PandoraPartyProject

シナリオ詳細

誰が大樹を殺すのか

完了

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●とある境界案内人の"初日"
 その日、境界図書館を訪れた特異運命座標のうちの何人かは、その男の存在をいぶかしんだ。
 すらりとした長身に怜悧な赤い瞳。ムスクの香を残しながら、銀糸の髪を靡かせて歩く男性。
 特筆すべきは手に携えた大鎌か。本来であれば、特異運命座標をライブノベルの世界に案内するだけの存在である案内人が持つべき物ではないはずだが――

「おい、君達」

 ひそひそと噂する特異運命座標へ、男がふいに声をかける。
 すわ得物で斬りかかりでもするかと身構える者達へ、男は真顔のまま、こう続けた。

「私の恰好に、何かおかしい所があるだろうか」

 首を横に振られてしまえば、「そうか」とだけ返して足早にその場を去っていく。
 人の気配がない廊下に壁掛け鏡がひとつ。映し出された自分の姿を見て、男は――額に浮く脂汗を、赤いネイルの指先で拭った。

(おかしい。やはりどの特異運命座標も、何か私に隠している!!)

 使い慣れたローブが穴だらけになってしまった事を契機に、『無辜なる混沌』の作法に合わせてスーツとやらに着替えてみたのだが。……もしや、これが正装だという"先輩"の助言が嘘だった?

(やはり、信ずるは己の知恵と力のみ。私は正しい。常に何時でも。そう思い続けていなければ、私は――)

 ぐるぐると考えているうちに、気づけば依頼の集合場所に着いていた。
 境界図書館の中には、異世界へ旅立つ前に特異運命座標と境界案内人がミーティングを行えるスペースがいくつもある。
 男はその中から、比較的ほかの相談スペースから離れた静かな場所を指定した。

 すでにスペースへ集まっている特異運命座標へ、彼らを(生まれつき)鋭い目で見下ろしながら、彼は告げる。

「《物語の死神》グリム・リーパー。本来は物語を紡ぐ君達の敵ではあるが、利害の一致により、しばらく境界案内人を担う。
 私の依頼は等しく何かの命を絶つ。君達に、その覚悟はあるか」

●剪定の時
 グリムが説明を始めたのは《衰退世界ニュートリショナル》という一冊のライブノベル。
 桃色の砂の砂漠が広がり、汚染された様な紫色の空が広がる滅亡手前の世界。
 文明がことごとく滅び、住まう人々は飢えと貧困に喘ぎ続けているのだという。

 どうしてここまで終末的な世界になったか。
 それは――人々がかつて、神聖なものとしていた『大樹』がもたらした災いだった。

 人々の愛を享受し、土地のエネルギーを吸い尽くし、生え伸びた大樹の根は文明を引き潰した。
 やがてそれは世界を枯渇させるほどに成長を遂げ、もはや大樹の核(コア)を破壊する事でしか、この世を維持する方法はないのだという。

「大樹の核の場所は、私の死神の嗅覚で、ある程度は把握できている。
……が、在処は大樹の防衛本能によりダンジョンと化している事だ。君達はそういうの、得意だろう?」

 特異運命座標。君達の力で大樹を殺し、世を救え。
 そう語ったグリムは、初めて口角をつり上げた。

NMコメント

 今日も貴方の旅路に乾杯! ノベルマスターの芳董(ほうとう)です。
 新人境界案内人、グリム君との旅が始まります。

●目標
 大樹の核(コア)を破壊する

●場所
 異世界《衰退世界ニュートリショナル》
 オープニングで語られた通り、滅びの運命を辿ろうとしている異世界。
 皆さんには今回、この大樹の内部にあるダンジョンを探索し、大樹の命の源である核(コア)を破壊していただきます。
 ダンジョンはワンフロアのみ。木の根が複雑に絡み合って出来た天然の迷宮で、天井は飛行できる程度に高め。
 ダンジョン内には大樹の防衛機能として、魔物が住み着いています。
 また、光源がないため、そのままではかなり暗い場所となっている様です。

●魔物
 ダンジョンを探索するうちにエンカウントする可能性がある、ないし必ずエンカウントする魔物です。

 ウッドゴーレム(木人)
  ダンジョンの最深部で核を守る巨大な木人。攻防に優れていますが反応が遅めのようです。
  パンチを繰り出しての近扇攻撃や、木の根を地面から突き上げる【足止め】付きの中範攻撃をくり出してきます。

 ナチュルバット(蝙蝠)
  ダンジョン内にうじゃうじゃいる。エンカウントすると3~4匹で群れている事が多いです。
  噛みつき攻撃を受けると【出血】する可能性も。攻撃高めで防御低めです。

 ナチュルラット(鼠)
  ダンジョン内で遭遇する可能性があります。エンカウントする時は1匹ですが、3ターン経過ごとに鳴き声で仲間を呼ぶとか。攻防ともに平凡ですが、遠距離に種を飛ばしたり、中・近距離にかじりついたりと攻撃範囲が広めです。

●味方
『物語の死神』グリム・リーパー
 皆さんをライブノベルの世界に連れていく境界案内人。今回が正式な案内人としての初仕事となるそうです。
 かつて異世界で幾度となく特異運命座標と相対し、敵対した末に捕縛され、図書館に監禁されていたはずですが…?

 主に回復役として、ほんの少し皆さんをサポートしてくれる様子。
 怪しげな黒革の表紙のノートを持っており、声をかけると何故かサインを求めてきます。

●その他
 かたっぱしから敵を倒して進むもよし、敵をうまく避ける方法を考えて核を探すもよし。ダンジョンの攻略方法は皆さん次第です。どう攻略するか、大まかな方針はパーティで相談する事を推奨します。
 せっかくのダンジョン攻略。探検服を着てみるのもいいかもしれませんね!

 説明は以上となります。
 それでは、よい旅路を!

  • 誰が大樹を殺すのか完了
  • 新たな境界案内人。その性質は《死神》――
  • NM名芳董
  • 種別ライブノベル
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年07月16日 22時05分
  • 参加人数4/4人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 4 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(4人)

回言 世界(p3p007315)
狂言回し
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
杜里 ちぐさ(p3p010035)
明日を希う猫又情報屋

リプレイ


 降り立った大地は分かり易く地平の果てまで死滅していた。空は見えない。育ちすぎた大樹が天を覆い、光さす場所は無い。
「これでは育つ作物も育ちませんね…事態はかなり深刻そうです」
『かみさまの仔』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)が片手で砂を掬い上げ、呟いた。吹いた風に浚われサラサラと流れる先には、根に巻き込まれて倒壊した建物群。壮大なスケールに圧倒されて、『少年猫又』杜里 ちぐさ(p3p010035)はぽかーんと口を開けながら見上げる。
「今回のお話は大樹が皆のこと考えずに欲しいだけ栄養吸い取った結果砂漠になった、みたいな状況にゃ?」
「どうやらその様だな」
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は同意しつつも、壮大な大樹の姿に親しみの様な物を感じていた。

――世界を支える大樹。生命の息吹を司りながら、今は死をもたらすものへと変異したもの。

「我が神はあらゆる薬効の葉を花を実をつける大樹の医神で…あらゆるものへ死を齎すものを取り込んで、死を司るものに転じたのだ」
「だからって同類扱いするには、被害の規模がデカすぎないか?」
『狂言回し』回言 世界(p3p007315)が口の中で飴玉を転がしながら、だるそうに木の根を登る。
 アーマデルが信仰している死神は、そこに住む者達との共存関係が成り立っていただろう。しかしこの大樹は、どこまでも自分本位だ。
(まあ、それは極めて人間的な考えであって、大樹はただ生きる為に利用できるものを利用しただけだろうが――)
 結果として、世界が滅んで自身も死ぬというなんともな結末に向かっているのが笑い種だ。

「ところで、誰かもうツッコんだのか? 何故コイツが境界案内人をしているのか」
「それにゃ! やっぱり世界も気になるにゃ?」

 ちぐさの視線の先に居るグリムは、今まで特異運命座標を邪魔してきた人物だ。捕らえてからは境界図書館に軟禁状態になっていたはずだが、異世界に出歩くどころか案内人になっているのは何故なのか。
 二人のやり取りが聞こえて、先行していたグリムが振り向く。

「とある『境界案内人』に推薦された。利害の一致から引き受けた。それだけだ」
「もしかして、この間助けてくれた時の…?」
「睦月殿には、何か心当たりがあるのか」

 アーマデルの問いに、睦月が頷く。彼女曰く、特異運命座標と境界案内人がとある異世界に取り込まれてしまい帰還できなくなった時、グリムが境界案内人の代理を担い、助けてくれたらしい。
 そんな事があったのかと一同の視線がグリムに集まる。が、グリムは更にその先をじっと見つめていた。赤い双眸が見据える先には――
 のそりと、成人男性の身の丈の倍はありそうな巨大な鼠が立ち上がっていた。これにはちぐさも尻尾の毛を逆立て、警戒の色全開で身構える。

「あれがナチュルラットにゃ!?」
「…かわいい」
「グリムああいうのが好みにゃ?」
「駄目だぞグリム殿、あれに魅了されては」
「アーマデルの言う通りだ。魔物に愛着がわいてちゃこの先――」
 同調しかけた世界だったが、次のアーマデルの言葉に愕然とする事になる。
「いいかグリム殿、これは純粋に警告だ。方向を間違えると『ぐり』と呼ばれて似た名前の相棒と組まされることになるから気をつけろ」
「お前はいったい何と戦ってんだよ? なぁ?」
 グリムとちぐさは早速「そうなのか」って顔で真に受けてるし、アーマデルは真顔のまま親指立ててサムズアップだし、味方につけるならもう一人しかいない。世界がフォローを頼む様に睦月に死線を向ける…が。
「僕は信じてますよ、世界さんのツッコミ力」
「今回もやっぱり俺の味方はいないのかよ!!」

――嗚呼、もう。こんなにシリアスな終末世界でもパーティの世話係か!!

 異世界へ旅立つ前、グリムは問うた。私の依頼は等しく何かの命を絶つ。君達に、その覚悟はあるか――と。
 笑える冗談だ。そんなもの、日常茶飯事過ぎて逆に持ち合わせていないんだが。
「何にせよ、とっとと終わらせるに限る。アレを決行しようじゃないか」
「アレにゃ! わかったにゃ!」
 ちぐさがピコンと耳を立てた。作戦を知らないグリムが眉を寄せる。アレとはつまり――


 Real Time Attack。通称RTA。
 最近、練達やらPtubeで流行中のゲームスタイルだ。その大きな特徴は"どれだけ短い時間でクリアできるか"に焦点を当てているという事であり、効率化の為なら操作キャラがいかなる奇行に走ろうと手段を択ばない。今回の場合は――

「闇の月よ! 立ちはだかる愚かな者を暗き運命で照らしなさい! ダークムーン…三・連・弾っ!」
 ちゅどどどーー-ん!!
「なっ、迷宮の壁が!?」
 睦月が輝く厄災を連打し、ガンガン大樹迷宮の壁をぶち壊していく。ダンジョン泣かせの強引な攻略法にグリムがあんぐりと口を開けた。そのすぐ隣に、音を聞きつけわんさか群がるナチュルラット。投擲された種が雨あられと降り注ぐも、味方へ着弾する前にアーマデルが蛇腹剣を振り抜く。
「こ、この鼠、種を飛ばすぞ」
 食べ物を粗末にするなとばかりにへの字口で種を撃ち返し、たった今考えた歌を口ずさんだ。

♪とっとこー走るよ特異運命座標 壁抜きー走るよ特異運命座標 だーい好きなのはー
「甘味」「ベーコンエピにゃ!」「夫さんの手料理…ですかね」
「成程みんな違って皆いいという奴だな」

 収集がつかなくなる気配を察知し、アーマデルは全肯定した。そんな彼も、ただ無暗に敵を倒している訳ではない。
 L'annulaire brun――ギフトによって左手の薬指から滲む病毒は、大樹の根をじわじわと腐らせていく。
 核は大樹の中心。そこにはこの巨大な身体のエネルギー全てが集約する。毒がどこへ流れていくか、自然知識を元に世界はすぐさま読み取り、向かうべき方向を定めた。
「ルートは間違っちゃいない。そこの壁をぶち抜いた先にいる蝙蝠三匹、倒して右手の道に入るぞ」
「目的地までもうひと頑張りにゃ!」
 次は時分が壁を壊そうとちぐさが一歩前に出ようとして、睦月が来た道に何かをしている事に気付く。
「どうかしたのにゃ?」
「急ぎとはいえ、魔物の遺体を残しておくのが忍びなくて…せめてお祈りを」

――ごめんなさい。あとで丁寧に弔いますから。

 優しさの籠った願いは、遺された魔物の禍々しい気配を拭い去っていく。睦月が起こす奇跡に、ちぐさは目を瞬いた。
「睦月は優しいにゃ。僕は今回、大樹や魔物が悪者っぽいから傷付けたり壊したり気にしないようにしてたにゃ」
 狂える魔物は正気ではない。大樹だって、さすがに木とは友達になれない――と思っていたから。

(…でも、どうしてこの大樹は周囲を砂漠にしてまで育ちたかったのにゃ?本能にゃ?それとも何か…)
「って、ダメにゃ。今回は同乗しないにゃ!……しないのにゃ…」
 一度はぷいと腕を組んでそっぽを向いてみせるちぐさだったが、徐々に耳が垂れていく。
 慰める様に睦月は、ふわふわな青毛の髪をよく撫でて、目指す方を見据えた。
「聞き出しに行きましょう。どうしてこんな事をしたのか」
「聞くったって、相手は植物だぞ?」
 どうするんだと世界が問うと、睦月は時分の目を指さした。
「アーマデルさんがやったように、僕もギフトで大樹へ干渉してみせます」


 うおぉん、と怨念の嘆きが木霊する。木々が寄せ集められた巨大な木人が身を起こし、癇癪を起した様に拳を振り上げた。
 大樹最深部。そこへ到達した異物達を彼らは決して許しはしない。世界が呪念を撃ち込みながら叫ぶ。
「グリム、狙われてるぞ!」
「――ッ!」
 回避が遅れたグリムに大きな影が落ちる。だが――攻撃を受け止めたのは、睦月だった。華奢な身体で懸命に防護壁を張り、受け止めた反動で壁の方へ弾かれる。
「ぃ、った…!」
「戦神! なぜ私を庇った!?」
「…恩人、ですから」
 まだ戦えますよと微笑んでみせるも、無茶を回復でごり押す作戦、気力はすでに擦り切れかけている。だが身を挺した成果はあった。
 アーマデルの毒が効き、木人の身体を構成する枝に栄養分が渡り切っていない。細い枝の隙間から見えるエメラルドの輝きは、間違いなく生命の源――
「皆さん、核は木人の中にあります!」
「おっけーにゃ! 一発キメるにゃ!」
 ちぐさがこの地に流れる力の根源を読み取り、泥へと変えた。ケイオスタイドで木人の身体が傾いだところへ、世界が身を翻す。魔眼に宿る呪念が解き放たれ、木人の胴を炎獄が焼き、核が露わとなった。
「行けるか、アーマデル」
「世界殿、助かる!」
 大気が震える。アーマデルが核を蹴り上げ、木人から跳ね飛ばした。衝撃により亀裂が入り、砕け散る緑色。その輝きの一欠片を覗き込む睦月の瞳に、大樹の記憶が流れ込んできた。

――育つのは喜びだった。皆が褒めてくれるから。
 肥料を与えて大切に、大切に育ててくれた。だから私、応えなきゃって。
 どうしてこうなってしまったのか、分からない。…いや。もう全てが分からない。自分の止め方も、誰に喜んで欲しかったかさえ。

 朽ちようと揺れ始める大樹の中で、魂の慟哭に気付いた睦月は涙を流していた。
 そっとハンカチを差し出すグリムが、無表情のまま語る。

「ボタンをかけ違え、物語を壊す存在を、殺して救う。これが死神の仕事だ」

 次いで手帳を取り出しサインを求めるグリム。思わずアーマデルが「ですのー…」まで言ったところで、世界がむきゅっと彼の口を手で塞ぎ、代わりにこう問いかける。
「何の為に要るんだ? そのサイン」
 するとグリムは目を伏せた。
「境界図書館への報告に必要なんだ。俺は人の名を、すぐ忘れるから」
「じゃあ今度、ちゃんと覚えられる様に『楽しい依頼』を探してきてにゃ!」
 悲しそうな気配を感じ取り、ちぐさが笑顔でグリムへ言うと、彼は目を瞬かせる。
「…嗚呼。考えておく」

成否

成功

状態異常

なし

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