PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<0と1の裏側>いつの日にか歪みを

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 希望ヶ浜には、光と影とが存在する。
 すべて都市圏においてありふれた話であり、議論の余地もないのだが、その中でもひときわ「うらぶれた」様子のビル街があった。
 数年前の出来事をうっすらと覚えている市民であれば、そこが怪竜ジャバーウォックの襲撃に伴い破壊された場所であることを知っていることだろう。当然、オブラートに包んだ表現つきで。
 そんなビルの一角を陣取った『とある団体のアンテナショップ』……『健康と環境の持続可能性を科学するウェルネス・クラフト・テクノロジー・ハートフル・ソリューションズ株式会社(WCTHS)』の希望ヶ浜支店内は、今や混乱の中にあった。
「皆さんがご存知の通り、この新たな発酵飲料、謂わば『キノコジュース』とでもいいましょうか! 食事を置き換え、発酵に身を委ね、ただただ穏やかに、すべてを忘れて此処で過ごすことによって大いなる意思の片鱗を見ることができます!
 私達は大いなる意思に従い、未来が見えるように努力せねばなりません……それはいつか、皆さんの明るい未来への足掛かりとなることでしょう!」
 いかにもな撫でつけられた頭髪、不自然な笑み、そしてくねくねとした不愉快な挙動。スーツに塩化ビニール製のエプロンを羽織った男は、呆然とした顔で椅子に座り『キノコジュース』を手に不安げな表情を浮かべる人々に語り掛けた。
 数にして20はくだらないだろうか? 不安半分、これから来る未来と『大いなる意思』を感じ取る期待半分といった様子だ。
 語り掛ける男、『店長』を名乗る彼と取り囲むように同じエプロンを羽織った『店員』。物陰には、何か得体のしれないものがいる気配があった。
「不安でしょう、つらいでしょう、でも気にしてはなりません! 大いなる意思につながった皆さんなら、きっと全てが輝いて見えるのですから!」
 居並ぶ人々――以前よりこの『店長』経由でWCTHSの活動に賛同していた彼等は、本当に健康や幸福を求めているだけのただの小市民だった。転機が訪れたのは、数週間ほど前。同じく賛同者だった者がひとり、ふたりと『扉を開いた』として失踪し始めたことから、疑問に思う者も出始めたのだ。だったから、だろうか。『店長』や店員は、その疑問に反応するように人々を集めた。有体に言えば拉致したのだ。そして、今。ここにいるのは『扉を開く為の試練』と称した儀式のため。
 疑問に思っているかもしれない。不安があるかもしれない。しかし彼等は、目の前にあるジュースにしか己の寄る辺を持たぬ者達だ。社会生活への漠然とした不安を解消する術を持たぬ者達だ。
「では、皆さん! 高らかに……乾杯!」


 希望ヶ浜において、WCTHSを名乗る団体の活動が活発化している。その活動の多くは眉に唾を塗るが如くのつまらない言説であったが、その断定的な話しぶりや強引な勧誘、そして行方不明者まで現れたとなれば警察の領域となる。
 の、だが。このWCTHSなる団体に、希望ヶ浜だけでは手におえない存在が、つまりは『神の国』や『遂行者』達の影がちらついたことで、その手を離れ、ローレットの領域と化した。
 大雑把に『勧誘』を続けていた拠点の一つはすでに割れていて、行方不明者達が関連性があったことも明らか。救えるかどうかの分水嶺といったところで、イレギュラーズは廃ビル内の『店舗』にに乗り込むこととなった。
 足を踏み入れてわかる、饐えた匂い。
 異常な色をした液体が注がれたコップを手に手に取る人々。既に飲み終えたのか、転がっている人もいる。
「おや……お誘いあわせのうえで、とは皆さんに話しましたが、どうやら誘われていない方々のようですね」
 店長は笑みを崩さず、否、敵対的な笑みを浮かべてこちらを見てきた。
「不法侵入者となれば排除しなければ。皆さんの『扉を開く』障害たれば、彼等は排除しなければ。そうでしょう?」
 彼の声に、倒れていた人々が糸で引っ張られたかのように立ち上がった。
 一同の周囲を取り囲む異常な気配が、あらためて薄暗がりから這い出てくる。
 人の形と天使の羽根を象った存在のように見えるが、伝承の天使や、それどころか影の天使とすら一線を画す特徴があった。
 歪なのだ。子供が粘土をこねくりまわしたような醜悪なデザインをしたそれらが、人々の周囲に控えていたのだ。
 未だ液体を飲んでいない人々はしかし、異常が理解できず声も出せない。おそらくは放置されるだろうが、いつ命を落とすとも、液体を飲むとも分からない。
「申し遅れました、わたくしはこの支店を預かっておりますセルベッテと申します。嘗ては天義で……こう、罪を裁かれた者でした」
 セルベッテと告げた男は己の首の前で手刀を横切らせた。断罪をうけた者……つまり、致命者であると。

GMコメント

 流石にちょっと昔のアレな言葉が出てきそうになりましたが、権利関係が怖くて没になりました。

●成功条件
・致命者セルベッテ、及び敵対勢力の完全無力化
・(努力目標)一人でも多くの『信者』を社会復帰可能な状態で事後処理を終える(後述)

●致命者セルベッテ
 天義の一件で出現が確認された「致命者(≒断罪されたり、過去の天義の事変で死んだ人や関係者)」のひとりです。犯罪者であったことを仄めかしているので、遂行者の配下である可能性もあります。
 特殊能力などは確認できませんが、エプロンの内側に大振りの肉切り包丁2振りを隠し持っており、【出血系列】BSを与える近接重視の敵であることは疑う余地がありません。
 とはいえ、包丁を投げるなどで中距離までカバー可能とみられます。人々を慮る気はなく、場合によっては殺してしまうこともあるでしょう。

●店員(異言話者)×4
 セルベッテが連れてきたWCTHSの構成員。もしかしたら、希望ヶ浜の住人であるかもしれません。脳のリミッターが外れているので、そこそこの実力を有します。
 基本的には拳足による攻撃ですが、それらが改造されていないとも限りません。

●量産型天使×5
 何らかの形で生み出された、異常な外見を持つ天使型のエネミーです。低空飛行可能。
 不愉快な声を撒き散らし、穢れた血を振りまき、攻撃行動以外(至近のパッシブスキル)により周囲に害をばら撒きます。
 この害は人質を即座に死なせることはありませんが、皆さんに対してはそれなりの威力が適応されます。なお、能動的攻撃はこれ以外行いません。
 なお、これらの行動に巻き込まれ、人質が『扉を開く』確率が上がることもあり得ます。

●人質(信者)×20
 冒頭部分で液体を飲むよう強いられている人々です。突入時点で、5名ほどが既に飲んでいます。
 この人達に関しては段階を踏んで救出可否があり、1段階下げるのに【BS回復】スキル1回の成功が必要です。下記は段階移行の目安です。
段階0:液体を飲んでいない。液体を取り落とさせ、安全圏へ運べばセーフ。
段階1:飲んでいないが、量産型天使の影響下に1度置かれた。
段階2:液体を飲んだor量産型天使の影響後、1ターン経過
段階3:段階2から1ターン経過(救出可能最終ライン)
段階4:『扉を開いた』状態。救出不可能。少し頑丈な雑魚として扱う
 なので、段階1以上の対象は1~3回のBS回復を同一ターンで成功させないと0に移行しませんし、戦闘終了まで段階2⇔3で反復横飛びさせ、段階3のまま戦闘終了(段階無効化)して救出成功、も可能と言えば可能です。
 成否に関係しないので、余り深く考えない方がいいかもしれません。編成次第では全滅プレイを推奨します(そうしないと難易度が上がります)。

●戦場
 廃ビル内、大会議室(廃ビルなのをいいことにフロアぶちぬきにしたもの)。
 四方60m、人質は初期位置から20m前方に固まっています。突入位置以外の三方に、店員および量産型天使が配置。
 最奥にセルベッテがいます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <0と1の裏側>いつの日にか歪みを完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)
炎の守護者
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ロレイン(p3p006293)
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し
火野・彩陽(p3p010663)
晶竜封殺

リプレイ


「うーん、どうみてもヤバい液体……これを飲むとか正気なのかな」
「新興宗教の真似をして飲ませたんだろうし、そりゃ飲むよ。追い詰められた人達なら、ね」
 人々が手にし、或いは転がったグラスから零れる液体――「キノコジュース」と主張されたものを一瞥し、『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)は不快感を隠さず信者達を見た。飲まなかった者はまだ理性があるが、場の空気とセルベッテと名乗る男に呑まれて口をつけたなら、同情もできる。『炎の守護者』チャロロ・コレシピ・アシタ(p3p000188)はあちこちの国に手を出し、その地に沿った侵略手段を模索する彼等の手広さに不気味さを覚える。主義主張はあるのに節操がない、芯はあるのに手段を選ばない。どうにも底が見えてこない相手だと。
「『扉を開く』……?」
「まやかしの嘘っぱちや、嘘吐きのアホンダラの言葉は聞く価値ないわ」
「Uh……苦しんでる人がいるなら、まちがいだと思う」
 『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)がセルベッテに怪訝な表情を向けると、それを引き込まれそうになっている、と認識した『放逐されし頭首候補』火野・彩陽(p3p010663)が即座に否定する。そんな話に付き合うまでもない、それは事実だ。当然ながらリュコスも戯言だと認識しており、『扉を開く』ことが死やそれ以上の悲劇の隠語であるなら、到底容認しかねることに同意していた。彩陽の目は、その場の遂行者の手の者に対して激しい敵意が覗いている。
「練達……再現性東京は結構思い入れがあるのよ。希望ヶ浜の教師としてだったり………………兎に角! この街をこれ以上傷付けさせないわ!」
(なんか口籠ったな?)
(何か思い出したんでしょうね)
(色々と『経験豊富』でありますからなぁ)
 『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)が希望ヶ浜、ひいては練達全体に思い入れがあるのは事実だ。教師としても、彼女はこれ以上ないまでにうまくやっている。他国で振る舞うそれと同じように、その振る舞いには慈愛が溢れている――のだが、どうしても口籠るような経験もある。『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)やロレイン(p3p006293)、『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)に至るまでがローレット経由で見知っているそれらの出来事もまた、彼女にとっては価値ある思い出であり、『正しい日々』であった。
「あの天使、あまりに醜悪な見た目……影の天使ってマシだったのね?」
「拠り所のない奴に優しい言葉をかけて誘導して、自分の意思通りに動く人形にする奴はよくいる。いるが、こりゃあ、なあ」
「あなた方のような真実から遠ざかった方々にはわかりますまい。宗教というものは、常に無理解と不寛容をぶつけ合う戦争のようなもの。我々にとって素晴らしき神の化身は、異教徒共には怪物に見える、ただそれだけのこと。ここにいる皆様も、きっと分かってくれる筈……!」
 ロレインとカイトが物陰からこちらを覗く『量産型天使』の姿に顔をしかめるが、セルベッテはそんな天使を愛らしいものに向ける表情で見ている。明らかに、常軌を逸している。
「私は天使は嫌いなんだ。醜い恰好で現れてくれてむしろ助かったよ」
「助けてやるとか救ってやるなんて言う気はねえよ。俺達の『傲慢』のために最低限、ここではそいつらに生き延びて貰う」
「不安になってる人たち巻き込んで馬鹿やってんじゃねえ! もういっぺん地獄行きや、お前は!」
 ルーキスは「天使」を嫌っている。
 カイトは「人質の人生」には興味が無い。ここを切り抜けた後、決断は本人に委ねる。
 彩陽は、不安を煽って道を外させるやり方がなにしろ気に食わない。
 期せずしてセルベッテは、この場に集ったイレギュラーズの多くにとっての地雷を踏みぬいた形となった。
「あたしが人質をなんとかする! その間、そいつら任せるわよ!」
「オイラの目が黒いうちは、練達に帳は下ろさせないし、一般人を犠牲にしない!」
「ひとじちは、みんな助ける……!」
「――ってことだから、手が回らない連中の邪魔はさせてもらうぜ。嫌がらせは得意分野なんでな」
 リアの自信と決意に満ちた宣言は、一同に『助けられる』という実感をより強く感じさせた。倒すだけなら、力技で通せる。加速度的に悪化する状況を押し返すだけの慈悲と決意を、その手に握らねばならない。チャロロ、リュコス、カイトはそれぞれ別々の方向から迫らんとする敵を見据え、駆け出した。


「そんな飲み物はやめておきなよ。殺したくないからさ」
「え、なんっ……」
 ルーキスは正面目掛けて真っすぐ駆ける。進路上で障害になる女性の襟首を掴むと、液体を口にしていないことを確認。無理矢理ながら後ろに放り投げた。これには仲間達も呆気にとられたが、地面を滑るように投げ飛ばされたために怪我はなく、気休め程度ながら入口に近づけた。彼女は投げ捨てた相手を一顧だにせず、視界に入った天使を打ち抜く。
「天使も、店員も、セルベッテも……近付けさせなければ、脅威じゃない!」
「そんなに簡単に事が進むと、……!!」
 続けざまに放たれたリュコスの呪術は、その言葉通り正面の天使や店員、そしてセルベッテすらも巻き込んだ。威力の低さを認識し反撃に出ようとしたセルベッテはしかし、指先が思うように動かぬ事実に舌打ちする。
「カイトはん、こっちの天使は俺達の獲物や!」
「させるか……っ!」
 彩陽がカイトに叫び、天使に向けて弓を引く。咄嗟に天使を庇いに駆け出したのは店員だったが、その動きは彩陽にとっても、カイトにとっても余りに緩慢だった。地面から湧き出した「雨」が敵を打つと、店員もは足をもつれさせ、天使も一拍遅れて届いた彩陽の銃弾を避けることなく受け入れてしまう。不幸があるとすれば、一撃で仕留められなかったこと。それ以上の幸運があるとすれば、その場の敵の運命が、最悪に向けて舵を切ったということ。
「オイラが相手だ! ついてこい!」
 チャロロは天使に向かって高らかに名乗り、他の天使や店員に合流させる形で引き付ける。接近したことで漏れ出る天使からの「祝福」は確かに彼の力を削ぎ、体力を奪いにかかった。が、その程度、何ほどのこともない。これを信者が受ければ最後、最短20秒で人の形を保てなくなるのだ。
『……シテ』
 そんなチャロロの決意を見届けたからだろうか? その訴えが聞こえたのは。微かな振動、声と呼ぶのも烏滸がましいほどの掠れた響きは、たしかに『殺して』といったのだ。
「わかった」
 唇を噛み切らんばかりに食い込んだ歯を自覚しつつ、チャロロは付かず離れずの距離を駆ける。この天使も仲間が足止めしている個体も、今ここで殺さなければ。生かしてはおけない。
「あなた達が自分の日常を脅かされて不安に震えるのは分かるわ。でも、あんな怪しい連中よりも、一先ずはあたし達を信じてみて……希望ヶ浜学園の教師として、あなた達の日常は守ってみせるから」
 3方向から人質に迫る敵を、仲間達は恐ろしくスムーズに足止めしてみせた。ならば、ここはリアが返す番だ。戸惑いを隠さない人々の視線を一身に受け止め、自分が寄り添う、自分に寄り添え、と言外に彼女は告げた。
 天使が近づけば、またたく間に事態は悪化する。液体を飲んだ人々は、早急に手を打たねば悪化する。そして、よしんば助かっても巻き添えになれば軽々に死ぬ。
 助けたい。助けられる……今ならば。組んだ手に祈りを載せて、リアは信者達の魂を汚染する『それ』を打ち払った。


「滅びを掲げて、怪しげな飲料で犠牲者を増やすとは……練達の衛生管理法にも抵触してそうね?」
「扉を開くって、もしかしてあの天使……」
「……ハハッ、怖いですか? 恐怖が顔に出ていますよ! 世を儚んで命を捧げようとしている彼らがそんなに、怖く見えますか? まあ――『天使の正体』なんて、知らないくらいが丁度いい。そこの天使達も、私は下賜されただけですのでね!」
 ロレインとリュコスはリアの周囲で毒気を抜かれ、今にも脱出を始めんとする人々を一瞥して顔を顰めた。扉を開く、という戯言を信じると人として後戻りができなくなる。その事実を照らし合わせれば、周囲に散った量産型天使と整合性があるように思える。だが、セルベッテはそれを否定した。飽くまで人としての生命を終わらせるのは彼の趣味で、天使の正体は彼も知らない。そんな言葉とともに、彼は自らの呪縛を引き剥がして得物を構えた。
 振り上げた包丁を投擲しようとした彼は、しかし視線の先に立ちはだかったリアの眼力に押され、反射的に狙いをリュコスに切り替える。ダーツのようにまっすぐに突き進む一撃は、たしかに彼女の腕を掠めた。掠めたが、それ以上の傷にはならない。舌打ちした彼の指先が店員と天使に指示を飛ばすが、彼らは動きを途端に鈍らせ、続くイレギュラーズの攻勢をまともに受け止めていた。
「チッ――運命操作か!」
「こんな神もへったくれもなさそうな国で天使に会えるとはね。驚いたから、天使の加護と私の悪運、どちらが強いか試したくなった。結果はご覧の通りさ」
 ルーキスは悪びれもせず肩をすくめるが、その結果は一目瞭然。店員も、天使もまともな攻防は期待できまい。状況は自分に明らかによろしくないが、さりとてセルベッテは諦める気は、まだないらしい。
「今のうちに出口に逃げなさい。奴等は追ってこないわ」
「出口が分からんか? あっちや! 振り返らずに走りぃ!」
 セルベッテの謀略による侵食を免れた人々は、彼女の声を聞くなり走り出す。が、一部の人々は自我境界が薄くなっているのだろう、出口を認識しきれていない。咄嗟に出た彩陽の声、そして指し示す方に従ったのは、眼の前で行われる戦闘、その信頼性からだろう。
「このカルト野郎、練達にまできやがって! この国まで歴史をなかったことにするつもりか?」
「ええ、滅びるべきは滅び、世界は在るが儘にあるべきなのです。そういう意味では、この国ほど歪なものもそうはない。思いませんか? 『ろくでもない』と」
「思い込みと傲慢な言い分で好き勝手言ってるだけじゃないか!」
「傲慢、大変結構なことです。私が二度目の命を与えられたのが傲慢に基づくなら、それこそ我らの正義だ」
 チャロロの怒りの声を受け止め、セルベッテはなおも表情と余裕を崩すことはない。彼は死を免れたゆえの信仰ではなく、生き返った感謝でもなく、『再生産された紛い物として』セルベッテという存在を再生するレコーダーでしかない。
 ただ、それに今回の黒幕連中の信仰というノイズを混ぜられただけの。
「子供の日記帳みたいな導きに縋るしかないなんて、あんたらって哀れよね。致命者セルベッテ、あんたはここで『正史』の守り手たるあたし達が、裁いてあげるわ」
「二度目の断罪、受け入れて眠れ」
「――お断りです。受け入れるくらいなら、傷跡のひとつも残さねばヘンデル様の機嫌を損ねる。貴方がたを殺すとは言いませんが、多少は口惜しいと思わせなければ」
 リアとロレインの視線に、これ以上生かせぬという敵意が溢れる。
 セルベッテは両者の殺意を受け止めながら、『敵わぬ』と直感で理解しながら、それでもその目に毒々しい意思を汲み上げて息を吐く。死物狂いの残存勢力を足しても3対8……否、7か。ひとりはなんとか倒したが、いつゾンビのように起き上がることやら。イレギュラーズは『しぶとい』のだから。
 身構えたセルベッテの胴を、ルーキスの全力の一撃が貫く。破壊力と精度を鑑みれば、恐らく腹に大穴が空いてもおかしくない威力、否、実際に腹部の肉は大きく抉れていた。だが、セルベッテは最後の最後で、彼女の首筋目掛け刃を振り下ろした。激しい出血と負傷があったのは事実だが、しかし次の瞬間、それはなかったことにされた。治癒術師複数名を前に、乾坤一擲の一撃はただの凡庸な仕手に過ぎなかったのである。
「……死んだ?」
「死んだけど、満足そうなツラぁしよってからに。ほんと、きな臭い奴ですわ」
 リュコスはその顛末を見届け、周囲の者達の死と気絶とを確認し誰ともなく問う。彩陽はその死に様、死に顔を見て酷く機嫌を損ねたようだった。

「あたし達はこの世界の正史を歩んでいかないといけないの。だけど、一人ぼっちでないといけないなんてことはない」
「今回は生かしたけど、それも俺達の傲慢だ。俺達が杖を渡しても、歩くのに使うのか誰かに振り上げるのかはアンタ達次第だし、さ。……どうしたらいいか分かんないなら、このおっかねえお姉さんが教えてくれるさ」
 リアの言葉に、カイトが言い添える。若干余計な言葉が混じっていたためにリアの視線が痛いが、されど希望を持って生きよ、という話は伝わった筈である。
 状況として、ひとつの幸運として。その場にいた人質の何人かは、リアの希望ヶ浜での立場を知っていたのだから……多分、立ち上がれるはずだ。

成否

成功

MVP

アベリア・クォーツ・バルツァーレク(p3p004937)
願いの先

状態異常

エッダ・フロールリジ(p3p006270)[重傷]
フロイライン・ファウスト

あとがき

 お待たせして申し訳ありません。
 概ね成功、一般人が何人か犠牲になっている可能性はありますが、目に見えて悲惨というわけではなさそうです。
 MVP? いや、複数名想定の作戦の軸に一人で突っ込んでってでかい柱おっ立てた人じゃないですかね……。

PAGETOPPAGEBOTTOM