PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<黄泉桎梏>バーンアウトグリーン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●すべては天義から始まった
 遂行者と呼ばれる存在が触媒を用いて「帳」をおろした。
 美しいカーテンのようなそれで覆い隠された大地は、ひび割れ、草木は枯れ、命を拒むかのような荒涼たる姿に変わる。
 それは彼らが信じる、「本来あるべき世界の姿」。冠位魔種がイレギュラーズに打倒されなかった場合の世界線。滅びの近しい混沌の姿。
 その最たる例は天義、テセラ・ニバスが書き換えられた、リンバスシティだ。だが遂行者たちはそれだけでは満足しなかった。天義国内だけでなく、各国へひそかに出向き、「帳」をおろさんとしている。
 それは、ここ、豊穣でもそうだ。

 天義国王にして教皇シェアキム・R・V・フェネストは苦渋に満ちた決断をした。『純粋なる黒衣』を纏え。正当なる神の地上代行者が命ずる。血化粧もいとわぬ勇者らよ。御身の罪罰穢は『黒衣』によって赦免される。
 黒衣を纏え、我ら、此処に聖戦の意を示さん。

●密談はいつだって暗い所で
 豊穣、ローレット支部。あなたの前を歩く、【孤児院最年長】ベネラー (p3n000140)が、心配そうにあなたをちらりと振り向いた。
「あの、これからあなたへ紹介する依頼は、ろくでもないものになりますが、だいじょうぶでしょうか?」
 あなたは鷹揚にうなずいた。
 金。
 あるいは暗い名誉。
 またはただのひまつぶし。
 理由は何でもいい。あなたはこの少年から声をかけられ、了承したのだ。鬼が出ようと蛇が出ようと、踏みつぶして押しとおるまで。
 そう気負って部屋のドアを開けたあなたは、少々拍子抜けした。その部屋でテーブルをはさみ、座っていたのは、銀の瞳の青年だった。ものごしわやらかそうでいて、常人ではありえない雰囲気をまとっている。戦闘でもしたのだろうか、包帯だらけの体は重傷を物語っていた。
 しゃくり。
 奇妙に澄んだ音がひびく。青年はぎょうぎわるく林檎を丸かじりしていた。星型の焼き印がついた林檎を。
「どうも。君が僕の手足になってくれる人かい?」
 青年のあいさつに、あなたはうなずきを返した。
「そいつはうれしいね。それじゃ、村を一つ焼いてきて」
 まばたきをして、あなたは青年をながめた。林檎をかじる音だけが、狭い室内へ響く。
「聞こえなかったのか? 村人を殺して、火を放つんだ。詳細は任せる。楽勝だろ?」
 君ならね、と青年は足を組んだ。
「鳥羽野村ってところが手近でいい。これが地図、よろしく」
 ベネラーへ向けて地図を放り投げた青年は、椅子を回して背を向けた。あわてて手に取ったベネラーから地図を受け取り、あなたはざっと目を通す。
 田んぼに囲まれた、牧歌的な村だ。20ほどの家が子犬のように寄り集まっている。すぐとなりを小さな川が流れているのが印象的だった。
 ふたつ聞いてもいいかと、あなたは言った。
「僕にこたえられる範囲でなら、なんでも」
 青年があなたへ顔を向ける。
 なぜ村を焼く必要があるのか? その問いに、彼はこともなげに答えた。
「『帳』をおろしたいからさ。君らは村を焼く、僕が跡地へ触媒を置き、儀式を行って『帳』をおろす。……イレギュラーズってのは、敵に回すとおそろしく強くておまけに執念深い。でも僕は見ての通り重傷だ。だけど、君らの力を取り込めたなら、僕にも勝機はある」
 あなたは青年を鼻で笑った。なるほど? ようするに自分は力不足で、更に言うなら大怪我をしているから、代理で動いてくれるワルイヤツを探しているわけだ。青年は続ける。
「君らが動けばパンドラってやつがたまって、混沌は破滅から逃れられるんだろ? でもその前に各地へ帳をおろしつくしちゃえば、僕らの勝ちだ」
 パンドラもへったくれもない。なにもかもが「神」によって上書きされるのだから。その神とやらは、自分が知っているものとは少々違うようだが、それもまたよしとあなたは思った。
 ついで、あなたは問うた。
 名前くらい教えてくれたっていいだろう? 依頼人さま?
 青年はしゃくしゃくと林檎をかじった。芯だけになったそれをゴミ箱へ放り投げる。
「アーノルド」
 銀の瞳の青年は親指をなめている。きれいな放物線を描いてゴミ箱へ落ちた林檎の芯。硬い音が天井にぶつかり、消えた。

GMコメント

みどりです。久々の悪属性っす! ハラショー!
どちらかというと、心情寄りでしょう。

やること
1)村の焼き討ち
2)村人の6割以上の殺戮

●戦場
夜の鳥羽野村
 田んぼのど真ん中、20件の、小屋のような家が密集している村です。すぐとなりを小さな川が流れています。
 明かりも用意できないドイナカなので、視界に若干のペナルティーが課せられますが、村が燃えちゃえばべつにかまわないっすね。

●エネミー
 村人 × 65人
 家族連れが多いです。貧乏子だくさんを絵にかいたような暮らしをしていますが、皆こころは豊かです。一応村長はいますが、ただ単に長生きをしているので敬われているだけの寄り合い所帯です。村民は皆、仲がよく、助け合って暮らしています。
 そんなことはあなたへは関係ないでしょうけれど。

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『天義及び豊穣』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <黄泉桎梏>バーンアウトグリーン完了
  • アーノルドくんのおはなし
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常(悪)
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年07月08日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)
不遜の魔王
武器商人(p3p001107)
闇之雲
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女
玄野 壱和(p3p010806)
ねこ

リプレイ

●幕間
「げ、焔の乙女」
 アーノルドは心底いやそうな顔をした。
「なんで君がここにいるの」
「ちょっとした戯れというものですわ。グリーンアップルガイ? おしりの具合はいかがかしら」
「おかげさまで」
「それより私、おねがいがあってきましたの」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は祈るように手を組み合わせ、輝きに満ちた瞳をアーノルドへ向けた。
「……なに? 依頼人だからある程度は聞くよ」
「死んでくださらない?」
「やだよ」
 くすりとフルールは笑った。
「一刀両断ですのね。ああ、残念。残念至極です」
 アーノルドはめんどうそうに顔をしかめる。
「そんなお願い聞けるわけないだろ。君らしいけれどさ。まったくイレギュラーズときたら……」
「隙あり」
「いだあっ!!!」
 アーノルドは涙目でフルールをにらみつけた。フルールは涼しい顔をしている。
「だいじょうぶですか?」
 そう言いながら近づくは『未来への葬送』マリエッタ・エーレイン(p3p010534)。小さく笑みを浮かべて、ふたりのやりとりを見守っていた彼女が動いた。上品に一礼すると、マリエッタは人好きのする微笑を浮かべた。
「アーノルドさん。お初にお目にかかります。私のことは死血の魔女とお呼びください」
「自己紹介かい、マリエッタ。何を考えている?」
「いいえ、なにも。私はただ力ある人へお近づきになりたいだけ」
 アーノルドはいぶかしげにマリエッタを見ている。細められたままのマリエッタの瞳が、キャッツアイのように光った。
(まさかの遂行者からの依頼とは……チャンスですね、何かあるかもと思って受けた依頼で遂行者と接触できるとは)


 今日も充実した一日だった。源助が田の取水口を見て回るころには、夕暮れになっていた。今年の収穫が楽しみだ。年貢をおさめたら、余った米を銭に変えて、つんつるてんになった子どもらの服を新調してやろう。反物を一疋買ってやろう。おっかあもそろそろ新しい着物が欲しいだろう。あまりいい暮らしをさせてはやれないが、未来は明るい。そんな気がしていた。
 あぜ道をとおり村へ帰る。子どもたちが飛び出してきた。
「おっとう、おかえりよぅ」
「おかえりよぅ」
「ええこにしてただか? 飯を食おうな」
 玄米と漬物だけの粗末な食事へ、小さな川から子どもたちがとってきたアマゴの塩焼きがおかずについた。きりきりと働くおよねは、すでに内職を終えている。いい女房をもらったと源助は思う。七輪を外へ出してアマゴを焼いていると、一軒、また一軒と隣近所が寄ってきた。仕上がったばかりの野菜や梅干しを分けてくれると言うので、そのまま食事をともにした。晩飯は空腹へ染み入る美味さだった。暗くなってきた空へ星が点る。七輪の隣に置いた提灯を頼りに、世間話へ花が咲く。
 いつまでもこんな平和な日々が続いていく、そう思えた。これが最後の晩餐になるなどと、誰一人思わなかった。
『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)が、そんな村人のふれあいを遠くから見つめている。空は既に暗く、星々が輝きを争っている。マリカは顎を引き、剣呑な目で村を見つめた。
 心の奥がチリチリしている。長い長い導火線についた火が、マリカを追い詰めている。いつの日か、その先にある爆薬へ引火するだろう。その日が来るのが、少しだけ怖い。自分の中隠した想いを外へだすのが怖い。ずっとずっと目を背けてきたことを正面から見るなんて苦行、誰だってしたくない。マリカは胸へ手を当てた。かりそめのぬくもりが彼女を満たす。
「……デザート」
 マリカは呟いた。
「デザートを食べるためだよ。だから、ね。しかたないね」
 次の瞬間、マリカは勢いよく顔をあげた。髪の毛が跳ね上げられ、夜風に踊る。
「そ☆、だからしょーがないんだ♪ しかたないね、しかたがないよね! だいじょーぶ、マリカちゃんがぜーんぶたいらげてあげるっ☆」

「準備できたかな?」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が、奏と緋憑を宙へ放り上げる。秋奈は全員をふりかえった。静かな表情のもの、微笑みを浮かべるもの、うつむいているもの、皆一様に、村を見ていた。獲物を見る目で。秋奈が美しい夜空の光を受けてきらめいた二刀を鞘で受け止め、腰のガジェットへ装備する。そして親指をびっと立てた。
「イレギュラーを楽しもうぜ」
 その言葉を合図に、全員が動いた。
 マリカが指を鳴らす。ぞろりと影がうごめいた。呼び出されたアンデッドの数々。マリカのうしろ、軍隊となって出現する。
「いきのいいゾンビだねっ」
「なにせマリカちゃんの『お友達』だから♪」
 秋奈の声にマリカは笑う。怖いことなどなにもないかのように笑ってみせる。
 そして秋奈、フルール、『闇之雲』武器商人(p3p001107)、『惑わす怪猫』玄野 壱和(p3p010806)は村へまっすぐに駆け出した。
 薄笑いを浮かべて仲間を見ているのは『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)、『せんせー』ロジャーズ=L=ナイア(p3p000569)、そしてマリエッタ。
「焼き討ちなら手慣れたモンだぜ。暗くなってきたし、やっぱ盛大に燃やすべきだよなァ!」
 ことほぎはかかとわらう。ロジャーズが不吉なまでに長細い自らの影を揺らした。
「炎! 原初より破壊の象徴、覇界の祥兆、愉快な物語ではないか。盛宴は遠からず聖火の前に消ゆ。声援は志ごと折れて晴夏の前に消ゆ。いやいやと、Ia! Ia! と魚眼レンズめいた蛸壺、入ったなら逃れられぬ約定、安穏の末に今宵終焉する劇場!」
 高らかに叫んだかと思うと、声を低くする。
「久しく捲る事の無かった悪属性、素晴らしい光ではないか。兎も角――囲って、燃して、殺すのだよ。まったく絶望的な戯れで、たいへん悦ばしい! Nyahahahahahahahaha!!!」
 のけぞって大笑い。哄笑は風に吹き散らされていく。準備は万端だ。万端だとも。マリエッタもまた、うっそりと目元を緩める。恍惚に似た表情を手のひらで包み、憐れな村を目に映す。
「鳥羽野村、名前くらいは覚えていてあげましょう。私にも慈悲というものがあります。では皆さん、仕込みが終わったら、参りましょうか」

●仕込み
 全力疾走した秋奈は肩で息をしながら源助たちのささやかな宴へのりこんだ。
「だいじょうぶ!? 怪我はない!?」
 その鬼気迫った演技に、源助たちはすっかり気圧されてしまった。お互いに視線を交わしながら、無事を確認する。
「神使さま、いったいなにごとだか?」
 おずおずと村人のひとりが秋奈へ声をかける。
「賊が来るのですよ」
 優美な足取りで追いついたフルールが、そのほっそりとした腕を天へ延べる。火の粉を撒き散らしながら、一羽の梟が舞い降りてきた。それを腕へ止まらせ、フルールは心配そうな声を出した。
「私のファミリアーからの情報です。大量の賊が、村を囲むようにやってきます。逃げ場はありません」
 ですがだいじょうぶ、とフルールはいとけない顔をさらす。
「そうだヨ! オレたちが守ってあげル!」
 壱和が拳で胸を叩いた。
「オレたちは通りすがりのイレギュラーズ、だけどもこの鳥羽野村が窮地に陥ってると察知して駆けつけたんダ。依頼料はロハでいい、オレたちの正義と勇気が黙っちゃいないかラ!」
 無邪気で真摯な瞳に、村人が射抜かれる。賊の襲撃だって、そんなことが。なんてことだ。ここは神使様へおまかせしよう。ざわざわと人心が揺れていく、壱和たちにとって都合のいい方へ。壱和は笑いをこらえるのに必死だった。なんという茶番だ。そして、茶番というものは人を動かす力があるのだ。
 そっとそのモノが源助たちと視線をあわせた。それだけで最後の警戒心が溶けて消えていく。そのモノ、武器商人はきれいな三日月を口元へ侍らせ、言葉を連ねる。
「時間がないんだ。見ての通り、我(アタシ)たちも人手が足りない。手弁当で動くイレギュラーズってのは、残念なことに少ないんだ。だから、ね? 我(アタシ)たちが守りやすいように、村のまんなかへ集まってくれやしないかい?」
 男も女もなく、そのモノに魅了されていく。すぐに村人たちは家族を呼びに行き、村の中央へ集まった。足腰の立たない老人は背負って、心配そうな子どもたちは親としっかり手を繋いで。
 武器商人はさらに魔眼で暗示を重ねていく。
「『もう遅い時間だものね。眠かろう? 大丈夫、我(アタシ)達がいるから怖いことなんて無いからね。オカアサンの背でゆっくり寝てるといい』」
 母の背でおびえている赤子は、とろとろと降り注ぐ声音に、眠気を誘われた。こてんと眠りに落ち、静かな息を立てる。その母へ向かって、さらに暗示。
「『可愛い子供だものね。安心して眠っているんだ、決して離してはいけないよ』」
「あ……はい……もちろん……です」
 ぐらりと揺れた視界いっぱいに武器商人の笑み。きれいなきれいな、なのに思い出そうとすると面影しかつかめない、正体不明の笑み。武器商人は村人の間をゆっくりと歩きまわり、言の葉と魔眼で、まっさきに逃げ出しそうな、逃されそうな人々を選んでこの地にとどまるよう念を押していく。
「『いざとなったら、小さい子供やその母親を助けてあげておくれね』」
「『そのお年までここで生きてこられた方に、慣れぬ水はつらかろう。必ず、村を守るから信じていておくれ』」
「『無理をして戦う必要はないんだよ。我(アタシ)たちは牙持たぬ人々のためにいるのだから』」
「『逃げ惑われると守りづらくなる、必ず、中央へ固まっているんだよ?』」
 ゆっくりと確実に、暗示が人の心へ枷をかけ、侵食していく。準備が整ったと見るや、フルールは梟を空へ離した。
 合図だ。ことほぎは邪悪な笑いをひらめかせた。
 うぞうぞと、村の外周がマリカのお友達によって囲まれる。それを賊と認識した村人は、おびえた声を上げた。
 ことほぎはわざとゆっくり、村へ侵入した。余裕を見せつけるように。
「よぉ、いいい星月夜だなァ」
 さくりさくりと砂を踏み、ことほぎが闊歩する。
「悪しき魔女が不運を運んできたぜ!」
 あ、ありゃあ、魔女だ。噂できいた魔女がきた。なんてこった。神使様、お助けを。怯えの色濃い村人たちを視線で薙ぐ。それだけで顔を伏せ、肩をすくめて縮こまる村人たち。まったく矮小で、取るに足らなくて、つまらない。人の命は星より重いと誰かが言ったそうだが、なら、殺す側の命だって同じくらい重いはずだよなァ?
 彼女のうしろを歩いていたマリエッタは、ふんわりとスカートの裾を広げておじぎをした。紅に染まった彼女の衣装は、まるで心の底に潜むもうひとりの彼女を体現したかのよう。
「ごきげんよう、この天鵞絨の天蓋へは、血しぶきが似合うと思わない?」
 顔をあげた彼女の瞳はヘリオドールに変わっている。亜麻色の髪がゆっくりと白銀へ変じていく。
「村を見たらつぶしてしまうのよ、アタシ。寂しく、けれど心温まるようなやさしいやさしい場所。アタシは焦がれてしまう、アタシは嫉妬してしまう。貴方たちのあたたかな心そのままの血を、アタシへ浴びさせて?」
 彼女の酷薄な表情と言葉、それが何を意味するのかを知った途端、村人は短い悲鳴を発してあとずさりした。
 マリエッタが大仰な身振りで見得を切る。ぞりぞりと影が集約していく。星の輝きをうけた影がひとつの巨躯をなす。それはまぶしいまでの後光を身にまとった。
「Nyahahahahahahaha! 悪態尽きぬ悪胎、此れなるは死血の魔女の御使い、這い寄る混沌!!!」
 ロジャーズの出現に、イレギュラーズが戦闘態勢を取る。
「これは皆さんおそろいで。私たちの前へわざわざ出てきてくださって、ありがとうございます」
 フルールが先陣を切った。炎が舞い散り、ロジャーズに襲いかかる……かのように、村人からは見えている。村人たちの視線を背に受けながら乙女は思考する。
(すこし焦げるくらいは問題ないでしょう。そうでもしないと緊迫感が伝わりませんしね。ああ、すべては茶番なのです。かわいそうな人々)
「この悪いイレギュラーズめぇっ! 村人を傷つけたらゆっるさないからなぁー!?」
 秋奈がことほぎの射線上へ飛び出る。そしてわざと、ことほぎの攻撃を受けた。
「神使様っ!」
「ふふっ、無事? なら、いいんだ。私たちがあなたたちを守ってみせる!」
 おお神使様、わざわざ身を盾にしてまで。村人たちに感動が広がっていく。
 返す刀で、秋奈は大振りな一撃で紫の電光を放った。剣圧で吹き飛ばされるロジャーズ。
 さすが神使様。きっと押し切れる。きっとお守りくださる。村人の瞳に希望が灯る。それは小さな声援となり口から漏れ出ていく。数合、秋奈とことほぎは打ち合った。秋奈の均整の取れた肢体へ傷が入る。
「オーケーオーケー! まったくもって問題なシ! 防御はこのオレがいル!」
 榊神楽を舞い踊った壱和の手元に、ひとふりの銅鉾が降りてきた。それをつかんだ壱和が踊りを変える。優雅な動きから一転、勇壮な舞へ。
「しのし、ふしなし、つくれ、ホウライのクスリ」
 銅鉾を大きく降れば、水銀の飛沫が降り注ぐ。それはたしかに仲間へ活力を与え、傷を消していく。
「『何も怖いことはない。我(アタシ)たちが災難苦難をすべて引き受ける』」
 武器商人はおだやかに村人へ言い聞かせる。水が貯まるようにしずかに、確実に、心の底の重いところへ武器商人の言葉が溜まっていく。
「神使様、がんばれ」
 最初に大声をだしたのは誰だっただろう。源助だったような気がするし、違うような気もする。
「がんばれ!」
「がんばれ神使様!」
「がんばって!」
 村人は一丸となってイレギュラーズを応援し始めた。
「がんばれー神使様ー! がんばれー! がんば……えあ?」
 肉が焼ける奇妙に香ばしい匂いが広がっていく。振り返ったフルールは、余韻の火の粉を利き手にからませながら、表情のないまま自分が首を刈り取った村人を眺めていた。砂袋を落としたような音がし、首無し死体が大地へ転がる。突然の凶行に、誰もが凍りついていた。
「あぁこの静寂、悲しいですね。どうして殺さなきゃいけないのでしょう?」
 フルールの瞳が潤んでいる。乙女は清らかな涙をこぼした。その背後で紅蓮の巨人と翼ある蛇がしだいに大きく肥え太っていく。
「悲しいです。悲しいです。本当に、私は悲しい……」
 ほとほとと涙をこぼす乙女の代わりに、巨人が村人へ襲いかかる。翼ある蛇が、大顎で首をもぎ取っていく。
「……神使様?」
 いまだ状況を飲み込めない、いや、武器商人の暗示によって、すっかり認識を歪ませられた村人がイレギュラーズを見上げる。
「手間を掛けさせないでね、お祈りは済ませたかい? 命乞いをする部屋の隅すら奪われて悲鳴を上げるしか能がない豚に成り下がった気分はどーお?」
 秋奈は村人をかばったときと同じ表情のまま、二刀を抜いた。異色の刀身がさえずり、生者を死者へ変えていく。秋奈はことほぎを振り返った。
「火ぃつけようぜ、火!」
「そーだなァ。ま、こんくらいありゃ足りるか?」
 ことほぎが持っていた煙管をゆうゆうと吸い、火の残ったすいがらを大地へ落とした。とたん、燃え広がる、まるで油をかけたように。
「神使様?」
「神使様?」
 ここへきてなおも、村人はイレギュラーズが自分たちを助けてくれると信じている。誰も逃げようとはしない。逃げようにも、村の周りへはぐるりと罠が敷かれ、マリカのお友達が控えているのだが。
「貴様、出番だぞ」
 ロジャーズが影にいた美少女へ声をかけた。火々神くとかはわたわたと両手を振った。
「は!? なんでアタシがここにいるわけ!? 村を燃やすって、アンタ、そんな大罪にアタシが手を貸すわけ……!」
「何? 全ては依頼だ。誰の所為でも無いのだよ。まさか、貴様は依頼を無碍にするとでも謂うのか? ……依頼人のオーダーは絶対だ!」
「うわーん、覚えてなさいよ!」
 くとかが炎を撒き散らす。木と紙でできた豊穣の伝統的な家は、くとかの『神』の権能により次々と燃え上がっていく。ロジャーズの影が躍る、村人をミキサーのように蹂躙していく。血と肉と骨がかき混ぜられ、汚濁となって母なる大地を汚す。
「お遊びだ、じっくりと観察するのが僥倖と思える! この蛆の母、蝿の祖母と化した肉袋の数々を!」
「悪いね」
 武器商人はあのきれいな笑みのまま、村人たちを「寄せ集めた」。一歩、また一歩、村人が衒罪の呼び声に魅せられ近寄っていく。
「我(アタシ)は『誰も逃す気はない』。全て殺す」
 おしまいだよ。村も、キミらも。今日という日を持って、塵になる。そう謳う声音は蜜のよう。人々は蝶のように武器商人の周りへ集まっていく。それを満足気に見ていたマリエッタがつぶやいた。
「いい子たちね。すがるべき希望の在り処すらわからず闇雲に助けを求めて。だけどみんな、アタシの為に死んでもらうの、残念」
 子を連れた母が壱和を見た。壱和も母を見た。
「神使様、守ってくださるって……」
「しーらなイ」
 ぞりりと母が裂ける。血脂を浴びた子どもが狂乱して泣き叫ぶ。心地よさそうに目を細めた壱和がひとりごちる。
「収穫のお時間ダ。最近、"■■牧場"からの出荷の具合がイマイチで食材不足なウ。だから手頃な■肉を仕入れられそうな依頼に飛びついたわけヨ。村ごと焼いて殺せって話だが、その後について何も言われてねぇんだし好きにしていいよナァ?」
 なぁマリカ? そう暗闇を通じて呼びかける。
「全ては狩りそして謀り、愉悦こそ全テ。愉しみながらやろうゼ?」
 阿鼻叫喚。村人は全滅した。今宵、すべて朽ちた。炎の向こうに。

●デザート
 マリカはジト目でアーノルドを見ていた。
 仕掛けた罠の中では、氷像が砕けている。アーノルドもまた、ジト目でマリカを見た。
「どういうつもり?」
「村人用のトラップへ、誰かさんがかかちゃったみたーい☆ ちょーっとくるのが早かったんじゃないかなー?」
 とっさに口車で言いくるめる。アーノルドはジト目のままマリカを眺めていたが、「まあいいや」と口にした。
「おしごとおつかれさん。報酬は後日支払われる。そこは安心してくれていい」
「楽しい依頼でした。またご縁がありますよう」
 マリエッタは笑みを浮かべ、アーノルドへ腕を絡ませた。邪険に振り払ったアーノルドだったが、いやな目つきではない。マリエッタは笑顔の向こうに本音を隠した。
(信頼させてから裏切るのは戦略の常。完全なる信頼を得られれば、遂行者の一人の首に鎌を押し当てるのは確実)
「始めるよ」
 アーノルドが星型の焼き印の付いた青リンゴを大地へ置く。冷気が染み出していく。その日、豊穣の一角が『帳』へ覆われた。

成否

大成功

MVP

マリエッタ・エーレイン(p3p010534)
死血の魔女

状態異常

なし

あとがき

おつかれさまでしたー!

すばらしい!上手に焼けました!大成功です!
MVPは胸に深いものを抱えるあなたへ。

またのご利用をお待ちしてます。

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