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シナリオ詳細

<フイユモールの終>はた迷惑な乱入者

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●怠惰な竜の目覚め
 ヘスペリデス。そこは澄み渡る青空のもと、大地には草花が茂る風光明媚な場所だった。
 ――そう。”だった”のだ。『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスの権能が暴走し、その影響によってかつての姿は見る影もなくなっている。
 空は不気味な暗雲に覆われ、絶え間なく雷鳴が轟いている。
 草花は枯れ果て、大地は砕かれた破片が中心へと吸い寄せられている。
 もはやここは憩いの場などではなく、死地と呼ぶにふさわしい姿へと変貌を遂げているのだ。
 しかし、そんな状況になって初めて周囲の変化に気付くほど鈍感な者――いや、竜がいた。食って寝てのんびりとすることを至上とするその竜の名はグローム。
 雷が頭に落ちてきたことでぱちりと目を覚ますと、ゆっくりと首をもたげあくびを噛み殺しながら辺りの様子を伺う。
(ふぁあああ……っと。なんだぁ?)
 ぼやけた頭がはっきりし出すと、見慣れていたはずのヘスペリデスとは全く異なる景色が周囲に広がり、遠くに感じる強大な力の気配におおよその事態を把握する。
(あぁ、なるほどね。ベルゼーのオッサン、遂に限界が来たか。ま、俺には付き合ってやる義理はねぇし、適当なところでおさらばすっか)
 ヘスペリデスという寝食に困らない土地を用意して貰ったことには感謝するが、流石に最期までそばに寄り添い共に死ぬつもりなど毛頭ない。最強種たる竜といえども命は惜しいのだ。
 巨大な翼を広げてよっこいせと立ち上がる。食っちゃ寝生活を続けたせいで身体が重いような気もするが、それでも飛んで逃げる程度ならば十分に可能だろう。
 のんびりと上空へ避難したグロームは、せめてその最期だけは見届けてやろうと暴走を続けるベルゼーを見下ろしていた。
(お。あれは……)
 しかし、そこで気付く。『冠位暴食』という圧倒的な脅威を前にしてなお、決して怯むことなく挑もうとする小さき英雄たちの姿に。
 それを見た瞬間、グロームの悪癖が出てしまったようだ。
 グロームは食って寝るだけの怠惰な生活をよしとするが、それと同じくらいに戦うことも好きなのだ。小さき英雄たちが前進を続ける姿を見た瞬間から、闘争本能が刺激され体も疼いて仕方ない。

●竜と対峙する英雄たち
 我慢できなくなったグロームは急降下するとベルゼーの下へと向かうイレギュラーズの前へと舞い降りた。
「よう、お前ら」
 そんな軽い調子で話しかけるが、竜とは混沌世界における最強種だ。その威圧感を隠しようもない。
 武器を構えて警戒感を露わにするイレギュラーズだが、グロームはそんな様子をも愉しんでいる様子だ。
「状況はだいたい理解している。お前たちはなんとしてもベルゼーのオッサンを止めたい。そうだろ?」
 警戒しつつもイレギュラーズが頷く。今は一刻でも早くベルゼーの下へと辿り着き、その暴走を止めねばならないからだ。正直、目の前に突然現れたこの竜と話している時間すら惜しい。
 そんな心境を察したのか、やはりと満足気な表情を浮かべたグロームは咆哮と共にその翼を広げてこの先へは進ませないという意思を見せる。
「つまり、ここで俺が邪魔すればお前たちは本気を出して戦わざるを得ないという訳だ。精々俺を楽しませてくれよ?」
 こうして、決戦直前という重大な局面にも関わらず、はた迷惑な乱入者による襲撃がイレギュラーズに齎されたのである。

GMコメント

東雲東と申します。
覇竜の決戦ということで、最後だけですがお邪魔させて頂きました。
よろしくお願いします。

●目標
 『雷竜』グロームを満足させる。

●ロケーションなど
 『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオスの権能が暴走し、崩壊しつつあるヘスペリデスの一角です。
 崩壊の中心にいるベルゼーの下へ向かう道中、突如上空より飛来した竜に襲われたという状況になります。

●エネミー
・『雷竜』グローム×1
 竜種の中でも『明星種』に分類される比較的若い個体の竜です。
 性格は非常に怠惰で食って寝ていれば基本的には満足するのですが、同時に娯楽として戦うことも好むという二面性を持ちます。
 一般的な家屋数軒分はあるだろう巨体は非常に強固な外殻で覆われており、生半可な攻撃では傷もつかない【王道の肉体】です。
 また、精神力も非常に強固で【覇道の精神】を持っていると言えるでしょう。
 巨大かつ強靭な肉体から繰り出される攻撃は、通常攻撃であっても【ブレイク】と【必殺】を持ちます。
 更に、『雷竜』の名前の通り雷のブレスを吐くことが可能で、範囲への大きなダメージと共に【痺れ】【麻痺】系統のBSが付与されることがあります。
 当然ですが、【飛行】可能であり【痺れ】系統のBSは常時無効となります。
 数年単位の眠りから起きたばかりのためまだ本調子ではないようですが、戦いの中で次第に体も目覚める事でしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <フイユモールの終>はた迷惑な乱入者完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年07月24日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ノリア・ソーリア(p3p000062)
半透明の人魚
クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼空の眼
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
オニキス・ハート(p3p008639)
八十八式重火砲型機動魔法少女
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)
青の疾風譚

リプレイ


「本気で来ねぇとすぐに死んじまうかもなぁ?」
 上空から舞い降り大地を揺らした雷竜グロームは、新しい玩具を貰った子供のような目でイレギュラーズを見る。
 ベルゼー・グラトニオスを止めたいイレギュラーズとしては、こんな享楽主義の相手なんてしていられない。が、相手は混沌最強種であり、その言葉を無視するのは難しい。
 仮に逃げ出したとしても、すぐに追いつかれて狩られてしまうことだろう。であれば、出来るだけ早くに満足させて道を開けて貰うほかない。
「本気を出して、と、言われても……出しても、竜種のかたには、およびませんの!」
 彼我の実力差は明白。正攻法では敵わぬと理解しつつも、前に進むためにはやらねばならない。先頭に立った『半透明の人魚』ノリア・ソーリア(p3p000062)は両手を広げて自身の存在をアピールする。
 のれそれ。
 とある地方で食される珍味であり、その素材はアナゴの幼生――つまりノリアが海種として引き継ぐ遺伝子の大元――である。艶のある尾びれは綺麗に透き通っており、そこに職人による手作業で作られた特急天然塩をまぶせば、光を反射し視覚的にも美味しく見えるだけではなく、芳しい磯の香りが食欲を掻き立てる。
 自分自身を食材に見立てて”魅せた”渾身かつ捨て身の一手。
 食い意地の張ったグロームにはとても魅力的に見えたのか、ごくりと唾を飲み込んでノリアを食そうと爪を振るう。
「くぅっ! ですの!」
「チッ、小賢しい真似を!」
 研ぎ澄まされた刃のように鋭い爪はノリアの体を深く傷付ける。だが、それも狙いの内。
 ノリアの周囲を覆っていた球状の水膜が、槍のようにその形状を変えてグロームの腕を覆う竜鱗を貫いたのだ。
「フリック 居ルカラ 大丈夫」
「まだまだいくっスよ!」
 思わぬ反撃を受けてグロームが腕を引いた隙に『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)が手を伸ばせば、ノリアの頭上に光輪が浮かび、降り注ぐ光の粒が傷を治していく。
 同時に飛び出した『青の疾風譚』ライオリット・ベンダバール(p3p010380)は、姿勢を低くして加速し一気に懐へと飛び込むと、二振りの軍刀を振り抜いた。翆と碧、二つの閃が交錯し鮮血の華が咲く。
 どうせなら、全てが終わるまで寝ているか、さもなければ協力して欲しいところだが、竜種に人間の理屈は通用しない。ならば、持ちうる力の全てをぶつけるのみ。
 グロームが振り下ろした前肢をその速さでもって回避したライオットは、足を止めることなく斬りつけていく。
「……貴様のような竜種は私は好きだ。こんな状況でなければ、何度でもじっくり戦いたい物だな!」
 ライオットに続けとイレギュラーズは攻勢を強めていく。
 『蒼空の眼』ルクト・ナード(p3p007354)が右手に嵌めた指輪に魔力を込めると、そこから一匹の鯱が召喚された。炎を纏った不思議な鯱は、ルクトが手を添えるとその身を槍へと変じ武器として力を貸す。
 竜種との戦いに昂揚するルクトは、次の瞬間にはその感情や気配を全て消し去り背後よりグロームを強襲した。背中に突き立てられた槍は業火を放ち、その竜鱗を焼いていく。
 鬱陶しそうに翼を羽ばたかせルクトを弾き飛ばそうとするが、再び消えたルクトを追うことは出来ずに空振りに終わる。
「なんで竜ってこんなのばかりなのかな」
「本当よね。疲れてきちゃうわ……」
 フライトユニットを展開し、上空より急速充填させた魔力砲を放ちながら『八十八式重火砲型機動魔法少女』オニキス・ハート(p3p008639)が呟く。
 放出された砲弾は、グロームの側頭部に見事命中すると炸裂し、爆炎の代わりに冷気を広げその体表を分厚い氷で覆いい動きを鈍らせると、『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)は純白のドレスを翻しながらその指先をグロームへと向ける。
 その指先には魔力によって生成された紫紺の宝玉が生み出されており、弾丸のように放たれたそれはグロームの脇腹の辺りに着弾すると、砕け散りながら破片が体に食い込み凝縮された毒を流し込んでいく。
「なるほどなぁ! いいぞ、もっとやれ!」
「皆さん、危険ですの!」
 ここまでされればグロームもイレギュラーズの意図に気付こうというもの。毒に炎に氷、そして呪いなどなど。様々な状態異常を駆使して本領を発揮できないようにしてやろうというのがイレギュラーズの作戦なのだろう。
 グロームは不利を押し付けられつつも竜種が持つ圧倒的な力でもって束縛を力任せに打ち破ると、その場で回転し尻尾で薙ぎ払う。
 直前で察知したノリアの声で咄嗟に防御を固めるが、巨体と力を併せ持つグロームの一撃はそれだけで脅威だ。弾き飛ばされたイレギュラーたちは再び立ち上がるが、見るからにその傷は深い。
「コレガ 竜種ノ チカラ……!」
「これでまだ本気じゃないって、本当に困ったものね」
 フリークライがすかさず暖かな光と風でもってその傷を癒してくれたため態勢の立て直しは容易だが、何度も受けたいものではない。
 素早く次の行動に移っていたヴァイスがドレスの裾に隠した暗器を投げ飛ばす。発した言葉がトリガーとなり、突き刺さった暗器に込められた術式が起動すれば、グロームの精神を侵し不吉を呼び込む。一度では大きな効果は望めないかもしれないが、何度も繰り返されればやがては通じうると信じて。
 そこに今度は『真意の証明』クロバ・フユツキ(p3p000145)が駆ける。
「大仰な図体だ、狙うまでもなく当てられるな!」
 漆黒に染め上げられたガンブレードを両手で握ると、それは刀と銃剣の二つに分かれる。刀と銃剣という特異な二刀流でグロームが誇るその巨躯の下を潜り抜ければ、鋭くそして音もなく幾度も刃が振るわれた。
 一撃は浅いが数を重ねれば大きな傷となるだろう。しかし、クロバの狙いは別にある。ゼロ距離を維持して斬りつけながら、どこの守りが薄いかを見極めているのだ。
「私のようなものが今回のパーティに少なくて、よかったですねえ全く」
「それは違うぞ、人間。圧倒的強者に対して使える力の全てを使って何が悪い。さぁ、もっと見せて見ろ! お前たちの力を!」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)が鋼糸を伸ばしグロームの巨体を縛り上げ、底に込められた呪詛によって命を蝕む。
 真っ向勝負ではなくこういった搦め手を得意とするからこその言葉だったが、どうやらグロームはそれすらも愉しんでいるようだ。
 口の端から稲妻を漏らしながらにやりと笑うと、グロームは翼を広げて鋼糸を引きちぎり嵐の如き突風を巻き起こしながら飛び立った。


「ガァアアアアア!」
「大丈夫 皆 マダ動ケル!」
 咆哮と共に吐き出される上空から雷は、大地を砕きながらイレギュラーズを襲う。迸る魔力はまさしく桁外れであり容赦なく体力を削るが、やはりここでもフリークライが戦線を支える。
 癒しの力が込められた薫風と共に魔力が籠った言霊を発すれば、雷撃に貫かれ痺れていた体も不思議と動くようになる。
 上空から絶対王者の風格で睥睨するグロームに迫るべく飛翔すると、クロバは刀を振り抜いた。
「剣士の間合から逃れられると思うなよ! さぁ、まだまだこんなもんじゃないだろ!」
 より速く、より鋭く、そしてより重く。加速しながら突撃すると、その勢いのままに漆黒の稲妻となってグロームの脇を狙う。
 基本的にぶ厚い鱗殻に覆われる竜の体だが、やはり関節部は可動性を得るために守りが薄い。初手でそれを見抜いていたクロバは更にもう一度、反対の手に持つ銃剣で同じ場所に重ねて一撃を叩き込むとグロームの巨体が僅かに傾いだ。
「なかなかやるではないか、人間!」
「楽しんで貰えてなにより、よっ!」
「お、おぉ!?」
 反撃に振るわれた腕で叩き落されるクロバだが、ノレアより受け取っていた水膜による守りが再びグロームへと牙を剥き、きっちりと反撃を加えていた。
 体を回転させて態勢を立て直していると、今度はオニキスが仕掛ける。
 着弾と同時に炸裂した砲弾は、先ほどとは異なり今度は重力の術式によってグロームの体を重くする。もともと肥満気味であったためかその効果は覿面で、徐々にその高度が下がっていく。
「これこそが私の求めていた戦い!」
「来い! 人間!」
 背中のブースターを広げ飛び立ったルクトがここぞとばかりに攻め立てる。顔面を狙ったミサイルの爆炎で目くらましをすると、その間に出力を最大まで引き上げて突撃。
 溢れ出るエネルギーは雷光となって全身を覆い白き光の閃となって迫れば、対するグロームも爪や尾を振るって迎撃する。
「ハァアアアアッ!」
 当然、ライオットも見ているだけではない。嵐の如き豪風を纏い、大きく助走をつけてからの突撃。速度をそのまま威力に変換させたその一撃は、グロームの横っ面に直撃しその頭を大きく揺らす。
 縦横無尽に空を駆ける力と力が幾度もぶつかり合い、轟く雷鳴の如き衝撃音が辺りに広がっていく。
「皆 頑張ッテ!」
「いまの内に次に備えておきましょう」
「はいですの!」
 上空で繰り広げられる激戦を見てフリークライが仲間の傷を癒すそばで、ヴァイスは直接攻撃が来ないうちにと自身の力を高めることに集中する。
 それはノレアもまた同様であり、集中することで母たる海の深淵を思い起こすことで、己の内より力を湧き出させる。
「楽しい……楽しいな、竜種! もっと、もっとやり合おう!」
「くくく! いうじゃないか、人間!」
 大空に舞うグロームを中心に漆黒、翆碧、群青の三つの光が宙に図形を描くかのように線を引き、何度も離れてはぶつかり、その合間を縫うように魔力の奔流が突き進む。
 激しい攻防が繰り広げられる中で、先に仕掛けたのはイレギュラーズ側だ。
「っ! 今っス!」
「ぬおっ!?」
 グロームと激しく打ち合っていたルクトが、大きく広げられた翼に打ち据えられて吹き飛ばされたのだが、即座に反転して掬い上げるように顎を狙った一撃を見舞う。
 その瞬間、上を取っていたライオットが落下の勢いを乗せグロームの頭に二本の軍刀を突き刺した。
 二つの衝撃が逃げ場のないままグロームの体内でぶつかり合い、相乗効果によって脳を揺さぶる。竜種と言えどもこれは効いたようで、白目を剥いて体の力が抜けた。
 僅か一瞬の事ではあるが、その隙にオニキスの砲撃とクロバの斬撃も炸裂したことで、グロームは更に高度を落とした。
「……ってぇなぁ。今のはちょっと効いたぜ」
 意識を取り戻したグロームが軽く頭を振ってぼやくと、その場の全てのイレギュラーズが生物としての本能で感じる。
 焦燥、恐怖、そして絶望。
 強烈な攻撃を受けたことで完全に覚醒したらしいグロームが纏う覇気はそれほどのものだった。
「不味い、何かが来る!」
 空気がばちばちとスパークする音が聞こえ、クロバがそう言って回避しようとするがもう遅い。
 大気を揺るがす咆哮が轟くと、直上に立ち込める黒雲より紫電が降り注ぐ。イレギュラーズを蹂躙しながらその雷はグロームへと集い、やがてそれはグロームの身を守る鎧にして全てを斬り裂く刃となる。
「お陰でいい感じに目が覚めた。そろそろ俺も本気で行くが……あっさり死んでくれるなよ?」
 再び大地に降り立った雷竜は、竜鱗を黄金に輝かせながら笑うのだった。


 グロームの纏う覇気は凄まじいが、イレギュラーズもまた多くの戦いを潜り抜けてきた歴戦の雄である。精神力で負の感情を捻じ伏せると、ここからが本番だと気合を入れる。
「ならこっちも限界超えていくだっけすよ!」
「ファム・ファタール、我が槍よ……今、渾身の一撃を!」
 自力で傷を治したライオットが限界以上の超加速によって迫り、ルクトもブースターを吹かせてそれに続く。
 敢えて正面から受けとめる姿勢を見せたグロームに二人の一撃が炸裂した。が、攻撃を受けると同時にグロームの纏う雷光が二人の身を焼き、更に反撃として雷爪が振るわれる。
 最初から分かっていたことだが敵は強大。深く傷つき身体から力が抜けていくのを感じる。しかし、ルクトは恐れも絶望も塗りつぶすほどの昂りを感じていた。
 この最強と呼ばれる竜種と戦い続けたい。もっと激しく、もっと鮮烈に。自分はこの”最強”にどこまで迫れるのか。
 外装が罅割れ、砕けていくことも気にせず、感情の昂りのままに攻めて攻めて攻め続ける。
「お楽しみはこれからだろ。さぁ、まだまだ闘ろうぜグローム。
 だが死ぬ気で来いよ――こちらも殺す気でお前に挑むんだからな!!」
「回復ハ フリック ニ任セテ」
 ライオットとクロバには負けてられない。クロバはフリークライに回復は不要と告げると、自身もまたグロームへ挑む。
 しかし、このままでは足りない。故に、己に宿る魔性を解放する。
 鮮血のような紅に染まった瞳が妖しく輝き、体の奥底から湧いてくる力と衝動のままに大地を駆けてグロームに肉薄。これまで受けた傷を力に変えて、命を焼き尽くす紅蓮の刃を幾度も叩き込んでいく。
 例え己自身が命を散らしても、奇跡の力で蘇り何度でも。
 一方、フリークライも戦場を支えるのに必死だ。本気となったグロームの攻撃は苛烈であり、ただでさえ重かった一撃が雷光を宿しより強力になっている。
 中でも最も深刻なのはやはり、肉弾戦を仕掛けるクロバたち三人だろう。ルクトとライオットはグロームとの肉弾戦の応酬をしており、天使の力を降ろして傷を癒すもすぐにまた新しい傷が出来ていく。
「私たちを忘れて貰っては困りますね」
「どんどん行くわよ?」
 この時のために力を蓄えていた瑠璃とヴァイスも攻め手に加わる。
 肉薄していた瑠璃の抜き放った忍刀が目にも止まらぬ速さで乱舞されると、その剣筋に隠された鋼糸が傷口から侵入しグロームの動きを封じる。
 そして、同じく懐に潜り込んでいたヴァイスが純白の短剣を突き立てた。肉体的な傷としては浅い。しかし、傷口から注がれる魔力が体内へと侵食し、さらにはその精神まで蝕もうとする。それも一度だけではない。二度三度と繰り返されれば加速的に侵食は進む。
「やぁあああ! ですの!」
 最大まで力を引き出したノリアが杖の先端をグロームへと向けると、その先端より熱湯が噴き出した。深海より呼び出した、海底火山によって熱せられた高温かつ高圧の熱水流。
 しかし、それでもなお足りないのは理解している。
 故に、己の身さえも焼く灼熱の炎を呼び出した。
「アッチィ! この!」
「……ふふふ、狙い通りなのです」
 炎は熱水流を更に熱しその威力を引き上げるが、代償としてノリアの命をも削るのだ。
 熱を感じたグロームが反撃に尻尾を振るい、他のイレギュラーズと共に弱ったノリアを薙ぎ払うがそれもまた狙いの一つ。命を落としたノリアが不可逆の法則を捻じ曲げる奇跡によって復活を遂げている間に、弾けた水球が無数の渦となってグロームの巨体に牙を突き立てた。
「クアドラプルバースト、シーケンス開始……」
「ほう……。受けて立とう!」
 攻めるならここだろう。離れていたために被害を免れていたオニキスがシステムを起動させると、四つの砲身がグロームに向けられた。
 ジェネレーターより送り込まれた魔力はすぐに臨界点を突破し、全ての砲が同調状態となって方向から光が漏れ出始めた。
 グロームもまた例によってこれと真っ向勝負をするらしい。イレギュラーズによる激しい攻勢を受けつつも、圧縮された魔力が強い輝きを放ちながら胸、喉、口と場所を移していく。
 砲身が固定され準備は完了。愉快そうに眼を細めるグロームを睨むと、遂にその力を解放する。
「望み通り見せてあげるよ。これが私の全力。マジカル☆アハトアハト・QB――発射!」
「くはははっ! 全力には全力で応じねば失礼というもの! 受けるがいい、俺の全力を!!」
 二者が放つ最大級の一撃。
 二つの閃光はその中間で正面から衝突すると、周囲に激しい衝撃を広げていく。
 蓄えた力を全て放出せんとする両者の衝突は十数秒にも及び、やがて終わりが告げられる。一瞬の静寂の後に広がる特大の超爆発は大地を砕き天をも引き裂く。
「ぬわぁあああっス!」
「これが竜種の全力……。素晴らしい!」
「皆、無事かい!?」
「ン。ナントカ……」
 その爆心地に近いところにいたライオット、ルクト、クロバがその場で踏ん張って耐えると、他の仲間が無事を確かめる。
「ありがとう、なのです……」
「けほっけほっ……。どうなったのかしら」
「これは……とんでもないですね……」
 フリークライに庇われたノリアが礼を言うと、爆煙に咳きこみながらもヴァイスが周囲を伺う。やがて舞い上がった粉塵が収まると、瑠璃が衝突の痕に絶句する。
 まるで隕石が落ちたように大地が抉れ、その周囲では衝突の残滓たる魔力や雷がスパークしているのだ。
「ぐぅ……」
「オニキス!」
 力尽きて落下してきたオニキスをフリークライが受け止めると、すぐに治療を開始する。
 他のイレギュラーズは二人を守るように立つが、そこにグロームからの追撃が来ることはなかった。
「ふぅ。久々に全力を出せてスッキリしたぜ。じゃあな、人間!」
「貴様は最高の戦友だ……!」
「あ、ちょっと!」
 どうやら満足したグロームは勝負の余韻に浸るようなことはなく、もはやここに用はないとあっさり飛び立っていってしまった。
 小さくなりつつある雷竜の影を見てルクトは満足そうにしているが、ライオットとしては満足したならベルゼーを止めるのを手伝ってくれてもいいのでは。などと思ってしまう。
 しかし、竜種の身勝手さは今に始まったことではない。
 はた迷惑な乱入者の背を見送ると、イレギュラーズたちは再びヘスペリデスの奥を目指すのだった。

成否

成功

MVP

フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守

状態異常

ノリア・ソーリア(p3p000062)[重傷]
半透明の人魚
クロバ・フユツキ(p3p000145)[重傷]
深緑の守護者
ルクト・ナード(p3p007354)[重傷]
蒼空の眼
ライオリット・ベンダバール(p3p010380)[重傷]
青の疾風譚

あとがき

お疲れさまでした。
グロームは満足して飛び去って行きました。

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