シナリオ詳細
継いだ意志を紡げ
オープニング
●
赤く、人を惑わせる紅血晶。
見た者を虜にしてしまうその宝石は高い価値がつき、それでも欲しいとラサ国内だけでなく、国外の富裕層までこぞって求めたという。
しかし、その怪しい輝きは、人を変貌させた。
紅血晶を所有した者はゆっくりと人外へと変貌し……、やがて晶獣となり果ててしまう。
季節は夏に入り、強い日差しが地上を照らす。
ただでさえ、ラサは砂漠が国土の多くを占める地。
夏の暑さはあまりに堪える。
それが吸血鬼であればなおさらだろう。
「……元々、暑さに強いわけではないと思っていましたが」
元幻想種の吸血鬼ロヴィーサはうだるような暑さにぐったりとしてしまう。
いかに、深緑という地が恵まれていたのかと思い返すが……。
それでも、今の自分自身の在り方に不満はない。
ロヴィーサは、外で放し飼いとなっている多数の小型晶獣の中を歩いて屋敷の中へ。
「お茶が入りましたわ」
そのままロヴィーサは居間へと向かうと、メイド衣装を纏う吸血鬼がハーブティーは運んできていた。
顔面が紅血晶となり果てた少女、ビジューが腰かけており、それを優雅に飲み干す。
周囲に控えるのは、この屋敷で働くメイド達。いずれも若い女性だ。
そして、ビジューの傍には同じく吸血鬼の女性が。
「……これからどうするのですか」
「勿論、戦力を集めますわ、お母様」
母親らしい吸血鬼だが、ビジューの方が話の主導権を握っている感を抱かせる。
「あの晶竜は残念ながら力尽きましたし、新たな戦力を増やさないと新たに侵攻することも叶いません」
ゆっくりと立ち上がるビジューは、母親とロヴィーサについてくるよう促す。
そこは2階の当主の部屋。
ゆっくりと扉を開いたビジューは宝石のなった顔ではわかりづらいが、嬉しそうに微笑んで。
「きっと、あの晶竜の代わりを立派に果たしてくれることと存じます」
目を細めるビジュー。
ロヴィーサはほうと感嘆の声を上げ、母親は部屋の中から目をそらす。
グオオオオオオゥゥ、オオオオオゥゥ……。
体に紅血晶を埋め込まれ、人外へと変貌してしまった男。
「頼みますわね。お父様」
グウオオオオゥゥ、オオオオゥ……。
トカゲのような見た目をしたお父様……この屋敷の主であったはずの宝石商ヤージュは悲しげな咆哮を上げるのだった。
●
ラサ、ネフェルストへと集まるイレギュラーズ。
やはり、炎天下での説明はないだろうと、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)は冷えた飲み物を提供するカフェへとメンバーを招く。
「先日の街中での防衛、改めてお疲れ様でした」
この場にいないメンバー、新たに駆けつけたメンバーなど様々だが、その中には前回も参戦したクウハ(p3p010695)、囲 飛呂(p3p010030)の姿もある。
街中にほとんど被害を出すことなく防衛し、吸血鬼とされた人々も救出できたから実際依頼としては成功だった。
ただ、主犯である晶獣ビジュー、吸血鬼ロヴィーサを取り逃がしてしまった為、その行方を皆捜索していた。
「見つけたよ。行方」
クウハは街の人々の証言などを元に、その潜伏先を突き止めていた。
それは、宝石商ヤージュの屋敷。ビジューの生家である。
「どうやら、2人は行くところがなく、自らの生家へと押し入り、家族を襲って配下としてしまったようです」
なお、名もなき晶竜はネフェルストの外れで力尽きているのが確認された。
ただでさえ、体を滅茶苦茶に合成された存在であった。
イレギュラーズとの交戦によって深く傷つき、致命傷まで負った晶竜は残り少ない命をなくしてしまったものとみられる。
戦力が大幅に失われた……と思いきや、思わぬ手段でビジューやロヴィーサはその底上げを行ってようだ。
「どうやら、元の紅血晶の持ち主である父親を晶獣としてしまったようです」
女王の意志を継ぐ為には、家族すら使うことを辞さないと判断したビジュー。
ロヴィーサも彼女の母親や、屋敷の執事、メイド数名を吸血鬼としてしまっている。
また、2人は可能な限り集めた晶獣を屋敷の外で放し飼いにしている。
多くは小型の晶獣だが、中には猛禽、砂狼、跳獣型といった若干格上の敵もいる。
その総数は不明な為、一気に屋敷へと突入する必要があるだろう。
サポーターなど救援が来るなら、任せるのも手だ。
「屋敷内には、屋敷関係者が待ち受けます。唯一、部外者のロヴィーサは客人扱いですが、ビジューと共に当主の部屋にいるようですね」
一方で、当主のはずの父親は晶獣となって自我を失い、入り口で半ば番犬のような扱いとなっているらしい。
宝石商として人生を成功させていたはずの男が、紅血晶によって娘を奪われた挙句、その娘に家庭を……自分自身まで狂わされてしまった。
「なんとも哀れだな……」
それを考えれば、飛呂の呟きも同意せざるを得ない。
屋敷の関係者は烙印を押されてかなり日数が進行はしているようだが、まだ人に戻せる可能性はある。
だが、ビジュー、ロヴィーサはもちろんだが、当主ヤージュも残念ながら人に戻すことはできない。
せめて、これ以上、ラサに害をもたらさぬようここで終わらせてやるほかない。
「これ以上、歪んだ女王の意志を紡がせるわけにはいきません。是非、彼女達を楽にしてあげてください」
神妙な顔で、アクアベルは説明を締めくくったのだった。
- 継いだ意志を紡げ完了
- 歪んだ女王の意志を断ち切れ
- GM名なちゅい
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年07月30日 23時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC5人)参加者一覧(10人)
リプレイ
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ネフェルスト郊外。
纏まって移動し、目的地を目指す10数名のイレギュラーズ。
「晶獣や吸血鬼……ラサでの出来事、まだ終わってなかったんだね」
「吸血鬼騒ぎ、まだ完全に終わったわけじゃないんですね」
『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)、『君の盾』水月・鏡禍(p3p008354)がほぼ同じタイミングで同じことを呟くと。
「月の王国はもう消えたし女王もいないのに、まだ信奉者が残ってたか」
『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)があの一連の事件の生き残りがいたことにやや顔を顰める。
「そう簡単に変われない事は解るが、既に亡き者の意志に囚われてるのはあまりにも虚しい」
「そこまでして意志を継ごうとする執念は、後継者として立派だろう」
イズマの言葉に、『君を護る黄金百合』フーガ・リリオ(p3p010595)は部分的に評価したものの。
「けど、その意志がある限り、おいらの大切な人達を傷つけ続ける」
だから、抗い続けるのさと、フーガは己の信念を語る。
「懲りないね本当に……」
信望者の信念。
悪態づく『紅風』天之空・ミーナ(p3p005003)もまた、一度決めた事が曲げられないという考えには一定の共感も示す。
だが……。
「しかし、家族を巻き込むとは、何とも人から外れたものらしいです」
「とうとう家族にまで手にかけてしまうとはねぇ」
鏡禍の意見に、『闇之雲』武器商人(p3p001107)もついにやってしまったかと息を漏らす。
「どうして、こんな」
「どうして、命を――」
『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)と『奏でる言の葉』柊木 涼花(p3p010038)の「どうして」がハモる。
しばし考え込む飛呂と涼花を見て、『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)が首を振る。
「あぁ、全く。ままならねェな……。命を無駄にするなと言ったろうに」
紅血晶は、吸血鬼は無垢な女性達をここまで変えてしまうものなのか……。
「……かなしいことが、また、増えてしまう。ニルは、かなしいのはいやです」
――だから、どうしても止まれないのなら。
『あたたかな声』ニル(p3p009185)はぎゅっと短杖……ミラベル・ワンドを握りしめて。
「……おわらせ、なくちゃ」
これが最後になるといいと思う。
シトリンのコと武器商人が呼ぶニルもそうだが、クウハが気にかけていることも見過ごせないようで。
「……我が眷属がこれ以上心を痛める様なことになるのは看過できない。救える人員は救っていくとしよう」
「……そうですね。今は助けられる人を一人でも」
「……助けられる奴らだけでも助けねェとな」
涼花、クウハは意識を切り替えて依頼に臨む。
続いて、涼花は自分にできることなど、たかが知れているとしながらも。
「それでも、今自分にできるわたしの思う最善を尽くしましょう」
「そうだな。今やるべきことは決まっている」
迷わないし、迷えはしないという飛呂に続き、フラーゴラが叫ぶ。
「だったら、ワタシに出来ることは終わらせること!」
ラサに領地を持つフラーゴラはラサへの精一杯の好意を告げる。
「残党、倒しきろう」
「紅血晶の被害を繰り返したくもないし、ここで決着をつけよう」
飛呂、イズマが決意を口にし、イレギュラーズ一行は目的の宝石商ヤージュ屋敷への突入を試みる。
●
宝石商ヤージュの屋敷は、ラサ傭兵商会連合という国の中ではかなり贅を凝らした造りとなっていた。
砂漠など荒野が多い国だが、この屋敷正面の庭には無数の花が精一杯咲く花壇が造られ、中央には高く水を噴き上げた噴水が設置されている。
加えて、いくつか石像が設置されていたのは、屋敷の守護獣といった役割を担っていたのだろう。
だが、実際は、猛禽・サン・ラパース2体、砂狼・サン・ルブトー2体を始め、晶獣らがこの屋敷を警護する。
ネズミやトカゲ、鳥といった見た目をした小型の晶獣、鋭晶獣・サン・エクラ、アマ・デトワールが徘徊している。小型晶獣の総数は現状不明だ。
それらの存在もあり、突入に当たって無策という訳にはいかない。
「まずは敵の数と配置を確認しないとな」
飛呂は活性化させたスキルをフル活用して、屋敷を上空から見通し、敵の位置……特におもひいろによって吸血鬼を中心とした居場所を確認する。
クウハも同じく、敵の位置把握に努めていた。
他のメンバーもできる限りスキルを駆使し、多角的な情報を得るべく動く。
イズマやフラーゴラ、フーガはファミリアーを屋敷内へと送り込み、他メンバーからもたらされた情報を直に確認する。
涼花がギターを奏でて飛ばすファミリアーが屋敷裏手側をチェックするのと同時に、ニルの飛ばすファミリアー2羽も飛んでいて。
「屋敷内に晶獣は、おおきなのだけです」
晶獣の多くは外で番犬放し飼いといった印象だとニルは仲間達へと伝達する。
メンバーは陽動班、突入班と分かれて作戦に当たることになるが、途中合流する必要がある為、屋敷内で合流できそうな地点も探る。
武器商人は超視力と透視を活かし、屋敷の構造確認も行っていて。
「突入してエントランスに吸血鬼と巨大な晶獣。2階は当主部屋以外に敵はいないから、階段上がってすぐでも合流は行けそうだね」
念入りに調査したいところではあるが、なにせこちらは10数名の大所帯。
討伐対象から発見される危険もある為、その前に手早く突入準備を整えていく。
決行の瞬間、イレギュラーズは素早く屋敷の敷地へと飛び込む。
先頭に立つフラーゴラはマリシャスユアハートを使い、誘いの魔力を充満させて庭にいる晶獣を纏めて引き付けようとする。
クウハもフラーゴラと合わせて前に出ていた。
金環、銀環の権能をそれぞれ纏ったクウハは守りをしっかりと固めてから原罪の呼び声を上げ、こちらも多くの晶獣を引き付ける。
この2人を中心として屋敷外の晶獣を相手することになるが、頼もしいサポーター達が駆けつけてくれる。
「大事な人たちが頑張ってるから、自分はその背を守りたいなって」
『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)はメインメンバーの中に多数の仲間がこの依頼に臨んでおり、戦闘なら少しはお役に立てるはずだと考えて参戦していた。
「だから、目的に向かってダッシュしてな! 少しは援護出来るはずやから!」
屋敷へと向かう武器商人やフーガが手を振るのを認めながらも、この場のクウハに合わせて突撃戦術を仕掛け、携える弓を激しくひいて鋼の驟雨を敵陣へと降らす。
『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)もまた、援護の為にと加わっていて。
「屍を増やすなラ、この赤羽様に任せとケ」
大地も屋敷突入を目指す面々へとそう呼びかけ、凍てつく冬の寒さに晶獣達を包み込んでいく。
晶獣の中に混乱し始める中、大地は自身ありげに続ける。
「そのかわリ、救える命ハ、絶対取り零すなヨ?」
さらに、浮遊していた『木漏れ日の優しさ』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)が地上のメンバーを見下ろして。
「なんだか大変そうね」
オデットはすでに近場の精霊の助力を得ており、高所から晶獣の数、配置を可能な限りチェックしていた。
「いいわ、せっかくだから手伝ってあげる」
建物裏手側にいた晶獣まで視野に入れつつ、オデットは根源たる力を泥に変えて浴びせていく。
少しでも減らすことができれば、突入組が屋敷内へと行きやすくなるはずだ。
ミーナも屋敷への突入をと、目の前の邪魔な晶獣に向けて大鎌を振り回して乱撃を浴びせかける。
思った以上の援護を受け、突入班は開けた道を一気に駆け抜けて屋敷内へと突入する。
この地点で屋敷内へと足を踏み入れたのは、武器商人、鏡禍、ニル、飛呂、涼花、フーガだ。
屋敷のエントランスでは、執事、メイドらが侵入者であるイレギュラーズを出迎える。
その中から前へと進み出たのは、屋敷当主夫人。
「本日は来客の予定などございませんが」
強い口調で詰問してくる夫人。
彼女を含め、この場の人間は皆、口からは牙が見え隠れしていた。
現状、涙や血まで確認できないが、この奥にいる存在によって吸血鬼化させられているのは間違いない。
「お引き取りを」
端的に告げる夫人だが、当主部屋にいるはずの強敵2人討伐を目指すイレギュラーズが退くはずもない。
「なら、仕方ありませんね」
夫人の声に応じ、エントランス奥に控えていたトカゲが進み出る。
そのトカゲの両腕は非常に発達しており、両腕を床につく形で態勢を維持している。
両腕によって隠れていたが、胸部には紅血晶が視認できた。
そして……。
グオオオオオオゥゥ、オオオオオゥゥ……。
爛々と目を輝かせるその晶獣こそ、この屋敷の当主ヤージュである。
もっとも、彼に理性は残っておらず、ただ呻き声を上げるのみだ。
この場の晶獣や吸血鬼も相手にせねばならないが、最優先はこの事態を作り出した元凶の討伐。
この場は早く突破して元凶と対面したいところ。
グオオオオオオオオオオゥゥ!!
トカゲの俊敏さで飛び掛かってくるヤージュ。
「排除なさい。あの娘達を守るのです」
夫人の指示のもと執事、メイドらもまた牙や爪を突き出してくる。
情報によれば、吸血鬼らは刻印をつけられてから日数こそ経ってはいるものの、まだ人には戻せるとのこと。
(不殺で倒さないとな)
所持する『スターライトエンブレム』に視線を落とす飛呂。
弱き命を救う為、彼らを救い出したいと飛呂はそのアクセサリーを強く握る。
すでに敵は距離を詰めてきている。
素早く己の体を戦いに最適化し、突撃戦術に出る飛呂は向かい来る吸血鬼達を足止めすべく2丁の狙撃銃から無数の鉛を放って足止めしようとする。
グオオオオオオ!!
だが、晶獣となったヤージュは抑えられず、挨拶代わりとばかりに拳を叩きつけてきた。
意図せず屋敷が破壊されぬよう、ニル、鏡禍が保護結界を展開する。
ヤージュを含め、エントランスにいる者達はイレギュラーズら外敵を排除しようとするが、屋敷まで破壊しようとはしていない。
ともあれ、階上に至る為、眼前の敵を抑えねばならない。
イズマも鋼の細剣で鋭い突きを幾度も繰り出して吸血鬼らを足止めし、突破を目指す。同じく鏡禍も階段を駆け上がる隙を窺っていた。
「王国再興……邪魔はさせませぬぞ」
執事は異形と化した当主よりも、上階にいるとみられる元凶を優先して振る舞い、怪しく瞳を光らせる。
(できるだけ、たくさんの人を助けないと――)
その為に今どうするのが最善手なのか、涼花は戦略眼的な見地を含めて思考をフル回転させる。
まず、涼花はフーガと協力してクェーサーアナライズを使い、お互いをサポートして能力を高めていく。
なお、涼花とフーガは身に着ける『メフィート』の効力もあり、その効果範囲を広げる為できるだけ距離をとるよう立ち回る。
「皆さんが全力を尽くせるよう、最大限の支援を歌いましょう」
仲間の援護を受けながら、武器商人も勝てるよう己を高め、攻撃集中して衒罪の呼び声を上げた。
何かあったら遠慮なく告げるよう要請しつつ、武器商人は屋敷全体の戦況と味方の位置把握も欠かさない。
その中でフーガはさらに奥へと進む2人を援護する為、稲妻と突風の力を与える。
フーガの目配せを受け、鏡禍とイズマが一気に敵陣を突破して階段を駆け上がった。
「行かせはしませんよ」
淡々とした口調とは裏腹に、恐ろしい形相で牙を剥く夫人。
だが、ニルがすかさず堕天の輝きで敵陣を照らすと、吸血鬼はもちろんのこと、晶獣となったヤージュも動きを鈍らせていた。
エントランスを突破した鏡禍は突入直前にファミリアーなどを使った仲間達からの情報を元に当主の部屋を探す。
「恐らくは豪華で大きな扉だとは思いますが……」
自らも扉の外から透視によってその内部を見通しつつ、鏡禍は先に進む。
ここで改めてファミリアーを飛ばし、イズマは屋敷を偵察する。
2人は確認した情報を基に当主部屋を割り出して突入する。
そこにいたのは、元凶となる晶獣ビジューと吸血鬼ロヴィーサだ。
「思ったよりも早かったですわね」
「なら、直接倒すまでです」
人を辞めた2人の女性は妖艶に微笑み、襲い掛かってくるのである。
●
変わりゆく戦況。
外、エントランス、そして当主部屋の状況は逐一、メンバーのファミリアーやテレパスによって伝達され、全員に周知される。
屋敷外、庭を中心とした屋敷正面での戦いは激しさを増す一方。
数は圧倒的に劣勢だったが、駆けつけるサポーターも奮戦してくれていて。
「ったく、どれだけいるんや」
思った以上に多い小型晶獣に彩陽は多少でもうんざりしながらも、全てを見通す視座をもってこの場の敵を逃さない。
捕捉した敵全てに、彩陽は纏めて鋼の驟雨を浴びせかける。
多量の血が花びらへと変わる中、ミーナが砂狼を赤い闘気によって燃やし尽くし、クウハが内より出でし炎で別の砂狼を炎で包んで黒焦げにしてしまう。
フラーゴラも自身のオーラと神翼獣ハイペリオンの権能を合成し、ミニペリオンの群れを召喚して空から鋭いくちばしや爪を突き出す猛禽2体を襲わせて地へ墜とす。
群れの中では比較的大きな相手を倒したとしても、晶獣の数は多い。
「クウハとかが頑張るみたいじゃない」
知り合いにはちょっと甘いというオデットは破滅の魔眼を開く。
いつの間にか地上に降りていたオデットは敵陣を捉えて。
「妖精の魔法を舐めるんじゃないわよ」
再度巻き起こす根源の泥。
その近辺では、大地がここで戦っていたメンバーに大天使の祝福をもたらし、傷を塞いでいた。
外で交戦していたメンバーで、ミーナがいち早く扉へと駆け込む。
エントランスでの交戦は始まって、さほど時間は経っていない。
抑えに注力して、2人を当主部屋へと先行させた為だろう。
テレパスなどによって送られてくる情報と合わせ、視認した戦況を把握する。
序盤は強力な力を振るってくる相手を抑えるところから動いており、涼花やフーガが協力体制をとって仲間達を支える。
涼花が暁と黄昏の境界線から漏れ出す光で仲間達を照らし出し、フーガが降り注ぐ陽光。暖かなる風光。慈愛の息吹を起こして戦線の維持に努める。
それらの援護を受けつつミーナはこの場にいた吸血鬼を纏めて捉え、外と同様にH・ブランディッシュを浴びせかけた。
外の晶獣と比べれば飛び散る血……花弁の量は少ないが、それでも屋敷の住人達が人でなくなっているという事実を確認するには十分。
武器商人がこの場の相手を抑える傍ら、屋敷内へと飛び込んだ『貴方を護る紅薔薇』佐倉・望乃(p3p010720)が己の生命力を犠牲にこの場のメンバーを強化する。
同じタイミング、屋敷内へと入ってきたサポーター、『黒響族ヘッド』冬越 弾正(p3p007105)も吸血鬼に応戦し、双刀で斬りかかって傷つけていく。
さらに、サポーターに外の状況を預けたフラーゴラやクウハもエントランスでの戦いに加わる。
彼らにも、エントランスの状況はある程度伝達されている。
現状は晶獣ヤージュ、吸血鬼7体は健在。
「多少は傷ついても、ワタシはタフだから」
戦いはまだここからとあって既に仲間達が抑える中、フラーゴラもまたマリシャスユアハートを発動させて抑えに加わる。
クウハは一旦距離を置き、敵を分析して能力、弱点がないかと探る。
数も多い吸血鬼、しかも刻印が進んでいて何れも楽に倒せる相手ではない。
飛呂は死神の狙撃によって吸血鬼等の力を削ぐ。
牙や爪は出血させる他、こちらの体力を奪うこともある。
また、瞳はこちらの動きを止めたり、思考を奪うことがある為、優先的に無力化したいというのが飛呂の狙いだ。
グオオオオオ、オオオオオオゥ!!
剛腕で殴り掛かってくるヤージュもまた恐ろしい相手。
力で攻めてくる相手へクウハが近づき、抑えに当たる仲間を庇う。
鉄壁の守りに身を包んでいるクウハのこと。そう簡単に崩れはしない。
「晶獣……きらきらひかる宝石の獣。こんなものに、なりたかったの……?」
ヤージュは晶獣になることを望んでいなかった可能性があるが、胸部で輝く紅血晶に強い関心を抱いていたのは間違いない。
そこで、ニルが高位術式を発動させる。
世界へと干渉するニルは四象の力を顕現させ、ヤージュへと襲い掛からせた。
グオオオオオオオオオオオオゥゥ!!
宝石商という肩書はもはやその見た目からは全く感じさせず、ただ獣となり果てた体で悶える。
今は本能のままに獲物へと襲い掛かり、攻撃凌いだ相手は力を高めて次なる強力な一撃に備える。
相手の力は底が知れない。
涼花は、フーガは天上のエンテレケイアを使ってできる限り仲間の体力を万全に近い状態にし、チームの形成能力を維持するのである。
当主部屋でも、イレギュラーズと元凶となる女性2人との交戦が始まる。
(これ以上、逃げられるのは避けないとな)
今はしっかりと抑えておきたいが、相手は格上。人数も最低限しか到着していない為、かなり厳しい戦いとなる。
イズマはそれを踏まえ、語り掛けながら時間を稼ぐ。
「ビジュー、ロヴィーサ。女王は命尽き、月の王国は砂と消えた。貴方達はあの国に沿う最後の存在だろう」
襲い来る女性2人に自らをアピールしつつ、イズマは窓側へと回り込み、鏡禍が扉側に陣取って逃走を防ぐ。
その状態で、イズマは鋼の細剣で女性らを刺し貫いて足止めする。
「だがもう戦いは終わったんだ。まだ続けるなら今ここで俺達が終わらせる」
「何を言っていますの。だから、再び始めるのですわよ」
ビジューにはまるで話が通じず、彼女は軽やかに跳躍して蹴りかかってくる。
「私達の心は今もあの王国にあるのです」
ロヴィーサも操る風の精霊に風の刃を放たせてくるが、ここは鏡禍も己の内から燃え上がる『ブレイズハート・ヒートソウル』で彼女を自身へと釘付けにする。
大なり小なり、イレギュラーズに怒りを覚えて襲ってくる女性達。
今は本隊の合流を待ちつつ、イズマ、鏡禍は強敵達をこの部屋で食い止めるのだった。
●
屋敷の外では、サポーターと小型晶獣の戦いが続く。
戦力がかなり減ったことで、今しばらく交戦は続きそうだ。
そこから屋敷に入り、エントランス。
ここでの戦いは少しずつ動きを見せていて。
牙を剥いて飛び掛かってくる吸血鬼。
肉体がかなり強化されていた彼らは確かに厄介な相手。
まして、全員をメンバーは救おうとしていたのだから、命を奪わぬよう慎重に戦いを進める。
敵陣を堕天の輝きを照らしたニルによってメイド1人が倒れ、飛呂がフラーゴラの力を借りつつ敵より早く鉛を掃射し、別のメイド1人を地に伏す。
武器商人が自らへと向かってくる相手に閃光を瞬かせると、鬼に取りつかれていたような形相をしていたメイド1人が穏やかな顔をして倒れる。
続き、ミーナもまた頸椎を蹴りつけて昏倒させると、サポーターとして参戦する弾正が峰打ちによる乱撃で最後のメイドの気を失わせた。
ビジューが正気を取り戻すことはないかもしれないと彼も感じてはいる。
それでも、身内を自らの手で概してしまったという傷が死後もその魂を苦しめるだろうと考え、可能な限り救い出したかったのだ。
倒れたメイドは、弾正が壁際へと運ぶ。
望乃も戦いの手を止め、持前の医療技術によって助け出した人々を治療し、展開する保護結界で巻き込まれぬよう守っていた。
依然、この場はフーガ、涼花両名が支える。
フーガはメインで抑えとなる武器商人に傷が増えるのを見ながらも一旦彼をおいて、自らの調和の力を賦活のそれへと変えてから飛呂、フラーゴラといったメンバーを癒す。
涼花も赤いイレギュラーズの血がこれ以上飛び散らぬよう、ニルやミーナへと天より降る光輪による恩寵で強い癒しの力を与えていた。
フラーゴラ自身もエントランスでの戦いで疲弊するメンバーに、天上のエンテレケイアで体力回復に当たることもあった。
戦うべき相手は多い。何より、本命との戦いが控えている。
眼前から襲い来る執事目掛け、フラーゴラは再度ミニペリオンの群れを呼び出し、動きを止めつつ地面へと抑えつけて完全に動きを止めた。
「これでは、あの娘達に合わせる顔が……」
晶獣となった夫ヤージュはまだ戦えていたが、自分に向かってくるイレギュラーズが増えたことで、夫人も満足に動けなくなっていて。
吸血鬼ならではの動きで相手を制圧しようと夫人も画策していたが、フラーゴラを起点とするイレギュラーズの攻めは止められず。
距離をとりながら交戦していた飛呂の弾丸を真横から浴びてしまった夫人は大きく目を見開いて。
「ああっ……」
パタリと崩れ落ちる夫人の体。
素早く彼女を搬送するサポーターの傍で、なおも晶獣ヤージュが暴れて。
グオオオオオオオ、オオオオオオオッ!
とはいえ、ヤージュも心行くままに力を振るっていたわけではない。
飛呂が徹底的にその力を封じており、先ほどチャージによって溜めていた力もあっさりと霧散させていたのだ。
だが、理性野なくなった晶獣は強引に己を封じる力を振り払おうとして。
グオオオオオオオオオオオオオオオオゥゥ!!
満足にチャージした力を振るえないのならと、ヤージュは飛び上がってから広域にプレス攻撃を仕掛けたり、家の中だというのに砂嵐を巻き起こすなど、無茶苦茶に力を振るう。
ニル達の展開していた保護結界がなければ、この屋敷は半壊から全壊していた可能性もある。
自らの財で築いた屋敷を、自らの手で破壊するヤージュ。
ただ、その行為すらも、彼はもう愚かしいことだという認識を持たない。
大技を使う敵へと近づくミーナは技の発動直後を狙って比較的柔らかそうな腹を狙って終焉を刻む。
激しく流れるはずの血は大量の花びらへと変わり、エントランスの床を覆いつくしていく。
体力が減ったのか、動きが明らかに鈍ってきていたヤージュ。
グオオオオオオゥゥ……。
その片腕を真横に叩きつけてきたのを、クウハがしっかりと受け止める。
鉄壁の守りでプレヌ・リュンヌとなり果てたヤージュを押さえつけるクウハ。
片腕では体を支えられず、態勢を崩したヤージュへニルが仕掛ける。
ニルが見てたのは、ヤージュの胸部で輝く紅血晶。
ひとをこんな形にしてしまうこの宝石がニルにとっては嫌なものでしかなく。
「だから……ここで、砕くのです」
神秘の力を最大にまで高めて、ニルは渾身の一打を撃ち込む。
グオオオォォォ…………。
背中から倒れていくヤージュの体。
砕けた紅血晶が辺りへと散らばる中、白目を剥いたその巨体は轟音を立ててエントランスの床へと沈んでいった。
ヤージュが倒れた轟音は当主部屋にまで聞こえていて。
「お父様……」
「やはり、この程度の力では、止められないのですね」
俯いて言葉を漏らしたビジューに続き、ロヴィーサが小さく頭を振る。
直に、イレギュラーズの本隊がここに至る。
この場の2人を手早く倒せば逃げられるかもしれないが、鏡禍やイズマはその場から動かない。
ただ、イレギュラーズはそれぞれ逆方向に1人ずつ。
ビジュー、ロヴィーサは協力して、突破を試みようとする。
エントランスのイレギュラーズの足音は廊下側から近づいてくる。
なら、突破するのは窓側のイズマ。
しかしながら、鏡禍もそれを黙って見過ごさず、防御力を打撃力へと転じてビジューを叩く。
「これくらいで、女王の意志は……っ!」
ドレスを破かれながらも、ビジューはロヴィーサと共にイズマに向かって膂力を活かした飛び蹴り、巨大な槍の如き旋風を一気に浴びせかける。
………………。
流れ出すイズマの血。
だが、イズマはパンドラを砕き、さらに神秘の霊薬を使って耐えきって見せる。
「紡がせはしない。ここで終わらせると言った」
精神を揺さぶる一撃をロヴィーサへと撃ち込み、イズマはこの場に相手を縛り付けようとする。
顔が紅血石となったビジューの表情は窺い知れないが、ロヴィーサは露骨に表情が歪む。
「…………っ」
なぜなら、勢いよく部屋の扉が開き、多くのイレギュラーズが駆け込んできたからだ。
「さあ、意地の張り合いといこうか」
ミーナが言うように、ここからは意地の張り合い。
これを最後の戦いにすべくイレギュラーズは誓いを立てて。
女性2人は何としてもここで終わらせぬ王国を再興させるという強い意志を抱いて。
両者は全力でぶつかっていく。
●
屋敷外での戦いは少しずつ終息に向かっていた。
いくら小型晶獣の数が多いとはいえ、すでに月の王国がなくなっている以上、数には限界がある。
数が減ったことで、彩陽は個別に相手取る方針に切り替え、死神の狙撃でその体を撃ち抜いていく。
飛び散る花弁の奥から飛び込んでくる新たな敵。
だが、オデットの繰り出した妖精の一撃がそいつもまた打ち倒す。
「望んだ結末が得られるんだったら、ちょっとぐらい暴れるのもやぶさかじゃないわ」
それももう遠くはない。
オデットはそう確信し、残る敵に魔力の一撃を叩き込む。
エントランスにいた弾正は新手が出現しないかと注視する。
どうやら、小型の晶獣が増えて外の戦いを覆そうとしているのは確認できたが、それ以外の敵が現れる様子はない。
ならば、今は倒れた吸血鬼を介抱するのが先だと、弾正は判断していたようだ。
一度は逃走をはかろうとしたビジュー、ロヴィーサの2人。
確かに、女王や博士の意志を紡ぐならば、生き延びることこそ最優先。
退路を断たれた現状だと、この戦いに勝利せねばならない。
だが……。
「もう、呼んでも来ませんわ……」
外の戦いに当たる小型晶獣を呼び寄せようと考えていたビジューだが、それらも大半がイレギュラーズに掃討されていることを知る。
屋敷内の身内が倒されているのは先ほど確認済み。
後は、自分達だけでこの事態を何とかせねばならない。
「お前らの献身。これ以外の選択をしないんなら、もう止めるしかない」
飛呂は真っ先にビジューを狙う。
狙撃手は冷静であるべきだと考える飛呂だが、抑えられぬ感情の高ぶりもあり、その見た目が蛇へと近づきながらも、弾丸をビジューへと撃ち込む。
一方、ロヴィーサは傷ついた鏡禍からクウハが抑えを引き継ごうとしたが、ここぞと相手は底知れぬ力を引き出す。
「このまま、終わらせはしません……」
しばらく、逃げを考えていたはずのロヴィーサだが、腹をくくった彼女は恐ろしいまでの力を高め、猛獣を思わせる風の精霊を従えて襲い掛かってくる。
その力は行使するだけで全てを断ち切りかねぬほど恐ろしい刃。
守りに特化したはずのクウハだったが、彼すら抑えるのが厳しいと判断した武器商人が飛び込み、パンドラと引き換えにして彼を守る。
「慈雨、俺は大丈夫だ」
そうは言うが、クウハもロヴィーサの底知れぬ力に寒気すら覚えてしまう。
完全なる吸血鬼となった彼女の力は魔種相当だという。
武器商人の体力をフーガが支えつつも、あまり傷を塞ぎ切らぬよう配慮する。
それは、武器商人が己の傷を力に変えていたことが大きい。
発する蒼き槍の威力は非常に鋭く、軽く飛び回っていたビジューもギリギリ避けてはいたものの、その威力に体が悲鳴を上げていたようだ。
また、当主部屋へとメンバーを支援に来たサポーター達もいて。
ビジューは回復役となるフーガを敵視し、空中から連続下痢を繰り出していたが、それを防いだのが駆けつけた望乃だった。
いつも守ってもらっているフーガを守ることができて、望乃は嬉しそうに笑う。
「女王の意志を継ぐ……その為になら、家族や大切な人を犠牲にすることも厭わないだなんて」
この場のメンバーの傷を調和の力で癒す望乃はビジューへと思いの丈を語らずにはいられない。
「貴女は、そうまでして、何の為に、女王の意思を継ぐと誓ったのですか?」
「あの方は、心からの寵愛をわたくしに授けてくれたのです」
先の大戦でも、王国内の一部屋から出ないよう女王はおっしゃってくれた。
「ですから、わたくし達があの方の想いを受け継がねばならないのです……!」
すでに、女王の想いが異なっていることも伝えているはずだが……。
「お前、家族のところに帰りたかったんじゃないのか」
そんなビジューに、蛇に近い顔へと変貌していた飛呂。
彼は仲間にもほとんど見せない顔をしながらも、叫ばずにはいられない。
「家族をあんな、もう一緒に笑ったり話したりできないものにしたかったのか!」
「お父様もお母様も同意してくれました。成すべきことをしなさいと……!」
皆が攻撃を仕掛ける中も、ビジューは軽やかに跳躍し、蹴りを繰りだして応戦しながら語る。
「皆の体力と気力は、俺が支える。だから、まだ諦めないでくれ」
同じく駆けつけた大地も聖体頌歌を響かせてこの場のメンバーを支える。
死に物狂いで襲い掛かってくる女性らは実に恐ろしい。
ニルはその動きを見つめ、着地のタイミングを見計らってから零距離から神秘の一撃を腹部へと撃ち込む。
その衝撃は顔になっている紅血晶にまで及び、大きな亀裂が走る。
「最期に言い残すことはあるか?」
イズマが確実に仕留めようと正確無比な連撃を叩き込む……が、ビジューは顔の亀裂を深めながらも、顔面から発光しようとする。
……だが、この場に援軍は訪れない。
この少女は確実に、ここで……飛呂は意を決する。
(倒しておけば、家族の話しなければ、回避できたのかな)
階下の惨状は避けられたかもしれないという別の未来を想像しながらも、飛呂はもうこれ以外の道はないし、力ない自身にはそれしかできないと自覚して。
「確実に、ここで殺す」
最大にまで高めた火力をもって、飛呂はビジューの胸部を撃ち抜く。
「あぁ……、じょおう、さま……」
零れる涙が地面へと至ったのと同時に、ビジューの顔面となっていた紅血晶、そしてその命までも砕けてしまった。
「あなたは私の最大の理解者でした……」
ここまで共に王国再興を目指していた相棒の死をもロヴィーサは力に変えてイレギュラーズへと襲い来る。
風の精霊の力を借り、当主部屋を狭しと移動するロヴィーサ。
その機動力は万全なビジューをも上回る。
武器商人がロヴィーサを捉えて蒼き槍で穿つが、相手は止まることなく近づいてきたミーナの体に鋭い刃を刻む。
恐ろしいまでの威力に口と傷口から血を垂らしながらもミーナはパンドラを砕くが、ただやられてばかりではおらず、終焉の刃で反撃を繰り出す。
血を流すミーナに対し、ロヴィーサの傷口からは花弁が舞う。
傷つく仲間を涼花が全力で癒しに当たる。
熾天宝冠に聖体頌歌。
それらを涼花は歌やギターによる演奏で力の限り戦場へと響かせ、仲間達を支えていた。
戦いは正念場。
吸血鬼としての力を遺憾なく発揮してくるロヴィーサ。
彼女の魔力も相まって、呼び出された風の精霊はもはや止められぬほどに強化されていた。
そんな相手の動きを、フラーゴラが追う。
怒りを買おうとするが、なかなか止まらぬ相手にフラーゴラは極小の炎乱を咲き乱れさせて。
「逃がさないよ……!」
重ねて悪意の魔弾を撃ち込み、ロヴィーサの動きが止まる。
「なあ、ロヴィーサよ。これが無意味な行為だと本当は分かっているんじゃないのか?」
風の精霊が霧散したことで床付近にまで降りてきたロヴィーサへとクウハが問う。
説得など十中八九無意味だということは、彼も承知の上。
「女王を殺しせしめた俺達にオマエ達だけで敵う筈がないだろう」
「…………」
それでも、クウハは納得したいがための自己満足とばかりに呼び掛ける。
ただ、吸血鬼へと堕ちた彼女には縋る先がこれしかなかったのだとクウハは指摘する。
「俺じゃ代わりにはなれないか?」
――オマエさえ望んでくれるなら、俺はオマエと家族になりたいと思っているよ。
しばしの沈黙。
この場のメンバー達も戦闘態勢を維持したまま、成り行きを見守る。
小さく微笑んだかのようなロヴィーサだったが、瞬時に呼び出した風の精霊を特攻させてくる。
それを鏡禍が受け付け、爆ぜ飛ぶ空気と共にパンドラを失っていたが、クウハはすかさず慈悲と無慈悲の一撃を放つ。
心変わりをせず、地を通したロヴィーサの目から光が失われる。
幻想種でなくなり、月の王国がなくなり、相棒すら亡くなった。
「もう、私の居場所は……」
それが、吸血鬼となった女性にとっての最後の言葉となった。
「出来る事なら、あの時助けてやりたかった」
その最後を看取ったクウハは、本心をもって手向けとする。
「ロヴィーサ様、ビジュー様。ニルは忘れません」
倒れる2人の女性達をニルは見下ろして。
――あなたたちが大切に思っていたもののことも。
――あなたたちがめちゃめちゃにしたもののことも。
――ぜんぶ、ぜんぶ。
彼女達の遺した紅血晶を拾い上げつつ、ニルはそう呟く。
●
屋敷内の敵を掃討した後、イレギュラーズは外へと出て残る晶獣の殲滅に当たる。
すでに統率を失った晶獣らは逃げようとする個体も少なくなかったが、メンバーは徹底的に掃討すべく攻撃する。
イズマの破式魔砲が光を走らせ、鏡禍も1体ずつ確実に叩く。
皆の尽力もあり、程なく目につく晶獣もいなくなる。こちらの数もあって打ち漏らしもほぼいないはずだ。
あらかた敵がいなくなったところで、鏡禍は一息ついて。
「あとは屋敷の片づけでもしましょうか」
彼呼びかけもあり、メンバーは屋敷内、エントランスや当主部屋を中心に片づけていく。
展開していた保護結界もあり、損傷が大きな箇所はさほど多くはない。
「……何もかも全部、もとに戻せるわけではないけれど」
それでも、ニルはこの屋敷が元の形にならないという現実を口に出す。
残念ながら、晶獣となった当主ヤージュはいなくなってしまった。
それでも、鏡禍はこの家に根付いている思い出は可能な限り残したつもりだと告げる。
吸血鬼となっていた者達全員の体から烙印が消え、多少の影響は残るものの人として戻ることができた。
「ひとに戻れるのなら、よかったです」
ニルはそれ自体に関しては安堵する。
ただ……。
「うっ、ううっ……」
意識を取り戻し、現状を把握した夫人は泣き崩れる。
その夫人に、武器商人が寄り添って。
「娘が旦那にあんなことをしてショックだったろう……辛かったね。でもキミが生きていてくれてよかった」
「混乱も、失望もするでしょう……大切な家族を失うのですから」
その婦人を含め、執事やメイド達の症状をフーガが医療技術で診つつ、信仰蒐集を活かして声をかけ続ける。
「けど……こんな素敵な花園や屋敷を獣で埋め尽くし、意志に操られるままの化け物として生きる事は誰が望んだのでしょうか?」
放置していれば、人としての理性を失った当主はいずれこの屋敷を破壊してしまったかもしれない。
何より、強い力を持ってしまった晶獣ビジューもまた、別の形で月の王国を再興しようと動いていたに違いない。
「もし、まだ人としての意志が残っているのなら、思い出してください」
――昔の主人と娘さん、皆さんがどんな顔だったか、何が幸せだったのか、と。
「あ……」
愕然とする夫人を、執事やメイド達が心配そうに気遣う。
ビジューは戦いの際、美しい舞踏を披露していた。
少なくとも、そうした武芸を習わせる中で、当主や夫人は惜しみない愛情を注いでいたはずだ。
そうした思い出を執事がぽつぽつと語れば、夫人だけでなくメイド達からも涙がこぼれる。
それは結晶とはならず、床にまで落ちていく。
少しして、屋敷の庭へと当主やビジューの亡骸が運ばれ、埋葬される。
イズマの提案ではあったが、執事やメイド達がやらせてほしいと作業に当たっていた。
それを、夫人がじっと見つめる。
彼女達が2人に別れを告げ、新たな人生を歩めるようにというイズマの配慮だったが、鏡禍は逆にこう言い放つ。
「知ってますか? 覚えている人がいなくなった時、人は本当の意味で死ぬんですよ」
今後はあなた達次第。
そんな鏡禍の一言に、夫人達は言葉を失って築かれた墓石を通して在りし日の2人を思い出す。
「王国ではなく、平穏な場所を……取り戻せるといいのです」
ニルの優しい言葉に、夫人達は再度涙を流すのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは吸血鬼となった少女へと本心から呼びかけ、その生を終わらせたあなたへ。
皆様の活躍により、この一件も終息に向かいそうです。
残された人々が前向きに生きていくことを願ってやみません。
ご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
こちらは、「女王の意志を継いで」の続編シナリオで、クウハ(p3p010695)さんのアフターアクション、囲 飛呂(p3p010030)さんの関係者シナリオも兼ねております。
月の王国の残党が、晶獣ビジューの生家へと集っています。
人の道に外れてしまった彼女達を終わらせてあげてくださいませ。
●概要
ネフェルストの街中での戦いに敗戦した彼女達は、ビジューの生家へと身を寄せています。
ビジューはロヴィーサと共に家族を晶獣や吸血鬼と化し、再起を図っています。
彼女達が完全に力をつける前に、こちらから打って出て討伐していただきますよう願います。
●状況
ネフェルスト郊外にある大きな私有地に、2階建ての豪邸、ラサとは思えぬ噴水、花壇には色とりどりの花と贅を尽くした造りとなっています。
屋敷外には晶獣が徘徊しており、エントランスは晶獣となったこの館の主……宝石商ヤージュと吸血鬼となった住民達。
そして、2階の当主の部屋で晶獣ビジューと吸血鬼ロヴィーサが待ち構えます。
●敵:晶獣ビジュー以下吸血鬼混成隊
◎晶獣:ビジュー
元人間種。ラサの宝石商の娘。親が販売していた紅血晶の魅力に取りつかれ、晶獣となってしまいました。
女王の信望者であり、その意志を継いでラサを自分達のものにせんとロヴィーサと共に動いています。
前回の戦いでダンスを活かした舞踏による蹴技、紅血晶を光らせるなど、確認されています。
◎吸血鬼:ロヴィーサ
元幻想種女性。悪徳商人によって捕らえられた後、烙印を押されて完全な吸血鬼となり果ててしまいました。
ビジューと共に、女王の意志を継いで王国を築くと躍起になっています。
直接噛みついてくる他、風の精霊を操ってきます。
完全なる吸血鬼となり果てており、その力は魔種相当です。
〇吸血鬼×7体
いずれも元人間種。50代のビジューの母親と同じく50代の男性執事、20代の女性メイド5名です。
ロヴィーサが烙印を付与した存在ですが、かなり症状は進行しているようです。
それでも、完全に吸血鬼化はしていない為、救出は可能です。
もっとも、娘一人と家主が元に戻らぬ為、アフターケアが必要となるでしょうが……。
攻撃方法は鋭く伸びた牙や爪、怪しく瞳を光らせるなど。
○晶獣(キレスファルゥ)
紅血晶が埋め込まれたキマイラです。
ヤージュ討伐はほぼ必須ですが、その他はかなり数が多い為、強敵撃破後、念入りに掃討が必要となるでしょう。
・プレヌ・リュンヌ:宝石商・ヤージュ
元は50代の人間種男性。ビジューの親。
残念ながら、元々紅血石を持っていたことに加え、晶獣化したビジューの美しさの虜となり、完全に晶獣となってしまいました。
その見た目は異様に両腕が発達した二足歩行のトカゲといった印象。
残念ながら、本人の意志はなくなっており、本能のままに拳を振るい、砂嵐を吹き付け、自重を活かしたプレス、チャージなど行います。
・サン・ラパース(猛禽)×2体
ラサに多く棲息する大型の猛禽類が紅結晶によって変貌した姿。
この場に現れる個体はいずれもワシを思わせる姿をした雌です。
飛行し、すばしっこく戦場を飛び回り、くちばしや爪による攻撃で相手を出血させてきます。
・サン・ルブトー(砂狼)×2体
ラサに多く生息する砂狼が晶獣に変貌した存在です。
群れをなすことが多いですが、吸血鬼に飼いならされた個体のようです。
血のようなクリスタルに侵食されたオオカミは、皆正気を失っており、非常に素早く、手数を使って牙や爪による攻撃を仕掛けてきます。
・サン・エクラ(鋭晶獣)×?数
・アマ・デトワール(鈍晶獣)×?数
小形の晶獣。総数はそれぞれ不明です。
何れも小動物の見た目ですが、水晶の光り方で性質も変わるようです。
キラキラ光り、生物を思わせる姿をしたサン・エクラが物理近接、やや無機質よりの造形をしたアマ・デトワールが神秘中~遠距離を得意としています。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
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