ホット・サマー・エレメンツ

オープニング

●茹だる様な、夏
「あついぃ……」
　と、ラーシア・フェリル（p3n000012）は、あなた達の傍でそう声を上げた。そう言われてしまえば、あえて気にしていなかったことを、酷く頭の中でリフレインしてしまう。熱い。暑い。あつい。そいう言う言葉。
　今年の夏は暑い。まぁ、年中暑かった気がしたが、殊、今年の夏はおかしい。たしか、そうあなた達に告げたのは、依頼主の老人だった。

「ファイア・エレメントが暴走しておりまして」
　と、その老人はあなた達に告げた。深緑の、迷宮森林のとある地域に存在する、大きな村である。近隣に大きな河川があって、その涼やかさから、夏の避暑地としてその名を知られている。
　そんな避暑地であったが、今年はラサの砂漠もかくや、というほどに、暑かった。異常気象ともいえたが、しかし全国的に、どこもかしこもこんな暑いわけではない。局所的、といえるわけだ。そうなれば、なにがしかの問題が起きている、と考えるのが当然――。
「以前もどこかでこんなことがあったらしいのですが、火の精霊たち――これは本来無害なものたちなのですが、何らかのきっかけで、酷く熱を放ってしまうそうです」
「ああ、それで」
　と、仲間の一人が汗を拭きながら言った。
「こんなに暑く……？」
　あなたたちがいるのは、街の集会所であったが、窓の外には、まるで陽炎のような熱気が渦巻いているのが見える。本来は涼やかであろうこの村は、しかし茹だるような暑さに、住民たちも観光客たちも困惑していた。
「フル・プレートとか着ていたら、きっと目玉焼きが作れますよ」
「そうですなぁ。我々もほとほと困り果てていまして……」
「という事は、今回の依頼は、ファイア・エレメントの討伐でしょうか？」
　小首をかしげるのは、この仕事を持ってきた情報屋の、ラーシアである。その言葉に、老人は頭を振ると、
「いえ、彼の精霊たちもある意味被害者。あまり無下にするのも心苦しい」
「でも、さすがに……」
　仲間の一人が、水筒で水を飲みながら言う。
「これはしんどいわよ……？」
「そこで、練達の方や、魔術師の方と協力しましてな。このような装備を作ったのです」
　と、老人が差し出したのは、タンクと、それにつながった水鉄砲である。
「これ装備して、ファイア・エレメントを冷やしてきてほしいのですよ。中に簡易な給水の護符が仕込まれていて、一日程度なら、水切れを起こすことはありますまい」
「あー、なるほど……そう言う感じのお仕事ですね……」
　仲間の一人がそう言いながらタンクを背負うのへ、老人が止めた。
「ああ、それから、こちらの耐熱装備も用意いたしましたので、是非着て行ってください」
　そう差し出されたのは、随分と布地の少ない服だった。
　っていうか水着だった。
「……水着を着て、水鉄砲で、ファイア・エレメントを冷やす……？」
「あー、なるほど……そう言う感じのお仕事ですね……」
　仲間たちが改めてそういうのへ、あなたもなんとなく、納得していた。

　そういうわけで、現場に向かう。水着には保護の術式がかけられていて、森の中でも肌に傷がつくようなことはない。
「とはいえ、暑いものは暑いわけで」
　仲間の一人が言うのへ、あなたもとうとう同意した。目を逸らしていたが、暑い。腰には水鉄砲用の給水ベルトと、自分たち用の給水水筒が吊るされている。熱中症になる前に飲まなければなるまい。
「でも、首尾よくエレメントを鎮められたら、一日河川のキャンプ場を貸し切りにしてくれるそうなので……」
　と、仲間の一人が言う。老人からの報酬の内、せめてものボーナスとして、一日キャンプ場を貸し切りにしてくれるという事だった。本来ならば、涼しく夏を過ごせる、穏やかな河川の近くのキャンプ場だ。早めに仕事を済ませて、遊んでしまうのもいいだろう。
「それじゃあ、頑張りましょうね～」
　ラーシアが熱さにへにゃっとした感じで言う。そう言われてみれば、随分と熱い熱気が近づいてきているようで、目を向ければ、赤い球体のような、炎のエレメントたちが漂っているのが見えた。
　近づくだけでうんざりするほど暑いわけだが、これも仕事だしこれが終わればキャンプ場で涼しくドリンク、と行けるわけである。
　そんなわけで、あなたも意を決して、水鉄砲を構えた。夏のちょっとした休みのための、まずは一仕事と行こう。

参加者 : 8 人

冒険が終了しました！　リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧（8人）

サポートNPC一覧（1人）

リプレイ

●熱さ、暑さ
「ふぅ……」
　と、『比翼連理・攻』桜咲 珠緒（p3p004426）は、額の汗をぬぐいつつ、小さく息を吐いて見せた。
　深緑の、とある森の中。本来は、夏の暑さの中に清涼な涼風を感じられる、いわゆる『避暑地』に分類される涼しい場所なのであったが、今日にいたっては、まさに『茹だる様な』暑さ、いや、熱さに支配されている。
「大丈夫かしら？　一応、耐熱装備ってことなんだけれど」
　『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ（p3p002246）がそういう。皆が装備しているのは、一見すれば、『水着と、水鉄砲と、給水タンク』だ。いくら熱いとはいえ、森の中でつける装備ではないように思えたが、実はこれが、練達の科学技術やら、深緑の魔術やらで作り上げた、『耐熱装備』であるという。
「ええ、ええ……確かに、着替える前よりはずっとましです。
　……いつもの服装でいたら、倒れてしまっていたかもしれませんね」
　ふらり、と珠緒がほほ笑む。耐熱装備は、ある程度の熱への耐性を与えるが、それでもこの暑さ。
「えっと、皆も、暑さにつらくなったら言ってね？
　ちゃんと水分を補給しないと。
　特に、その。ウェールさんとアクセルさんはもふもふだし……」
　そう、『比翼連理・護』藤野 蛍（p3p003861）が言う。確かに、『永炎勇狼』ウェール＝ナイトボート（p3p000561）や『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル（p3p000649）は自前の毛皮を着ているようなものかもしれない。
「ン……まぁ、俺はなれた様なものだから……暑いには暑いが、それでも。
　それに、このもふもふも悪くない。
　特にしっぽなどは、息子も枕にしてくれたりしてな……」
　ふふ、とウェールが楽しげに笑った。
「あー、オイラは雪国出身だから、ちょっと暑いかも……」
　アクセルが、水筒から水をストローで吸いつつ、言う。
「でも、これも火の精霊が暴走してるからなんだよね？　速く助けてあげないとね」
　アクセルの言う通り、今回の熱波の原因は、火の精霊の暴走にあるという事だった。どうにも、周辺にたまった熱を発散してしまうらしい。
「というか、深緑にも火の精霊みたいなの、いるのね」
　『約束の果てへ』セチア・リリー・スノードロップ（p3p009573）が、むー、とほっぺに人差し指を当てつつ、言った。
「ほら、クェ……某オルド種が何かと火にブチギレてた印象が強すぎるせいで」
「確かに、深緑は火は厳禁だけどな」
　『真意の証明』クロバ・フユツキ（p3p000145）が苦笑した。
「いるにはいるんだろう。相手も自然現象のようなものだからな。迷惑です、といったところでいなくなってくれるわけもないさ。
　それに、今回のは、悪意のない、本当に事故みたいなものだから」
「そうだね。ファイア・エレメントも苦しんでるんだと思う」
　『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ（p3p006562）が言った。
「こんなに暑いのは異常だし、街の人たちも、なるべくなら穏便に、って言ってたから。きっと、本当は悪い精霊じゃないんだろうね」
「そうだろうな」
　うんうん、とクロバが言う。
「でも、せめて冬に出てほしかったのです……」
　ふらり、と珠緒が額に手をやるのへ、ジルーシャが水筒を差し出してあげた。
「それはそれで問題ありそうだけどね……？
　あ、居たわ。あの子たちよね？」
　そう、ジルーシャが指をさしてみれば、なるほど、確かに、熱を帯びた球体のような精霊たちの姿があった。赤い宝石のようなその体は、周りに陽炎の様に熱気をまとっている。
「……確かに。なんだか、あの子たちも苦しそうね？」
　蛍が、むむむ、と唸る。どこかふらふらとした様子の精霊たちだ。きっと、彼ら自身も、自分の放つ熱気に参っているのだろう……。
「そうね……早く何とかしてあげなくちゃ！」
　うん、とセチアが頷く。クロバもうなづいて、麦わら帽子を深くかぶりなおした。
「ああ……俺達の体力が尽きる前に、何とかしてやらないとな……！」
「ええ、のんびりやれる状況でもありません……熱中症になる前に済ませましょう……」
　珠緒が言うのへ、アクセルが頷く。
「さんせーい。むしろ、オイラが水かぶりたいくらいだよ……」
　それは、仲間たちのだれもが頷くところだろう。何なら、今手にしている水鉄砲を、お互いにかけたって涼をとりたいところである。
　とはいえ。ここからはお仕事だ。
「それじゃあ、始めるよ……ううん、水鉄砲で水をかけあう戦いっていうのも、なんだか変な感じだけれど」
　ウィリアムが苦笑する。
「終わったら涼しいキャンプだ。それを楽しみに、頑張るとしよう」
　ウェールがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
　そして、局地的に熱い戦いが、ここに始まろうとしていた――！

●ウォーター・サバイバル
「ウェールさん、ボクたちでエレメントを引き付けましょう！」
　蛍の提案に、ウェールはうなづく。
「ああ、任せてくれ」
　重傷の体をおしつつ、しかし前にである。もふもふの体は、当然のことながら、熱気をため込んでいた。
「……水飲んでもいいかな？」
「どうぞどうぞ」
　すでに水筒に口をつけていたクロバがそういう。ウェールが、ゴクリ、と水を一口。水の呪符の力で、しばらく水が枯れることはないだろうが、それはそれとして、この熱気に、いつまでも体力が持つとは思えない。
「……改めて。
　行くぞ、蛍さん！」
「ええ！　任せて！　このくらいなんともないけど暑いっ！」
　二人の盾役が、敢然とファイアエレメントの前に立って、そのまま悲鳴を上げた。暑い。とにかく熱い。
「うう、じりじり焼けてくる感じ……。多少燃やされたところで対抗はできるけど、それはそれとして……」
「頑張ってくださいませ、蛍さん」
　珠緒がかちゃり、と水鉄砲を構えながら言う。
「なるべく、たくさんを巻き込んで攻撃しましょう……ええと、モードを範囲攻撃モードにして……」
　カチカチとダイヤルを回して、水鉄砲の発射モードを変える。そのまま、珠緒がトリガーをひくと、一定範囲に水鉄砲が水を吐き出した。その水が、ファイアエレメントにかかって、じゅわあ、と音を上げる。
「い、一瞬で蒸発してる……！」
　アクセルが思わず目を丸くした。
「一度や二度じゃとてもじゃないけど冷えないね、きっと」
「あんなに熱いなら、本当に、エレメントたちもかわいそうだわ」
　セチアがそうつぶやいて、意を決したように叫んだ。
「ねぇ、どうしてそんなに熱気を放っているの？　その理由を私に教えてくれないかしら！
　討伐せず鎮めて欲しいと貴方達を心配していた老人が居たわ！　暴走するぐらい困っているなら彼も私達も協力するから！」
　そういうのへ、エレメントたちが明滅して、答えを返してくれた。セチアが頷く。
「なるほど……夏の熱気を、どうしてもうまく放出できない子が出てくるの……。
　そういう子が、こうやって高熱を発しちゃうのね……！」
「となると、やっぱり水をかけてあげるのは理にかなってるんだね」
　ウィリアムが言った。
「夏の熱気を、冷まさせてあげればいいわけだから。
　ただ、向こうも暴走はしてるみたいだから……！」
　とはいえ、ただ黙ってエレメントたちも水をかけられてくれるわけではないようだ。暴走した熱は周囲に無差別に襲い掛かってしまうし、そうなれば、多少なりとも、イレギュラーズたちと言えども傷つくことは免れない。
　ウィリアムは、水鉄砲をケイオスタイドモードに切り替えると、まるで津波のごとき水流の水鉄砲を放つ。ばしゃばしゃと水の間に揺れるファイアエレメントは、それでもどこか楽しそうに見える。
「まぁ、こうなったら、ストレスをちゃんと発散させてあげるのがいいわね？」
　ジルーシャがにこりと笑う。
「アンタたち、力が有り余っちゃって仕方ないのよね？　遠慮なく、思いっきりかかってきなさいな♪」
　そういって、水鉄砲の引き金を引く。勢いよく放たれた水が、今度はばしゃり、とファイアエレメントを飲み込んだ。じゅうじゅう、という蒸発する音が、水の勢いにやがて衰え、しゅう、という静かな音に変わった時には、幾分か熱気の和らぎ、すっきりした顔（？）のファイアエレメントの姿があった。
「お、一人すっきりしたみたいだな。よし、君はちょっとどいておいてくれ。他のエレメントたちも、冷やしてやるから」
　クロバがそういうと、冷却されたエレメントがふよふよとわきにどく。そのまま、クロバが水鉄砲を、さながらガンブレードのように振るい、水による斬撃で冷却を試みる。鋭い水流は、エレメントの体にまとっていた熱気を、見事に切り裂いた。しゅう、と静かな音を立てたファイアエレメントが、些かすっきりした様子で飛び回る。
「喜んでるみたいね？」
　ジルーシャが言うのへ、アクセルが頷いた。
「うん、まるではしゃいでるみたいだ。
　火のエレメントも、暑いときに水かけてもらうと嬉しいんだな……」
　うんうん、とアクセルが頷き、そのまま、氷の混じった水をバシャバシャとかけ始める。安全な戦い、とは言えないが、戦闘、というにはいささかのんきともいえる光景が、広がっていた。水着を着て、水鉄砲を打ち合う姿は、本人たちの意思はどこにあれ、どこか楽しげに見える。
「ふ……なんだろうな、そう思うと、楽しく思えてくる」
　ウェールがついつい、苦笑めいた笑顔を浮かべる。まだまだ熱波は残っていたが、しかしどこか楽しい気持ちになったのは、この後のキャンプのおかげだけというわけではあるまい。
　じゅう、と水をかければ、ファイアエレメントがすっきりした様子で、まるではしゃぐように戦線を離脱する。なんとなく、向こうもまるで遊んでいるかのような気持ちになっているのだろう。
　さて、そんなこんなの水鉄砲の打ち合いも、気づけば終わりの時を迎えようとしていた。
「では、貴方で終わりなのです」
　珠緒が、勢いよく水鉄砲でファイアエレメントを撃てば、しゅう、と音を立ててその熱気が収まる。気づけば、あたりは随分と涼やかさを取り戻していた。これが本来の、この避暑地の気温なのだろう。
「お疲れ様～！　暑かったわね」
　蛍が苦笑するのへ、セチアが頷く。
「そうね。でも、これでこの子たちも無事、落ち着いたことだし」
「あとは、キャンプか」
　ウェールが嬉しそうに言った。
「せっかくの報酬だ。存分に甘えさせてもらおう……いつか子供たちとキャンプに行くときの予行演習にしなければ」
「貴方たちも、せっかくだから一緒に遊びましょ？」
　そう誘うセチアに、ウィリアムもうなづいた。
「そうだね。君たちもつらかっただろうから、お休みは必要だよ？」
　笑顔でそういうウィリアム。ファイアエレメントたちは、嬉しそうにふよふよと漂って、二人の周りに集まった。
「ふふ、良かったわね……いや、でも、あなた達、普通の時でも結構暑いのね……？」
　小首をかしげるセチアに、仲間たちは楽しげに笑ってみせるのだった。

●報酬のひと時
　さて、本来この辺りは避暑地。という事で、大きな川に併設されたキャンプ場が存在する。
　イレギュラーズたちは、今回の仕事の報酬として、一日このキャンプ場を無償で提供してもらえることになっていた。
「ふむ……キャンプといえば、バーベキュー……そして花火だ」
　ウェールがそういうのへ、ファイアエレメントたちが真面目そうにふよふよと漂っていた。
「あなたたちにとっても重要な役目だ。ジルーシャさんやアクセルさんのいう事に従って、準備を手伝ってほしい」
　うなづくように、ファイアエレメントたちがふよふよと漂っている。ほんとにわかっているのだろうか。
　さて、川がある。という事は、釣りも楽しめるという事である。
　クロバなどは、さっそく釣り具を用意して、ラーシアを誘って川の上流へ。
「クロバさんの言う通り、水辺は特に涼しいですね」
　微笑むラーシアに、クロバはうなづいて……視線を水着にくぎ付けになってしまった。
「……む。どこを見てらっしゃるのですか？」
　いたずらっぽくほほを膨らませて見せるラーシアに、慌てたようにクロバが手を振る。
「いや！　決して変な目で見てないです！　本当だから！　似合ってると思っただけだから！！」
　わたわたと慌てるように、ラーシアは楽しげに笑って返すのである。
　川釣りをしているのは、クロバだけではなくて、ウィリアムもそうだ。ウィリアムは慌てるクロバの様子を皆がら、くすりと笑う。
「あれじゃあ、釣果は期待できなさそうかな？」
　そういって、釣り糸を垂らす。針の先についた、虫を模した疑似餌を、まるで生きているように揺らしながら、涼しい風に身をゆだねてみた。
「さっきまでの暑さが嘘みたいだ。あ、君を責めてるわけじゃなくてね？」
　あたりにふよふよと漂うファイアエレメントに笑いかけつつ、水面に視線を移す。
「……本当は、君もこんな穏やかな気候で、穏やかに過ごしていたわけだ。
　災難だったね」
　そういうウィリアムの言葉を、ファイアエレメントは知ってか知らずか。ふよふよと、楽し気にたたずむのみである。
　少し視線を動かしてみれば、珠緒と蛍の姿もある。
「木や石と思えるほど自然と一体化することで、魚に気づかれないと聞きます」
　気配を消し、自然と一体化する――自らを消し、気配を殺した珠緒の隣にある魚籠の中には、釣果の川魚がいくつも入っていた。
「……」
　蛍も、どこか声をかけづらく、釣り座をに集中する。珠緒のそれほどではなかったが、魚籠の中には何匹かの魚の姿が見える。
　でも……と、心の中で蛍は思う。どうせ川に来て、水着なのだから、川遊びなんかもしてみたい……と、思うものであるのだが。
　でも、珠緒さん、なんだか楽しそうだし。こういう落ち着いた遊びの方が、やっぱり好きなのかな……とやきもきもしてみたり。
　珠緒も珠緒で、そんな蛍の様子をに気付かないわけでもなかった。くす、と笑うと、釣り糸を上げる。
「……さて。釣りの方も、これくらいで充分だと思います」
　そういって、珠緒は微笑んだ。
「せっかくの水着です。しっかり濡れなければ不作法というもの……。
　というわけで、蛍さん。少し下流の方に良いって、釣りの邪魔にならないところで遊びましょう。
　珠緒は、あまりそういった遊びに詳しくはないのですが……蛍さんとなら、水に浸かっているだけでも楽しめますよ」
　そういう珠緒に、蛍はぱぁ、と表情を明るくしてみせた。
「え、ええ。そうね！
　さっきも水鉄砲で戦ったけれど、今度はちゃんと、遊びたい、って思ってたの。
　だから、ええと……」
　うう、と蛍は視線を落としながら、
「とにかく、行ってから考えましょ！　……ボクも、珠緒さんと一緒なら、何だって楽しいの。ほんとよ？」
　そういう蛍へ、珠緒は手を差し出して見せた。

「アクセルさん、かまどってこういう感じかしら？」
　セチアがそういうのへ、アクセルが頷いて見せた。
「うん、よくできてる！　オイラの方も、ほら、みてよ！」
　そういってバーベキュー用のかまどを作って見せた。大がかりなもので、網もたっぷりのものを用意したのだ。ちなみに、深緑は基本的に日は厳禁と言えど、今回は特別にちゃんと許可をとっている。
「よーし、アンタたちも手伝って頂戴な♪　力を貸してくれたら、お礼においしいご飯をあげるわよ」
　ジルーシャの言葉に、ファイアエレメントたちが頷くように漂った。そのまま、案内されるままに、かまどの中に入り込む。
「じゃあ、まきや炭を入れるから、火をつけて頂戴ね？」
　ジルーシャの言葉に、ファイアエレメントたちは、熱を発することで返した。ぼぼぼ、と、今度はしっかりと熱を調整できるようで、瞬く間にまきや炭に火をつけている。
「うーん、こうやってやってくれると、本当に便利だよねぇ」
　アクセルがうんうんとうなづいて見せる。暴走しているときは厄介といえたが、しかし今はありがたい友といえる。
「こっちのかまどは、ご飯を炊いておくわね。飯盒も用意しておいたわ！」
　セチアが言うのへ、アクセルが頷く。
「川魚も、串にさしてそっちで焼こうか。こっちは、持ってきたお肉や野菜を焼こう。
　ふふ、たのしみだなぁ。オイラ、葦笛もってるから、BGM代わりに演奏するよ！
　こういうときの音楽って格別だよね！」
「いいわねぇ。ちょうど日も落ちてきたころだし、雰囲気もいい具合だわ♪」
　ジルーシャがほほ笑む。セチアがかまどの中のファイアエレメントたちへ視線を向けた。
「お疲れ様。手伝ってくれてありがとう……ね？」
　その言葉に喜ぶように、ファイアエレメントたちがゆらゆらと揺れて見せた。彼らのおこす火が、夕焼けの色のように橙色に染まって、ぱちぱちとはぜる。それは、日中のただ暑いだけのそれではなくて、彼らのやさしさや友情の意のようなものが感じられるものだった。

「さて……日帰りではあるのだが。帰る前に、花火でもしようか」
　ウェールがそういうのへ、仲間たちはうなづいた。
　バーベキューを楽しみ、アクセルの演奏にしっかりと疲れをいやした仲間たちは、この日の最後の締めに、と花火を計画していたわけだ。
「まぁ、もちろん、本当に打ち上げ花火とはいかないのだが……小さな手持ちの花火は許可してくれたし、俺が明かりをもって飛ぶから、それを打ち上げ花火の代わりにしよう」
　ウェールが笑う。さすがに、打ち上げ花火の許可は下りなかったようだが、しっかりと片づけをしてくれれば、キャンプ場での手持ち花火くらいは許してもらえたものだ。
　ファイアエレメントたちが、火種代わりにぼぼぼ、と体を燃やす。
「ふむ。これだけでも、なんだか風情があるなぁ」
　クロバがうんうんと嘆息する。精霊の明かりは、どことない郷愁を感じさせる、優しい赤だった。
「いろいろ用意してもらったからね。しっかり楽しもうか」
　ウィリアムが、花火を手にもって、笑う。もうすぐ夏の一日は終わりを告げるが、そのぎりぎりまで、休息と思い出をつくろうと、皆は決めていた。
「よし、じゃあ、最初は大きく……！」
　ウェールが、明かりをもって空へと飛行する。そのまま、『星灯り』を起動させた。すると、うっすらと暗闇迫る、夕と夜の間に、花火みたいな光と、音が響いて、地上の人々の目に映った。
　それは、近くの避暑地の村でもよく映って、事情を知る依頼主や、観光客を楽しませたものだった。ウェールは星灯りをいくつも上げて、暮れの空を彩った。暑い夏の、涼やかな日を告げるかのように、その花火は長く、たくさん、夜空に咲いていたのである。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

　ご参加ありがとうございました。
　皆さんの活躍と好意により、エレメントたちは落ち着き、すっかり楽しんでくれたようです。