シナリオ詳細
<烈日の焦土>革命の残り火
オープニング
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「そんなはずがありません! 皆さんは自ら立ち上がった民たる英雄なんですよ! そんな暴挙、おこすはずがないんです!」
そう熱心にも声を荒げたのはアミナという少女であった。
鉄帝国に存在する教派クラースナヤ・ズヴェズダー革命派のシンボル。いや、シンボルであった少女と呼ぶべきだろうか。彼女を革命の聖女と呼ぶ者もいたが、今彼女は『ただのアミナ』を名乗っている。自らの無力を受け入れ、ただの民の一人として銃を取って戦うことを決意した、その日から。
聖女になれなかった少女であり、ゆえに民を先導できた少女である。
そんな彼女がなぜこのようにして声を荒げたのか、その答えはローレットに繋がる情報屋のひとりケヴィンが語ってくれる。
「そうは言ってもな。帝国人民解放軍が組織されたのは事実だ。『幻想王国の民を貴族による圧政から解放する』という名目で武装蜂起。帝国から南下し現在王国へと侵攻を図ろうとしている。バリバリの武装集団だ。間違っても観光ツアーじゃあないな」
ケヴィンは苦々しいという顔で語り、そしてアミナの顔をもう一度見た。
一度だけ目を伏せ、そしてまたケヴィンをまっすぐに見つめるアミナ。
「いいえ。納得できません。あの人たちは己の家族のため、隣人のために、魔種に戦いを挑むことを決めた人たちです。たとえ武器を持っているとしても、それは他者に望んで暴力を振るうためではありません!」
「けど、貴族の圧政から救うって名目はあるんだろう?」
「そんなのはこじつけです!」
アミナがそう叫ぶまでもなく、分かっている。確かに幻想貴族の中に圧政を敷くものはいるだろうが、それが全てというわけではない。仮に側面的な事実であったとしても、それが『民間人集団による蜂起と他国への攻撃』なんていう事態に発展するわけがないのだ。
「……どう思うね、司祭どの?」
ケヴィンは煙草をケースから取り出し、トントンと机に叩く。向けた視線の先で、ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)はどこか険しい表情をしていた。
「おそらくそれは――『聖ロマスの遺言』」
「『聖ロマスの遺言』?」
聞き返すアミナに、ヴァレーリヤは頷いた。
「天義の大教会に納められていた聖遺物、『聖遺言のクーダハ』の断片。そこに予言者ツロの聖痕が刻まれたものですわ」
もし天義の、あるいは世界の事情に詳しい者であればこの時点で分かるだろう。
聖遺物と聖痕。それは冠位魔種ルスト派の勢力が行使するアイテムである。
そのツロという予言者もまた、ルスト派に連なる人物であるに違いない。
「ご名答」
ケヴィンは煙草を一度突き出すと、くわえてゆっくりと火を付け始める。
「そいつはいわば、『呼び声』の拡散装置だ。ひとを狂気に陥れ、暴走させる作用がある。今回はそいつが例の解放軍に使われたってところだろう」
「じゃあ……!」
焦るように身を乗り出すアミナ。
まあ待て落ち着けと手をかざすケヴィン。
「帝国の市民が、奴らによって暴走させられている。放置すれば南部戦線の連中が消炭にしちまうだろうが……そうさせないためには?」
「私達で、止めるしかありませんわね」
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幸いと言うべきか、解放軍はそれほど巨大な組織ではない。軍と名乗るのも、暴走し気が大きくなったせいなのだろうか。
それに、彼らに対し先周りをすることも可能だという。
要は『大量の一般市民』にすぎない彼らは、全員をまかなうだけの高速の移動手段を持ち合わせていないためだ。
「つっても、軍からぶっこぬいた武装で固めた連中だ。訓練こそ大してうけちゃいないがそこそこの脅威ではあるだろうぜ。舐めてかかれば怪我をする。で、やりすぎれば……」
「殺してしまう」
ヴァレーリヤはどこか冷淡に呟き、メイスを強く握りしめた。
「あんたらローレットもそれは望んじゃいないだろ? まあ、『国』としちゃあそこまでじゃない。帝国軍に再編された参謀本部は民間人の他国への集団攻撃が阻止されさえすれば良いとしてる。そこで出た被害の責任くらいは負ってみせるっつーワケだ。逆にいやあ、軍人でもないあんたらに臣民の命まで負わせるつもりはないとな」
冷たい言い方だが、しかしその実はやさしさだ。
そんなやさしさを、けれどアミナたちは易々と受け取れない。
「いいえ、殺させませんし、殺しません」
アミナは非殺傷弾の在庫を頭の中で計算しながら言った。
「彼らは共に戦った誇り高き英雄たちです。決して、見捨てはしません。助けます」
- <烈日の焦土>革命の残り火完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月25日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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とまった二台のジープと、仮設テント。これだけで彼らに時間的余裕がかなりあったことが伺い知れる。
キャンプコンロによって沸騰した湯をコーヒーフィルターに通しつつ、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はすぐそばでジープの熱した鉄板めいた車体に身体を預けた『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)に問いかけた。
「いいのか? 革命のチャンスだぞ?」
「こんなものは、革命ではありませんわ。そうでしょうアミナ?」
マガジンに非殺傷弾を詰めていたアミナが顔をあげ、こくりと頷く。
「革命とは国との対話。力を要するとは言えその一点はかわりません。ただ武装した市民が行進をしただけでは、なしえないのです」
「……ということですわ」
肩をすくめてみせるヴァレーリヤに、エッダはカップを持ち上げつつ微少以下の笑みを浮かべた。
「お前が正気のようで安心したよ、ヴィーシャ」
「それにしても……折角平和になったのに、上手くいかないものですわね」
ヴァレーリヤが車体から身体を離す。
つい最近まで大寒波によって死と隣り合っていた鉄帝の大地は、真夏の熱にやられて身体すら溶けそうだ。
「力を合わせて漸く国難を退けたばかりだと云うのに」
『Le Chasseur.』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)がヴァレーリヤの言葉を引き継ぐように言う。
「ともあれ、此れを放っておけばルスト勢力の思う壺。そして何より……みんな死んで良い様な人達ではないはずですから」
アッシュの言葉は強く、仲間たちに共鳴した。
クーラーという存在を完全に忘却したらしいジープから降りた『屍喰らい』芳野 桜(p3p011041)が、周囲を今一度見回してみる。
(一歩間違えれば人を殺す種族なれど、人を殺すのは私は好まないしな。やむを得ない場合や、死の間際の苦しみからの解放となれば話は別ではあるが……)
この世には望んで人を殺して回る人間もそれはそれでいるらしいが、自分はそうではない、と桜は考えていた。
その上で、この場所を戦場として改めて観察する。
一見してただの平野だ。遠くから集団が現れればすぐに分かるし、相手からもこちらが一目瞭然。
遮蔽物はなく無防備にも見えるが、それは相手も同じことだ。
個々の実力差が決定的であれば、平野でぶつかった方が有利であるという兵法がそういえばどこかにあったような気がした。今回の陣地はそのためのものか、あるいは……単に南部戦線に接触してしまわぬよう遮っただけか。
「たとえ市民であっても、敵意を持つなら攻撃するに躊躇はありません。
ですが殺さず鎮める程度出来ずして、イレギュラーズは務まりませんからね」
ふと、『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が兜の下からくぐもったような声を発した。
イレギュラーズとは皆そういうモノなのかといえばイエスでありノーだ。
オリーブがそれだけの経験と実績、そして適切な装備をもっているがゆえそれだけのことができるというのが正しいところであろう。実際、彼の持つ『スターライトエンブレム』は全力で戦っても相手を殺さないという優れた性能を持っている。
(それにしても、知らない内にアミナさんの印象が随分と変わっています。
最初は何も期待出来ない夢見がちな少女でしたけど、今は格好良い顔をしていますね)
ちらりとアミナのほうを観察するオリーブ。
一方で、『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)が今回の事件に怒りを燃やしていた。ジープのボンネットをドンと叩き、歯をむき出しに怒りをあわらとする。
「あの騒乱の中、立ち上がってくれた勇士達に何という事を。
聖ロマスだかロハスだか知りませんが、ロクでもない物を持ち込んでくれましたね!
首謀者はいつか絶対に殴りますが、今は暴走しているこの方達を何とかしてあげなくては。
誉れも何もない、このような所で死なせはしません。殴ってでも止めてみせます!」
「はい! その通りです! 殴ってでも止めるのです!」
賛同するアミナ。若干思想が過激になっているのは、このさい目を瞑ろう。
その原因と言えなくもない『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)が、苦笑をしてアミナの肩をポンと叩く。
「彼らの顔も、音色も、まだ覚えているわ。鉄帝国を救う為に共に戦った大切な仲間だもの」
「リアさん……」
言いながら、リアは無言で拳をグッと出して見せた。その拳にこつんと自分のものをぶつけるアミナ。
あなたの代わりに殴ってくるわというあの日の約束を、なんだか思い出すように。
「必ず全員救い出してみせましょう!」
その一方で、『革命の医師』ルブラット・メルクライン(p3p009557)は懐にしまったナイフを服の上からそっと撫でた。
「……嘗てのグロース将軍も、アラクランも、結局は理想の世界を追い求めていた。この事態の元凶も、またそうなのだろうか」
刃を交え戦ったあの日のことは、つい昨日のことのように思い出せる。
共に戦ってくれた民たちのことも。
そして自分が受け取ったナイフは、その思いの結晶であるということも。
「それにしても、君が居てくれるならば心強いよ、アミナ君。彼らが抱いていた願いを、彼ら自身に穢させる訳にはいくまい」
なんてことのないように呼びかけたルブラットだが、その言葉に含まれる意味は重い。
アミナもそれを理解してか、優しい笑顔で頷いた。
「願いが何者かに歪められ呪いと化すというのなら、それをまた歪め、正しき願いに戻すまでです。『私達』は決して、暴徒になどなってはならないのですから」
そう言われて、ルブラットは気がついた。
アミナは自分を、『民間人』と自負しているのか。いまから戦う彼らと同じ存在だと。
ならば……。
「救おう、同胞を」
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それが正しきことであるかのように、小銃をかついだ男たちが行進する。
目にはぎらついた光が宿り、さながら革命の日を思わせた。
だがそうではないこと知っている。
歪められた願いであることを知っている。
故に、彼女は立ち塞がった。
「皆さん、止まってください!」
空に銃を向け、アミナが行進する人々の前に歩み出る。
「皆さんは『聖ロマスの遺言』というアイテムによって心を支配され、暴走しているのです! 幻想国民を圧政から救おうというお気持ちは正しいものです。ですがこのまま南下すれば南部戦線の部隊が皆さんを止めるでしょう。
主張が間違っているからではありません。手段が間違っているのです! これは、革命などではありません!」
「アミナさん、なぜあなたがそんなことを言う!」
最初に反論したのはトマスという機械工の男だった。
シャツにツナギというラフな格好に小銃を担いで、怒りも露わにアミナを睨む。
「軍が正しいと信じた僕等は裏切られた! 正しさは自分達で見つけなければならないと教えられた! それを今実行しているだけじゃないか!」
「皆さん、銃を下ろしてください。この先へ進んではいけません!」
そこへ加わったのは迅だった。
「今、皆さんは正常ではありません。その証拠にあなた方は誰を狙うのか分かっていないはずです」
その言葉に、民衆のなかで小さなざわめきが起こった。
「世の中、悪い人もいれば良い人もいます。貴族だろうと民だろうと、それは変わりません。
もしも本当に皆さんが悪い貴族と戦うつもりなら、誰を狙い、誰を狙わないのか答えられるはずです。皆さんは善き人々を手に掛けたりはしない人達ですから。答えられないという事は、それは皆さんの意志ではありません!」
「そ、それは……アーベントロート家はどうだ! そのせいで幻想王国は混乱しているし、一度は炎もあがったと聞いたぞ!」
「それは表面的な事実に過ぎません。あの領地の民は平和に暮らしています!」
ざわめきがまた少し広がる。
「武器を捨てて下さい! 皆さんの志は高潔な物です。けれど集った理由は、手にしている武器は、そのためでは無かったはずです!」
オリーブがあえて武器を手にせず、両手をあげた状態で前に出た。
何か言いたいことはないかとばかりにアッシュを見てくるので、アッシュもまた武器を持たずに前へ出る。
「盛り上がっているところ申し訳ありませんが……小旅行は此処まで、と致しましょう。
あれだけの苦難を乗り越えて、此れから漸く平穏な日々を取り戻そうとしているのです
其の時の傷だって、まだ癒えぬままという方も少なくはないでしょう
今は力を合わせて国や街を再起させて行く時の筈」
「それは……確かに……」
何人かが担いでいた銃を下ろそうとするのが見える。
「お前、裏切るのか!?」
「そうじゃない。けど家には女房と子供を残してるんだ。本当はこんなことしてる場合じゃないんじゃないのか?」
「その通り」
ざわめきに乗じる形でアッシュが手をかざす。
「いま戦う必要はないはずではないですか」
桜が半歩だけ歩み出る。
「君達は、本当にその大義を信奉しているのだろうか? 貴族が悪政を敷いているならまだしも、そうでない者まで断罪しようとしていないのか?」
「そうではない者? どういうことだ……」
一部の者が聞く耳を持ち始めている。桜は頷き、話を続けた。
「元より君達は虐げられてきた者達を救わんとする心意気を持つ勇敢な戦士だと聞く。悪を断じるのは良いことだが、矛先を間違えればただの暴力に過ぎん。ただの暴力がどれだけ恐ろしいか、君達は分かっているはずだろう?」
見るがいい、と桜は後ろを振り返る。
そのずっと先にあるのは南部戦線だ。南部の部隊はいたずらに幻想の部隊を刺激しないためにこの集団の鎮圧をはかるだろう。
手加減という言葉を知らない連中だ。死者も大勢でるかもしれない。
そしてその際に撃たれる弾は、圧政を敷く貴族どころかかつて共に戦ってくれた鉄帝の同志たちに放たれることになるのである。
「もし仮に」
オリーブが言葉を続ける。
「幻想への攻撃が叶ったとしましょう。その時家を燃やし、田畑を踏み荒らし、悲しむのは誰ですか。貴族ではない、あなた方と全く同じ、民であるはずです」
何人かが銃を下ろし、首を横に振る。
「そうだ……俺は一体何を……」
「おい! ここにきて辞めるのか!? 民の解放はどうした!」
内輪もめが始まりそうになったところで、ルブラットが鋭く声を発した。
「待ちたまえ」
それほど大きくはない筈の声が、しかしよく響く。
民たちは手を止め、ルブラットへと振り返った。
「どんなに愚かと謗られる願いでも、抱くことに間違いはない……それは、確かに否定できまい」
「そ、そうだ。俺たちは――」
「今の君たちの大義が、本当に心の底からの願いであるのならば、ね」
被せるように述べたその言葉に、一部の者たちがハッと息を呑む。
「あの帝都で、君たちは何の為に戦っていた?
私は覚えているよ。そこに在った筈の日常を護るため、死者に報いるため、だっただろう?
君たちの前を往く死者に胸を張って、今の行いを口に出来るか?」
「それは……貴族からの圧政を……」
「……もう一度、思い出してくれないかな。その手に握る銃を取ろうと思った、一番最初の理由を――願いを」
ルブラットの言葉に、がちゃりという音がかえる。銃を足元に落とした音だ。
「確かに、その通りだ。俺は魔獣や軍のやつらに家族を殺されて、その仇討ちのために銃をとったんだ。けど、だからって家族は帰ってこなかった。本当に欲しかったのは……」
ずんずんとリアが歩み寄る。
まだ銃をもっていた若い女が、咄嗟に銃を突きつけた。
「鉄帝国の自由を守る為に戦った誇り高きあなた達が、鉄帝国の理不尽に風穴を開けてやったあなた達が!
そんなへなちょこな銃弾を放ったところであたしを貫けはしないわ!」
リアはその銃口を自らの胸に押し当ててみせる。
「アンタらが武器持って幻想に乗り込んだら沢山の犠牲者を出す!
自分以外の何かの意思で武器持って誰かを傷付けるなんて、バルナバスに従ってた人達みたいな事してんじゃねぇよ馬鹿共が!」
「な……!」
唖然とする女に、リアはまっすぐとにらみ付ける。
「あの時、何故自分達が立ち上がったのかを思い出せ!」
にらみ合いは、相手の女が目をそらしたことで終わった。一歩二歩と後じさりし、銃を下ろす女。
彼女はその場にうずくまり、泣き崩れてしまった。
「聞きましたでしょう。この先に行ってはいけませんわ
今ならまだ間に合います。故郷に帰って、復興のお仕事に戻りましょう?」
優しく、ヴァレーリヤは民たちへと呼びかける。
「だ、だめだ。やらなければ、まだ、やらなければ……」
うわごとのように呟き銃を手に取る老人がいた。
「いいえ、それは貴方達の本心ではございませんわ。
貴方達は、魔種の呼び声に影響されていますの。内戦でぽっかり空いた心の隙に、付け込まれただけ」
ヴァレーリヤはあえて銃口に身体を晒し、歩み寄る。
「本当に、この先で死んでも悔いはありませんの?
主の御許から貴方を見守っている家族に、同じ事を胸を張って言えまして?」
その言葉に、老人は思わず目を剥いた。
「何のためにあの冬を戦い抜きましたの?
何のために、色々なものを失って、捨てるしかなくて、それでも諦めきれなくて、ここまで生き延びましたの?
取り戻したい幸せがあったからでしょう!? こんな所で無駄死にするためでは無い筈でございますわ!」
あ、ああ。老人は呻くように声を発すると、手にしていた銃を思わず取り落としてしまった。そして自らの顔を覆う。
「息子たちが、孫たちが、新皇帝派に、連れて行かれて……財産も家も奪われて、残したものは、誇りしか……」
「戻ってきて下さいまし。貴方達の事が心配ですの。
帰りましょう。きっと皆、貴方達が戻って来るのを待ってくれていますわ」
その肩をそっと撫で、ヴァレーリヤは微笑みかけた。
そんな中である。
「馬鹿野郎! どいつもこいつも怖じ気づきやがって! 俺はやるぞ! やらなきゃならないんだ!」
銃を手にした男がそれをヴァレーリヤめがけ発砲した。
ガキン、と間に割り込んだエッダがその籠手でもって銃弾を弾く。
「闘いとは無謀な突撃ではない。君ら市民の闘いは、生きることだ。
だが――結局、こうしなければ終われないのだろう?
全くどこまで行っても、鉄帝人というのは変わらない」
「エッダ!」
「ヴィーシャ、彼らは『聖ロマスの遺言』によって暴走している。説得だけでは終われん」
だから、かかってこい。
そう言うかのようにエッダは民衆の中へと飛びかかった。
「この際だ、不満は全部私にぶつけるといい!
今日の一発は無礼講だぞ! 殴れ殴れ!私も殴るがな!」
吠えるエッダに、銃をまだ捨てなかった民衆たちが殺到する。
銃を撃つもの、殴りかかるもの。その様子はまさに暴徒のそれであった。
目に浮かんでいるのは、聖遺物によって歪められた誤った光だ。
「そのまま引きつけときなさい!」
リアは手のひらを翳し、同時に桜は刀に手を駆ける。
一閃。それは光となり、民衆を撫でていく。不殺の光によって意識を奪われた人々がばたばたと倒れる中、ルブラットとアッシュもまた飛びかかる。
頭を殴りつける、組み伏せるなどして彼らを無力化すると、迅とオリーブもまた同じように民衆を取り押さえ始めた。
巧みな技で大男を投げ飛ばしたオリーブと、相手の首筋に手刀を撃ち込んで気絶させる迅。
「『『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情』」
ヴァレーリヤの詠唱に、アミナが続ける。
「「『毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』」」
メイスから放たれた衝撃と非殺傷弾の連射が、民たちを気絶させた。
「……ふう」
誰も殺さずに済んだことにアミナは安堵し、肩をおとす。
「皆さん、この方々を運びましょう。ここは暑すぎますから」
そう民たちに呼びかけるアミナに、リアがこつんと肘でこづいた。
「久しぶりにそっちに顔出してもいいかしら、アミナ」
「ええもちろ――あっ、また一緒に寝るって言い出すんじゃ!?」
「どういうことですのアミナ?」
負傷者の手当などをしながら振り返るヴァレーリヤ。
にこやかな雰囲気に、ルブラットは仮面の下で微笑む。
(……もう、ルッソ君のような事態は繰り返したくないからね)
こうして、武装蜂起をした民は解散し、事実上の小規模紛争が起こることはなかった。
イレギュラーズの具申もあって民たちに責を問われることはなく、彼らの平和は続くだろう。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
――mission complete
GMコメント
・成功条件:解放軍の鎮圧
・オプション:解放軍の生存
●シチュエーション
鉄帝国の民が『聖ロマスの遺言』という聖遺物の効果で暴走し、解放軍を名乗り武装蜂起してしまいました。
このままでは幻想軍へと突撃し酷い数の死傷者を出してしまうでしょう。
そうなるまえに彼らを止めなければなりません。
あなたは軍からの依頼を受け、解放軍への先周りを行うこととなりました。
●エネミー:帝国人民解放軍
かつて魔種を相手に共に戦ってくれた帝国市民からなる部隊です。
彼らは聖遺物の力で暴走してしまい、間違った大義を抱いて進軍しようとしています。
・武装と数
武装はアサルトライフルを中心とした実弾系の武装が主となっています。
数は非常に多く、暴走の効果もあって精強です。
・説得効果
彼らは暴走してはいますが、その効果自体はやや浅めです。
なので言葉による説得で若干ながら正気を取り戻すことがあります。
大勢を相手にしていることもあり、説得を試みながら戦うのは効果的でしょう。
・不殺による救出
暴走効果が浅いこともあって、殺さずに倒すことで後々のカウンセリングなどで暴走効果を除去することができるでしょう。
倒す際に不殺攻撃を使うことで、そうした手段をとることができます。
●味方NPC
・アミナ
かつて民と共に戦ったひとりの少女です。
鉄帝がバルナバスによる支配を受けた際に、革命派のシンボルとしても知られていました。
今回はアサルトライフルを手に戦いに参加します。弾は非殺傷弾を使うため必ず不殺攻撃になります。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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