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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>ケガレの海と、赤い空

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「こいつが……『神の国』だって?」
 豊穣郷近海――をコピーしたその空間は、おぞましい『けがれ』に満ち満ちていた。
 空は赤く、まるで夕焼けがいつまでも沈まないかのようにこうこうと血色に染まっている。
 妖怪だらけの幽霊船が浮かび、妖怪たちは空へ羽ばたきギャアギャアと不快な鳴き声をあげている。
 カイト・シャルラハ (p3p000684)はちらりと海面を見つめ、そして顔をしかめる。
 海は赤く濁った色をして、触れるだけでも魂を穢されそうだ。
「こんな場所に俺を呼び出して……一体誰が何の目的だっていうんだ?」

 時は現在、世界のあちこちに帳が降りようとしている。
 天義を中心とするルスト陣営の遂行者たちはあるべき世界のために触媒をまき散らし、それを使って『神の国』を作り出しているという。
 それらを放置すればやがて帳が現実世界へとおり、彼らの言う在るべき世界とやらに書き換えてしまうのだ。
 つまりこの神の国へと入り込み、その核となる触媒を破壊せねば現実にまで影響が及ぶのである。
 そしてその毒牙は、豊穣郷カムイグラにまで伸びていた。


「調査員が無事に帰ったことは、奇跡としか言いようがないな」
 ため息交じりにそう語る情報屋の男。鴉をモチーフとしたような飛行種の男だ。彼は壁によりかかって、集まったカイトたちを一瞥した。
「豊穣郷近海に『神の国』が出現した。放置すれば、他のところと同じように帳が降りちまうだろう。そうなるまえに内部の核を破壊してもらいたい」
 情報屋はそう説明を始めると、次に詳細の説明にうつった。
「今回のフィールドは海上。しかし海に潜るのはやめておけ。試した調査員が全身に黒い火傷だかアザだかわからん穢れをうけちまったらしい。戦うなら船の上か、あるいは空になるだろう」
 情報屋はそう言って、調査員が記録してきた写真をボードに貼り付けていく。
 見れば、海は赤く濁りそのなかに一隻だけの幽霊船が浮かんでいる。幽霊船は見るからに穴だらけで、浮いているというより海の上に固定されているといった有様だ。きっと不思議な力で若干飛んでいるのだろう。
 より見るべきは船の上で、満載になった甲板には足の三つある鴉だの人面の鷲だの耳を翼にして飛ぶ生首だのといった妖怪がわんさかと乗っており、乗り切れぬとばかりに空を周回飛行しているさまが撮影されていた。
 が、そのなかにぽつんと、人間らしきものの姿もみえたのだが……ピントがぼやけていてよくは見えない。おそらくその人間がこの空間を作り出した『遂行者』なのだろう。
「この密集具合からして、触媒はこのあたりにあるのは間違いない。妖怪たちを倒し、核となる触媒を破壊するんだ」
 情報屋がそこまで説明してから、カイトは小さく手を上げた。
「なあ、ところで……俺が指名されたのはどういうことなんだ?」
 そう、今回の依頼にはカイトへのご指名があったのだ。勿論強制まではされていないが。
 情報屋は腕組みをしたままカイトを一瞥する。
「例の遂行者がこう言ったそうだ。『風読禽』を連れてこい――と」
「そいつは……」
 そう、カイトの古い異名である。だが心当たりはない。
 行けばわかるだろう……と、カイトは小さく首を振った。
 いずれにせよ、戦わなければならないのだから。

GMコメント

●シチュエーション
『神の国』へと突入し触媒を破壊します。
戦闘は主に海面より上、つまり船上か空中となるでしょう。

●赤き穢れ
 このフィールドの特殊効果です。
 海中にPCたちが落ちた場合様々な行動に回避不能なデバフが発生します。
 ※この効果は敵には適用されません
 ただし、海面から離れて戦う場合、離れれば離れるほど戦闘能力にバフがかかります。
 とても端的に説明すると、船上や空で戦うと有利です。

 飛行戦闘を行う場合は簡易飛行や媒体飛行を使わず、飛行(飛翔)スキルやそれに相当するアイテムを活性化するようにしてください。

●船の持ち込み
 PCが『小型船』相当のアイテムを装備している場合、このフィールド内に船を持ち込むことができます。
 操縦と戦闘は同時にこなせるものとし、沈没は(便宜上)ないものとします。

●エネミー
・妖怪
 影の天使たちが変容した姿です。このフィールドにあわせ、空中戦に優れた形態をとっているようです。
 敵の前衛部隊を務めており、これらを突破しなければまず敵本陣へと接触できません。

・残酷なる天使
 このフィールドの核となっているワールドイーターです。
 翼のはえた人間ににた姿をしており、飛行戦闘に優れています。
 このエネミーを撃破することでこのフィールドは破壊され、ミッションは成功となります。

・ナジュド
 このフィールドを作り出した遂行者です。
 カイト・シャルラハを名指しで呼び出したようですが……?

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>ケガレの海と、赤い空完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月30日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
ウェール=ナイトボート(p3p000561)
永炎勇狼
アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)
灰雪に舞う翼
カイト・シャルラハ(p3p000684)
風読禽
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
八重 慧(p3p008813)
歪角ノ夜叉
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!

リプレイ


 赤い海に百鬼夜行。
 みるからにおぞましい光景に、かの有名な改造小型船『紅鷹丸』が突き進む。
 舵を取るのは勿論我等が『風読禽』。またの名を『太陽の翼』カイト・シャルラハ(p3p000684)である。
「海も空も赤いとはこりゃまた気持ち悪いな。ったく、これじゃ俺が目立てないじゃないか」
 なんて軽口を言ってみれば、『こそどろ』エマ(p3p000257)がえひひと引きつったような笑みを浮かべる。
 この辺りは古参揃い。顔を合わせた経験もそれなりにあるローレット・イレギュラーズたちである。
「神の国……というからにはもっとこう、せめてもうちょっと小奇麗な空間にできませんかね。これじゃ魔界ですよ。ひっひっひ」
「まあ、魔界って表現自体は間違ってないんじゃあないか? 連中、いわゆる『神敵』なんだろう?」
 船の手すりによりかかり、腕組みをしてみせる『侠骨の拳』亘理 義弘(p3p000398)。
 ちらりと海面を見てみれば、まるで血のように赤い。落ちた偵察兵が体中にケガレをくらったというが、それが永久に残ったという話は聞かないので、おそらく致命的なものではないのだろうが……好んで潜りたいと思える海でも勿論なかった。
「穢れとか瘴気とか、絶対に潜らせないという意志を感じる海だねー」
 同じような感想を抱いたのだろう、『灰雪に舞う翼』アクセル・ソート・エクシル(p3p000649)が海面を覗き込みつつ苦笑する。
「あ、でも今回の相手には影響ないんだっけ。この神の国の住人にとっては住みよいことになるのかなあ。嫌な感じ」
 そうして眺めれば、幽霊船に満載の妖怪たち。
 空飛ぶ生首や三本足の鴉。その他形容しがたいあれやこれや。
「神の国か……この空間のことも学者の端くれとしてはじっくり調査したい所だけどね。
 のんびりしていたら取り返しのつかないことになりそうだし、残念だが早いところ片付けるとしよう」
 『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)がこきりと首をならし、ついで『歪角ノ夜叉』八重 慧(p3p008813)が顔をしかめた。
「ここ(豊穣)がこんな海であるべきだとでも? 冗談じゃない。
 あっちこっちで好き勝手して、豊穣にまで……俺にとって大事な国、好きにさせてたまるかってんですよ」
 慧は白い羽織に腕を通した。するとふわりと身体が宙へと浮きあがり、見えない翼が羽ばたきをおこす。
 今回、慧だけでなく全員が戦闘可能な飛行能力を確保していた。バチバチの空中戦仕様だ。
 『永炎勇狼』ウェール=ナイトボート(p3p000561)は装着した飛空重機装を起動させ、シュゴッという短くも獰猛な音を立てて空中へと飛び上がる。彼の持ち味である飛空機動力も相まって、一息でかなりの高高度まで上がることが出来た。
 そして、見下ろす。それが唯一許された者であるかの如くに。
「血のように赤く濁った海が、こんな穢れた海があるべき世界、だと……。
 これまでみんな頑張ってきたローレットも豊穣郷の人々も、明日の平和を、日常を取り戻す為に皆が全力を尽くした。
 なのに後から出てきて赤ペンで塗りつぶすのか。
 この国が生きてるのは誤り、死んでいるべきだったなんて、認められるかよ!!
 命を懸けた人達が残したこの地を!誰かが笑顔で過ごせるこの地を不合理な世界で塗りつぶすのならば、そんな不合理は俺がぶち抜く!」
 吠えるように叫ぶウェールに続くように、エマはワイバーンに乗って、義弘やゼフィラは飛行魔法を使って、アクセルやカイトは自らの翼で空へと飛び上がる。
 続いて、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は謎の『うちゅうぢから』によってひゅーんと浮かび上がり、ついでとばかりに背に紫色の妖精めいた羽根を展開させる。
 抜いた二本の剣にはそれぞれ、『うちゅうやばい』『うちゅうすごい』と書かれている。
「う〜む! いきさつはアレじゃが、我は結構こういう赤い景色は好きじゃぞ!
 それにしてもカイトをご指名とは……何じゃ、お主のコレか?」
 小指を立ててみせるニャンタルだが、大してカイトの反応は薄い。というのも、カイトには心当たりがないのだ。
 人から恨みを買うような生き方をした覚えが無いし、そもそもそういう人柄ではない。
 だが……。
「知らないな。知らないが……」
 この、粘つくような敵意と殺意。吹き付ける風も心なしか生ぬるく、憎しみが乗っているかのようだ。
「とにかく、海を汚す神の国には海洋の海水一滴も渡せないな!」
 同じく飛び上がった妖怪たちと、空中でぶつかり合う。


 空を穿ち、飛ぶ。
 義弘は引き絞った矢を打つように、己の拳を空飛ぶ生首へと叩きつけた。
 潰れた顔面が吹き飛ぶ前に長い尾のような髪を掴み振り回し、後続の集団へと放り投げた。
 団子状になって墜落する集団――の中から赤い顔の天狗が飛び上がった。風を操るような独特の機動で義弘へと迫る天狗。手にした葉の内輪を振り抜くと、義弘に激しい衝撃が走った。
 素早く両腕を交差させガード。吹き飛ばされ回転するも、義弘は己にかけた魔法によって制動をかけた。
 余った衝撃が散り、義弘は強く真空を踏みつけた。
 まるで見えない階段を駆け上がるように走る義弘。再び内輪を振る天狗によって風の衝撃が走るが、義弘は身体を傾けスウェー移動による右スライドをしかけた。頬を真空の刃が浅く斬り、血がわずかに流れる。が、義弘の瞳はまっすぐ敵を見ている。
「空を飛んでカチコミか、いいじゃねえか」
 笑い、振り抜く。義弘の拳が天狗の顔面を今こそとらえ、相手を縦回転させながら吹き飛ばしていく。
 海へと転落した天狗を一度見下ろしてから、義弘は眼前の集団に目をやった。
「数が多いな」
「なら――俺が引きつけるっす、その間に上手くやってくださいよ」
 慧は己の腕にナイフを走らせた。吹き上がった呪われた血が形を変え、呪符の形状を取り始める。
「そら、厄も禍も寄って来い!」
 放った呪符が飛び、それはうっすらと赤い霧へと変わり散っていく。
 霧に包まれた妖怪たちが目の色を変え、慧をにらみ付ける。
 上半身だけの犬が慧の足にかじりつき、人型の煙が覆い被さり、足のない幽霊が凍える息吹を吹きかける。
「舐めんな!」
 BSまみれにされそうになった慧だが、一枚残した呪符を自らに貼り付けると『返しの呪い』が発動した。
 凍える息吹も病毒の煙も全て血が引き受け、受けてもいない呪いの二つ目の穴が相手の身体に開く。
 直後――木の杭が慧の膝へと突き刺さった。
「うぐ――!?」
 続いて二本目、三本目が慧の身体に突き刺さる。
 見れば空飛ぶ藁人形めいた妖怪が藁の馬に乗ってこちらを指さしていた。
「呪い対決か? それこそ――『舐めんな』だ!」
 呪符を握りしめるとそれは刀の形状へと変化した。
 藁人形も呪力をまとった木剣を抜き、二人は空中で強烈に打ち合う。激突した刀身が呪力の渦を作り出した。
 そこへ群がる妖怪たち。
「いいぞ、そのまま引きつけておけ!」
 上をとったウェールがカードの束をまき散らす。それらは大量の銃や弓矢へと変化し、その全てが妖怪たちに狙いを付けた。
「言っただろう。『ぶち抜く』ってな」
 あげた腕はまるでオーケストラの指揮者のように大量の銃を統率し、振り下ろした腕によって一斉に引き金が引かれる。
 つまりは一斉放射。降り注ぐ銀の弾丸が妖怪たちへと突き刺さり、大量の悲鳴をあげさせた。
 そんな集団の中から、緑色の身体をした醜鬼が飛び出してくる。
 弾幕を浴びて多くの妖怪たちが墜落するなか、ここまで残るということは相応のタフネスがあるということだろう。
 ならばとウェールはカードに戻った銃たちの中から一つの束を手に取って構える。
「――『赫焉』」
 放つカードの群れが醜鬼へと次々に突き刺さり、その全てが光を持った。かくして醜鬼の爪がウェールの顔面を切り裂こうと迫る――が、その直前でびしりと停止する。カードの光によって縛られ、動きを封じられたのだ。
 ギリッと歯を食いしばる醜鬼。
「隙有りじゃ!」
 ビュン、とその横を回転をかけながら飛んだニャンタル。彼女の握った二本の剣が高速で醜鬼を切り裂いていく。
 はっきりと通り抜けた直後、びたりと空中で停止し見栄を切ったニャンタルの背後で宇宙めいた光景と共に爆発を起こす醜鬼。
「うむ、今日も好調! ――ぬお!?」
 うまく見栄をきれたことに満足していると、空を飛ぶトカゲのような妖怪が炎を吹き付けてきた。
 すぐにその場から飛び退き炎をかわすと、まとわりつくように迫ったそれを剣によって切り払う。
「ええい、さっさと成仏するのじゃ!」
 こうなれば――と剣を交差させると、妖怪めがけて一直線に突っ込んだ。
 まるで大気圏を突破する流星の如く炎に包まれたニャンタルの身体は妖怪を粉砕しながら突っ切り、そのまま妖怪の群れの中をボコボコと破壊しながら貫いていく。
 そして――。
「小癪な!」
 がきん! と黄金の剣によって撃ち払われた。
 風を纏い翼を広げた、それはまるで天使のような風貌の男――遂行者、落翼の飛空騎士ナジュドである。
 弾かれたニャンタルは空中をくるくる回りながら後退。駆けつけたゼフィラが治癒魔法を放つが、そんな彼女たちを纏めて吹き飛ばすべくナジュドは剣を突きつけた。
「お? これはまずい!」
 避けるのじゃ! とニャンタルが叫ぶよりも早く、ナジュドの剣は黄金の光線を空へと放った。雲を突き抜けるのではと思うほどの光によって撃ち抜かれた彼女たちはたまらず墜落――しかけたところで、アクセルとカイトが二人をがしりとキャッチする。
「あれが遂行者? ちょっと強くない?」
「いや、それだけじゃあないな」
 ナジュドの横にゆっくりと並ぶ人型の天使めいた怪物。おそらく情報にあった『残酷なる天使』……ワールドイーターだ。
「カイトはナジュドの方を! オイラたちはワールドイーターをやるよ! エマ、行ける!?」
「いけますよー」
 ワイバーンに騎乗し、メッサーを抜刀するエマ。
 アクセルがタクトを降って魔法を展開すると、エマが魔法に包まれながら天使へと突進した。
 天使は両手に剣を抜き、エマのメッサーを迎え撃つ。
 激突した剣と剣――と見せかけて、至近距離から放たれたスローイングナイフが天使の首筋に突き刺さる。
 のけぞる天使を蹴って飛び退くエマ。ターンしてきたワイバーンに立ち乗りすると、忌々しそうにダガーを引き抜いて捨てる天使を振り返った。
「あらあら、血が通ってないんですかねあの天使」
「人型はしてるけど根本的に違う生命体っぽいね。どうする?」
「そりゃあ……」
 エマは勇ましく剣を天使につきつけ――るとみせかけてちらりと上を見た。つられて上を見る天使。
 はるか頭上から急降下突撃をしかけるウェールが、天使にタックルをしかけ幽霊船へと共に突っ込んでいく。
「皆で?」
「だね!」


「『風読禽』ィ!」
 翼を羽ばたかせ加速し、両手剣を握り突っ込んでくるナジュド。
 カイトは三叉蒼槍で絡めるように剣を弾くと、抑えきれない衝撃を後ろに飛ぶことで軽減させる。
 次いで、ナジュドを纏っていた風が動くのを読み取る。不自然な風だ――と、分かったのがよかった。咄嗟に回避行動をとるカイトを、風の刃がかすめていく。
(俺の回避性能に追いついてくる? いや、必中性能か)
 槍を振り抜き幾重にもぶつけられた風の刃を弾き飛ばすカイト。
 そんなカイトを、ナジュドは憎しみを込めた目で似た見つけた。
「誰だ、アンタ」
「覚えてもいないか。当然だな、貴様はそうやって何人も踏みつけにしてきたんだ。傲慢にもな!」
「何を言ってる?」
 顔をしかめるカイトに、ナジュドは更なる攻撃を仕掛ける。
 剣から拡散した光線を放ち、カイトはそれを俊敏に回避した。
「貴様は犠牲を無視する! 高みから見下ろしすらしない! そうやって沈められた私の気持ちが貴様にわかるか!」
「だったらどうした! 豊穣の海を穢す理由になるってのか!?」
「それも貴様の罪だと言っているんだ『風読禽』ィ!」

 ナジュドがカイトに執着するその一方、『残酷なる天使』をウェールは幽霊船に叩きつけていた。
 至近距離でリボルバーピストルを出現させ、額に押しつける。そして発砲。
 びくんとはねた天使は、しかし崩壊した頭のままでウェールを掴んで放り投げた。
 囲むように着地するニャンタル、エマ、義弘、慧。
 空中からは回復したゼフィラとアクセルが見下ろしている。
「無傷ってわけにはいかなそうだけど……一斉攻撃、行くよ!」
 アクセルはタクトを振り上げ雷を呼び出した。
 竜の如くうねる雷が天使へと直撃。と同時に天使は自らの剣を振り回し周囲の空間に風の刃を展開した。
 大量の刃が仲間たちを切り裂く中、義弘のパンチとニャンタルの剣が天使へと叩き込まれた。
 更に慧が血の短刀を投擲。突き刺さった次の瞬間にエマが俊敏に走り込む。
 天使の狙いはエマの首。狙い違わず横一文字に切り飛ばした――かに思えた瞬間。まるでその動きを読んでいたかのようにエマはスライディングをかけ天使の足の脇を通り抜ける。
 その際に振り抜いたメッサーは足を切り落とし、バランスを崩した天使にアクセルの撃ち落とした魔法の弾丸が叩き込まれる。
 ズドンという音と共に天使の身体が崩壊し、それに連動するかのように赤い空が崩壊し始める。

「チッ――天使がやられたか」
 カイトから飛び退き、ナジュドは離れたまま剣を突きつける。
「貴様は覚えていないだろう。だが知っておけ。貴様の栄光には犠牲があったことを。そうでなければ……報われない者たちがいたことを!」
 風を纏い、高速でどこかへと消えていくナジュド。
「……」
 その姿を最後まで見つめ、カイトは頬に流れた血を手で拭った。


 海は、静かに凪いでいる。
 豊穣の海。青き果てに見つけた、希望の海。
 海岸からそれを眺めていた慧は、ポケットに手を入れて背を丸める。
「帳が下ろされることは、回避できたみたいだな」
「ああ。この調子でいけば、豊穣も守っていけるだろう」
 取り出した煙草に火を付ける義弘。
 ゼフィラが黙って振り返るとアクセルとエマが歩いてくる所だった。
「それにしてもあのナジュドって遂行者、すごい執着だったね」
「おかげで天使に集中できましたけどね。ま、馬鹿でなければ学習するでしょうし、次も同じ手は通じないでしょうけど」
「構わない。何度来ても、迎え撃つだけだ」
 ウェールが低く唸るように言う。
 同じように海岸から海を見ていたカイトとニャンタル。ニャンタルは波音に紛れるように呟いた。
「しかしあのナジュド、本当に、なんだったんじゃろうな」
「ああ……」
 槍を地面に突き立てて、カイトは海から空へと目をやる。
「あれもある意味……俺の生み出した怪物、なのかもな」
 知らない。覚えていない。そんな心の空虚の中から、あのナジュドという男はこちらをにらみ付けている。それは過去からの追跡者であり、払ってきた見えない犠牲なのかもしれない。
 だが、それでも。
「間違ったやり方で我を通そうって言うんなら……また、受けて立つまでだ」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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