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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>優しくて綺麗なお姉ちゃん

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●トゥールーン
 夕闇にその男は立っていたのだ。
 高い教会の屋上の、手すりの上を歩いて。
 危ないですよと慌てる私をまるで気にした風も無く。
「ここから町を見ていると、落ち着くんだ」
 抑揚のうすい、しかし奇妙にするりと心に入り込む優しい声音だった。
「音、におい、光。みんなが生きてる。僕と同じようにね」
 彼の目には何かがあった。いや、言い方を変えよう。
 彼の目には何かが足りなかった。
 それは居場所であったり、夢であったり、自信であったりした。
 特に足りないように見えたのは、やはり居場所だった。
 ミア・ハミルトン――洗礼名『トゥールーン』。
 目を閉じれば思い出す。彼に全てを打ち明けた夕暮れのこと。そんな彼が言ってくれた、優しい優しい『かみさま』みたいな囁きを。

 『トゥールーン』には姉がいた。
 いや、いたはずであった。
 物心がつく前に別れた両親によって、その所在も名前も知らぬ姉が。
 そんな彼女にとって、理想の姉像があったのだった。
「同い年のメディカという子に、お姉さんがいたんです。アーリアという名前でした。
 アーリアお姉さんは優しくて、綺麗で。この人が自分の姉だったらって、ずっと考えていたんです」
 『トゥールーン』の欲望は、次第に次第に強くなる。
 天義が荒れて、狂っていくそのなかで、狂気の波を泳ぐようにして、彼女もまた歪みを発露させていた。
「あのときメディカが『やらかした』んです。強くて頭が良くて完璧なあの子がです。国に弓引く不正義を。
 チャンスだと思いました。相応しい妹になれるのは、私だって」
 メディカから姉を奪うのだ。
 メディカから姉を奪うのだ。
 けれどどうやって?
 どうやったら、あの優しくて綺麗なお姉さんが自分のものになる?
 そんな思想に取り憑かれた、ある日。
「ある日、彼に出会ったんです。彼は『鍵を開けてくれた』。気付かせてくれたんです。世界を書き換える力を――くれたんです」

●明けぬ夜は遠くて
「お姉ちゃんお姉ちゃん」
「なあにトゥールーン」
「お姉ちゃんは私のお姉ちゃんだよね」
「そうよトゥールーン」
「私だけのお姉ちゃんだよね」
「その通りよトゥールーン」
 和服を纏った紫髪の女性が、畳の上に腰を下ろす。
 こてんと彼女の膝に頭を預けたトゥールーンは、とろんとした目で彼女を見上げた。
「アタシのものだ――お姉ちゃん」
 ゆっくりと風景は引いていく。
 平和な二人の部屋の外は、暗雲と雷と、穢れた大地と死した動物だけでできていた。
 そこは滅びたカムイグラ。
 彼女たちの提唱するあるべき世界の形。
 通称、『神の国』。

「叩き潰しましょう、今すぐに」
 あまりにもにこやかに、天義の異端審問官メディカは言った。
 あまりにも唐突ゆえに、背景が未だ語られぬうちに。
 慌てた様子で情報屋の少女が眼鏡をかけ直し、報告書のページをめくる。
「ああっ、待って下さい。順を追って説明しますから。
 まずこれは豊穣郷からの依頼なんです。あの地に入り込んだ『触媒』によって『神の国』が作られ、帳が下ろされようとしている。そうなれば滅んだ国の姿へと塗り替えられてしまうので、そうなる前に神の国へ入り込み核となるワールドイーターを破壊するというのが依頼内容なんです」
「そうですか。では叩き潰しましょうね」
 糸目でにっこりと笑むそのままに、メディカの意見も態度も変わらない。
 纏った『純粋なる黒衣』が示す意志そのままのように、彼女は見えた。
「あらあら……」
 やっと声を出したのはアーリア・スピリッツ(p3p004400)である。揃いの『純粋なる黒衣』を着ているせいで、彼女たちが姉妹であることがよりよくわかる。
 情報屋が助けを求めるような目をむけてくるが、しかしアーリアは表情を崩さなかった。
「あの子の言うとおりなんじゃない?」
「それはそうですけれど」
 うーん、と唸ってから情報屋の少女は眼鏡にかちゃりと指をあてる。
 何か言いづらいことでもある雰囲気だ。
「『神の国』には、ワールドイーターの他にこの空間を作り出したであろう『遂行者』がいます。名前も分かっているんです。名前は――」
「ミア・ハミルトン――洗礼名『トゥールーン』」
 遮るように声を出したのは、メディカだった。
「私と同期の異端審問官でした。少し前に失踪してからマークされていたのですが、どうやらルスト陣営に下ったようです」
「そ、そうなんですけれども」
「他に知るべきことなど?」
 まだ言いづらいことがあるという雰囲気で慌て始める情報屋。
 メディカが『まだ何か?』というふうに首をかしげて見せると、ついに情報屋は報告書のページそのものを突き出してみせた。
 注目させるべく、情報屋が指さしたのはこの一文。

 『ワールドイーターの外見は、アーリア・スピリッツに酷似している』

 糸目だったメディカの目が、ゆっくりと、開く。
 逆に、アーリアの目はゆっくりと細まった。
「あらぁ、それは……」
 なんというべきだろう。言葉にならず、続きを濁す。
「核となるワールドイーターを破壊すれば神の国は壊れて無くなります。当然相応の防衛戦力が配置されていることでしょうし、トゥールーンによる抵抗もあるでしょう。無理はしないように、お願いします」
 おずおずと言う情報屋に、メディカはただ黙って……大きなハンマーの柄を強く握りしめた。

GMコメント

●ミッション
 『神の国』へと入り込み、防衛戦力を突破してワールドイーターを破壊すること。

●フィールド
 滅びた豊穣の地。
 穢れた大地に無数の骸と瓦礫が転がる風景のなか、ぽつんと一軒だけ綺麗な建物がたっています。
 『影の天使』をはじめとする防衛戦力が展開されており、建物に近づく前にこれらの戦力とぶつかることになるでしょう。

●エネミー
・影の天使
 豊穣の戦士風に装備を整えた真っ黒な影でできたような天使たちです。
 武者鎧と刀を装備したスタイルが基本で、弓兵や槍兵などのバージョンもあるようです。
 数がとにかく多く、いちランク上の強さをもった中ボスクラスの武者も混ざっているようです。

・ワールドイーター(アーリアオルタ)
 アーリア氏に酷似した外見のワールドイーターです。
 あえてそのように作られたかのように見え、トゥールーンの姉であるかのように振る舞います。

・トゥールーン
 この空間を作り出した遂行者です。
 元異端審問官であり、巨大なメイスを武器に戦うパワーファイター。
 自らを聖なる術によって堅い防御を固め、その力をそのまま破壊力に変えて叩き込む物理スタイルでの戦い方を得意とする。

●味方NPC
・メディカ
 聖なる加護で身を守り、聖なるハンマーを振り回し戦うタンク・アタッカー。
 建物ごと破壊するようなパワフルな戦い方ができ、今回は特にそういったスキルを活用するつもりの模様。

●神の国
 ルスト陣営が冠位強欲ルストの権能によって作り出した異空間。
 『触媒』を用いることで世界のあちこちに出現させることができ、一定以上成長すると『帳』を下ろして現実世界を局所的に書き換えてしまう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>優しくて綺麗なお姉ちゃん完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月04日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
グドルフ・ボイデル(p3p000694)
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
藤野 蛍(p3p003861)
比翼連理・護
桜咲 珠緒(p3p004426)
比翼連理・攻
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
エーレン・キリエ(p3p009844)
特異運命座標

リプレイ


「私がお姉ちゃんでありますよメディカちゃ――ふんぬ!」
 巨大ハンマーを顔面めがけて叩きつけられ、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)は鋼のガントレットでそれを防御した。防ぎきれない衝撃が地面につけた足を数十センチ後退させ、じーんと痛む痺れが全身を突き抜ける。
「どうしてでありましょう。こんなに姉み溢れる大人の女でありますのに」
「仮に全く同じ容姿の女性が同じ事を言っても、叩き潰していましたよ?」
 天使のような微笑みで言うメディカに、今度は怖気でぶるりと震えるエッダ。
「アーリアの代わりはいない、か。それはごもっとも。じゃあ情報にあった偽アーリア様は」
「叩き潰しましょうね」
「ブレないでありますなあ」
 姉が外せないご用事で欠席だということもあってか、メディカはいつもより殺意が高めだ。常に高い殺意が更に高いのだから、箸が転がっただけでも人を殴りそうだ。
 余談だが、その姉からはちゃんと来れなくてごめんねとメッセージが来ていたりする。
「おっかない妹ちゃんですこと」
 壁により掛かって一部始終を眺めていた『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)が肩をすくめてくすくすと笑う。
「うんうん。こんな時は手堅く仕事をするに限るわ。露払いは任せて、思い切り暴れて頂戴な?」
「いわれなくとも」
 メディカは女性が握るにはあまりに重すぎるハンマーを片手で振り上げ、まるでマーチングバンドのバトンの如くくるりと回してみせる。
 軽々しさとは裏腹に、ハンマーの風切り音は重く分厚い。ゼファーもゼファーで豪槍を軽々と振り回すので人のことは言えないが、なかなかフィジカルのヤバイ娘なようである。
「ぶっこわす準備はオーケー? あいつらをとっちめちゃおう。
 壊せるところはガンガン壊して、遮蔽物は減らしていってね。あ、仲間は巻き込まないようにね。巻き込むなら影の天使でね。どうぞよろしく」
 などと、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)のほうは軽口を叩いている。だいぶまっすぐだった性格がなんやかんやでひねくれた結果の発言なのだが、メディカはそんな彼の言葉を割とスムーズに流して『はい』とだけ答えていた。
 仮にもシスター。人の話を聞くことにかけてはそれなりなのである。
 話題を変えようと、『比翼連理・護』藤野 蛍(p3p003861)と『比翼連理・攻』桜咲 珠緒(p3p004426)が顔を見合わせる。
「えーっと、『神の国』を叩き潰すのも、遂行者を撃退するのも、もちろん構わないのだけど。
 その、ワールドイーターをわざわざアーリアさんに似せているっていうのは……何かワケありなのかしら?」
「ワケというか……そもそもアリなのですかね。似たような事例を見なかったといえば嘘になりますけど、今回のケースはあまりに露骨というか、その……」
「『理想』部分が個人の主観に寄りすぎてるよね。何か事情が……」
「……こういうのも妄執っていうのかね。もうどうしようもないんだろうな……やれやれ」
 『特異運命座標』エーレン・キリエ(p3p009844)が本当にどうしようもないといった雰囲気で肩をすくめ、首を横に振った。表情は沈痛そのもので、どうやら似た経験をしたことがあるらしい。
 すると。
「どうせ、お姉様の存在が妬ましかったのでしょう」
 なんてことのないふうに、メディカが言葉をそらんじる。
「あの子は何かというとお姉様にべったりしていましたから。丁度良い機会ですから、今のうちに叩き潰してしまいましょう」
「まってまって、せめて情報とか」
「です、です、それに『神の国』はあちら側のテリトリーですから、追い出すことはできても倒すまでは難しいと聞きますよ」
「まーつもる話はあるんだろうがよ」
 『社長!』キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)が火のついた葉巻をくわえながら喋った。
「俺は影の天使のほうに集中させてもらうぜ。屋外は兎も角、屋内にも突っ込んでくるんだろ連中は」
「まあそういうこったな。屋内外の概念が残ってりゃの話だが」
 『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がやれやれといった雰囲気でメディカを、そして彼女のハンマーを見る。
「オウ、嬢ちゃん。イラつくのは分かるが突ッ走りすぎんなよ?」
「逆です。あなたが置いていかれないようについてくるんですよ」
「言うじゃねえか」
 にやりと笑うグドルフ。
「ま、こちとら山賊なもんでな。壊す奪うはお手のモンよ。ゲハハハハ!」
 そんな悪びれた笑いを最後に、彼らは歩き出す。
 神の国を叩き潰す、そのために。


「これが理想の世界、ねえ」
 眼鏡をつまんで位置をなおしつつ、眼前の風景に嘆息する史之。
 話に聞いていた通りの焼け野原。骸と瓦礫が転がる風景の中に、不自然なくらいぽつんと一軒の綺麗な建物がたっている。瓦礫の周りを、まるで死体にたかるカラスのごとく飛び交っているのは影の天使たちだ。
 こちらに気づき、早速攻撃を仕掛けてくるつもりらしい。
 空から弓矢による射撃を仕掛ける彼らだが、それを史之は太刀『衛府』で切り払う。
「あれ、トゥールーンさんは出てこないのかな? これだけで戦力が足りると思われてる?」
 心外だなあとひねくれた笑みを浮かべる史之。その横からキドーがずいっと前に出た。
「この数だ。ワールドイーターとトゥールーンの前に影の天使を片付けきるなんて無理な話だろ
 ワールドイーターはお前らに任せて、俺は仲間の邪魔をさせないように連中を相手取る。それでいいな」
 キドーが邪妖精を契約によって呼び出すと、魅了の魔術を行使させる。
 天使たちは素早く回避行動をとったが、抵抗しきれなかった天使が味方に向けて剣を振り回し始める。
「そうこなくっちゃな。そんじゃどんどんいくぜ、有象無象を相手取るのは得意なんでね!」
 ワイルドハントの狩猟団を召喚してぶっ放すキドー。その中をグドルフは走り出す。
 足止めをするつもりなのか天使が一体舞い降り、グドルフの頭部めがけて剣を振り下ろすが、グドルフはそれを山賊刀の一振りによって払ってしまった。
「おめえに構ってるヒマはねえんだよ」
 至近距離でボウガンを突きつけ、発射。矢が刺さった天使が地面を転がるも、すぐに体勢を立て直し――。
「そこだ」
 駆け込んだエーレンの抜刀術によって天使の首が切断された。
 それでも動こうとする天使に返す刀でトドメを刺すと、エーレンは仲間へと振り返る。
「俺が先行して道を切り開く。天使たちの処理は任せていいな?」
「それでも構わないっちゃーかまわないでありますが。よければご一緒しません?」
 エッダがちょいちょいと手招きをする。エーレンひとりでは防御に不安があると見たのだろう。
 エーレンは少し迷ったあと、エッダの横に並んだ。
 一緒に走り出すと、そこへ影の天使が集中攻撃を仕掛けてくる。
 矢を放ち、剣で斬りかかり、槍で突きにかかる。
 それらをエッダはダブルガントレットのガード姿勢でもろとも弾いて突っ込んでいく。
 小柄な体躯ながら、彼女が進むと相手が折れるのだ。
 それでも払いきれなかった敵を、エーレンが剣の一閃によって切り払うという寸法である。
 このようにコンビネーションは重要だ。そこへきて、蛍と珠緒のコンビは特別優れていた。
 彼女たち二人で活動することが当然であるかのようなピッタリと息のあったビルドとコンビネーション。
 先行した蛍が教科書から展開した手甲型武装より魔方陣を幾重にも展開。折り重なるそれらはカイトシールドの形をとり、前方から攻撃する天使たちの矢を振り払った。
 鉄壁の守りを見せる蛍。そんな彼女に庇われる形で進む珠緒は流した血を刀に変え、込めた魔力を振り抜くように放った。
「――抜刀・轟」
 自身と『御霊』複数で並行励起させる大技だ。多重存在の相互作用により、その間合いは砲撃級に至る。……とは、本人の弁であり、また事実だ。
 放たれた魔力は影の天使をひしゃげさせ、吹き飛ばし、そのまま建物の壁に激闘させる。
 それでもぴくりと動いた影の天使に――飛来した槍が突き刺さりその身体をピン留めした。
 ゼファーの槍だ。
「先ずはちょいと、余分なお客を減らすとしましょう」
 こきりと拳を握り込むような動作で指の関節を鳴らすと槍を持って突き込んでくる天使の攻撃を紙一重に回避。間合いの内側に潜り込むとボディに凄まじいパンチを叩き込んだ。そこからとんでもない速度でのラッシュ。ボコボコにした天使がその場に崩れ落ちる。
 ふと振り返ると、キドーが『あとは任せな』と手を振っていた。
「ああ言ってますけど?」
「ではお言葉に甘えて」
 メディカはハンマーをくるりと回すと、建物へと突進。
 そして、野球のバットでも振るような姿勢でハンマーを建物の壁面に叩きつけた。
 ドゴッという凄まじい衝撃音と共に吹き飛ぶ家屋。
 瓦礫だらけの平野の中に、新しい瓦礫が生まれたのだった。
「ちょっと、なにす――」
 思わず立ち上がったトゥールーン。それを庇うように、偽アーリアは落ちてくる瓦礫を振り払った。
 まるで能面のように表情のないそれは、偽物であることが一目瞭然だ。なにより、あの溢れるような色気がない。
 コホンとトゥールーンは咳払いをして、清楚そうな姿勢をあえてとる。
「何の御用でしょうか? ここは聖域、あなたのような汚らわしい者が入って良い場所ではないのですよ」
「知ったことではございません」
 冷えた、氷のような声音だった。突き刺さるような殺意を込めて、メディカはその両目を見開く。
「死ね」

 メディカと偽アーリアが拮抗している状態だ。
 パワーで押し込むタイプのメディカを、異様なパワーでもってはじき返す偽アーリアという構図である。
「出て行ってよメディカ、あんたは邪魔なの!」
 つい素の口調が出てしまうらしいトゥールーンが魔術を行使し砲撃をしかけよう――とした矢先。史之が割り込んで斥力フィールドを展開した。
 砲撃を受け流す。いや、流しきれずに身体のあちこちから出血したが、それでも笑みは絶やさない。
「あー殺さないであげるよ。
 ちょっと聞きたいこともあるしさ
 そっちのほうがおもしろいじゃんね?
 そう思わない?」
 ニヤニヤと笑ってみせる。
「遂行者とやらがどこへ逃げ帰るのか楽しみだよ
 たとえば、そうだね、ルストのところとか?
 正直になってくれちゃっていいんだよ?
 尻尾巻いて逃げ出しましたってさ! アハハ?
 ところで、何を考えてアーリアさんの偽物なんか作ったの?
 偽物作って悦に浸って、お人形ごっこたのしいかい?
 俺さ、どろどろした話、けっこう好きだからさ。
 そこんとこくわしくしてくれるとうれしいなあ」
「うるさい!」
 砲撃を三重にして放つトゥールーン。今度こそ吹き飛ばされた史之だが、かわりにゼファーが突進した。
「やれ、恋しくなるぐらい魅力的なヒトだって気持ちは分かりますけどね。
 意外と手がかかって放っておけないところとか可愛らしいですし。
 でもね。良く似せたお人形を愛でても、ただ悲しくなってしまうだけだと思うわよ。
 其処に当人の心なんて、在りやしないんだから」
「うるさいうるさい五月蝿いのよ!」
 次の魔術を展開しようとするトゥールーン。それよりもゼファーが槍を撃ち込む方が早かった。
 突き込んだ槍――を、しかし割り込んだ偽アーリアが腕で掴んで止める。
「そんなに焦がれたなら、焦がれた気持ちを当人に伝えに行きゃよかったのよ」
 今よりマシになってたでしょうにと小声で呟くゼファー。
「うるさい! うるさい! メディカなんかいなければ、私が、私が妹になれてたんだ!」
 間に合った砲撃――が放たれる寸前。背後にエーレンが回り込んでいた。
 咄嗟に振り向き砲撃を放つ。同時にエーレンの剣が走り、トゥールーンの腕を浅く切りつけた。本来は切り落とすほどの斬撃だったが、そうならなかったのは彼女の魔術防壁が硬いためだ。
「理想の人が身近にいると、頭から離れなくなるよな。
 でもその人は別の人間を見てるんだ。どうしてもそっちが優先されてしまう。
 気を引きたいと躍起になって、空回りしてむしろ距離を置かれてしまう。どうすればよかったんだろうな。
 その結果が人形遊び……それで満足か?」
 憐憫の眼差し。大してトゥールーンは敵意をむき出しにしてエーレンを突き飛ばす。
 それが叶った瞬間に、エッダとメディカのスマッシュがトゥールーンを吹き飛ばした。
「怒ってるでありましょう、貴女」
 拳を振り抜いて、エッダがちらりとメディカを見る。
「大いに怒りなさい。それこそ自由意志というものです。
 少なくとも、こんな風に他人の在り方を歪めて悦に入るより余程健全だ」
「私は、ええ、とても起こっていますけれど。それは――」
「わかります?」
 あなたもでしょうという視線に、エッダは肩をすくめる。
「似姿を作るならもっと似せるべきだ。
 ホンモノの彼女はもっとだらしなくて、誘惑に弱くて、誰よりも優しくて、そしてだからこそ誰よりも己というものを持っている。
 そこへ行くとメディカ様。貴女、中々筋がいい」
 メディカは一度目を細めて言った。
「知っていますとも」

 一方で、偽アーリア(アーリアオルタと最初は呼称されていた)に対して、グドルフと蛍、そして珠緒の三人が追い詰めるように猛攻を仕掛けていた。
「へっ。こりゃ、ソックリなんざとんでもねえ。
 何にも知らねえんだな、遂行者野郎ォ。
 おれさまの知ってるアーリアのネエチャンは、もっとイイオンナだぜえ?
 くだらねえお人形ゴッコなんざ、ガキの時に卒業しやがれってんだ!」
「あえてそんな姿で作るなんて、どんな思いがあるのかしら。貴女、アーリア・スピリッツさんのそっくりさん、らしいわよ?」
 問いかけてみても、答えはない。無表情に蹴りを繰り出してくる偽アーリアを、蛍は魔術障壁によって防御した。流石にそれでも痛い。核たるワールドイーターなだけはある。
「遂行者の動機をしらべたい所ですが……そこはお任せして大丈夫そうですね」
 珠緒の繰り出す血の刀が偽アーリアの腕を切り落とす。
 素早く刀を短刀の形に変化させると、くるりと回してその胸に突き立てた。
 硬い、土の詰まった袋のような感触だ。まさにサンドバッグである。
 それゆえに、偽物だとすぐわかる。
「おらよ!」
 グドルフはそんな相手を思いきり蹴飛ばした。
 脳裏によぎるのは『妹』の光景。理想の兄とはなんだろうと、脳裏にいる誰かが言う。
「へっ。くだらねえ!」
 グドルフは叫び、そしてメディカに呼びかけた。
「トドメはくれてやるよ!」
「どうも」
 メディカは目を見開き、ハンマーを振り上げ。
 その様子を、トゥールーンは『やめて』と叫んで――しかし、止まらない。


 崩壊する世界の中で、トゥールーンはこちらを憎しみの籠もった目でにらみ付けていた。
「許さないから。許さない。絶対、手に入れて……」
 荒い息を整え、吐き出す。
 そして、トゥールーンは息を深く吸ってから直立した。
「アーリアお姉ちゃんは、必ず私のものにしてみせます。メディカ、アンタはいらない。いらない子なのです。不正義を犯したあなたは。告発でお姉ちゃんを引き裂いたあなたは。妹の資格など、もはやないのですよ」
 その言葉を最後に、世界は消えた。
 トゥールーンの行方は、知れない。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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