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シナリオ詳細

<烈日の焦土>『躰の道』の孤軍。或いは、アルカチーノ隊の作戦行動…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●躰の道
「ここもすっかり奇麗になったな」
 そう呟いたのは、煤けたコートを纏った男だ。
 髪の色は白く、顔には幾つもの深い皺。年齢は50を超えて、ともすると60に近いだろうか。結構な高齢のように見えるが、身体は大きく、筋骨も隆々。背筋もまっすぐ伸びている。
 元は軍人か、それともマフィアか。
 どちらにせよ、彼には多人数を率いる者特有の“すごみ”があった。
 男がいるのは、鉄帝の荒野にある低い丘の最上部だ。丘を上がるには、左右にある曲がりくねった坂を登らなければいけない。
「綺麗になった……って。前はどうだったんですかい? 見たところ、何の変哲もない荒野と、草木も生えてない地面しか見えないんですが?」
 男の呟き声を聞いたのか、背後に控えた部下の1人が質問の声をあげた。
 白髪の男はつまらなそうに鼻を鳴らして、部下の方へ視線を向ける。
「暫く前は地面さえも見えなかった。ここは激戦区でな。特にそこの坂なんかは、足の踏み場も無いほどに死体が転がっていた」
 それっきり、白髪の男は何も言わない。
 周囲に佇む13人の部下たちも、何も言葉を紡げないでいる。
 沈黙が落ちた。
 多脚戦車のエンジンが、低く唸る音だけがしていた。

●あの戦争をもう1度
「アサクラ隊って知ってますか? かつては『新皇帝派』に属していたマフィアや死刑囚を中心に編成された部隊っす」
 イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は地図を広げてそう言った。
 それはとある荒野の地図だ。
 荒野の中央付近には丘がある。かつての大戦の際には、丘を挟んで激しい戦いがあったというが、今では敵味方の区別なく遺体はすべて回収、埋葬されている。
「そのアサクラ隊ですが、今は綜結教会の一組織として行動しているっす。イレギュラーズに対して恨みを抱いている者が多く、今回、皆さんが相手するのもそう言う手合いっすね」
 イフタフは一枚の写真をテーブルに。
 写っているのは、厳めしい顔つきをした白髪の男だ。
「男の名前はアルカチーノ。従軍経験もあるマフィアで、今はアサクラ隊の一部隊を率いる指揮官っすね。こいつと13人の部下たちは、荒野中央の丘を占拠したっす」
 鉄帝国は幻想王国の領土侵攻を繰返している状態だ。
 各地では戦線と混乱が広がっており、お世辞にも治安がいいとは言えない。おそらく、アルカチーノ率いる部隊もその準備のために行動している。
 例えば、大軍を編成するには広い土地が必要だ。
 例えば、アルカチーノたちも運用している多脚戦車AIT-1の整備拠点とするつもりかもしれない。
 どちらにせよ、何の目的もなくアサクラ隊が荒野の丘を占拠することなどあり得ない。
「アサクラ隊は連射性に富んだ銃火器を所持しているみたいっす。【ブレイク】とか【足止め】に要注意っすね」
 数はアルカチーノを含めて14人とそう多くはない。
 だが、アルカチーノ隊に随行している多脚戦車の存在もあり、油断は出来ない。
「あの戦車って対イレギュラーズ性能に特化してるんっすよね。【ブレイク】付きの機関銃に大威力の主砲、命中率の高い【必殺】のライフル……対人兵器として見れば、まぁまぁオーバースペックっすよ」
 車両数は1台と少ない。
 とはいえ、丘の上……高所を先んじて確保されているというのが良くない。
「丘の上に辿り着くには、2つある坂道を登るしかないっす。身を隠す場所もそう多くないですし……工夫するとすれば、襲撃の時間帯とかっすかね?」
 地図を手に取り、イフタフは首を傾げた。
 それから、畳んだ地図を“あなた”の方へと差し出した。

GMコメント

●ミッション
アルカチーノ隊の撃退

●ターゲット
・アルカチーノ
白髪の偉丈夫。
軍属経験のある元マフィア。現在はアサクラ隊の一部隊を率いる指揮官。
高齢のためか運動能力はそう高く無いが、経験と胆力はなかなかのもの。

ライフル狙撃:物遠単に大ダメージ、ブレイク、足止め

・アルカチーノ隊×13
アルカチーノ率いる部隊の隊員たち。
元々はマフィアや死刑囚などならず者だが、アサクラの元で戦ううちに軍人顔負けの連携や技能を習得している。

マシンガン掃射:物中範に中ダメージ、ブレイク、足止め

・多脚戦車AIT-1×1
新皇帝派が有していた蒸気式精霊制御型無人戦車。
アンチイレギュラーズタンク。
EXAが高く、対人兵器としてはオーバースペック気味。

機関銃:物中範に大ダメージ、ブレイク

主砲:物遠範に特大ダメージ

対人ライフル:物超遠に大ダメージ、必殺

●フィールド
鉄帝国のとある荒野。
かつての大戦の折には『躰の道』と呼ばれた激戦区跡地。
荒野中央には低い丘があり、アルカチーノ隊は丘の上に拠点を築いている。
丘の上に至るには、2本の坂道のどちらかを通過する必要がある。
荒野であるため、見通しが良い。
身を隠す場所と言えば、地面に時折空いているクレーターぐらいか。伏せていれば隠れられる……程度の深さしかない。
襲撃時刻に指定は無い。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <烈日の焦土>『躰の道』の孤軍。或いは、アルカチーノ隊の作戦行動…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ

●残党兵たちの高台
 高台の上に人の影。
 十数名の残党兵たち。アサクラ隊の1分隊である、アルカチーノ隊という。
 リーダー格の元軍人・アルカチーノを頭とした1個の群れだ。多脚戦車AIT-1の存在と練度が合わさることで、人数に見合わぬ高い作戦遂行能力を持つ。
 戦うために最適化された機械をイメージするといいか。
 夜も遅い時間だというのに、暗がりの中で息を潜めて油断なく周囲の様子を窺っていた。
 経験としてか、知識としてか。彼らは知っているのだ。夜も遅い時間、闇夜に紛れて近づいて来る輩が存在することを。
「見通しの良い丘の上とは、良い場所に陣取ってるな」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)がそれだった。
 梟の目を介し、丘の様子を窺いながらイズマは夜の荒野を進む。丘の上へと至るには、2つある坂のどちらかを通らなければいけない。
 当然、坂の警備は厳重だ。
 常に監視の目があるし、歩哨も出ている。
「だが、やっと戦争の跡地になったのにまた死体を積むと言うのなら、止めねばならない」
 外套の下で、腰の剣に手を伸ばした。
 姿は見えない。だが、刺すような視線を感じている。
 もちろん、闇に紛れて潜伏しているのは何もアルカチーノ隊の隊員に限った話ではないが。
「何者だ? 悪いが、引き返してもらおう。ここは我らの隊が占拠している」
 闇の中から声がする。
 これ見よがしに、銃弾を装填する音がした。
 何かしらの合図を送ったのだろう。丘の上で戦車が動いて、砲塔をイズマの方へと向ける。
 とりあえず、いきなり一般人に対して攻撃を仕掛けるほどに分別の無い連中では無いようだ。
「アルカチーノ隊だな? お前達の作戦を止めに来たぞ!」
「何を言っている? 無駄口を叩いていないで……っ!」
 外套の裾から、何かが落ちた。
 バチバチと火花が散っている拳大の球体。型は古いが爆弾のように見える。
 撃つか、退くか。
 一瞬のうちに隊員たちは後者を選んだ。向けられていた視線がイズマから外れる。
 瞬間、眩い閃光が散った。
 大きな音を響かせながら、七色の火花が飛び散った。
「花火だよ」
 なんて。
 イズマが呟く、その直後。
 夜闇の中から、2つの影が飛び出した。

「どちらかというと私は拠点内の情報を引き抜いて襲撃担当部隊に渡す側だと思っていたのですが……工作員としての忍者のプライドに引っかかるというか」
 1つは『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)である。
「まあ、いいですけれども」
 黒い刀を逆手に構え、岩陰に逃げた隊員を追いかける。
 先ほどまで、イズマを監視していた男だ。先ほどのやり取りを見ている限り、本隊の方へ情報を送っていたのは彼である。
「っ……イレギュラーズか! 敵襲!」
 ライフルの腹で瑠璃の刀を受け止めながら男は叫んだ。
 状況の理解が早い。
 瑠璃の初撃を防いでみせた上に、迎撃よりも仲間たちへの情報共有を優先したのだ。彼は自分の役目をよく理解している。
 そして、当然ながら本隊の動きも。
「対イレギュラーズも想定した部隊か。なるほど、相手にとって不足は無しだ」
 丘の上を目指して『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)が疾駆する。その進路を阻むように、数人の兵士が横に並んだ。
 人の壁。
 号令に従い、同時に銃撃を開始した。弾幕を張って、汰磨羈の足を止めた。
 その隙に、多脚戦車が移動する。兵士たちの背後に移った多脚戦車の砲塔が、汰磨羈に狙いをつけたのだ。
「まぁ……好都合だ」
 威圧感に冷や汗を流し、けれど汰磨羈は口角をあげる。

「敵襲! ルートBに敵襲だ!」
 花火が上がるのと同時に、兵士の1人が声を張り上げる。
 それから、自身も銃を構えて周囲に視線を巡らせた。
 けれど、しかし……。
「ふーん、アサクラ隊ねぇ……新皇帝派の残党が何を思ったのやら……世を儚んだ? それとも復讐? 自暴自棄の類?」
 背後から、口を塞がれた。
 兵士の喉に冷たい刃が突き立てられる。
「まぁ、何にせよ綜結教会の構成員だし悉く狩りとるだけだね」
 一閃。
 刃が兵士の喉を掻き切る。
 血飛沫を噴き上げる遺体を道の端へと投げ捨て、『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)は視線を坂の上へと向ける。
「さて、お仕事と征こうか」
 丘の上が騒がしい。
 つまり、陽動部隊の仕事は上手くいっているということだ。

 戦闘作戦において、高所を押さえるということは戦略上の優位となる。
 射程を伸ばせる上に、視野も広い。
 戦い慣れた連中。アルカチーノ隊に対する『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)の所感はおよそそんなところだ。
「少しアウェーだがやるしかねぇ、アイツらを野放しにさせとく訳にはいかねぇっス」
 イズマの花火が上がったのを見て、別動隊が行動を開始した。
 イズマたちが進んでいるのとは別の、もう片方の坂道を進む5人の人影。
「一筋縄じゃいかねえだろう。気合い入れてぶっ潰さねえとな」
 先陣を切って突き進むのは『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)。身を隠すようなことはしない。陽動部隊が襲撃をしかけた今の隙を、アルカチーノ隊が体勢を立て直すまでの僅かな時間を無駄にするわけにはいかない。
「奇襲を感付かれる前に素早く行いましょう。足を止めず、一気に!」
「やっと平和になったと思ったのだけれど、争いは無くならないものですわね」
 義弘に続くのは『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)と『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)だ。
 各々の得物を高く掲げて、2人は走る速度をあげた。
 坂の途中に幾つかの障害物が見える。適当に組んだ木柵の周りに有刺鉄線を巻き付けたもの……鉄条網と呼ばれるものだ。
 機構はシンプル。
 けれど、外敵の接近を阻むためのバリケードとして高い効果と信頼性を誇る。
「戦い方を知ってやがるな」
 殴りつければ拳が傷つく。
 ヴァレーリヤとオリーブを先に進ませ、義弘は舌打ちを零す。

●アルカチーノ隊の仕事
 時刻は少し巻き戻る。
 イズマが花火を挙げた直後だ。指揮官用の天幕から1人の偉丈夫が外に出る。
 男の名はアルカチーノ。ならず者の集団だった部下たちを、一端の兵士に鍛え上げた元軍人にして、アルカチーノ隊の隊長である。
 部下たちの報告によれば、襲撃者の人数は3人。
 アルカチーノ隊は決して大部隊とは言えないが、たった3人の兵力で落とせるほどの寡兵ではない。それは襲撃者たちも十分に理解しているはずだ。
 と、なれば敵の狙いは別にある。
 例えば、イレギュラーズが先の戦いでも良く使った複数チームに分かれての作戦行動。良くも悪くも、イレギュラーズは役割分担がはっきりしている傾向にあり、そしてほとんどの場合は、しっかりと作戦を立てて行動に移る。
 アサクラ隊はもちろん、幾つもの勢力がイレギュラーズを寡兵と侮り大きな損害を受けた。苦汁の味はまだ記憶に新しい。
「陽動だろうな。無視も出来んが……戦車はルートBへ。兵士の半数はルートAへ向かわせろ。数名は俺と拠点待機だ」
 手早く部下に指示を飛ばしたアルカチーノは、部下に命じてテーブルと椅子とを持ってこさせる。敵がすぐそこにまで迫っているのだ。天幕の中で、のんびり指揮などしていられない。

 7人。
 坂道を登った先に姿の見える兵士の数だ。
 鉄条網のバリケードを前に出し、ライフルや機関銃を構えて姿勢を低くしている。
「さーてナイター戦のキックオフだ」
 すんなりと拠点に乗り込めないのは想定通りだ。多脚戦車がいないだけでも儲けものと言えるだろう。
 サッカーボールを足元へ落とし、葵はそれを蹴りつけた。
 流星のように、砲弾と化したボールが飛んだ。マシンガン銃の掃射によってボールの勢いは減衰するが、その程度で止まるほどに軟弱なシュートではない。
 地面に落ちたサッカーボールが、周囲に衝撃を撒き散らす。まるで散弾が弾けたかのように、地面が抉れ、鉄条網が破損する。
 慌てて敵が隊列を崩せば儲けもの。
 だが、アルカチーノ隊は前に出て来ない。
「あら? 思ったよりも冷静……まぁ、この間にメンバーが詰めれれば理想っスね」
 2度目のシュートを打ちながら、葵は横目で仲間たちの位置を追う。

 通達される前に倒せれば100点、対応より早く突入出来れば80点。
 オリーブの思い描く理想はそうだ。
 だが、アルカチーノ隊の対応はオリーブの予想以上に早かった。
 早かったが、想定内だ。予定されていた作戦を取り止めるにはまだ早い。
「っ……弾幕が面倒ですわね!」
 鉄条網をメイスで殴り壊しながら、ヴァレーリヤが顔を顰めた。
 白い衣服には血が滲んでいる。
 鉄条網を壊している間に、何発かの銃弾を受けたのだ。
「至近距離への装備は無いようですから、押し切るのが最善です。どうします?」
 同じく、進路を塞ぐ鉄条網を斬り壊しながらオリーブは言う。
 壊した障害物はこれで3つ目。ヴァレーリヤが破壊した分と合わせれば、6つほどの障害を取り除いた。
 道は開いた。
 当然、敵にもそれは分かっている。進行を阻むバリケードが失われた以上、兵士たちの銃撃はより激しさを増すだろう。
 けれど、しかし……。
「当然、前進! 陣地の奥深くにまで切り込んで修復できないようにしておきたいと思ってございますわ!」
「同意です。力押しもまた真っ当な手段ですから」
 降り注ぐ弾丸の数も、弾幕の厚さも、足を止める理由にはならない。
 
 マズルフラッシュが、夜闇を白に染め上げる。
 硝煙と、土埃の臭い。それに混じる血の匂い。
 銃弾を浴びたヴァレーリヤとオリーブが膝を突く。葵が牽制しているうちに、義弘は2人を敵の射程の外へと引き摺って下がる。
 進行を諦めたわけでは無い。
 一時的な撤退だ。
「仕切り直しだ。ここまで来たら突っ込むしかねえよな」
 体勢を立て直したヴァレーリヤとオリーブ、そして義弘は再び前進を開始。兵士たちの視線は、まっすぐに3人に向いている。
 その隙を突いて、夜闇に紛れ翔ける人影が1つ。
 アイリスだ。
「優先事項は、アルカチーノの首一つ」
 イズマたち陽動部隊。
 そして、ヴァレーリヤたち奇襲部隊。
 敵の注意を引く仲間たちを横目に見ながら、アイリスは一路、丘の上へと辿り着く。
 ずらりと並ぶ幾つもの天幕。
 死角が生まれないよう、考え抜かれた配置のように思われる。
 その中央には、男が3人。中央に座す大柄な男がアルカチーノで間違いないだろう。
 戦況を確認しながら部下を走らせ、防衛にあたる兵士たちへと次々に指示を飛ばしているようだ。
 元軍属。経験も豊富と聞いている。
 なるほど、前評判に嘘偽りはないようだ。
「首魁を抑えれれば統率を乱せて、制圧も時間の問題かな」
 アルカチーノ隊の練度は高い。
 だが、アルカチーノ1人に負担の全てを任せた、危ういバランスの部隊であるように思われた。部下の1人ひとりを歴戦の軍人に育て上げるには、結成してから今までの期間があまりに短すぎる。
「咎人共に情状酌量の余地は無し……どんな思惑が有るにせよやらせないよ?」
 姿勢を低くし、機械仕掛けの刀を構える。
 アイリスは地面を蹴って、アルカチーノ目掛けて疾走を開始した。

 砲弾が大地を抉り、土砂と衝撃を撒き散らす。
 爆炎と衝撃波を浴びたイズマの身体が、大地を何度も跳ねて転がる。髪も顔も煤だらけ。衣服や焼け焦げ、泥に塗れた。
 地面に倒れ伏したイズマは、荒い呼吸を繰り返す。
 そうしながら、自分の右手を胸へと置いた。
 手の平から広がった淡い燐光が、イズマの全身を包む。
「っ……!」
 咳を何度か繰り返し、口の端から血を零す。
 立ち上がったイズマは、泥だらけの細剣を腰の位置で構えた。
「攻撃を受け切って勝ってやる……!」
 まずはお返しとばかりに1撃。
 空気を斬り裂く音がして、魔力の砲が放たれた。

 魔力の砲が大地を抉る。
 その数は2つ。
 イズマと汰磨羈の同時攻撃に巻き込まれ、兵士の1人が大地に伏した。
「戦車の脚がやられた! 退げるか!?」
「退げるな! 主砲は……反動が大きいか。ライフルを使え!」
 虎の子の多脚戦車が破損したことで、兵士たちの間に動揺が走った。
 脚の1本を失った多脚戦車は、ぎこちない動きでライフルを稼動。狙う先にいるのは汰磨羈だ。
 だが、汰磨羈の動きは速い。
「狙いは適当でいい! 撃て! 撃てば当た……っ!?」
 指揮をしていた男の声がプツリと途切れた。
 その手から、マシンガンが地に落ちる。
 その胸を、黒く塗られた刃が刺し貫いている。
 血濡れた刃が引き抜かれるのと、男の身体が地に伏すのは同時。
「何もしなければ、別に殺める必要もなかったのですけどね」
 男の背後に立っていたのは黒衣の女だ。
 瑠璃は刀を逆手に持ち替え、腰を落とした。そのまま前転。残った2人の兵士の間へ移動する。2人の銃口が瑠璃を向くが、引き金が引かれることは無かった。
 射線が重なっているせいで、銃弾を放てば仲間に当たる。
 にぃ、と瑠璃が口角を上げた。
 その背後で、多脚戦車がライフル弾を発射。轟音が空気を震わせる。

 弾丸を刀の腹で受け流す。
 空気の波が、汰磨羈の鼓膜を破っただろう。
 右の耳から血を流しながら、汰磨羈は走る。
 多脚戦車の手前で地面に身を鎮め、車体の真下を滑り抜けた。
「蒸気機関である以上、動力からの排気は必須。なら、その排気熱を辿ればいいだけの話!」
 汰磨羈の目には熱源が視えている。
 視えているのなら、破壊もできる。いかに頑丈な多脚戦車とはいえ、動力を破壊されれば動きは止まる。
 排気口があるのなら、なおさらに話は早い。
 分厚い鉄板ならいざ知らず、装甲の薄い排気口など汰磨羈の愛刀『愛染童子餓慈郎』の前では木板と大して変わらないのだ。
 故に、1撃。
「随分と手を焼いたぞ」
 汰磨羈の刺突が、多脚戦車の動力部を寸分違わず貫き壊した。

●躰の道
 7人の男が、地面に転がっている。
 深い裂傷に、複数の骨折。重症だが、誰1人として死んではいない。
「せっかくあの冬を生き延びたのですもの。粗末にしたら勿体ないでしょう? 分かったら真面目に働きなさい!」
 ヴァレーリヤの声は、男たちの耳には届いていないだろう。
 だが、言わずにはいられなかった。
 額から流れる血を拭い、肺に溜まった熱い空気を吐き出した。
「戦いの中で死ねるなんて、甘い考えは捨てる事です」
 荒い呼吸を繰り返しながら、オリーブが言葉を引き継ぐ。捕縛用の縄も用意しているが、どうやら必要は無さそうだ。
 
 腹から血を零しながら、アイリスは天幕の影へと身体を潜ませた。
 潜ませて、けれど動きは止めない。
 地面を這うように疾走し、天幕の反対側へ。
 アイリスを追って、兵士の1人が顔を覗かす。だが、彼がアイリスを視認することは無かった。
「悪いね。仕事なんだ」
 兵士が顔を覗かせた時、アイリスは既に剣を振るっていたからだ。

「オッサンはさっさと引退して、静かに隠居でもしてるんだな!」
 葵のシュートが、アルカチーノの手から銃を叩き落した。
 部隊は壊滅。
 残るはアルカチーノ1人。
 作戦は失敗。経戦能力は失われた。
 撤退か、降参か……それとも、徹底抗戦か。
 アルカチーノが選択したのは3つ目だ。
「来い。部下たちほどに温くはないぞ」
 鍛え抜かれた太い腕で繰り出す殴打が、義弘の頬を打ち抜いた。
 一瞬、義弘の巨体が揺れる。
 衝撃が、頬から脳へと突き抜けたのだ。
「年寄りの冷や水はほどほどにしとけよ」
 歯を食いしばり義弘は耐えた。
 耐えて、大地を踏み締めて、カウンターをアルカチーノの顎へと打ち込む。
 鍛え抜かれたアルカチーノの身体が浮いた。
 浮いたが、しかし、それだけだ。
 振り下ろす拳が義弘の肩を叩く。
 骨が軋んで、腕が痺れた。
 沈んだ上半身。低い位置にある義弘の顔面へ、アルカチーノは膝を叩き込む。
 ぐしゃり、と。
 鼻の骨が砕けた鈍い音がした。
 続けざまの一撃は、義弘の膝を狙った前蹴りだ。
 人体の弱い部分を的確に狙う軍隊仕込みの格闘術。
 対するは、実戦で鍛えた常人離れした膂力。
 膝を蹴られ、鼻を潰されながらも義弘は、アルカチーノの脚を取る。
 体勢を崩したアルカチーノの腰を掴むと、そのままその体を持ち上げた。
「っ……!?」
「持ち上げられるのに慣れちゃいねぇだろ」
 アルカチーノを持ち上げる。
 義弘だからこそ、出来たことだ。
 そして、義弘はアルカチーノをまるで木箱か何かのように、大地に向けて叩き落した。
 否、叩きつける、といった方が正しいか。
 大地が揺れるほどの轟音。
 頭蓋に罅は入っただろうし、内臓にも損傷を負わせただろう。
 肺の空気を吐き出して、アルカチーノが意識を失う。
 脱力したアルカチーノの身体を投げて、義弘は視線を拠点の端へ……たった今しがた、破壊されたばかりの多脚戦車を見やって、顔を濡らす血を拭う。
「……再起を図りたかったのかね、こいつでよ」
 完全に機能を停止させた多脚戦車が、何かを答えることはない。

成否

成功

MVP

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
ラムダ・アイリス(p3p008609)[重傷]
血風旋華
イズマ・トーティス(p3p009471)[重傷]
青き鋼の音色

あとがき

お疲れ様です。
アルカチーノ隊は壊滅。生存者は捕縛されました。
依頼は成功となります。

この度は、ご参加いただきありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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