PandoraPartyProject

シナリオ詳細

「盾」の名を冠する魚類。或いは、その名はサカバンバスピス…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●見慣れぬ魚
「これ! これを探してほしいんっすよ!」
 海洋。
 とある小さな島での出来事だ。
 一枚の画用紙を掲げ持ちイフタフ・ヤー・シムシム(p3n000231)はそう言った。画用紙に描かれているのは、おそらく魚の絵であろう。
 奇妙な魚だ。
 全体的な形はフグかおたまじゃくしに近いだろうか。
 だが、つぶらな2つの目は顔の正面に横並んで付いている。また、顔の真正面についた口は半開きで、どことなく愛らしささえ感じさせる。
 また、その魚にはヒレなどは存在していない。おそらく、尾をくねらせるようにして泳ぐのであろう。
「ヒレが無いから、きっと泳ぐのは上手く無いっす」
 “きっと”とイフタフはそう言った。
 彼女はその奇妙な魚の実物を見たことが無いのだ。
「この絵なんですけど、実は化石からの復元予想図なんっすよ。だから、誰も本物を見たことが無いんっす」
 少し苦い顔をして、イフタフはそんなことを言う。
 誰も見たことの無い……現存するかどうかも不明な魚を探せと依頼しているのだ。それがいかに無茶なことかを、彼女自身も自覚しているのだろう。
 だが、依頼としてイレギュラーズを呼び集めた以上は、捕獲の見込みが多少でも存在しているということだ。
「えー、この魚の名前はサバカン……じゃないや、サカバンバスピスって言うらしいっす。何でも“盾”って意味の名前なんだとか」
 おたまじゃくしに似た形をした魚に「盾」の名を冠するとは大仰な話だ。
 なぜ、そう言う名前なのか。
 イフタフにもそれは分からない。
「つい最近、この辺りの海域でサカバンバスピスに似た魚が発見されたとか……依頼主は、海洋の研究家っす。現存しているのなら、ぜひ実物が欲しいとか」
 そこで、イレギュラーズの出番と言うわけだ。
 だが、イレギュラーズも暇ではない。
「最初は見つかるまで捜索させられそうだったんっすけど、交渉して今日1日で済ませてもらったっす。見つからなくてもOK! なんで、まぁ……やった感を出すためにも、いい感じに捜索してください」
 何故なら、見つからなくてもレポートは提出する必要があるためだ。
「今日はいい天気っすよ。この辺りの海は波も穏やかで……海底には沈没船があるとか。きっと、楽しい1日になるっす」
 空を見上げて、イフタフは言った。
 その声には疲れの色が滲んでいる。依頼人との交渉が、さぞ大変だったのだろう。

GMコメント

●ミッション
サカバンバスピスを捜索する

●サカバンバスピス
“盾”を意味する名を持つ魚。
遥か昔に滅んだ種らしく、実物を見た者はいない。いないが、海洋のとある島でそれらしい魚が目撃されたという情報があり、今回の依頼に至った。
顔の正面に並んだ目と、半開きの口。
ヒレはなく、尾だけで泳ぐのが特徴。
あまりにもゆるい復元予想図から、一部ではゆるキャラのようなものとして人気を得ている。
「(◉_◉)」←こんな感じの顔をしている。

●フィールド
海洋のとある小さな島。
空は快晴、波は穏やか。
危険な生物の存在しない、極めて安全な海域。
海底には珊瑚の森と、沈没船がある。もう少し温かくなると、ダイバーたちがこぞってバカンスに訪れるらしい。


動機
 当シナリオにおけるキャラクターの動機や意気込みを、以下のうち近いものからお選び下さい。

【1】イフタフの依頼を受けた
イフタフ・ヤー・シムシムの依頼を受け、とある孤島を訪れました。サカバンバスピスを捜索します。

【2】沈没船の調査に来た
別の依頼主から沈没船の調査を頼まれ、孤島を訪れました。沈没船の調査を行います。

【3】バカンスにやって来た
天気が良く、波は穏やか。そして、今日は休日だ。となれば、休まなければいけない。最高のパフォーマンスを発揮するには、適度な休暇が不可欠だ。


海洋の孤島で…
孤島での過ごし方です。イフタフの頼みで、サカバンバスピスの捜索に巻き込まれる場合があります。

【1】水中に潜る
水中に潜ります。サカバンバスピスの捜索や、沈没船の調査を行います。

【2】投網を駆使する
水上から、投網やロープを使って魚の捕獲や沈没船のサルベージを試みます。

【3】バーベキューの準備をする
海に潜っている者たちがいるようです。きっと、魚か何かを捕って来るつもりなのでしょう。捕った魚をどうするのか? 決まっています。調理し、食べるのです。なのであなたは火を準備します。

  • 「盾」の名を冠する魚類。或いは、その名はサカバンバスピス…。完了
  • GM名病み月
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月19日 22時05分
  • 参加人数7/7人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(7人)

十夜 縁(p3p000099)
幻蒼海龍
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)
月夜の蒼
十夜 蜻蛉(p3p002599)
暁月夜
メイメイ・ルー(p3p004460)
祈りの守護者
フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)
挫けぬ笑顔
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●魚(きみ)の名は
 空は快晴。
 波は穏やか。
 海洋、とある孤島にてイフタフ・ヤー・シムシムは網を片手に声を張る。
「こっから……」
 爪先で地面に線を描いた。
 イフタフは、網を持ったまま海岸線をずーーーーーーっと歩いて、最初の位置から数十メートルほどの位置へ移動する。
 そこに再び、足の先で線を引き……。
「ここまで! この辺りの海域が怪しいっす!」
 再び声を張り上げた。
 そんなイフタフの様子を見守るのは2人。『幻蒼海龍』十夜 縁(p3p000099)と『ちいさな決意』メイメイ・ルー(p3p004460)だ。
 2人はイフタフから目を逸らし、用意されていた資料を手に取る。
 資料に描かれているのは、円らな瞳をした河豚かオタマジャクシのような形の魚だ。正確には、そういう形をした魚のイラストである。
 魚の名はサカバンバスピス。
 遥か昔に滅んだはずの魚類であり、資料に載った絵は化石からの復元予想図ということになる。
「最近、酒場で噂になっていた魚か……」
「絵本に出てくるようで……かわいい、です」
 絶滅したはずの魚が、孤島の近くの海中で発見された。
 そんな噂が海洋全土に広がったのは、今から少し前のこと。眉唾ものの噂だが、それに踊らされる……或いは、好んで踊る者もいる。
 海洋のとある生物学者が、研究のために生きた見本を確保したいと言い出したのだ。
 かくして、ローレットに……イフタフに依頼が出されることとなった。縁とメイメイは、本当に存在するか否かも定かではない太古の魚類を探すために呼び出されたのだ。
「めぇ……この方は、どういうところに、住んでいるんでしょう?」
 この方……もといサカバンバスピスの生態は謎に包まれている。そもそも、遥か昔に滅んだはずの魚であるのでさもありなん。
 彼なら魚類に詳しいはず、とメイメイは縁に視線を向けたが、生憎と縁もサカバンバスピスなんて魚を見た覚えがない。
「ヒレがねぇなら泳ぐのは下手と見た。なら襲われねぇよう隠れているんじゃねぇかね」
「隠れているとすると……深いところに、いるんでしょうか」
 そう言ってメイメイは用意されていた投網を手に取る。
 そこそこ大きな投網だが、海底にまでには届かない。そもそも、孤島の近海は珊瑚の森だ。あまり迂闊に網を投げれば、たちまち珊瑚に絡まってしまうことだろう。

 海岸から少し離れた木陰には、『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)と『月夜の蒼』ルーキス・グリムゲルデ(p3p002535)の姿があった。
 孤島へ渡るイフタフたちに便乗し、バカンスへやって来たのである。
「なんだっけ、鯖缶ぴすぴすだっけ?」
 史之は問う。
 ビーチチェアに寝そべったまま、ルーキスはサングラスをずらし、海岸の方へ視線を向けた。
「さばかんびすびす? え、違うんじゃない? えーっとサカバンバスピス?」
「あぁ、そういう名前だっけ? それを探って依頼らしいけど、見つかるのかな?」
「いるなら、捕まえられるんじゃないの? 何やら珍妙な生き物が見られたって話じゃない? 見た人がいるのなら、きっと実在するんでしょ」
 ところで、と。
 ビーチチェアから身を起し、ルーキスは史之の手元を見やる。
「何しているの?」
「え? 見ての通り、火を起してるんだよ」
「……なぜ?」
「なぜ、って……こんないい天気で、あの能天気そうな魚を探すのに、料理の準備をしないだなんてウッソだろ?」
 生の魚も美味いものだが、生憎とサカバンバスピスが生食に向いているかどうかの確証がない。だが、魚というのは火を通せばだいたい食べられるのだ。
 というわけで、史之はせっせと火を起し、サカバンバスピスを調理する準備を進めていた。

 バカンスにやって来たのは、史之とルーキスだけではない。
 彼女……『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)もバカンスに来た1人である。
 陸で過ごす2人と違い、ルシアは海に飛び込んでいた。
 天気がいいし、波も穏やか。
 泳ぐには絶好の日和であると思えたからだ。
 水中に差し込む太陽の光がキラキラしている。
 海底には色取り取りの珊瑚の森。
 カラフルな見慣れぬ魚や、蟹、蛸などの水生生物が視界に映る。
「デシテー」
 ごぼごぼと泡を吐きながら、ルシアは目を見開いた。
 珊瑚の森に、見慣れる奇妙な魚がいたのだ。
「(◉▿◉)」
 ヒレを持たない奇妙な魚だ。
 頭部の真正面に、円らな瞳が2つ並んでいるのが分かる。
 泳ぐ、というより潮の流れに運ばれる風にしてその魚はルシアの前を通過した。
「(◉_◉)」
「……」
 よくよく見れば、その魚の頭部は硬質だ。まるで兜でも被っている風にも見える。
 流れる魚とルシアの視線が交差した。
 交差したが、だから何というわけでも無い。
「もしかして、あなたがサカバンバスピスなのでして?」
「(◉_◉)」
 魚は何も答えない。

 珊瑚の森に埋もれるように、大きな船が転がっている。
 かなり古い時代の船だ。
 嵐にでも巻き込まれたか、それとも何か巨大な生物に襲われたのか。マストはへし折れ、船底には穴が開いていた。
「沈没船といえば隠されたお宝があったりするもの!」
「お宝より先にあの魚……鯖缶なんちゃらが見つかったりしてねぇ」
 『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)は、沈没船を前に気勢を上げていた。一方、フォルトゥナリアと共に沈没船の調査に来ているはずの『暁月夜』蜻蛉(p3p002599)は、口元に手をあてくすくすと笑みを堪えている。
「サバカン……でもOK! 意思の疎通は出来るから、もし見つかったらお魚さんにお宝の場所とか聞いてみるよ!」
「頼りになるねぇ。なぁんにも見つからなかったら、徒労もいいところやし」
 蜻蛉は沈没船に手を触れた。
 船体が軋む。
「何か見つけたいところやねぇ」
 かくして2人は、沈没船の調査にかかる。
 そんな2人の後ろ姿を、円らな瞳の魚が見ていた。

●サカバンバスピスという魚
「さて……」
 と、一言、声を零して史之は海の方へと向かった。
「うん? どこへ行くんだ?」
 その背中に問いかけたのはルーキスだ。
 相変わらず、ビーチチェアに寝そべってのんびりお茶など飲んでいる。何しろルーキスの目的はバカンスなので、のんびりと過ごすのも当然。バカンスはそうでなくてはいけない。
 だが、史之は少し違うらしい。
「火は起こしたからね。サクサクと食材を集めて来るよ。ついでにサカバンバスピス? だっけ? そいつも見つかれば……」
 と、そこで史之は言葉を止めた。
 頬を伝う冷や汗。
 自然と腰は低く落とされ、右の手は左の腰に下げた刀の柄へと伸びた。
 居合の構えだ。
「なっ……」
 自然と戦闘態勢を整えた自分自身に驚愕する。
 長く戦場に身を置いたのだ。危険が迫れば、意思より先に身体が動く。今回もそうだった。
 穏やかな海で。
 晴れた孤島で。
 史之は危険を感じたのだ。
「何か来るぞ! 迎え撃つな!」
 史之だけではない。
 危険を察知したのはルーキスも同じだ。ルーキルはビーチチェアから跳び下りると、サングラスを投げ捨て黒銃を抜いた。
 2人が視線を向けているのは海の方角。
 依然として、波は穏やか。
 なれど、海中から感じる威圧感……魔力の奔流は、2人の脳が警鐘を鳴らすに足るものだ。
 交戦か。
 それとも、退避か。
 海を見やる2人の視界で、海面が揺れた。
「あれは……ルシア、さん?」
「っ! 狙撃銃を構えている! 海にまで持ち込んだのか!?」
 水中から現れたのはルシアであった。
 彼女は無言のままに狙撃銃を構える。その銃口は、まっすぐに史之を……史之の背後にある焚き火の方を向いている。
「冗談キツいって……引き金に指がかかりっぱなしじゃないか!?」
 史之は咄嗟に刀を抜いた。
 だが、ルシアを斬るつもりは無い。
 銃口がこちらを向いていようと、ルシアはローレットの仲間だ。それに、異様なほどの魔力の渦巻く気配はするが、そこに敵意は感じない。
「話せば分かる。まずは銃を降ろして……」
 黒銃を下げ、ルーキスは言った。
 しかし、ルシアは狙撃銃の銃口を焚き火の方へと向けたままだ。
「……でして」
「なに?」
「あの子を食べるなんてとんでもないのでして!!!!!」
 カチ、と。
 引き金を引く音がした。
 撃鉄が落ちる。
 火花が散った。
 膨大な魔力は、吸い込まれるように狙撃銃へ集約していく。
 そして、世界は真白に染まった。
「ウッソでしょ!?」
 史之の悲鳴が轟音に飲まれる。
 放たれた魔力の砲撃が、地面を深く抉った。
 目も眩むほどの閃光が、焚き火を飲み込み跡形もなく消し去ったのだ。

「めぇっ!?」
「は……ぁあ!?」
 突然の魔砲に、メイメイとイフタフは揃って思わず目を剥いた。
 投網を構えた2人の背後で、突如起こったルシアの砲撃。大地を揺らし、海を大きく波打たせ、地面を抉って焚き火を消した砲撃に、驚かない者などいないだろう。
「これで、あの子たちも安心安全なのでして!」
 一仕事終えた、とばかりに額の汗を拭うルシアを見つめ、イフタフはすっかり固まっている。なんと声をかけたものか、その答えが見いだせないのだ。
 そして、さらに……。
「め、めぇぇ!?」
 イフタフの隣で、メイメイが急に悲鳴をあげる。
 慌てて隣に視線を向けるが、既にそこにメイメイはいない。
 投網に引き摺られるようにして、海の中へと沈んだのである。
 否、正しくは“引き摺り込まれた”というべきか。
「な、なんっすか?」
 何が起こっているのやら。
 イフタフは、無意識のうちに両手を頭の上へと上げる。
 お手上げのポーズである。

 イルカだ。
 メイメイを海に引き摺り込んだのは、まだ子供のイルカであった。
 悪戯のつもりか。
 投網の端を口に咥えて、海の深くへと潜る。
「離して、ください……めぇ、髪が重たい」
 メイメイのふわふわとした髪は、水をよく吸い込むらしい。
 投網から手を離せばいいのだが、突然の出来事に困惑しているメイメイはそこに考え至らない。目を瞬かせるメイメイの様子が面白いのか、イルカはいかにも上機嫌な様子で、きゅいきゅいと鳴いている。
「めぇぇ……」
 青い海に、羊の悲鳴が木霊した。

「なにやってんだ?」
 海の底で、縁はそう呟いた。
 轟音が鳴り響いたかと思えば、次いで、メイメイの悲鳴が聞こえた。
 見上げた先には、イルカに引き摺られていくメイメイの姿がある。
「仕方ねぇか」
 珊瑚の森と、メイメイとを交互に見やり縁は大きなため息を零した。
「(◉▿◉)」
 せっかくサバカンバスピスらしき魚を発見したのだが、後回しにするほかに術は無さそうだった。

 海の底とは、基本的には暗いものだ。
 それが沈没船の中とも言えばなおのこと。光届かぬ、暗くて、寒い海の底は時折、冥界などにも例えられる。
 だが、そこは違った。
 そうでは無かった。
「見つけた! バッチリ準備しておいてよかったよ!」
 沈没船の船室は明るい。
 明るい、というより眩しかった。
 それと言うのも彼女……フォルトゥナリアが放つ輝きのせいだ。
「まっぶし……くしゃみ出そうになるわ」
 目を細め、蜻蛉は呟く。
 だが、決してフォルトゥナリアの傍を離れようとはしなかった。何しろ沈没船の船内には一切の光が届かない暗所。フォルトゥナリアから離れてしまえば、右も左も分からなくなることが容易に理解できるからだ。
「しかし、隠し部屋なんてよく見つけたねぇ」
「ふふん? お魚さんが教えてくれたんだ。隠し部屋があるってね!」
 腰に手を当て、フォルトゥナリアは胸を張る。
 眩しい。
 後光が差している。
 その様はまるで、深海に住まう神のようでさえあった。
「魚って、さっきのサカバンバン……とか、言う?」
「そう。そして、隠し部屋には隠し財産があるのが世の常! それがこちらです!」
 足元を指さし、フォルトゥナリアはそう言った。
 そこにあるのは、宝箱だ。箱の表面には苔が張り付いているし、錆も浮いているようだが、元は豪華な装飾を施されたものであるのがよく分かる。
「そんならサクサクと開けてしまいましょ。ほら、サバカン……ピスケス? も、そう言うてる」
「(◉_◉)」
 蜻蛉の傍にいるのは、サバカンバスピス。尾をくねらせるようにして、2人の後に着いて来たのだ。
 
●自由なるサバカンバスピス
 宝箱の中に詰め込まれていたものは、すっかり腐食した何枚もの木板であった。
 金貨銀貨や金銀宝石の類が出て来ることを期待していたフォルトゥナリアは、がっくりと肩を落とす。
 心なしか、後光も少し暗くなったような気がする。
「えぇ……? なぁに、これぇ?」
「契約書? 権利書の類……みたいやね。ほら、押印と署名の後がある」
「(◉▿◉)」
「サバカルバスピス? もそう言うてはるよ」
「それは嘘じゃん。でも、権利書ってまだ有効だと思う?」
 肩を落としたまま、フォルトゥナリアはそう問うた。
 だが、蜻蛉は無言のままに首を振る。
 権利書自体は正規のものだろうが、文面も、署名も判然としない。そもそも、契約を履行する相手が今も健在か否かさえ不明である。
「(◉_◉)」
 サバカンバスピスも、なんとなく残念そうだった。

 海岸線にルシアは追い詰められている。
 孤島の地形を抉るほどの大立ち回りを見せたルシアだが、史之とルーキスの連携を前に撤退を選択。だが、いつまでも逃げ切れるはずはなく、海岸線で足を止めた。
 追い詰められたルシアは、両腕を広げて仁王立ちの構えである。
「? 何のつもりかな?」
 油断なく刀の柄に手をかけたまま、史之は問うた。
「この子たちを焼いて食べるなんて、断固反対なのでして! この子たちは、悪いことしてないのでして!」
「この子たち? ……あぁ」
「(◉_◉)」
 見れば、ルシアの背後には見慣れぬ奇妙な魚がいる。
 頭部を覆う鎧兜のような硬質な皮膚を除けば、その姿はイラストで見たサバカンバスピスそのものだ。
「ルシアさんが庇っていたのはそれか。いきなり魔砲をぶっ放すなんておかし……いや、そうでもないかな」
 少し思案して、史之は刀を鞘へ納めた。
「(◉_◉)」
 浮いているだけ、とでもいうようなサバカンバスピスの姿に戦意を削がれたというのもある。欲を言えば、1度、食べてみたいのだが仲間の反対を振り切ってまでそうするべきか……というと、是とは言えない。
「なるほど、それが……いや、興味はあったんだ」
 ルシアの肩越しに、ルーキスはサバカンバスピスを見やる。
 サバカンバスピスは、尾を翻してルーキスから距離を取った。だが、遅い。あまりにも遅い。動力は細い尾だけ。頭部が重たいのもあるだろう。
「こんな有様では、すぐに捕食されそうなものだけど……」
「食べるためでして! そうはさせないのでして!」
「……いや、捕獲しないでひっそり逃がしてあげようとは思っていたけど」
 ルシアはどうして、こうもサバカンバスピスに入れ込んでいるのか。
 ルーキスにはそれが理解できない。
 
 縁はあっという間にイルカの隣に並んだ。
 流石は海の生き物だ。イルカの遊泳速度は速い。だが、縁だって負けていない。
 海を庭として生きるという意味であれば、イルカも縁も変わりないのだ。
 だから、縁は手を伸ばす。
 イルカの鼻先に手を触れて、遊泳速度を落とさせた。
「……めぇ」
 助かった、というようにメイメイは安堵の吐息を零す。
「遊んでるとこ悪いが、俺らと違って長く海中に居られる性質じゃねぇんだよ、そいつ。離してやってくれるか?」
 なだめるように縁は言った。
 イルカはきゅぅいと一声鳴くと、咥えていた投網を離す。
「ところでお前さん……投網を手放せばよかったんじゃねぇか?」

「あ、生きてた! 良かったっす! っと、それより投網を! ほら、投げて投げて!」
 海上に顔を出した縁とメイメイを見つけ、イフタフが大声を張り上げる。
 イフタフが指差す先には、サバカンバスピスの群れがいた。
 先ほど、ルシアが牽引して来た者たちだ。
「死なせたりするようでしたら、捕獲には反対です……めぇ」
 投網を握って、メイメイは言った。
 不安そうなメイメイの眼差しを真正面から受け止めて、イフタフは顔色を悪くする。
 死なせないという保証はない。
 そもそも、生きたまま件の研究者へと引き渡せるかどうかも怪しい。
 海の生き物を運ぶとはそう言うことだ。生体が謎に包まれた未知の魚類ともなればなおさら。
 イフタフの沈黙から、答えを理解したのだろう。
「……えいっ」
「あ“!」
 メイメイは、投網を地面に投げ捨てた。
「いいじゃねぇかよ。仕事の内容は、調査だろ? だったら見逃してやろう」
 イフタフの肩に手を置いて、縁はくっくと肩を揺らした。
 縁の見る先では、ルシアとサバカンバスピスたちが別れの言葉を交わしている。お互いに名残惜しそうに、けれどいつかの再会を誓う。
 そこに涙は無い。
 友の別れに涙はいらない。
 ただ、少しだけ寂しそうな笑顔だけがある。
 そんな暖かな光景だ。
「あいつらだってのんびり暮らしたいだろうさ」
「(◉▿◉)」
 なんて……。
 そう呟いた縁の方を、サバカンバスピスが見た気がした。
 それから、サバカンバスピスたちは海へと帰って行った。
 やはり、というか……。
 泳ぐ速度は、激しく遅い。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
サバカンバスピスは現存しました。
そして、幾人かと友情を育んだ後、海へと帰っていきました。
いずれ、縁があれば再会することもあるでしょう。

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