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シナリオ詳細

<熱砂の闇影>黒き腐杯

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●酒気に沈む町
 ラサの人々は、酒というものを決して嫌っていない。どころか、大いに好むフシがある。それは砂漠の多い環境で、交易国家であることも一つの要因なのだろう。
 だからといって彼等が皆、酒に強いとは言えまい。
 男であっても酒に弱い者、酒に強い女。そういった者がいるのは当然の話なのだ。当然ながら、人々は各々の性質を知悉したうえで互いに尊重し、酒を強いることをしない。それが、当たり前の話であった。
 だとすれば、今この環境は如何なる冗談の産物なのであろうか?
 酒場を営んでいるメルローという男は、その日扉を開けるとともに膝から崩れ落ちた。
 全身を駆け上る不快感と快感の相の子。視界が空転する感覚。せりあがる胃液。
 それらは極端な酩酊状態を呈していることを、彼は知っていた。決して強くはないが知識に自信があった彼が、酒場を開いて15年。無理に飲むことをせず、強いる者を見咎めつつ人々を見守ってきた高潔な男はしかし、ずるずると引きずって来る異形の音に顔を上げた。

 それは、全身に目を持ち、崩れた肥満体のような姿をしていた。豊穣などなら「百目」などと呼びならわされる怪異に似ていた。メルローが知る由はない。だが確かに、彼はこの世の終焉のようなものをその異形から感じ取った。
 が、それはメルローを一斉に見てからあらぬ方向へと動き出す。
 見逃された。そんな喜びはしかし、せりあがった胃液とともに吐き出された。
 この不条理に対する怒りと、人々と合流し生き延びねばという執念。
 改めて決意を固めた彼が一声叫ぶの束の間、酒場は突如飛来した砲弾によってメルローごと消滅した。
「あー……殺しちゃったかしら? 出来るだけ最期まで自然と苦しんでほしかったんだけど、なら仕方ないわね」
 少女の声。少女の姿。がちゃがちゃと鉄の音を交えたその姿は、砲塔と少女を無理矢理取り付けたような形をしていた。だが、顔も体も影に埋もれている。
「聖女かぶれサンがやった出来事の結果らしいけど、私には知ったことじゃないわね。さあ、どんどん壊していくわよ!」
 女――『影の艦隊(マリグナント・フリート)』のいち個体は、自分に気合を入れると次の標的を探し始めた。


「酒に溺れた連中をどうにかするってのは経験あるけど、こんなんじゃなかっただろ……」
 灰燼 火群(p3p010778)は町の惨状を見て、まず顔を不快げに歪めた。
 周囲から漏れる異常な気配による臭気、血の匂い、焦げた建物と人の匂い。
 人々が狂ったように暴れている様子も視界の端に見えることから、既に狂ってしまっているのがわかる。だが、異言話者のような理解不能ぶりはない。
「あたり一面、この匂いで狂わされてるのか」
 イレギュラーズは辛うじて、漂う臭気――酒の匂いで倒れることはない。
 だが、継続的にそれを浴びている人々はただでは済むまい。どころか、砲撃の音まで聞こえてくる……放っておけば町は壊滅するだろう。
 どう転んでも地獄の状況は、つまり散らばった敵達を確実に葬り、排除し、人々を早急に救わねばならないという、余りに厄介な戦局であった。

GMコメント

 そっか酒のシリアスか……わかった、現実に即したアルコールの闇の側面にするね……。

●成功条件
・終焉獣『スト・オーチェ』殲滅
・影の艦隊『リコ・ポドレー』撃破or撃退
・(努力目標)狂気市民の可能な限りの生存

●スト・オーチェ×5
 ずんぐりとした肉塊のいたるところに目がついたような存在。
 わかりやすく言うと、蟻塚に空いた穴に全部目玉がついているような感じ。
 理性の乏しい終焉獣で、効果は弱いながらも『呼び声』を伴います。
 目のせいで『広域俯瞰』が可能、不意打ちを無効としています。
 肉体から常に酒気を発している為、呼び声と合わせて広域で人々を狂わせています。一般人を対象にすると町全体に効果が及んでいますが、イレギュラーズに対しては「終焉獣からレンジ1内」にのみ【混乱系列】のBS判定が発生します(1ターン1回)。
 HPは高いが防技は比較的低く、【復讐(小)】【反】持ち。
 主に体液を散布する中距離までの単体攻撃、近距離~至近での範囲攻撃などが目立つ。【毒系列】【呪い】が主で、一部【呪殺】を持つ個体も。

●リコ・ポドレー
 『影の艦隊(マリグナント・フリート)』の一体で、遂行者サマエルの部下である、狂気に陥った旅人(ウォーカー)・マリグナントの影響で生まれたもののようです。影で出来た人間の背に、わざとらしいサイズ感の砲塔を背負っています。戦闘中、対象が強く意識しているもの(戦闘の正当性や保護対象への意識、仲間への思慮)などを探り、それを台無しにしようとしてきます。また、戦場に於いて戦意や思慮の濃淡を判断し、攻撃対象を見定めるようなフシが見受けられます。
 不慮の事態で暴走した終焉獣を利用したい遂行者サイドの意思で戦線投入され、終焉獣の広域俯瞰を共有できるため、視界外からの砲撃も可能です(『高射角誘導砲』のみ)。
 総じて戦闘力は高めであり、特に物理攻撃力に秀でています。
 NORMAL相応のため連携と終焉獣処理での消耗が多くなければ十分倒せます。
 また、胴周りに爆弾を数珠繋ぎにしたような武装を有します。見た感じ、所謂導爆索を模したものとみられます。
・無炸裂弾頭(物遠単:【飛】【高威力】)
・高射角誘導砲(物超域:発射した次のターンに攻撃対象に着弾。【火炎系列】【不吉系列】)
・呪物弾頭(物中範:【致命】【呪い】【呪殺】【威力低】)

●狂気の民×多数(+フィールド情報:酒気に塗れた町)
 終焉獣の出現により町全体にかなり強い酒気が蔓延し(この時点で暴動に走る人々が多く)、さらに呼び声により狂気を発している人々。やや攻撃力は増しているが、範囲不殺とかで容易に倒れる程度の強さ。
 イレギュラーズは町に到着したところをスタートし、終焉獣を探し出し倒す傍ら、狂気の民の不殺撃破や倒れている人のフォロー(BS回復1回で戦闘終了まで再度の酩酊を起こしません)に回ることとなります。
 なお、倒れている人々はバラけているわけではなく、幾つかの避難場所まで逃げて力尽きているので、「見つけられない位置に倒れていたので犠牲者が出ました!」のような意地の悪い事態にはなりません(これは情報精度に関わらず、絶対です)。
 時折、建物に隠れてリコが妨害砲撃を放ってきますが、終焉獣・リコともに索敵対策の非戦を持たない為、位置特定が容易となっています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <熱砂の闇影>黒き腐杯完了
  • 酒は、必ずしも人を幸せにはしないのだ。
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年08月06日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺
灰燼 火群(p3p010778)
歩く禍焔

リプレイ


「うへぇ。酒の匂い」
「この匂いは……お酒臭い……!」
「お酒をぶち撒けてもここまでにはならないだろう……異常だ」
 辺り一面を覆う酒の匂い。あらゆる酒精を節操なくぶちまけたようなその匂いは、多少慣れている『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)ですら不快に思うレベルだ。が、彼はその声音に反してぴくりとも表情を動かさない。その様子を察知され、敵の好奇心の肴になるのが許せぬからだ。『悲嘆の呪いを知りし者』蓮杖 綾姫(p3p008658)や『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)のように、酒をそこまで嗜まない者には余計に醜悪な匂いとみえる。イズマの言う通り、気化したアルコールのみでこうはなるまい。
「想像してたより匂いきついなこれ。呼び声までするし、飲んでもないのに頭痛くなってきそうだ」
「フラー、匂いには、耐えられる、か」
「ワタシは大丈夫……! でも、お酒は楽しむ為のものだからこれはだめだよ……!」
 『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)はラサの民だけあって慣れているものの、それでも想像よりずっと醜悪な匂いに口元を押さえた。『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は『星月を掬うひと』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)を気遣わしげに見るが、フラーゴラは布で口を覆っている為幾らかはマシ、という様子である。それでも厳しい状況には変わりないが、倒れた人々を思えば辛い、苦しいなどとは口が裂けても出て来はすまい。
「んー、酒は気持ち良く飲むものであって、気持ち良くなった後に弊害出すのは駄目なんだよな。だから、まぁ……燃やさないとね」
「……お酒は程ほどになーって言いたいけど、そういう限度を超えてるよなぁ」
 『歩く禍焔』灰燼 火群(p3p010778)は酒が好きだ。気持ちよく酔っぱらって景気よく燃えるぐらいには。『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)は酒に『無理矢理』があってはよくないと理解している。仲間達の間を取って行動するのが得意な分、何かと思うところあるのだろう。両者の認識として共通しているのは、眼前で繰り広げられる絶望はとても『酒』と結び付け難い、というものだった。だから燃やす、或いは救う。この元凶は今も堂々と、そこらを歩いているはずだ。
「……使い魔が酒気にやられて使えない。まさか人間以外も駄目とは」
「大丈夫……! ワタシも誰かを傷つけようとしてる反応は分かるし、十分見えてるよ……!」
「マリアの使い魔も厳しそう、だが。精霊がいるから、問題ない……イズマ、も、他の手段が、あるんじゃない、か?」
 イズマとエクスマリア、双方の使い魔は辺り一面の酒気で身動きがとれないでいた。人間よりはるかに過敏で毒性を受けるそれは、概念ではなく実害として及んでいるのか。愕然とするイズマに、フラーゴラとエクスマリアがフォローを入れる。他の面々も探索手段を持ち、イズマ自身も代替案を持つ以上、それひとつに拘る理由は無い。何より、探すよりも先に響く悲鳴が耳に届いたではないか。
「お酒ってよく燃えるものだから、さ。お酒を吐き出すなら、中まで燃えてくれるよね」
「好き放題暴れてくれたんやから、それくらい派手に死んでくれてもええやろね」
 火群と彩陽はともに敵の末路を想像してか、後ろ暗い笑みを浮かべる。が、直後に一同は弾かれたように上空に目をやり、綾姫は異常を理解。一同は四方へ飛び、砲撃の直撃を避けた。
「わざとらしい砲撃、挨拶代わりというわけですか……!」
「あんまり、のんびり待たせる訳にも行かねえな。直ぐ追い付いて倒してやらねえと」
 綾姫は着弾痕を睨み付けると、混乱続く街並みを見た。今まさに狂気に塗れた人々の姿が、視界の端に見えたのだ。サンディは一同の無事を確認すると、一同を先導する形で前にでる。探索だけが、市街戦の要ではない。それを証明せねば、と。


「んー? 外した……いや外れたわね。思ったより楽しめそうじゃない」
 『影の艦隊』たるリコは、自らの処理能力に絶対の自信があった。酒に呑まれて動けぬ者たちなど、砲撃の下に血のシミに変えてやることなど簡単だという自負があった。が、この場に現れた『新手』はどうやら少し違うらしい。
 そこらを這い回る肉塊を倒すべく現れた彼らは、明らかに遂行者(しゅじん)の敵、イレギュラーズ。状況を理解したリコは、次々と弾頭を装填し当たるを幸いと撃ちまくる。
 肉塊それぞれが持つ『視界』の向こうで、奔走するその姿は哀れにも見え、果敢にも見え……そのうち一体の視界が、断線する。

「傷を、返して来るよう、だ。大したこと、ないが」
「あちこち見えてるから上手く避けようとしてたけど、目がいいってことは目が弱点ってことだからね……! 上手く潰せたみたいだね」
 エクスマリアとフラーゴラは、連携し終焉獣の目を意識的に狙い、その俯瞰能力と『目』の性能を大いに減じた。その巨体に違わず、それだけで倒れる様子が無いのは不気味というほかないし、当たるを幸いに飛ばしてくる体液は決して弱いとは言えない。強力な攻撃手段を多く持つイレギュラーズに対し相性の悪い体質といい、一般人を狂気に駆り立てる特性といい、都市制圧適性が高いのは確かだ。だが――。
「この鏃では殺さへんよ。殺せへん、の間違いかもわからんけど……少なくとも、外さへん、かな」
「毒とか、殺意とか、そんなもんで倒れてたら体が幾らあっても足りないわけじゃん? それくらいで倒れないのは『礼儀』だろ、そりゃさ」
「普通の人間は『それ』で倒れるんだよ。……それにしても酷い匂いだ。二日酔いになりそうだな」
 彩陽の弓が撓り、終焉獣ごと狂気に呑まれた人々を貫いていく。かなりの範囲をカバーしたそれは、しかし殺傷能力に乏しく、されど弱者に対する制圧力は極めて高かった。もんどり打って倒れた人々の脇を抜け、火群の一撃が終焉獣に叩き込まれる。高威力の一撃はそれだけで自らの身を焼く反動を返すが、仮初めとはいえ死を凌駕した彼には通用しない。ローレット・イレギュラーズにありがちな『究極の意地っ張り』共は、このような戦場でこそ輝くものだ。
「ホント、揃いも揃って真っ直ぐっつーか後先考えてないっつーか……いや、構わないけどな? 大して怪我が酷くないし。俺としては治す手間も少ないし」
「私は剣を握っている限り悪酔いは避けられますが、人々はそうではありませんから。助けるのに手間がかからないのは善い事です」
 既に倒れた人々、そしてイレギュラーズの治療に尽力するサンディは、そんな彼らの猛進ぶりに呆れを覚えつつ首をふるが、その勢いが順当に終焉獣を討伐しているのもまた事実だ。彼の張った結界によって避難所の延焼がかろうじて免れ、その間にラダや綾姫の救助が間に合っていることも加味すれば、戦闘効率の是非よりは助けることに前のめりになるのは悪いことじゃない。
「また砲撃……! 終焉獣を潰したのに、なんで正確に撃ってこれる?!」
「多分……視界が消えた場所を敢えて狙ってるから……! でも、『正確すぎる』よね……!」
「相手の位置が大凡でもわかっていれば十分だ。当てずっぽうでも、建物越しでも、プレッシャーにはなる」
 数カ所目の救助を終えた一同を襲った砲撃を、イズマは真正面から受け止める。かなりの衝撃に驚きを隠せないが、それだけだ。終焉獣が倒された位置を逆算して打ち込んだリコのコントロールに瞠目するべきだが、その正直さこそが仇となる。撃つなら、撃たれる覚悟をせねばならない、ということだ。
 弧を描いて飛んだラダのナイフは、手応えこそ得なかったものの、明らかに動揺を感じさせる動きがあった。敵意を感知する能力に長けた者等は、それに気付いたはずである。避けたことは事実。距離を置こうとする動きも、事実。
「ワタシ達は建物からなるべく離れて、そっちに着弾しそうなら庇うよ……! 治す手は足りてるから、一般人最優先で……!」
「俺の内側を灼く痛みよりは、受け止める方が遥かにマシだね。そういうことなら、幾らでも」
 フラーゴラは人々から酒気を取り除き、避難を促しつつも四周に目を配り、終焉獣の襲撃に備える。或いは、次の襲撃地点を見出すべく探りつつ、声を張った。彼女の決断、行動の速さは部隊の行動速度に直結する。彼女は知っているはずだ。指揮統制という行為の難度と責任を。火群は弱々しくもしっかりと逃げていく人々を背に、敵意の飛来に備え……頭部で受け止め、叩き落した。明らかな無茶だが、それを無謀だのと避難する者はいない。現に今、避難民が2桁単位で助かったのだから。
「無理、は、するな。倒れない、と言っても、痛いのには、変わりないんだ」
「大丈夫大丈夫。今ので再確認したから」
 エクスマリアの気遣いに、しかし火群は獰猛な笑みを浮かべ、発射された方角を睨みつけた。
 残された終焉獣、残り2。それらが倒された時が、横槍を入れてくる影の艦隊の終わりのときだ。


「わがみはつるぎ。ふるべゆらゆらとふるべ」
「まずはその目と、生意気な能力を奪う。長ったらしくかまってやる気はないんだ」
 綾姫のぶれぬ一撃を受け、終焉獣は身を捩った。次の瞬間、己の体液を飛ばそうとした手が止まる……投擲するという手段が己から欠け落ちたのだ。青い髪の男の仕業か。即座に手近な相手を襲おうとしたそれは、しかし降り注ぐ鉄の雨に全身を貫かれ虚脱に陥った。
「はいはい、その化け物の近くに居ちゃあかんよ。巻き込まれてまう」
「数は多いが、それ以上に終焉獣がデカブツで助かった……巻き添えにせず、アレだけを殺せる」
 彩陽はその周囲に群がる狂気市民を即座に行動不能に追い込むが、そうなると終焉獣が邪魔になる。襲われる可能性、肉壁にされる脅威、それらを無視して一発で仕留めるラダの判断速度と手腕は出色のものと言わざるを得ない。
「あれ……あれェ……? あいつら死んだの? マジで、全部? つっかえないなあ……」
 形も残さず消えた最後の一体、その余韻に浸る暇は一同にはなかった。五体満足で終焉獣を一掃した相手を向こうに回してなお、リコが余裕を見せつつ現れたからだ。
「お前――」
「あ、喋らなくていいよ。今は私が喋ってるの」
 火群は余裕たっぷりに現れた彼女に対し、一気に決着をつけようと腕を伸ばす。が、その腕は自らに飛来した弾頭を受け止める為に折りたたまれ、後方へと押しやられた。重い。油断して胸に受けていれば、一瞬なれど意識を絶たれていたに違いない。
「大丈夫か!?」
「大丈夫、この程度じゃ殺されない」
 咄嗟に治癒を向けたサンディとエクスマリアに対し、火群は手を上げて無事を伝えた。無事、というよりは殺されない、というのが正確だが……どちらにせよ甘くは無い。
「一体だけでのこのこやってきたって、勝てへんよ」
「でも、君達を傷つけて返すくらいはできるよ。使い捨ての駒なのは知っているからね」
「そんな……! 生きるのを最初から諦めるなんて……!」
「倒れたらあとに何も残らない、死ぬだけの影人形が生きるとか死ぬとか、考えるワケないじゃない。優しいなあ」
 影ばかりで表情は見えないが、たしかにリコは屈託なく笑っている。治癒術を使える者が総出で守りに入り、攻め手に優れる者が攻勢をかけ、リコに挑む。
 強靭な肉体を持つのは確かだが、火群の一撃で怯んだところに放たれたフラーゴラの追撃は間違いなく影の輪郭をごっそりと抉った。遠距離からの射撃戦に終始しようとしても、綾姫、そして遠近両面で戦える彩陽がそれを許さない。
 布陣としては申し分なく、しかし彼女は、死兵として消える一瞬まで全く怯えず、退かず、イレギュラーズの攻撃を受けきった。そして、攻撃手段を封じられつつも砲塔で殴り、導爆索を振り回し、死力を尽くし暴れ回った。
 それは手負いの獣を倒すための戦い。辺り一帯の建物はサンディの結界をしてなお灰に沈み、一同以外の生者の影を許さなかった。
「悪いが自殺に付き合う気はないんだ。1人で死んでろ」
 死角に回り込んだラダの銃床が、リコの頭部めがけ振り抜かれる。ずぶ、と影に沈んだ銃床は空振りしたように思えたが、瞬間、崩れ落ちた姿からして致命打を叩き込んだことを理解した。
 ……勝利した、のか。
 イレギュラーズ達は影も形も残さず消えたその敵を想う暇も与えられず、晴れていく酒気とともに夢から覚めた気分を味わった。人々は未だ倒れているが、さしあたっての危険は去ったと言っていい。
 建造物被害は甚大なれど、人的被害は驚くほど少なく。
 これは彼らにとって、十分な成果だといえよう。

成否

成功

MVP

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

状態異常

なし

あとがき

 まず、お届けに大変なお時間を頂きましたことをお詫びします。
 内容としては是々非々、一つの手段に拘泥しなかったことが初期探索で成否を分かちました。
 個人的には、広域俯瞰一本に絞った敵の索敵手段を妨害しよう! という考え方には膝を打ちました。普通、自分たちが使う手段の穴を敢えて衝かないと思うんですよね……使われたら困るとかで……。

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