シナリオ詳細
<黄泉桎梏>或る道の果てに
オープニング
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豊穣郷『カムイグラ』――その国にある男がいた。
絶海の果てにありし精霊種と鬼人種が過半の人口を占めるその国は、『合ってはならない』存在であった。
七扇と呼ばれし政府機構の1つ、所謂『警察職』にあたる刑部省はそのトップが入れ替わった一枚だ。
先代の刑部卿を務めた者は魔種だった。
属性は傲慢――その男は色欲に揺られた天香 長胤とは別の流れで魔に堕ちた。
「英雄など、存在する価値もない、いてはならない。
あんなものは特異点。頼りにしたが最後、『次の代』がどうなるかも知らずに行きたいように生きる怪物だ」
男は、英雄が嫌いだった。
人々をどうやっても惹きつける英雄が大嫌いだった。
人々の為に生きて、人々に愛される英雄が大嫌いだった。
――往々にして、後に残される者の苦労を気にもしない英雄が、大嫌いだった。
一代の特異点が築き上げた重荷を受け継がされる羽目になる凡人の苦労を気にもせず死んでいく連中が、大嫌いだった。
そんな連中が軽率に命を懸け、犠牲になることを、犠牲とも思わぬ愚かなる凡人どもが嫌いだった。
そんな連中に頼りにして守りたい民を守り切れなかった愚かな自分達が、大嫌いだった。
近衛長政は『近衛』の姓が示す通り、帝の傍に仕える武人の家系に生まれたという。
英雄と呼ばれた光に焼かれた男は、けれど残された側に立ち自らを呪った。
「――英雄など、いらぬ。英雄になど頼らず、英雄など生まれぬ世界こそがあるべきだ。
そのためには、万人の罪を完璧に把握して磨り潰し、罪を生む前に潰せる環境である必要がある」
そうあまりにも傲慢に『全てを把握し、全てが監視され、管理される世界』を望んだ近衛長政なる男は。
一つの罪も逃さぬための妖による監視体制を築き、『妖鬼』なる安価で均一された戦力の兵を大量動員できる体制を目指した。
しかし、結局は『英雄』たるイレギュラーズに敗れ、けれど彼らの手で討ち取られることを拒み、自らの手でその生涯に終止符を打った。
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アリスティーデの聖堂から抜けた先、イレギュラーズは神の国の1つへと足を踏み入れていた。
「ここは……長政と最後に戦った場所、よね?」
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の呟きはその町並みに覚えがあったからだ。
区画分けされた町は上から見やればきっと亀の甲羅のように見えることだろう。
だが、少しばかり自信を持てないでいるのは、その景色がイーリンの知る物とは異なっていたからだ。
イーリンの視線が先、そこに見えるは空を衝く天守。
カムイグラが都、高天京にも劣らぬ壮健さを見せるそれは『完成された姿』に他なるまい。
「……あの天守、前に見た時は崩れてたはず。随分と綺麗に再建してるじゃない?」
入り組んだ狭い山麓に囲われ一際低くなった盆地部に存在する亀城ヶ原。
イーリンのように当時の決戦でこの地に訪れた者が知るのは廃棄された城郭と人気のなくなった町や市場、寺社の痕跡だけ。
それに比べれば随分と『綺麗に』なっている。
市場の方を見やれば、営みのようなものが見えるし、寺社の方を見れば天守と同様に再建された様子が見える。
「……けど」
ぽつりと、イーリンは呟きを漏らす。
それは此処が現実ではないことを明確に示す『違和感』。
建物から頭1つ分は大きな『鬼』のような物が闊歩しているのがここからでも見えた。
町並みを歩く人々の光景は不思議と呼ぶほかない。
ごくごく自然に生きている人々が『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』であることはさておくとしても、その光景は随分と『活気』がない。
人々は何かを恐れ、何かに見られていることを警戒するように、『酷く規則的な生活を営んでいる』――あまりにも重苦しい光景だ。
(……随分と活気がないけれど、近衛長政の目指していたのはこういう光景だったってことかしら?)
その町を一言で表す言葉がある――管理社会、監視社会、と。
「――来たか、神の代理人よ」
声を聞いて顔を上げる。
そこに立つは偉丈夫――周囲には刑部省の制服を纏った武人たちと、町中でも見た『鬼のような化け物』達。
「近衛長政――いえ、ワールドイーターね」
静かに立ち、全身から魔力を放出するその偉丈夫を見やるイーリンはけれど冷静そのものだった。
「――あいつよりも随分と『迫力が足らない』んじゃないかしら?」
騎兵隊の限りを以って打ち倒さんとしたその男に比べれば、目の前の偽物は随分と『弱そう』に見えた。
- <黄泉桎梏>或る道の果てに完了
- GM名春野紅葉
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年07月13日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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(『刑部卿』近衛長政……)
眼前に立つ男を見下ろす『騎兵隊一番翼』レイヴン・ミスト・ポルードイ(p3p000066)の瞳には胡乱なれど喜びのようなものがある。
眼下にあるは嘗て一太刀を浴びた男。その首を今度こそ落とせる機会というならば、それは望外の三度目といえよう。
「……此度こそは『刑部卿』近衛長政、騎兵隊がもらい受ける」
少し後方に陣取る『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)の姿は嘗てのあの日を想起させるもので、まさに神逐の時を再現するかのようだ。
(死体も残さず自爆した長政殿の事は上辺しか見ていませんでしたが、この夜景を見れば概ね理解できます。
人を人と思わず個の優劣を認めず、替えの効く数打ちに押し込めれば治世はこうもなりますか)
完結した世界を見やる『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は思う。
「――騎兵隊の全力を、策と力で受け止め。そしてその首を持ち出せなかった、男。
その理想、その高潔に敬意を払う。しかし心中の長政にさえ至らぬなら、穢れ」
旗を掲げるイーリンは静かに眼前の男へと告げるものだ。
「はぁい、初めまして、長政さん。近衛長政さん?
俺は冬宮の物、寒櫻院・史之だよ。あの頃はまだ秋宮と名乗ってたかな」
笑いながらそう語り掛ける『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は既に愛刀を抜き身に握っている。。
とん、と足元を蹴り上げ浮かび上がれば、長政の視線が追ってくる。
「ふん、意気の良い男だ。兵の上を行かんとするか」
「うん、俺の仕事はあなたの抑えだよ。短い間だけど、どうぞよろしくね」
(所詮偽物、されど強敵。であれば私はこういうしかあるまい)
悠然と眼前に立つ男を見やり、『威風戦柱』マニエラ・マギサ・メーヴィン(p3p002906)は思う。
「――この程度打ち払えんでなんとする」
浮かぶ化神機星、マニエラは浮遊を始めた扇と共に敵を見やる。
あの頃はまだ、マニエラを名乗るのを躊躇っていただろうか。
「あー、そういや前に戦った時……てめーの首獲り損ねたんだっけな。
いや、お前さんじゃないお前さんのな。しかしまあ……確かに本物のアイツには程遠い、か。
それはいいや。次こそはぶち殺す。また首獲り損ねるなんざ悔やんでも悔やみきれねーからな」
現世、同じ場所での戦いを思い起こして『揺蕩う黒の禍つ鳥』エレンシア=ウォルハリア=レスティーユ(p3p004881)は滅刀を構える。
向かい男から感じるものはあの時の男には比べるまでもない。
「為せるものならば、為してみよ」
「言われずとも!」
翼を羽ばたかせ、エレンシアは浮かび上がる。
(私からすれば、お初にお目にかかる…って言うべきなんでしょうが、感傷も礼儀も必要なし。ただの模倣の『マガイモノ』にはね)
敵陣を見据える『誰が為に』天之空・ミーナ(p3p005003)の瞳は無感情と呼ぶほかない。
その手に握る死神の鎌にも、当然ながら力は入っていない。
(あの時の強敵が目の前にいる……えぇ、おかしいわ。イーリンの言う通り、あの時よりも小さく見える)
愛杖を握る『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は敵を見てイーリンの言っていたことを思い起こす。
あの時よりも、より強くより硬く。不倒の熱は絶えていない。だから――というだけではないのだろう。
(今の私達なら倒せる、もちろん油断などしなければ……)
レイリーはそのまま視線を愛する者たる女性へと向ける。
「ミーナ、今回もよろしく」
「……任せておいて、レイリー」
対するミーナは敵への熱を求めなかった――ただ、彼女の言葉を、祝福を胸に、そして。
●
改めてイーリンから見た目の前の男は、随分とスケールが小さく見える。
自分達が強くなったから? あの時よりも更に多くの死線を抜けたから?
それらはきっと、一面においては真実で、一面においては虚構だ。
「――其は祓うのみ。行きましょう、神がそれを望まれる」
旗を掲げ、イーリンは口上と共に仲間達へと指示を飛ばす。
あの時と似た、確実にあの時よりも洗練された布陣と共に、イーリンの紫苑の瞳が戦場を見る。
(何より、水鏡に映る虚像の夢の跡、実の無い幻に止められるほどやわじゃ無い。
まぁ、実際に戦うのは私じゃなくて味方の方になるんだが、ね)
並び立つ味方はあの時にいた者も、いなかった者も、支える甲斐ある者ばかり。
「加減はなしで速戦即決と行ってくれ、弾はこちらで用意する」
既に動き出した戦場、マニエラはイーリンへと応じれば、そのままに舞い踊る。
戦場を支える巫女はあの時よりも更に進んだ術式を展開していく。
「あなたの記憶に俺は居ないだろうけれど、あなたのことは伝え聞いているよ。油断できない相手だってことをさ!」
史之は空を抜けて長政の眼前へと降り立ち、そこまま愛剣を振り抜いた。
赤きプラズマを引く斬光、撃ち抜いた斬撃が長政とその付近にあった敵を撃つ。
「あいにくだけど、手加減する気はサラサラないんだ」
必ずや息の根を止めると狂気に振れる赤い瞳が死線をなぞる様に軌跡を描く。
「小賢しい――」
対する偉丈夫の斬撃は正確に史之を狙い撃ち込まれる。
「ふふ……いいよ、私ならね」
告げられたイーリンの指示を手に、ミーナの紅い瞳は戦場を見る。
優れた戦略眼は敵の布陣、その目的を見定め、死神の瞳は剪定を開始する。
(さあ、始めよう。今から見せるのは本当の『マガイモノ』の戦い方)
死神の瞳は死を見つめている。何者でもなくなってしまった女は、けれど体に染みついた力を十全あれと振るう。
それは罪を暴き出す瞳、残酷なる死神の紅は『そこにある』ことさえも罪であると嘯き、視野にあるもの全ての命を覆す。
「レイリー=シュタイン! 近衛長政、再度お前を討ちに来た」
鹿毛の愛馬を走らせ、レイリーは戦場を駆け抜ける。
あの時と同じように、あの男へと辿り着く道を押し開くために。
白亜の城塞の如き美しき鎧を纏い、レイリーは最善へ向けて飛び込んでいく。
あの時よりも、遥かに増した己の堅牢さを示すように。
「――はっ! 白亜の城塞だとでも? 面白い。城とは越えられるためにあるのだからな」
「消し飛ばす……!」
執行人の杖を構えたレイヴンは魔力を籠めて弦を作り上げる。
引き絞られた弓につがえた手製の矢は籠められた魔力を帯びてゆらり。
放たれた矢は戦場を翔け、召喚陣を描く。
墜ちるは鋼鉄の星。現世ならざる神の国、その後の損害等気にするまでもなく、鋼鉄の星は敵陣を消し穿つ。
「へいへい。そんじゃー軽く削っていくんで確実に沈めてくれよ? 勇者さんよ」
飛び出したエレンシアは兵士達の上を飛び越えて妖鬼へと翔ける。
「うっかりクビを飛ばしてしまってもそれはそれだ。余計な手間が省けるんだし構うまいよ。
デカいだけで大した事ない、なんてつまらないオチはやめてくれよ?」
咆哮が響く。それが意味を成すよりも遥かに速く、エレンシアの太刀は静かに振り下ろされた。
妖鬼の腕を両断した一撃が跳ねあがり、首を獲らんと次を撃つ。
「効率を考えれば同意はできますが、発想の方向が素の私と同じという時点で統治者として落第では?
人を束ねる将ではなく、日用品の職人にでもなっておられれば良かったのですかね。生まれ云々は置いておいて」
それが瑠璃の結論である。この光景が魔種という存在に歪められたが故であったのかは分かりようもなく、さほどの興味もないが。
「ふん、そうなれるのであれば、ある意味で幸せであったのだろうな――御免こうむるが!」
振り抜かれた斬撃は瑠璃をも巻き込む直線を撃つ長政の一太刀、けれど、次いで程度で捉えられるほど、瑠璃はのろまではない。
ひらりとそれを躱すのとほぼ同時、愛刀を払えば、その一閃が敵を蹂躙する。
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戦いは続いている。少しずつ、イレギュラーズの陣は敵陣を食い破りつつあった。
「さぁ、私を倒せるものはいるかしら! 誰でもいい、かかってきなさい!」
レイリーは声高らかに自らの存在を誇示すると共に、愛杖に魔力を纏う。
放たれた輝きはまばゆく兵士達の目を眩ませる輝き。
「城攻めだ。単身で突っ込む愚を犯す間抜けは要るまいな?」
落ち着いた長政の声が響き、雄叫びをあげながら兵士達が一斉に突っ込んでくる。
「私を倒さない限り、私達は誰も倒れないわよ!」
レイリーは白亜のステージを行く。迫る敵を的確に返しながら。
「……あの時は見事に一閃してくれたな。あれからワタシもしぶとくなってな……試してみるか?」
肉薄するレイヴンは眼前の男へと執行人の杖を振るい、刃を生やした黒き大鎌が軌跡を描く。
夢想を斬り、桜花を撃つレイヴンの斬撃が偉丈夫に太刀を入れた。
「その日は空にあったようだが――良かろう。また斬り落とされたければ、斬り落としてくれる」
返すように振り下ろされた一閃がレイヴンを裂き、影のように消えることなく霧散して再生する。
「男ならば、強敵と刃を交える距離で戦ってみたいともうのは自然なことだろう? 付き合ってもらうぞ……!」
亡霊のように立つレイヴンの視線は真っすぐに長政を見据えるもの。
(あん時のあいつと比べたら物足りねぇ紛いもんだが、それでもアイツはアイツだ。
ここで定義されてる以上それ以上でもそれ以下でもない。ならば)
愛刀を握る手に力を籠め、エレンシアは男を見下ろす。
「今度はきっちりその首、もらい受けるぜ! 『刑部卿』近衛長政!」
首を獲らんと真っすぐ翔けるエレンシアに対して、長政が薙刀を合わせてくる。
振り下ろした太刀筋は跳ね返さんとする薙刀さえも押し通して男の身体に傷を入れた。
「……改めて、感慨深いものですね」
始まる戦闘、瑠璃は小さく呟くものだ。
それは後に続く仲間達に対する信頼にほかならぬ。
肉薄するままに愛刀を振り抜けば、炸裂するように穿つ斬撃。
どこぞの蒼剣のように質も悪く食い破る乱撃の末に瑠璃が振り上げた愛刀はそのまま落ちるように侵略する。
かなり遅れて動き出さんとする敵陣が瑠璃にも気づいて雄叫びをあげる。
突き出される槍を宛ら透過させるかのように躱す瑠璃は冷静そのもの。
(長政に、あの梅久が従っていたのは、きっと秩序の先、差別のない世界だったから――けれど)
戦場、肉薄するイーリンは落ち着いたままに剣のようになった魔力の塊を掲げ持つ。
「あいつも、コレを見たら嫌がるわね」
一本気の鬼人種の武士を思い起こせば、真っ直ぐにイーリンは告げるものだ。
「秩序は、人の生から出る。ならこの国は死者の国よ」
突きつけるように、イーリンはワールドイーターへと告げ、魔力塊を撃つ。殲滅の魔神が一振りが戦場を行く。
「……実は言うと私は専門の癒し手ではないんだがね?」
マニエラは余裕を隠さない。
吹き荒ぶ偉丈夫の範囲攻撃が、兵士の攻撃が、妖鬼の攻撃が仲間達へと撃ち込まれれど、それらが致命傷になることはない。
自分は元より堅牢、集まった者達も各々に守りの硬さがあるのなら。
「私は皆の全力が維持できるよう支えるまでだ」
静かに戦場を見るその瞳が一歩ずつ前へ進む。
それは戦線自体が前へと押し上げられている証明にほかならぬ。
「俺ね、傲慢の魔種って好きなんだあ。
自分の力を絶対的なものだと信じてるその顔が敗北と屈辱にまみれる瞬間がさ、大好きなんだ」
「は、随分と歪んだ小僧だ」
爛々とした狂奔の輝きを見せる瞳で史之は愛刀を振るう。
鋭く、眩く、激しく、美しきその斬撃が長政の身体から黒い靄を溢れさせる。
「アハハ? あなたはどんな顔を見せてくれるのかな? 爆死したくらいなんだろうからさぞかしいい声で鳴いてくれるだろうね」
「ふん、そう容易くくれてやるなら、爆死などせぬよ」
「さあ、狂い踊りなさい。闇から生まれし者は、闇に怯えるのがお似合いよ」
ミーナは鎌を握り、敵を見やる。
死神の振るう鎌は確実に妖鬼の、兵士の首を刈り取る斬撃を撃つ。
美しき軌跡には一切に躊躇はなく、熱もなく。
ただそうやって生きてきたことを繰り返すように、閃を引く。
●
戦いは終わりの兆しを見せ始めていた。
「さあ、あなたの滅びがやってきたみたいだよ
これだけ豪華なメンバーがそろっていたらあなたの負けは確定だよね。
まあ生き延びたら生き延びたで、べつにかまやしないけども。そうなったらその首は、俺にとらせてね」
描く斬撃が長政の首を獲るその刹那を夢に映し出す。
強かに確実に精神を追い詰める斬撃はちりりと赤の輝きを放つ。
「ふん、ちまちまとどこまでも小賢しく動くな、小僧が!」
雷光迸る大薙刀が史之を捉えんと眩く輝き、けれど暴発を引き起こして失した刹那。
既にミーナの連撃は始まっている。
「砲手は接近すれば弱い……とでも思った? 残念ながら、私の本懐は接近戦なんだよ」
「――はっ、いつまでも熱のない攻めをされるよりは、本懐とやらの方がまだマシだな」
踏み込むままに、希望の剣が振り抜く斬撃は壮絶極まる手数の全てを以って偉丈夫の首を落とすべき追撃にほかならぬ。
「イーリンから聞いてあるからね……『以前の貴方は自爆した』と」
「なるほど、故にこの攻めか。面白い!」
連撃を受けながらも笑った男へ、ミーナは紅色の軌跡を描いて更なる追撃を叩き込んだ。
「あの長政であれば……再生をものともせず、斬り捨ていただろうよ。……影法師風情が、あの男を語るな」
どこまでも落ち着き、けれどどこか熱を帯びたような声でレイヴンは再び踏み込むものだ。
斬撃の美しきも恐れるべき冷たき連撃が再び長政を穿つ。
斬り裂かれる長政の身体から影のように靄が溢れ出る。
それはレイヴンとは似て異なる、影法師であるが故の痕跡。
「雷鳴の切れ味、今一度食らわせてやらぁ!」
誰よりも速く、爆ぜるように打ち出したエレンシアの一閃が雷鳴を打つ。
真の雷鳴を穿つ閃撃が長政の身体を穿ち、その肉体に痺れを引き起こす。
「私にとって黄泉帰りとは、完結した物語に対する蛇足のような付け足し。
どれほど良くできたものでも元の話に対する冒涜、状況が許すなら終わらせてしまいたいわけです。
それが誰にも不幸を呼ぶものなら、なおのこと」
静かに、瑠璃はそう語る。
「貴方の事ですよ、刑部卿」
水晶浄眼より視る景色、断片ばかりの未来視より打つ愛刀は冴え冴えと。
仕込まれたワイヤーの1本1本まで刃となって壮烈なる斬撃の網を作り出す。
「駄目押しだ、司書。今度こそ首を獲ってやれ」
紫苑の剣が戦場を奔る。
その一閃が確かに男の首を捉えるよう、マニエラは機導術を振るう。
小さな戦争に終わりを告げる鎮魂の舞を思わす舞踊が周囲の魔力を充実させていく。
「今よ、イーリン」
レイリーは迫る男の大薙刀に愛杖を合わせて叩きつけた。刃よりも奥、柄の一部を絡めるようにして跳ね上げる。
生じた隙、レイリーは冷静に敵を見やり、深く息を吐いた。
白い波紋が重苦しい戦場を照らすように輝きを放ち、竜に後を押されるような充実感を与えていく。
「後は任せなさい――! 長政、その首貰い受ける!」
そこへと飛び出したのはイーリンだった。
膝を屈することはなく、構えた大薙刀に魔力を籠めてこちらを見上げる男。
「――はっ、なるほど。黄泉がえりの甲斐があったらしい!」
戦旗が作り上げる魔力の塊は紫苑の大剣を思わせる。
それを見上げる男が笑った。
最後の一閃、振り下ろす剣に合わせて上げられた大薙刀はその刹那だけ、『奴』にも似て見えた。
薙刀から放たれる眩く輝く全力の一撃を呑み込んで、紫苑の大剣が輝いた。
「浮世をば 我が身とおもう 月夜こそ 次なるものと 夢に見る空」
「最期だけはらしいことを言うじゃない」
辞世の句というにはあまりにも傲慢な男のそれにイーリンは静かに呟いた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れさまでした、イレギュラーズ。
GMコメント
そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
早速始めましょう。
●オーダー
【1】触媒の破壊
●フィールドデータ
高天京からやや離れた場所にある岩肌に囲まれ一層と低くなった盆地を再現した神の国です。
その地形の形が上から見ると亀のように見えることから、亀城ヶ原と呼ばれます。
戦場自体はその中でも亀城と呼ばれる中心地です。
後方に天守を戴く城を後方にした平野部です。
●エネミーデータ
・『刑部卿』近衛長政
先代の刑部卿であった傲慢属性の魔種――の姿をしたワールドイーターです。
身体の中心に触媒が埋め込まれているようです。
分かりやすく傲慢で誇り高く、威風堂々とした人物です。
かつてイレギュラーズと対峙し、激戦の末にイレギュラーズの手で討ち取られるのを拒み、爆死を遂げました。
この『神の国』はどうやら長政の求めた国の在り方を実現された場合のようです。
トータルファイター型のオールラウンダーです。代償としてFBが高め。
武器は大薙刀に魔力を纏わせて戦います。
【火炎】系列や【痺れ】系列、【乱れ】系列などを用いる他、【スプラッシュ】や【邪道】属性の攻撃を持ちます。
・『影の天使』妖鬼×5
頭頂部に角を生やし、筋骨隆々とした鬼のような怪物です。
鬼人種ではなく、より概念的な『邪悪の象徴、悪鬼羅刹』といった意味合いでの鬼のような存在です。
これらもまた、それその物というよりも影の天使で再現された存在と思われます。
呪性を帯びた瞳で呪いを付与し、咆哮で足止めし、強力な近接戦闘を仕掛けてきます。
呪眼による魔術には【毒】系列、【火炎】系列、【麻痺】、【呪殺】のBSの可能性があります。
近接戦闘には【乱れ】、咆哮には【足止め】系列のBSが予測されます。
・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』精鋭刑部兵×10
刑部省の精鋭部隊、長政直下の精鋭で長政に絶対の忠誠を誓う事実上の私兵……を象ったゼノグラシアンです。
鬼人種、八百万(精霊種)などを問わず編成されています。妖鬼よりもスペック的には低めです。
【足止め】系列や【乱れ】系列のBSを用いて長政の支援を行います。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
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