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シナリオ詳細

武器輸送会社『E・W・B』。或いは、悪徳は巡る、ことほぎは嗤う…。

完了

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悪徳は巡る
 鉄帝。
 とある荒野を1台の列車が走っていた。
 識別番号の振られていない黒い列車で、走るのは決まって夜の間だけ。運がいいのか、その列車を目にした者たちの間では“亡霊列車”とあだ名されている。
 だが、その正体は決して亡霊などではない。
 それは、鉄帝にて武器輸送業を営むとある企業の輸送車両だ。
 企業の名は“Ethan・Weapon・Bank”……通称『E・W・B』。決して公に名を広めることはせず、けれど軍や犯罪組織の所属であれば誰もが名を知る“姿の見えない大企業”である。

「あぁ、まずいことになった。まずいことになりましたよ」
 輸送列車のとある一室。シンプルながらも、高価な家具で飾り立てられた執務室では1人の女性が顔色を青くし、強い酒を飲んでいる。
 酒でも飲まねばやっていられないのである。
「あいつ……ことほぎの奴、脱獄したっきり行方が掴めない。それどころか、捜索に出したうちの兵も戻って来ない。まず間違いなく、返り討ちにあったとみていいでしょう」
 白い髪を掻きむしり、女性は薄暗い天井を見上げた。
 彼女の名はイーサン・ミッシェル。『E・W・B』の代表取締役にして、武器取引のスペシャリストだ。彼女は決して銃や剣を手に取らない。彼女は言葉と、名刺1枚だけを得物に数多の戦場を渡り歩く。
 今から2カ月ほど前だ。彼女は極楽院 ことほぎ (p3p002087)に取引先の1つを潰され、腹いせと報復を兼ねて、ことほぎを地下監獄へと叩き込んだ。
 イーサンの予想では、ことほぎは地下監獄で苦しみ抜いた末に死ぬはずだったのだ。
 だが、そうはならなかった。
 あろうことかことほぎは、連座で捕まった仲間たちと共に脱獄し、行方を晦ませた。地下監獄にいた幾人かの罪人も一緒にだ。
「あ”ぁ”ぁ”~……酒に逃げなきゃやってらんない。やってらんないけど、酒に逃げてちゃ考えが纏まらない!」
 グラスの中身を飲み干して、イーサンはテーブルの上に幾つもの紙束を広げた。
 紙束には、何枚かの写真も添えられている。
 ことほぎを始め、イーサンがここ暫くの間、私兵に命じて集めさせていたイレギュラーズの情報だ。当然、件の地下監獄から押収した資料も混じっている。
「最後に目撃されたのが1週間ほど前……その時、一緒に行動していたのはこの5人」
 1枚目の写真に写っていたのは、金の髪と褐色肌が特徴的な童女である。
 名はエクスマリア=カリブルヌス (p3p000787)。愛らしい外見とは裏腹に、脱獄の際には幾人もの看守を血の海に沈めた強者だ。散弾銃などの得物を有してはいなかったということなので、何らかの魔術なのだろう。
「次はこっち、ユー・コンレイ (p3p010183)。脱獄の際には先頭を突っ走ってたって聞いています。何らかの索敵能力か、潜伏や逃走に適した技能を有しているとみていいでしょう」
 それから、3枚目と4枚目の写真。
 写っているのは、ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)とルブラット・メルクライン (p3p009557)である。
「悪党同士、気が合うのか……“脚狩り”の方はよくことほぎと一緒にいるのが確認されていますね。一方、ルブラット医師ですが……さて、どう評価したものか」
 ピリムのことはイーサンも良く知っている。得意の取引先などは、ピリムの被害者たちで構成されていると聞いている。
 出来れば関わり合いになりたくない類の凶悪犯……それが、ピリムだ。
 一方、ルブラットについてだが……。
「医者、だそうです。ルブラット医師に命を救われたという者も大勢いました。ですが、うぅん……?」
 ルブラットは、ペストマスクを顔に被った性別も年齢も不明な医者だ。
 医者としての腕が確かなのも事実だろう。
「私兵からの報告では、ただの医師では無さそうとのことです。少なくとも、暗殺か何かの知識があるのか、ルブラット医師は殺意や視線に敏感だったと聞いています」
 そして、それがイーサンの私兵から寄越された最後の報告になった。
「そして最後はロジャーズ=L=ナイア (p3p000569)。黒い……というか、人ではないと思うんですけど……これ、関わっていいやつですかね?」
 写真に写ったロジャーズの顔は黒かった。
 顔も、髪も、衣服も、全てが黒い。色と言えば、薄く開いた口の赤だけ。見るからに人ではないし、写真越しにも『Nyahahahaha!!』という笑い声が聞こえてきそうだ。
「どうです、殺れますか?」
 テーブルに写真を投げ出して、イーサンは天井を見上げた。
 部屋の隅で足音がする。
 影の中から現れたのは、黒い衣服を身に纏った6人の男だ。防弾チョッキに、暗視ゴーグル、腰には拳銃、肩に下げるライフル銃。まっすぐに伸びた背筋といい、鍛えられた体躯といい、彼らが荒事を生業にする者たちであることは明白。
「殺れるかどうかは、やってみなけりゃ分からんね。だが、あんたのオーダーならやるしかない。そういう契約だからな」
「…………はぁ、何とも頼りないことですね。バンク」
「頼りなくても、あんたは俺らに頼るしかない。そうだろ? イーサン」
「それはそうですが……いいでしょう。では、オーダーです。ことほぎを始めとした6人をこの世から退去させてください」

●ことほぎは嗤う
「さて……『E・W・B』はここの線路を通過する。明日か、明後日か、それは分かんねぇけどな。必ずここを通過するのは間違いねぇんだ」
 深夜0時を過ぎた頃。
 とある渓谷にある、小さな駅の宿直室にことほぎたちは集まっていた。
「幸い、地形のおかげでここなら走る列車に乗り移るのも容易だ。線路も曲がりくねってるから、速度も大して出ちゃいねぇからな」
 ふぅ、と紫煙を燻らせてことほぎは部屋の隅へ目を向けた。
 そこにあるのは、封の切られていない酒瓶だ。かつて、駅が駅として機能していた頃に誰かが置いていったものだろう。
「まぁ、向こうも阿保じゃなさそうだ。きっとオレらを歓迎してくれるだろう」
 情報源は、数日前に捕えた『E・W・B』の私兵である。
 その者の話では『E・W・B』には、凄腕の傭兵たちがいるらしい。数は6人。イーサン直属の兵たちで、イーサンの命令以外では決して動かない。
 だが、6人が動いた時には必ず幾つもの死体が出るという。
「接近戦、銃撃戦はもちろん、罠の設置や狙撃も得意ときたもんだ。使う弾丸も【ブレイク】【飛】【致命】【封印】付きの特殊弾。まぁ、オレが脱獄した今、イーサンは必ずこいつらに身を守らせているはずだ」
 煙管を置いたことほぎは、酒の瓶に手を伸ばす。
 蓋を開けると、酒精を喉に流し込み、半分ほどを飲み干した。
 そこそこ高い酒なのだが、まるで水か何かのように雑に飲む。
「なんで、まぁ……アレだ。向こうが防備固めて人員集めて準備万端ってーんなら、まとめて全部御破算にしちまおうってことだ」

GMコメント

●ミッション
イーサンの殺害

●ターゲット
・イーサン・ミッシェル
武器輸送企業“Ethan・Weapon・Bank”……通称『E・W・B』の代表取締役。
2カ月ほど前、ことほぎを地下監獄へと送り込んだ張本人。
特定の拠点を持たず、黒い列車で鉄帝各地を絶えず移動し続けている。
武器の売買を行うが、イーサン自身は武器を持たない。

・イーサン護衛部隊×6
黒い衣服に、防弾チョッキ、暗視ゴーグルという装備の6人組の傭兵。
イーサン個人に雇われており、イーサンの命令のみで行動する。
格闘戦、銃撃戦、罠設置や狙撃など多彩な技能を有する。
彼らの使う弾丸には【ブレイク】【飛】【致命】【封印】が付与されている。
 
●フィールド
鉄帝。とある渓谷の廃線。
『E・W・B』の有する武器輸送列車に乗り込み、交戦する必要がある。
列車は全部で13車両。
先頭の牽引車両を除く12車両は、乗務員控室や食堂車両、貨物車両となっている。
何両目にイーサンが控えているかは不明。
また、イーサン護衛部隊の6人の他にも10名ほど乗務員がいる。乗務員たちは戦闘能力を持たないが、護衛部隊への連絡などを行う手段は有している。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
 
●注意事項
この依頼は『悪属性依頼』です。
成功した場合、『鉄帝』における名声がマイナスされます。
又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。
また、成功した場合は多少Goldが多く貰えます。

  • 武器輸送会社『E・W・B』。或いは、悪徳は巡る、ことほぎは嗤う…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年07月04日 22時05分
  • 参加人数6/6人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 6 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(6人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
※参加確定済み※
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
※参加確定済み※
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
※参加確定済み※
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
※参加確定済み※
ルブラット・メルクライン(p3p009557)
61分目の針
※参加確定済み※
ユー・コンレイ(p3p010183)
雷龍
※参加確定済み※

リプレイ

●真夜中の来訪者
 鉄帝。
 とある渓谷の廃線路を、黒塗りの列車が走っている。
 闇夜よりなお黒い、鋼鉄の列車だ。
 先頭車両から数えて4両目。1車両を丸々使った執務室に、白い髪の女が1人。睡眠不足か、目の下には濃い隈が浮いており、顔色は青白い。
 神経質に爪を噛みながら、女は手元の書類を見ていた。
「次の駅に着くのは、数時間後。速攻で荷物を引き渡して、速攻で代金を貰って、速攻で出発……ことほぎたちが狙って来るとしたら、取引完了の直後、でしょうか」
 荷物を満載しているとはいえ、列車の速度は時速にして100㎞を超える。それだけの速度で走っている車両に跳び乗ることは難しい……となれば、停車時を狙って来るはずだ。
 彼女……イーサンはそう予想していた。
「はぁ……命を狙われるのが、こんなに疲れるものとは思いませんでした」
 イーサンは重たい溜め息を零す。
 それから彼女は、手元の書類を片付けてガラスのコップに度数の高い酒を注いだ。不安や疲労を酒精で誤魔化すつもりだろう。
 けれど、その時だ。
 ドカン、と体の芯に響く衝撃があった。
 次いで急ブレーキ。
 コップが虚空を舞い、酒精がイーサンの頭に降り注ぐ。
「な、なに? 事故?」
 目を丸くしたイーサンは、慌てた様子で車両の窓に跳びついた。

 列車が急停止した直後、各車両から黒服の男たちが降りて来る。
 イーサン率いる武器輸送企業“Ethan・Weapon・Bank”……通称『E・W・B』の社員たちだ。男たちは周囲の様子を警戒しながら、先頭車両に近づいていく。
「なんだ、これ? 岩……じゃないな。鉄製の歯止め? 誰かの悪戯か?」
 先頭車両の車輪の下には、鋼鉄製の歯止めがあった。先ほどの揺れはタイヤが歯止めにぶつかった際の衝撃だろう。
 カーブの多い渓谷地帯ということで、スピードが低下していたことが幸いして辛うじて脱線は免れた。不幸中の幸いだ。

 先頭車両の屋根の上に1人の男が伏せている。
「鉄製の歯止め? 誰かの悪戯か?」
 黒服たちの言葉を聞くなり、男は屋根を這うようにして窓から車両へ飛び込んだ。暗い車両の中には、数人の人影。
「罠だ。総員、2人一組で散開! 襲撃に警戒せよ!」
 窓から入って来た男が、声を低くして告げた。

 車両から、追加の人員が飛び出してくる。
 歯止めを外すために呼ばれた工員だ。
「まったく、仮眠中だってのに、どこのどいつが線路に悪戯……」
 欠伸を噛み殺しながら、工員が地面に脚を付けた。
 瞬間、男の顔面に衝撃が走った。
 鼻先を殴り飛ばされたのだ。鼻血を零し、よろける男の目の前にいたのは、紫煙を燻らす長身の女性。
 その顔には見覚えがある。
「あ、あんた……『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)か?」
「正解♪ 夜分遅くに悪いけど、入れてもらえるか? 質の悪ィ別荘に押し込まれた礼は、ちゃあんとしなきゃなんねーからなァ?」
 男の顔面に蹴りを叩き込み、ことほぎは肩を揺らして笑うのだった。

 同時刻。
 崖の上から、列車を見下ろす者がいた。
「イーサンらしい人影は見えないな。ボスは安全な場所でおねんねしてるか?」
 彼女の名は『雷龍』ユー・コンレイ(p3p010183)。金色の目を細め、列車の様子を窺っている。つい今しがた、ことほぎが行動を開始した。
 それに気づいた黒服たちが騒ぎ始めているのも分かる。
 それから、もう1人……否、もう1組、不審な動きをする影をコンレイの目は捉えていた。
「屋根の上に2人組がいるな。ことほぎを狙ってる」
 と、コンレイがそう囁いて。
 直後、白い人影が崖から列車へ跳び下りていった。

 黒い衣服に、防弾チョッキ、暗視ゴーグル。手にしているのは黒く塗られた狙撃銃だ。
 屋根の上に伏せた2人は傭兵である。
 通称、イーサン護衛部隊。
 イーサンの剣となり、盾なるために雇われている戦闘のプロフェッショナルだ。2人が狙う先にいるのは、ことほぎだ。
 闇夜にまぎれ、音を消して、狙いを定め、ことほぎの脳幹をたった1発の銃弾で撃ち抜く。
 慣れた仕事だ。
 闇の深い夜とはいえ、その程度をしくじるほどに軟な鍛え方はしていない。
 しかし、2人が狙撃銃の引き金を引くことはなかった。
「いやぁ、素晴らしい依頼ですねー」
 2人の背後で、軽い足音と間延びした声が聞こえたからだ。
「私も冤罪をふっかけられて非常に憤りを感じてますので少しばかりワクワクしておりますー」
 闇夜に浮かぶ白く長い影。
 その手には、ぬらりと濡れたように光る大太刀が握られている。
「シンプルに皆殺し、そして脚も取り放題! フフフフフ……腕が鳴りますねー」
 隊員2人が背後を振り返るのと同時に、白い影は駆け出した。
 低く、速く。
 『夜闇を奔る白』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)の振るう大太刀が、隊員たちの足元を薙ぐ。

「脱線は免れたようだな。どうする? 爆薬でも使うおうか?」
 車両から少し離れた岩陰に、身を潜ませる人影が3つ。
 1人は『61分目の針』ルブラット・メルクライン(p3p009557)だ。ルブラットは片手をポケットに入れて、何かを掴む。
「ふむ? 炙り出すと謂えば放火も悪くない」
 もう1人は『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)。歯止めの罠を仕掛けたのはロジャーズとルブラットだ。
 爆弾を投げ込むのならどこがいいか。
 相談しながら、2人は岩陰から身を乗り出した。
「いや。それは後に取っておいたほうが、いい」
 そんな2人を制止する声。
『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。
「列車は襲うよりも、乗って旅行にでも行きたいところだ、な。しかし、あのような宿を宛行われた落とし前は、着けておかねば」
 そう言って、エクスマリアは頭上に向けて手を翳す。
 渦巻く魔力に引かれるように、空高くで何かがキラリと輝いた。

●お礼参りの顛末
 鋼鉄の雨が降り注ぐ。
 車体が激しく揺れ、先頭車両で爆音がした。
「な、何事!? 誰か! すぐに様子を見て来なさい!」
 執務車両の床に転がったまま、イーサンが叫んだ。
 イーサンが指示を出すまでもなく、既に部下たちのほとんどは車外の様子を見に行っている。ただ、何が起きているかを理解できていないだけだ。
「ことほぎの仕業ですね。あーもー! わ、私は逃げた方がいいかしら!」
 財布を手に取り、イーサンが車両のドアに手をかけた。
 だが、ドアノブが回らない。
「!?」
 外側から、誰かに抑えられているのだ。
「おっと、イーサン。あんたはそこに隠れてな。俺らの出番みたいだからよ」
「バンク!?」
「ご想像の通り、ことほぎが来た。あんたの前に持って来るのは首だけでいいか?」
 ドアの外にいる男はバンク。イーサン護衛部隊の部隊長である。
 彼はいかにも愉快そうな笑い声を零し、イーサンに待機を指示した。
 次いで、ガチャン、と。
 銃に弾丸を装填する音がする。

「まあ獲るのは脚なんですが」
 銀の光が閃いた。
 ピリムの放った低い位置への斬撃を、隊員2人は後方に跳び退ることで回避する。太刀を振り抜いた姿勢で固まっているピリムの眉間に、隊員たちが銃口を向けた。
 数発、続けて銃声が響く。
 ピリムは転がるように後退。
 頬や脚を数発の銃弾が掠める。飛び散った鮮血の後を屋根の上に残しながら、隊員たちから1両分の距離を取って停止した。
「おっとと……銃火器の相手はめんどくせーですねー」
 頬を濡らす血を拭い、右手に持った太刀を見る。
「逃がしませんよー? ただの1人も……と、いうわけで」
 白い手の平にべったりと張り付いた血を、銀色の刃へと塗った。
 両足を折り曲げ、屋根の上に這いつくばるような姿勢を取るとピリムは大太刀を肩に担いだ。それから、じりと摺り足で1歩だけ前進。
 腰を捻って、溜めを作ると赤い瞳で隊員2人を凝視した。
「まずは遠距離からの消耗を狙いましょー」
 一閃。
 夜闇を赤い斬撃が飛ぶ。

 グルルと唸るワイバーンの鼻先を、コンレイが優しく撫でている。
 コンレイの見下ろす先には、停車した車両。そして、幾つかの戦闘。
「えーっと、屋根の上にはピリム。車両から少し離れた位置ではルブラットとエクスマリア。ことほぎは車内に入ったか? ロジャーズもそっちに向かったし……」
 指折り数えて、仲間たち全員分の行動を把握する。
 どうやら問題なく陽動は成功しているようだ。イーサン護衛部隊の半分以上は、車外に降りている。
「肝心のイーサンが出て来ないな。引きこもってるなら、引きずり出してやらなきゃならんが」
 出張るべきか、それとももう暫く見張るべきか。
 コンレイは甘えて来るワイバーンの首に手を回す。
 そうしながらも戦況を見据え、自分の成すべきことは何かを思案した。

 銃弾が、エクスマリアの肩を撃ち抜く。
 飛び散った血が、金の髪を赤く濡らした。ルブラットは、よろけたエクスマリアの襟を掴むと、岩陰へと引き摺り込む。
 直後に響いた硬質な音は、銃弾が岩に当たった音だろう。
 エクスマリアを撃った相手は分かっている。夜闇にまぎれて近づいて来た、イーサン護衛部隊の2人だ。
「なかなか手練れのようだな」
 肩を押さえて、エクスマリアが呟いた。
「傷は深いが、銃弾は抜けているようだな」
 エクスマリアの傷が、戦闘に支障ないことを確認するとルブラットは小さく頷いた。
「では……前に私の周りを嗅ぎ回っていた鼠君は貴方がたの差し金かな?」
 岩の影から、近づいて来る2人に向かって言葉を投げる。
 返事は無い。
 だが、銃を構えた気配がした。
「ああ、答えは聞いていないよ。既に調べが付いているものでね。わざわざ私に殺される理由を作ってくれるなんて……心優しい医師らしく礼を言うべきだろうか? どう思う?」
 初撃で仕留められなかったこともあり、相手は警戒しているようだ。
 2人の前進が遅いのは、周囲を警戒しているからだ。
「……私を、殺したいのだろう? 余所見をせず、殺してみればいい」
 そう言って、ルブラットは岩に手をかけた。

 白衣を風になびかせながら、ルブラットが岩を跳び越えた。
 広げた手を男の顔に押し付ける。
 瞬間、ルブラットの手を中心に“赤”が弾けた。男の顔の皮膚が爆ぜたのである。
「うっ……ぉぉお!?」
「っ! 下がれ下がれ! こいつは俺が相手をする!」
 もう1人の隊員が、仲間を庇って前に出る。
 チームワークを乱されたのなら、すぐに立て直さなければいけない。その時間を稼ぐための行動だ。
 だが、チームワークならイレギュラーズとて負けてはいない。
「多種多様な技能に優れ、チームワークもある優秀なチームだが……個人で特出したものが無いなら、どこからでも食い敗れる、とも言える、な」
 共に脱獄した仲だ。
 ルブラットの奇襲に合わせることなど動作も無い。
 隊員の死角から潜り込むようにして急接近。
 夜闇に青い光が灯った。
 青い光はエクスマリアの瞳の色だ。
 魔力の波が虚空を震わせ、男の胸部に裂傷を刻む。
 飛び散る鮮血が、エクスマリアの頬を濡らす。
「確実に、圧し潰すように、平らげよう」
 そう呟いたエクスマリアの頭の上に、1羽の鳥が降り立った。

 車両に男の悲鳴が響く。
「あぁ、窓に! 窓に!」
 悲鳴を上げたのは、イーサンの部下だ。
 視線の先にあるのは闇夜……否、闇夜より深い黒一色。窓に張り付いた“何か”が笑った。
 真っ赤な三日月。
 耳まで裂けた口腔の赤。
 ロジャーズだ。
「報復、後腐れなく幕を下ろす。素晴らしい提案だと思うが相手も手練れ、思惟して向かわねば」
 窓ガラスに罅が走った。
 けたたましい音を立て、ガラスが砕け散る。すっかり風通しの良くなった窓ガラスに、ロジャーズは頭部を潜らせた。
 直後、車内を閃光が飲み込んだ。
 光っているのだ、ロジャーズが。
 目も眩むほどの光の中に、ぽっかりと闇が浮いている。
 そんな不気味な光景だった。
 車内に降り立ったロジャーズが、ゆっくりと顔を左右に巡らす。何かを探している風だ。
 と、その時。
 車両のドアが勢いよく開くと、2人の男が飛び込んでくる。
 次いで、間髪入れずに銃声が鳴った。
 マガジンを空にする勢いでばら撒かれた銃弾の雨が、ロジャーズの身体に幾つもの風穴を穿った。
「炙り出す事が出来れば悦ばしいのだよ」
 銃弾を浴びながら、ロジャーズは笑う。
 それから、すっと腕を持ち上げ隊員2人を指さした。
「殺しの腕が確かだと謂うならば、お遊びの方法を理解している筈だが」
 ロジャーズのその言葉の意味を、隊員の1人は……バンクと呼ばれるリーダーは、正しく理解した。
 目の前にいるのは、銃弾程度では倒せない怪物だということを。
 そして、敵はロジャーズ1人ではないことを。
「う……ぐ」
 口を押さえ、バンクが呻く。
 指の間から血が零れた。
 視線を背後へ。壁際に避難している『E・W・B』のスタッフの中に、紫煙を燻らす女がいた。
「ことほぎか……貴様、外にいたんじゃ」
「あぁ? バカ正直に準備万端構えてるトコに突っ込むワケねーだろ!」
 嘲るようにそう言って、ことほぎはバンクの方へ煙管を向けた。
 禍々しい魔力が渦を巻く。
 紫煙を飲み込み、形成された小さな魔弾が解き放たれる瞬間を、今か今かと待っている。
「鉄の雨にまぎれて、車両に入り込んでいたか」
「お前らが外に出て来なかったからな。ったく、列車ン中だと近すぎてやりにくいんだよなァ……」
 距離が近い。
 避けることは出来ない。
 銃弾は既に撃ち尽くし、リロードするだけの暇もない。
「イーサン! 逃げろ! 逃げろ! 脇目も振らず、遠くへ!」
 絶命を悟ったバンクが叫ぶ。
 それと同時に、眉間が爆ぜて、バンクは息を引き取った。
 
●冤罪のお礼
 イーサンは窓から、転がるように外に出た。
 強打した膝が痛むが、構っているだけの暇はない。
 逃げる、逃げる。
 とにかく、逃げる。
 涙と鼻水を拭くことも忘れ、ただひたすらに走り続けた。
 その様子を、空の高くから鳥が観ている。

 イーサンが何かにぶつかった。
 それは1匹のワイバーン。その背から降りた女の顔には見覚えがある。
「ユ……ユー・コンレイ」
「1つ、話をしよう」
「……は?」
 座り込んだイーサンを見下ろし、コンレイは言った。
「再現性九龍城では賢く生きることが求められる。力ある者と争わないのが長生きのコツだ」
「……な、なにを?」
「一方で、舐められたままで終わるのも駄目だ。こいつは搾取していいと認識されるからな……ああ、何が言いたいかって?」
 コンレイは笑う。
 嗜虐的な笑みを浮かべて、コンレイはイーサンの背後を指さす。
「御礼参りは楽しいぞって話さ、小姐」
 そこに居たのは、ピリムとエクスマリアの2人だ。
 ピリムが引き摺っているのは、紐で括った4本の脚。全身に幾つかの弾痕。白い肌は血塗れだ。
「さて、メインディッシュですねー。メインディッシュが片付いたら残りも平らげるのがマナーにこぜーますー。大人しく始末されてくださいませー」
「見つけた、ぞ。イーサン・ミッシェル。先を急ぐのなら、マリア達なら、あんな列車より余程早く送ってやれる、が」
 前にコンレイ。背後にはピリムとエクスマリア。
「トドメは残しとけよ! オレに売られた喧嘩だからな!?」
 さらに後方からは、慌てた様子でことほぎが駆けて来るではないか。
「あ、謝ったら許してもらえたりは……」
「うぅん? 駄目に決まってんだろ? あんたの部下は助けてやってもいいけどな」
 呵々と笑って、コンレイは“終わり”を口にした。

「よう、この前の借りを返しに来たぜ」
 コツン、と。
 煙管の先端を、イーサンの額に押し付ける。
 ことほぎは口角を吊り上げて、いかにも“楽しんでいます”という顔でイーサンの額を何度も何度も煙管で小突いた。
「行き先は天国か地獄、片道切符にはなるが、な。これまで必死に労働に汗を流してきた、勤勉な社長殿がどちらにたどり着けるか、運試しとしよう、か?」
「いいや。エクスマリア。こいつにくれてやるのは地獄への片道切符っつーンだ」
 煙管の先端が熱くなる。
 ことほぎが、魔弾を形成しているのだ。
 それは、ことほぎの意思1つでイーサンの眉間を射貫く凶弾である。
「あ……あぁ。ちくしょう」
 掠れた言葉を、イーサンは零した。
「遠慮せずに受け取れよ。お前の為に、わざわざ用意したんだぜ?」
「地獄に落ちろ! お前も! お前も! お前ら全員、地獄に落ちろ!!」
 怨嗟の言葉を口にして。
 肉の爆ぜる音がして。
 地面に血と脳漿とを撒き散らし。
 少し遅れて、イーサンの体が地面に倒れた。
 それで終わり。
 復讐の連鎖は、イーサンの死という形によって幕を下ろした。

成否

成功

MVP

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王

状態異常

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)[重傷]
不遜の魔王
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)[重傷]
復讐者

あとがき

お疲れ様です。
復讐は無事に果たされました。
依頼は成功となります。

この度はシナリオのリクエスト、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でお会いしましょう。

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