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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>Equus et Vulpes

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●剣豪チェイスバトル
 刀のぶつかる金属音。弾ける火花は幾重に散って、ラムダ・アイリス(p3p008609)の黒衣を美しく照らしている。
「ボクの領地に踏み込むなんて、度胸のあることしてくれるね」
 それは夜半のことだった。狐の尻尾をもった半透明な侍めいた集団が、豊穣郷はラムダ領へと現れたのだ。

 豊穣郷カムイグラ。この地がイレギュラーズたちによって発見されていなければという仮設が語られたのは、この地に聖女ルルを初めとするルスト勢力が侵入してからのことであった。
 その仮設の答えは単純、滅び去る。
 なにせ豊穣郷は八百万を主とした差別意識に塗れ、政治の中枢は魔種が乗っ取り、巷には凶悪な呪術が蔓延り、最後には禍神が都を滅ぼしかけたのだ。
 それらを阻んだのは他ならぬイレギュラーズたちであり、つまりは彼女ラムダたちだ。
 菖蒲型魔導機巧人形拾壱號――通称ラムダはそんな土地に自らの領地をもち、人知れずなんかやっているそうだが……そんな土地に昨今、先述したルスト勢力が進軍してきたのである。
 狙いはおそらく、昨今豊穣郷にも現れ始めたという『神の国』であろう。
 触媒をこの国にばらまくことで神の国を作り出し、そこから降りる帳によって彼らが主張するところのあるべき世界とやらに書き換えるのだ。つまりは、滅び去った国へと書き換えようというのである。

「皆、そろそろ来る頃かな?」
 アヤカシを切り捨て、黒い刀をスッと構え直すラムダ。
 彼女を囲むように侍風の女達が刀を抜いてじりじりと包囲を縮めていった。
 背後より斬り込む――刹那。刀を逆手に持ち替えたラムダは背に翳した刀身によって斬撃を受け止め、くるりと反転し相手を蹴りつける。
 更に反対側から斬り込んだ相手の刀を紙一重にかわすと、振り抜く刀で斬り付ける。
「それにしてもこの動きと気配、人間じゃない……ね」
 ラムダは過去の経験から知っていた。彼らは『呪詛の忌』だ。
 妖怪を切り刻みその血肉で行われるという呪術で、半透明な妖怪が対象のもとへ現れ襲いかかるというものだ。
 つまりこれらは、呪術によって作られた怪物ということになるのだが……。
「それにしては戦力が……」
 おや? とラムダは小首をかしげる。敵の気配が少しだけ動いたのだ。
 いや、遠くから走ってくる首なし馬の集団に意識を向けたのだ。
(馬? ――あ、マズイかも)
 ラムダがあることに気付いた時には、彼らはひらりと跳躍しそれぞれの首なし馬へと飛び乗った。そのまま異様な手綱を握り、ラムダを無視して領地の中央、人々の暮らす居住地へと走り出したのである。
「狙いは非戦闘員か――『応龍』!」
 可変式魔導装甲「応龍」。ラムダの拡張ユニットであるそれがジェット噴射をかけて飛んでくる。馬を追いかけ走るラムダが跳躍すると、変形したそれはラムダに装着し翼となった。
 ジェット噴射をかけ、首なし馬にのったアヤカシたちを追いかける。
 仲間たちが合流したのは、その時だ。
「皆、追いかけるよ。あいつらを居住区に行かせちゃいけない!」

GMコメント

●シチュエーション
 ラムダ・アイリスさんの領地がルスト勢力の襲撃に遭いました。
 主力は忌と呼ばれる呪術製のアヤカシですが、首なしの馬に騎乗することでこちらの戦力を振り切り民間人を斬殺して回るつもりのようです。
 そんなことをされれば領地としての機能を失ってしまいかねません。馬やバイク、馬車などを用い彼らを追いかけ、チェイスバトルに持ち込みましょう。

●前半戦
 騎乗戦闘を主としたチェイスバトルです。
 居住区へ向かうアヤカシたちを倒しましょう。
 『影の天使』でできた首なし馬と侍風の化け狐による騎兵が敵となります。
 化け狐は武器を変化させ様々な格闘戦ができるだけでなく、乗っている馬も『影火』呼び出し遠距離攻撃を仕掛けることができます。
 主な戦闘方法は、彼らに追いつきたたき伏せるという形になるでしょう。

・騎乗戦闘について
 『騎乗戦闘』が可能なアイテムを持っている場合、それを装備して挑んでください。
 手持ちにない場合、ラムダ領から馬を借りて乗ることになります。
 仲間の馬車に乗せて貰っても構いませんが、アイテムに騎乗戦闘適性がないと戦闘力が若干落ちることがあります。ドレイクチャリオットなどを使うようにしましょう。

●後半戦
 アヤカシたちを退治しきると、更に敵は『剣豪狐』なる妖怪を召喚します。
 ここからはチェイスを終えて通常戦闘へと移行します。

・『剣豪狐』マガツオボロノヌシ
 刀を大量に帯びた狐頭の亡霊です。恐ろしく剣術の腕がたち、一騎当千の強さを持っています。
 皆と力を合わせて戦いましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>Equus et Vulpes完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ティスル ティル(p3p006151)
銀すずめ
胡桃・ツァンフオ(p3p008299)
ファイアフォックス
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
観音打 至東(p3p008495)
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
不動 狂歌(p3p008820)
斬竜刀
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

リプレイ


 装甲蒸気車両のハンドルをぐるぐると回しながら、その車体をドリフトさせる『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)。
「再現性箱根以来、久しぶりの多人数での「かーちぇいす」ですね!」
 ラムダ領の大通りに車体を滑り込ませると、アクセルを更に強く踏み込んだ。
「不謹慎ですが、ハンドルを握る手が疼いて仕方が無いです♪」
「敵の行き先と目的は?」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)がオープンにした後部座席から問うと、詩織はバックミラー越しにそれを見た。
「非戦闘員の鏖殺です。私も呪物として産み育てられた身、呪詛の怪物たる貴方方に少しの親近感と同情は感じたのですが……」
 やれやれ、と詩織は小さく首を振る。長く黒い髪が揺れた。
「残らず死の澱みに沈めてしまいましょう」
「ありがと、急に来て貰って悪いね」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が車体と並走しながら声をかけてくる。
 前方には首なし馬とアヤカシたち。追いつくための加速によって、徐々にその距離は縮まりつつある。
「目の前のボクを袖にして征くとかさ……キミ達とことん良い度胸しているね?
 容易く振り切れると思われているのってさ、ものすごーく心外だよホント?」
 可変式魔導装甲『応龍』のブースターを点火し、更なる加速をかけるラムダ。
 そこへ続々と仲間たちが合流してくる。
「勝てなさそうな敵は避けて目標を目指すのね。
 そういう作戦を立てた奴が居るのか、それとも頭が回るアヤカシなのか……どっちみち厄介ね」
 『銀すずめ』ティスル ティル(p3p006151)。彼女は練達で運転を覚えたというバイクに跨がり、アヤカシの空気に触れたがためか黒く染まった長い髪をなびかせながらアクセルをひねる。
「馬も良いけど、自分ひとりで動き回るならこっちのほうが便利! もう、悲劇は起こさせないわ!」
 そこへ加わる『慣性ドリフトの使い手』観音打 至東(p3p008495)のミニツーシーター。リアガラスに異世界の神像を象ったステッカーが貼られたそれは、『J.K.KAN-NON-DA』という。
「……SPEED……。
 HEAD LIGHTを灯さぬ者が、それを追い続けることはできないわ。
 HEAD LESSなら、尚更ね」
「え、なんて!?」
 突如奇妙な口調を使い始めた至東とは別に、馬で並走を始める『鬼斬り快女』不動 狂歌(p3p008820)。
「神の国だか何か知らないがやることが呪詛に戦えない民を狙うだと碌でもないことをしてそれでお前らの拝む神様に顔向け出来るかって話だ」
 馬の手綱を握り、更なる加速で距離を詰めにかかる。
「少なくとも俺は特別信仰とかしているわけじゃないがそんな事をしてたらとてもじゃないが四神様や黄龍様のこの豊穣にいる神様に顔向け出来ないが一体どんな神経してんだか。
 兎も角先ずはあいつらが居住区に向かう前にたたっ切ってやるよ」
 自動車にバイクに馬、そこへ更に加わったのが『ファイアフォックス』胡桃・ツァンフオ(p3p008299)のドレイクチャリオッツである。
「コャー、狐の風上にも置けぬやつかしら〜? 追いかけ回すとどちらが風上かわからなくなるけれども」
 仲間たちをちらりと見てから、改めて前方のアヤカシたちを見やる。
 戦えば勝てる相手だ。だが非戦闘員たちへ襲いかかったならば、それを止めながら戦うのは難しい。少なからず被害が出る。ならば、たどり着く前に潰すしかない。
「集落に雪崩れ込まれてはたまらぬの。きっちりかっちりお掃除なのよ」
「その通りだ」
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)が更に陸鮫のホバー移動によって合流。いよいよカオスめいてきたこのチェイスチームだが、これでこそ混沌である。
「『神の国』だのと御大層なお題目を掲げてやる事が狡いんだよなぁ!
 だがまぁ、核やら異言に対処するより直接的で分かりやすい!」
 追いつくぞ、皆! そう叫び陸鮫を加速させた錬と共に、彼らはついに戦闘可能圏内へと突入したのだった。


 こちらの追跡を振り切ることができないと察したのだろう。首なし馬を駆るアヤカシたちは振り返り、片手式火縄銃のような武器をこちらに突きつけてきた。
「来る――」
 相手の射撃を察したティスルは車体を急速に傾けて射撃を回避。そのまま相手に狙いを付ける。
「私も、この子も、簡単に振り切られるようなポンコツじゃないの! ――メルクリウス・バースト!」
 メルクリウス・ブラスト&メルクリウス・ブランド。流体金属が溶け出し銀の槍の形をとったかと思うと、まるで撃鉄でうった弾丸の如く爆発を起こし発射された。
 アヤカシの一体を貫く槍。転落したアヤカシを無視して馬がそのまま走り抜けよう――としたが、そうはさせない。
「たどり着かせるわけにはいかないんだ。これでも領主なんだよ」
 急加速によって馬の前方へ躍り出たラムダ。急速反転と同時に抜刀した魔導機刀『八葉蓮華』。
 魔力収斂圧縮加速機構が発動し音を置き去りにした剣が首なし馬の胴体を真っ向から切り裂いて行く。
「これで一騎!」
 即座に身体を反転させ残るアヤカシたちを追いかけ始めるラムダ。
 そんな彼女を追い抜いて詩織の装甲蒸気車両『グラードⅢ』が漆黒のボディを艶めかせ走る。
「さてどうしましょうか? まずは……」
 アクセルを思い切り踏み込む。徐々に詰めたアヤカシとの距離。並走状態になったところで、オープンモードにした運転席から詩織はパチンとウィンクした。
「失礼」
 そのまま追い抜いたかと思うと急速ドリフト。車体後部を振った詩織によってアヤカシの首なし馬は衝突し、騎乗していたアヤカシは派手に空中へ放り出される。
「残穢――『死切髪(しきがみ)』」
 詩織の髪の一本一本が意志を持つ怪物のように伸び、首なし馬へと絡みつく。いや、それだけではない。絡みつき、縛り上げ、そして子供が虫で遊ぶかのように引きちぎっていく。
 一方、マリカはドリフトと衝突によって彼女の真上を飛んでいったアヤカシに目を付けていた。
 早速『No life queen』の術を行使。不死を束ねる骸の王座を出現させると、地面に激突しなんとか起き上がったばかりのアヤカシめがけて行使する。
「ニ・ガ・サ・ナ・イ」
 色気すら感じる無邪気な笑みを浮かべ、マリカはアヤカシを自らの『お友達』へと引きずり込んだ。
 そんな悪夢めいた光景を早速置き去りにして走り抜けるアヤカシと狂歌。
 並走する馬と馬。
 抜刀したアヤカシの剣と狂歌の斬馬刀・砕門が幾度となく激突し火花を散らした。
「いい加減、止まれ!」
 馬体を直接ぶつけることで減速させ、まるで組み合い転げ落ちるかのように戦闘集団から離れる狂歌たち。
 アヤカシはそんな狂歌を振り払おうと連続の斬撃を放ってくるが――。
 伊達に『斬馬刀』など握ってはいない。狂歌はアヤカシの繰り出す剣とそのボディ、更には首なし馬に至るまでを纏めて切り裂き、最後には相手の馬体を蹴飛ばして転倒させた。

 一方でこちらは胡桃のドレイクチャリオッツ。
 左右から挟まれた状態でアヤカシたちが同時に片手火縄銃を突きつけてくる。
 連続発砲。慌てて頭を下げた胡桃の上を弾丸が抜けていく。
 が、勿論受けてばかりではない。胡桃は手をかざして魔術を発動。蒼き狐火を燃え上がらせるとドレイクチャリオッツそのものを覆う。それはさながら巨大な炎の狐のようであった。
「――!?」
 突然の変貌にアヤカシも驚きの反応を見せる。だがもう逃がさない。胡桃の炎はまるで兎を狩る狐のように炎の牙でアヤカシへかじりつき、相手の防御を無視してその装甲を貫いた。
 それも一匹だけではない。左右から挟んだはずのアヤカシたちを双方纏めて蹴散らしていく。
 そうして残った首なし馬はどうなったかと言えば――。
「――吹き込む夜風が涼しいわね。そうは思わない?」
 豪速で追い抜いていく至東が脇差『眩偃』を抜刀。すれ違いざまに馬体を切り裂いて行く。
「さて、観音打流はあまり抜き打ちを使わないのだけど、そうも言っていられないわね」
 更に胡桃と入れ違うように車体を動かすと、助手席側にセットしていた打刀『塵仆』を抜刀。
 窓から刀身を突き出すと首なし馬の馬体をざっくりと切り裂いて行く。
 そしてカーブを高速で曲がりながら、すぐそばを追い抜いていくアヤカシを横目で見やる。追いかける必要はない。
 なぜなら、同時に錬が陸鮫のエアドリフトで真後ろにつけていたのが見えたからだ。
「最後の一体はもらうぜ」
 こういった場合、真後ろをとることで空気のポケットに入ることができる。焦ったように振り返るアヤカシに狙いを付けると、錬は式符を発動させた。
「陰陽封鎖――セット、ファイア」
 さながらEMP攻撃の如く撃ち込まれた陰陽術がアヤカシの騎乗する首なし馬の足を激しく鈍らせる。スリップし転倒したアヤカシめがけ、錬は式符・相克斧を発動。握り込んだ五行相克の循環を象った斧をぶん投げ、転落したアヤカシを狩る。
「これで全部か」
 錬がフウと息をついた、その時。
 天上より一筋の光が撃ち込まれた。
 衝撃が、波紋となって走る。


 衝撃によって思わず陸鮫から転げ落ちる錬。
「なんだ!?」
 それでも油断無く地面を転がり素早く起き上がった錬が見たのは、地面に突き刺さる一本の刀――いや、刀から立ち上るおぞましいほどの瘴気と妖気。
 それらが形作ったのは刀を大量に帯びた狐頭の亡霊である。
 その名は『剣豪狐』マガツオボロノヌシ。
 この領地を襲撃するために作り出された特別製の忌である。
 マガツオボロノヌシは周囲をぎろりとにらみ付けると、黄金の目を光らせる。
 馬のブレーキをかけ降りる狂歌。
「へぇ、何処の亡霊か知らねえが腕の立つ奴がいるじゃねぇか。相手になるから掛かって来いよ」
 構える斬馬刀。錬も斧を構え、挟み込むように陣取る。
 対抗するように二本の刀を抜いたマガツオボロヌシに、二人は一斉に襲いかかった。
 二人の斬撃を刀で受けた――かに見えたマガツオボロヌシ。だがその刀は狂歌の剣によって強引に粉砕される。へしおれた刀身が空中を回転しながら飛んでいくその一方で、狂歌の剣はマガツオボロヌシの身体へと食い込んでいく。
 そうして傾いた隙を突くように、錬は斧をすくい上げるような下段スイングで叩き込んだ。
 マガツオボロヌシの腕が切断され、刀もろとも飛んでいく。
 その直後。
 詩織の乗っていたグラードⅢがマガツオボロヌシへ激突。その身体を思い切り吹き飛ばす。
 ボンネットをへこませたまま煙をあげるグラードⅢから降りた詩織とマリカ。
(今や殆ど抜け殻とは言え、呪う為の呪物たるこの身のままに――)
 詩織は胸に手を当て己の髪の呪いを解き放った。起き上がろうとするマガツオボロヌシに絡みついた大量の髪から伝染するかのように呪力が染みこんでいく。
 もがき苦しむマガツオボロヌシに追い打ちをかけるかの如く、マリカは引きずり込んでいた『お友達』を解き放った。
 取り囲み一斉に襲いかかる『お友達』。
 取った――と思えたその刹那、マガツオボロヌシの背に大量に装備された剣が一斉に抜かれた。
 空中をひとりでに飛ぶ大量の刀が絡みつく髪を切り落とし、それまで一方的に斬り付けていた『お友達』の集団をなぎ払う。
「やれやれ、こんなのに居住区で暴れられたとしたらどれだけ被害が出たことやら」
 応龍の飛行能力で追いついてきたラムダがすたんと着地し、バイクを走らせたティスルとドレイクチャリオッツを止めた胡桃、そして至東が車を止めて降りてくる。
「どこのどなた様がこの呪詛の忌をボクの領地に解き放ってくれたのか知らないけれどしっかり後悔させてあげないとね?」
 地面によろりと膝をつくマガツオボロヌシ。しかし周囲を飛び回る刀の群れを突破するのは難しそうだ。
 ラムダは剣に手をかけたまま、仲間たちに目で合図を送った。
 こくりと頷く胡桃。
「真の狐火を見せてあげるのよ。なので――」
 胡桃はぱちんと肉球ハンドを打ち合わせると、ササッと素早く印を結んだ。
「この土地のお土産よろしく」
 収束火炎輻射術式――Blazing Blaster。
 一点に収束した炎が巨大な狐のごとく走り、マガツオボロヌシへと突進する。
 刀の群れがそれを撃ち払おうと飛ぶが、そこへティスルが飛び込んでいった。
 メルクリウスシリーズを一斉起動。
 両手に籠手と太刀の形で変形させると、剣の群れを次々と撃ち払っていく。
「正々堂々じゃないけど、卑怯とは言わないでしょうね?」
 どこか小悪魔的ににやりと笑うのは、マガツオボロヌシの放つ瘴気にあてられてだろうか。黒髪を振り乱し強引に『くりぬいた』剣の群れのさなか。そこを更に突っ切るのは至東であった。
「頭は冷めているわ。大丈夫。SPEEDの熱はシートに置いてきた――。
 ――だから、あの『囮』に、のめり込むようなことはしない」
 楠切訃墨村正『塵仆』『眩偃』。その二つを握りマガツオボロヌシへと斬りかかる。無くした腕の代わりに飛ばした剣がそれを受け止めるが、それは受け止められたのではない。
 『受け止めさせた』のだ。
 至東は至近距離でマガツオボロヌシの目を覗き込み、そして口の端で笑った。
「詰みよ」
 暴風。
 あるいは、疾風。
 吹き抜けた風の色は黒く、そして刀身の色もまた黒。
 仲間たちのくりぬいた隙をまっすぐくぐり抜けるようにして飛行したラムダの剣が、マガツオボロヌシの首を刈り取った。
 宙をまう首。目が驚きに見開かれ、そして細まる。
「見事」
 最後にそうとだけ言って、マガツオボロヌシは消え去った。所詮は放たれた呪詛の忌。倒せば消える呪術である。

「このアヤカシたちを放った存在は……どうなったかしら」
 髪を払い、剣を鞘におさめる至東。
「今頃呪い返しにあってるんじゃない? この呪詛は、倒すと発動者のもとに打ち返される仕組みになっているから」
 ラムダが肩をすくめ、そういえばそうだったなと錬が首を振る。
「まあ、今回は自業自得だろう。というより……この呪詛を使うヤツが未だ残ってたことのほうが問題だな」
 おそらくはルスト派の遂行者……いや、これまでのパターンからして致命者というやつだろう。
「致命者?」
 説明を聞いて小首をかしげたマリカに、詩織が指を立てて説明する。
「既に死したものを象って作られた人形です。まるで呪いの人形のように」
「ぞっとしねぇ話だな。そんなヤツが大陸にゃあいるのかよ」
 狂歌は気持ちの悪いものを見るようにして顔をしかめる。
「そんな存在が世界中を狙ってるんだから、うかうかしてられないわよね」
 ティスルはメルクリウスシリーズを指輪に戻すと、はあと深いため息をついた。
「出てくる度にやっつければいいの。それより――」
 胡桃がぱっと手をかざす。
「お土産、買って帰るのよ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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