PandoraPartyProject

シナリオ詳細

練達ナボコフランド。或いは、遊園地の迷子…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ナボコフランド
 ちゃかぽこ♪ ちゃかぽこ♪
 愉快な音が鳴っている。
 花壇に咲いた色とりどりの花たちが歌う。
 ひざ丈ほどの小さな扉に、見上げるほどの大きな扉。
 喫茶店のテラスでは、山高帽を被った真摯が優雅にお茶など飲んでいる。
「まぁ! なんて素敵! 外の世界は、色と音で溢れているのだわ!」
 人混みの中に立ち尽くし、少女が瞳をキラキラさせた。
 金色の長い髪に、水色の服、エプロンを付けた小柄な少女だ。歳の頃は10を少し超えたぐらいか。まるで“初めて世界に降り立った”みたいに、目に映る何もかもを楽しそうに眺めていた。
 少女の名はエリー。
 とある研究施設で“製造”されたデザイナーベビーだ。
 つい少し前に研究施設から逃げ出したばかり。つまり“初めて世界に降り立った”というのは、的を射た表現であると言えるだろう。
 右へ左へ、忙しなく視線を泳がせているエリーの元へ1体の兎が近づいて来る。
『やぁ! ぼくウサッギー! 今日はたくさん楽しんでいってね!』
 ぎょろりとした目の白い兎だ。肩からは大きな時計を下げている。
 ウサッギーは腰をかがめて、エリーへ風船を手渡した。
 なお、ウサッギーは一見すると着ぐるみのようにしか見えないが、中に人などは入っていない。
「ありがとうなのだわ! ねぇ、ここは一体、なんなのだわ?」
『やぁ! ぼくウサッギー! 今日はたくさん楽しんでいってね!』
「……ウサッギーさん?」
『やぁ! ぼくウサッギー! 今日はたくさん楽しんでいってね!』
 ウサッギーは他の台詞を喋らない。録音された音声がそれだけしかないからだ。
 なお、中に人などは入っていない。
 手を振って立ち去っていくウサッギーを見送って、エリーは「はて?」と首を傾げた。
 それから手にした風船と、そこかしこにある遊具を交互に見つめると、にこりと笑う。
「楽しんでいってね、って言われたのだから楽しまなきゃなのだわ!」
 うん、と大きく頷くとエリーは駆け出して行った。

 エリーの様子を、物陰からじぃと眺める者たちがいた。
「やっとのことで見つけたと思えば……まったく、こんなに人の多い場所に入り込んで」
「騒ぎを起こすのは悪手だな。騒ぎに巻き込まれれば、また見失う可能性もある」
 黒いコートに、黒い帽子、サングラスをかけた2人組。
 片方はひょろりと背が高く、もう片方は小太りだ。遊園地に遊びに来る類の男たちには見えないし、物陰に身を潜めて言葉を交わすその様は、どうしようもないほどに不審であった。
「仕方ない。隙を窺って、搔っ攫うか。お前、弾丸は何を持ってきている?」
 背の高い方の男が問うた。
 小太りの男は、コートの内側からメタリックな拳銃を取り出した。装填された弾丸は20発。それぞれ付与された効果が異なる。
「【封印】、【暗闇】、【石化】……まぁ、十分だろう」
「あぁ、十分だ。では、行くぞ」
 そう言って2人は物陰から、表の通りへ足を踏みだす。

●ナボコフランドに迫る影
 季節は夏。
 空は快晴。
 暑さに溶けるアイスクリームを舐めながら、サンドリヨンは立ち止まる。
「うん?」
 何かを探すみたいにして、首を左右へ巡らせる。
「どうかしましたか? アイス、溶けてしまいますよ?」
 そんなサンドリヨンの様子に気付いて、トール=アシェンプテル (p3p010816)が足を止める。余談ではあるが、サンドリヨンのアイスクリームはチョコとイチゴのミックス。トールはチョコミント味である。
「何か面白そうなものでもあったのだわ?」
 サンドリヨンの傍に近づき、華蓮・ナーサリー・瑞稀 (p3p004864)が問うた。腰をかがめてサンドリヨンと視線を合わせる。ちなみに華蓮のアイスクリームはカスタード味だ。
「うぅん?」
 2人の問いに、サンドリヨンは答えない。
 視線を右へ、左へ、もう一度右へ、それからトールの方へと向ける。
 サンドリヨンの視線を受けて、トールはアイスクリームを差し出して見せた。
「チョコミント味、気になりますか?」
「……それ、歯磨き粉の味がするからいらない」
「怒られますよ。チョコミン党と戦争したいんですか?」
 世の中には、言ってはいけないことがあるのだ。
「戦争は駄目だ。怖いことだって知ってる……じゃなくて」
 再びサンドリヨンは視線を左右へと巡らせる。
 それから、少し表情を暗くすると迷うようにこう言ったのだ。
「さっき、エリーがいた気がするんだ」
 サンドリヨンとエリーは、同じ研究施設で育った。
 数少ないデザイナーベビーの成功体として、兄妹のように育てられた。
 正確に言うと、育てられたというよりは“飼育された”と言う方が近いが……。
 少し前に、研究所はトールたちの手で破壊されており、その際にサンドリヨンは保護され、エリーは行方不明となっていたのである。
「エリーと言うと、同じ研究施設の……」
「……もし本当なら、見つけてあげたいのだわ」
 サンドリヨンが暗い顔をしている理由は理解できた。
 行方不明だった妹分、エリーの姿を見かけたのだから、心配で仕方が無いのだろう。
 痛いほどに、その不安は理解できた。
 だからトールと華蓮の2人は、エリーを探すことにした。

GMコメント

こちらのシナリオはリクエストシナリオです。
前話:https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/9546

●ミッション
エリーの確保

●ターゲット
・エリー
14歳ぐらいに見えるデザイナーベビーの少女。
研究施設生まれ、研究施設育ち。
おっとりした性格であるがやや子供っぽく無垢な性格。
少し前に研究所が破壊され、その際のどさくさに紛れて脱走。現在まで、練達を彷徨い歩いていた。
遊園地“ナボコフランド”へ迷い込み、楽しそうにうろうろしている。
https://rev1.reversion.jp/guild/1/thread/4058?id=1695327

・ノッポとファット
黒いコートに黒い帽子、サングラスという出で立ちのいかにも怪しい2人組。
背の高い方がノッポ、小太りな方がファットである。
エリーとサンドリヨンが生まれ育った研究施設の職員。
脱走したエリーとサンドリヨンを捜索していた。エリーを発見し、つけ回している最中。
【封印】、【暗闇】、【石化】を付与する殺傷能力の低い銃弾を使用する。

●NPC
・サンドリヨン
15歳ぐらいに見えるデザイナーベビーの少年。
研究施設生まれ、研究施設育ち。
研究所が破壊された際に、トールと華蓮に保護されている。
子供らしく少々無鉄砲で、少し素直じゃない。
遊園地に遊びに来ていたところで、エリーらしき人影を見かける。
rev1.reversion.jp/illust/illust/76822

●フィールド
練達のとある遊園地“ナボコフランド”。
迷路や、観覧車、ティーカップ、ジェットコースター、空中ブランコ、その他各種のアトラクションや売店が所せましと並んでいる。
広さは直径にして4キロほどとかなり広大。
休日であるため、人でごった返している。そのためトラブルを起こすことは望ましくない。
なお、マスコットキャラクターはウサッギーという、肩に時計をかけた兎の着ぐるみ(中に人はいない)である。
ウサッギーは1つの台詞しか喋らない。

●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 練達ナボコフランド。或いは、遊園地の迷子…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年07月28日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
ココロの大好きな人
※参加確定済み※
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
結月 沙耶(p3p009126)
少女融解
水天宮 妙見子(p3p010644)
ともに最期まで
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
※参加確定済み※

リプレイ

●みんなおいでよ、ナボコフランド
 ナボコフランド。
 それは、練達のとある児童愛護団体が造った、直径にして4000メートルほどもある巨大テーマパークである。
 観覧車や空中ブランコ、ジェットコースターと言った基本の乗り物は当然用意されているし、ウサッギーというマスコットキャラクターもいる。
 かつて、ウサッギーの中に人がいるかいないかで多少の騒ぎが起きたものの、騒ぎ立てた張本人が突然行方を晦ませたことで鎮静化したという歴史もあるが……まぁ、この辺りの少しほの暗い噂は、どこのテーマパークにもつきものだ。
 と、それはともかく……。
「こんにちはウサッギー、今何時かしら?」
 風船を配るウサッギーに、『蒼剣の秘書』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)はそう問いかけた。
『やぁ! ぼくウサッギー! 今日はたくさん楽しんでいってね!』
 だが、返って来たのは上記の台詞だ。
 ウサッギーとは会話のキャッチボールが成立しない。
「あの、女の子を探しているんですけど、見ていませんか?」
『やぁ! ぼくウサッギー! 今日はたくさん楽しんでいってね!』
「うぅん……」
『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)が訊いても、意味のある言葉は返って来ない。
「駄目だよ。ウサッギーは仕事中なんだから、困らせちゃ」
 終いには、サンドリヨンにまで怒られる始末。トールと華蓮は顔を見合わせ、困ったように眉を顰めた。

 同時刻。
「本当に大きな遊園地!」
「休日の遊園地なだけあってかなり混んでおりますね……ここから人探しですか」
「エリーもきっと1人だと辛かろう……」
 ナボコフランド中央広場に『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)と『愛し人が為』水天宮 妙見子(p3p010644)、そして『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)の3人が集まっていた。
 ナボコフランドのアトラクションを楽しむでもなく、人を……エリーという少女を探して歩き回る3人の額には汗が滲んでいる。
 もっとも、道行く人々は誰も3人のことなど気にも留めていないが。幸いというか、不幸というか。ナボコフランドを訪れた者たちは、誰も他人に興味が無いのだ。
 浮世のあれやこれやを忘れ、童心に帰れる夢の国。
 それがナボコフランドなのである。
「この中で探すのは一苦労ね」
 人混みに視線を向けて、セレナは重たい溜め息を零した。

 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、バニラアイスを食べている。
 ナボコフランドを満喫している……と、いうわけでは無く一般人に紛れ込んで、エリーの姿を探しているのだ。
「エリーを見つけて、一緒に楽しめればいいですね」
 アイスを舐めて、そう呟いた。
 上質な材料を使って作った美味しいアイスだ。ぜひ、エリーやサンドリヨン、そして華蓮にも食べさせてあげたい。
 そのためには、皆で笑ってナボコフランドで遊ぶには、まずはエリーを見つけ出さなければいけない。
 アイスのコーンを口の中へと放り込み、ココロはふと立ち停まる。
「……この音は?」
 ココロの耳が、気になる音を拾ったらしい。

 エリーの行方を捜しているのは、何もイレギュラーズだけではない。
 ノッポとファット。
 エリーやサンドリヨンが“飼われて”いた研究施設の職員2人も、ナボコフランドを訪れている。当然、エリーを捕まえて、研究施設に連れ戻すためだ。
 場合によっては、サンドリヨンの身も危ないかも知れない。
「可愛くてか弱い、迷子のお嬢さんをつけ狙う悪そうな大人、放っておいてはいけないな」
 というわけで、『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)はノッポとファットの2人を探すことにした。
 それから、何気ない仕草でモカはパチンと指を弾いた。
 するとどうだ。
 腰かけていた休憩ベンチのすぐ下から、1羽の鳩と、1匹の黒猫が歩み出たではないか。それぞれひとつ鳴き声を発し、あっという間に姿を消した。
 ノッポとファットを探しに出かけて行ったのである。

●迷子のエリー
「子供なら風船とか貰ってるかしら?」
 エリーの捜索開始から暫く。
 華蓮の先導で向かったのは、観覧車近くの広場であった。華蓮の飛ばした小鳥たちが、風船を配るウサッギーの姿を発見したのだ。
 ウサッギーは人気マスコットキャラクターだ。大勢の子供たちに群がられているが、そこにエリーの姿はない。
「エリーの姿は無いみたいね。次の場所へ……あら?」
 移動しようとした華蓮の袖を、サンドリヨンが掴んでいる。
 視線はまっすぐ、ウサッギーの方へ向いていた。風船をもらって喜ぶ年齢でも無いと思うが、長い間、研究施設に捕らわれていたのだ。外見年齢に対して、精神の発育は未熟なのも仕方が無い。
「風船、もらいに行くのだわ?」
「風船、ほし……じゃなくって。なんでこんなところにウサッギーがいるんだ?」
「……? それは、ここがナボコフランドだから」
「だって、ウサッギーは1人しかいないんだぞ? さっき、向こうに居たじゃないか」
 ウサッギーは着ぐるみではない。
 ウサッギーに中に人などいない。
 ウサッギーは1人しかいない。
 だから、今、そこで風船を配っているウサッギーは“ウサッギーではない”可能性がある。
「行ってみるのだわ」
「えぇ、行ってみましょう」
 トールとサンドリヨンを伴い、一行はウサッギーの元へと向かう。

 ナボコフランドでは、1日に数回、キャラクターたちによるパレードが行われる。
 その名も“ナボコフ・ハッピー・パレード”。
 誰もが幸せになる、素敵な素敵なパレードだ。
「人が集まって来たわね。ちょうどいいわ」
 人間とは、音に誘われる生き物だ。楽しい場所に集まって来る生き物だ。
 それは、エリーとて例外ではないだろう。
 少なくとも、ココロがそうであるように音が聴こえたなら、様子を見に来るはずである。
「とはいえ、こうも人が多いと……」
 きょろきょろと周囲を見回すが、見渡す限りの人の群れの中からエリーを見つ出すのはなかなか難しい。
 代わりに、というわけでも無いだろうが怪しい男が視界に入った。
 黒いコートを身に纏った小太りの男だ。物陰に身を隠し、パレードの方を注視している。
 まるで、何かを探しているようにも見える。
「警戒しておき……あら?」
 ココロが動き出すより先に、小太りの男へ近づく3つの人影が見えた。

 悲鳴が聞こえる。
 楽しそうな、黄色い悲鳴だ。
 妙見子は頭上を通過するジェットコースターの方へ視線を向ける。
「黒づくめの怪しい男二人ですか……案外ジェットコースターとかに乗って楽しんでたりして」
「エリーを見つけたら、一緒に乗ってみない? きっと爽快な体験が出来るわよ」
「セレナ様はいつも箒で飛んでいるではないですか」
「箒とはまた違う楽しさがあるのよ。たぶん」
 ジェットコースターを凝視したまま、妙見子とセレナが言葉を交わす。
 その間も沙耶は、周囲の様子を窺っていた。
 その目が、人混みから少し離れた場所で止まる。
「おい。変な男がいるぞ……?」
 沙耶が発見したのは、物陰に半身を隠した小太りの男だ。黒いコートに、黒い帽子。おまけにサングラスと、ナボコフランドを楽しむにしては少々“場違い”なように思えた。
「明らかにあれは怪しい気がする。怪盗の勘がそう言っている」
 話では、ノッポとファットは2人組の不審者だと聞いている。だが、そこにいるのは1人だけだ。とはいえ、2人組だから、と常に2人で行動しているとも限らない。
 急ぎ足でファットの方へと向かう3人。
 その途中で、セレナのaphoneに着信が入った。
「はい? あら、ココロね。近くにいるの?」
 ココロを加えた4人で、ファットの監視に向かうことと相成った。

 初めて見る場所、見るアトラクション、耳にする音。
 世界は色と音で満ちていた。
 世界は楽しいことでいっぱいだった。
 研究施設に閉じ込められている間、こんなに楽しい思いをしたことはない。
 だが、それも初めのうちだけ。
 誰もエリーを気にも留めない。
 誰もエリーのことを知らない。
 一緒に笑い合う相手もいない。
 楽しい場所に1人だけ。エリーにはそれが、ひどく寂しいことのように思えた。
 ウサッギーからもらった風船を握り絞め、エリーは俯く。
 その瞳に涙が溜まった。泣いては駄目だと思うほどに、涙は溢れ出してくる。
 そして、1滴。
 頬を雫が滴った拍子に、エリーの手から風船が飛んだ。風船の紐を握る力が緩んだのだ。
「あっ……待って!」
 手を伸ばす。
 だが、届かない。
 けれど、しかし……。
「っと……しっかり握っていなくちゃね」
 誰かが風船を取ってくれた。
 褐色の肌をした大人の女性だ。見知らぬ顔だが、彼女はエリーに微笑みかけると風船をそっと手渡してくれる。
「ありがとう……なのだわ」
「よく言えました。私はモカと言うんだけど、君はエリーで……っ!?」
 モカが名乗りをあげた直後。
 くぐもった銃声が響き、モカの膝から力が抜けた。
「え……ウサッギー?」
 困惑したエリーの声。
 ウサッギーの手には銃が握られている。銃口から立ち昇る硝煙が、風に吹かれて流れていった。
 ウサッギーは足早に2人へ近づくと、モカの頭を蹴り付けた。それからエリーの手を掴む。被り物の中からくぐもった声が聞こえていた。
「ターゲットを確保した。撤収だ」
 
 銃声を“それ”と理解した者は少ない。
 少なくとも、ウサッギーの近くにいた子供たちのほとんどはなにが起きたかを理解してはいないだろう。
 だが、トールは違う。
 駆け出しながらaPhoneを取り出し、妙見子へと連絡を入れる。
「エリーを発見しました! 妙見子さん、プランAを開始します! 騒ぎを起こしてはマズいので不審者と我々をキャスト、確保をショーという扱いにして放送を流すように遊園地側に協力を仰いで下さい」
 剣を抜いたトールの横を、サンドリヨンが駆けていく。
「エリー! すぐ助けるからな!」
「あ、ちょっと待つのだわ!」
 エリーの姿を見て、いても立ってもいられなくなったのだろう。
 慌てて華蓮が抱き留める。
 離せと藻掻くサンドリヨンに、ウサッギーが視線を向けた。
 それから、ゆっくりと銃を持ち上げて……。
 1発。
 渇いた銃声が響く。

 突然、ファットが駆け出した。
 ノッポからの連絡を受けて、合流するつもりなのだろう。
 その後を、箒に乗ったセレナと、ココロが追いかける。一方、沙耶と妙見子は別行動。スタッフを見つけて、声をかけた。
「君、本部に連絡を入れてくれ。ヒーローショーの開始だとな」
「はい? ヒーローショー? そんな話は……な、何か慌ただしいみたいですが、一体どういう……」
「本部の方には話を付けておりますよ。大きな騒ぎにはいたしませんので……ここは我々に任せて頂けませんでしょうか?」
 本当だ。
 ナボコフランドの本部には、事情を説明し話を付けている。
 後はスタッフを通して、本部に“作戦開始”を告げるだけ。
 エリー奪還作戦は、ここからが本番なのである。

 銃声が鳴った。
 だが、銃弾がサンドリヨンを撃ち抜くことはなかった。
 バク宙の要領で跳び上がったモカが、自分の脚で銃弾を受け止めたのだ。
 モカの脚から血が噴き上がる。
 爪先が、ウサッギーの顎を蹴り上げた。
「くっ……邪魔をするな!」
「そっちこそ、子供相手に随分と強引な真似をするじゃないか」
 ウサッギーの被り物が宙を舞う。顕わになったのは、長い髪をした細面の男性の顔だ。サングラスをかけているため、どんな目をしているかは分からない。
 分からないが、その目はきっと怒りで血走っているだろう。
「何者だ、貴様は!」
 地面に倒れたモカの眉間に、ノッポが銃口を突き付ける。
 ノッポが引き金を引く、その直前……。

『ただいまより、本日のシークレットプログラム。ヒーローショーを開始します』 

 ナボコフランド全域に女性の声が響き渡った。
「誰だ貴様は、と聞かれたら、答えてやらねばなるまいな。ブラックナイト★モカ・ビアンキーニ、悪を断罪するため参上せり」
「そして私はオーロラナイト☆トール=アシェンプテル! 遊園地を荒らす不届き者は僕が許さないぞ!」
 ノッポが銃を撃つより速く、その場にトールが駆け付けた。
 一閃。
 下段から振り上げられたトールの剣が、ノッポの手から銃を弾いた。

●おかえり、エリー
 暖かな風が吹き抜けた。
 淡い魔力の燐光を乗せた、春の陽気に似た風だ。
 その風に気が付いたのは2人。
 モカと、それからノッポである。
 2人は同時に風の発生源……ココロの方へ視線を向ける。
「ファァァーーット! 後ろだ!」
 ノッポが叫んだ。
 その風が“自分たちにとって良くないもの”だと気が付いたのだ。
 ファットは慌てて足を止めると、銃を抜いて背後を見やった。それから、滅茶苦茶に引き金を引く。
「気付いたわね! さあさあ、どんどん撃ってきなさいよ!」
 銃弾を浴びたココロが足を止める。
 回避できない。
 迂闊に避けて、一般人に被害が出すわけにはいかない。
 それに、たった数発の銃弾を避ける必要さえもない。
「魔法使いはナイトを助けに行かなきゃね?」
 その頭上を、箒に乗ったセレナが跳び越えた。

 箒にぶら下がるようにして、セレナは脚を振り上げた。
 爪先がファットの手首を蹴り上げる。ファットは銃を離さなかったが、狙いはココロから逸れた。
 空に向かって銃声が1発。
 その音が周囲にいた客たちの視線を集めた。
「なになに? なにがはじまったの?」
「あれじゃないか。ヒーローショーって言ってたし」
「え、ウサッギーの偽物がいる? 中に人がいるなんてウサッギーの偽物よ!」
「ヒーローショーなのだわ! 偽物をぶった押すのだわ!」
 ざわめきが広がる。
 客たちが集まって来る。
 その中に、こっそりと妙見子が紛れ込み子供たちを先導するように声をあげた。
「さぁ!オーロラナイト☆トール=アシェンプテルをみんなで応援しますよ! せ~の!オーロラナイトがんばれ~!」
「がんばえー!」
「まけるなー!」
「させー! させー!」
 子供は素直だ。
 狐耳のおねえさん(妙見子)に先導されるままに、声を張り上げトールの応援に回る。
「な、なんだ? 兄貴ぃ! 何事ですかい、こりゃ!?」
「俺が知るか! いいからさっさとズラかるぞ!」
 ノッポとファットは現状を把握できていない。
 現状を正しく理解しているのは、トールたちイレギュラーズだけだ。
「そこの怪しい2人、神妙にしなさい! このナボコフリンネが来たからには悪事なんかさせない!」
 さらに、沙耶まで加われば2人の困惑はより一層に激しくなった。
 右へ、左へ、地面を滑るように移動しながら沙耶はファットの懐へ潜る。銃を向けようにも、動きが素早く狙いがまったく定まらない。
「ちっ……! 素人じゃねぇな!」
 妙なノリと設定はともかくとして、沙耶の身のこなしは“戦闘技能”を有する者のそれであることは明白。
「頑張って、オーロラナイト! いい子達が応援してるわ!」
 セレナの煽る声を聞いて、ノッポの頬に汗が伝った。
 つまり“まさか本当に正義の味方じゃあるまいな”と。

 沙耶の蹴りを顔面に。
 モカの蹴りを後頭部に受け、ファットが昏倒。
 その手から零れた銃へ、ノッポが慌てて手を延ばす。
「あぅっ!?」 
 引き摺られる形となったエリーが、短い悲鳴を零した。
「エリー!」
 サンドリヨンが、今にも泣きそうな声をあげる。
 駆け出したサンドリヨンを、今度は華蓮も止めはしない。代わりに華蓮は魔力で編んだ矢を構えた。
 リィン、と空気の震える音。
 放たれた矢が、銃を掴んだノッポの手首を射貫く。
「エリーを放せ!」
「さ、サンドリヨン!」
 サンドリヨンは、エリーを抱きしめるようにしてノッポの腕から引きはがすと、そのまま地面を転がった。
 ノッポの目から隠すように、2人の前にココロとセレナが立ち塞がった。
 ココロの視線が、華蓮に向いた。
 言葉にせずとも、意思は伝わる。
 2人にはもう指先ひとつ触れさせない……そんな意思が、華蓮に伝わる。

 ノッポが手を延ばした。
 けれど、届かない。
 届くはずがない。
「子供を泣かせるような奴にかける慈悲はありません!」
 疾走。
 から、跳び込むように強く踏み込み、繰り出されるは神速の斬撃。
 胸部に一撃。
 トールの放った斬撃……なお、刃を寝かせたみね打ちである……を受け、ノッポは意識を失ったのだから。

 ノッポとファットを警備員に引き渡し、事情聴取を終えた頃には夕方だった。
 残された時間は、ごく僅か。
 ナボコフランドの閉園はすぐだ。
 けれど、それでも……。
 在りし日のように、在りし日よりも自由に。
 サンドリヨンとエリーは遊んだ。
 短い時間を遊びつくした。
 今は、妙見子の手を引いてジェットコースターへ向かっているところだ。さしもの妙見子も、元気な子供にはかなわない。
「あんなに楽しそうなサンドリヨンの笑顔、初めて見ましたね。本当に良かった……」
 思わず瞳に浮かんだ涙を、トールはそっと指で拭った。
 誰にも気づかれないように。
 とはいえ、しかし……。
 仮に気が付いていたとしても、誰もトールを茶化すはずもないのだが。


成否

成功

MVP

トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
無事にエリーは保護されました。
依頼は成功となります。

この度は、シナリオのリクエスト&ご参加、ありがとうございます。
縁があれば、また別のご依頼でお会いしましょう。

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