PandoraPartyProject

シナリオ詳細

傷を喰む。或いは、善悪の袋小路…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●傷喰み
 触れた相手の傷痍を修復し、自身が同じだけの傷痍を受ける。
 そして、この能力で受けた傷痍は完治することがない。
 アルヴァ=ラドスラフ (p3p007360)の保有するギフトがそれだ。
 
 その性質状“傷喰み”の使用回数には限度がある。
 ギフトによりアルヴァの身体に蓄積した傷は完治しない。そして、完治しない傷が増え続ければどうなるか。簡単な話だ。新たな傷を負えなくなるのだ。
 今のアルヴァがそれである。
 傷痍の総量が許容を超えて、ある日、突然、アルヴァは“傷喰み”を行使できなくなった。
 奇しくも、とある村で住人たちの治療にあたっている最中のことである。
 その村は、つい先ほどまで盗賊たちに襲われていた。
 アルヴァが駆け付けた頃には、既に数名の死人が出ていた。住人たちは、これまでにも何度かアルヴァに助けられたことがあった。
 ある時は盗賊たちを追い払ってもらい、ある時には流行り病を癒す薬を融通してもらった。また、ある時は土砂災害で大怪我をした住人を“傷喰み”により治してもらった。
 求められるまま、アルヴァは銃を存分に振るった。
 自身も多少の傷を負いながら、どうにか10名ほどの盗賊を撃退してみせた。
 手傷は負わせた。10人のうち、3~4人はそう遠くないうちに息絶えるだろう。
 だが、勝利ではない。
 アルヴァが盗賊を追い払うまでの間に、新たに10数人の住人が傷を負わされた。
 1人、2人と“傷喰み”で治療を試みた。
 1人目の傷は腹部にあった。アルヴァの腹部が裂け、血が滲む。
 2人目の傷は後頭部に。アルヴァの青い髪が、血に濡れて赤色に染まる。
 3人目の傷は胸部に。
 アルヴァの胸部は、傷つかなかった。
 何度“傷喰み”を行使しても、その幼子の傷は癒えない。アルヴァの腹部に傷は移らない。
 痛みに涙を流しながら、幼子は息を引き取った。
 冷たくなった幼子の前で、アルヴァは地面に膝を突いたまま俯いた。
「もう……癒せない。すまない」
 やっとのことで、アルヴァはその言葉を絞り出す。
「なんでぇ、使えねぇ。もう使い物にならないのかい」
 誰かが、そんな言葉を吐いた。
 傷ついた者たちが、助からないと知り口々に泣き喚く、怨嗟の声を上げる。
 無事だった住人たちが、怒りの矛先をアルヴァへ向ける。
 怒鳴り付けて、口汚く罵った。
 誰かが石を投げつけた。
 額が割れて、血が流れる。
「なんだいなんだい! まだ傷はつくじゃねぇかい! 血は流れるじゃねぇかい!」
「自分の身可愛さに、幼い子供を見殺しにしたか! 人でなし!」
 投げつけられる汚い言葉に、アルヴァは何も言い返さない。
 石と罵倒に追われるように、アルヴァは村を後にした。

●戦火が迫る
 数日後のことだ。
 アルヴァは再び、件の村の近くへとやって来ていた。
 仕事の帰りに、村から空へ立ち昇る黒煙を見たからだ。
「……何だこりゃ」
 ポツリ、と言葉を吐き出した。
 見慣れた村が、炎と煙に包まれている。
 
 村の周囲を囲むのは、20名ほどの盗賊たちだ。
 先日、アルヴァが追い払った盗賊の仲間に違いないだろう。
「燃やせ、燃やせ! 俺の手下をやったって言うガキがいたら連れて来い! それ以外は女も子供も年寄りも関係なく燃やせ! 1匹たりとも逃がすなよ!」
 ひと際、身体の大きな男が斧を振り上げ怒声をあげる。
 錆びだらけの大きな斧だ。
 戦斧と呼ばれる武器である。どこかの騎士か何かから奪った物に違いあるまい。
 戦斧をはじめ盗賊の武器は質が悪い。
 だが見たところ【廃滅】と【呪い】が付いている。
「あいつ……知ってるぞ。指名手配されていたクマノミとかって盗賊だ」
 丘の上から、村の様子を窺ってアルヴァはそう呟いた。

 村全体がすっかり炎に包まれている。
 煙を吸えば【窒息】は確実。炎に触れれば【業炎】を負うか。
 このままでは、村の住人たちもそう長くは持たないだろう。だが、逃げたくても逃げられないのだ。村の周囲を盗賊に囲まれているせいで、誰も村から出られない。
 村人50人に対して、盗賊の数は20人。
 数で勝っているのだから、どうにかなる……と、必ずしもそうとは限らない。
 1分1秒が惜しい。
 こうしている間も、村人たちは弱っていく。死へと近づいていく。
 だが、アルヴァは動けなかった。
 アルヴァの耳に、村人の怒声が届いたからだ。
「アルヴァはどこだ! アイツが盗賊を呼んだに違いねぇ!」
「盗賊の側に付いたのかも! 追い出した腹いせよ、きっと!」
「あいつに責任を取らせろ! くそ、追い出すぐらいならいっそ殺しちまえばよかったんだ!」
 数歩、前へと足を踏みだしアルヴァは止まった。
 渇いた笑い声が口から零れる。
 ”もう使い物にならない”からと、アルヴァに石を投げつけた。アルヴァを村から追い払った。
 その挙句、今度は“アルヴァが村にいないから”と、怒っているのだ。
 人間とは、このように醜い生き物だったか?
 是だ。
 断定できるが、人間とは醜い生き物だ。
 誰も彼もが自己中心的。そこに“善人”の皮を被って、善い人のように振る舞っているだけ。
 一皮むけば、その本性はドス黒い。
 悪いことは他人のせい。良いことは自分の成果。
 それが人間だ。
 村人も、そしてアルヴァも。
 その証拠に、こうして立ち止まってしまった。
 村人たちを助けるべきか、見殺しにすべきか……迷ってしまった。
「まだ、近くに皆いるはずだよな」
 一緒に仕事に向かった仲間が、そう遠くない場所にいる。
 彼らに助けを求めれば、20人の盗賊程度は片付けられるかもしれない。
 村人たちも助けられるかもしれない。
「どうするべきだ……どうするのが“正しい”んだ?」
 そもそも自分は“正しい者”でありたいのだったか。
 自問自答に答えは出ない。

GMコメント

●ミッション
盗賊or村人のいずれかを完全に抹消すること

●ターゲット
・盗賊団×20
村の近隣に住む盗賊団。
クマノミという戦斧使いに率いられている。
練度は低いが好戦的。盗賊生活が長いのだろう。そこに善性は期待できない。
錆びた武器には【廃滅】【呪い】が付与されている。

・村人たち×50
村の住人たち。
先日も盗賊に襲われたが、その際はアルヴァによって助けられている。
ギフトを行使できなくなったアルヴァに石を投げつけ、追い出した。
今は盗賊たちの仕返しにあって、村を焼かれている最中。
村人たちは、アルヴァさんをはじめ参加者たちを“盗賊の一味”や“村が焼かれるに至った元凶”と認識しています。

●フィールド
幻想。
とある山中の寒村。
付近に森があるが、すっかり痩せており実りは少ない。
枯れ木も多く、火事が広がれば山全体が炎に飲まれることだろう。
森から少し離れた位置にある小さな村が今回の舞台。
住人50人ほどの寒村で、現在は炎に包まれている。
村を囲むように20人の盗賊が立っている。村から誰も逃がさないつもりだ。
煙を吸い込めば【窒息】、炎に触れれば【業炎】が付与される。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。
 

  • 傷を喰む。或いは、善悪の袋小路…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年08月10日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
※参加確定済み※
クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)
血風妃
ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)
航空猟兵
刻見 雲雀(p3p010272)
最果てに至る邪眼
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ

●燃える集落
 悲鳴が聞こえる。
 小さな村が燃えている。
 大人も子供も老人も、女も男も、病人も、怪我人も、農夫も大工も、そして家も人も畑も区別することなく、炎は全てを舐めあげ、飲み込む。
 業火が踊る。
 踊って、踊って、踊り来るって、何もかもかもを焼き尽くす。
 悲鳴も、嗚咽も、慟哭も、炎はすべてを焼き尽くす。
 この世にもしも真に“平等”と呼べるものが存在するというのなら、灼熱の業火がそれだろう。

 燃える村を、少し離れた林の中からじぃと見ている者たちがいた。
「村人が全滅するのを座して待つ、っつーのが一番楽なんだが」
 村が燃えているのには理由がある。
 村の周囲を囲む大勢の男たち。村の近くを根城にしている盗賊たちが、火を放ったことが炎上の原因だ。
『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)は煙管を唇に挟むと、ふぅと紫煙を燻らせた。その視線は『航空指揮』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)を向いている。
「……本当ならこんな連中助けるどころか見捨てても良いと思うけど」
「雲雀に同意だな。今なら、まだ引き返せるぜ?」
『最果てに至る邪眼』刻見 雲雀(p3p010272)と『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)がことほぎの視線を追った。
 アルヴァはまっすぐ、燃える村を見つめている。
 かつてはアルヴァがその身を犠牲にしてまで救い、そして先日、アルヴァを「役立たず」と罵り、石を投げつけた村だ。
「ああ、知っていたさ。人はとても汚く、醜い生き物だ」
 アルヴァは呟くように言う。
 村人たちも、盗賊たちも、アルヴァ自身も、弱くて汚い人である。
「でも、助けるさ。可能な限り」
「そうか。俺はそういうの嫌いじゃないよ。正しくはないのかもしれないけど、”人として間違ってはいない"と思う」
 静かに、けれど確かに雲雀は笑みを浮かべた。
「エゴだな」
『死神の足音』ブランシュ=エルフレーム=リアルト(p3p010222)が溜め息を零す。
「いいんだ。きっとそれが、俺の生きる道だと思うから」
 アルヴァはそう言って、担いでいたライフルを降ろした。これ以上、悠長に会話している時間はない。
「それは誰もが”生きるために必要な物”であり、”非効率な感情”だ。何が正しいのか。何が悪いのか。己の決断が全てだろう」
 人は感情で動く生き物だ。ブランシュはそれを知っている。
 冷静で、効率的な判断を望むのなら、指揮官はアルヴァに任せていない。練達辺りの機械にでも判断させれば、さぞ“人情味”のない、効率的でつまらない命令が下されるだろう。
「まー依頼人のご要望とあっちゃ動くしかねーか。これも仕事だしなァ」
 燻る紫煙を目で追って、ことほぎは炎の方へと歩き始めた。

 燃える村から、村人たちは逃げ出せない。
 周囲を囲む盗賊たちがいるからだ。これ見よがしに錆びた剣を掲げてみせて、逃げ出そうとする村人たちを威嚇している。
「せめて子供だけでも!」
「アルヴァがお前らをここに呼んだんだろ? なぁ!?」
「アルヴァを出せ! あいつのせいで、俺たちはこんな目に合ってんだろう!?」
 口々に村人たちが叫んでいる。
 だが、盗賊は取り合わない。炎に怯える幼子を、冷めた瞳で眺めている。
「話の通じねぇ連中だな。いいか? 最初から言っているが“アルヴァを出せ。アルヴァを出せないのなら、お前らは皆殺し”だ。アルヴァがいねぇ? なら、それは罪だ」
 淡々と、戦斧を担いだ大男が告げた。
 名をクマノミ。盗賊たちの頭目だ。
 少し離れた林の中から村人と盗賊の会話を聞きながら、『血風妃』クシュリオーネ・メーベルナッハ(p3p008256)はため息を零す。
「絵に描いたような“悪しき弱者”。いっそ滑稽ですらあります」
 放っておいてもいいではないか。
 むしろ、始末した方が世のためじゃないか?
 そんな想いも脳を過った。
「大変気分良く殺せそうな人達ですが、依頼主の意向とあらば、命はお助けしましょう」
 命は助ける。
 だが、助けるのは“命“だけだ。
 自業自得の成れの果てに、クシュリオーネは何の興味も関心も無い。

●燃える村を背に
 作戦はこうだ。
 アルヴァと牡丹が盗賊たちを誘き出し、残るメンバーでそれを片っ端から始末する。
 単純だ。
 それゆえに、素早く事が運ぶ。
「お前らが探してるアルヴァっつうのは俺のことか?」
 白いコートを熱波に靡かせ、牡丹が声を張り上げた。赤い髪を頭頂部で纏めて、アルヴァのそれに似た空色のウィッグを被っている。
 変装だ。
 アルヴァを知る者が見れば、あくまで“変装”だと分かるだろう。だが、盗賊たちのほとんどはアルヴァの顔を知らない。
 背丈や外見上の特徴だけを頼りにアルヴァを探しているのなら、きっと“釣れる”。
 盗賊たちの一部が、牡丹に気付いた。
「お前がアルヴァか。いや、別にアルヴァじゃなくったっていいんだが。皆殺しって命令だからな」
 まずは1人。
 さらに、数人は釣れるだろうか。
 口元を手で覆い隠して、牡丹は笑う。
「来いよ。まとめて相手してやる」
 牡丹の背後で、夜闇に炎の欠片が散った。

 ごうと大地を火炎が舐めた。
 盗賊たちが炎を浴びて悲鳴を上げる。その数は7人。
「炎はてめぇらの専売特許じゃねぇぞ?」
 拳を振り抜いた姿勢のまま、牡丹は告げる。
「近づけ! 離れてちゃいい的だ!」
 盗賊の1人が怒声をあげる。
 距離を詰めなければ、盗賊の剣は牡丹に届かない。一方的に、牡丹の炎で焼かれるだけだ。
 ならば、多少の危険を侵してでも牡丹の懐に潜り込むのがいい。
 ならず者の集団だが、場慣れしているだけあって判断はなかなか的確だ。
 ただし、それは牡丹が1人であった場合に限る。
 空気が震えた。
 夜闇の中を、燐光を散らす魔弾が飛んだ。
 先頭を走っていた盗賊……先ほど、仲間に号令を発した男だ……の眉間を、ごく小さな魔弾が射貫いた。
 眉間に穴が穿たれる。
 衝撃が後頭部を爆ぜさせた。砕けた頭蓋と、脳の破片が地面に散らばる。
 頭部を半壊させながら、盗賊は数歩、前へ進んだ。
 糸が切れたように、膝から大地に崩れ落ちる。
 あまりにも突然に、仲間の1人が凶弾に倒れた。それを見て、気勢を上げていた残りの盗賊たちが顔色を悪くする。
「射程に入った者から順次撃ち抜いていきます」
 淡々と、そう告げながら盗賊たちの前へと姿を現した。
 それはつまり宣告だ。
 狙っているぞ、逃げ場はないぞ。
 言外に込められた意図を悟った盗賊たちは、急激に顔色を失っていく。

「アルヴァだ! アルヴァがいたぞ!」
「盗賊たちに手を貸せ! アルヴァを仕留めれば、助けてくれるかもしれねぇ!」
 燃える村のそこかしこで声が聞こえる。
 盗賊たちとの交渉に出ていた何人かの村人たちが、アルヴァ……正確には、アルヴァに化けた牡丹の姿を認めたのだ。
「どっちみちその場所からじゃ、石を投げたって届きやしないって言うのに」
 その様子を一瞥し、雲雀は小さな溜め息を零した。
 命が懸かっているのだから、村人たちが必死になるのも理解できる。理解できるが、あまりに愚かだ。仮に村人の誰かがアルヴァを仕留めたとして、盗賊たちが村人の助命を考えることは無いだろう。
 そもそも、盗賊たちは数日前に1度、村へと攻め込んでいる。村の財を奪うためだ。そこをアルヴァが助けたのだと聞いている。
「はぁ……」
 一閃。
 雲雀が腕を横に振るった。
 指先に滴っていた鮮血が、刃のように虚空を舞って焼けた地面に裂傷を刻む。
「な……」
 村人たちの動きが止まった。
 震える手から石が零れ落ちる。
「……攻撃の意思があるってことは、殺される覚悟もあるってことだよね?」
 地面に刻まれた裂傷は、雲雀の設けた境界線だ。
 その線を越えれば容赦はしない。そんな雲雀の意思は、村人たちに伝わっただろう。
「そうじゃないならさっさと消えてくれないかな、目障りなんだ」
 淡々と。
 冷たい声でそう言い捨てて、雲雀は視線を横へと動かす。
 数人の盗賊が、雲雀の方へと走って来たのが見えたのだ。

 風上に1人の女が立っている。
 黒煙と熱波を避けるためか、盗賊たちも風上の方に多く集まっているように見えた。そのうちの何人かは、雲雀の方へと走って行ったが、数人は未だに剣を構えてその場に残っているままだ。
 村人たちを逃がすことがないように、盗賊たちには各々の持ち場があるのだろう。
「炎にゃ触りたくねーよな。熱いし、煙たいし。アンタら“当たり”を引いたと思ってるだろ?」
 そう言ってことほぎは紫煙を吐いた。
 揺らぐ紫煙に指を触れ、前方へ向かって弾く。煙によって形成された魔力弾が、盗賊の1人の胸部を射貫いた。
 瞬間、魔弾が溶ける。
 まるで闇か汚泥のように、どろりと溶けて盗賊の全身を飲み込んだ。
「ことほぎ……ことほぎだ」
「こんな村に何の用事だ」
 村人たちがざわめいた。その声を聞いて、盗賊たちも警戒心を露にする。
 村人からも、盗賊からも、敵意の籠った視線を向けられことほぎはしかし、心地良さげな笑みを浮かべる。
「こっちは仕事で盗賊退治やってんだが。何、お前らも盗賊だったの?」
 まずは村人へ。
 嘲るような視線を向ければ、それだけで村人たちは数歩、後退る。
 張り合いのない連中だ。
「オレはイイんだぜそれでも。悪名が蔓延るのは歓迎だからな」
 煽ってみるが、前に出ようとするものはいない。
 当然だ。面白くない。1人か2人でもことほぎに喧嘩を売ってくれれば、少しは面白くなっただろうに、悲しいかなそうはならなかった。
 あぁ、だからこれは八つ当たりだ。
「感謝しろよ。オレは慈悲深いから逃げる村人を襲うことはねぇ。そんで、オレは悪い魔女で、ついでに真面目な性質だからよ。盗賊どもは生かしちゃおかねぇ」
 ことほぎがそう告げた瞬間、先に撃たれた盗賊が白目を剥いて近くの仲間に斬りかかる。
 後に残るは阿鼻叫喚の屍山血河。
 黒衣の魔女の哄笑が響く。

 炎に飲まれた村の前に、アルヴァがゆっくり降り立った。
 対峙するのは数人の盗賊。
 その中には、盗賊たちの頭目・クマノミの姿もある。
「お前がアルヴァか?」
 クマノミが、担いでいた戦斧を地面に降ろした。
「そうだ。俺がアルヴァだ」
 ライフルの銃身を握り絞め、アルヴァは答える。
「肉ミソみてぇにしてやるからよ、飛んで逃げるんじゃねぇぞ」
「逃げないさ。俺はここにいる。殺してやるから、死にたい奴から前に出ろ」
 売り言葉に買い言葉。
 暫し、2人は睨み合う。
 そして、駆け出したのはクマノミだ。クマノミの背後に、配下の盗賊3人が続く。
 都合4人の同時攻撃。
 錆びた刃で、戦斧で叩き潰され、裂かれれば、なるほど“肉ミソ”のような有様になるのも頷ける。
 当たれば、だが……。
 クマノミが斧を振り下ろすのと同時に、アルヴァは大地を蹴飛ばした。
 すれ違うように急加速。
 閃光を纏うライフルが、盗賊の1人を殴打する。
 あばら骨が砕けたか。激痛に悲鳴を上げて、盗賊が大地に倒れ込んだ。と、同時に地面が激しく揺れる。クマノミの斧が焼けた大地を砕いたのだ。
 ゆっくりと、クマノミは背後を振り返り……。
「俺を殺すんだろう。本気でやりたまえ、でなければ俺は死なない」
 クマノミの方を横目に見ながら、アルヴァはそう告げるのだった。

 アルヴァの元に、村人たちはいなかった。
 炎に追われて逃げたのか。
 否、悲鳴に誘われるように、村の中央へ集まっているのだ。
 悲鳴の主は、炎に焼かれる盗賊だった。必死に逃げようと藻掻くが、ブランシュはそれを許さない。
「あがけ。苦しめ。そして死神に助けを求めろ」
 盗賊は悲鳴を上げるばかりで、意味のある言葉を口にしない。やがて、炎に焼かれた盗賊は、ピクリとも動かなくなった。
 人の焼ける異臭が漂う。
 だが、村を襲う盗賊を1人で仕留めてくれたのだ。村人たちの目にブランシュは、救世主(メシア)のように見えただろう。
 自分たちに向けられた死神(タナトス)の言葉を聞くまでは。
「村人諸君。一つ、ゲームをしよう。盗賊は始末してやる。だが、それまでにお前たちは生きているかな?」
「……は?」
「耳まで悪いのか? 何故村が焼かれたのか? 何故盗賊達が襲ってきたのか? 理由はただの一つ」
 盗賊の遺体を炎の中に蹴り込んで、ブランシュは両の手を広げた。
「全ては俺が仕込んだからだ」
 朗々と、歌うようにそう告げて。
 呆気にとられる村人たちの間を抜けて、ブランシュは村の外へと向かう。約束通り、盗賊たちを片付けに行くのだ。
 アルヴァは己の正義を貫くつもりだろう。
 で、あれば。
「俺は死神だ。隊長。アンタが正義を貫き通すなら、俺は悪を貫き通してやろう!」
 嫌われることには慣れている。
 恨まれ、憎まれ、後ろ指を指される程度がどうしたというのだ。
 アルヴァがそれで思い悩む必要はないのだ。誰かが悪名を背負うというのなら仕方が無い。だが、アルヴァ1人で背負う必要もない。
 重い荷物は分けて持つのが、楽に決まっているというのに。
「まったく、難儀な性分の隊長だな」
 なんて。
 誰にも聞こえないように、ブランシュはそう呟いた。

●明日がある
 盗賊たちのほとんどは、既に始末を終えている。
 包囲網が崩壊すれば、当然、村人たちは逃げ出すことだろう。家族を連れて、自分たちの財産を持てるだけ持って、中には盗賊の遺体を漁る者もいる。
 無償の善意を食い潰し恩を仇で返す外道たち。
 それが今更、死体を漁っていたところで驚きはしない。
 だが、面白くはない。
 クシュリオーネは片手を掲げて、村人の手元を指さした。
 瞬間、魔弾が手元で弾ける。
 盗賊の遺体の脇腹を抉り、血と肉片が飛び散った。
「……ぇ?」
 何が起きたか分からない。そんな顔をしている村人へ、クシュリオーネは冷めた言葉を投げつける。
「私はアルヴァさんほど優しくはありませんので。次は腕か足を頂きますね?」
 
 逃げて行く村人たちを、雲雀やことほぎ、ブランシュが見送っている。
 結局、彼らは礼の言葉の1つも言わずに、焼ける村から逃げ出した。誰1人とも、盗賊たちと戦おうとするものはいなかった。
 力が無いから。
 弱いから。
 家族を守らなければいけないから。
 そんな言い訳で武装して、自分や家族だけを守って。
 まぁ、それで構わない。
 人にとって、何よりも大切なのは結局のところ“自分自身”なのだから、村人たちの選択は至極正しいものと言える。
「とはいえ、人を道具のように扱ったんだから、どんな些細な規模でも報いはあるべきだ」
 なんて。
 逃げる背中へ、雲雀は囁きかけたのだった。

 炎に飲まれる村の中に、数人の老人が取り残されている。
 脚を怪我しているのだろう。
 自力で逃げることが出来ずに、置いて行かれた老人たちだ。
 炎の中で、老人たちは叫んでいる。
「俺も連れて行け!」
「老人だぞ! もっと労われ!」
「アルヴァ! アルヴァはいないのか! 脚の怪我を治してくれ!」
 そんな老人たちの声を聞きながら、牡丹は思う。
(悪いな、かーさん。オレはアンタみたいに何もかもを愛せねえ)
 老人たちを見捨てても、きっと誰も困らない。
 そもそも彼らは、同じ村の仲間たちから捨てていかれた身なのだから。
 だが、それではアルヴァの想いが無駄になる。
 アルヴァが老人たちの遺体を見てしまえば、心を痛めるかもしれない。
「……でもせめてアンタの仲間はオレが護る」
 助けるのは、老人たちでなくアルヴァの心だ。
 自分にそう言い聞かせると、牡丹は炎の中に足を踏み入れた。

 木っ端盗賊の1人や2人は敵にならない。
 そもそも、数日前にも1度、1人で片付けた程度の手合いだ。
 とはいえ、流石にクマノミはそう簡単な相手では無かった。
 戦斧が肩を裂き、飛び散った土砂が腹部を打った。
 そうして、数分間の一騎打ちの末、アルヴァはついにクマノミの喉にライフル銃による殴打を叩き込むことに成功した。
 銃身を伝って、骨の折れる感触がした。
 クマノミは、白目を剥いて血を吐いた。
 その手から戦斧が離れ、その巨躯はゆっくりと地に倒れた。
 丁度その頃……焼ける村の方から牡丹が老人たちを連れて逃げて来た。

「あ、アルヴァ! お前のせいで、村がこんな有様だ!」
 唾を飛ばして老爺が叫ぶ。
 口元の血を拭い、アルヴァは老爺の方を見た。
「貴様が盗賊を呼んだのだろう! 先日、追い出した腹いせか! まったく、性根の腐った男だ!」
 地面に伏したクマノミと、血と煤に汚れたアルヴァの姿を見ていながら、どうしてそんなことが言えるのか。どうしてそんな結論に至るのか。
 簡単な話だ。
 人は「自分が見たいと思ったものしか見ないし、聞きたいと思ったことしか聞かない」からである。
 つまり、不幸を誰かのせいにしたいのだ。
 それが分かっているから、アルヴァは何も言い返さない。
 クマノミの遺体から、金貨の詰まった袋を取るとそれを老爺の方へと投げた。
「手切れ金だ、ありがたく受け取ればいい」
 そう言い捨てて、背を向ける。
 痛む腹部を押さえながら、燃える村から離れていく。
 何も言わないまま、牡丹もその後を追った。
「だからもう、俺に構わないでくれ」
 

成否

成功

MVP

紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

状態異常

アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)[重傷]
航空指揮

あとがき

お疲れ様です。
かくして、盗賊団が1つと、村が1つ、壊滅しました。
依頼は成功となります。

この度は、シナリオのリクエスト、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

PAGETOPPAGEBOTTOM