PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ヴァニティア・エスケープ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ヴァニティア・ヴァニティ・ヴァトラントという女
 自分のやることは、すべて裏目にでるのだ、と気づいたのは、いつごろからだっただろうか。
 良かれと思って、紅血晶を大量に仕入れてラサに流した時かもしれない。
 少なくとも、ヴァニティアがそれを仕入れたときには、まだ紅血晶は「珍しくて、誰もが手に入れたがる不思議な宝石」にすぎなかった。
 それを大量に仕入れて流したことを、短慮であるといわれれば、まぁ、そうだろう。
 そうではあるが、誰が彼女を責められようか。
 ヴァニティアという人間は、そのうまれもっての呪のような特性で、ありとあらゆるものを台無しにする。
 まったくの善意から行ったことが、後に大変な大騒ぎになったこともある。
 最初は気づかなかった。それが、究極的には自分が発端であるということに。
 誰もが、ヴァニティアを『厄介者』と呼んだ。あるいは、『無自覚愉快犯』。実際の所、最初こそ、そうであった。無自覚。楽しいことを、精一杯やっただけ――たまたま今回は失敗したけど、次は大丈夫。
 次は。
 次は。
 次は。
 何度目の次は、を、彼女は唱えただろうか。
 何度目の今度は、を、彼女は唱えただろうか。
 いつまでたってもダメだった。
 何度選択しても、彼女の手は最悪を選ぶ。
 それに気づいたのは、本当に、いつ頃だったか――。

「ヴァニティアってやつがいてな。知ってるかもしれんが」
 と、ヴァニティアの所属する商会のメンバーがそういったのは、あなたをはじめとするローレット・イレギュラーズに対してだ。
 アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)が、頷く。
「ああ、あいつか。今は大人しくしてるのか?」
 そう尋ねるのへ、メンバーの男はうなづく。
「ああ、不気味なほどにな。
 なんっつうか、今回の件は、さすがにあいつも懲りたというか、参っちまってるらしい」
 ヴァニティアは、先のラサの事件の際に、紅血晶を市井にばらまいた。それはもちろん、無自覚の、善意故の行動であったが、それが街の混乱に一役買ったのは事実だ。この時点ではまだ前向きだったヴァニティアは、自分のやったことは自分で責任をとる、と月の王宮に潜入。そこでラーガに騙されエーニュと接触し、エーニュに所属してた人物と仲良くなりともに脱走、イレギュラーズと敵対する……と大立ち回りを演じたわけであるが。
 結局の所、それは過ちであり、ヴァニティアも、「結局自分は間違ったことしか選べないのではないか?」とたいそう参ってしまっているらしい。
「あいつは――まぁ、厄介な奴だがな。本当に、無自覚に暴れて好き放題やってるやつだし、ちょいちょい商会のボスにも大目玉を食らってるやつだが――悪人じゃ、ないんだ」
 ばつが悪そうにそういう。
「俺はまぁ、そんなヴァニティアにやいのやいの言ってたが……随分とへこんで帰ってきたやつを観たら、なんだ、可哀そうになっちまってな。確かに、あいつの気持ちも考えずに厄介者扱いしてたのは事実だ。あいつは能天気だから、気にしねぇと思ってたのも事実。でも、そうじゃなかったんだよな」
 そこで、と、男は頭を下げた。
「あいつを助けてやってほしいんだよ……ラサの遺跡な、なんでも、運気を上げる水ってのがあるらしい。
 そこまでヴァニティアを連れて行って、そいつを飲ませてやってほしいんだ」
「その水ってのは、本当にそんな効果があるのか?」
 アルヴァが言う。
「眉唾もんだが」
「そうだがな、効こうが効くまいが、なんだ、慰めてやりたいっていうかな……」
 そういう男に、イレギュラーズの仲間がうなづく。
「まぁ、気持ちはわかるよ。気休めでも、やってやりたいんだろう」
「そう言うことなら」
 アルヴァが言う。
「結局、あいつの体質は、あいつが向き合わなきゃならないことだからな……手助けになるなら、やってやるさ」
「すまねぇな、頼むよ」
 そう言って、男は申し訳なさそうに頭を下げた。

「幸運の水ねぇ」
 はぁ、と肩を落とすヴァニティア。いつもは無意味に元気な、大型犬のようであった彼女の様子は、今はしおれた花のようだ。
「……効くとは思えないけどなぁ……」
「ゲン担ぎ、ともいうでしょう?」
 イレギュラーズの仲間の一人がそういう。
「意外と、気の持ちようで変わったりするものですから……気晴らしの気持ちで、行きましょう」
 そういうのへ、アルヴァもうなづいた。
「なんだ……お前がそんなだと、俺も調子が狂うんだ」
 頭をかきつつ、
「とにかく、行こうぜ。道中はちゃんと守ってやるから」
 そういうのへ、ヴァニティアはひとまずうなづくのであった――。

GMコメント

 お世話になっております。洗井落雲です。
 悩める少女を元気づけてあげてください。

●成功条件
 最奥に到達し、ヴァニティアに『運気の上がる水』を飲ませてあげる。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●状況
 やることなすこと裏目に出て大災害を引き起こす、天然ディザスター娘こと、ヴァニティア。
 彼女は、先のラサの事件でも大暴れし、すっかり意気消沈してしまっています。
 自分は、何をやっても、人に迷惑をかけることしかできないのではないか――。
 実際、彼女は無自覚に大暴れして他人に迷惑をかけるタイプですが、そこはそれ。悩んでいるなら、慰めてあげたいのが、仲間の人情というもの。ヴァニティアの所属する商会のメンバーから、なんとか勇気づけてやってほしい、と依頼をされた、皆さんイレギュラーズたち……という次第。
 なんでも、ラサの遺跡に、飲むと運気が上がる水、があるらしいのです。眉唾物ですが、ゲン担ぎでもなんでも、ヴァニティアを救ってやりたい……ということで、いざヴァニティアを連れて、皆さんは遺跡へと向かうのでした。
 意外とこういうものは気の持ちようというか。道中、メンタル面でケアしてあげるといいかもしれませんね。
 作戦決行エリアは5階層ほどの地下遺跡。魔法の明かりで普通に行動する分には問題は発生しません。が、アイテムや対策などを用意しておくと、有利に働くことでしょう。

●地下遺跡について
 縦横1kmほどの広さの遺跡です。内部はそこまで複雑ではなく、基本的なマッピングをしておけば帰れなくなることはないでしょう。
 罠などもありますが、これも警戒しておけば問題ない程度。
 もちろん、魔物の襲撃もあります。
 ただ、今回、ヴァニティアがひどく落ち込んでおり、その負のオーラの影響か、皆さんの調査判定などに少々のマイナスなどが発生することがあります。
 判定に失敗するとヴァニティアが余計落ち込んで負のスパイラルに落ち込むかもしれません。色々余裕や工夫をもってダンジョンに挑んでみましょう。

●エネミーデータ
 スケルトン・マギ ×???
  生前は魔術師だったと思わしきスケルトンです。生意気にも神秘術式による攻撃魔法を行ってきます。
  暗がりから、『炎の魔法』などを打ち込んでくるでしょう。遠距離で放置しておくと、厄介な相手です。
  半面、耐久力は骨なので、一気に接近して攻撃するか、遠距離から強力な攻撃で破壊してやるといいでしょう。

 シックスフィート・バッツ ×???
  人間サイズの巨大なコウモリです。機敏に空を飛びまわり、速度と鋭い牙を武器に、近接攻撃を仕掛けてきます。
  牙には『毒』が仕込まれているらしく、噛まれると危険です。基本的に数を頼みに攻撃してくるタイプですので、一体一体的確に相手をしてやったり、強力な攻撃でまとめて薙ぎ払ってやったりするといいでしょう。

 嘆きのゴースト ×???
  付近に漂う亡霊です。亡霊のくせに前衛担当で、そこそこの耐久と攻撃力で襲い掛かってきます。
  特筆するならば、攻撃を受けたらきっと『凍り付いてしまったように』体が鈍くなってしまうでしょう。BS対策はしっかりと。
  とはいえ、基本的には雑魚ですので、囲まれないように気を付けつつ、確実に撃退していくのが勝利への近道です。 

 清純水のゴーレム ×1
  いわゆるフロアボスです。最奥の幸運の水があるエリアに出現します。
  見た目通りの重装甲・重攻撃。半面命中能力と速度は遅め。
  一撃一撃が重いため、しっかりタンク役が引き付けてやったりして、ダメージコントロールを行うとよいでしょう。
  HPの高さから長期戦になりそうです。基本を抑えてしっかりと戦いましょう。

●味方NPC
 ヴァニティア・ヴァニティ・ヴァトラント
  アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)さんの関係者さん。本当は、無邪気な大型犬のような少女ですが、今はいろいろと意気消沈してダウン気味です。
  速度と一撃の重さが武器のスピードファイターなのですが、肝心かなめの所でファンブルを起こすという星の下に生まれています。
  今は自身が無いようで、積極的に戦闘に参加したりはしません。うまく元気づけてあげると、手伝ってくれるかもしれません。

 以上となります。
 それでは、皆様のご参加とプレイングを、お待ちしております。

  • ヴァニティア・エスケープ完了
  • ウサギ少女の勇気づけ方。
  • GM名洗井落雲
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月30日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
アルヴィ=ド=ラフス(p3p007360)
航空指揮
モカ・ビアンキーニ(p3p007999)
Pantera Nera
ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
瀬能・詩織(p3p010861)
死澱

リプレイ

●希望へのエスケープ
「……悪意無き自分の行いで、誰かを不幸にしてしまう。
 同じ痛みではないですけれど、私もこの身の呪いで、私を愛し、懸命に「人」としての生き方を教え、寄り添ってくれた御義父様と御義母を死なせましたから。
 ヴァニティアさんの悲痛、共感を覚えてしまいます」
 ほう、と『死澱』瀬能・詩織(p3p010861)は、慮るようにため息をついた。気持ちはわかる――自分ではどうしようもないことから生まれる、不幸。どうしようもないこととはいえ、その発端が自分であるという、自分を責めてしまうような気持。
「共感を覚えてしまうからこそ、励ます言葉も気休めの言葉も思いつけませんけれど……。
 ですのでせめて、貴女が幸運を手に入れられます様、少しばかりのお手伝いを」
 そういって、穏やかに瞳を細める詩織に、ヴァニティアは、うう、と辛そうに唸った。
「キミも大変なんだね……ありがとう」
 力なくそう言ってほほ笑むヴァニティアもまた、詩織にかけるべき言葉を思いつかなかった。形は違えど、つらいという気持ちを、ヴァニティアも今痛感しているからだ。
「ヴァニティア、貴方は今回の我々の護衛対象だ」
 と、そう言うのは『灼けつく太陽』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
「だから、私たちは貴方を必ず護衛する。何も心配しなくていい。
 そうだな――足下に気を付けるだけ、位の気持ちで大丈夫さ」
「うん。えっと、迷惑かけないように気を付ける!」
(重症だな、これは)
 ふむ、と胸中でラダがつぶやいた。ヴァニティアという少女を詳しく知っているわけではないが、失敗して落ち込んでいる人間の姿というものは、自分も何度か見かけたものだ。そういう視点から見れば、どうにも、今のヴァニティアは「あぶなっかしい」。
(わかってる。そんな目で見るな)
 と、ラダからの心配の視線を受け取ったのは、『焦燥のアンダードッグ』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)だ。
(……これまでのことが全部、あいつの責任かといえば、それは絶対に違う。
 何かあっても、俺がいれば大丈夫だ……なんてのは、うぬぼれだったのかもしれない)
 胸中で呟いた。常に最悪を引き当てる。はたから見れば、それはある種の喜劇であり、見世物だった。だが、その当事者は、そのことに気付いた時にどう思うだろうか……。
(……って。俺も沈んでどうする)
 わずかにかぶりを振った。今日は、ヴァニティアを元気づけるターンだ。自分たちが沈んではしょうがないだろう。
「護衛して、水を飲ませてやる。これだけなら簡単だが」
 『陽気な歌が世界を回す』ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)が、ヴァニティアに届かぬように、声のボリュームを下げていう。
「おれたちがやるべきなのは、嬢ちゃんを立ち直らせてやることだ。そこに異存はないよな?」
 優しく笑ってみせるヤツェクに、仲間たちはうなづいた。
「もちろんだとも。私は幸運の水を、より良きコーヒーに変えて見せるとしようか」
 『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)が、そう言って微笑った。
「道中のサポートは任せてよ」
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)が、頷く。
「自信をつけてあげなきゃならない、んだよね。それじゃあ、道中の俺たちは、完璧に仕事をこなしてやらないと。
 こういうとうぬぼれみたいだけど、俺達の仕事で、彼女を勇気づけてあげる、ってね」
 史之の言葉通りだろう。きっと、イレギュラーズの一挙手一投足が、彼女にとっての支えになる可能性は確かにあった。
「ダメな日もあるし、いい日もある。きっとあのヴァニティアって子は、だめな方ばっかりが印象にこっちまうんだろうさ」
 『金庫破り』サンディ・カルタ(p3p000438)が言った。
「人間、失敗したり辛かったりしたときの方が印象に残るもんだ。良いことってのは、よっぽどでかくない限り逆。
 わがままなもんだよな、人って。
 ま、人間のあれこれについて語る気なんかそうそうないけどね。俺だってそこらへんはだいぶわがままだ」
 に、とサンディは笑った。
「だから――悪いことばかりじゃなかったんだろう? アルヴァさん。それを知ってて、伝えられるのは、たぶんあんたなんだろうさ」
「――そうか。そう、だな」
 アルヴァが、きっとそうなのだろう、と気づいたように頷いた。
 悪いことばかりではなかったはずだ。思い起こせば、本当に、当たり前のように楽しかった記憶もある。この依頼を持ってきた、ヴァニティアの同僚の男も、それを覚えていたから、この依頼を皆にお願いしたのだろう。
 悪い奴ではない。まったくその通りだ。悪いことばかりではない。ほんとうに、その筈だ。
「ヴァニティアは……素直で……同調とか……共感とか出来る……優しい人なんだろうな……。
 でも……だから……悪い人とかに……人の為にしようとした事とかも利用されちゃうんだと思う……」
 『玉響』レイン・レイン(p3p010586)がそういうのへ、アルヴァがうなづいた。
「ああ、そう言うやつだよ」
 苦笑する。そういえば――先のラサの事件でも、よかれと思って大暴れをしたんだった。根底にあったのは、彼女のやさしさであるはずだ。そう思う。
「僕も……『起こったこと』に目を向けがちだから……ヴァニティアの気持ち……なんとなくわかるんだ……」
 結局、なってしまったことはどうしようもないのだろう。つらいことだが、なってしまった以上どうしようもない。
 ならば次は、どう踏み出すか、だろうか。たぶん、そうあるべきなのだろう。レインの言葉に、皆がそううなづいた。
「えっと」
 ヴァニティアが声を上げた?
「だ、大丈夫かな?」
 少し不安げに。その瞳は、元気な跳びまわる兎ではなく、穴倉から恐る恐る世界を見るような、そんな具合だったけど。
「ええ、ただの作戦会議ですよ」
 詩織が、穏やかに笑って言った。ラダが続ける。
「さっきも言ったが、私たちに任せておいてくれ。
 私たちはプロだ。『頼ってくれていい』」
 そういって、優しくヴァニティアの頭を撫でてやった。
「じゃあ、行こうか」
 史之が言うのへ、仲間たちはうなづいた。果たして、簡単で難しいお仕事が始まろうとしていた。

●最奥へ
 一行は、危なげなく先へ先へと進んでいた。ラダがマッピングを行い、罠はヤツェクが解除して進む。この時、道中のことに、一行はヴァニティアを積極的にかかわらせることはなった。
「荒療治は避けたい」
 と、ラダの提案からである。
「下手に何かをやらせて失敗させるより、今は休息させてやりたいと思うんだ」
「そこに関しちゃ異論はねぇ」
 と、アルヴァが言った。
「ただ……最後は、あいつの手で決めさせてやりたい、って、俺は思うんだ」
「最後というと、確かゴーレムが確認されていましたね」
 詩織が言う。情報によれば、水源の近くにはゴーレムが発生しており、最後の障害になることが示唆されていた。
「構いませんよ。私は、言葉をかけられぬ代わりに、その分お手伝いを惜しみません」
「有難う。他の皆も、いいか?」
 そう尋ねるアルヴァに、サンディは笑った。
「彼女のことを一番知ってるのはお前だろ? だったらきっとそれが一番いいんだろうさ」
「そうだ、ただ水を飲むだけでは味気ない。最後は皆で、食事会と行こう」
 モカが言った。
「食材も道中到達できそうだからね?」
「本当に食べるのか? その、コウモリを?」
 ラダが目を丸くする。
「……僕は……あ、ホットドッグを用意してあるから……」
 レインが目を逸らした。
「でも、ちょっとした食事会は賛成だ」
 ヤツェクが言った。
「うん。そこでお話をしてあげることも重要だろうからね」
 史之がそういうのへ、皆はうなづいた。
 そんなわけだから、道中はほとんどスムーズに進んでいた。もちろん、情報にあったように、ヴァニティアの『雰囲気』に引っ張られることはあったが、そこは事前に様々な対策を練っていたイレギュラーズだ。障害もなく、先に進むことはできていた。
 とはいえ、そこはやはり、戦闘も発生する。
「退いて頂けないでしょうか」
 詩織が、立ちはだかる亡霊たちにそう告げる。
「退いて頂けませんと、貴方達は私に食べられ死の澱みに取り込まれ、永遠に成仏もできなくなりますよ?」
 だが、もはや正気を亡くした亡霊たちに、そのような脅しも通用しまい。詩織はふぅ、と嘆息すると、
「残念です」
 呟き、その長い髪をうねらせた。とたん、その髪は、まるで亡者の腕のようにたなびき、浮き上がるそれが亡霊の一匹をつかみ、そのうちに飲み込んだ!
「ヴァニティアさん、さがっておいてくれ!」
 サンディが叫ぶ。
「何かあったら、俺がかばう! 被弾にはめっぽう強いんだぜ!」
 そういって、力強く笑ってみせる。もし体に痛みが走ったとしても、その笑みをサンディは崩さないだろう。ヴァニティアが身構えるのを、サンディは言葉通り、守る様に立ちはだかってやった。
 亡霊が襲い掛かる。ラダは、腰に差していた近接戦闘用のナイフを引き抜いて、亡霊の後ろから飛び込んできたコウモリを切り裂いた。
「一応、食材適性はつけておいたが……」
 困ったようにつぶやく。
「助かるよ!」
 モカは笑った。一方、史之は駆けだしながら、
「こっちおいで、
 俺だけ見ていてよ……、
 なんてね!」
 敵を引きはがしにかかる。はずれた敵群が史之へと迫るのへ、ヤツェクのレーザーカタナがそれを阻止すべく輝く。スケルトンがその光芒に切り裂かれて消えていくのを見やりながら、ヴァニティアは目を丸くした。
「やっぱりすごいね……」
「お前だって、あれくらいできてたろうに」
 アルヴァが言う。ヴァニティアは頭を振った。
「でも、其れだって結局は――」
「違う。結果なんて、お前ひとりで何でもかんでも変えられるものじゃないんだ」
 アルヴァが言う。
「俺達だって……八人でようやく、最良の結果を得られてるんだ。
 ……お前が何かしたって、俺が居ただろ。
 結局、俺が居ればなんだかんだどうにかなったろ?」
 確かに、そうだったかもしれない。アルヴァがいたから。いや、きっと、他の人がいたから――。
「……ええと……それは……きっと迷惑じゃなくて……」
 レインが言った。
「……頼りあえる……ってこと……だと思う……」
 そういって、やさしくほほえむレイン。ヴァニティアは、考え込むように頷いた。イレギュラーズたちの行動は、この時、確かに少しずつ、少女の心をほぐしていったのに間違いはなかった。
 さて、一行はスムーズに洞窟を進んでいく。怪物たちを危なげなく撃退し、罠をも突破して見せた。それはもちろん、イレギュラーズたちの、協力のなせる業であった。
 もちろん、ミスのようなものはどうしても発生した。それは仕方のないことだろう。だが、それも八人は上手くカバーして先に進んでいった。罠だけではなく、怪物に相対するにしても、役割をしっかりと果し、戦い続けた。
「な? 何とかなってるだろう?」
 サンディが言う。
「確かに、やばい敵もいたけどな。そういうやつらだって、何とかなってた」
 それは、サンディの気遣いとでも言うべきものだった。苦戦したのは、敵が相応の実力を持っていたからで、誰のせいでもない。それは事実でもあったし、ヴァニティアを勇気づけるための言葉でもあった。
「ダメな日もあるし、いい日もある。そういうもんだ。
 こういうの、なんていうんだっけ? 縄がどうのこうのみたいな」
「禍福は糾える縄の如し、かな」
 ラダが言った。
「そう言うことだよ。悪いことばかりじゃなかったはずだ」
 そういって、笑ってみせる。イレギュラーズたちにそういわれてみれば、だんだんと、そんな気持ちにもなってくるというものだった。
「うん……ありがと」
 ヴァニティアは、この時笑ってみせた。それは、いつもの元気なそれに、少しずつ近づいているようにも見えた。

●最奥のパーティ
「……涼しい気配がする……」
 レインがつぶやいた。前方から、ひやりとした空気が漂ってくるのを感じたのだ。
「水源かな?」
 史之がつぶやく。耳をすませば、確かに、さぁさぁと、水の染み出してこぼれる音が聞こえてきた。
「ヴァニティアさん、到着だよ」
 史之が言う。
「なにもなかっただろう? 俺達だから、じゃない。ヴァニティアさんもいて、そのうえで、何もなかったんだ。
 ヴァニティアさんは、僕たちの依頼に、同行してくれることを選んでくれた。
 こうして冒険ができるのも、ヴァニティアさんのおかげだよ?
 それは、決して、最悪の選択じゃない」
 そういって笑った。
 そうか。
 ああ、そうか。
 きっとこれは、最悪じゃない。
「とはいえ――最後の一仕事だ」
 ヤツェクが言う。同時に、ずん、と大きな音が響いた。がらん、と壁から岩が零れ落ちて、悪しき亡霊がそれに宿りつく。それはたちまち、巨大な石造りの巨人の姿をとった!
「ごぉれむ、ですね?」
 詩織が言う。
「実は、お腹がすいています。喉も渇いておりますね。
 ですから、速やかに討伐して、茶会としましょう」
 ふふ、と笑った。
「そうだな。サクッと片付けるぞ」
 アルヴァの言葉に、仲間たちはうなづき、身構える。
「最後の仕上げと行こうか。出し惜しみなしで行こう!」
 ラダが叫んだ。同時に、手にしたライフルから、大嵐のような銃声が鳴り響いて、巻き起こる暴風の銃弾が、巨人の体を削り取る! ごう、と風が再度巻き起こる先には、足元をえぐられた巨人の姿があった! 痛みは感じないようではあるが、ダメージは蓄積され、そしてわずかに体に鈍りが生じている!
「ねぇ……もしよかった……僕達の事……声を出して応援してくれる……?」
 レインがそういって、笑った。
「そしたら、元気が出て……やる気が出て……僕達は頑張れるから……。
 お願いしてもいい……?」
 それは、手を差し伸べるように。選んでほしいと。良き道を。
「わかった……!」
 ヴァニティアは言った。
「頑張って、皆!」
 叫んだ。選んだ。その道を。
 ならばこれはきっと、最悪にはならないはずだ!
「そうだっていうなら頑張らないとな!」
 サンディがかけた。敵を引き付けるように、壁をけって跳躍する。ゴーレムの視線が、サンディを追う。
「詩織さん!」
「ええ」
 詩織がうなづいた。うねる髪が、ゴーレムの右腕を縛り付ける。ぎしぎし、と音を立てて、それが拘束された。
「ヴァニティアさん、やれるかい?」
 史之が、そう言った。
「彼は――アルヴァは、どうも、あなたと決めたいらしい」
 そういうのへ、ヴァニティアは目を丸くした。
「でも……」
 それでも、まだ、怖い、と思う。
「なあ、嬢ちゃん、掛け算は分かるか? マイナスとマイナスをかけると、プラスになる、ってことが世の中にはある。
 案外嬢ちゃんは、逆境の中でこそ万全に戦える、っていう星まわりなのかもしれんな」
 ヤツェクが、静かにそういった。
「そりゃあ、アンタにとっては面白くないかもしれない。
 今までの間違いを肯定できるわけじゃない。
 でも、自分が「何」か、理解できていたら……人生という不条理の中で戦い続けるのも、結構楽しくなるもんだ。
 アンタはまだ生きてるし、なんならまだ折れてない。あとは、状況を見定める目がつきゃ、最強だ」
 にっ、と笑う。
「踏み出せ。プラスにしようぜ」
「人は失敗を繰り返すたびに強くなる。それなら今のお前は最強だな」
 アルヴァが言った。
「俺が抑える。お前はいつも通り、飛び跳ねて、蹴っ飛ばしてやればいい。目の前の、嫌なことを!」
 叫んで、跳んだ。一気に接近して、一撃を叩きつける。
「逃げ出すぞ! マイナスから!」
 叫んだ。
 皆が、見ていた。
 跳び出せと、言っていた。
「まっかせて!」
 ヴァニティアが、叫んだ。何時ものように! 飛び出して、それで――。

「いやぁ! まさか蹴っ飛ばして倒したはいいけど、そのままアルヴァを巻き込んで一緒にすっころぶとは思わなかったね!」
 と、にこにこ笑顔でヴァニティアが言うのへ、アルヴァは頬にばんそうこうを貼りながら、
「いやぁじゃねぇよ!」
 と、とりあえず不満を提言した。
 皆の活躍でゴーレムを倒した後。
 ようやく手にした『不運をはねのける水』を汲みながら、仲間たちはさっそくであるが、ささやかな食事会の準備をしていた。
「まぁ、人生に失敗は付き物だ。私だって何回か任務に失敗した」
 モカが、くみ上げた水を沸かしながら苦笑した。
「今も……結構傷だらけだからね? そういった意味では、私もまだまださ」
「うう……なんかほんとに、迷惑かけちゃったみたいだね……」
 しょぼん、と肩を落として謝るヴァニティア。アルヴァが言った。
「俺には謝らねぇの?」
「ふふ、元気になったのならば、いいんじゃないかな?」
 ラダが笑った。
「……なぁヴァニティア。私はね、思いきり落ち込んでもいいと思ってるよ。
 早く立ち直らねば、元通り元気にならねばと思うかもしれないが正直無理だろう?
 体も心も疲れているときはまず休まねばね。
 それから。今回の仕事を依頼したのは、君の商会の仲間たちだ。
 この意味が、分かるだろう?」
 その言葉に、ヴァニティアははっとした様子を見せた。
「……そうだったんだ。ボク、いつも怒られてて。嫌われてるのかと思ってた」
「おみくじの大凶はね、危ないから気をつけろよっていう神様からの啓示なんだって」
 史之がそういう。
「これ、フォーチュンクッキー。俺が作ったんだ。中におみくじが入っていてね。
 ……えーと、それで、身を慎めば、悪運の方から消えてなくなるんだってさ。
 チャイを入れるよ。不運をはねのける水で作った」
「まぁ、異国のお茶ですか?」
 詩織がほほ笑んだ。
「よかったら、お料理をお手伝いしますよ。コウモリ、捌きましょうか?」
「それ、持ってきてたのか……」
 ラダが苦笑する。
「ふふ……おいしい……」
 レインが、チャイを飲みながら、笑った。
「僕みたいな人は……起こった事に目を向けがちなんだけど……。
 起こった事より……「自分ってどういう人なんだろう」……って……「得意な事、不得意な事」を……よく知って覚えておいて……少し不得意かもっていう時は……人に任せちゃうのがいいのかなって思って……」
「それは、皆のことみて、わかった気がするよ」
 ヴァニティアが、頷いた。
「皆、自分の役割をしっかり果たして……だからすごいんだな、って」
「ま、そう言うわけだからさ。切り替えていこうぜ」
 サンディが、そう言って笑った。
「独りで考え込むな、ってね」
「という訳でイケオジな詩人のヤツェクさんが、とっておきのおまじないを教えてやる。
 混乱したら、心の中で「私はまだ生きている」と唱えるんだ。生きていれば次の手が打てる。一呼吸おいて、状況を見極めるんだ。
 ずうずうしく生きていいんだよ、アンタ。そりゃ自分のやる事に責任は持たなきゃいけない。だが、それは生きてこそだ。
 生きて戦え、お嬢さん。人間間違うもの。そこから学べるのは、一番の幸運だとおれは思うのさ」
 ヤツェクが、そう言って、笑った。
 ヴァニティアは、少しだけ、自分の手のひらを見て、それから、頷いた。
「うん! これからも頑張る!」
「よし、これでいつもどおり、だな。
 いつも常にって訳にはいかねえけど、可能な限りは俺が面倒を見てやるから、そんなに落ち込むことじゃない。
 安心しろって、俺が結構強いの知ってるだろ?」
 そう、アルヴァが言ったのへ、ヴァニティアが目を丸くした。
「……プロポーズだ! 困る!」
「ちげぇよ! お前のその設定、どこから出てくるんだよいつも!」
 慌てたように叫ぶアルヴァに、仲間たちが楽しげに笑った。
 洞窟の奥で開かれた、ささやかながら楽しいパーティは、少女に元気を取り戻させるのに十分な力を持っていた。

成否

成功

MVP

ヤツェク・ブルーフラワー(p3p009093)
人間賛歌

状態異常

なし

あとがき

 ご参加ありがとうございました。
 きっと、これからも彼女は元気よく歩んで、失敗して、でも笑うのでしょう。
 それできっと、いいはずです。

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