PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>リジェネイド・セイヴァー

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 近未来じみた城はどこかシンデレラを待っているかのようだ。
 王族が民衆の下へと姿を見せるように、3人の青年がテラスへと姿を見せる。
 穏やかな空は紛い物、広がり地平は非ざる町。
「……時は、満ちました」
 銀色の瞳が眼下に広がる光景を穏やかに見ていた。
「いよいよ、なんだな?」
 問うたのは赤毛の青年だ。
「えぇ、ベルシェロン。そういえば、貴方も彼には会ったのですよね?」
 柔和な笑みを絶やさず、銀色の青年は赤毛の青年――ベルシェロンへと問うた。
「まぁな。けどよ、ヘイエルダール……俺も行って良いんだな? こう言っちゃなんだが、あんま友好的にゃ動けてないだが」
「そうですね……ですが、それも仕方のない事でしょう。説得をすればきっと、トールも僕達に協力してくれるはずです」
「…………」
 ヘイエルダールはそのまま視線をもう1人に向ける。
 黙したままの弟は生来の性格ゆえにしかたのないことだ。
「ヴィルヘルム、貴方もきてくれますか? トールを助け出すのに人手は多い方が良いでしょうから」
「……」
 ヴィルヘルムと呼ばれた男は静かにそれに頷くものだ。
「僕ら『再誕の救済者』の目的のために、僕達の理想郷を作るために、きっと彼も手を貸してくれるはずです。
 行きましょう――この世界に僕達の理想郷を下ろすためにも」


 天義に向けて行われた『冠位傲慢』陣営の攻撃は、その矛先を幻想、海洋にまで伸ばしていた。
 それは正しく『傲慢』という存在の在り方を如実に示している。
 天義は聖騎士とイレギュラーズへ黒衣を纏うことを許諾し、聖戦を宣言した。
 そして――敵の矛先は更なる国へ、練達へと向いた。
 遂行者たち曰く、練達がその技術の粋を掛けた仮想環境である『Project:IDEA』の産物『Rapid Origin Online(R.O.O)』は自らの信ずる神たる存在の預言書を観測した結果であると。
 そうして、無遠慮に神の領域に踏み込もうとしたのだと。
 当然、彼らの言う『神』が真の意味での神というわけではないだろう。
 恐らくは『冠位傲慢』――なんであれ、ROOの存在は遂行者達の『未来』にとっては不都合だとばかりに、帳が降りようとしていた。
「こ、ここは一体……?」
 トール=アシェンプテル (p3p010816)を始めとするイレギュラーズはその場所に足を踏み入れた。
 何らかの工場であると思われるその場所の中心で輝くのはオーロラに輝く銅像のような物。
 刻まれた紋章はトールにも見覚えがある。
 破壊の痕跡がそこかしこにありながらも、電気系統は現在のようではある。
「少し遅かったですね、トール」
 その声は2階から聞こえてきた。視線を上げればそこには見覚えのある青年が2人と、見覚えのない青年が1人。
「あれは……あの日、トールさんと踊っていた?」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は銀髪の青年を見て首を傾げ。
「ヘイエルダールさん」
 トールは目を瞠った。
 ココロの言う通り、トールやココロの招待された舞踏会でトールと踊った青年だ。
「……ベルシェロン」
 そうして、もう1人。その男を見据え、マリエッタ・エーレイン (p3p010534)は血印に魔力を籠める。
 以前にある研究所で遭遇した男だ。あの時は共闘と敵対をした末に去っていったが。
「他にも何かいるぞ」
 結月 沙耶 (p3p009126)は彼ら以外の気配を感じ、視線を下げた。
 姿を見えたのは聖騎士を思わせる男と、それに連れられた10人はこの世ならざる言語を語っている。
「ゼノグロシアン!? 貴方達は冠位傲慢に協力しているのですか? どうして!」
 叫ぶトールの様子を見て、ヘイエルダールが悲しそうに目を伏せた。
「かわいそうなトール。貴方こそ、どうして女装などしているのです?」
「えっ、」
  憐れむようなヘイエルダールの声にココロが言って、がらがらと音が鳴り近くの物が落ちてくる。
「きゃぁ!?」
 驚いて仰け反ったココロが視線を巡らせる先で、トールが申し訳なさそうに頭を下げる。
「きっと、まだあの呪いに操られているのでしょう。そいつらが原因ですか?」
「ヘイエルダールさん、何を言ってるんですか?」
 警戒するトールに小さく嘆いて、ヘイエルダールが視線を下げた。
「……今の貴方に一から説明しても無駄かもしれませんね。いいでしょう、相互理解は後程。まずは、君を助け出すのを優先します。少し痛いかもしれませんが、許してください」
 そうヘイエルダールが言った刹那、彼の手には極光の輝きを満たす槍があった。
 状況はわからない。
 しかしながら、トールは『自分が狙われていること』だけは否応なく理解した。

GMコメント

そんなわけでこんばんは、春野紅葉です。
 早速始めましょう。

●オーダー
【1】トール=アシェンプテルの無事
【2】『触媒』の破壊


●フィールドデータ
 練達内部に存在するもう使われていない工場……の『神の国』です。
 トールさんの確保のために動いたアシェンプテル3兄弟の手によりまとめて『神の国』に入り込んだものとします。
 幻想や海洋で起こっていた事件にて『現世(地の国)のNPCが神の国に巻き込まれた案件』と似た状況とお考え下さい。
 周囲には何らかの実験の痕跡が見られますが、それらを確かめる暇はないでしょう。
 なお、触媒と思われる物にはトールさんのいた世界における第一国の紋章が描かれています。

●エネミーデータ
・エネミー共通思考
 アシェンプテル3兄弟もしくは致命者に一定のダメージが入った時点で撤退します。

・『再誕の救済者』ヘイエルダール=アシェンプテル
 白に近い銀色の髪とオーロラ色の瞳をした細身の好青年です。
 柔和な微笑を湛え、どこか童話の王子様とでも言える雰囲気があります。
 自らを『再誕の救済者(リジェネイド・セイヴァー)』であると名乗りました。
 PC情報においては現時点でヘイエルダール=アシェンプテルという名前のみが判明しています。

 武器は輝槍『プリンス・ディスクリート』
 オーロラに輝く巨大な槍型武装です。
 特殊なスペックは何もありませんが、生半可な武器では太刀打ちできぬ高度と鋭さを持ちます。
 エネルギー(AP)のある限りに再生が可能なため、遠距離用の使い捨て投擲兵器としても運用できます。

 中~遠距離レンジから高火力で確実に叩き潰していく純アタッカー。
 単体、貫通、扇などの範囲攻撃を行ないます。
 武器の形状から【スプラッシュ】や【連】、【多重影】、【変幻】などの技術を駆使する可能性があります。

・『再誕の救済者』ベルシェロン=アシェンプテル
 赤毛に金色の瞳をした好青年です。
 コミュ力と自己肯定感がばりばりに高い陽キャ系俺様王子様といった雰囲気。
 自らを『再誕の救済者(リジェネイド・セイヴァー)』であると名乗りました。
 トールさんやマリエッタさんらは以前に遭遇しています。

 武器は輝拳『プリンス・パルセイティング』
 腕と拳にオーロラのようなエネルギーを纏わせるナックルです。
 また、身体能力向上の副次効果を持ち、高い反応、EXA、機動力を獲得させます。

 近接レンジの反応型のEXAアタッカー。
 単体と近貫攻撃を行ないます。
 またそれらの洗練された拳から放たれる一撃は【防無】【必殺】などの特性を持つ可能性が高いです。

・『再誕の救済者』ヴィルヘルム=アシェンプテル
 帽子を目深にかぶった金髪の長身の青年です。
 寡黙という単語が似合うクールで物静か系の王子様といった雰囲気。
 自らを『再誕の救済者(リジェネイド・セイヴァー)』であると名乗りました。
 初対面……と思われます。

 武器は輝刀『プリンス・デフューズ』
 身の丈を遥かに超えるオーロラ色の刀身をした抜き身の刀です。
 優れたリーチから音もなく放つ太刀筋は脅威的です。

 近接~遠距離レンジの範囲アタッカー。
 長大なレンジから放たれる斬撃は貫通や近~遠範などの多種多様な範囲攻撃となります。
 武器の形状や音もなく放たれる斬撃は【必中】の物や【変幻】の他、【出血】系列のBSを用いる可能性があります。

・『致命者』ゴドフリー
 過去に過剰なる正義のせいで断罪された天義の聖騎士を元にした致命者です。
 何故か3兄弟に対して従順極まる状態です。まるで洗脳されてでもいるように見えます。
 スペックとしてはシンプルな聖騎士タイプ。剣による攻撃を行います。

・『異言を話すもの(ゼノグロシアン)』デザイナーヒューマン×10
 ゼノグラシアンと思しき存在です。
 一般人……というにはあまりにも強力なスペックを持ちますが、それでも雑魚の取り巻きです。
 まるで最初から戦闘用に作られたかのような人々です。
 アシェンプテル3兄弟の動きを補助するように攻撃や肉壁になるなどの動きを行ないます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <0と1の裏側>リジェネイド・セイヴァー完了
  • GM名春野紅葉
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月07日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
結月 沙耶(p3p009126)
怪盗乱麻
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女
トール=アシェンプテル(p3p010816)
つれないシンデレラ
紅花 牡丹(p3p010983)
ガイアネモネ

リプレイ


「女装? つまりトールさんが男性?!」
 驚きを隠せぬ『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)だったが、それと同時にどこか納得している自分がいることに気付いた。
(思い返せばあの舞踏会の時に感じたドキドキする気持ちは異性に対するときめきだった。
 心はすでに見抜いていたのでしょう、いまさら確かめる必要もなく確信します……ただ)
 だから、それに『関して』は問いただす気持ちはなかった。
「……ずっとずっとわたしに嘘をついていたのですね」
 ぽつりと、声に漏らす。それが彼に聞かれても構いはしない、ただそれだけだ。
(誰もかれも元気ねぇ……その視線が全部ひとりの子に向けられてるのは、ちょっと異常な気がしないでもないわ)
 そんな感想を抱くのは『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)である。
(私は別にトールさんのことは依頼で数度あったことある程度だし、性別なんて些事だと思うのだけれど。実害があるなら考えようなのかしらねぇ……)
 そう首を傾げながら、戦場を見やった。
「ちょっと待て。お前ら、いきなり出てきて何を言っている?
 トールはお前らなんかのものじゃないし、私の――私達のものだ。勝手に言い張られては困る!」
 そう叫んだのは『奪うは人心までも』結月 沙耶(p3p009126)である。
「――」
 その瞬間、敵の――3人の気配が殺気に満ちた。
「『もの』――だとおっしゃいましたか? 汚らわしい」
 殺意の籠った声でヘイエルダールが言って、その手にいつの間にか槍を構えていた。
「やはり、貴女はその者達に呪いを受けているのですね」
 殺意は明らかにこちらに向いている。
「トールさんを助け出す、にしては些か強引だな。それは本人の意思に沿うのか?
 助けられる側にも選ぶ権利はある。無駄でも説明したらいいじゃないか」
 そう語る『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)に敵はどこか怒りを見せたように思えた。
「当然です。そして今、どれほど手を尽くしたとて理解できぬのも仕方のない事、どこの誰かもしれぬお前には分からないでしょう」
「そうだな、俺には分からない。でもいきなり武器を向けたら、ついていこうなんて思えないぞ。そしてそんな輩には仲間は渡せない」
 愛剣を構えたイズマへ3人が敵意を向けてくる。
(トールさんの秘密、私は知っていましたが……知っている人も知らない人にも動揺が走ってしまっていますね。最も、これを見越した相手……という事ではなさそうですが)
 戦場を冷静に見据える『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)はそれだけに落ち着いて状況を整理していた。
「少し彼らが互いを理解する為に、お話でもしましょうか救世主? それとも魔女とのダンスをお望みですか」
 平静のままにマリエッタは血鎌を構えた。
「ウソでしょ、あなた、男だったなんて! えっ、もしかしてマリエッタは知っていたの!?」
 そんなマリエッタの後ろ、『夜守の魔女』セレナ・夜月(p3p010688)はまさに『知らない人』であり、驚きを隠せない。
 セレナはそのままマリエッタを見て、彼女の落ち着き払った様子に更に驚きを隠さない。
「聞きたいことはあるけど、今はそんな場合じゃない……あとでじっくり聞かせてもらうんだからね!」
 セレナはそう続ければ、箒に跨った。
「……もちろんです」
 それを見やり頷いた『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は周囲を警戒していた。
(何も起きない……?)
 トールのギフト(のろい)は常時発動型の上にばれる相手が多ければ多いほど規模が大きくなる。
 何も起きてないように思えた――だが。何が来るかと意識の意図を張り、何もないことに訝しむころ――その緊張感自体が違和感だと気づいた。
(気持ちが落ち着かない……緊張がとれない!? これが今回の不幸か……!?)
 自然と震える手にトールはグッと剣を握りなおす。
「おいおいおいおい、なんだなんだこの状況は!? 敵も味方もトールにゾッコンだな! 大人気だな、あんた!
 これでも変装や演技は得意だからな。てめえがどれだけ真剣に女の振りをしていたか察することくらいはできるぜ。はっ、やるじゃねえか」
 この場においては『巨星の娘』紅花 牡丹(p3p010983)のそんな軽口さえも敵が作った空気を突き崩すには重要だった。
「――そして喜べ、オレはあんたとほぼ初対面だ。
 つまり実質初めっから嘘をつかずに済んだみてえなものさ!」
 それだけ言って飛び出した牡丹の背後で、トールが目を瞠った。


「こいつ……まるで洗脳でもされてるみたい」
 セレナはデザイナーヒューマンを率いるようにして迫るゴドフリーを見下ろして思う。
 星屑の装飾煌く闇夜の衣が作り出す月灯りはデザイナーヒューマンやゴドフリーの攻撃などまるで物ともしない。
 だからこそ冷静に敵の状況を視れていた。
 ただ粛々と、ただ黙々と剣を振るい、こちらの攻撃を受ける姿はそうあれかしと命じられたままのように見えて。
 自分の抱いた懸念を確かめるようにしてセレナはゴドフリーへ術式を向ける。
 放たれた魔弾は煌く流れ星となって聖騎士の形をした男へと撃ち込まれていく。
「神の国は遂行者達の望む世界。では貴方達が望むのは、作られた者のような、デザイナーヒューマンのような者達が居る世界?」
 愛剣を振り上げたイズマは戦場を一閃する。
 夜空を抱く鋼の細剣が空を斬り、音を戦場に生む。巡る旋律、音は連なり音楽に変わりゆく。
 壮絶苛烈たる鋼鉄の星、降り降ろされし音色は大地を削り、砕き、あらゆるものを粉砕する。
「答えてやる義理はありませんね、全く」
 それらの射程外で敵意を剥きだすヘイエルダールは冷たい声色で告げ、槍を一閃する。
(……迷いは戦いの中に持ち込むな)
 思い出すまでもなく、教えられたことを反芻するようにしてココロは魔力を高めていく。
「ヘイエルダールさん、貴重な情報をありがとうございます。あの時踊れなかったのが残念です。しかしそれを知っているあなたは一体?」
「貴女は、あの日トールと踊っていましたね」
 端正な顔を歪めたヘイエルダールへとココロは問いながらトールの傍で魔術障壁を展開する。
 ココロを中心とした領域に構築されるのは魔力で出来た巨大な貝殻。
 大きく開かれた口がパクリと周囲を呑み込み、トールへと迫る敵へと致命的な狂気を齎す。
「トール、僕達の大切な弟――キミとのダンスは素晴らしい物でした。
 その前にあの世界の女と戦っていなければ、もっと」
 そう語ったヘイエルダールの声色には隠しきれぬ嫌悪感と憎悪が感じられて、トールは思わず目を瞠った。
「忌々しい、あの女。我らの世界で生まれたということは、あの小娘も我らの呪いを知っているはずだというのに!
 あのような者と踊れるなんて、きみはまだ目を覚まさないのですね?」
「私が弟――いえ、それに誰の事を……」
 受ける槍を何とか打ち上げながらトールはそれだけではいられなかった。
(……剣が、思うように触れない――くっぅ)
 普段では受けないような傷を受けながら、トールは斬撃を払う。

「輝くもの天より堕ちなぁ!」
 燃える銀河のような片翼を羽ばたかせ、牡丹はヴィルヘルムめがけて駆け抜ける。
 変則飛行による不自然な動きは視線の読めぬ青年が撃つ斬撃を巧みに躱していく。
 だがそれで充分だった。
 煌く炎がヴィルヘルムの視線を完全に絡め取ったのは明らかだった。
「トールを助けるっつったな! 大義名分がある割りには随分なやり方じゃねえか!
 呪いだとかオレ達が原因だとか言ってるが、てめえらこそただの誘拐犯でトールを騙そうとしてるんじゃねえか!」
 そこへと上げた挑発は剣士の動きを微かに止めた。
(ここまでいやあ黙っちゃいられねえだろ! 並々ならぬ想いがあるようだし後は勝手に語ってくれるはず!)
 そう思考した刹那――極光を思わせる輝きが牡丹を包み、焼ける熱のような斬撃が躱す暇もなく傷を浮かべた。
「――否定はできないだろうな。だとしても、俺達は為さねばならないんだよ」
 ちりちりと炎が地面へと落ちて行く。
(そうだよ、それでいいんだ。勝手に語ってくれれば速いんだが!)
「人の心はどうしても弱い。それを心配してはいたんですからね。
 でも男らしくなりましたね、トール・アシェンプテル。頼りにさせてもらいますよ。彼らを撃退する為に」
 そう微笑む余裕さえ見せて、マリエッタはヴィルヘルムへ迫る。
 空間ごと断つような太刀筋がマリエッタの身体に傷を生むのなど気にも止めぬ。
 肉薄の刹那に振るう鎌の一閃がヴィルヘルムの身体に壮絶なる傷を生む。

(沙耶さんもいるし、2人なら撤退に追い込むくらいはできると思いたいけれど)
 推測を続けるヴァイスは展開された結界術式の中心でベルシェロンを見やる。
「聞きたいのだけれど。話も聞かずに何をしたいのかしら、あなたちは」
 純白の剣を握り締め、ヴァイスは術式の内側より魔術を起こす。
 白き薔薇咲き誇る術式は必中を為す閃光となり輝きを放つ。
 それは茨が近づくのを絡め取るように、ベルシェロンを絡め取り痺れるような毒を齎す。
「お前はトールが昔いたという国と関係があるのか?
 なぜ今になってトールを取り戻そうとする? そもそもトールを取り戻してお前らは何をするつもりだ?
 答えろ――さもなくば、お前の命を盗む(奪う)!」
 迫るベルシェロンの連撃を回避しながら沙耶は問うた。
「そうだよ、嬢ちゃん。俺達はトールと同じ世界で生まれた兄弟だ!
 離れ離れになった家族を取り戻すことの何が悪いんだよ、家族と一緒にいたいって話のどこが悪い! なぁ、嬢ちゃん!」
 そう叫ぶベルシェロンの声に合わせるように猛攻はさらに激しくなっていく。


「彼を倒したいなら、わたしから倒すことです。でも、わたしは倒されません」
 ココロはヘイエルダールへとそう告げれば、魔力を高めていく。
 海の波を思わせる穏やかな魔力が猛攻を浴びるトールの魔力に調和を与え、祝福された魔力が闘気を高めていく。
「――言ってくれますね」
 冷静な声色とは対照的に、どこか焦っているようにヘイエルダールが槍を振るう。
 高速で打ち出された刺突がココロへと炸裂するのを受け止めるようにしてトールはその前に立った。
 激痛が身体を刻む――パンドラの光がオーロラ色に輝く。
「――おかげで少しだけ身体が動くようになりました」
 痛みは緊張を微かにやわらげた。
「……僕は怖かった。真実を打ち明けるのが怖かったんです。
 でも、あの舞踏会の夜、ココロさんと過ごした夢の時間はとても幸せだった。あの時交わした気持ちと言葉は嘘じゃない――だから」
 握りしめる愛剣の出力が上がっていく。
 それはまるでトール自らの感情を出力に変えるように。
「だからもう一度、手を取って下さい! 今度は私じゃない僕の手を――!」
 踏み込むのと同時、打ち込む一閃がオーロラの輝きと共にヘイエルダールを呑み込んだ。
「トールさんのギフト(呪い)について……貴方達は何かご存じで?」
 マリエッタはそう問いかけた。
 もちろん一番ちかくにいるヴィルヘルムが答えてくれるのが一番だった。
(応えてくれればよしですが、この手合いは話さないでしょうし……彼らの反応を見て彼らにとって清いか邪悪かでも判断したいところです)
 マリエッタの推測は半分は正しかった。ただそれはどちらかというとヴィルヘルム自体の気質の問題か。
 振り抜く斬撃には怒りを帯びたように微かに揺らぎ、それでいて鋭さを増していた。
 マリエッタはそれを打ち上げたままに血鎌を振り下ろす。肉を断った血の鎌はヴィルヘルムの内側に炸裂する。
 その状態で手を離すと、そのまま別の血鎌を作り直して首を落とすように一閃する。
 けれど必殺の一閃を受けることを拒むようにそちらは躱してみせた。
「家族――なんだってなあ」
 燃える銀河の片翼を羽ばたかせ牡丹は小さく声に漏らす。
「それがなんだ」
 無口であった男は自分を見下ろす少女への怒りを見せている。
「元の世界の出身だっていうんなら、分かってるんだろ?」
 続けた問いにも応えず、斬撃が牡丹を斬り開く。
 それを受け流して、牡丹はヴィルヘルムへと炎の腕を叩きつけた。
「だとしても、お前さん達には教えるはずないだろう。俺達の苦痛を」
「例え家族なのだとしても、私はお前たちに負けない! トールは私のものだ!」
 沙耶は再び叫び、武器に力を籠めた。
 全霊の力で打ち込む斬撃は確殺自負の殺人剣、圧倒的な手数を以って打ち出す連撃がベルシェロンの堅い守りを越えて傷を与えていく。
「それだ、俺達を『もの』扱いするその態度。気に喰わないんだよ。俺達は――トールはものじゃない!」
 明確な憎悪を向けるベルシェロンの拳が芯を打つ。
(まぁ、探すまでもないわね……)
 戦場の中心にてオーロラの如き輝きを魅せる銅像のようなものを見つめ、ヴァイスは思わずそんな感想を抱く。
 トールから事前に書いてもらっていた紋章のようなものが描かれた銅像は一目見れば明確だ。
「分かったのなら、後はあれを壊すだけね」
「させると思うかよ」
「でしょうね」
 視線を遮るように立ったベルシェロンへ向け、ヴァイスは薄く笑む。
「――薔薇には毒があるのよ」
 言霊が術式にのってベルシェロンへと災厄の一撃を放つ。
 鮮やかな閃光を描いたオーロラの刺突が幾重にも重なり直線上を貫く。
 イズマは音色のように軽やかに受け流すと、返すように問うた。
「同じ苗字の貴方達は……トールさんの家族なのか?」
「そうですよ、我々はたった4人にされたかけがえのない兄弟。
 であるというのに――悍ましき王女の呪いがまだ残っているのですね、トール。
 そうでなければ、わざわざそのような衣装に身を包む必要はないはずだ!」
 激情が露わになり、ヘイエルダールの視線がイズマを通じてトールを見ていた。
「トールはわたし達の大切な仲間よ、連れて行かせたりしない!」
 セレナはゴドフリーの方へと降り立った。
 魔女はその身を包む結界を再構築し、美しき夜の闇のような黒き剣へと姿を変える。
闇を引く閃光がゴドフリーに痛撃を刻んだ刹那、無防備なセレナの身体を閃光が穿つ。
「彼を壊されては困りますからね。ここは一度、退かせていただきます」
 痛撃を受けたゴドフリーが倒れる前、ヘイエルダールが男の前に立ち一気に後退する。
「くっ――待ちなさい、再誕の救済者! あなた達の目的は何なの! まるで遂行者の計画を利用してるみたい」
 痛撃を受けたセレナの眼前に立った男は、セレナを見ていない――見ていなかった。
「2人とも、構いませんね」
「……あぁ、分かったよ」
 応じたベルシェロンとヴィルヘルムも後退していく。
「僕達は再誕の救済者――愚かな人間たちの愚行(エゴ)の下に作られた憐れな同朋達を救う救済者。
 また会いましょう、トール=アシェンプテル。僕達の最後の弟」
 そう言い残して、彼らはどこかへと消えた。


 核たる触媒を破壊したイレギュラーズは現実へと帰還しつつもまだその場に留まっていた。
「女装も綺麗だが、本当の姿は真っ直ぐで素敵だな。その姿で生きれる日が来ると良いな。協力するよ」
 そう語ったイズマは改めて頷き。
「仲間としての信頼は性別では変わらない。俺もその大事な秘密を固く守ると誓おう」
 そう言って手を伸ばした時――上からガチャリと音がした。
 頭上を見上げればどこからか落下してくる工場製品らしきなにか――イズマはそれを咄嗟に魔力を高めて叩き斬る。
「……嘘をついていて、ごめん」
 全員に1度ずつウィッグを取った姿を見せたトールは改めて頭を下げた。
「大丈夫か? どこもケガはないか?」
 沙耶はトールに近づいて。
「……その姿も可愛くてかっこいいぞ」
 沙耶がいえば、トールは少しだけ照れた様子を見せてから。
「私、トールへの想いで負けるつもりはないからな?」
 それはトールに向けたというよりも、ちらりと視線を向けた先にいる女性たちに向けた物である。
「わたしはあなたも大好きよ。ひとつの嘘くらいで嫌いにはならない。でも、信じるに不足だとされてたのには怒ってる」
 そう語ったココロにトールは少しばかり緊張した様子を見せた。
「……だから、これでひとまずは許してあげます」
 ココロがトールのネクタイを軽く引き――鋭い音が響いた。
 真っ赤に晴れた少年の頬を張ったココロはその胸へと飛び込むと――そっと囁きを残す。
「次は男性として、わたしと踊ってくださいね」
 ちらりと牽制を残してココロは短く笑んだ。
「――約束します。ありがとう、ココロさん……おかげで緊張も迷いも晴れました。必ず踊りましょう」
「女の子だから仲良くなったわけじゃないし、事情も理解したもの。それに……親しい人相手ですら、自分を偽りながら接しなきゃならない。その重圧、苦悩はどれほどの物だったのか……わたしには想像も付かない、明かしてくれたあなたを、わたしは信頼したい」
 重ねてセレナが言う。
「……まあ、それはそれとして。2人とも!
 さっきも言ったけれど、話はじっくり聞かせてもらうからね!」
 平穏の騒がしさが取り戻されつつあった。

成否

成功

MVP

セレナ・夜月(p3p010688)
夜守の魔女

状態異常

なし

あとがき

お疲れさまでしたイレギュラーズ

PAGETOPPAGEBOTTOM