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シナリオ詳細

サラシナ日記。或いは、山がおかしい…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●サラシナの旅
 足音もなく野山を行くのは、黒髪、黒衣の女性であった。
 まっすぐに伸びた背筋や、服の上からでも分かる鍛え上げられた体躯を見れば、彼女が武芸者であることが分かるだろう。
 そもそも、その背中には長巻という長大な刀を担いでいるのだ。それを存分に振るえるのだとすれば、彼女の実力は相当に高いはずだろう。
 
 さて、彼女……サラシナは武芸者だ。
 武芸者と言えば聞こえはいいが、要するに風来坊である。
 定職にも就かず、長巻を担いで豊穣の各地を旅してまわる根無し草。とはいえ、畜生働きをするようなことはなく、何かしらの手で銭を稼いで、食糧を買わねば生きられない。
 野で採った野草や兎、魚も食えるが、やはり店で買うのが楽だ。
 そういうことで、サラシナは時折、人に雇われて報酬を得る。武芸者ということで、用心棒だの、盗賊狩りだのといった仕事が多いけれど、別にサラシナ本人に“受ける仕事”にこだわりは無い。それゆえサラシナは、今、こうして野山を歩き回っているのだ。
「まぁ、後悔はしているわけだが」
 額に滲んだ汗を拭って、サラシナはそう呟いた。
 それから、じっとりとした目を依頼主……エントマ・ヴィーヴィー(p3n000255)へと向ける。
「え? なに? 何で睨んでんの?」
「上手い話には裏があるな、と思ってね。あんた、言ったろ……楽な仕事があるってさ」
「まぁ、えぇ。楽な仕事でしょ? 山で起きてる異変の原因を調査し、鎮めるってさ」
「楽な仕事だと私も思ったさ。だが、それがどうだ? 山に入って、既に丸1日……一晩過ごしてなお、異変とやらにも遭遇しないし、原因にもとんと検討がつかないと来たもんだ」
 呆れたような、怒ったような……不機嫌さを隠そうともせず、サラシナはため息を零す。

 エントマの依頼内容はこうだ。
 最近になって、山の管理者である老婆から「山がおかしい」という報告があげられた。
 老婆の管理する山は所謂“禁足地”と呼ばれる場所だ。
 通常、何人さえも立ち入ることは許されず、管理者である老婆でさえも、年に数回の神事のためにしか足を踏み入れることはない。
 曰く、山の何処かに“何か”が封じられているのだという。
 “何か”が“何”なのかは老婆も知らない。
 だが、老婆には“何か”の存在が感じられるらしい。
 つまり、老婆の言う「山がおかしい」とは「封じられているはずの“何か”の様子がおかしい」ということだ。
 怯えたように「山には入らない。入れない」と繰り返す老婆だが、どうにも件の“何かの封印”が気にかかるらしい。
 封印されている場所も、どのような方法で封印されているかも分からないのに……。
 と、そういうわけで名乗りを上げたのがエントマだった。
「禁足地を撮影できる機会なんて、そうそう無いからね。いい仕事だと思ったんだけど……」
「見込みが甘かったってわけだ。人を増やして、人海戦術ってわけにゃいかねぇのか?」
「うぅん……一応、禁足地だし? まぁ、何人かに声はかけているから“偶然、そうとは知らずに足を踏み入れた人”ってのもいるかもしれないね?」
 と、そう言ってエントマは肩を竦めた。

GMコメント

●ミッション
山の異変を鎮めよう

●ターゲット
・封印された何か
山のどこかに封印されている何か。
姿は見えず、山の管理者である老婆以外には今のところ存在さえも感じられていない。
封印されている場所に、何かしらの問題が生じたのだと予想される。

●NPC
・サラシナ
黒髪、黒衣の女武芸者。
長身かつ筋肉質な体躯をしている。
背中に担いだ長巻を得物として扱うようだ。
エントマに「上手い話がある」と雇われたが、野山を丸1日歩かされた結果、少し機嫌が悪い。

●フィールド
豊穣。
とある山中。
禁足地らしく、普段は人が立ち入らない。
足を踏み入れるのは、管理人である老婆だけである。
件の老婆から「山がおかしい」という報告が挙げられたことで、今回の依頼に至った。
山の何処かに、何かが封印されているらしい。
何処に何が封印されているかは不明。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】エントマに誘われた
エントマに誘われて、禁足地の山を訪れました。肝心のエントマが見当たりません。

【2】迷い込んだ
禁足地と知らず、山に迷い込みました。怪しい気配を感じていたり、何も感じていなかったりします。

【3】怪しい気配を感じた
山中を蠢く何かの気配を感じました。怪しいと思いつつも、放置できずに山へと足を運びました。


禁足地を歩こう
禁足地を歩き回ります。主な目的を、以下のうちからお選びください。

【1】エントマを探す
エントマを探します。どこに行ってしまったのでしょうか。そして、エントマは無事でいるのでしょうか。

【2】封印の地を目指す
何処かにある、何かが封印されている場所を探します。封印に異常があれば可能な範囲で対応します。

【3】この森、何かおかしいぞ
森の様子がどこかおかしい気がします。何がおかしいか分かりませんが「おかしいな」と思いながら、森を歩き回ります。

  • サラシナ日記。或いは、山がおかしい…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月31日 22時15分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)
ツクヨミ
ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
アネモネの花束
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
物部 支佐手(p3p009422)
黒蛇
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)
リスの王

リプレイ

●なにかがおかしい
 草木も眠る丑三つ時と言うけれど、当然、眠らぬ者もいる。
 例えば、『ツクヨミ』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000668)がそれだった。
 豊穣にある、禁足地とされたとある山を調査する。そんな依頼を受けて、待ち合わせ場所に向かったのだが、そこにエントマの姿は無かった。
「肝心の当人がいないとは、流石の私もびっくりです」
 禁足地というぐらいなので、当然、山中に道らしい道はない。夜も遅くにそんなところを歩き回っていたのだから、それはもう、盛大に道に迷ったのだろう。さもありなん。
「……」
 ちら、と視線を右へと向けた。
 茂みの中に、地蔵の頭部が転がっている。
「どうする? 取り敢えずエントマ探すか?」
「やれやれ、相変わらず自由なお方で……途中で合流できるやも知れませんしの。わしらだけでも、封印の地へ向かいましょう」
『斬竜刀』不動 狂歌(p3p008820)が頭を掻いた。エントマの居場所は不明であるため、探すにしても宛は無い。二次遭難のリスクもあることを思えば『黒蛇』物部 支佐手(p3p009422)の言うように“封印の地”を目指すのも選択肢の1つだろう。
 エントマたちが目指している場所もそこだ。
 そして歩き回っているエントマたちと違って“封印の地”は移動しない。
「本来の目的は“封印の地”の方なんでしょう? だったら、封印の異変に対処したいね」
 顎に手を当て『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は思案した。
 エントマ1人なら心配だが、聞くところによるとサラシナという武芸者が同行しているらしい。で、あれば多少の危険には対応できると思われる。
「出来ることからいたしましょう」
 『王者の探究』カナデ・ラディオドンタ(p3p011240)は、エントマの捜索と、封印の地の調査のどちらを優先するとは口にしなかった。
 代わりに、転がっている地蔵の首と、ツクヨミとを交互に見やる。
 肩を竦めたツクヨミは、しゃがみこんで幾つかの小石を拾い上げた。
「仕方ないですね……ひとつ占いをしてみましょうか」
 当たるも八卦、当たらぬも八卦……とはいうものの、そもそも何の手掛かりも無いのが現状だ。占いの結果に進路を委ねるのも悪くない。
 ツクヨミは、掌の中で混ぜた小石を宙へと放った。

 どうにも筆が進まない。
 真白いままのカンバスを前に『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は低く唸った。
 絵を描くために山に入ったのは、今から半日ほど前のこと。
 開けた場所に椅子とカンバスをセットして、絵筆を取った。後は目に映るものを、感じるままに描けばいい。
 そのはずだったが、どうにも今日は筆が進まぬ。
「何だこの違和感は」
 正確に言えば、絵を描けないわけではない。
 描ける。
 辺りが闇に飲まれていようと、ベルナルドは絵を描ける。
 だが、しかし……。
「この狂気とだくだくとした黒い感情を描くべきだろうか」
 山全体を覆う不気味な気配が、どうにも筆を鈍らせる。 
 描いて良いものか、とそんな疑問が……或いは、警鐘が脳の内で渦巻いている。
「終いには、霊の類まで見えて来やがった……」
 暗闇を凝視し、ベルナルドは小さな溜め息を零した。
 視界の端に、青白い人影が見えたからだ。
「ン? お仲間じゃねェか……鬼が出るか蛇が出るかと思ってたら、なんだ、人かよ」
 『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)である。

●禁足地に入ろう
「よォ、こんな暗い中、何してんだ?」
 気安い様子で、クウハはベルナルドに声をかけた。
「何って……たまには豊穣の風景をカンバスに収めてみたいと思ったんだ」
 見て分からないか、と何も描かれていないカンバスを指さし、ベルナルドは答えた。
 辺りはすっかり暗闇だが、すっかり目が慣れたベルナルドであれば絵を描けないことも無い。問題は「描いていいのか」という疑問と不安が付きまとっていることだ。
「描けてねェじゃん。やっぱ、感じるか?」
 ベルナルドの隣に腰を降ろして、クウハは言った。
 そうしながら、ベルナルドの荷物に手を伸ばす。ほとんどは画材だが、非常食やキャンプ用品も含まれている。
「まぁ、な。原罪の呼び声とはまた違った不穏さを感じるというか……」
 クウハとベルナルドは、この場所が禁足地であることを知らない。
 管理者である老婆から話を聞いたエントマや、エントマに雇われたツクヨミたちと異なって、2人は勝手に禁足地に迷い込んでいるのだから。
「ランプがあるじゃねェか。とりあえず、明かりを灯そうぜ」
 ベルナルドの荷物から、クウハは勝手にオイルランプを取り出した。
 油絵具の油をそのまま燃料として流用できる優れものだ。
 夜間の移動も多いベルナルドにとっては必需品である。
「……そう言えば、存在を忘れていたな」
 驚いたように目を見開いて、ベルナルドはランプを見やった。
 単純に、山全体を包む異様な気配に気を取られていたのか、それとも別の理由でランプの存在を“忘却”してしまっていたのか。
 クウハは何も言わないまま、黙々とランプに火を灯す。
 ぽぅ、と温かな明かりが灯った。
 生い茂った樹々が、地面に残る蹄の後が、暗い山の風景が、転がる地蔵の首が、灯に照らされ闇の中に浮かび上がった。
 だが、それも一瞬だ。
 風に吹き消されたかのように、或いは、何かに飲まれたみたいに、ランプの明かりがプツリと消えた。
 もう1度、火を灯す。
 だが、結果は変わらない。
 火は灯る。
 灯るが、すぐに掻き消える。
「どうなってるんだ、これ? 異様な気配を関係あると思うか?」
「どうだろうなァ。入ったが最後、迷って出てこられないってのも森には定番の話だが……」
 少なくとも、火を灯すことは出来ないようだ。
 
 先に飛ばした小鳥が消えた。
 何かに丸飲みにでもされたか、それとも“この世ではないどこか”へ踏み込んだのか。
「山の事は山の者に聞くのが一番……と、思いましたが」
 額を押さえて、ツクヨミは呟く。
 一行が移動を開始してから、十数分が経過していた。ヴェル―リアが後光を背負っているおかげで、足元を心配する必要が無いのが救いか。
 とはいえ、こうも道が無いのなら光なんてあっても無くても同じかもしれない。
「何かいるのは間違いないと思うんだけど。霊的なものであれば意思の疎通もできるわけだし、交渉の余地だって……」
「それはどうでしょうな。封印されていた何かに話が通じるとも限りませんゆえ……警戒して進みましょう」
 場合によっては、戦闘が発生するかもしれない。
 そう考えた支佐手は、ヴェル―リアを後方へと下がらせた。
 代わりに自分が前に出て、腰から下げた剣の柄へと手を伸ばす。
 山に入ってからこっち、ずっと違和を感じているのだ。
 そこに何かがいるような。
 或いは、何かの腹の中にいるような。
 姿は見えない、敵意も感じない。ただ、不気味なだけの存在がそこにいる。空間全体を浸している。形容しがたい不快感に、心臓の鼓動がほんの少しだけ早くなる。
「封印されてた何か……か。俺の経験則で言えば“どうでもいいぐらい力が弱い”か“名前を知るのもヤバイ”のどっちかだな」
「後者じゃないことを祈りたいね」
 狂歌が零した言葉に、ヴェル―リアは苦笑を返す。
 直後、2人の表情が凍った。
 狂歌とヴェル―リアは、揃って立ち止まると同じ方向を……進行方向に対して右の茂みを注視した。
 そこにあったのは、地蔵の首だ。
 泥に塗れた地蔵の首が転がっている。
 それは、つい十数分前に見たものと同じでは無いか。
 歩いているうちに、元の場所に戻って来たのか。
 否。
 そうではない。
 一行は着実に前進している。
 つまり、それは……。
「この山、地蔵だらけ……ってことはねぇよな?」
「胴体は一度も見てないしね。もしかして……」
「着いて来た……ということでしょうなぁ」
 支佐手が剣を引き抜いた。
 首だけとはいえ地蔵に剣を向けるのは少し躊躇われたが、だからと言って何の警戒もしないわけにはいかなかったのだ。
 少なくとも、現時点で一行が認識している“異変”は、着いて来ている地蔵の首だけなのだから。
「樹が邪魔なんだが、仕方ねぇか」
 狂歌も太刀を構えた。
 来るなら来い、と覚悟を決めて戦意を滾らす。
 だが、何も起こらない。
 虫の鳴き声さえも聴こえない。
 闇の帳と、静寂が落ちた……ただただ、夜の山中らしい時間が過ぎる。
 なるほど、つまり……これが老婆の言っていた「山がおかしい」ということなのだろう。

 狐狸の類に化かされる、なんて話は古来から今に至るまで数えきれないほどにある。
 そんな時はどうすればいいのか。
 カナデは知っていた。
 サヨナキドリの書庫で、そんな風な記録を読んだことがあるのだ。
 その時は確か、腰を落ち着けて煙草を一服。
 気を落ちつけて、紫煙を吸って、吐いていればいいとそんなことが書かれていたはずだ。
(煙草を吸えばいい、というのはよく分かりませんが)
 なぜ煙草を……と、言えば狐が煙草の臭いを嫌うからだというが、海育ちのカナデにそのような野の獣の生態など分かろうはずもない。
 ゆえにカナデが“腰を落ち着けて”という部分に着目したのも無理からぬこと。
「皆さん、一度腰を落ち着けることを提案いたします」
 そう言ってカナデは、持参していたピクニックシートをさっとその場に敷いて見せた。
 それから、メイド服のスカートを翻しながら荷物を降ろす。
 取り出したのは、人数分のコップと水筒だ。
「どうぞおかけに。僭越ながら気晴らしに水筒に入れたお茶を呈茶します」
「……まぁ、季節柄、適度な休憩と水分補給は必要ですね」
 困惑している狂歌やヴェル―リアを横目に、ツクヨミはシートに腰を降ろした。
 カナデから受け取ったコップを口に付け、温かいお茶を喉に流し込む。
「警戒しっぱなしって言うのも、あれだもんね……あれ?」
 休憩に否やは無いのだろう。
 ヴェル―リアもシートに座って、転がっていた地蔵の頭部に手を伸ばす。
 そして、ヴェル―リアは目を見開いた。
 地蔵の頭部に、文字らしきものが刻み込まれていたからだ。

 猫も鳥も消えてしまった。
 クウハは眉間に皺を寄せ、道なき道を進んで行く。
 突然、クウハの使役していた猫と鳥は闇に飲まれて消息を絶ったのだ。一体、何故消えたのか。何かに襲われたのだとしたら、それは果たして“何”なのか。
 その正体を確かめに行くのだ。
 幸い、1羽と1匹が進んだ方角は分かっている。
 方角が分かっているのなら、クウハが道を違えることはない。
「また地蔵の首だ。もう何度目だ?」
 足元に視線を落とし、ベルナルドはそう呟いた。
 少し前で、クウハがピタリと足を止める。
 目的地に……つまり、猫と鳥が姿を消した場所に辿り着いたのだ。
 だが、そこには何も無い。
 ただ、夜の野山の景色が、闇が広がっているだけだ。
「なァ、この景色を絵に描くとしたら……どんな風に描く?」
 視線を前に向けたまま、クウハは問う。
 ベルナルドは顎に手を添え、夜の闇を凝視した。
 1点に視線を集中させ、次に広い範囲を眺め、遠くで、近くで、下から、横から。身体を動かし、首を傾け、闇を凝視していたベルナルドは、やがて「うん」と頷いた。
「ただ、闇を描く。黒い絵具は使わない。赤や青や黄色や緑や、野山に存在しているあらゆる色の絵具を混ぜて作った“黒色”で、カンバスを塗りつぶすだろうな」
 そう言って、ベルナルドは虚空にするりと指を這わせた。
 斜め上から、下へと向けて、うねるように指を這わせた。
 例えば、そう……まるで蛇の軌道をなぞるかのように。
「それから、女性が2人……眼鏡をかけた若い女と、黒い女武芸者……ん!?」
「いる、よなァ。そこに2人……そこに居るのに、まるで画面の向こう側や写真でも見てるような気がするが」
 目の前に、見えない何かが横たわっている気がする。
 その向こうに、エントマとサラシナの姿がある。

●封印しよう
 ざわ、と山が蠢いた。
 そんな気配がしただけだ。
「っ……これは、なかなか。やはりなんぞおりますな」
「“名前を知るのもヤバイ”方で間違いないか」
 支佐手と狂歌が武器を構える。
 そこに何かが存在するのは間違いない。
 姿は相変わらず見えないが……そして、剣や太刀でどうにかなる相手とも思えない。
 2人の頬に冷や汗が伝う。
「悪い予感がします。直視はいけません」
 視線を下げて、ツクヨミが言った。
 姿が見えない相手を直視……とは、少々、意味の通らない言い回しだが、そうとしか言いようがないのだ。
 それゆえ“見ないように”ツクヨミは視線を伏せた。
 少なくとも、そこにいる何かに“視ている”と認識されないように。
「ですが、フォルトゥナリア様は先に進まれましたが?」
「……何と?」
「1人で進ませるのも良くありませんね。私も後を追いかけます。伝令薬は若輩者にお任せください」
 森が蠢いた瞬間、どうやらヴェル―リアは駆け出したらしい。
 そして、カナデがその後を追った。

「声をかけても、届かねぇんじゃねェか?」
「かといって、放置しておくのもな……見えないが、触れるか?」
「触ったら、障られそうだが」
 見えない何かを前にして、クウハとベルナルドは立ち尽くす。
 エントマとサラシナの2人を助けたいのだが、その方法が分からないのだ。
 2人の視線の先で、サラシナが背中から長巻を降ろす。脚を大きく開いて大地を踏み締めると、腰から上をぐぐっと捻って長巻を背後へ振りかぶった。
「おい、斬るつもりじゃないか?」
「止めとけって! 碌なことになんねェ!」
 ベルナルドとクウハが声を張り上げ、注意を促す。
 だが、2人の声はきっとサラシナに届いていない。
 サラシナが、歯を食いしばる。
 次いで、斬撃。
 遠心力を利用した渾身の斬撃が、見えない何かへ叩き込まれた。
 
 時間は少しだけ巻き戻る。
 一目散にどこかへ駆けるヴェル―リアを、カナデは全速力で追いかけていた。
「どちらへ?」
 呼吸を乱しながら、カナデは問うた。
「もう少し先! 地蔵の首に番号が振られていたの。たぶん、これまでのも全部! その中央が怪しいんだけど!」
「はぁ。なるほど、先ほど“何か”が動いたことで、どこが中央か当たりが付いたと?」
「そういうこと! ほら、見えた!」
 あれ! とヴェル―リアが指差した先には、1本の大きな木があった。
 否、1本ではない。
 2本の樹が絡まって、1本の太い樹木のように見えているだけだ。樹木には9本の注連縄が巻き付けられているが、そのうち1本が切れている。
「結び直そう! 手を貸して! 出来る?」
「もちろんでございます。王者ですので」

 ヴェル―リアとカナデが注連縄を巻きなおすのと時を同じく。
 ふっ、と煙が掻き消えるかのように“何か”の気配が消え去った。
「な、何が起こったので?」
「さぁな。だが、とりあえず一難は去ったと思って良さそうだが」
 困惑した表情を浮かべ、支佐手と狂歌は顔を見合わす。
 それから、2人は武器を降ろした。
 姿も見えぬ、得体も知れぬ“何か”を相手に一戦交えようとしていたのだが、どうやらその必要は無さそうだ。
 同じく、ライフルを降ろしたツクヨミも肺に溜まっていた空気を吐き出した。
 と、その時だ。

「おい、斬ったよな!? 今、斬ったから消えただろ!? なぁ!?」

 暗い野山に、女性の大音声が響いた。
 それは、きっとサラシナの声だ。
「どうやら、見つかったみたいですね」
 ライフルを背負い直し、ツクヨミは安堵の吐息を零す。
 おかしかった山も、これできっと元通りだ。
「とりあえず合流しますか。今更な感はありますが」
「だったら1度、手合わせしたいな。サラシナは結構出来るんだろ?」
 サラシナの騒ぐ声を頼りに、3人は山道を進む。
 山道を……さきほどまで無かったはずの“道”がある。
 そのことに疑問を覚えるが、きっと考えても答えは出ない。
 この世界には説明のつかない不可思議ごとが、幾らだって存在するのだ。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまです。
山で起きていた異変は無事に解決に至りました。

この度はご参加、ありがとうございました。
エントマの次なるポカにご期待ください。

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