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シナリオ詳細

<黄泉桎梏>赤月照らす屍山血河

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●襲撃者は嗤う
 突如出現し幻想、海洋と立て続けに襲い掛かった遂行者を名乗る者たち。その魔の手は留まることはなく、更なる広がりを見せていた。
 練達、そして豊穣にも――。

 豊穣のとある村。
「ひぃ……お願いだ、助けてくれ! 俺には食わせてかないとならない家族が……!」
「ダーメ♡ てか、その家族ももう死んでるし」
 全身が傷だらけとなって、しかしそれでもなお生き延びようと命乞いをする男だったが、嗜虐的な笑みを浮かべる『それ』はその言葉を最後まで聞くことなく銃の引き金を引き男の眉間を打ち抜いた。
 ごとりと倒れた男の死体の足首を無造作に掴むと、ずるずると引きずりその村の中央へ。そこには男と同じように殺された無数の村人たちの死体が山となって積み上げられていた。
「はぁ、もうおしまいかぁ。つまんないの~」
「ドゥーエ。命令なんですからそんな事を言ってはなりませんよ」
「トレ! そうは言っても、こうもあっさり片付いちゃうとそう思っても仕方なくない?」
 男の死体を放り投げて山の頂点に置き、そしてその上にどかりと座ったかと思えば溜め息をつく。
 すると、別の方向から歩いてきた者が窘めるように声を掛ける。
 虐殺を楽しんでいた者がドゥーエ、そしてドゥーエを窘めた者がトレ。二人は同じ人物を主とし、その命令を遂行するためにこの場を訪れていたのだが、村を一つ落とすには二人では過剰戦力もいいところだったのだろう。
 さほど時間もかけずに任務が終わり、どうせならばもっと時間をかけて楽しみたかったとドゥーエは不機嫌そうにしている。
「全く、あなたという人は……。ですが、そんなあなたが楽しめそうな相手が間もなくくると思いますよ」
「本当!? あ、それってもしかして、あのウーノが追い返されたっていう例の?」
「えぇ。イレギュラーズですね。帳を降ろせば、すぐに察知してこちらへ向かってくることでしょう」
 そう語りながら、トレは羅針盤の描かれたコインを一つ懐から取り出すと、それをそのまま死体の山へねじ込んだ。すると、死体の山が俄かに蠕動し始め骨が砕け、肉が磨り潰される音が辺りに響く。
 元々百はあったであろう無辜の民の死体が混ざりあい、まるで粘土のように一つへと纏まると、頭や手足が出来上がっていく。
「うーん、イマイチ!」
「う。分かってますよ。私に芸術のセンスなんて期待しないでください……」
 じゃれつくように言葉を交わす二人の隣には、赤き月に照らされた禍々しき巨人が立っていた。

●新たな手掛かり
 先日、海洋のとある漁村が何者かに襲撃された。幸いにも、イレギュラーズによる迅速な対応によって、そこに住む村人たちへの被害は最小限に抑える事が出来た。
 しかし、その実行犯と思われる存在は取り逃がしてしまった。
 『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)と『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)は、消えた実行犯の足取りを追っていたが、海洋周辺では全くと言っていいほど手がかりが得られなかった。
 そんなある時、二人の下に練達や豊穣でも遂行者を名乗る者たちによる襲撃が行われていることがローレットの中で共有されたのだ。
「フルールさん! これを見て!」
「これは……! 間違いないでしょうね」
 ローレットに齎された各地の被害情報を精査していると、セシルが最新の情報として公開された中から一つの情報を見つけ出してそれをフルールに指し示した。
 そこに書かれていたのは、豊穣のとある村が昨夜の内に何者かによる襲撃を受けて壊滅したということ。そして、その襲撃者の容姿は、15歳前後に見える体格と中性的な面立ち。そのほか細かい部分も、自分たちが知っている存在と酷似している。
「ですが、同じ姿の襲撃者が二人いた、というのは気になりますね」
「まだまだ僕たちが知らない何かがあるのかも……」
 襲撃者の正体も気になるところだが、何よりもこれ以上の被害を出すことは許されない。二人は仲間を募り、豊穣へと向かうのだった。

GMコメント

 本シナリオは
・『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)様
・『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)様
 のアフターアクションとなります。よろしくお願いします。

●目標
 1.村を『神の国』から解放する
 2.ドゥーエ及びトレの撃退もしくは討伐

●ロケーションなど
 豊穣某所、どこにでもある田舎の村です。
 この村はドゥーエとトレによって襲撃を受け、既に村人は全滅しています。
 更に、『帳』が降りており帳の内部は常に夜となっています。
 ただし、不気味に赤く輝く月が照らしており、暗闇というほどではありません。
 影の天使も多数出現しており、何かに祈るようなしぐさをしています。

●エネミー
・ドゥーエ×1
 致命者です。
 先日、『<廃滅の海色>現われたる白の尖兵』にて海洋のとある漁村を襲撃したウーノ、『<廃滅の海色>アノマ諸島探訪録』に現れたクワトロとほぼ同じ容姿をしています。
 しかし、言動は完全に別人と言ってよく、嗜虐的な振る舞いを見せます。
 主人である「ティツィオ」の命令を受けているらしく、それを邪魔しに来るだろうイレギュラーズを迎え撃つつもりのようです。
 二丁拳銃による中距離戦闘を得意としているようですが、現時点で判明しているのはそれだけです。

・トレ
 致命者です。
 容姿はドゥーエとほぼ同じで、言葉遣い意外では持っている武器くらいでしか見分けがつきません。
 こちらは杖を武器としていることから後衛タイプのようですが、やはり詳細は不明です。
 積極的にイレギュラーズを襲おうとするドゥーエとは違い、影の天使を操ることで迎撃を行うつもりのようです。

・ワールドイーター『ダイダラボッチ』
 ドゥーエとトレによって殺害された村人たちの死体が、聖遺物であるコインを核に作り変えられた巨人です。
 辛うじて人型と分かる程度に歪であり、口らしき穴からは呪詛ともうめき声とも聞こえるような声を発しており、体の各所からはとめどなくどす黒い血が流れています。
 二人に対する強い恨みによる怨霊も宿しているようですが、二人は力によってそれすらも支配下に置き、自らの手駒としていいように利用しているようです。
 戦闘においては、巨体にものを言わせた長射程かつ力任せな攻撃を得意としますが、怨霊を宿しているためか攻撃は物理・神秘両方の属性を併せ持ちます。
 その強力な一撃は【ブレイク】の性質を持ち、怨霊の力によるものか【呪縛】や【呪い】が付与されることもあるようです。
 また、家屋などを投擲したり、地響きを起こして範囲攻撃を行ったりといったことも可能なようです。
 倒すことで帳は解除され、死してなお利用される村人たちも開放することが出来るでしょう。

・影の天使×不明
 トレの支配下にあり、その周囲に集まっています。
 その名の通り、全身が影のように黒で染まった天使のような姿をしています。
 剣を持つ者や杖を持つ者など装備は様々ですが、戦闘能力自体はさほど高くありません。
 イレギュラーズが現場に到着すると、トレの指示によって襲撃してきます。

・ティツィオ
 遂行者です。
 『<廃滅の海色>アノマ諸島探訪録』にて判明した、ウーノ、ドゥーエ、トレ、クワトロの主人ですが、ドゥーエとトレに命令を出したのみでこのシナリオには登場しません。
 容姿、素性、能力など現時点では一切不明です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <黄泉桎梏>赤月照らす屍山血河完了
  • GM名東雲東
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月01日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
型破 命(p3p009483)
金剛不壊の華
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!
クウハ(p3p010695)
あいいろのおもい
セシル・アーネット(p3p010940)
雪花の星剣

リプレイ


 夜闇を赤い月が照らす中、情報にあった村へと到着したイレギュラーズに二つの人影が襲い掛かる。
「トレ、そっちは任せたから!」
「ドゥーエ、あまりはしゃいではいけませんよ」
 撃ち込まれる弾丸にイレギュラーズが気付いて散開すると、影の天使も村の各所から集まってきたようだ。しかし、敵が待ち受けていることは想定済みだ。迷わず事前の打ち合わせ通りに分かれて動く。
「あの人の相手は僕が! いくよ、マーシー!」
 『氷雪剣舞』セシル・アーネット(p3p010940)が手綱を握り、相棒のトナカイが駆けるとその後ろに粉雪が舞う。狙うのはドゥーエと呼ばれた方だ。
「あのさ、クワトロって子を知らない?
 君らにそっくりな、ちょっと抜けたかわいい子だったよ
 なんだっけ、権限レベルが足りないため、指定の情報は開示できません、とか言っていたな
 権限レベルってどういうこと?
 君ら致命者と遂行者の違いは何?
 それとも指定の情報は開示できないのかな?」
「権限レベルが足りないので情報は開示出来ません」
 トレに問いを投げかけつつ、静かに怒る『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が刀を抜くが、やはりその答えは機械的だ。
「君達は凄く似てるんだな。四つ子か? 一緒に育ってきたとか?」
「同じ形に作られたというだけです」
 続く『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)の問いにも短く答えるのみ。
「よう、ガキ共。村一つ滅ぼすとは随分景気がいいじゃねェか。ちっとばかし俺とも遊んでくれよ」
 『あいいろのおもい』クウハ(p3p010695)がおどけた調子で投げかけるが、表面上の態度とは裏腹にその内では史之やイズマと同じくドゥーエとトレに激しい敵意を抱いていることだろう。
 それだけ二人のやったことは許されざる暴挙なのだから。
「そっちは任せた」
「巨人は俺たちに任せろ」
「あなたたちは許しませんから」
「まずは我らの手で彼らを解放するのが先決じゃ」
 セシルがドゥーエを、史之、イズマ、クウハの三人でトレと影の天使をそれぞれ戦うとしたら、残りの四人が目指す先は決まっている。
 『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)と『金剛不壊の華』型破 命(p3p009483)が駆けると、『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)がドゥーエとトレを鋭く睨み、『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)がその背を軽く叩いて先に行った二人を追いかける。


 セシルは巨人へと向かおうとする仲間たちに銃口を向けたドゥーエに、虹色の尾を引く星を放ってその機先を制する。
「君は拳銃を使うようですが、本当に当たるんですか?」
「その安い挑発、高くつくよ?」
「くっ!」
 銃弾と虹色の星が交錯して弾けると、にやりと笑ったドゥーエが徐々に間隔を狭めながら乱射してくる。セシルはそれを今度は紫紺の宝玉を放って打ち落としていくが、幾つかは間に合わずに体を掠ってしまう。
 直撃こそ避けてははいるものの、やはり長い時間戦い続ける事は難しいかもしれない。
「僕はセシル・アーネットです。君達の名前教えてくれませんか? だってほら、死んで行く人達の名前はちゃんと覚えておかないといけませんから」
「言うじゃん? ま、せっかくだから教えてあげる。私はドゥーエ。でも、あんたの名前は覚えらんないかも。だって炉端の石になんて興味ないし?」
 舌戦を繰り広げながらも二人は激しく撃ちあうが、現状ではドゥーエの方が優勢か。跳び回りながら乱射するドゥーエを捉えることが出来ず、少しずつ被弾が嵩んでいく。
 しかし、そんな中でもセシルは諦めない。
「向こうが気になりますか?
 そうですよね。君の相手は僕だけですが、向こうは三人がかりですもんね。もしかしたら死んじゃうかもしれません。
 仲良しなんですよね? ああ、でも向こうには行かせませんよ。
 巨人にされた人達の悲しみはこんなもんじゃないですから!」
「別に仲良しってわけじゃないんだけどね。それよりももっと愉しも?」
 ドゥーエが時折トレの方へと視線を向けていることに気付いたセシルが、挑発的な言葉を投げかけるもドゥーエは至って冷静。
 放たれる劇毒の宝玉を正確に撃ち落とし、その上で反撃出来る余裕さえあるようだ。
 その現状に歯を食いしばりながら、なおもチャンスは必ず来るはずだと言葉を投げかける。
「ウーノさんも同じ顔でした。誰かの意志があるのでしょう。
 君達はそれでいいんですか? 誰かに従って駒にされて。
 そのうち使い潰されるんですよ。君達も。それでいいんですか?」
「良いも悪いもないんだよ。それが私たちの作られた意味で、与えられた役割なんだから。 ――っ!」
「! 隙ありです!」
「ぐっ!!」
 セシルは自分の言葉の何が引っかかったのかは分からない。しかし、確かにドゥーエが一瞬止まった。それで十分だ。
 以心伝心のマーシーが加速し、セシルはその間に雪の聖剣へと魔力を込め氷によってその刀身を伸ばすと、鞭のように振るいながら何度も斬りつける。
 迎撃するドゥーエだが、最初に一瞬出遅れたのは決定的だ。セシルはその一瞬を取り戻すこと許さぬまま間合いを詰める。
「これで!」
「~~~~っ!! お前ぇ!!」
 白い軌跡を描きながら進むセシルが遂にドゥーエを間合いに捉えると、剣身の内側から溢れんばかりの輝きが放たれる。
 その一撃を咄嗟に防ごうとするドゥーエだったが、勢いに押されて防ぎ切ることが出来なかったようだ。
 声にならない声を上げて痛みに耐えていると、近くにどさりと落ちた自分の右腕を見て、激しい怒りを露にしたのだった。



 セシルがドゥーエと激戦を繰り広げているころ、史之、イズマ、クウハもまたトレとの戦いに臨んでいた。
「まったく、次から次へと面倒なことこの上ない、ね!」
 上空に開いた黒い穴から次々と湧き出てくる影の天使を見て、そう呟きつつ史之は刀を素早く二度振るう。それに合わせて紅き稲妻が二度広がり影の天使を飲みこんでいくと、巻き込まれた天使は史之を敵と定め集まるが、それはすでに史之の術中に嵌まったことを意味する。
 剣や槍、斧といった武器を掲げて史之の下へと集う影の天使だが、史之の間合いに入った瞬間に細切れになる。目にも止まらぬ速さで縦横無尽に振るわれた刃によって、四方八方から襲い来る影の天使を纏めて切り刻んだのだ。
 冷徹なまでの史之の戦いぶりは、ドゥーエとトレの行った暴虐への怒りに他ならない。無辜の民を殺しただけでは飽き足らず、その死体を使って死者の魂すら踏みにじる。
 決して許してなるものか、と。そして同じ想いを抱く者がもう一人。
「響け!」
 夜空の如き黒き細剣を構えたイズマが、それを指揮棒のように振るう。
 二人の行いに対する怒りと苛立ち。その全てを込めてより速く、より激しく振るうと、増幅された魔力が音となり衝撃波を伴って広がる。
 狂おしいほどの感情が込められたその響きは、影の天使の体を揺さぶると同時に僅かな理性をもかき乱し、自傷する者や恍惚として隙だらけになる者が後を絶たない。
「少し時間を稼いでくれ」
「分かった」
 イズマの言葉に史之が短く答えて影の天使の相手をすることになるが、雑兵がいくら集まっても史之に敵うことはない。
 現れたそばから次々と斬られていき、やがてイズマの準備も整ったようだ。
 天高く掲げた細剣の切っ先から魔力の光が溢れ魔法陣が描かれると、赤く輝く月の下で森羅万象悉くを打ち砕く星の雨が降り注いだ。



「少し侮っていたかもしれませんね」
 障壁が星の雨に砕かれ不快感を示しながらトレは呟く。
 先ほどから影の天使を何度も呼び出しているが、すぐに消されて戦力にならない。強力な二人を抑えられてはいるものの、それではクウハとの一対一は避けられない。
 そんな苦々しい思いがトレを見て、クウハはにやりと嗤う。
「オマエは片割れと違って弱い物イジメ以外は出来ねェ腰抜けか?」
「言ってくれますね」
 トレが十字を模した杖を振るうと無数の光の玉が放たれクウハに襲い掛かる。
 しかし、それでもなおクウハの余裕が崩れることはない。
 光の玉が殺到し爆音が響き渡った。舞い上がる粉塵にクウハの姿が隠れるが、少なくとも重傷は確実だろう。
 相手がクウハでなければ。
「なっ!?」
「そんなものか?」
 煙が晴れると、そこには無傷のクウハがそこにいた。
 よく見るとクウハの体を覆うように、黄金と白銀、二つの魔力が広がっていた。クウハが主人と仰ぐ者から借り受けたその権能は絶対的な守護となり他者によってクウハが傷つくことを許さない。
 そして、クウハがトレに投げかけるその言葉の一つ一つが、或いは視線や表情や細かなしぐさ。その全てがトレの意識を自分へと引き付けるための罠である。
 こうしてクウハが正面にいるだけで、トレはクウハを意識せざるを得ない。
 何度も放たれる光球を涼しい顔で受け続けるクウハに、苛立つトレは一層苛烈に攻撃を仕掛けるがやはり守りを突破することは叶わないのだ。


 セシルたちに致命者二人と影の天使を任せた四人は歪なる巨人を止めるべく動いていた。
「私たちにあなたたちを救わせてください」
 人間を粘土のようにこねくり回して作ったような巨人の体中からは、素材にされた村人たちの手足や頭が生えており、全体の造形も非常に歪である。
 接合が甘いのか村人のものと思われるどす黒い血が溢れており、まるで川のようになっているその姿は痛ましいとしか言いようがないだろう。
 迫りくるその巨人を見据えながら、フルールは契約精霊と融合することで体の一部を焔へと変化させた。
 揺らめく炎へと変じたその細い指先から放たれるは劫火。一点に収束された炎が巨人へと伸び、その体を覆い焼き焦がしていく。
「来い、絡繰兵士!」
 焼かれながらも巨人が腕を振りかぶった瞬間、錬が懐から取り出した呪符に魔力を込めて周囲へと放てば、地面が隆起し人の形をとる。
 やはり巨人の知性は高くないらしい。フルールや錬が絡繰兵士の中に紛れると、判別がつかないのか闇雲に手足を振り回して暴れまわる。
 巨体ゆえに一撃一撃は強力であるが、当たらなければどうという事はない。
「色々と気にかかることはあるが、まずはお前からだ!」
「我らが開放してやらねば!」
 絡繰兵士の合間を縫って命とニャンタルの二人が接近していた。
 巨人が足を振り下ろした瞬間にその足へ向けて命が貫手を放つ。それと同時に指先から強力な毒素を流し込めば、肉が腐敗したかのよう溶け崩れていった。
 対してニャンタルの方は、大きく跳躍して巨人の膝ほどの高さに達すると、二振りの剣を巧みに操り素早い連撃で肉を削ぐが、それだけでは止まらない。
 そのまま巨人の体を蹴って反撃が来る前に距離を取ると、巨人の拳を躱してその隙に飛行し宙を舞い踊るかのように連撃を仕掛けていく。
「隙ありだ」
 巨人の足が地面に叩きつけられ、囮の絡繰兵士が纏めて何体も砕かれ吹き飛ばされるなか、錬が呪符を杖に張り付ける。
 火、金、木、土、水。五つの元素が一つとなって刃を形成し、巨大な斧となったその杖で狙うのは巨人の左足。先ほど命が毒を与えて腐食し始めたのとは反対側だ。五大元素の循環によって生まれる力の奔流が、巨人の足を深く抉りどす黒い血が辺りに飛び散った。
「出来るだけ苦しませないようしますので」
 この哀れな巨人を一刻も早く解放してやりたいというフルールの想いに呼応するかのように、両腕の炎がその熱量を上げると、やがて紅から蒼へ色が移ろう。
 その蒼き火焔を解き放つと飲み込まれた巨人の体表が炭化し、さらには紅の茨がその棘を突き刺しながら覆っていく。
 だが、巨人はこれだけの攻勢を受けても止まらなかった。
「来るぞ、備えろ!」
 結界を張って身を守りながら錬が叫ぶと、炎に包まれながら巨人は地面を激しく踏み鳴らす。
 何度も何度も何度も。腐食した足が衝撃に耐えきれず潰れようとも、炭化した体表が砕けようとも、一切気にすることなく。
 その結果、大地を隆起させながら怨念と共に衝撃波が広がっていく。
「皆の者、無事か! ――ぐあっ!」
 空中で難を逃れたニャンタルが、大地に飲まれた仲間に意識を向けた僅かな隙に剛腕によって地面へと叩きつけられる。
 咄嗟に防御して受け身も取ったがそれでもなお強烈な一撃。全身の骨が砕けたのかと錯覚してしまうほどだ。
「これは……まさか……!」
「速く解呪しなければ……!」
 巨人が纏う呪詛がニャンタルとフルールを捉えたようだ。
「不味いな……。おい、お前の相手はこっちだ!」
「暫く付き合ってもらおう」
 命と錬は結界で防御していたためまだ動ける程度には傷も浅く呪詛も効いていない。
 フルールとニャンタルの動きが鈍いことに気付くと、視線を交わして合図を送り合い二人が立て直すまでの時間を稼ぐために動き出す。
 命が声を張り上げて注意を自分に向けると、再び杖を斧に変化させた錬が巨人のひしゃげた足を更に粉砕する。
「二人では厳しいか……!」
「だが諦めるわけにはいかない!」
 巨人の一撃は凝縮された恨みと憎しみが込められているのか非常に重く、守りに優れる錬と命でも長く耐えることは難しい。
 先ほどまで優位に戦えていたのは四人でカバーしあえていたからだ。
 一撃受けるたびに骨が軋む感覚に苛まれ、次第に傷は深くなり追い込まれていく。
「待たせたのじゃ!」
「すぐに治療を行います! プシュケー!」
 万事休すかと思ったその時、解呪に成功したニャンタルとフルールが戦線に復帰した。
 ニャンタルが接近して巨人の牽制し、フルールがその背に現れていた紅蓮の翼を広げて精霊へと呼びかける。
 自身の呪いを払い傷も癒したように、暖かな炎が命を包みその傷を癒していくと次は錬の番だ。
 傷の癒えた命がニャンタルと共に巨人の注意を引きつけている間に回復を済ませ、漸く体勢を立て直せた。
「聖遺物は鳩尾だ! 全員で畳みかけるぞ!」
 二人で耐えていた間に錬は巨人の中核を探っており、全身に纏う呪いと怨念が鳩尾の辺りから溢れるように広がっていることに気付いていた。
「まずは打点を落とす!」
 最初に動いたのは命だった。
 気合と共に全身を輝かせると、その輝きを一点に収束し解き放つ。光の奔流は巨人の足を飲み込み、既に原型を留めていない足が完全に消し飛び、巨人が地面に倒れこんだ。
 これで鳩尾の位置が低くなり、他の仲間も狙いやすくなるはずだ。
「我らは表面の血肉を削るぞ!」
「とどめは任せた!」
 地面に手を突き起き上がろうとする巨人の懐に素早く潜り込み、ニャンタルは雷光纏いし二剣を交差させて振り抜くと、巨人の胸を蹴ってニャンタルが後方に退避。
 入れ替わるように五色の閃光が集う。錬の展開した五枚の呪符より五大元素の力が放たれたのだ。
 白雷が十字に奔り、五色の光が爆ぜたことで巨人の胸には大きな穴が穿たれ、羅針盤の描かれたコインが露出した。
 急所を覆うべく血肉が蠢き始めているが、ここまでくればもはや勝負は決したようなもの。
「っ! 大丈夫です。もう苦しむ必要はありません……」
 苦し紛れに振るわれた剛腕がフルールに直撃すると、その体が粉砕される。
 だが、奇跡の力によってその運命を覆すと、振るわれた拳を優しく抱き止めながら囁く。
 このままでは不味いと感じたのかフルールを振り払おうとする巨人だったが、その時クウハの声が遠くから響いた。トレと相対しながらもこちらの状況は把握していたのだろう。
「あぁ、オマエ達の気持ちはよく分かる。
 知人を友を家族を殺され、己の命さえ奪われた!
 怨み千万、そうだろう? 素直に従ってやる理由はあるまい。
 例え万恨晴らせずとも抵抗の意思ぐらい見せてみな!
 この俺様が許可してやるとも!」
 その言葉が通じたのか、巨人の動きがぴたりと止まり、その隙にフルールが炎を放つ。
 慈悲の蒼炎は茨と共に拳から腕へ、腕から胸へと進み、やがてその熱でもってコインを蒸発させるのだった。
 中核となる聖遺物を失った巨人は呻き声を上げながら、なおも指示された通りに戦おうとするが、それも長くは続かず次第に力なく倒れ死体の山へと還るのだった。


 核が失われ、妖しい月もやがては消えることだろう。
 トレはその事を察知すると、クウハを一瞥しドゥーエの下へ向かった。
「ちくしょう!!」
「ドゥーエ、どうやらここまでのようです」
 右腕を斬り飛ばされて激しく出血するドゥーエに治癒の魔法で応急処置を施しつつ言うと、ドゥーエは落ち着きを取り戻したようだが、イレギュラーズもその間に合流しつつある。
 「ティツィオね、あの野郎め。何を企んでいるのかは知らないけれど、俺たちを敵に回したからには安息はないと思え。そう伝えておいてもらえる?」
「……まぁいいでしょう」
 影の天使をすべて始末してきた史之が上空からそう言葉を投げかけ、イズマがドゥーエとトレがいかなる存在かを見極めようとする。
 しかし、二人が動くのはそれよりも速かった。
「傷は塞がりましたね、帰りますよ」
「んじゃ、また遊ぼうね~」
 ドゥーエの治療と同時に、逃げるための術式を構築していたらしい。二人は光に包まれその場から消えてしまった。
 二人には逃げられたがそれは想定内の結果であるため問題はない。それよりも、今はしなければならないことがある。



「……間に合わなくてすまんかった。
 意味は無いのかも知れぬが、村人達全員の名前を彫った石碑を立てるからの……許してくれ……」
 亡くなった村人たちを弔うにあたり、ニャンタルが予め元同僚の足利 涼に用意させていた石碑が届いた。そこにはこの村の名前と村人たちの名前が刻まれている。
「安らかにお眠りください」
 イズマが奏でる葬送曲の中、祈りと共にフルールが火を放てばそれは瞬く間に全体へと広がっていき、そこにニャンタルが手を合わせれば、呪縛から解き放たれた魂が炎と共に天へと昇っていく。
 だが、強い恨みを持って現世に留まる者もいる。そういった魂は、命が喰らうことで己の糧とし、或いはフルールが契約精霊を介して己の中へと取り込んでいく。
 そうして自分たちと同化することで、いつかくるだろう決戦の時に復讐を果たせるようにと。

成否

成功

MVP

フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花

状態異常

フルール プリュニエ(p3p002501)[重傷]
夢語る李花
セシル・アーネット(p3p010940)[重傷]
雪花の星剣

あとがき

ドゥーエとトレは撤退し、ダイダラボッチとされた村人たちは無事に弔われました。
お疲れさまでした。

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