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シナリオ詳細

<アンゲリオンの跫音>失ったものはなんですか?

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●アッバースを名乗る者
「我等は星灯聖典。あなたは、失ったものを取り戻したくはありませんか?」
 やさしく、謳うように、彼女は言う。
 ハートを逆向きにしたような錫杖を握り、蠱惑的な笑みをもって。
 天義の騎士たちが立ち向かう一方で、彼女らの船がざばりと岸へつく。
 波を体現したかのような巨体をもつワールドイーターを引き連れ、逆ハート型の魔術翼を背負って飛行するその姿に、マスケティアたちが銃を構えた。
 一斉砲撃。
 それは、空中に出現した逆ハート型の魔術障壁によって完全に防がれる。
「なッ――」
 個人が所有するにはあまりに高すぎる戦闘力に騎士の一人が声を上げる。
「ヤツは心臓教会のクロームだ。しかしこんな強いとは聞いてないぞ」
「いいえ、いええ――」
 謳うように、彼女は嗤う。
 古き名を。捨てた名を。
 そう、彼女はもう一度名乗るのだ。
「私の名は――『アッバース』。洗礼名、アッバース」

●煙る自分と紫煙の香り
「なあ、お前……俺に『星灯聖典』の『アッバース』について調べるように依頼したろう?」
 けだるげにそう話し出したのは、煙のような長い髪を流した精霊種、スモーキー。紙巻き煙草を口にくわえたまま、ため息のように紫煙を吐き出す。その指には黒いハーフグローブがはめられていた。
「ああ、何か分かったのか?」
 テーブルを挟み対面に座って居るのは冬越 弾正(p3p007105)とアーマデル・アル・アマル(p3p008599)。
 これで三度目ともなる彼らの付き合いも、こうなってみるとなじみ深くすら見える。
 スモーキーは煙草を灰皿にそっと置いてから、『整理してから話そうか』と数枚の資料をテーブルに置いた。

「天義のトップ、つまりはシェアキム六世にいきなり神託が降りやがった。
 要約すれば、今の世界は間違いだっつー天啓だな。天義はベアトリーチェにぶっ壊されたし、深緑は茨に覆われたろうし、豊穣は助けも得られず滅んだろうとな。
 同時に、これを神託であるとして活動する『遂行者』なる連中が現れ始めた。
 そいつはつまり、『お前らイレギュラーズが現れなかった歴史』こそが正しいと主張する連中がいたっつーことだ。
 そのひとりがクロームさんと心臓教会。お前らが以前戦った人たちさ。覚えてるよな?」
 一枚目の資料をスッと前に出し、スモーキーはアーマデルと弾正の顔をそれぞれ見た。
「ああ、許せるものじゃない。俺たちの払ってきた犠牲と、救ってきた命。その全てを否定するようなことはな」
 弾正の言葉に、アーマデルもこくりと頷く。
「その後世界中で頻発しだした『神の国』問題も、それに絡んでるんだろう?」
「勿論」
 神の国とは、ルスト派が触媒を用いて作り出す異空間だ。やがてそれは帳をおろし、彼らの主張するあるべき世界の有り様へと現実を上書きしてしまうという凶悪な権能でもある。
「その殆どはお前らイレギュラーズによって破壊された。けど、連中にとってはそれも計画の内だったのさ」
「なんだと?」
 二枚目の資料が差し出される。
 スモーキーは煙草を再びくわえると、忌々しげに煙を吸った。
「いいか? 神の国は連中にとって場の書き換えってだけの権能じゃあなかった。
 アレにはもうひとつ意味があったんだ。
 その意味とは――『場所の記憶』を集めること。世界中のデータを収集することにあったんだ」
「クロームが……遂行者たちが協力していたのはそれだった、と?」
 理解の色を示したアーマデル。
 そして、アーマデルと弾正の視線は三枚目の資料に移った。
「そして、またシェアキム六世に新たな神託が降りた」
 ――第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
 ――第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
 ――第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
「この神託に沿う形で、天義のあちこちで事件が起きていやがる。
 ある場所じゃあ雷が土地を襲い、ある場所じゃあ刻印のないやつを襲撃する連中が現れ、そしてある場所じゃあ……」
「波となって大地を呑み込む。つまり海岸部からの攻撃か――」
 弾正が呟くと、スモーキーは『そう』と指を指すのだった。

「ここまでが、俺たちにとっての『おさらい』だ。本題はこっからだぜ?」
 スモーキーが資料を全てまとめ端に追いやると、一枚の写真をテーブルに置く。
「『アッバース』が何者か判明した。弾正、この女性が……そうだ」
「いや、こいつは……」
 写真を覗き込む。それは心臓教会のクロームという女性だ。
「クロームさんは『星灯聖典』という組織に協力してる。いや、傘下に入ってるって言い方が正しいかもな。新たにアッバースという洗礼名を貰い、ここまで説明したような情報収集活動を続けていた。
 でもって、今回満を侍して天義への襲撃を始めたわけだ。場所は天義東部港湾都市部」
「つまりは……『大きな波となり大地を呑み喰らう』、か」
 ルスト派による天義への攻撃が始まったのだ。
 スモーキーはコイン袋をぽいっと弾正に放り投げると、『依頼だぜ』と囁いた。
「クロームさん――いや、『アッバース』を止める。手伝ってくれ」

GMコメント

●シチュエーション
 ルスト派『星灯聖典』による天義への攻撃が始まりました。
 このシナリオでの舞台は海沿いの街旧アスピーダ・タラサ。
 船によって上陸した星灯聖典は強力なワールドイーターや影の天使たちを引き連れ、現地の防衛戦力を食い破りつつあります。
 この場に急行し、アッバースたちを撃退しましょう。


●戦闘前半
 駆けつけた時点で、星灯聖典のアッバース部隊は飛行によって街へと強襲をしかけています。
 相手は飛行しているため、これを射撃などで撃墜することでこの先の戦いを有利にすることが出来るでしょう。
 狙うならすぐに撃墜可能な影の天使たちがお勧めです。
 もしお望みであれば、この場で空中戦闘を仕掛けることで直接足止めをすることも可能です。
 現地の騎士が立体機動型の飛行戦闘装置を持っているので、貸してもらって近接戦闘を仕掛けることも一応可能です。

●戦闘後半
 残ったネームドたちとの戦いになります。
 どれもそれなりの強敵になるでしょう。

・『アッバース』
 クロームと名乗っていた心臓教会の元シスター。
 以前に戦った時と比べ非常に高い個人戦闘能力を有している。
 不利になったら撤退すると思われるので、ある程度まで追い詰めたら逃がしてしまったほうが吉。(敵は襲撃側なので別部隊と合流されるとこっちが危ないため、深追いは禁物)

・フルクトゥス・マリス(ワールドイーター)
 海から迫る大波のごとき怪物です。
 まるで水でできた巨人の上半身だけが地面を滑るようにして移動します。
 飛行時は卵形の完全防御形態をとるため、地上に降り立つ後半戦に戦うべき敵でしょう。

・ププルス(影の天使)
 木製の人形めいた外見のモンスターたちです。
 翼をはやし飛行する能力を持っており、手にした斧槍や短剣、スローイングナイフなどで戦闘を行います。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アンゲリオンの跫音>失ったものはなんですか?完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月23日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
郷田 貴道(p3p000401)
竜拳
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
冬越 弾正(p3p007105)
終音
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
Le Chasseur.
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)
闇と月光の祝福
紲 冥穣(p3p010472)
紲の魔女

リプレイ


 アスピーダ・タラサの一角。既に避難の済んだエリア。
 屋根の上に立った『紲の魔女』紲 冥穣(p3p010472)は、深く息をついた。
「怖い預言に違わぬ、怖い怪物が攻めてきているのね。
 アスピーダ・タラサ……って今は身寄りのない子供達がいっぱい居るって聞いているわ。
 そんなところを怪物に襲わせるわけにはいかないわよね!」
 彼女の言うとおり、ここはかつてアドラステイアと呼ばれ悪しき支配によって子供たちが凄惨な目にあい続けていた場所である。
 これ以上の責め苦を与えたくないと、事情を知る者なら誰でも思うだろう。
「それにしてもっ」
 『優しき水竜を想う』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が両手を腰に当ててむすっとした顔をした。
「神託っていうのに自分で動くだなんて変な話ね。
 神様とやらがやるっていうなら放っておけばいいのに。
 出来ないのならそれは神託って言わなくて、命令って言うのよ。
 ほんとこの辺り理解できないわねぇ」
「そーだそーだ!」
 『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)がしゅっしゅと拳を突き出してみせる。
「今更真逆な神託なんざ知ったこっちゃねえ!
 ウチらいっから! んな間違った世界とか切り拓くの余裕っしょ!
 最強のウチついてりゃマジ無敵じゃんよ!」
 『きっと、それができるはずだから』。心のの中でそう呟いて、秋奈は目をギラリと光らせる。
 その一方で、『竜拳』郷田 貴道(p3p000401)はどこか怒りに燃えていた。
(他の連中はどうだか知らないが、ミーはお前らイカレどもの思惑なんざどうでも良い
 どいつもこいつも何もするな、何も言うな、黙って大人しくくたばりやがれ)

 はるか遠くから波が上がるかのように魔術による結界が展開され、ププルスの集団が空へと飛翔するのが見える。
 もうじき戦闘可能範囲だ。『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)は銀色の弓に手をかけ、目を細めた。
「いつぞやの再戦、ということですね」
 ププルスたちのなかに、『彼女』の姿を見つける。
 穏やかなシスターの顔をして、しかし纏う気配はまさに遂行者のそれだ。いや、遂行者という立場を使った、何かおぞましいもののようにも見える。
 遂行者、クローム。あらため――『アッバース』。
「あの時とは気配がまるで違う様ですが?」
「スモーキー殿も辛いだろうな。身内を取り戻すばかりか、この様な災いの主犯になる事を自分だけでは止められない等と……」
 『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)は目を細めた。
 優しいあの人に戻ってほしい。スモーキーはそう考えているのだろう。
 しかしクローム……彼女もまた『あの頃』に戻りたがっている。星灯聖典は、そのための手段であると。
「可能な限り被害を最小限に抑える。クローム殿を捕まえたいのは山々だが、被害が出てからでは遅い」
 いいな? そう弾正が言うと『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は頷いた。
「信じた希望が眩しいほど、それが沈んだ後の夜空は昏いもの。
 しかし……気に食わないからと『やり直し』されても困るのだがな」
 両手に蛇銃剣アルファルドと蛇鞭剣ダナブトゥバンをそれぞれ握る。手慣れたその動きは、まるで動物が威嚇の姿勢をとるように自然なものだ。
(気持ちは分からないでもない。取り返しのつかない事を、やり直したいと思った事は、俺にもあるからな)
 一方で、『繋げた優しさ』ジョシュア・セス・セルウィン(p3p009462)もまた弓を手にププルスの群れを見上げる。
「止めたいという気持ちは、僕にも理解出来ます。
 彼女が遂行者になるまでには色々あったのかもしれませんが、
 このような行為が正しさに繋がるとは思えないのです」
 つまりはこれは、正義の戦いなのだと。

●侵略の波
 影の天使『ププルス』。天使の名にふさわしく翼をもったそれは、遠目に見れば木製のデッサン人形に似ていた。が、無論そんな生易しい物体ではない。両手に斧を握り、今まさに市街地へと侵攻を始めていた。
「空をそんなに覆ったらダメよ。優しい太陽の光が隠れちゃうわ」
 それに対抗し空へ飛び上がったのはオデットだった。
 屋根の上にオディールを残し、ププルスめがけて手をかざす。
 眼前を撫でるように、あるいは一閃するように手をかざすことで生まれた無数のフラッシュがそれぞれ力を持ち、拡散した光線となってププルスたちへと浴びせかけられる。
 対抗するププルスたちも短剣を手にオデットへと襲撃。
 胸へとめがけ繰り出されたそれを、オデットは咄嗟の後退によってギリギリで回避した。
 回避しきれずに切り裂かれた胸元から血が溢れ、吹き上がる。
 だがすぐさまに冥穣が治癒の魔法を展開。水や風の精霊たちが集まりオデットの胸の傷を鬱ぎにかかる。
「このあたりの精霊たち……皆怯えているわ。力有る精霊の姿も見当たらない。きっと、襲撃を恐れているのね」
 冥穣は悲しげにそう呟いた。
「この街を守ることは、住民たち……子供たちを守るだけじゃない。精霊たちを守ることにも繋がるはずよ」
「確かにそう……みたいね」
 オデットは光の精霊たちがププルスたちの侵攻に怯えている様子を感じ取って頷いた。
「だったら一緒に追い返しましょ。木漏れ日の妖精から悪い子へ、お仕置きねっ」
 ぐるんと空中に大きな輪を描き、木漏れ日のゲートを生成。間を通った精霊たちが光の散弾となってププルスへと飛びかかり、次々に爆発を引き起こす。
 撃墜されたププルスたちをどうするのかと言えば――。
「おうさおうさ、羽虫どもがブンブンと飛び回ってるじゃねえか。
 ノープロブレム、関係ねえ。飛びたきゃ飛んでろ。
 そんでもって……虫ケラみたいに堕ちちまいな」
 大地を蹴りつけ跳躍――もとい飛翔した貴道の拳がププルスのボディへとヒット。そのまま木製のボディを爆散させ四肢を街に散らばらせる。
 斧を持ったププルスがそんな貴道へおそいかかるが、彼の拳はもはやそんな道具で傷つけられるほど柔らかいものではなくなっていた。
「シッ――」
 アッパーカットのような動きで斧の刃に拳を合わせる貴道。それによって『ガキン』という通常ではありえない音が響き、ププルスの斧ははじかれた上に手からすり抜け、回転しながら飛んでいく。
 慌てたように拳を握るがもう遅い。貴道の拳がププルスの顔面をとらえ、そしてまた爆散させた。
「馬鹿正直に1匹ずつ叩き落とすのは手間ってもんだ――なァ!」
 もう一発の拳が繰り出されるとそれは『砲撃』となり、後続のププルスへと命中。
 オデットの繰り出す散弾とあわせダメージをうけたププルスたちは飛行能力を失いそれぞれ民家の屋根へと着地した。
 そんなところへ、ジョシュアはすかさず弓矢による射撃をしかける。
「例え失ったものがあったとしても、そこにあった全てを否定されたくはありませんね」
 鋭く発射された矢がププルスへと命中。屋根から転げ落ち、地面でバラバラに砕ける。どうやら関節部は魔法か何かで接合していたらしい。こうなってしまえばただの木工細工だ。
「それなら――」
 ジョシュアは弓に複数の矢をセットするためのオプションパーツを接続すると、三本の矢をつがえて発射。
 矢それぞれに魔法の仕掛けが施されたトリックアローが複雑な軌道を描いてカーブし、空中のププルスたちに着弾――そして爆発を引き起こす。
 一部のトリックアローはワイヤーを展開し羽根へと巻き付け、機動力を落としたところをアッシュが跳躍。白銀のブレードを叩きつけることで思い切り破壊した。
「それにしても、数が多い……一気に行きましょう」
 着地と同時に術式を発動。『花には水を、血には報いを(デス・フロム・アバヴ)』と名付けられたそれは、災禍顕現の魔法陣召喚である。
 アッシュの眼前に開いた白銀の魔方陣は無数の光の礫を召喚し、まるで重機関銃のごとく空に向けて掃射した。
 斧や短剣で防御しようとするププルスたちだがそんなもので防げるこうげきではない。ププルスたちは次々に墜落し、街屋根などにぶつかってそのまま転落していく。
「ならば陸路を……と思っているのでしょうけれど」
 アッシュはまるで操り人形でも操作するかのように両手の指をきゅっと動かした。
 街路に設置された魔力糸のトラップが発動し、ププルスたちをからめとっていく。
「いいぞ、その調子だ」
 弾正は墜落し、それでも陸路を行こうとするププルスたちの前に立ちはだかる。
 哭響悪鬼『古天明平蜘蛛』参式――のUSBソケットに専用オプションパーツを接続すると、柄型デバイスから光の刃を展開させた。前に、後ろに、両サイドに。
 それをくるくると回転させると、短剣を構え突っ込んでくるププルスたちへと自らも突進。
 前後に展開する光の刃をぐるぐると回転させながら踊るようにププルスたちを切り裂いて行く。
 それだけではない。ププルスがスローイングナイフを放つと、それを二本の指でキャッチ。更なる連続投擲を踊るようなブレードさばきでたたき落としてみせる。
「……っと、そろそろ弾き落とすのにもつかれてきたな」
 平蜘蛛を操作しミュージックを変更。すると弾正を中心に対物理の無効化防壁が球状に展開され。ププルスたちの一斉攻撃を眼前で無理矢理停止させた。
「さ、まとめてやってくれるか?」
「構わないが……毒が抵抗を抜いてもしらないぞ」
 そう呟いたのはアーマデルだった。
 物陰に実を潜めていたアーマデルは飛び出すと同時に『蛇巫女の後悔』を発動。
 要するに毒術である。蛇鞭剣ダナブトゥバンに仕込まれたボトル状の弾を発射し浴びせかけた毒はププルスたちだけに効果を浴びせ、弾正はそれを見事に回避・無効化してしまう。
 彼らのように付き合いの長いコンビだからこそできるような、ギリギリのコンビネーションプレイであった。
「お前たちの主張は、わからないわけではない。
 だが、わかるからと言って黙って殴られるかと言えば、それは別の話だ。
 あちらにあちらの正義があるように、こちらにも譲れない『今』がある。
 スモーキー殿の為にも、彼女、アッバース……いや、クロームを止めねばな」
 そう呟くアーマデル。その横を、秋奈は思い切り駆け抜けて行った。
 借りてきた立体機動装置を使って民家の屋根へと一気に飛び乗ると、抜いた刀でププルスめがけて斬りかかる。
 相手の防御――はその刀で叩き斬り、反撃に繰り出される斧はもう一本の刀で無理矢理押し止める。
「おうおう! なーにウチらを無視して飛んでやがんでい! フェスるってなら私ちゃんもまぜろー!」
 秋奈お得意の戦法であり、別名秋奈ちゃんゴリ押しアタックである。
「ウチらを倒せないとこの街は落とせないぜ!」
 などと言っていると、空を浮遊していた卵形のワールドイーター『フルクトゥス・マリス』が爆発。まるで人の上半身めいた形になると、秋奈めがけて手のひらを叩きつけてきた。
 これには流石の秋奈も防御しきれずに吹き飛ばされる。
「うおっと!?」
「秋奈!」
 誰かの呼ぶ声がしたが、『大丈夫ー!』と返して秋奈はあえて『アッバース』とは別方向へと走って行く。このままフルクトゥス・マリスを引きつける作戦だ。
「先にそっち相手しといて、暫くかまちょしとくからー!」

●『アッバース』と『クローム』
「我等は星灯聖典。あなたは、失ったものを取り戻したくはありませんか?」
 拡張された声でそう囁くのは、星灯聖典の『アッバース』。
「あるべき世界、と云うのがどういったものなのか。其れはわたしには分かりかねること、です」
 飛行し迫る彼女を、アッシュは光の礫による機関射撃で対抗していた。
「ですが……多くの人の勇気や献身が、大魔種すら祓って今日を生きているのです。
 彼らの想いも、引き継いだものも、無かったことになんて…出来ません」
「それでも、『取り戻したいもの』があるでしょう。誰かの努力を、誰かの犠牲を、誰かの成功をたとえ踏みにじってしまったとしても……もうそれが、二度と戻らないのなら」
「そうは思えません。平行線、ですね」
 呟くアッシュ。そこへハートを逆向きにしたような魔術砲撃が幾たびも浴びせられ、冥穣が治癒の魔法を展開し始めた。
「何が目的かはわからないけれど、こんなことをさせるわけにはいかないわ!」
 彼女が治癒を担当していることを察したのだろう。アッバースは着地し、錫杖を地面にがつんと突き立てると巨大な時計を召喚した。
 針が動く。まるで死へのカウントダウンをするかのように回り始めた針に、冥穣が警戒していると、彼女の周りに大量のハート型の短剣が姿を現した。
 咄嗟に防御――は、間に合わない。体中に短剣が突き刺さり、それによっておこる死をギリギリで回避した冥穣はその場から飛び退き弾正たちと交代する。
「『クローム殿』――!」
 突撃をしかけ、光の剣を叩きつける弾正。
 それをアッバースは錫杖で受け止めた。
「クローム殿。君が思う『あるべき世界』は、積みあがった屍の上で成り立つ地獄の様な世界なのか?
 昔、君が心を救った精霊種が、君の今の活動を知って心を痛めている。それを君は何とも思わないのか?」
「大丈夫、大丈夫です。それすらもすべて、元通りになるのですから。これはただの、無意味な痛みに過ぎません」
 弾正の脳裏に、スモーキーが浮かべたくしゃりとした顔が思い浮かぶ。
 直後、アーマデルの放つ蛇腹剣が牽制としてアッバースへと遅いかかった。
「貴様を認める訳にはいかない。星灯聖典の教えは魅力的だが、今の俺にはアーマデルと共に歩む未来がある!」
 アーマデルと共に並び立つ弾正。
「あえて『クローム殿』と呼ぼう。あなたには、何か取り戻したいものがあるのだろう。
 スモーキー殿もそうだった。昔のあなたを、優しかったあなたを取り戻そうとしている。星灯聖典でなければだめなのか。死者や失った財産すら戻るなどという話を、本気で信じているのか」
 その問いかけに、アッバースは微笑んだ。蠱惑的に、しかしどこか、縋るように。
「ええ、ええ――きっと、戻ってくる。あの頃の……皆が」

 瞬間、オデットの放つプリズムの光が周囲のププルスたちを破壊する。
「それ以上は行かせないわ! 怪我をしたくなかったら退散することね!」
 びしっと指を突きつけるオデット。
 対するアッバースは目を細め、空中へと浮遊した。
 残り僅かなププルスを盾にするように展開し、後退を始める。
「ええ、ええ――確かにそのようですね。けれど、ただで終わりにはしませんよ」
 直後、フルクトゥス・マリスによる払いのけによって秋奈が派手に吹き飛ばされて地面を転がってきた。
 撤退を始めるアッバース。ならばと秋奈はびしょぬれの身体で立ち上がる。
「制服びしょびしょじゃん。水着きてくりゃ良かったぜぃ」
 これまでフルクトゥス・マリスやププルスたちの攻撃を一身に受けて時間稼ぎをしてくれた秋奈だが、秋奈をもってしても無傷とはいかない敵であったらしい。
「けどダメダメだなー、トガりがたりねぇ!」
 それでも秋奈を倒せないというのが、秋奈の生命力の強さを物語っている。
「結局なんなんだ、テメェら? さっさと消えちまえよ、面倒くせえなっ」
 貴道がフルクトゥス・マリスの後方へと回り込み、その巨大な上半身めいたボディへ拳を叩き込む。
 砲撃のような衝撃が走り、ボコッとえぐれるフルクトゥス・マリスの身体。
 そこへジョシュアが毒を塗った矢を放った。
「これで終わりです」
 矢がフルクトゥス・マリスへと吸い込まれるように差し込まれ、フルクトゥス・マリスはどろどろと溶けるように消えていく。
 戦いの終わりを察し、ジョシュアはふうと息をついた。
「遂行者『アッバース』……そうまでして、叶えたい願いがあるのですね」
 ワールドイーターと遂行者たちの侵攻は防げた。
 だが、天義を襲う脅威は去ったわけではない。
 これからだ。
 そう、これからなのだ……。

成否

成功

MVP

茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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