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シナリオ詳細

<0と1の裏側>無意式怪談・外伝、1Q99卯没瀬地区よりSOS

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 ある悪魔の物語を知っているか。
 かつて無名偲無意識と呼ばれていた希望ヶ浜学園校長、黄泉崎ミコトと契約していた悪魔の物語だ。
 古くはこの街を守っていた悪魔は、変わりゆく街をよしとせずその力を使い古き街へと縛ろうとした。街の自由と発展を選んだ黄泉崎校長はローレット・イレギュラーズたちと『契約』を交わすことで、悪魔殺しの計画を実行に移した。
 通常では不可能なほど入り組んだその手順を、まるで運命に導かれるかのように一つ一つ広い集め、パズルのピースが組み合わさるように集まっていくローレット・イレギュラーズたち。
 彼らはついに悪魔を倒し、希望ヶ浜の明日を手に入れたのだった。
 そんな騒動から明けて、しばし――。

「卯没瀬地区に新興宗教だと? COREか? 静羅川か?」
「いいえ、そのどちらでもありません」
 そう言われ、希望ヶ浜学園校長、黄泉崎ミコトは目を細めた。
 相手の調査員はタブレットPCを翳し、画像を表示させる。
「空白地帯にはなにかしら入り込むのが道理だが……よりによって、か」
 表示されていたのはグロテスクな天使を思わせる怪物の姿だ。
「――『WCTHS』、無粋なことを」

●WCTHS
 『健康と環境の持続可能性を科学するウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社(WCTHS)』とは、昨今希望ヶ浜に進出してきたいかにもなあやしいセミナー団体である。
 『気持ちを変えると自分が変わる、自分が変わると未来が見える』をスローガンに疑似科学でいっぱいになったセミナーや瞑想教室を開いて会員を集めているらしい。
 常識ある人間はそういったものにひっかからないが、再現性東京1Q99卯没瀬地区の人間達はつい最近まで世界の滅亡を信じていたような人間たちだ。目の前に耳さわりの言い希望をぶら下げられるとつい飛びついてしまうというのも無理からぬ話だろう。

「で、その背後にあるのは新興カルト宗教『綜結教会(ジンテジスト教会)』、と……」
 希望ヶ浜学園校長室。実質的に学園内の喫煙所と化しているこの部屋で、黄泉崎校長は煙草をくわえたままソファに深くよりかかった。
 ハアと息を吐き出し、天井を仰ぐ。
「卯没瀬地区は復興の真っ最中だ。そんなものに邪魔されている場合ではない筈だ。連中を排除できないのか」
「はい。掃除屋を向かわせたのですが――残念ながら」
 調査員は改めてグロテスクな天使型怪物――『量産型天使』の画像をトンと叩いた。
「これらの怪物の出現によって、排除活動は阻まれました。掃除屋にも負傷者が多数。それと」
「それと?」
 もったいぶる調査員は、続けてある施設の遠景写真を見せた。
「『神の国』事件に乗じて連中、確保した会員たちを拉致監禁しているようです」
「ああ……」
 黄泉崎校長は目元を手で覆ってしばらくそのままの姿勢でいると、煙草をガラスの灰皿へと押しつけた。
「仕方ない、か。特待生と教師たちを呼べ」

●WCTHSショップ監禁事件
 かくして、校長室にはあなたを初めとした特待生たちがスマホアプリによって呼び出されたのだった。
「既に話は聞いていると思うが、WCTHSの進出によってよくない事件が起きている。
 『神の国』については知っているか? あえて詳細は省くが、練達各地はルスト勢力からの攻撃を受けていてな。その混乱に乗じてWCTHSの連中が会員たちを拠点施設に拉致監禁する事件が起きている」
 監禁されているという施設は一見するとただの三階建てテナントビルだが……。
「ビルには特殊な結界が張られているらしい。窓を破っての侵入には失敗している。入り込むなら屋上か正面入り口のどちらかになるだろうな」
 逆に言えば、その両方から突入すれば挟み撃ちにできるということでもある。
「そして内部には、『量産型天使』の存在も確認されている。
 天使を倒し、WCTHSの職員や信者たちを摘発するのが今回の仕事になる」
 あとは頼むぞ、とタブレットPCからデータを送信すると、黄泉崎校長はすとんとソファに背をもたれさせた。
「全く、休む暇を与えんな。世界というやつは」

GMコメント

●シチュエーション
 希望ヶ浜からやや離れた卯没瀬地区。この場所でWCTHSによる監禁事件がおきています。
 施設に突入し、襲いかかってくる天使たちを撃退し職員達を検挙しましょう。

●エネミー
・量産型天使
 グロテスクな見た目をした怪物たちです。
 長剣などの武器を装備しており、それなりの戦闘力をもっています。
 また、施設の長として『致命者』がいることが確認されています。これの戦闘力もそれなりに有るはずなので制圧の際にはご注意ください。

・フィールド
 WCTHSが買い上げたテナントビルです。
 屋上と地上の二箇所からしか突入できないよう結界が張られていますが、逆に言えばその両方から突入が可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●希望ヶ浜と学園
詳細はこちらの特設ページをどうぞ
https://rev1.reversion.jp/page/kibougahama

  • <0と1の裏側>無意式怪談・外伝、1Q99卯没瀬地区よりSOS完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)
黒鎖の傭兵
ロレイン(p3p006293)
ゼファー(p3p007625)
祝福の風
ウルリカ(p3p007777)
高速機動の戦乙女
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)
母になった狼
囲 飛呂(p3p010030)
きみのために
荒御鋒・陵鳴(p3p010418)
アラミサキ

リプレイ


「じゃあ、まとめて正面入り口から突入するということでいいわね?」
 スティックシュガーの封をあけ、ロレイン(p3p006293)は中身を滑り落とす。紙製のコップに入ったブラックコーヒーにみるみる溶けいる砂糖を、木のマドラーでかきまぜる。
 ここは再現性東京1Q99卯没瀬地区。一度世界の滅びとやらを向かえ、しかし滅びなかった街。言い方を変えれば、滅び損なった街。
 そんな街でも人は生きねばならぬようで、復興間もない建物では既にカフェやらなにやらが営業を再開している。
 ここはそんな一角。目的となるWCTHSテナントビルのはす向かいにあるカフェである。
「確認するのですが……その『WCTHS』という連中はルスト勢力と関わりが?」
 『高速機動の戦乙女』ウルリカ(p3p007777)のそんな問いかけに、資料を片手にした『アラミサキ』荒御鋒・陵鳴(p3p010418)が小さく首を振る。
「『神の国』騒動に乗じて動きを活発化させた集団、ということらしいね」
 そして、資料に書かれた組織名を凝視する。
「やれ、此の地も次から次へと落ち着かないものだ。
 うぇるねす・くらふと何とやら。単語を幾重にも連ねた奇怪な名は、まるで目眩しの様じゃあないかね?」
「これでもこの国に管理区画(領地)を持つ身、神の国に好き勝手されると困りますね……」
 そこでふと、ウルリカはもうひとつの疑問に思い至った。
「この国に帳を下ろしたとして、何が起こるのですか? どう書き換わると?」
「『順当』に行くなら、イレギュラーズがいなかった場合の歴史って所かしらね」
 『猛き者の意志』ゼファー(p3p007625)がコーヒーに口をつけながら言う。仕草ひとつひとつに見える色気は二十歳のそれとは思えない。
「マザーコンピューターの暴走。竜種の襲来。どっちも、私達がいなかったら収拾できなかったトラブルじゃない?」
「なるほど……」
 練達がその都市機能を喪失していたと? と、ウルリカが続ければ、ゼファーは『さあ』と肩をすくめて返す。
 ひどいことにはなっただろうが、イレギュラーズを除く練達の者たちが完全に無力であったとは流石に思えない。三塔主しかり優秀な人間はあちこちにいるものだ。それなりのことには、なったのかもしれない。
「どのみち、そんなことにはさせない。ここは俺の故郷だ」
 『点睛穿貫』囲 飛呂(p3p010030)がドーナツを囓って決意を硬く目に宿す。
 その視線は次に、はす向かいにあるというテナントビルへと向いた。
 直接見えているわけでこそないが、壁を通してにらみ付けているかのようなプレッシャーが彼にはある。
 やっと其方側に話がむいたなと思ったのか、『持ち帰る狼』ウルズ・ウィムフォクシー(p3p009291)がドーナツを小さく振ってみせる。
「話戻してもいいすか? 確か今回の依頼って、過激な新興宗教の検挙でしたよね。
 WCTHSだかなんだか知らねっすけどぶっ潰してやるっすよぉ……COREみたいにな!」
 ビシッと指を立ててみせるウルズ。今更ながらここの払いは経費扱いになるらしい。校長いわく経費という名の『使い込み』なのだが、その辺は正直どうでもいい。
 重要なのは、これからなにをやるかだ。
「正しい歴史どうのこうのって話だが結局は終末論者の「自分達が正しいんだ!」って自分勝手な理屈の押し付けだろうが……上っ面程度しかいいとこの無いゴミどもが」
 『黒鎖の傭兵』マカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)がいつになくイラついた様子でコーヒーを飲み干す。
「そのせいでこんな事件も起きて迷惑被るのはいつも鎮圧に走る連中だよ。絶対ゲテモノどもは潰す」
「荒れてるね。まあ今回は遂行者とは別の連中みたいだけど、根っこは同じようなものかな」
 『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)が苦笑してマカライトに同意を示した。
「スローガンといい何と言うか如何にもって言った感じの胡散臭さよね。そんな連中の言葉に騙されて拉致監禁だとか現実逃避も大概にしろと言いたいところだけど」
 事実、今まさにあのテナントビルの中にはこの辺の市民が監禁されているという。
 そんなことをしていったい何が目的なのかと疑うところだが、その辺はあとの者が調べてくれるだろう。自分達の仕事は、飛び込んでいって千切って投げて、そして首謀者たちを捕まえることである。
 最後にコーヒーの中身を飲み干すと、ラムダはコトンとカップを置いて立ち上がった。
「さ、行こうか。悪者退治に」


「俺、普通に疑問だったんだけど」
 飛呂は半透明な扉を手押しで開き、白いタイルの床を踏んだ。
 クーラーの効いた涼やかな風が頬をなで、なんともやかましい、それでいて聞き覚えの一切無い音楽が耳につく。
 が、それだけだ。
「突入っていう割に、結構静かなんだな。もっとドカドカ飛び出してくるもんだと思ってた」
 一階のフロアにはパーティションが置かれ、警戒しながら入ってみると大量のヨガマットの敷かれた広いスペースへと出る。階段はそのずっと先にあるようで、フロアを抜けていく必要がありそうだ。
 綜結教会なる組織のポスターが壁にべたべたと貼られ、なにやら含蓄があるんだかないんだか分からないような言葉がばーっと書かれている。一目見て「インチキ宗教臭いな」と思える部屋だし、もしヨガ教室を体験するつもりで入ったなら隙を見て帰ろうとしたことだろう。
 そういう意味での『ヤバさ』はあるものの、縛られた人がいるとか刃物をもったサングラス&マスクの狂人がいるとか、まして写真でみた『量産型天使』がぞろぞろ並んでるとかいう物理的なヤバさは感じられない。
「入り口からして物々しかったら警察沙汰だろう」
 マカライトがそう言いながらも槍を手にし、ジャケットの手首あたりからじゃらりと鎖を露出させている。いわゆる臨戦態勢だ。
 それはゼファーも同じらしく、槍を握る手が小刻みにぴくぴくと動いている。どこから誰が襲いかかっても返り討ちにするための、一見リラックスしたような臨戦態勢だ。
 ちなみにこの手の姿勢は酒場で流血沙汰を頻繁に起こすヤツがよく習得する『型』で、できるだけリラックスしていつでもかかってこいという姿勢を見せ付けるためにある、らしい。その辺はウルズが自然と習得しているようで、わざわざ両手を頭の後ろに組んでてらてらとした歩き方をしている。気を抜いているのではない。『お前らごときいつでも殺せるぞ』という意思表示を、見ている者にしているのだ。
 実際誰がどこで見ているのかは、フロアのすみに設置された監視カメラを見ればわかることだろう。
 と、そんな時。
 ウルリカはピタリと足を止めた。本能がそうさせたとしか言えないが、飛呂は具体的な理由を持って同じように止まった。
 そして、その具体性を口にする。
「上だ!」
 その声を聞いたことで、ロレインは素早く動くことが出来た。
 天井が突如として崩壊し、槍を持った量産型天使がロレインの頭を狙って槍を突き出してきたのだ。
 対してロレインは大きく前方に転がるように飛び、ごろんごろんと二度ほど転がってから肩より下げていたライフルを構えた片膝立ち姿勢をとって反転。その瞬間に視界に入ったのは、地面に槍を突き立てていた量産型天使だ。人型をしたそれはみるからに歪で、頭部はヤツメウナギのように長く口は首元まで裂けていた。あのまま棒立ちでいたら、今持っている槍はロレインを貫いていたかもしれない。
 ――などと思うよりもはやく、引き金を引いていた。
 バスン、と肩を貫く弾丸。と同時にウルリカの掌底が量産型天使の背骨に叩きつけられた。
 『AAS・エアハンマー』の応用技。片足を軸に高速スピンをかけることで衝撃を片手に集中させ、至近距離の敵に対してもエアハンマーを打ち込むテクニックだ。
 ボグンという、およそ人体から聞こえたら死を覚悟するような音がして量産型天使が突き飛ばされる。
「閉所での戦いは不得手なのですが」
 などと言いつつウルリカは目で仲間に合図を飛ばしていた。
 仲間。つまり陵鳴にである。
「案ずるなかれだ」
 飛んできた量産型天使を『荒御鉾・陵鳴』で突き、貫く。槍で貫くという動作なのだが、そのサマは『槍に突かせる』と言って良いほど槍側に意識が寄っていた。それもそのはず。この槍は陵鳴の本体なのである。ご神体と呼んでも良い程度には。
「畳みかけてくるよ、備えて」
 ラムダは天井にあいたあなから大きく飛び退くと、後衛タイプの仲間を庇うように位置取りをして魔導機刀『八葉蓮華』の柄に手をかける。
 抜刀まではしないのは、今はその時ではないからだ。
 穴を通じて数体の量産型天使が一階フロアへと降りてくる。
 そのうち一体がラムダをとらえ、そして『ギョフフ』と気持ちの悪い声をあげながら突進をしかけてきた。
 槍を前面に突き出した凶悪な突きだ。くらえばそのまま壁際までもっていかれるに違いない――が、ラムダは冷静だ。クンッと姿勢を低くとると相手の槍を紙一重で回避。直後に魔導機刀の機構を作動させ、圧縮魔力を爆発させる。つまりは銃の弾を放つのと同じ原理で高速抜刀したのである。ソリをレール代わりにして走った刀身は正確かつ高速で量産型天使の胴体を切りつけ、そのまま骨まで切断する。
 一瞬遅れて吹き出た血を気にすることもなく、マカライトとゼファーの槍が同時に量産型天使をつき貫いた。
「せー、のっ」
 二人がかりで持ち上げ、そして投げる。
 投げた先は別の量産型天使だ。防御――しようとした矢先にウルズの飛び膝蹴りが量産型天使の後頭部に炸裂。
「チャンス、っすよ!」
 叫ぶウルズの視線は、飛呂へと向いていた。
 誰よりも早く量産型天使の奇襲に気付いていた飛呂は、誰よりも早くその場を飛び退き、そして狙撃位置についていた。
「ああ、いい位置だ」
 パパン、とライフルを三点バーストで射撃。三発の弾はあろうことか量産型天使たちの頭部に一発ずつ見事に命中したのだった。
「相手の奇襲は失敗、と」
「てことは人質が危ない。急ぐぞ」
 マカライトは階段へと走り、一方でゼファーは落ちてきた天井の瓦礫を足場にして跳躍。二階フロアに手をかけると勢いよくよじ登っていく。
 ウルリカはその双方を見てから、妖精(浮遊光源ユニット)を連れて跳躍。二階を目指す。

 実際、二階フロアはひどいものだった。
 何日も人間を閉じ込めたとおぼしき様子があちこちに見られ、手足を結束バンドによって拘束された人間がフロアの端に集められている。
 量産型天使はその一人をつかみ取り、盾にするかのようにこちらに翳してきた。
「天使は天使らしく天に召してろ」
 静かに怒りを見せたのは、マカライトだ。
 袖から放った鎖が長く長く伸び、赤熱したそれは人質の横をすり抜けて量産型天使へと巻き付いた。
 ギエッと叫ぶ量産型天使。
「これが量産型天使、ね」
 ロレインはそんなマカライトの隣で立ったままライフルを構える。
 リロードし魔術弾を装填すると、素早くサイトを覗き込んだ。
「さて、神の国は練達にまで手を出して……もしかしなくても全世界をルスト一人で相手するつもりなのかしら? 全世界分の正しい歴史の予言……ちょっとだけ興味はあるわね?」
 などと嘯きながら、引き金を引く。
 銃弾は人質の足の横をすりぬけ、量産型天使の足へと命中した。
 人質を投げ出し、よろめく量産型天使。
 そこへゼファーとウルリカは素早く距離を詰めた。
 首を掴み、膝蹴りをいれ、身体を無理矢理へしおったあと地面に頭を叩きつけるゼファー。
 その頭を、ウルリカは思い切り踏みつけた。
「自分が変わると未来が見える、ねえ。ある意味共感を抱かなくもない話ですけど。
 生憎、そういうのはこんな場所で誰かと肩並べて教わるもんじゃないのよ。
 自分の足で歩いて、自分で見たモンで学びなさいな」
「それで……あなたがこの事件を?」
 ウルリカがちらりと見ると、人質たちの中でゆらりと立ち上がった人間がいた。
 一般的なサラリーマンめいた外見をしているが、どうも目元が暗い。病んだような顔をした、男性だ。
 彼は懐から拳銃を取り出すと無造作にそれを連射する。
「おっと」
 ラムダは仲間との間に割り込んで刀を振り抜き銃弾を切断。一方でウルズが素早く走り、男のすぐそばに寝転んでいた女性を抱え距離をとった。
 人質をとりそこねたという風に、男は空いた手をわきわきと動かす。
 が、その表情に焦りや怒り、ましてや敵意のような感情はみられない。
「なんすかこいつ。死人みたいに無機質っすね」
「死人、死人……なるほど、『致命者』か」
 ラムダが呟く。昨今ルスト勢力が使ってくるエネミー体の中に、死者を象って作られた人形があり、それを総称して致命者と呼んでいる。
「ならば、言うだけ言っておくかな」
 陵鳴は槍をぐるりと回し、そしてこじりを地面に立てるようにして堂々と見栄を切った。
「悪事に神の名を借りる愚か者共へ告ぐ! 地に伏せ、赦しを請え! 黄泉より遣わされし御先が通るぞ!」
 当然、ただ見栄を切ったわけではない。カッと光を放ったことで相手を圧迫する。
 ただの光ではなく、敵をなぎ払うほどの力を持つ光だ。
 それを浴びて咄嗟に防御姿勢をとった男――だが、その腹に銃弾がばすばすと命中した。
 飛呂のものだ。
「終わりだ」
 呟く飛呂の前で、男は……ずぐずぐと泥のように溶けて消えてしまった。


 数台のパトカーが建物の前にとまり、監禁されていた人々を救出していく。
 その光景を眺めながら、ラムダは小さく息をついた。
「この件は、これで終了かな?」
「っす、ね……」
 また頭の後ろで腕を組むウルズ。
「けど、ルスト勢力がこの件に首突っ込んでたっぽいのが気になるっすねえ。他の国でも似たようなことやらかしてないっすかね」
「可能性はあるでしょう」
 ウルリカが嘆息したように目を瞑る。
 飛呂は銃をケースにしまい、肩からさげてから仲間たちを見た。
(今回は練達の中だけの事件だった。けど、ルスト勢力の狙いが全世界だっていうなら……俺にも他人事じゃ済まされないのかもな)
「『余所の国にも足を向けてみるか』――なんて?」
 心を見透かしたようなことを、隣に立っていたゼファーが急に言った。
 咳払いをする飛呂のかわりに、マカライトが肩をすくめて答える。
「俺たちはローレット・イレギュラーズだ。空中神殿を通して世界中を行き来出来る。相手が世界に根を張ってるなら、やっぱり俺たちの出番だろ」
「そう、ね……」
 ロレインは何かを深く考え込むようにしてうつむいている。
 陵鳴がそれを尋ねるように頭を向けると、こくりと頷いた。
「この先、どこが狙われると思う?」
「ふむ……時期からして、豊穣か。その先は――」
 陵鳴は言いかけて、言葉をとめた。
 ここまでくれば、言わずともわかることだ。
「『余所の国にも足を向けてみるか』……か。まさに、その通りだな」
 世界の危機が迫っている。
 ならば、立ち向かえるのは――。

成否

成功

MVP

囲 飛呂(p3p010030)
きみのために

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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