇に手を添えて、リリィリィは不可解そうな表情をする。
「形状はこれまで報告にあった『影の天使』の人間版……みたいな感じなんだ。だけど、持っている装備が少し違う。もっと近代的な……旅人のヒトなら判るかな? 大砲とかさ、機関銃とかさ、ああいうのを装備してるって情報なんだ」
使役しているのは子どもたちだよ、とリリィリィがいうと、真っ先に駆け寄っていたタイム(p3p007854)は明らかに嫌そうな顔をした。
「――あの人、また子どもたちを使ってるの」
「ミス・タイムの怒りももっともだ。……でも、今回はそう気楽にはいかない」
「どういう事?」
コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)がタイムの肩に肘をかけて問う。重いわ、というタイムの文句も何のそのだ。
「ミス・タイムとミス・コルネリアは確か……カルヴァニヤが出没し始めてから追いかけてくれてたんだよね。なら判ると思うんだけど、彼女は今まで“アドラステイアで犠牲になった子どもたち”のカタチをしたものを扱っていた」
「……ええ。死した子どもたちを扱うなんて、許せない」
「で、今回は違うって?」
「報告員の一人が“子どもに見覚えがある”って言ってたんだ。人違いかもしれない。でも、彼らは――或いは天義に住んでいた子どもたちじゃないか、って可能性がある」
「洗脳されてるの?」
「わからない。或いは誰かを人質に取られたりしているのかもしれない。でも、この情報をみんなに渡しておかないと、きっと悲しい事になると思ったから」
「――例え偽物でも、子どもたちを弄ぶなんて許せないけれど……生きている子どもたちを無理矢理に使っているのなら、あの人は……本当に救いようのない人ね」
ぎり、とタイムが強く手を握る。
天義ではシェアキム六世に三つの神託が降りたという。
恐らく其れこそが“遂行者”の動きなのだろうとリリィリィは言った。
「彼らはまだフォン・ルーベルグの近郊にいるはずだ。聖都に入る前に迎え撃とう。……でも気を付けて。神託の『第一の予言』はもう始まってる、――凄い雷が周囲を覆っているんだ」
彼らは其の混乱に乗じて天義に滑り込もうとしたのだろう。
どうか撃退して欲しい。そう言って、リリィリィはイレギュラーズを送り出した。
- <アンゲリオンの跫音>真っ白な正義をわらおう完了
- GM名奇古譚
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年08月27日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●
其の一団は、敵である。
にも関わらずゆっくりと、まるで凱旋するかのように歩いていた。
背の高い女が一人。其の後に続く、子どもが数人。
――そうして、其処に立ちはだかるのはイレギュラーズ。
「ごきげんよう、カルヴァニヤ」
『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)が、其の柔らかな言葉とは裏腹に厳しい顔で言う。
「あら! ごきげんよう!」
一方のカルヴァニヤは、両手に剣を携えてはいるが、まるで旧知の友に会ったかのような表情だ。
「孤児院の皆は元気?」
「ええ、おかげさまで。――ところで、カルちゃんポイントを先日頂きましたが、景品と退き替えられそうかな? ボディソープがあれば其れが良いんですけど」
「あら、うーん。ポイントが溜まったら、一つしか景品を上げられないのよ」
困ったわね、とカルヴァニヤは指を口元に当てて言う。
「じゃあその一つとは?」
「単純明快! “斬り殺す”よ!」
「……」
其の純粋さは無垢なる狂気だ。
溜息を吐いてココロは頭を振った。『この手を貴女に』タイム(p3p007854)が其の肩を叩く。
「ココロさん、あんな女の言う事を真に受ける必要はないわ」
「ええ……判ってはいるんですが」
「まーまー。こう見えてタイムも結構頭に来てんのよ」
ココロの反対側の肩を叩き、『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)が言う。
「……だって、コルネリアさん。あの女、子どもたちをこんな場所まで連れて来て戦わせて、楽しそうに笑ってるのよ!」
「アタシ達が此処まで追ってきたからこそ、此奴はテメェで戦う事にした訳よ。確実に追い詰めてる。勝機はこっちにあるわよ」
「……そうね」
タイムは頷いて、『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)へと視線をやる。
今回の役割は二つ。カルヴァニヤの抑え役と、子どもたちの救出役。アーリアと『簪の君』すずな(p3p005307)達は子どもたちを救出する役割を追っている。
――どうか、お願い。
そんな願いを込めたタイムの眼差しに、アーリアとすずなは頷いた。
「――子ども好きなんだか、骨の髄まで利用してるんだかわかんねえな。追ってる感覚からすると、どうも後者なんだが」
「あらひどい。あたしは子どもたちが大好きよ? だからこうして、守るためにあたしが前にいるんじゃない。あなた達が大人しく神の国を受け入れてくれれば、子どもたちも戦わなくてすむのよ?」
「――屁理屈を!」
タイムが叫ぶ。
カルヴァニヤは其れをみてにこ、と笑い……とん、と一歩ステップを踏むと。
タイムの眼前で、剣を振り上げていた。
「屁理屈だなんて酷いわね、……まったく、本当に! イレギュラーズって、酷い人たちだわ!」
笑っていた。
カルヴァニヤは目を閉じて、其の瞼に“聖印”を宿し――笑っていた。
「本当に……めんどくさい人だね」
『冬結』寒櫻院・史之(p3p002233)が構えた。
雷鳴が轟く。
●
子どもたちが影の巨人を招来する。
其のタイミングに合わせて『蒼穹の魔女』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)は一気に踏み込み、子どもたちへと接敵した。
「《テロペア》!」
赤い花が咲く。其れは魔力の塊だ。生成して炸裂した其れは、争いを誘う魔力を拡散する。
子どもたちの喉に、体に、魔力が入り込んで――こちらに敵はいるぞ、と教え込むように。
「正直、カルヴァニヤへと向かいたいところではありますが――! 此方も放ってはおけません!」
すずなが刀に手を掛けて、すう、ふう、と深呼吸をする。
そうして刀を抜き――アレクシアの隣に並んだかと思うと、一気に剣閃をお見舞いする。
長距離を捉える影の巨人たちの火器は、すずなを捉える事は叶わない。数多の剣閃が迸り、影の艦隊に傷をつけていく。
「二人とも! 片付けたら加勢するわぁ、其れまで頼んだわよ!」
アーリアがそう言った瞬間、雷鳴がどおん、と降り注いだ。びりり、と痺れるような痛みがイレギュラーズと子どもたち、更にはカルヴァニヤさえも襲う。アーリアは一度目をぎゅっと瞑って――そうして開くと、影の艦隊をきっ、と睨み付けた。
「こっちの雷は――貴方達だけに降り注ぐ、ずぅーっと痛いスペシャル版よぉ!」
琥珀色の――まるでブランデーのような色をした雷が子どもたちと影の艦隊に降り注ぐ。
「う」
子どもたちは悲鳴一つあげず、影の艦隊の中には影の火器を取り落とすものもいた。
だがまだ終わらない。子どもたちは無機質に、殴れ、と命令を下す。
至近に入られたなら、火器で殴れば良い。成る程、とても単純な道理である。
だが其の一撃はアレクシアに阻まれる。怒りを買っている彼女を影の艦隊は執拗につけねらい、アレクシアは他のメンバーにダメージが及ばないよう其れを受ける!
「……この程度ッ……!! あなた達を解放するためなら!」
ぱちり、とアレクシアは瞬きをした。解析の眼差しが子どもたちの手の甲へと注がれる。
――真っ黒だった。
何か真っ黒な淀みのようなものが手の甲の布切れに澱んでいて、触手を伸ばして子どもたちを包んでいた。其の頭から足の先まで、絡め取るかのように――
「――……あの手の甲の布が、子どもたちを操ってる!」
「やっぱりか」
カイトが舌打ちをする。考えられる手ではあったが――カイトは不殺の術を持っていない。
ならば。
「こっちか……!」
カイトが招くのは、逆しまに降り注ぐ黒い雨。影の艦隊を雨が呑み込んで、降り止んで後、影の艦隊は明らかに数を減らしていた。
だが既にタイムとコルネリアが相手をしているカルヴァニヤには届かない。此処ばかりは仕方がないか、とカイトは再び術を練る。
「あの布をどうにかすれば良いんだよね」
史之が駆ける。影の艦隊の間隙を抜けて、子どもたちまで。そうして振るう刃は、乱れに乱れ、しかし狙いを外さない。子どもたちを斬撃が襲う。
――ころされる。
子どもたちはそう思った。だから、静かに目を閉じた。
……。
死の安らぎはやって来ない。子どもたちが不思議そうに眼を開くと、傷だらけにはなっていたが、命は奪われていなかった。
「こんなところで、まちがった正義に動かされて死んじゃいけないよ」
史之が静かに言う。
「ねえ、君たち。どうしてあんな女について回る訳? 何かに復讐したいの? 何も信じられないの?」
「……信じられないよ」
子どもの一人が、初めて声を上げた。
其の子の手の甲で、布が剥がれかけているのを、アーリアとすずなはしかと見た。
「何が正義なの? お兄さんには判る? 私たち、ただ生きていたい。それだけなのに!」
「カルちゃんお姉さんは言ったよ。僕らが此処で頑張れば、安らかな神の国にいけるって。其処には不正義なんてなくて、ただただ安らぎだけがあるって。其れを信じちゃいけないの? 僕らは何を信じれば良いの?」
「――何が幸せかって、難しいよね」
ココロが癒しを紡ぐ。傷を負ったアレクシアを癒し、残りはアレクシア自身に癒して貰う。
「――私の幸せが、誰にとってもそうとは限らない。でも、幸せって分け合って皆で持ち続けられるの。神の国には安らぎはあるかもしれない。でも、幸せがあるとは限らない。……誰もが幸せを得られるように行動できる、そんな世の中なら……楽しいでしょ?」
●
カルヴァニヤの一撃は、タイムの肩を大きく斬り裂いていた。
「ッ……!!」
「そうだ! あなたには確か、ポイントを沢山あげていたわよね! じゃあそろそろ、斬り殺しても良い頃合いかしら?」
「ほんとにマジキチねぇコイツ!」
コルネリアが前に出る。
攻防併せ持つ剣戟をお見舞いすれば、カルヴァニヤはもう片手の剣で其れを弾き、くるりと空中で後転して着地した。
「なあ、カルヴァニヤ」
「なあに?」
「テメェの正義ってのはなんだ」
カルヴァニヤは閉ざした瞳で不思議そうに首を傾げる。
何故今更そんな事を訊くのだろう? と言いたげに。
「なんで今更そんな事を訊くの? あたしの正義は預言書を遂行して、子どもたちを護る事よ?」
「違うな。“こんな世界で可哀想だから、意志のない死人を人形にする”、“話を聞かねぇから仕方なく手を汚す”、慈悲だなんだ言葉遊びをする割にゃ、随分と長いこと実になってねぇ。同調される事もねぇ。ただ繰り返すだけ――アタシ達の邪魔とか関係なく、テメェらは最初から『受け入れられてねぇ』んだよ。人間からも、国からも! 神様からもな!」
「そりゃあそうよ。この国が、あなた達が掲げる神様は間違っているもの」
タイムが距離を詰める。
怒りを籠めた一撃を、カルヴァニヤは剣をクロスさせて弾き、其のまま剣を一度後ろへ引くと、交差させるように突きの形でタイムに突きだした。
タイムが下がる。コルネリアが前に出る。
「本当のお前は、『正義を遂行する者』なんかじゃねぇ。ただ駄々こねて玩具を振り回して喜んでるガキさ。――なぁ! そろそろ見せろよ、テメェの腹の底を!」
雷鳴が轟く。
ばりばり、と一同を無差別に叩き付けるような雷の後――……カルヴァニヤは立っていた。
「あたしの、腹の底」
「……そうさ」
「そんなものないわ。あたしはいつだって、貴方達に全力で接して来たじゃない。そりゃあ武器を出したのは途中だったし、悪かったと思ってるわ? 本気じゃなかったと思われても仕方ないものね。でも、其れで怒る事はないと思うの」
……コルネリアとタイムは目を見合わせた。
この女は、何を言っているのだ?
「あたし、一応剣が武器だけど……拳で戦う事だってあるし。子どもたちが可哀想だって思うのはいけないこと? 未来ある子どもたちを助けて、神の国で愉しく暮らしたいのは悪い事かしら」
「……本当に、歪んでるのね……あなたって」
「そうかしら。判らないわ」
カルヴァニヤは困惑しているのだろう。心の底から困惑しているのだろう、困ったような顔をしていた。
本当に、『コルネリアが何を言っているのか到底理解出来ない』という雰囲気だった。
其れは人間として何かが欠けている証左だ。大事な何か、情緒が一つ二つほど、欠けてしまっている。
タイムはぞわりとした。其の在り方はまるで――感情の飽和で反転してしまった『魔種そのもの』の在り方だったからだ。
二人は理解した。会話して判り合える相手ではない。相手は言葉を解するけれども、此方の本意を解する事は決してない。
言葉を解する化け物。
其れが、カルヴァニヤという怪物だった。
「まあ、でも……受け入れられてないのは当然でしょうね」
カルヴァニヤが一歩前に出る。
コルネリアが一撃を見舞う。カルヴァニヤは其れを剣でいなし、流してみせる。
そうして、にっこりと笑った。
「だって、あなた達の神は間違っているのだもの! 預言書にない事なんて、全部間違っているのだもの。ツロ様も、ルルだってそう言っていたもの、ええ、間違いありません! 間違っているって認めるのがあなた達は怖いのよね? 今まで信じてきたものが揺らいでしまうのが怖いのよね?」
「……この、イカレ女……!!」
「大丈夫よ! あなた達にもチャンスはあるかもしれないわ。あたしは一人で踊るのが好きだから、ダンスパートナーは募集していないのだけど……誰かがきっと、あなた達にも神の国に至る資格があると認めて下さるかも知れないわ! そうしたら其れはきっと」
「コルネリアちゃぁん! タイムちゃん!」
響き渡るのは、魔女の声。
淡い緑色の衝撃波が、カルヴァニヤの横っ腹を叩き、長身の女はたたらを踏む。
「あら?」
「アーリア! そっちは終わったの?」
「なんとかねぇ。アレクシアちゃんが解析してくれた情報のお陰で手早く済んだわ!」
ココロが再び癒しを紡ぐ。
其れはコルネリアとタイムだけではない。子どもたちの面倒を見るために残ったアレクシア以外の全員を含んで、彼らの傷を癒したのだ。
「……あら。子どもたちには、あの“聖書”はまだ早かったのかしら」
「さっきの話の続きだけど」
史之が前に出る。
何かしら、と脇腹を擦りながらカルヴァニヤは首を傾げた。
「俺達の頑張りをなかったことにしようっていう、其の根性が俺は気に入らない。正しい歴史とやらがあるなら、どうして其の通りにならなかったんだろうね」
「いい質問ね! 其れは――」
「それこそ」
おまえらの神とやらが、有限であることの証じゃないか?
史之はいう。
……再び不思議そうな顔を、カルヴァニヤはした。首を傾げて、ううんと唸る。其の隙を狙わない道理はない。
すずなが駆け出す。カイトが術を編む。
「あたし達の神は、……どうなのかしらね」
すずなが振り下ろした刀を、カルヴァニヤは剣の柄で受けていた。
……渾身の力で振り下ろした筈だった。なのにカルヴァニヤは、相変わらず暢気に思案を続けている。
「有限ではないと、思うのだけど――」
くるり。
カルヴァニヤが掌を回して、すずなが剣を持つ手を掴む。
ぐうん、と力を込めて彼女を“振り回し”――術を編むカイトへと投げ飛ばした。
「……カイトさん!」
「うお……!」
カイトの体躯をもってすれば、すずなを受け止めるのは訳もない事だ。
だが、其の一撃を見た瞬間、一堂に隙が生まれた。
「まあいいわ!」
――不朽たる恩寵よ
――朽ちぬ我らが神の御手よ
「あなたはあなたの正義を貫けばいい。あたしはそう思います! だって其れって、すごく素敵じゃない。『例え間違っていたとしても』、真っ直ぐに挑む姿は凄く素敵よ? だけど……」
――あたし達の神は“いる”って事は、教えておこうかしらね。
カルヴァニヤが二本の剣を束ねて持つと、雷が一気に迸った。
雷でもない、焔でもない、ただ荒々しい気を纏った其の“剣”は……カルヴァニヤがぶんと重々しく剣を振るうと、周囲の木々をあっという間に薙ぎ倒し、大気を切り裂いて暴風を生み、そうして、
――イレギュラーズたちを、一閃の元に呑み込んだ。
●
「……」
アレクシアは、一部始終を見ていた。
子どもたちは手の甲に縫い付けられていた布を剥がすと正気に戻り、影の艦隊を呼び出す事も出来なくなっていた。
カルヴァニヤへ対応する仲間の元に向かう際、自分がこの子たちを引き受ける、と彼らと少し離れた場所から戦いを見守っていたのだが――
「……何、あれ」
余りにも暴力的な一撃だった。
余りにも強大な一撃だった。
全ての理を吹き飛ばし切り裂いて、そうしてあっという間に小さな奇跡ごとイレギュラーズを薙ぎ倒した、カルヴァニヤの一撃。
「……」
だから、カルヴァニヤが此方を向いた際、アレクシアは身を固くした。
……怯えるな。自分に言い聞かせる。己が盾になってでも、子どもたちを逃がさなければ……!!
「……今日はこれでおしまい!」
「――え?」
「其の子たちは返すわ。今日はあたしも色々考えさせられたし、其のお礼。其の子たちを“神の国”へ連れていけないのは残念だけど、其れも選択だから。あたし達の神は、選択する自由を許容します」
カルヴァニヤは踵を返した。
其れを止められるものはいなかった。タイムは、コルネリアは、そして治癒役のココロでさえも倒れ、……そしてアレクシアには、止める理由がなかった。
女は、遂行者は腰に剣を佩くと其のまま去っていく。
まるで何事もなかったかのように。
嵐が何食わぬ顔で暴虐と破壊をもたらし、去っていくように。
――空は、空恐ろしい程に晴れ渡っていた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。
子どもたちを取り戻したので、成功といえるでしょう。
ただ、遂行者への勝機は――
ご参加ありがとうございました!
GMコメント
こんにちは、奇古譚です。
カルヴァニヤがついに剣を抜きました。
●目標
“遂行者”カルヴァニヤを撃退せよ
●立地
皆さん御存知、聖都フォン・ルーベルグ近郊です。
雷の混乱に乗じてカルヴァニヤ一派は堂々と真正面から乗り込んでこようとしています。
また、この雷は毎ターン始めに降り注ぎ、『場にいる全員』に僅かな神秘ダメージを与えます。(解除できない特殊なスリップダメージと考えて下さい)
●エネミー
“遂行者”カルヴァニヤx1
子どもたちx5
『影の艦隊』x10~
カルヴァニヤは何らかの加護を受けており、『機動力に関わらず必ず一番最初に行動します』。
(子どもたち、影の艦隊は見た目通り機動力は低めです)
カルヴァニヤは両手に持った十字剣での斬撃や怪力での格闘など、至近~近距離攻撃を得意とします。
子どもたちが“既に死したものなのか”は不明です。が、何かの加護を受けており、遠距離攻撃が可能な近代的装備を備えた人型の『影の艦隊』を使役しています。一様に、手の甲に何かを縫い付けているようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●
此処まで読んで下さりありがとうございました。
アドリブが多くなる傾向にあります。
NGの方は明記して頂ければ、プレイング通りに描写致します。
では、いってらっしゃい。
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