PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<烈日の焦土>縫い止められた命

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●準備段階
 天義に於いて、『確定未来』や『正しい歴史』を嘯く遂行者達が跋扈し、『リンバス・シティ』が顕現して暫く経つ。遂行者達は世界各国にその姿を現し、絶えず『正しい歴史』への軌道修正のために次々と悪意ある行いを続けている……現在残されているのはラサ、鉄帝、そして深緑の3国。こと鉄帝においては、混乱の最中にあったところを天義側から襲撃していた過去がある。
 そして、考え得る流れで次に起こり得るのは――鉄帝・幻想国境部に横たわる戦線への介入だ。滅びが『定められていた』幻想に攻め入る彼等を煽り、或いは混乱を招くことで脅威論を醸成してさらなる敵意を醸成する。
 『鉄帝国は滅びた幻想を侵略する悪辣な者共』なのだから『ナショナリズムや戦意ではなく狂気と錯乱のもとに攻め入らねばならない』、それが遂行者達の論調であった。
 斯くして、遂行者達は鉄帝に燻る新皇帝派残党を糾合し、更なる勢力によって国境部の侵略を図る。目的はひとつ、すべては『準備』のため。

●狂気の研究
 鉄帝-幻想国境に設けられた駐屯地は、今まさに遂行者勢力による侵攻のただ中にあった。新皇帝派残党『アサクラ隊』の出現は、少なくとも国境で長らく膠着と激戦を繰り返した精鋭達をも驚かせる。だが、真の脅威はそれではない。
 機関砲による斉射。次の瞬間、電磁力に指向された主砲が亜音速で対象に突っ込み、肉すら残さず赤い霧に変えた。恐慌の声はしかし、ばら撒かれた小型ドローンが頸椎に取り付き、抱え込んだ四脚の交点から毒針が突き込まれたことで収まっていく。……明らかに、並の兵士達を倒すために用意された兵器群ではない。それがひとつの多脚戦車の所業となれば、猶更。
「フム……こんな国の土を被った瓦礫など考慮に値しないと思ったが、なかなかどうしてうまくやる。私が弄るまでもなかったか?」
「ご謙遜を。今なお状況判断で行動を更新しつつあるあの兵器の動作は、貴方の手によるものでしょう、ベルロイ」
 多脚戦車の所業に満足げな男――アショット・ベルロイに、アサクラ隊の男は顔をしかめつつ問うた。謙遜も時には毒になるという事を、彼は理解した方がいいとでも言いたげだ。
「とはいえ、あの戦車には『聖ロマスの遺言』が搭載されている。ただ縦横に歩き回るだけで、アレは戦線の混乱を大きくするでしょう。そうなれば私達もただ歩くだけで任務達成というわけですな」
 そう、あの多脚戦車には『聖ロマスの遺言』と呼ばれる聖遺物が埋め込まれている。『預言者ツロの聖痕』が刻まれたそれは、呼び声を拡散させ混乱を招く象徴だ。戦局を混乱に導きたいなら、確かにそれで事足りる。
「否。私の推測が正しければ、早晩イレギュラーズが現れる。この戦車も余しているわけではなかろう? 可能な限りデータを取って、後方に逃したい筈だ」
「その為の、『それ』ですかな」
「ああ、私は使い捨てなのでね」
「……どこの誰だか知らねえが、お前等が遂行者の手の者だってのは分かるぜ」
 二人の会話に割って入った男、カイト(p3p007128)の怒りを湛えた声に、両者ともに肩を竦めた。噂をすれば影が差すそうだが、なにぶん早いなと。
「そこにいる気色悪い天使もどきも、練達で見た。お前、死に損ないの致命者ってヤツか。……その紐が聖遺物ってんなら、胸糞悪いが魂胆は読めた」
「それは結構。すべて話さずとも理解してくれるならこれ以上ない相手だ。君はここの連中よりも聡明だね――なら、研究者肌の私が何の為にこの戦場に降りてきたかは?」
 練達、希望ヶ浜の『セミナー』で見たタイプの天使がいる。そして、首に紐が縫い止められたような男がいる。致命者、つまりいちど断罪されたり、過去の悲劇から焼き直された人ならざる人である。首筋の紐をくいと引くそぶりを見せたアショットは、口元を大きく引き歪めた。
「惜しく、ねえのか」
「惜しいものか! 天義(こきょう)で受け入れられず首を落とされた研究が、世界への復讐として花開くなら! それは何一つ、惜しむことなどありはしない! そしてこの聖遺物の成果は、君達の命で贖われる!」
 狂気の研究者というのは、彼のことを言うのだろう。
 悪辣な聖遺物とは、それのことをいうのだろう。
 この世の悪意を凝集したような敵の姿に、カイトは、そして居並ぶローレット・イレギュラーズは激しい嫌悪を覚えたのは間違いない。

GMコメント

●成功条件
・多脚戦車AIT-1(アショット・カスタム)の撃破or撃退
・量産型天使の殲滅・アサクラ隊の撃破
・(努力目標)鉄帝正規軍人の混乱の鎮静化、救助

●致命者『アショット・ベルロイ(聖遺物レナンシェ・アベンジャー)』
 かつて天義で断罪されたとされる、狂気的な研究者です。首には縫い目があり、これを繋ぐ糸が聖遺物となっています。
 リプレイ開始時、二言三言ほど言葉を交わしたら聖遺物を引き抜き首が落ち、自動死亡(妨害不可)。聖遺物の効果により、敵戦力全体に【復讐(小~中)】、【EXF増(中~大)】が付与されます。
 自己犠牲型の聖遺物の効果を十全に発揮するために、このような処置をされたのだと考えられています。いわば大規模バフ用の生体爆弾です。

●多脚戦車AIT-1(アショット・カスタム)
 呼称は戦車でもなんでも、プレイングでは簡潔にして構いません。
 AITは「アンチ・イレギュラーズ・タンク」の略らしく、イレギュラーズの殺害を企図したものであるようです。古代遺跡から出土した戦車を改修した、(旧)新皇帝派の所有物でした。
 EXAが高く複数行動は当たり前、足場を気にして低空飛行しようものなら対空迎撃機能(飛行状態の対象にCT上方修正)を発揮し、連続攻撃により『高命中の【スプラッシュ(中)】の【ブレイク】攻撃』から『高威力単体攻撃』をぶち込んできたり、『【防無】【必殺】【ダメージ1】を放つ短命型極小メカの散布』、『超域・高命中の怒り付与』などを使い熟します。
 また、アショットの改良により高精度の戦術分析を行うため、「ターン経過が長くなると個々の性能に準じた非常に厭らしい戦術」を武装換装によって行ってきます(回避が高ければスプラッシュが多い攻撃から単体大火力へ繋ぐ、【復讐】タイプは大火力連打で早期決着を狙う、など)。
 とはいえ、敵勢力のいう『高精度』が現状のイレギュラーズに対しどこまで対処できるのか、個々の装備威力との組み合わせがどこまで噛み合うかは正直未知数であり、そういう意味でも撃退止まりでも致し方ない点はあるでしょう。
 コア部に『聖ロマスの遺言』を隠し持っており、これにより呼び声を拡散します。

●量産型天使×5
 練達にて、WCTHSと名乗る集団が引き連れていた天使のような個体。
 遠目には天使に見えなくもないですが、近付けば歪な紛い物だとわかるでしょう。
 高い再生能力を持ち、回復や支援を主体として動きます。
 また、1体でも残っていると、アサクラ隊の戦意が向上した状態が続きます。
 接近された場合、訴叫(近扇:【飛】【混乱系列】【ダメージ小】)なども織り交ぜてきます。
 複数体の天使が単体を対象に取ることで、【物無】や【防無】の付与すら可能となっています。

●アサクラ隊×20
 新皇帝派の残党が、ガハラ・アサクラ少佐に率いられた集団です。
 綜結教会の下位部隊として機能しており、鉄帝・南部戦線の混乱のために投入されました。
 それぞれ重武装に身を包んだベテランで、そこそこの戦闘能力を有しています。
 その上、AIT-1の戦術分析を共有できる為、AIT-1とは別アプローチで個々の戦力に対し対抗手段をとります(が、戦車のように換装が出来ない為なんでもかんでも対応可能なわけではありません)。
 基本はアサルトライフルとナイフなどですが、数名程ロケット砲などの強力な武装を保持しています。

●正規軍人達
 鉄帝の正規軍人であり、混乱の拡大を目的とした綜結教会の手により混乱に陥っています。『聖ロマスの遺言』により狂気に陥った者も見受けられ、それらは無差別に攻撃を行おうとします。この場合、不殺攻撃で昏倒させないと正気に戻りません。
 会話できる者に限り避難誘導を行うとか、あまり全てを救うことを目的としない方が、賢明ではあります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <烈日の焦土>縫い止められた命Lv:30以上完了
  • 命を捨てて命を繋ぐ、すべては相手の命を奪う為に。
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年08月10日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


「……さぁ引けよ、その糸を。命を使い捨てて俺達の命を奪おうとする悪意を、命を軽く見做す愚かさを、全身全霊で潰してやるから」
「勇ましいことだ。強い想いが勝利を呼ぶなどという幻覚にいるなら、早晩早死にするぞ、若者」
「思い通りになると思ってんなら、考えが甘すぎるってだけだぜ。叩き潰してやるから安心しな」
 致命者アショット・ベルロイが触れた首筋の紐、命を断つそれを見て、『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)は吐き捨てるように告げた。アショットは嬉しそうに口元を歪め、彼に呪いを吐いてあっさりとその首を地面と抱擁させた。最初からなかったかのように消えていくそれを見ながら、『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)は腕を回し臨戦態勢へと入った。
「アショットの死は無駄ではない。奴が残したものが全てだ」
「立派に傲慢で冒涜的な死に様、オリジナルがどう思ってんだかな。まあ、残ったアンタらがどう思ってるかは知らねえけどよ」
「どっちにしろ、鉄帝に手を出したら愉快なDJのおじさんだってぶちぎれるってモンだ。その思惑、ご破算にしてやろう」
 アショットの死を目の当たりにし、意気軒昂と構えるアサクラ隊の面々は、最初からその生命に拘泥してないことが分かり切っていた。『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)はその余りに顧みない姿勢に呆れつつ、アショット自信のニヒリズムには何一つ共感を覚えなかったとみえる。『最強のダチ』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)は正面切ってその野望を砕くことが己のできる最高の嫌がらせと考え、全力を以て倒すことを明言した。ニヒリズムを笑い飛ばせば、そこには格好つけた愚か者が残るばかりだ。
「落ち着いて下さい! 我々はローレット・イレギュラーズ、私はオリーブ、オリーブ・ローレルです! 皆さんを救いに来ました! 今一度、私達に命を預けて下さい! ……無駄にはしません!」
「……だってさ、レイリー、イーリン。どう思う?」
「私の名はヴァイスドラッヘ! 鉄帝を歪めるものはこの私が許さない!」
「南部戦線には軽口叩けない位には入れ込んじゃってるのよ。どうするって聞かれたらこう答えるしかないわ。『神がそれを望まれる』」
 『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)が声を上げ、兵士たちを誘導する姿を横目に、『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)は『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)と『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)に水を向けた。各々、是非も無しとばかりに得物を構え、一歩前進する。
 もとより鉄帝の住人であり、その地を守ると決めたレイリーの意思は堅固なもの。鉄帝を死力を尽くし守った身として、並び立つイーリンは探究者としての側面を脇に置き、エゴではなく義の為に戦場に立っている。まして、この国を愛する一人としてのオリーブは言わずもがな。
 ミーナにとってはそのどれもが眩しく映り、命を燃やし立つ戦場に於いて老成した精神には重みすら感じる真っ直ぐさだった。だからこそ支えたいと思うのか。
「ここは私に任せて、ミーナ先に行って」
「わかったよ……ただし、そちらも無理無茶はしないようにね、皆。レイリー」
 アサクラ隊と対峙し、先を促すレイリーの姿は成程、背を預けるに足る信頼度があった。ミーナが彼女を想うのも頷ける。
「始めるぞ、これは戦禍を広げないための戦いだ。イレギュラーズを舐めるなよ」
「気張るぜ、大義そうなツラしてふんぞり返ってる奴の顔をブッ叩いてやるのは割と性に合ってるんでな」
 イズマは消えたアショットの死に様に唾を吐き捨て、四周に視線を投げかけた。獰猛さすら覚える姿は、義弘の戦意を高める意味でも――割合、悪くない啖呵だったのかもしれぬ。
 それまで状況を見守っていた対人戦車がゆるりとイレギュラーズを照準すると、即座に換装に入る。弱者を掃討していた武装から、対強敵用へと。それは彼らを認めたことではあるが――甘く見ている、とも取れた。
 果たしてそれが、イレギュラーズを打倒し得るのか。だとすれば、どれほどのものか。
 彼らは見極めねばならない。犠牲を払ってでも。


 イレギュラーズが天使を狙う、当然の帰結だ。
 アサクラ隊が初動で彼らに出遅れる。これもまた当然の流れだ。
 だが、戦車は。イレギュラーズ達を倒すためだけにカスタマイズされたそれは、その初動を見逃しただろうか?
「…………」
 答えがあるとすれば、否。
 装填された散弾は今まさに天使へ一撃を叩き込まんとする義弘の逃げ場を奪い、次いで放たれたAP弾は彼の堅牢な肉体をして激しく貫いた。義弘とて愚鈍ではなく、それどころか身軽な方に入るが、それでも一連の射撃から逃れ得ない。とはいえ、身の危険を覚える深さではないのは救いか。だが、持ち上げる腕、その破壊力に陰りを打ち込まれたのは直感的に理解した……厄介な話だが。
「あの戦車、俺より速いってのかよ……!」
「いいえ。初動の準備段階を狙われただけよ」
 カイトの驚愕の声がイーリンの耳朶を叩く。だが、冷静な彼女はタイミングの違い、状況に対するボタンの掛け違いであることを知っている。だからこそ、『次はない』と言い聞かせた。あの鉄塊が彼女とカイトを上回ることは二度と無い。少なくとも、速度という一点においては。だから一度くらいは見逃さざるを得ない。
「さぁ、何でもかんでも使いなさい。それでも貴方達は私を倒せないわ」
「相手さんは何でもアリをご所望だとさ。……この生意気なアマは俺達の獲物だ! チョロチョロしてる連中、そっちで殺んな!」
「応!」
 レイリーによる名乗りは、声の質かその意思ゆえか、相当な距離まで届き、響く。だが、アサクラ隊とてひとところに固まる愚図ではない。彼女の挑発を受けた上で向かう者達は、挑発を免れた仲間に後を任せ、足止めを己に企図する。敵ながら割り切った動きだ、とレイリーが目を細めるより早く、その胴を衝撃が叩き、後退らせる。痛みはほぼ無い、だが衝撃力が高い。ヒットストップを重視した高衝撃弾か、多芸なものを。
「早急に天使を片付けます。眼の前に居るアサクラ隊、それだけでも引き付けてくれれば、あとは此方でなんとかします」
「頼もしいわね、流石はオリーブ殿」
「自分に、そこまでのものはありませんよ」
 レイリーは掛け値なしの称賛をオリーブに向け、改めて前に出る。高衝撃弾の目的は戦線離脱を促すこと、射程外だったアサクラ隊を分散させること、以上二点。ならば二の矢を番える前に倒してしまうか、押し切るのみだ。
 オリーブは天使を守るように包囲したアサクラ隊を巻き込むように掃射を放ち、懐に入ろうと迫る。だが敵もさるもの、最低一人を天使につけ、命を削ってでも守ろうとしてくる。
 天使を先決とみなすイレギュラーズにとっては面倒だが、流れでアサクラ隊が削れるなら本望、といったところか。厄介でこそあれ、強敵ではない。強くはないが、しぶとい。
 冠位憤怒の置き土産は、思ったよりも――面倒なものだ。
「倒れてる人を運んで退避してくれ! まだ助かる!」
「了解、ご武運を!」
「オリーブ殿が戦場を支えて下さるのだ、一同気張れ!」
 遊撃としてアサクラ隊を、天使を、そして狂気兵を倒すべく駆けるイズマは、周囲の状況が見る間に悪くなっていることを理解していた。狂気から免れても、死んでいないだけで重体だ。もとより戦線撹乱が目的のアサクラ隊は、瀕死の兵を漏らすつもりはない。そして天使は、彼らの心の支え足りうる。最悪の循環が生まれている。
 だが肉体はひとつしかない。オリーブの声掛けがなければ混乱はこの比ではなかった。兵士たちは統率のとれた動きで、仲間を庇い合いながら後退。追うアサクラ隊は、イレギュラーズ達が襲う。
「超ハイパー高性能AI殿……一分一秒、一手だけでいい。『やれるか』?」
『私に調教を加えて、いよいよ魔術師(ウィザード)の真似事をさせるのかい? 暇な上に頓知も下手になったとみえる』
 ヤツェクはE-Aに向けて無理難題をふっかけ、その可否を問うた。かなりの無茶振りで、正直なところ可能かも怪しい。だが、仲間達の治療、そしてかき鳴らされる楽器の音色から、彼の必死さはありありと伝わってきた。
 正直なところ、こんな要求がこの鉄火場で通る訳がない。渡されたペンは銃にもナイフにもなりはしないのだ。だが、柔らかいサインペンの軸でも目玉を潰すことはできよう。そう言葉を続けるヤツェクを、天使とアサクラ隊が狙いを向ける。だがその引き金が絞られる前に、背中から大量の血を吹き出し、それぞれ地に伏した。
「策を弄するなら、足場固めは重要だ。羽根で飛び回る私が踏み固めるのも可笑しな話だけど……時間稼ぎならするよ」
「地獄に仏――じゃなかったな」
(これが再現性東京だったら『賽の河原で死神に』か? どうでもいい話だな……!)
 数名を一手のうちに倒したミーナは、レイリーとともに戦意を高めようとするこの男を捨て置けない。何かを目論むこの男が、マイナスに働く訳がない。
「吉と出るか凶と出るか、司書殿達が有利になるためだ。BPM上げるぞ、タップダンスの準備だ!」
「悪くねえ、一気にペース上げるぜ」
 音楽とともに治癒を、そして士気を高めようとするヤツェクに、今まさに天使を討つべく義弘が応じる。戦車からの猛攻は強烈だったが、敗北には遠い。
 強敵を――悪意を討つべく、拳が唸りを上げた。


「どれだけ武装があって、どれだけ適応しようとしても、それが使えなきゃ意味がないんだよ」
「調子がいいのは最初だけ、直ぐに対処できないまま沈めてあげるわ」
 カイトとイーリンの対処はごくごく単純なものだった。近付き、攻め立て、狙いを自らに向けた上で行動不能状態を継続させる。魔力の消耗が極大化しても、先手を取り続けて圧倒する。そのやり方は、少なくとも『雑魚相手であれば』十分なものだった。
 少なくとも、数十秒はそのやり方で動きを止められた。だからこそ、仲間の作戦がスムーズに進んだ。
 だが、目の前の戦車ときたら――能動的な攻撃を諦める代わりにせり上がった装甲の爆発で、二人の攻撃に対し負傷させることで対応した。そして、一瞬の隙を好機ととったか、極小機械の散布により疑似煙幕すらも張ってみせた。
「ハッ、これで騙したつもりかよ! 器用な手を使う前に」
「――避けてカイト!」
 その程度で倒れるかと、機械群を押しのけたカイトの腹部に砲塔が触れた。先端部から突き出されたのは砲身ではなく刃物、砲塔が展開し高速回転を加えることで、彼の内蔵を深々と傷つけたのだ。
 死は見えない。だが、命の削れる音が聞こえる。砲塔が更に変化し、自爆覚悟の爆轟が両者を包む。
 破損した砲塔を捨て、換装した戦車を、しかしイーリンが打倒すべく迫る。戦車は既に、両者の行動を解析し終えている。膨大な魔力にあかせた自己強化の繰り返しと優位性の確保、囮としての役割。自身に狙いをつけさせようという意図があるなら乗れば善い。チキンレースに入ったなら、『近接状態で破壊し合えばいずれ勝つ』。
 何もさせぬまま終わらせようとしたカイトも、イーリンも正しい。計算違いがあるとすれば、装甲戦車のなかでもこいつは『対イレギュラーズ特化で、装甲までも「そう」』だったということ。時間を与えすぎ、同時に消耗しすぎたのだ。己の破壊を省みぬ至近での爆発の連続は、二人を消耗せしめて余りあった。

 ――ザッ

 それは誤作動と呼ぶのも烏滸がましい寸毫の反応だった。誰も気づくまい変化。さしものイーリンとて、それに気付くことは出来まい。
 気付きはしなかったが、だからこそ次の一合に反応が勝った。大きく飛び退った彼女の脇腹横を、クォーラルが過ぎったのだ。
「当たりました」
「よし……よし! このまま一気に押し切るぞ!」
「全く、無茶ばかりする……」
 冷静に事実を告げたオリーブと対象的に、ヤツェクが快哉を叫ぶ。ボロボロになった二者の姿に目を細めたミーナは、命も惜しく無しとばかりに戦車へと迫る。天使は堕ちた。兵達も、何れ鎮まるだろう。少なくとも、レイリーとイズマがそれを為す。
 彼我の距離は既に無いに等しい。当たるを幸いに振るわれる義弘の拳に、ミーナの乱撃が相乗する。当たる、破壊する、受ける、更に壊す……対イレギュラーズとはよく言ったもので、それは最後までイレギュラーズに死の一文字を予感させた。それだけの破壊を、成した。
 だが、その破壊をなお一部において上回ったのは、後衛の必死の治療であり、恐怖を凌駕した彼らの根性でもあった。
 戦車が崩れ落ち、爆発とともに飛び散った紙片は燃え落ちてもう読めない。ただし、この熾烈な戦いの終幕を告げる火の粉であったこと、そして無惨に振り払われるだけのものと化したことは、誰疑わぬ事実であった。

成否

成功

MVP

オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者

状態異常

亘理 義弘(p3p000398)[重傷]
侠骨の拳
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)[重傷]
流星の少女
カイト(p3p007128)[重傷]
雨夜の映し身
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)[重傷]
人間賛歌

あとがき

 大変お待たせして申し訳ありません、以上を以て完了となります。
 EXプレイングは是々非々なので、その辺だけはご了承下さい。

PAGETOPPAGEBOTTOM