シナリオ詳細
<黄泉桎梏>神は平等に皆を愛してくださいますから
オープニング
●偶然の道行きに
「そこで言ってやったのさ、これ以上船を漕ぐのは『ホネ』が折れるって」
ファニー(p3p010255)は肩をすくめると、かたかたと骨の頭蓋骨を揺らして笑う。最近の彼にしては珍しく、スケルトン状態の姿である。
そんな彼は和風酒場の畳座敷に腰を下ろして、テーブルに運ばれてくるフライドポテトをつまんでいた。
座敷の雰囲気から察するかもしれないが、ここは豊穣郷カムイグラ。かつてイレギュラーズたちが切り拓いた新天地である。
ファニーはこの場所が好きだ。かつてフリーパレットたちが成仏した場所だからだ。彼らが願い、焦がれ、そして叶わなかった夢の場所。それが今や船でつながり、こうして旅行客が現地には不似合いなフライドポテトなどつまむようになったのだから。
対して、ファニーの向かいに座っていたのはシスター風の容姿をした女性だった。
彼女は自身を『マリーン』と名乗った。
ファニーのジョークにくすくすと笑い、楽しそうに酒場の空気を楽しんでいる。
「しかしアンタも奇特な奴だな。たまたま出会った奴と酒を飲むなんて。それも――」
オレみたいなスケルトンに、と言おうとしてやめた。
気を遣ってというわけじゃない。マリーンが話し始めたからだ。
「確かに奇妙かもしれませんね。こんな遠い遠い異国の土地で。けど……」
マリーンはグラスのふちを指でスッとなぞるとテーブルに肘を突いた。
「どこか似ているのです。あなたも、私と『同じ』に見えたから」
「…………」
カタカタというファニーの笑いが止まった。
笑い飛ばすには少々重い。だって、そうだ。
ファニーは感じていたのだ。
彼女の中に、それこそスケルトンみたいな『からっぽ』さを。
けれどソレを言葉にするのはやめた。
相手が話し始めたからじゃない。
だって『からっぽ』を言葉にするなんて、野暮だろう。
「今日は楽しかったぜ。そろそろ行かなきゃな」
そう言ってファニーは立ち上がる。自分の分のコインをテーブルに置いて。
「あら、ご用事ですか?」
マリーンの言葉に、ファニーはまた肩をすくめてみせる。
「ああ、それでこの国に来たんだしな」
偶然の出会いだった。ありふれた、どこにでもあるような。
けれどそれは――。
●
「豊穣国内で『触媒』の発生が確認されたようだ。放置すれば帳を下ろされかねん。至急対象の破壊を行ってほしい」
豊穣郷の役人次郎帽 忠正は海洋王国から流れてきた書簡を開き、朗々とその内容を読み上げていた。
ここは豊穣郷カムイグラ、首都外縁。
次郎帽は役人というには少々現場肌に見える風貌だが、それも無理からぬことだろう。かつてこの豊穣郷という土地は魔種によって実質的な支配を受け、役人の中にも数多くの魔種が紛れ込んでいたという悪しき歴史を持っていたのだから。
もしイレギュラーズたちが介入しなければこの国は内側から腐り墜ちていたにちがいなく、それを阻んだ今とて人手不足という苦しみがのしかかっているのだ。
そんな次郎帽が説明している『触媒』や『帳』についても、やはり説明を加えるべきだろう。
彼はピンときていないイレギュラーズに向け、咳払いをしてから説明をした。
「ローレットの本拠点があるという大陸に、天義という国がある。
その国にあるとき天啓が下ったそうだ。というのも、ローレットが現れず魔種に滅ぼされる歴史こそ正しい歴史であるという傲慢なものだ。それを信じ、あるべき歴史に修正しようなどと行動する者たちの総称が『遂行者』という。
彼らの現在の手口は、力ある触媒を用いて『神の国』なる世界の複製を作り出し、それを夜の帳のごとくおろして現実を書き換えてしまうというものだ。
これが起きてしまえば抵抗は難しい。未然に防ぐのがベターだと言えるだろう」
「なるほどな……で、その『触媒』が豊穣郷に持ち込まれたってのか? いくら貿易が盛んになったとはいえ警戒くらいはしてただろうに。何をやってたんだ?」
ファニーが若干皮肉げに尋ねると、次郎帽は顔に皺を寄せた。役人がよくする、苦々しいけど呑み込まなければならないという表情だ。
「この国に遂行者のシンパが混じっていたようだ。船を確認する係やそれを承認する係……はたまた飛脚や街の団子屋や茶屋にな。この辺りじゃあまだ八百万による人種差別は残ってる。そこに漬け込むように平等を謳う宣教師の言葉が響いたんだろうさ」
「平等、ねえ……」
これもまた説明が必要だろうか。
かつて豊穣郷カムイグラでは八百万(精霊種)を尊ぶ考えや、獄人(鬼人種)を差別する考えが染みついていた。それが国家が腐り墜ちる原因ともなったために考えを改める者もあるが、古くから染みついた思想をそう簡単に拭い去れるというものでもやはりない。
そこへ現れたのが――。
「『マリーン』――博愛聖女マリーンと名乗る宣教師だ。奴が、この騒動を引き起こした遂行者だ」
その名に、ファニーは聞き覚えがあった。そしてそれは、ただの偶然ととるにはあまりに強く……胸がさわいだのだ。
●博愛聖女マリーンと触媒のワタヌキ村
お待たせした。ここからが本題である。
「渡貫(ワタヌキ)という首都郊外の村に触媒があるという事実だけは突き止めたのだが、我々役人が村に入ろうとするのを村人たちはひどく警戒しているようだ。
なので、君たちローレットの神使(イレギュラーズ)に調査を頼みたい」
ワタヌキという村はどこにでもある小さな村だ。世帯数も少なく、農業を主とする川沿いの土地である。
特色として獄人(鬼人種をさす黄泉津言葉。蔑称とされることもある)が多く暮らしておりその割合が非常に多い。
彼らはマリーンのことを知っており、彼女のもたらした『神は平等に全ての人を愛してくれる』という思想に強く共感していた。
そのため八百万(精霊種をさす黄泉津言葉。貴族的意味をもつ)を主とする役人に強く反発し、調査に対して極めて非協力的であるという。
ファニーが首を廻らせる。
「なあ、だったらメンバーに精霊種がいるのはマズいってことか?」
「いや、彼らとて神使(イレギュラーズをさす黄泉津言葉)が国を救ったことは知っている。神使は別だとして話を聞いてくれるだろう。まあ、反発といっても殺し合いになるほどではないのでな。こちらが武力行使にでも出ない限りは、連中はまだおとなしいはずだ」
「なるほどな……つまりは、俺たちだけでその『触媒』とやらを探し出せってことか。厄介な仕事だぜ、まったく」
「ああ、それに触媒がただ『隠してあるだけ』だとは思えん。もし見つかれば武力による抵抗もありうるだろう。充分に注意してあたってくれ」
そこまで説明すると、次郎帽はワタヌキ村への地図を差し出した。
「もし神に国が作られ、帳まで降りるなどということがあれば……村は魔種によって滅び去った世界に書き換えられてしまうかもしれん。そうなる前に、どうか頼む。どれだけ反発しようとも、民は民。それを守るのが我々の仕事なのでな……」
- <黄泉桎梏>神は平等に皆を愛してくださいますから完了
- 『平等』とは時として甘い毒となる
- GM名黒筆墨汁
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2023年06月29日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●人を騙す、その前に
道中の茶屋。後に馬車を分けるために停留したその店に、八人のイレギュラーズたちは一旦集まっていた。
「で、とりあえず作戦は『身分を偽装して侵入』ってことでいいんだな?」
湯飲みをコトンとお盆に置いて、『Star[K]night』ファニー(p3p010255)はまわりの仲間たちの顔ぶれを今一度確認する。
「ええ、『嘘』をつくのは不本意ですけれど」
清楚な顔立ちで苦笑を浮かべる『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)。
「だな、人を騙すのは気が引けるが……『帳』を下ろされればろくなことにならない。今回は仕方ないだろう」
『アーマデルを右に』冬越 弾正(p3p007105)が同意を示すように頷いて見せる。
「しかし……ワタヌキ村の人々は随分と純粋なんだな。
俺がカルトだと自覚してイーゼラー教を信仰しているのは、罰が欲しかったからだ。
罪を罪で洗い流す事でしか、親友殺しの罪を忘れる事が出来なかった」
自らの罪に向き合うかのように言う弾正。
『灰想繰切』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はその顔を一瞥してから、湯飲みに口をつける。
(確かにそうかもしれない。だが、『ヤツら』が語れば目的を綺麗に言い繕ってるようにしか聞こえない)
下らない、とまでは言わない。
現にライはにっこりと笑って『神はきっと許してくださいますよ』とおおらかなことを言う。
が、彼女の内心は、まったく逆のことを考えていた。
(ええ、ええ、神は平等ですとも。
富める者にも貧しい者にも、善なる者にも悪しき者にも、全て平等に無関心で不干渉。
大変ありがたい事ですね、あっはははは♪)
神に人格はない。神とはルールであり、現象であるだけだ、と。
一方で、『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)はその表情に影をさした。
「平等で差別のない国はとても尊いよ。
ぼくもそんな理想的な世界であって欲しいと思う。
でも…そのために聖遺物を使って世界を歪める遂行者のやり方は危険すぎる」
「そうですね。というより……それこそが、今回の本質、なのかもしれませんね」
『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)がリュコスのほうをちらりと見ながら言った。
「この国のことはそれなりに見てきたつもりですけど、差別意識がそう簡単に消えるとは思えないですね。古くから根付いたものだし、間違いだと指摘されてもこう……」
うまく言えませんけど、と手をふわふわとさせるベーク。
リュコスもその言わんとすることが分かったらしいが、やはり言葉に出来ずにふわふわと一緒に手を動かした。
「『意識は理屈を後付けする』」
『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は重くそう述べて、やや乱暴に湯飲みを置いた。物の扱いが繊細な彼にしてはかなり珍しい動作だが、さもあらん。なにせ今回の話の主体は鬼人種たちだ。この国に領土を持ち、深く付き合ってきた錬にとって無視できない問題なのだ。
今回の事件をやり玉に挙げて、またぞろ鬼人種差別を再燃されても困るのだ。それこそ『意識は理屈を後付けする』のだから。
「今回は無知な運び屋であってくれ……と思うんだがな」
「『平等』をちらつかせられると、人は時に揺らいでしまうものですから」
『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)がお茶の水面に映る自らの瞳を見つめながら言った。
「厄介な聖女ですね。本心か…それとも人の心を揺らす者か」
「……」
沈黙がおりた。それぞれの内心での呟きは異なるが、概ね同じだ。
いや。
一人だけ、違う。
ファニーは内心でこう呟いていた。
(いや、きっと本心さ。だからこんなにも……オレの心を……)
●うそつき
一行は質素な服装に身を包んでいる。
異国のシスターそのものという雰囲気のライは勿論、ファニーも単色のローブで身体を包み、共に歩くベークやリュコスも安物の、それも手縫いしたであろうつぎはぎの多い衣服を着ていた。
錬、マリエッタ、アーマデルの三人はといえば普段通りの格好なのだが、布で顔半分を覆っている。ファニーたちを囲むようにして歩いているのは、それが彼らの雇われ護衛であるからだろうか。
弾正だけは物陰に隠れながら、彼らのあとをつけている。
つまるところ……彼らはイレギュラーズとして身分を明かして潜入するのではなく、孤児院関係者とその護衛という身分を偽装しての潜入を試みているのである。
「これは……」
二台に分かれた馬車が村に到着したところで、護衛役のアーマデルはフードの下で顔をしかめた。
村は木で出来た背の高い柵に覆われ、なかば砦めいた作りになっている。一般的な農村が行う防備ではないし、その入り口とおぼしき場所に槍を持った男が並んで立っている様子は砦そのものだ。
「警戒心がありありと出ているな。強行突破ならできなくもないが……」
ついそんなコトを考えてしまうアーマデルだが、錬が『それはよそう』と首を横に振る。
「村人を敵に回さなくていいなら、それにこしたことはない。『触媒』をこっそり破壊する……ということができるのかはわからないが、可能な限り反発がないように動こう」
「分かってる、そのつもりだ」
そう言いながら、マリエッタに意見を求めるように視線を送る。
マリエッタは微笑み、そしてこっくりと縦に頷いた。
「そうしたほうが、あの方々の内情もわかるでしょう。どのような暮らしをしているかも。できれば、考え方まで……」
なら決まりだな。アーマデルは呟いて、馬車を降りていく。
――そんな様子を物陰から観察しながら、弾正はファニーたちが村人と接触するのを待っていた。
彼らがこの村へ挑むに当たって、とれるルートは実は無数にあった。
役人であり依頼人でもある次郎帽氏から言われたようにイレギュラーズであると名乗って中を見せて貰うというノーマルなプランがまずひとつ。
次に村人たちが潜在的な敵であると見なして片っ端から叩きのめして強行突入をしかけるというプラン。
そのまた次に、身分を偽り同じ思想を持つ味方であると思わせ潜入するプランだ。
突入ひとつとっても殺傷非殺傷、囮を使うか否かまで。潜入作戦だってあえて疑念を持たせたり泣いた赤鬼作戦をとったりとそのルート分岐は数え切れない。
そのなかで選んだのが、隠れてついていく弾正以外は全員ひとつのグループとして動き、中の様子を探るというものだった。
(彼らにとって触媒は大事な物の筈だ。それ故に集団の意識は其方側へ向く。現物を確認したらできるかぎりこっそりと破壊して、その後は全力で逃げ帰れば……あるいは村人の損害を最小限におさえることが出来るかもしれない)
村人との、これはファーストコンタクトである。
ライはどこまでも清楚に佇み、並び槍を持った男たちを見やった。
彼女の奇妙な魅力にどきりとさせられたのか、男たちは目をそらす。
代わりに、ファニーが一歩前へと出た。
「俺たちは海の向こうで孤児院をやっているんだが――」
「聖女様のお考えに共感したのです。ぜひ、合わせて頂けませんか?」
続けて述べたライの声音は清らかで、男たちはついよからぬことを考えてしまったようで咳払いを始めた。
「あー、聖女様はいまここにいらっしゃらないんですよ。けど共感したと言うことなら……少し中を見せてもいいんじゃないか?」
前半はこちらに、後半は仲間にかけた言葉らしい。
並んだもう一人の男は顔をしかめてみせた。
こんな砦めいた防備を固めて警戒しているくらいだ。役人の手先を警戒しているといったところだろう。
そんな男がちらりと見ると、ベークとリュコスが視界に入った。
粗末な格好をした二人。特にリュコスからは強い迫害にされされたような昏い雰囲気があり、男はつい同情心を抱いてしまったようだ。
「まあ、少しくらいなら……。そっちの護衛の人たちも来るのか?」
「はい。よろしければ」
マリエッタの微笑みに、男たちが顔を見合わせる。
村人たちが出した回答は友好的保留。なんともいえないが、中を見せるくらいはしてもいいだろうという判断だ。
実際中に入ってみると、そこは平和な村だった。
子供たちはごく普通に外で遊び、大人たちは野良仕事に勤しんでいる。
「マリーン様はこの村に色々な教えを説いてくださいました。特に強く教えているのが、人は皆平等であるということです」
案内役の女性がそんなことを言う。そして、女性はある場所に連れて行ってくれた。
「ここは誰もが平等に教えを受けることのできる学校です」
村規模の学校というのはなかなかなものだが、覗き込んでみると子供だけでなく大人までも読み書きを教わっているようだった。初等教育施設というより、単純に学習施設なのだろう。事実、大人になっても読み書きがうまくできない大人がこの村には多くいたようだ。そんな彼らにも門扉を開いたということなのだろう。
「ずいぶんと変わったのですね」
マリエッタのその問いかけに、女性は笑顔で頷く。
「はい! マリーン様は仰いました。人はみな平等である。ゆえに平等に教育を受けることができ、平等に死ぬことが出来る!」
ぴくり、とリュコスが小さく反応する。
反応したのは違和感にだ。
リュコスの想像する『平等』と、どこか違う気がする。
人は平等という言葉を聞くと、反射的に『公平』を意識してしまうことがある。
例えば1m半の柵がある閲覧場に誰でも入れるのが平等。身長1mの人のために段差を設けたりそもそも入場を制限したりするのが公平だ。少々乱暴なたとえだが、違いはここにあり、『自分でも〇〇できるようになる』という主観を抱いてしまうのだ。
そこへ来て、案内人の女はなんといった?
『平等に死ぬことが出来る』だと?
イレギュラーズたちの潜入作戦は、ある意味で成功したと言える。
というのも、案内人は『触媒』については一切話に触れず、それらしい話を振ってみても露骨にそらすのだ。どころか、ライたちが触媒に近づかないように誘導しているようにも見えた。
それはそう、というより、当然だろう。信頼がまだ得られていない人物を近づけたいとは当然思わない。もっと言えば、マリーンが不在であるという話自体も信用できたものではないのだ。
だが、物陰に潜みこっそりとついてきていた弾正は別である。
『露骨に避けようとしている』建物を割り出し、侵入することができたのだ。
「ここ、か……」
施錠された扉を無理矢理壊して侵入すると、刻印の刻まれた札のようなものが部屋の中央に置かれているのが見えた。話に聞いた『触媒』だ。
近づいてみると、そばにメモのようなものが落ちていた。
時間がないし薄暗いのでざっと走り読むことしかできなかったが、その際いくつかの単語が目についた。
「――星灯聖典――クローム――?」
ひどく聞き覚えのある名前だ。よもやそんな名前が繋がるとは、と思った矢先。
「そこで何をしている!」
扉を開き、棍棒を持った男が怒鳴った。
弾正はそれ以上の探索を即座に中止。触媒を掴んで走り出す。
制止しようとする男を突き飛ばして外に出ると、大声で叫んだ。
「触媒を破壊する。撤退するぞ!」
そう広い村ではない。弾正の言葉はよく聞こえた。
案内人の女が慌て、走りだそう――とするその足を、ライが素早く取り出した銃で撃ち抜く。
「弾正さんが見つけましたか。一人で撤退は無理でしょう。援護しましょう」
「賛成だ」
錬は式符を取り出すと斧を瞬間鍛造し握り込む。
「おや、もう気づかれましたか」
ベークが振り返ると、影の翼を生やし槍を持った人型の怪物がこちらへ飛んでくるのが見えた。『影の天使』だ。この村の防衛戦力といったところだろう。
が、もう遅い。ベークは甘い香りをばらまくと、先導するように走り出す。
ベークにつられた天使たちは彼への集中攻撃という『ムダ打ち』を強いられ、そうでない天使たちは弱そうな雰囲気をだしていたリュコスに狙いを付ける。
が、その判断は誤りだ。
リュコスは槍で突かれそうになったところで飛び上がり攻撃を回避。宙返りをかけて距離をとると、そのまま凄まじい速度で走り出した。
「戦ってる暇はない、よね。逃げるよ」
「賛成だ!」
錬は斧で天使を一度斬り付けてからそのままリュコスを追って走り出した。
「村人が集まってきたら、流石に戦闘をさけられませんからね」
マリエッタは血の大鎌を生成しつつ走る。
いや、走りながら血の翼を背より伸ばし、飛行を開始した。
「戦闘になれば、『殺さずに』おさめるのは難しくなります」
「それは、望むところじゃないな」
アーマデルは道を阻もうと槍を構える影の天使めがけて跳躍。
展開した『蛇鞭剣ダナブトゥバン』を相手に巻き付けると、そのまま締め上げるように切り裂いて――そのまま横をすり抜ける。
マリエッタもまた、血のナイフを牽制射撃として放つのみですり抜けた。
徐々に村人が集まってくる。
と、走る弾正と村の出入り口で合流できた。
「出入り口は流石に、強行突破しますよ」
ライが銃を乱射しながら言う。
マリエッタたちはこくりと頷き、槍を構える村人たちを強引に切り抜けた。
多少武装した程度の村人など、戦闘力で言えば雲泥の差。ちょっとの怪我を負わせてもいいなら、簡単に切り抜けることができるのだ。
「抜けた――!」
錬が叫び、リュコスがとめてあった馬車へと飛び乗る。
「はやく」
伸ばした手につかまり、ファニーもまた飛び乗った――その瞬間。
振り返ると、『彼女』がいた。
村の入り口にただただ立って、こちらを見つめる博愛聖女マリーンの姿があった。
時間にして、僅かなものだ。
その僅かな間で、彼らは心で会話をしていた。
『やはり、あなたは其方側だったのですね』
『アンタもな。けど、スケルトンのオレと酒を飲むくらいだ。その『平等』は本物なんだろう。けどその平等は――』
『ええ、お考えの通りですよ。私がなくしたいのは差別なんかじゃない。私は――』
『『特別』を、なくしたい。そうだよな』
互いの間に、理解の色が流れる。淀んだ泥のような、理解の色が。
『特別になれなかった。一番になれなかった。誰かに選んで貰えなかった。そんな悲しみが生まれるくらいなら全て”平等”になってしまえばいい……違うか?』
『わかってくださるのですね』
『ああ、分かるさ。オレたちは――』
『だから、貴方は私の敵なのです』
理解の中に、拒絶の色が明確に混ざった。
目を見開くファニー。
『待ってくれ、オレは――』
『あなたは、特別になりたがっている。特別を捨てられない。だから、私の敵。私と同じだから、敵なのです』
その考えを、決して否定はできなかった。他者の特別を奪ってでもという、その泥のような敵意ですら。
『さようなら。愉快なスケルトンさん。次に会うときは、きっとあなたを潰します』
一方的な敵意を、しかし否定もできぬまま。馬車は村を走り去る。
「おい、どうした?」
顔を覗き込む錬に、ファニーは首を振った。
こんな感情、言葉にできるわけがない。
だから。
「なんでもない」
その言葉に、横で聞いていたライだけは目を細めた。
「うそつき」
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
村に隠されていた『触媒』の破壊に成功しました
GMコメント
●シチュエーション
『ワタヌキ村』へと入り、ここのどこかに隠された『触媒』を見つけ出し破壊することが今回のミッションです。
依頼人はローレット・イレギュラーズの立場を使えば話くらいは聞いてくれるだろうと言っていますが、あえて身分を隠してもいいし、そもそもこっそりと進入しても構いません。
(※注意:かわったことをしすぎると行動に失敗した時のリスクが大きいので、是非皆さんでご相談のうえ挑戦してください)
●フィールド
ワタヌキ村。川沿いに位置し、農業を主としたごく普通の村。
物々交換で生活が成り立っており、貨幣経済はあまり回っていない。
天義から流れてきたマリーンという宣教師を聖女様と呼び慕っており、彼女の提唱する『神は全ての者を平等に愛する』という思想に共感している。
そのため差別意識の強かったり八百万が主だったりする中央の役人には反発する。
地方領主もこのことには手を焼いており、一時的な不干渉を貫いているようだ。
●触媒
どういったもので、どこにあるのかは不明。ワタヌキ村のどこかにあることだけは確か。
●エネミー
何が敵になるかは不明。
一応、村人が敵に回ってしまった場合はエネミー扱いとなる。敵に回すかどうかは、イレギュラーズたちの攻略方法次第となるだろう。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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