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シナリオ詳細

きさら縺・駅。或いは、商店街にはたぬきがいっぱい…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●たぬき囃子の鳴る頃に
 電車に揺られ、辿り着いた見慣れぬ地。
 時刻は深夜0時過ぎ。
 錆びだらけの看板には「きさら縺・駅」の文字がある。
「ど、どこっすか、ここ」
 駅のホームに降り立って、イフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)は目を丸くした。
 見知らぬ駅だ。
 そもそも、目的としていた駅でさえない。
 終電の電車に飛び乗って、日中業務の疲れからか思わず少し微睡んで、気が付いたらここにいた。人の姿は幾つかあるが、どれも見知った顔ばかり。
 そして、誰もが一様に不審な様子で周囲を窺っているではないか。
「もしかして、誰もこの駅のこと、知らな……んぁ?」
 その時だ。
 イフタフの耳に音が届いた。
 駅の外から聞こえてくるのは、どうやら祭り囃子のようだ。篠笛、太鼓、鐘の音。
 陽気なリズムに導かれるようにして、一行は駅の外に出た。
 彼らが乗って来た電車は、駅のホームに停まったままだ。だが、明かりが消えている。運転手は既に去った後らしい。
 或いは、ともすると運転手など初めからいなかったのかもしれない。
 そんな思いもある。
 駅の外には広場があった。
 広場の真ん中には、逆立ちした“たぬき”のオブジェクト。祭り囃子は今も聴こえているけれど、それがどこから響いて来るかは分からない。
 広場の中央に立ったイフタフは、顔を左右へと巡らせた。
 左に進めば商店街。
 右に進めば参道がある。
「“たぬき”がいっぱい……」
 広場にも、商店街にも、参道にも……至るところにたぬきのイラストやオブジェクトが配置されている。たぬき、たぬき、たぬきの群れだ。
 足元にあるマンホールの蓋にも、たぬきのイラストが描かれていた。
 ある種、狂気さえ感じるほどの“たぬき推し”。
 この街の人間は、皆、たぬきが好きなのだろう。
 もっとも、人の姿などどこにも見えないけれど……。明かりと言えば、自動販売機や街灯のそれだけ。商店街や参道には幾つもの家屋が並んでいるが、そのどれにも明かりは灯っていない。
 街から、人だけがすっかり姿を消してしまったかのようだ。
「え……って言うか、タクシーとかも走って無いんじゃ、どうやって帰ればいいんすか」
 タクシー乗り場に歩を進め、イフタフはそう呟いた。
 帰りたくとも、足が無い。
 朝になれば、始発の時間になれば電車は走り始めるだろうが、それまでの数時間をこの誰もいない……たぬきしかいない街で過ごさなければならない。それはとても心細いし、不安であった。
 なぜなら、どう考えても今の状況が“まとも”であるとは思えないからだ。
「何事もなく朝まで過ごせれば最良……。何事かあっても、対応できれば万々歳。どうにもならなかったら詰みって感じっすね」
 溜め息を零したイフタフは、チラと背後を振り返る。
 そこにいるのは、イレギュラーズの仲間たち。イフタフと共に、この街に辿り着いた彼らは思い思いに周囲の散策を開始している。

GMコメント

●ミッション
今夜を乗り越える

●フィールド
再現性東京「きさら縺・駅」
この町の名前は、きっと「きさら縺・」というのだろう。
駅を出て左に進めば商店街。
右に進めば参道がある。参道の先には神社か何かがあるのだろう。
そこかしこにたぬきのイラストやオブジェクトが配置された街だ。
たぬき推しなのだろう。
商店街の店をはじめ、幾つもの建物が並んでいる。だが、そのどれにも明かりは灯っていない。
明かりと言えば、自動販売機や街灯のみだ。
辺りには絶えず祭り囃子が鳴り響いている。

●たぬき
街の至るところにオブジェクトやイラストが配置されている。
駅前広場には逆立ちしたたぬきのオブジェクトがある。
たぬきの視線は、どれも道の方……つまり、皆さんの方を向いている。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】電車に揺られて辿り着いた
イフタフと同じ電車に乗っていました。見知らぬ駅です。

【2】どこからか迷い込んだ
気付けばこの街にいました。もしかすると、数日もの間、あなたはこの街に滞在しているかもしれません。

【3】たぬきの導きに従った
仲良くなった“たぬき”から、電車の切符をもらってきました。


真夜中のきさら縺・観光
 街での過ごし方です。無事に朝を迎えましょう。

【1】商店街を散策する
商店街を歩きます。もしかすると、休憩できる場所があるかもしれません。

【2】参道へ向かう
参道を通り、神社へ向かいます。祭り囃子はこっちの方向から聴こえている様子です。

【3】たぬきを探す
「ようこそ、たぬきの里へ」と書かれた看板を見つけました。どうやら街全体でスタンプラリーが開催されているようです。

【4】イフタフについていく
イフタフに同行します。どこへ向かうか、どのような事態に遭遇するかはイフタフの行動次第です。

  • きさら縺・駅。或いは、商店街にはたぬきがいっぱい…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月30日 22時15分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)
永遠の少女
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
ユイユ・アペティート(p3p009040)
多言数窮の積雪
シャーラッシュ=ホー(p3p009832)
納骨堂の神
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい

リプレイ

●たぬきに呼ばれて
「え、じゃあ、アレっすか? 迷い込んだのは私だけで、皆さんはたぬきの導きによりここにやって来たってことっすか!?」
 駅前広場。
 頭を抱えて、イフタフが空を仰いだ。呆れたような、驚愕したような様子である。
「え? っていうか、たぬきの導き? なんっすかそれ? あ……もしかして?」
「こっちを見るな。私じゃない……まったく、どいつもこいつも」
 イフタフの視線に気が付いたのか『陰陽式』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は苦い顔をする。思えば「きさら縺・駅」に誘われた時からそうだった。
 夜道で出会った狸が数匹、妙に汰磨羈に懐いていた辺りから妙だと感じていたのだ。
 足元に纏わりつくたぬきたちから片道切符を渡されて、興味本位で電車に乗った。そして辿り着いたのがここだ。
「まぁ、折角の招待だ。祭り囃子が聞こえる所へ向かうとするよ」
 そう言って汰磨羈は参道の方へ向かう。
「あ、まってまって私も! お祭りしてるのかしら。行ってみたいわ! 私の猫ちゃんも一緒にどう?」
 汰磨羈の後を『永遠の少女』ルミエール・ローズブレイド(p3p002902)が追いかける。
「ん? あァ。そうだな……まあ、行くだけ行ってみるか。面白そうだしな?」
 『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)を加えた3人は、祭囃子の鳴る方向へと去っていく。その背中を、イフタフはまるで「信じられないもの」でも見るかのような目をして見送った。
 いかにも不気味な場所なのだが、怖いとか、不安だとか、そう言う感情は無いのだろうか。
「たぬき推しかぁ。そういう時代が来ちゃったかぁ」
 立ち去っていく3人を見ながら、『多言数窮の積雪』ユイユ・アペティート(p3p009040)がほくそ笑む。
 それからユイユは、足音も無く影の中へと姿を消した。
 
 駅前広場の片隅にある立て看板を見上げながら、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が何かを手に取る。
「仲良くなったたぬきから、ここは天国だと聞いていたけど」
 史之が手に取ったのは、1冊のパンフレットだ。
 パンフレットには、地図が記載されており、地図のところどころには空白のスペースがある。スタンプラリーだ。
「スタンプラリーとかじつは初めてなんだよね。名所案内自力ツアーみたいなものかな?」
 きさら縺・の各所を巡れって、要所要所に設置されたスタンプを集める。スタンプラリーとはそういう催しだ。
 地図に従い、用意されたスタンプを集める。
 言葉にすれば簡単そうだが、実際のところスタンプラリーは過酷である。
 スタンプラリーに参加するものは星の数ほど存在するが、すべてのスタンプをコンプリートできる者はごく一部だけ。
大半は、スタンプをすべて集める前に脱落していく。
 果たして、史之はその“ごく一部”に入ることができるのか。
「やってやろうじゃん」
 拳を固く握り締め、史之はそう呟いた。

 視線を感じた。
 きさら縺・駅を降りてから、駅前広場に移動するまで、ずっと何かの視線があった。
 四方八方から視られている。
 観察されている。
 そんな居心地の悪さが拭えない。
「なにかと狸に縁がありますね」
 口元に手を当て、『納骨堂の神』シャーラッシュ=ホー(p3p009832)は肩を揺らした。
 それから、視線の主を探して首を巡らせるが、それらしい姿は見当たらなかった。
「ふうン、狸ねェ。龍の爺さんの知り合いカ?」
 一方、『彼岸と此岸の魔術師』赤羽・大地(p3p004151)はと言えば、そこかしこにある狸のオブジェやイラストを眺め、首を傾げた。
 狸と言えば、以前にとある劇場であった一団が想起された。
 狸たちと手を組み、劇場を守るために一計を案じたのだ。それから随分と時間が経ったが、狸たちと築いた絆は健在だ。
 今回の電車旅とて、件の狸たちに招待されてのことである。
「あんた、どうするつもりだ?」
 大地はホーにそう問うた。
 ホーは、スタンプラリーのパンフレットを取ると、地図に目を落とす。
「真夜中のきさら縺・観光を楽しみますよ。スタンプラリーを制覇したら……帰りましょうか。そちらは?」
「あー……俺達はこの地に於いて局外者だからな。帰り道を知りたくば、礼儀に則って、有力者が居そうな場所で助力の一つでも乞い願うべきだろう」
 そう言って2人は、イフタフの方へ目を向けた。
 彼女は今も、広場の真ん中で所在なさげに佇んでいる。明らかに異様な駅や街の様子を見て、どう動くべきか決めあぐねているのだろう。

●再現性たぬき合戦
 ユイユは上機嫌だった。
 祭り囃子の鳴る方に、足取りも軽く歩いていた。
 祭り囃子が鳴っているのなら、きっとどこかで祭りが開催されているのだ。となれば、花火もあるかもしれないし、出店なども並んでいるかもしれない。
「ふふーん♪」
 鼻歌混じりに参道を進む。
 けれど、ほら案の定……道の先が明るくなった。
 祭りと言えば、参道に並ぶ縁日の屋台が欠かせない。相変わらず、人の気配はないが、屋台だけはずらりと並んでいるではないか。
「お、たこ焼きだ。すいませーん、たこ焼きひと……あれ?」
 真っ先に見つけたたこ焼きの屋台。
 ソースの香ばしい臭いに導かれるようにして、ユイユは屋台を覗き込んだ。
 パックに入ったたこ焼きがずらりと並んでいるが、どういうわけか人の姿は何処にもない。たこ焼きの屋台だけじゃない。
 近くにあるくじ引きも、イカ焼きも、かき氷も、ヨーヨー釣りも、どの屋台にも店員らしき人の姿は無いのである。
「なんだこれ? さっきまで、確かに誰かが調理していた痕跡はあるのに?」
 たこ焼きはどれも焼きたてだ。
 だが、店員がいないのであれば買い物は出来ない。美味しそうなたこ焼きを前に、おあずけを喰らうユイユの気持ちがわかるだろうか。
 自然と、ユイユの口内に唾液が溢れる。
 今すぐにたこ焼きが食べたかった。
「お、お金だけおいておけばいいかな? いいよね? 誰も咎める人はいないし?」
 誰に言い訳をしているわけでも無いだろうが、ユイユはそう呟くとポケットの中から財布を取り出した。
 たこ焼きのパックを手に取って、代わりに代金を置いておく。

「何やってるんダ?」
 参道の端にユイユを見つけて、大地はおや?と首を傾げた。
 薄暗い参道で、ユイユはたぬきの置物相手に話しかけている風だ。手には葉っぱに包まれたどんぐり。代金のつもりなのか、財布から明らかにどんぐりの価値に見合わぬほどの額を取り出して、置物の前に置いている。
 ほくほくとした顔で、ユイユはどんぐりを1つ摘むと、それを口に放り込んだではないか。
「な……口の中が渋くなるゾ?」
 その様子に大地は目を見開いた。
 あんなに嬉しそうにどんぐりを食う生き物を、リス以外で初めて見たからだ。
 どんぐりを頬張りながら、ユイユは上機嫌に先へ進んで行く。時折、たぬきの置物を覗き込み、財布を取り出し、硬貨を支払う。
 見る見るうちに、ユイユの両手はどんぐりや松ぼっくり、赤い木の実や、形のいい小枝で溢れかえった。
「もしかして、化かされてるんじゃないか?」
 ユイユの様子には見覚えがあった。
 狸や狐に化かされた者が、ちょうどあんな風な様子ではなかったか。
「教えてやるカ?」
「いや……幸せそうな顔をしているし、そのままでいいんじゃないか」
 置物の前に置かれた硬貨も、いつの間にか消えている。
 今更ユイユが何に気が付いたところで、失った金は戻って来ないのだ。それなら、せめて幸せで楽しい気分のまま、朝を迎えさせてやりたいではないか。
「どんどん参道から逸れていくガ?」
「そう悪い予感はしない。見なかったことにしよう」
 なんて。
 そんなことを呟いて、大地は目と目の間を指で揉んでみた。
 相変わらず、何かの視線を感じている。
 それが何の視線かは分からないけれど……まぁ、きっと狸なのだろう。
「聞いているかは知らないが、俺を化かすなよ。龍の爺さんに言いつけるぞ」
 虚空に向けて、そう告げて、大地は参道を進んで行った。

 駅前広場をスタートして、まずは参道の入り口に1つ。
 次に商店街の入り口に1つ。
 そして、商店街の途中にあった“酒樽を抱えた狸の置物”の前でもう1つ。
 以上3つが、現時点で史之の集めたスタンプの全部だ。
「しかし、見事なまでのたぬき推しだね」
 商店街には狸がいっぱい。
 そう聞いていたけれど、なるほど確かに街中たぬきだらけであった。スタンプの模様も、踊る狸に、眠る狸、遊ぶ子狸と、これまた狸のオンパレードだ。
 この調子だと、残る7つのスタンプも、きっと狸柄なのだろう。
「っていうか、人の気配しないですよね? これ、本当にうろうろして大丈夫なんっすか?」
 史之の後ろについて来るのはイフタフだ。
 その手にはパンフレット。
 スタンプラリーに興味があるわけでは無いだろうが、せっかくなので持って来たのだ。パンフレットには、この見慣れぬ街の地図も載っている。
「大丈夫じゃないかな? 視線は感じるけど、敵意は感じないし……不安なら駅前で待ってればいいんじゃない?」
「え、史之さんマジすか? マジで言ってますか? こんな不気味なところに、1人で残るなんて嫌っすよ?」
 なぜなら心細いから。
 1人でいる状態で、何かしらのトラブルに見舞われた場合に対応できる自信が無かったから。
 それゆえイフタフは、史之に着いて来たのである。
「なんで俺? まだ、結構歩くよ?」
「いいんすよ。歩く分には大変じゃないっすから。それに史之さんが一番、こう……常識的そうっていうか」
 ほら、とイフタフが指差したのは商店街の酒屋の前だ。
 そこには、狸たちを引き連れて歩くホーの姿があった。
「……えぇ」
「狸と仲良くなったんすかね?」

 狸とは何かと縁がある。
 尻尾の生えた自動販売機を前に、ホーはそんなことを思った。
 既に数分。
 薄笑いを浮かべたまま、直立姿勢でホーはじっと自動販売機を眺めているのだ。目の前にある自販機は、狸の化けたものであることは明白。
 ただ、狸の狙いが分からない。
 分からないからといって不都合があるわけでも無いが、かといって無視するのもどうかと思い、こうして数分もの間、なんと声をかけるべきかを思案し続けているのである。
「尻尾が隠せていませんよ」
 淡々と、ホーはそう呟いた。
 一瞬、動揺するように自動販売機が激しく明滅。それと同時に尻尾も消えたが……今更、手遅れだ。
 狸の方もそう思ったのだろう。
 観念したように、元の狸の姿に戻る。
「ここは一体、何なのでしょう?」
 ホーは尋ねた。
 狸は少し怯えた様子で、答えを返す。
「ここは狸の聖地だよ。人間の暮らす世界と、どこか別の世界の丁度狭間みたいなところにあるんだ。でも、狸しかいないと退屈だからね。こうして時々、人を呼んで、驚かして遊んでるんだよ……あ、だポン」
「ポン?」
「たぬきの語尾だよ。こう言っておくと人間にウケるんだって……ポン」
 この狸、どうにも新米のようだ。
 狸語の扱いも今一つこなれない様子である。
「なるほど。ところで、このスタンプはどこに?」
 もとより狸の事情になど興味がない。パンフレットを開いて、地図を見せた。狸は地図に目を落とすと、にこりと花が咲くみたいに微笑んだ。
「楽しんでくれているようで何よりですポン。案内しますポン」
 と、そのようなわけで、ホーは優秀な案内人を手に入れた。
 行く先々で狸が増えて、今ではちょっとした集団だ。
 史之とイフタフが目撃したのが、それである。

 参道は、どこもかしこも狸だらけだ。
 だが、姿は現さない。
 物陰に隠れたまま、ひっそりとクウハやルミエールたちの様子を観察しているのである。
「たぬき自体は嫌いじゃないが、こう見られると妙な気分になるな」
 視線を感じてか、クウハが居心地の悪そうな顔をしている。
 視線を周囲に巡らせれば、さっと逃げるように狸の気配が散った。もっとも、それは一時的なものだ。時間が経てば、狸たちは戻って来る。
「沢山たぬきがいるのなら、一匹ぐらい貰ってもいいかしら? どう思う? 大丈夫そう? 家で飼えるものなのかしら?」
「だから、私に訊くんじゃない。狸は専門外……いや、少々の知見はあるが」
 ルミエールの問いに、汰磨羈は苦い顔をした。
 名前が似ているからと、どいつもこいつも……とはいえ、自分からノったこともあるけれど。関係者には狸もいるけれど……とはいえ、汰磨羈は猫である。
「それより、神社はすぐそこだぞ。狸たちの目的は何だろうな」
 汰磨羈は肩を竦めてみせた。
 何か目的があって一行をこの街に呼んだのか、それとも様子を眺めて楽しむだけが目的なのか。
「俺達を化かして商売しようとしてる可能性もあるが……ん、おい、あれ」
 神社の手前で、クウハが何かを見つけたようだ。
 神社に続く階段の近くに、人が倒れているようだ。それから、倒れた人を見下ろす人影。
 倒れているのはユイユ、見下ろしているのは大地だ。
「ねぇ、何があった……の?」
 ルミエールの声が、不自然に小さくなって途切れた。
 見開かれた青い目は、地面に倒れたユイユの方に向いている。
「俺が追いついた時にはもう……」
 そう言って、大地が首を横に振る。
「死んでいる、の?」
 ルミエールは言った。
 クウハはその場にしゃがみ込むと、倒れたユイユの首に手を触れる。
「いや、脈はある。寝てるだけだ……っていうか、なんだァ?」
 口の端には、どんぐりの欠片が付着している。
 両手にも、ポケットの中にも、口の中にも、どんぐりや松ぼっくりが一杯に詰め込まれているではないか。
「どんぐり喰って、寝こけてんのかァ?」
「狸に化かされた……のかしら?」
 意識の無いユイユの身に何があったのかは分からない。
 だが、1つだけ言えることがある。
「でも、すごく幸せそう」
 そう。
 ユイユはとても、幸せそうな顔をしていた。

●また逢いましょう
「これで最後……っと」
 合計10個のスタンプを集めた。
 そこそこに広い範囲を歩いたせいか、少しだけ疲労が溜まっている。スタンプラリーはこれで完走。パンフレットを満足そうに眺める史之へ、イフタフは問うた。
「集まったっすね、スタンプ。それで、これからどうするんすか?」
「どうって? 駅に戻って、朝を待つよ」
「え?」
「朝になったら始発が動くでしょ? ホーさんだって、もういないし」
 
 祭り囃子の出所は、神社の境内だ。
 特設された櫓の周りを、狸たちが踊っているのだ。
「“險シ隱?神社”ってなんだ? っていうか、ここ寺っぽくねェ?」
「これだけいたら、1匹ぐらい連れて帰ってもバレなさそうよね?」
 クウハとルミエール、大地の3人は目を丸くして踊る狸たちを見ていた。
 なお、ユイユは今も眠り続けている。
「お姉さんも、一緒にどうですか……ポン」
「え? あぁ……? え?」
 いつの間にか、5人の傍に狸が来ていた。
 そのうち1匹が、汰磨羈の手を取る。
 ふにゃり、とした肉球と毛の感触に、ふと汰磨羈は懐かしさを感じた。

 狸たちは幸せそうだ。
 何も悲しいことなど無いとでもいうように、笑顔で、輪になって踊っている。
「なぜ、こんな場所に?」
 汰磨羈は問うた。
「狸が暮らせる場所も、もうあまり残っていませんからね。こういうところじゃないと、安心して暮らせないんです」
「……そうか。なぜ、私たちを呼んだ? 人に住処を追いやられて、辛い思いをしたのだろう? それなのに、人を呼ぶのか?」
「辛い思いもしましたけどね。いいんですよ。恨んだって、楽しくないでしょう?」
 全ての狸が同じ考え、というわけでは無い。
 もちろん、人を恨んで、呪っているような狸だっている。
 ただ、この街に暮らす狸たちは、そうでないというだけだ。
「ずっとずっと、遠い昔から人と一緒に生きて来たんですよ。人の方は、そんなこと覚えていないと思いますけどね」
 人を化かして、時には化かし返されて、そうして狸は暮らして来たのだ。
 だから、今でも当時を懐かしんだ狸たちは人を呼び寄せ、揶揄ったり、一緒に踊ったりするのだという。
「そんなことより、もうしばらくしたら朝になります。踊りましょう。朝まで」
 そう言って狸は、汰磨羈の手を掴んで輪の中へと引っ張っていく。
 自然と汰磨羈の足が進んだ。
「一緒に踊ってもいいが……腹の皮が割けるまで踊ったりするなよ?」
 
 暗い線路を、1人の男が歩いている。
 男の前を照らすのは、提灯を下げた1匹の狸。
 男の周囲にも、狸、狸、狸の群れ。
「もうじき、夜が明けますねぇ」
 なんて。
 そんなことを呟いて。
 ホーは線路を歩いて行った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
朝が来て、皆さんは始発に乗って「きさら縺・駅」から帰還しました。
縁があれば、また狸たちから招待されることもあるかもしれません。

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