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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>熱き怒りの嵐を抱け

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●第四交易地
 天目 錬(p3p008364)。彼にとって豊穣郷カムイグラは新天地であると同時になじみ深い土地だ。
 召喚されてすぐにリヴァイアサン戦に挑んだ彼は、絶望の青の先に見つけた黄泉津島の都にいたく親近感を覚えたのである。
 そんな彼はカムイグラで起こる様々な事件に首を突っ込んでは突っ込み、解決しては解決し、やがて名声をあげ――ついには一角の鉱山地帯を領土にもつまでに至ったのであった。
 三つの鉱山地と交易用の町で構成された地域を纏めて『天目領』と呼ぶ。
「アーティファクト開発……順調に進んでるな。今度ギルドで売ってもいいかもしれない」
 交易用の町に作った工房で、できあがった品をしげしげと眺める錬。そんな彼の耳に、どかどかとせわしない足音が入ってきた。
 徐々に近づくそれは、工房の扉を乱暴に引き開ける音に続く。
「領主どの! 領主どのー!」
 現れたのは悪人面。夜道で声をかけられたら通報するか殴るかの二択を選んでしまうようなその顔に、しかし錬はしれっと答える。
「どうした、執政官。そんなに慌てて珍しいな。見てくれよこの試作品。量産品として良い具合の性能が出そうなんだよ」
 どう? と試作アーティファクトを翳してみせる錬。
 そう、彼は呼ばれたとおりの執政官だ。鉱山地帯に務める学者肌の執政官たちと違って交易を主とするこの地域には交易に優れた執政官を配置していた。研究者や学者と話があう錬にしては珍しいのだが、ある意味彼らしい打算で一番お金を稼ぎそうなヤツをつかまえているのである。
 事実彼は金を稼ぐのが大の得意で、集めた金を部屋にしまい込んで浴びるように眺めるのが趣味という変態とも噂される。
 ……というのはさておき。
 息を切らせた執政官は開いた扉をばんばんと叩いて叫んだ。
「それどころではありませんぞォ!? この領地に! 敵襲が! おきたんですぞ!」

●遂行者の軍団
「突然現れたアヤカシどもの軍勢にございます。
 雑兵どもは領地の兵力で抑えておりますが――あれを」
 執政官が指さす先には、巨大な骸骨めいた妖怪がずしんずしんと大地を揺らして歩く様が見えていた。
「がしゃどくろ? いや……違うな」
 よく見ればその姿は半透明だ。そんな怪物、もとい呪術に錬は心当たりがあった。
「呪詛の忌か!」
 かつて豊穣郷にて流行したザ・呪詛。それは妖怪を夜半の刻に切り刻みその血肉を用いるというおぞましい呪詛である。
 呪詛は特定の相手に対し狙い撃つ形で放たれ、実際には『忌』と呼ばれる半透明の妖怪の姿をとるという。
「誰かに恨みでも買いましたかな領主どの!?」
 それならお前が買っていそうだなといいかけた錬だが、首を振ってから考える。
「原因探しも犯人捜しも後でいい。非戦闘員の避難は済んでるんだな? なら、まずはあいつらを迎撃する!」
 式符を引き抜き、力を込める。
 戦えば、いずれ分かるだろうからと。

 時を同じくし、『あなた』は観光の一環かはたまた旅のついでか天目領へと足を向けていた。
 人々は巨大なアヤカシの姿に恐れ、怯え惑い鉱山地へと走って行く。
 そんな人々のなかをかきわけ走る。
 なぜなら噂に聞いていたのだ。
 この地を天義のルスト勢力が狙っているという話を。
 事実、見えてきた敵の一軍は奇妙な紋様の旗を掲げた武者鎧の集団であった。
 豊穣のどこにもそんな旗を掲げるものはない。仮に紋章学を修めていれば、それが天義に由来するものであるとわかるだろう。
 いずれにせよ、平和に暮らす人々をこのような集団に荒らさせるわけにはいかない。
 戦う時だ。いざ――。

GMコメント

●シチュエーション
 豊穣郷にある天目 錬さんの領地が天義のルスト勢力によって襲撃されています。
 おそらくは昨今豊穣郷で起き始めている『神の国』を広めるための拠点とすべく軍を差し向けているといったところでしょう。
 領地の兵力がある程度敵を抑えていますが、主力がどうにも厄介な模様。
 敵主力を撃破し、この領地を守りましょう。

●エネミー
・がしゃどくろ(忌)×数体
 巨大な骸骨めいた外見の妖怪です。呪詛によって作り出されたこれらは町の中心を目指し侵攻しようとしています。
 戦闘方法は非常にシンプルで、巨大な身体をそのまま使った物理パワーを振り回してきます。
 ちなみに忌という呪術はこれを倒す事で消滅し、今度は術者の元へ帰って行くという性質があり、不殺スキルで倒すと呪詛返しにならず消滅するという性質をもっています。

・影の天使(武者型)
 武者鎧に刀や鉄砲などを装備した『影の天使』たちです。
 前進が影そのもので出来ており、倒す事で消滅します。

・???
 今のところ不明ですが、他に戦力がある可能性がなきにしもあらずです。一応警戒しておきましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>熱き怒りの嵐を抱け完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月05日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ゴリョウ・クートン(p3p002081)
ディバイン・シールド
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
小金井・正純(p3p008000)
ただの女
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標
フェイツイ(p3p010993)
特異運命座標

リプレイ


 突如として現れた妖怪たちの進撃に、天目領の人々は慌てふためき逃げ走る。
「落ち着いて、こっちは安全です」
 そんな中で避難誘導に手を貸していたのは『明けの明星』小金井・正純(p3p008000)だった。
 自分の領地の様子見にと戻ってきてみれば、近所でえらい騒ぎがあったものである。
「それにしても『忌』とは……かつての再演のつもりでしょうか。一体誰が」
「ルスト勢力の仕業、らしいぜ」
 ドッドッドと思い排気の音をたて、大型バイクに跨がった『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)が正純の側にとまる。
「俺が俯瞰視点で索敵する。来るか?」
「手伝います」
 正純は白い鳩を空に飛ばすと五感共有を開始。
 そこへ、もう一人が現れる。
「やあ、大変みたいだね。俺も一緒にいって良いかな?」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)だ。丸めた指で、涙を拭うような仕草で眼鏡の位置を直してから、巨大な『がしゃどくろ』の忌を見つめる。
「がしゃどくろか……確か大量の死者がでた戦場に現れる妖怪だったよね。あれひとつを運用するのにどれだけの犠牲が出たのか……」
 古戦場を流用したのか、それともわざと大勢が死ぬ戦場を作り上げて培養したのか。どちらにしても気分のいい話ではない。
「敵が見えてるだけとも限らないし、注意してあたろう」

「おいおいおいなんだこりゃ」
 『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)は迫り来る影の天使たちの群衆を前に、苦々しく笑いながら身構えた。といっても巨大な杯と瓢箪というかわった組み合わせの武器であるが。
「話にゃ聞いてたがこれが『神の国』を作ってる連中ってことか? 最近その手の依頼が多いもんな……神使の領地にまで攻め入ってくるたぁ本当に見境がねえこった!」
 瓢箪を叩きつけて敵の兜をたたき割る。そうしてグラついた所を、超高速で走ってきた『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)の刀が閃いた。
「戦うために飛び出すしかあるまい。民の命と生活がかかっている」
「あっ、それ俺も言おうとしてたやつ!」
「誰もが思うことだ。気にするな」
 エーレンの斬撃は的確に相手の胴体を切断し、影の天使を消滅させる。
「これ、もしかしたら他人事じゃないかもしれないしね」
 まるで未来でも見てきたようなことを言う『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)がやってきて、刀の柄に手をかけた。
 影の天使たちはどうやらこの国の雰囲気に合わせたらしく武者鎧を纏ったような姿をしている。
「ところで、人数足りる? ちょっと敵の数が多くないかな」
「そういうことなら――手を貸すわよ」
 声がした方向を見ると、二十歳前後の男性が堂々とした様子で立っていた。
 精悍な体つきと僅かに見える胸元の逞しさは戦士のそれだ。
 だが身体の中に通っている芯のような、あるいは魂のようなものは、女性の形をしているように見えた。きっとそれは、憧れの形なのだろう。
「フェイツイよ。よろしく」
 翳した手をグーパーさせて、どこかチャーミングにウィンクをする。
 そして、敵前であるというのにあえて後方を振り返った。
 民間人はもうこの場に残っておらず、皆逃げ去っている。今フェイツイが見たのは逃げ去った彼らの方向だ。
「守らなきゃね。アタシも、あの人のように」
 言葉は誰かに向けたものではなく、彼自身に向けたもののようだ。
 そして、腰の刀に手をかける。すらりと抜いたその刀身が、妖しく光る。

「俺の領地に襲撃をかけるとは、良い度胸だ。だだですましてはやらないぜ。
 瑞神や四神たちがいるこの国で『神の国』なんてお呼びじゃないんだよ!」
 お待ちかね。この土地の領主『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は式符をホルダーから引き抜くと、それを放り投げて絡繰給仕を瞬間鍛造した。
 跪く絡繰給仕にアシカールパンツァーを手渡すと、短い命令を下す。
 走って行くそれを一度見送ってから、錬は深く息を吐いた。
 バイクの音が近づいてくる。振り向けばゴリョウのものだ。
「イレギュラーズが来てくれたか。持ちこたえてくれた領兵たちにはボーナスだな!」
 『また魔改造ですかあ!?』と言い出す兵の顔を目に浮かび、錬は笑顔になる。
「さあ、行こうか!」
 踏み出す足は、堂々と。
 迫り来る影の天使たちを前にして。


 刀を抜き、構える鎧武者たち。この国の風土に合わせて作られた影の天使たちだ。
 対するは――。
「さ、かかってきな」
 盃を翳した命であった。
 彼のきった見栄の鮮烈さに、天使たちは目の色を変えて襲いかかる。
 一斉に繰り出された斬撃をしかし、盃を盾のように翳して受け止めた。
「こいつらが邪魔でがしゃどくろにたどり着けねえ。まずは蹴散らすぞ!」
 ひょうたんをぶら下げていた縄を握り込むと、ぐるぐると回してチェーンハンマーのように鎧武者へと叩きつけ始める。
 舞うようなその動きに、ラムダは即興で合わせて見せた。
「確かに。こいつらに絡みつかれた状態でがしゃどくろの攻撃を食らうのもマズそうだしね」
 踏み込みと同時にラムダは霊刀浄玻璃の刀身を抜き放った。
 滑るように走った刃が天使の背を切り裂き、主観的にスローになった世界の中でラムダは六度の斬撃を纏めて天使たちに解き放った。
 黒き閃きは後から訪れ、天使たちが一度に吹き飛ぶ。
「鳴神抜刀流、霧江詠蓮だ。今日は正義の疾風が荒れるぞ、覚悟しろ」
 直後、エーレンの刀が連続で振り抜かれる。
 鳴神抜刀流・閃鞘之救命『慈嵐』。つまりは走り抜け次々と敵を返した刀の峰で打ち据える。
 攻撃を受けきった影の天使が反撃とばかりにエーレンを蹴りつけるが、腹に喰らったその攻撃を後方に飛ぶことで軽減させる。
「――鳴神抜刀流・太刀之事始『一閃』」
 いや、さがったのは攻撃をかわすためだけではない。
 一度『走り込む』ための距離を稼いだのだ。
 エーレンは打ち出された弾丸の如く急速に走り出し、影の天使とすれ違うその刹那に刀を振り抜き切り裂いた。
 影の天使を構成している要素が弾けたのだろう。黒い火花が激しく散り、膝を折って崩れ落ちる。
 その一方で、フェイツイは別の天使と相対していた。
 抜いた刀を前に、じり――とすり足で間合いを奪う。相手もまたすり足をかけ、互いに間合いを奪い合うように同心円上をゆっくりと動いた。
 先に動いたのは天使――とみせかけ、フェイツイだ。未だ距離があるにも関わらず刀を振り抜くフェイツイ。空振りとみせかけたそれは、刀身に火炎を纏った飛ぶ斬撃であった。
 炎をくらって僅かにのけぞる天使。その隙をつくように一気に距離を詰めたフェイツイは相手を大胆に袈裟斬りにした。
 血しぶきの如く黒い火花が散り、崩れ落ちる天使。死体は、しかし残らなかった。影で作られた怪物は、影に消えるのみであるようだ。
 よし、と息をつこうとしたのもつかの間。彼らのいた場所に黒い影がかぶさる。
「皆、避けろ!」
 命の叫びに応じ飛び退く彼ら。その場所に、がしゃどくろの強烈なキックが浴びせられた。

 弓に、矢をつがえる。それもリボルバー弾倉が新たな弾を撃鉄の前に移動させるほどに早く。つるを張って、構える。それも、撃鉄が起こされるほどに早く。
 そして音も無く、素早く、正純の矢は放たれる。
 その名は『天星弓・宿命』。数多の宿命の星を射抜いてきた大弓である。
 放たれた矢はがしゃどくろ――を目指したはずが、間に割り込んだ鎧武者(影の天使)によって切り落とされる。
 正純は忌々しげに目を細めた。
「そう簡単に倒させはしないということですか」
 ならば、と第二第三の矢を連続で放ち、防御しようとした天使へと命中させていく。
 二本もの矢をうけた天使に飛び込んだ史之の――秘技『秋霖』。
「うん、あなたたちの存在自体は嫌いじゃないよ。人の欲が生み出したものだ。それもまたひとつの人類愛であるからして俺は肯定する。でもね」
 切り裂いた天使が黒い火花をあげて消えていく。がしゃどくろが距離をとるように後退し、また別の天使たちが間へと割り込んだ。
 構わない。逸れも纏めてなぎ払うだけだ。
「人に迷惑をかけちゃダメです。暴力でもって境目を超えるものは、より強く大きな暴力でもって殴り返されるんだよ」
 数多の斬撃が繰り出され、天使たちが火花をあげた。
「誰かさんへもそう伝えておいて」
「よし」
 錬は式符を何枚も取り出して構え、がしゃどくろを見やった。
「まだ天使たちが邪魔だ。手伝ってくれ」
「よしきた!」
 ゴリョウはボンッと自らの腹を叩くと鎧武者たちへ突進しながら吠えた。
「来いや! この豚の首を取りに! その御立派な鎧が張り子じゃねぇんならよぉ!」
 敵を庇う存在をひっぺがす方法は数あるが、その中でも【怒り】による誘引はかなり有効な部類だ。特に抵抗力が弱そうな敵に対しては。
 天使たちは刀を抜いてゴリョウへと殺到。
 次々に刀を繰り出すが、翳した火焔盾『炎蕪焚』によってゴリョウは防御する。
 丸みをおびた盾の表面で剣の軌道をかるく殺し、いなす。
 そして集まった所へ――。
「喝ァッ!」
 通称『オークライ』。雄叫びを叩きつけ吹き飛ばしつつ脳を揺らし意識を混濁させる……はずの攻撃である。そのはずが黒い衝撃波が放たれ、天使たちは纏めて吹き飛ばされていく。
 なかには衝撃波の黒が炎のようにまとわりついて、痛みにもがく天使もいるほどだ。
「本当になんだこれ」
「え、本人も知らないの」
 二度見する史之。
 錬は苦笑し、しかしその笑みを『我が意を得たり』という表情に変える。
「式符・相克斧、起動! 一気に畳みかけるぞ!」
 邪魔がいなくなればこっちのものだ。
 がしゃどくろの足首めがけて瞬間鍛造した斧をおもむろにぶん投げ、命中させる。
 五行の力をもった斧が爆発のような力を発揮し、がしゃどくろはおもわずその場に膝をついた。

 がしゃどくろのキックはフェイツイに直撃――したかに見えたが、それはラムダによって止められていた。
 抜いた刀を盾のように翳し、ギリギリで押し止める。
「無事!?」
「おかげさまでね。そっちは?」
「大丈夫。人を庇うのは得意なんだ」
 すると、命が盃をフリスビーのように投擲。がしゃどくろの顔面めがけて飛んだそれは見事に直撃し、おおきく相手をよろめかせる。
「おう、こっちだデカブツ!己れが相手になってやるぜ!」
 一方でエーレンは機動力を更に引き上げ、凄まじいスピードで家屋の二階へと駆け上がると二階の窓を突き破って跳躍。がしゃどくろの胴体に激しい斬撃を叩き込んだ。
「二人とも、まだ行けるな!?」
「当然」
 刀を構えるラムダとフェイツイ。
「アタシはフェイツイ。敵に背を見せるような腑抜けじゃないと証明してみせるわよ!」
 更なる攻撃。がしゃどくろは地面を叩くようにして潰そうと試みたが、ラムダとフェイツイは左右に跳躍してそれを回避。フェイツイはそのまま家屋の壁を蹴って二段目のジャンプをしかけると、がしゃどくろの頭めがけて大上段に刀を振り上げた。
「――ッ!」
 言葉にならない声をあげ、がしゃどくろの頭部に大打撃をぶち当てるフェイツイ。
 それによってがしゃどくろは派手に転倒。おきあがろうと腕を家屋にひっかけるが――。
「そうはさせない」
 エーレンが抜刀。無数の斬撃が放たれたかと思うとがしゃどくろの腕が途中ですぱっと切断された。またもずずんと地面に頭をぶつける形になったがしゃどくろ。
 と、そこで命は考えた。このままがしゃどくろを倒してしまって良いのだろうか?
 もし呪詛をつかった人間が脅されてやっただけなのであれば、その人間にこのがしゃどくろを送り返すことになってしまうのでは。
「殺さず仕留める。いいな!?」
「賛成」
 ラムダは刀を一度鞘に収めると、地面を強く叩いた。
「――対群拘束術式『神狼繋ぐ縛鎖』」
 あえて口にしたのは仲間にも知らせるためだ。
 彼女の影より飛び出した鎖の群れががしゃどくろへと絡みつく。
 命はひょうたんをぐるぐると回転させると、そこに不殺の力を込めてがしゃどくろの顔面へと叩き込んだ。
 ばかんっ、と派手な音が鳴ったかとおもうと、がしゃどくろの姿がかすむように消えていく。

 膝をついたがしゃどくろが、それ以上の攻撃をさけようと腕を振り回す。
 正純は民家の屋根によじ登ると、屋根から屋根へと飛び移って距離をとっていた。
「これいじょう壊されてはたまりませんね」
 いたずらな腕はとってしまいましょう。とばかりに正純は矢に流星の力を込め、解き放つ。
 風を切って飛んだ矢はそれこそ流星の如くがしゃどくろの肩に激突。光の爆発を起こしその腕を崩壊させた。
「そこだっ」
 史之は微笑みさえ浮かべてがしゃどくろの下をくぐり抜ける。
 振り抜いた刀は幾度もの斬撃を生み出し、がしゃどくろの全身に細かく傷を付ける。決定打を与えるために。あるいは、トドメの一歩手前を演出するために。
 勿論加減をしているわけではない。史之は自らの攻撃に全て『不殺』を付与することができるという力を持っていた。『史之専用イザベラ派バッジ(銀)』のもたらす効果である。
 その慎重さと豪快さに敬意をもちながら、ゴリョウは四海腕『八方祭』に力を込めた。
「こいつをくらいな!」
 屋根を走り、跳躍し、がしゃどくろのさがった頭めがけて凄まじいオークパンチを叩き込む。
 側頭部をぶん殴られた形になったがしゃどくろは今度こそ地面に倒れ、そこへ錬の『式符・陽鏡』が発動した。
 鍛造された陽光の鏡が光を放ち、がしゃどくろはまるで溶けるように消えていく。
 ふうと息をついた錬の耳に。ふと。
 ぱち、ぱち……とゆっくりとした拍手の音が聞こえた。
 振り返る。
 それは、空中に浮かぶ半透明な幻影だった。
「まさか人死にを出さずに片付けるとは、褒めてあげるよ。イレギュラーズ」
 なれなれしい口調で喋るその姿は、小柄な少年のように見えた。
 細かな部分は、まるでノイズが走ったように読み取れない。
「お前は――」
「聞けば名乗ってくれるって? フフ……ま、いっか。ご褒美が必要だもんね。おしえてあげるよ。ボクの洗礼名はイルハン。星灯聖典のイルハンさ」
 手をかざし、そして振る。
「けど、直接話すのはまた今度にしようね。ボクだって、わざわざ戦力を失った後に顔を出すほどバカじゃないんでね」
 バイバイ! そう言い残すと、幻影は消えた。
「イルハン……星灯聖典のイルハン……か」
 錬は呟き、目を細める。
 コトは豊穣国内だけの問題ではない。
 天義に幻想、練達に海洋、そして豊穣と世界をなめるように襲う以上、彼らの狙いは『世界』だ。
「好きにはさせるか」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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