PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<烈日の焦土>Ring a Ding Dong

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ベル
 幻想王国と鉄帝国の国境沿いでは『戦場』が広がっている。それは肥沃な土地を求めた鉄帝国による侵略行為の象徴とも言える場所だ。
 幻想から見れば北部戦線と呼ばれ、アーベントロート家の力の強いこの戦場は現在膠着状態とも言える。
 幻想国内の暴動や、鉄帝国側の『冠位魔種』の凶行が重なった事で目立った侵略行為は行なわれていないのだ。
 そんな戦場近くの険しい山岳地帯にベルと呼ばれた小さな部族の集落がある。
 季節事に住む場所を変える彼等は羊や山羊、牛といった家畜を飼い、牧畜や毛織物、刺繍細工で生計を立てている。
 丁度今は夏だ。山の中腹にある夏の村(サマー・ベル)に移動を終えて、日々を穏やかに過ごしていることだろう。
 外部との交流はそれ程多くはない。
 それでも、村で作った乳製品や工芸品の交易は盛んに行なわれている為にその存在は周辺集落にも確認されている。
 ――そんな『ベル』に最近は奇妙な出来事が起こり始めたのだ。

「家畜が襲われている、ですか」
 メイメイ・ルー (p3p004460)は集落の話を黙って聞いていたが、新たに齎された依頼内容を聞いてから僅かに目を瞠った。
「ベルという集落近くでの事なのだそうだ。どうやら何らかの『遂行者による仕掛け』が発見されているのだそうだ。
 それで天義騎士団が確認に赴くのだがイレギュラーズも同行して欲しい――との……事らしいのだが、メイメイ?」
 びくり、とメイメイの肩が揺れた。建葉・晴明 (p3n000180)は青褪めたメイメイを一瞥してからやや不思議そうに眺める。
「あ……いいえ。ベルの近く、ですね」
「ああ」
 メイメイは晴明にまだ言って居ないことがある。ベルとは自身の故郷なのだ。それも――『何故か故郷を追い出された』のである。
 旅立ちの真実を知りたいと、メイメイはそう考えていた。
 自身がどうして突如として村を追われたのか。確かめに行くために悩んでいたのは確かだ。
(……そういう、因果、なのでしょうか……)
 メイメイは思い悩むように顔を上げて「ベルは、知っています。故郷、です」と静かな声音でそう言った。
「ただ、随分と帰っていません、から……周辺の調査と、遂行者の対応です、ね」
「故郷には?」
「……いえ」
 ふるふると首を振った。今、求められているのは故郷の対応だ。
 家畜が喰われるという話だけではない。最近は、その周辺で配達の担当者が姿を消したと言うものもあった。
「何が起こっている、のでしょうか」
「騎士団の話では……遂行者達が何らかの聖遺物を設置した影響を受け、狂気の伝播が起こっているのではないか、と。
 ただ、それにしては家畜などの被害が大きい。もしかすると、何らか別の存在が潜んでいる可能性がある」
 晴明は資料を眺めながら静かな声音でそう言った。
 遂行者達が『南部戦線』の各地に様々な仕掛を施しているとは耳にしている。その一つが、呼び声を発生させる狂気の拡散装置なのだそうだ。
 それを何者かが幻想国内へと踏み入るようにして持ち込んだ可能性がある。それが広範囲に広がるならば防がねばならない。
「では、探しに、行きましょうか」

●空腹の狼
 ――腹が減った。
 頭はぼんやりとしている。久しく故郷である鉄帝国には戻っては居なかったが動乱の気配を受け、覗きに行ったことで『彼』はある落とし物を拾った。
 金に鈍く光った球体だ。ソレを手にするとどうしたことか心が落ち着いたのだ。
 男は空腹だった。暴食の気配を宿し、狂気に迸っている。
 村々の間を駆け回る物資配送を行って居た男を喰ったがそれでも腹は満たされなかった。
 牧畜を行って居た男と、その男の飼う羊の子を丸呑みしたときは幾許か心は穏やかにはなったが、それでも違っていた。
 幾人もを囓る度に己の中に嫌悪感が沸き立つのだ。
 こんな筈ではなかったのに。
 どうして、こんな事を。
 男は鉄帝国の軍人だった。屍の上に座り続ける日々を怖れて、幻想へと逃げ果せた時に出会った獣種の子供を愛していた。
 その子供を不慮の事故で喰らうてから満たされぬままに走り回っている。
 落とし物を拾ってから心が落ち着いた。だが、どうしても『懐かしい匂い』を求めて山へと戻るのだ。
 ベル。そう呼ばれている村は『懐かしくて美味しい匂い』がしていた。
 ……あそこに、喰らってしまった『あの子』がいるのだろうか。
 いや、あの子はもう死んでしまったのに。
 もう一度があれば――

 掌から落ちた球体がてん、てんと転がっていく。その気配を帯びた獣は瞬く間に姿を変質させ駆けだしたのだ

GMコメント

●成功条件
 『金珠』の破壊

●フィールド情報
 ベルと呼ばれる幻想の集落程近く。ベルはメイメイさんの故郷です。
 南部戦線(北部戦線)の付近に存在する山岳地帯です。
 どうやら鉄帝国から幻想側に持ち込まれてしまった聖遺物がありますので、その排除をお願いします。
 青々と茂った草木の印象的な山々です。周辺は木々が生い茂っているため視界はそれ程開けていません。
 街道は人の往来が疏らですがあります。巻込まないようにと注意が必要となるでしょう。

●『金珠』
 美しい金色に鈍く光る球体です。呼び声を発生させています。どうやら内部に何らかの細工が施されているようです。
 紋様が刻まれています。どうやら聖女ルル等とは違うもののようですが、その紋様が刻まれているが故に、呼び声が続いているようです。
 聖遺物のレプリカのようなもののようです。破壊するためには球体に一定ダメージを与えて割、内部に火をくべなくてはなりません。
 どうやら、それを護らねばならないと獣達は本能的に察知しているようです。

●エネミー情報
 ・獣達 数不明
 山にいた獣達です。狼や羊など、様々な獣ですが全てが金珠の影響を受けて狂気状態となって居ます。
 牙を剥きだし、獲物を倒そうとします。また、金珠を護る為に立ち回っているようです。
 一般的なモンスター程度に強化されています。非常に獰猛です。

 ・集配人の男達 5名
 集配人や牧畜で往来を行って居た男達です。狂気状態となっており、金珠を護る為に暴れ回ります。
 どうやらその行動は本意ではないようですが、操られているかのように暴れている為、食い止めるにはある程度の交戦が必要でしょう。
 不殺にて対応することで狂気を取り払うことが出来ます。

 ・????
 何処からか覗いている気配のする『獣』です。何かを探し回っているようですが――

●同行NPC
 建葉晴明が参ります。騎士団のお手伝い気分です。前衛。

  • <烈日の焦土>Ring a Ding Dong完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年07月31日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
ジルーシャ・グレイ(p3p002246)
ベルディグリの傍ら
ヒィロ=エヒト(p3p002503)
瑠璃の刃
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
※参加確定済み※
美咲・マクスウェル(p3p005192)
玻璃の瞳
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)
彼方への祈り

サポートNPC一覧(1人)

建葉・晴明(p3n000180)
中務卿

リプレイ


 生い茂る草木の香しさも、聳え立った山岳の険しさも、遠く眺めることの出来た城塞バーデンドルフ・ラインも、あちらとこちらを隔てる戦場も。
 其れ等全てが『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)にとっての生まれ育った場所だった。
「メイメイちゃんの今日って、とっても素敵な場所ね。
 景色は綺麗だし、空気も美味しいし……物騒な事件が起こっているなんて信じられないくらい」
 肺を満たした空気の心地よさに頬を撫でた風の爽やかな気配までも『ベルディグリの傍ら』ジルーシャ・グレイ(p3p002246)にとっては何れをとっても喜ばしいものだった。
「……めぇ……」
 まさか、こんな形になろうとは。メイメイが視線を遣ったのは『中務卿』建葉・晴明(p3n000180)であった。
 故郷を追われた過去がある。それが何故かは分からず、戻ることまでも禁じられ目を背けてきた自らの故郷。真実を紐解くことは恐ろしく、どの様な神託(しらせ)が合ったが故に故郷へ赴くことを禁じられたのか識る事さえもメイメイは考えてこなかった。けれど――貴方がいた。
(……こんな形で、晴さまに故郷へ来ていただく事になる、なんて……)
 メイメイと呼んだ晴明にふるふると首を振る。「でも、今は、黒衣の使命を果たすのが、最優先、です、ね」と頷きながらも緊張が滲んでいた。
「メイメイちゃん、大丈夫? ……その、住んどったとこの近くやて聞いたから。
 早いとこ探し出して、狂気に囚われてる人たちをもとに戻してあげたいわ。今日はうちもおりますし、何より……中務卿も一緒やものね」
「はい……頼もしい皆さまも、集まって下さいました、し」
 心優しい『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)へと頷きながらもメイメイはその懐かしい空気感に心をざわめかせていた。家畜が襲われ人々へと狂気が伝播しているという。その痛ましさに心を痛ませている居る事だろう。メイメイの道案内を受けながら『玻璃の瞳』美咲・マクスウェル(p3p005192)は眉を顰めた。
(私ら旅人は帰る術がないから、気にしたところでってなるけども。
 届くところにあっても事情で帰れないのは、まぁキツいんだろうねぇ。……本人が望まないなら触れるべきじゃない、のかな)
 異世界より遣ってきた旅人が故郷に戻るが為に尽力する。それは練達の掲げる悲願でもあるが、容易に出来ることではない。ならば、目の前で道案内をしている羊の少女はどうか。同じ世界の、簡単に踏み入れられる場所にある故郷に帰ることを厭われた。
 その状況下で、その周辺で何らかの事件が起きているというのはどのような心持ちなのであろうか。おいそれと口を開けないまま、美咲は「さぁ、お仕事!」と傍らの次郎丸の頭を撫でた。
 美咲とは対照的に『瑠璃の刃』ヒィロ=エヒト(p3p002503)はしっかりと彼女の目を見て決意を語る。
「メイメイちゃんの故郷の近くの話なんでしょ? すっごく心配だよね!
 早く原因を調べて、もし遂行者とか聖遺物なんかが関係してるなら、絶対ぶっ壊してやろうよ!
 ――誰かの大切なモノを奪おうとするなんて、ボク絶対許せないよ!」
「……そうね。そうしましょう」
 彼女の明るい声音に美咲は頷いた。ここは鉄帝国と幻想王国の『はざま』とも呼べる場所だ。幻想から見れば北部戦線(鉄帝国から見れば南部戦線)と呼ばれる侵略の地でもある。
「戦場が近い中で事件があれば一層不安でしょう。それが故郷ならば尚更。助力致しますね」
『想光を紡ぐ』マグタレーナ・マトカ・マハロヴァ(p3p009452)はそっと胸に手を当てて落ち着いた声色でそう言った。
 ひしひしと肌に感じる狂気や餓えた獣の気配を感じ取って鼻先をすんと鳴らした『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)の傍らには『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)が立っていた。
「……待って」
 肩で息をする。調査とは足で行なうモノだ。前行く美咲やヒィロを追掛けて、道案内の命名に従い乍らより『気配』が強い方へと昇っていかねばならない。そう、メイメイの故郷とは山岳地帯にある。つまり――
「山……登る? まじで? 会長死ぬかもしれない……! 持ってくれ、会長の足……!」
 楊枝 茄子子は蒼い顔をして一歩を踏み出した。捜索を精霊達へと一任し、あとは直感任せだ。それ以上は――「ヒィッ」……割いている暇もないかもしれない。


 耳を澄ませて音を辿る。マグタレーナは獰猛な獣達の気配を手繰っていた。其れ等は人間と違い自身等の立てる音を隠そうとはしないだろう。
 動き回れば実に大きな音がするに違いない。興奮状態ならば、その呼吸や心音、咆哮に足音の一つも手がかりにはなる筈だ。
「集配人の男性も狂気に張られているのであれば、行動に生前差も無く息遣いも乱れているでしょう。それも手がかりになるやもしれませんね」
「ええ。そうね。……それにしたって――」
 マグタレーナに頷きながらもジルーシャはちらりとメイメイの背中を見た。黒衣を身に纏う小さな少女。その姿は10代前半だろうか、ジルーシャから見ればまだ小さな子供だ。
(……折角近くまで来たのだもの。屹度帰りたいはずだわ。里帰りしなくていいのかしら……)
 気にはなる。それでもその言葉を飲み込んだのは美咲と同じだ。帰れぬ事情があり、本人が話すことを躊躇うならば触れない傷口であっただろうか。
「待って。……何か、何か近いわ」
「ああ、こりゃあ――」
 ジルーシャにグドルフは「知ってる匂いだ」と頷いた。怪我をして動けない人間や困って彷徨っているモノではないならば遂行者か。
 それとも、その『何らかの影響を受けた存在』で有る可能性さえある。グドルフが知っていると告げた時点で答えは出ていた。
「……こわいものは、近くにいます、か?」
 精霊へと呼び掛けたメイメイは「にげて」と囁かれたことに目を瞠る。嗚呼、本当に嫌な気配がする。
「晴さま」
「ああ」
 晴明が鯉口を切る。じりじりと迫り来る気配を前にマグタレーナは弓を番えた。
「おいおい」
 グドルフは地をじゃり、と踏み締めてから肩を竦めた。周辺の気配が変わった事にジルーシャの肩が跳ね上がる。獣の唸り声に息遣い、周辺から感じたのは血の香りだろうか。
「血腥いね。そうだよね、『獣(けだもの)』は鼻が良いんだもん、美味しい餌がやってきたって思った?」
 ヒィロは鼻をすんすんと鳴らして笑った。耳を欹てていた蜻蛉はゆっくりと瞼を降ろす。穏やかな声音と共に――唇はつい、と吊り上がった。
「ほんまに……お目当てのもののまえに『お迎え』に来て貰ったみたいで。お目当てさんはどこにいらっしゃるのやろ?」
 耳を揺れ動かした蜻蛉はぐったりとしているが「獣の餌にはなりたくないんだよねえ」と呟いている茄子子を振り返り微笑んだ。
「頼りにさせてもろてます」
「まあ、会長だって獣に食べられたくもないしね。まあまあ、ただで死んで貰っても困るし、森が壊滅しないように気を遣うけど――派手にいこうか」
 茄子子の唇がつい、と瑠璃上がった。木々や草花への強い耐性を有する結界を張り巡らして、白紙の免罪符を手にした少女は眼前へと一撃を投ずる。
 その思い切りの良さに悪くはないとグドルフは笑った。ああ、だって――この場の何者も『悪くはないなら助けたい』と願う仲間達が一緒なのだ。
「ゲッ、腹ペコどもがウジャウジャいやがる。まァ肉でも毛皮でも引っぺがして、ひと稼ぎさせてもらおうかい。
 ああ? 獣どもも助けてえだあ? ……タク、お優しいこったな!」
 ――自分ならば殺してしまうが、そういうのも『偶には悪くはない』だろう。
 飛び込んできた獣達を薙ぎ払う。払い除けたその向こう側に人間の姿が見えた。だが、ふらつき涎をだらりと垂らしている様は正気には思えない。
「やだぁ、ちょっと、凄い怒ってる感じがするわよ!?」
 ジルーシャがその形相に思わず肩を跳ねさせればヒィロは「任せて」と地を蹴った。『敵対存在』と呼んだ獣達からすればココは庭だ。ならば、奇襲前提で動いた方が良いだろう。
 素早くその存在を感知していたヒィロは勢い良くそれらの前に躍り出て闘志を全開にした。
「そっちは獣でこっちは獣種。同じケダモノ同士、仲良くやろーよ! アハッ」
 嫌な気配がすると呟いたメイメイは「獣達を、お願いします、ね。……お気をつけて!」と晴明へと声を掛けてから自身は巻込まれた配送人太刀之本へと向かった。
 獣達は童謡に家畜は財産だ。其れ等を殺したくはない。メイメイはよく村に配達に来ていた麓の村の男の姿を認め目を瞠った。
「ちょっと痛いけど、堪忍してね! あとでちゃんと手当しますよって」
 その男の意識を刈り取ったのは蜻蛉だ。出来うる限り彼女に負担を掛けたくはなかったのだ。
「ヒィロ!」
「オーケー、美咲さん!」
 ヒィロが引付ける獣達を確認しながら、『気味の悪い気配の位置』を探り続ける。茄子子が拓いた道、その場所を見通す美咲は獣の体を薙ぎ払い続ける。
 何処か、近い。だが、その近くに別物の気配がする。
「何か居るよ」
「そうみたいですね」
 マグタレーナは茄子子へと頷いた。支える役割を担っている茄子子はその歪な気配にもさも興味なさげに眉を吊り上げた。
 本能的にそれが天義のいざこざに巻込まれた『野良の魔種』だと認識したのだ。生憎、それが天義に関わってしまった以上、それ以上関わり合いを持つ事になれば敵対することは避けられないだろうが。
「倒しておいた方が良いんだろうね。天義を舞台にどつきあうことになっちゃうかもしれないし、さ」
 そうは言いながらも、此度は其方は『意識する』程度に留めた。それはマグタレーナとて同じだ。何かを探るかのような動きを繰返している気配を感じ取りながら獣を攻撃し続ける。
 獣達も出来る限り殺したくないという意思を尊重し、仲間達の持ち得るリソースにだけ気を配った。
「足手まといなんだよ、とっとと行きやがれ!」
 配送人の男の軀を薙ぎ倒し、後方へと投げ遣った。此の儘放置していれば獣の餌同然だ。グドルフが投げたその軌跡を眺めてから「あら、よく飛んだ」とジルーシャはぱちくりと瞬いて。
「それにしたって、巻込まれている人達を見る限り、呼び声なのよね。いやね……呼び声を発生させる装置でも鉄帝に持ち込んでいたのかしら?」
「ああ! そうかも!」
 ヒィロがぱちんと手を打ち合わせた。獣達は餓えているのだろうか。ヒィロを餌と認識し大口を開けて飛び込んでくる。だからこそ、去なしやすかった。
 引付けた獣達を話しながらも弾く。ジルーシャは太陽よりも眩い暖か薫りをその周辺へと漂わせながら、獣達を香術へと巻込んだ。
(……ええ、簡単な仕事だわ。けれど、嫌な予感がするのよね……)
 それは先程から周辺を練り歩いている気配だ。徐々に近付いてくる。その気配は『餓えた大型の獣』のようで、気味が悪かったのだ。


 迫り来るのは、一人の男だったのだろう。だが、それは腹を空かせていた。餓えに苦しみ、腹を満たす為に走り続ける。
 男には目的があったのだ。どうしたって満たされぬ腹に『似合う食事』を本能的に察知していた。
 近い――もうすぐだ。
 拾いものであった金珠を握り締めていた掌に力がこもる。そして、それが掌から毀れ落ちて――イレギュラーズの前へとてん、てん、とまごつきながら現れた。
「……金珠!」
 呼んだ茄子子に小さく頷いたのは蜻蛉であった。マグタレーナは転がってきた先の気配を探る。
『山賊』はそうした気配には敏感だった。ぴくりと肩を揺らしてグドルフは振り向いた。メイメイの視線を遮り、先ずは自らが覗き込む。
「ありゃ狼か? それにしちゃあ羊みてえな角はやしやがる」
 羊と狼。まるで童謡のようだとグドルフは呟いた。蜻蛉がそっとメイメイの肩に手をやったのは庇うかのよな仕草である。
 その存在があからさまな程に違うものとして感じられたからだ。「嫌な気配ね」とジルーシャは呟いた。
「……メイメイ、知った存在か?」
「いえ……」
 晴明はその気配に覚えがあると云わんばかりにグドルフと同じ木陰を眺め遣った。其処に何かが居るのは確かだ。彼の言う通り、羊のような巨大な角を持った狼の尾の『魔種』――だろうか。
「本当に血腥い匂いだよね。……あの人は、お腹を空かせているのかな。ずっと、目で追ってるし、それに……」
 ヒィロがちらりと美咲を見た。美咲も同意見だ。あの影より投げ掛けられた視線はメイメイを見ている。何か嫌な予感がすると蜻蛉が身構えたように。
「何が目的、なんて、聞かなくとも『あの村』に関係があるのはメイメイさんだけだもの。
 何か用事? ……簡単に彼女を引き渡す事はしないわ。対話をしてくれるなら別だけれど、しないでしょう?」
 美咲は金珠を前にして『彼』へと話しかけた。暗がりから覗くその姿は、男性のモノだ。
 ヒィロと同じく美咲は目力で見据えた。地元民であるメイメイも知らない存在だと言うが、彼は確かにメイメイを『見ている』のだ。
「……なんだあ、この金ピカの珠ッコロでも探してんのか。悪いなあ、諦めて帰んな。こりゃおれさまのモンだ!
 邪魔しようってんなら、痛ェ目に合うかもしれねえぜ? さあ、どうするよ」
 睨め付ける眸を受けてから影は後方へと下がった。その背中にヒィロは「ねえ、何か知っているの?」と問う。
「……それを、拾った。……獣が、俺の餌を……」
「餌……?」
 何が起こっているのか、どうしてこんな風になったのか、メイメイは知りたいはずだ。それ故に問い掛けたヒィロが眉を顰めた。
 餌、と言ったか。金珠を遂行者が持ち込んだ。鉄帝国に持ち込まれたそれが、此方に転がり込んだのは偶然だったのだろう。鉄帝国の動乱を覗きに行った男がそれを拾い、この場所まで戻って来て――
「腹が減った」
 獣達が豹変した。魔種は『ただ、拾っただけだ』という。だが、その男が此処に居る時点で可笑しな話なのだ。
 平和な山麓の村。ベルと呼ばれた季節事に移り住む羊たちの集落。童謡を思わせると呟くグドルフと同じ感想を抱いてから蜻蛉は聞いた。
「目的は?」
「――ベル」
 メイメイが目を瞠る。庇うように立った晴明は眼前の男は遂行者達の狙いを一つ挫いたが、其の儘新たな厄介事を持ち込んだのだと気付いた。
「帰れ」
 グドルフは言う。お前の居るところではない、と。
 勢い良く手にしていた山賊刀を叩き落としたグドルフは『金珠』を見下ろした。
「こういうヒトを狂わせちまう曰くつきのモンも、高く買うバカってのはいるんだよ。こりゃあ高く売れただろうに、勿体ねえモンだぜ」
「売れそうだけど、でも、あの金珠には何か刻まれてたよ。
 まあ、遂行者ってやつらは体にマークが付いてるからね、そういうのかもしれないけれどさ」
 茄子子はそれをメモしてから懐へと仕舞い込んだ。何処かで見たような気がしたのは気のせいではないだろう。
 ああ、けれど、まだ『その痕(マーク)を持っている者』とは出会っていない。
「誰だろうね、これ」
 形だけは天義で見られる聖遺物の何らかにも似ているかのように感じられるが合致するものは直ぐには分りやしなかった。
 だが、それだけではまだ事足りないか。猫耳をぴんと立てて居た蜻蛉はそっと火を手にしてくべる。
「さぁ、お前さんを燃やさんと駄目みたい。しっかり燃えて頂戴な、これで終わりやよ」
 こんな場所にまで遂行者(かみさま)の存在を持ち込んではならないのだ。
 赫々たる篝火が揺らぐ様子をメイメイはぼんやりと眺めて居る。
(今のわたしなら、大丈夫――)
 そう思えるようになった、けれど。無意識に晴明の袖を掴んでいたメイメイはただ俯いた。
「さて、これからどうなさいますか?」
 周辺を警戒しながらもマグタレーナは静かな声音で問うた。先程の影の気配は一端は遠離ったがそれはメイメイの村の付近を動き回っているのだろう。
 彼自身は屹度、金珠に誘われて此処までやってきただけに違いない。遂行者というものは罪深く、呼び声を発するが為に他の存在を掻き集めてしまうのだろう。
「あの方を追掛けるのも良いかとは思いますが……」
「天義や遂行者、という意味であればあれは誘われてきた別物なのだろうが野放しにすればメイメイの村そのものに影響が及ぶ可能性はあるな」
 マグタレーナは頷いた。天義や遂行者という観点から見れば、それは『たまたま遭遇した魔種がそれに誘われて遣ってきた』だけに過ぎないのだろう。
 もしも手を組む機会があったとしたならば、『金珠』を彼方にとられてしまった時だろう。今回は破壊したのだから安心しても良いだろうが――
「……ねえ、村は、いいの?」
 ジルーシャの問い掛けにメイメイは俯いてから「はい」と呟いた。
「……あの人が、気になり、ます、ね。……こちらを、見ていました、から……」
 美咲とヒィロの推測通り、あの影はメイメイを見ていた。それに――蜻蛉は一言、聞いたのだ。
『あの子と同じ匂いだ』と。
「帰りましょ、う」
「帰ろう。ああ、疲れた。そうしようよ。さぁて、あとは……」
 茄子子が気を取り直したように微笑んでから――足元を見下ろして絶望したような表情を見せた。
「下るかぁ、山。生き残りたい」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした。
彼とは、もう一度相見えそうですね……。

PAGETOPPAGEBOTTOM