シナリオ詳細
<黄昏崩壊>黄昏の多頭竜
オープニング
●
『冠位暴食』ベルゼー・グラトニオス。
覇竜と浅からぬ関係にある彼は現在、ヘスペリデスと呼ばれる黄昏の似合う最果ての地にいるらしい。
そこは、人の集落を模した竜族の里。
しばらく、竜種達もこの地へと踏み込んだイレギュラーズは、女神の欠片……『巨竜フリアノン』の力の残滓を集めることとなる。
ベルゼーの権能の規模を僅かに抑えることができるという女神の欠片を集めるイレギュラーズの活動に、竜種も目をつむっていたのだが……。
ベルゼーの権能が暴走するのももう間近。
状況を受け、竜種達も様々な思惑を抱いてはいたが、多くはイレギュラーズへと警告を発していた。
「この地を立ち去れと、彼らは私達に告げています」
『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)がフリアノンに集まったイレギュラーズ達へと伝える。
状況は芳しくない。できるだけ多くの女神の欠片を集め、ベルゼーを捕捉しておきたいところなのだが……。
竜種達も一枚岩ではないものの、自分達の居場所を守る、あるいはベルゼーを守るといった目的でイレギュラーズをヘスペリデスから力尽くで追い出そうとしている。
最悪、ベルゼーの権能の矛先を別の国向けてでも、ベルゼーを延命させたいと言い出す者も……。
元より、竜種は混沌における上位存在。
人間のことなど、いや、人間らが作り出した国家ですら存亡など気に掛けるものですらないのだ。
「残念ながら、ベルゼーの元へと辿り着く為には彼らとの衝突は避けられません」
彼らにもそれぞれ信念があり、それを貫くべくイレギュラーズを排除しようとしているのだろう。
ならばこそ、こちらも本気で自分達の心情をぶつけねばならない。
そうしなければ、竜種達を納得させることも、退けることもできないだろう。
「ただ、竜種の力は圧倒的です」
相手は混沌世界最強。イレギュラーズ数人では討伐することなど到底かなわないのは、森はヘスペリデスでの戦いでも明らか。
それでも、ベルゼーの元へと向かわなければ、何かが取り返しのつかない状況になるとアクアベルは告げる。
「一念岩をも通すといいます。これまで幾度も困難に立ち向かってきた皆さんんなら……」
必ず、ベルゼーの元にたどり着けると信じている。
アクアベルはそう話を締めくくったのだった。
●
ベルゼーの元へと向かうべく、ヘスペリデスへと辿り着いたイレギュラーズ。
風光明媚な空間であったヘスペリデスは現状、『何かに引付けられるように』崩れた岩などが宙を舞っている。
以前、この地を訪れたメンバーは、あまりの変化に驚き、戸惑う。
これも、ベルゼーの権能が暴走した影響なのだろうが、それでもまだ破壊の予兆というから恐ろしい。
荒れ狂う空の下、あちらこちらで竜種が立ちはだかり、イレギュラーズのチームと交戦が始まっていたようだが、竜種達の住居となっている場所でもまた、新たなる戦いが。
「ここは通さぬぞ」
紫の髪をたなびかせる麗しい女性。
彼女は以前、ピュニシオンの森にて、イレギュラーズの1チームが対していた。
竜種、将星種『レグルス』アルディ。
色気すら感じさせる女性の容姿をしてはいるが、一度本当の姿を晒せば……。
その体が紫の毒霧に覆われたかと思うと霧は大きく膨らむ。
それが晴れると、複数の頭を持つ全長7mの竜が姿を現す。
高い治癒力をもち、多くの頭を使った食らいつきや複数のブレスと毒が恐ろしい相手だ。
「二度は言わぬ。去れ」
端的に主張してくるアルディから放たれる圧倒的なプレッシャー。
だが、イレギュラーズも様々な想いを抱いてこの場におり、はいそうですかと退くわけにはいかない。
「ならば、その身をもって私の毒を味わうがいい」
彼女もまた何かを思ってこの場に立っているはず。
その理由を慮りながらも、イレギュラーズはアルディを撃退するべく身構えるのである。
- <黄昏崩壊>黄昏の多頭竜完了
- GM名なちゅい
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2023年06月28日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
(サポートPC1人)参加者一覧(8人)
リプレイ
●
ヘスペリデスの変貌ぶりに、イレギュラーズの反応は様々。
美しい自然の光景は、冠位魔種ヘルゼーの権能によるもの。
なんとしても、彼を止めたいところだが……。
「立ち去ったところできっと何も変わらない。だったら行けるところまで進んで、やれることをやるだけです」
『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)の主張に同意するメンバー達。
(覇竜……ちょっとラサで縁が出来ちゃったからね)
『祝福(グリュック)』エルス・ティーネ(p3p007325)は、ラサで再会した青年……康・有存を自らの言葉で反転へと追い込み、その責任を果たすためにその命を終わらせた。
何一つ、有存の気持ちを理解できなかったエルス。
その未練を拭うことができず、エルスは彼の故郷、覇竜を守りたいと考え、参戦していた。
(……これで私の罪が消えるとは思わないけれど……あなたの故郷を、守るわ)
逃げ遅れた人はいないかと見回りながら、エルスは闇の帳によって気配を消しながら仲間と先に進む。
程なく、一行は竜種らの住居が散見される場所に差し掛かる。
それらを形作る石が多数周囲を浮遊している中で、紫の髪をたなびかせる麗しい女性が行く手を阻む。
「……ここは通さぬぞ」
竜種、将星種『レグルス』アルディは冷ややかな瞳でこちらを見つめる。
相手もこちらの素性はすでに知っているはず。
「アンタはなんで道を塞ぐんだ?」
単刀直入に『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は尋ねる。
知っておいたからどうだという訳でもないが、それでもルカは知っておきたかったという。
「すでに貴様らは知っているのだろう?」
「報告書に書かれている限りでは、中々縄張り意識の強い竜のようですね」
『蒼剣の弟子』ドラマ・ゲツク(p3p000172)は頷いて言葉を返す。
多くの竜種がベルゼーを思って集い、こうして彼を守るべく馳せ参じているのだ。
「アルディさんにも、守りたいものがあるんですよね」
「ヘスペリデスに住む竜はベルゼーの事を好きな奴が多いからな」
『救済の視座』リスェン・マチダ(p3p010493)が彼女の想いを推し量ると、ルカが竜種達の想いを代弁する。
ただ、このまま彼らが暴走すれば、ヘスペリデスはもちろん竜種達とて危険にさらされる。
にもかかわらず、竜種達はベルゼーを守ろうとしているのだ。
「アンタらは俺の敵だが、そういう生き方は結構好きだぜ」
「…………」
アルディは発する紫の霧で自らを包み込むと、本来の姿……複数の頭を持つ竜へと姿を変えた。
「あーっ! いきなりボス戦とかぷちょへんざ!」
『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)が言っているのは「Put your hands up」……直訳すると「手を挙げて」だが、意訳すると盛り上げていこうぜといった意味だ。
(これまた随分強そうな竜だこと)
エルスはその見た目、醸し出す威圧感、そして強毒を吐き出す実際の力に、少なからず圧倒される。
だが、それだけに、この身体の初戦闘相手としては申し分ない。
「うむ、うむ、良いぞ」
満足気に頷く『殿』一条 夢心地(p3p008344)は改めて敵対する竜種の全身を見上げる。
八岐大蛇を思わせる異形から発せられるすさまじき圧。
そのくらいでなくては、張り合いがない。
夢心地は事前の準備を再確認しつつ、気分を高揚させていた。
「強い相手と戦う……いいですよね!」
やや辛気臭い理由での参戦だったこともあり、エルスは表向きだけでもと強敵を前に奮起する。
「複数の頭を持つ竜、と言う存在は中々興味深いですね!」
ドラマはというと、アルディの生態について気になっていた様子。
先程、八岐大蛇という話があったが、
その意識は一つなのか、複数あるのか。いずれにせよ、それだけの頭があれば大変そうだとドラマは小さく唸る。
「わたしはヘスペリデスの安寧を守りたい。そして、それがわたしたちの生きる世界を守ることにつながると信じています」
リスェンも自らの想いをアルディにぶつけ、それを叶える為にここを通してほしいと願うのだが。
「「「二度は言わぬ。去れ」」」
「妙な事を言いますね、どこかで会ってそんな感じで散々遊んでくれた気がしますが……」
すげないアルディの態度に、『雨宿りの雨宮利香』リカ・サキュバス(p3p001254)が呆れる。
どこかで会ってそんな感じで散々遊んでくれた気がするとリカは独り言ち、その言葉そっっくりお返ししますよと返す。
「この奥にいるやつが目当てです、道を開けてくださいな?」
「ちゃんりかまかせろ! 正面からの戦いは私ちゃんは大好きだぜ!」
「「「…………」」」
さもなければ、もう1回面倒なことをしてあげますよと笑いかけるリカ。
秋奈がそれに続くものの、アルディはもはや問答は無用と毒素を集めていた。
「あなたたちからすれば都合のいいエゴ、いや、もっと取るに足らない、愚かで無謀なことかもしれないですが……」
本気だからこそ、去りませんと、リスェンも力強く告げた。
「なんの恨みはないんだけどさ、今それどころじゃないんだ。生憎ね。てなわけで残念!」
ここにいる自身がただ竜をぶちのめしに来た小娘だと名乗りを上げる。
「魔種がいるからにはとっときでやっつけちゃうかんね」
やる気を見せる秋奈は、苦難を乗り越えれば感動的なイベントがあった気がすると呟いてから、仲間達へと事後焼肉に行こうと誘い掛けて。
「とりあえず殿なんかキメて」
すると、それに答えた夢心地がアルディの前へと進み出る。
「真っ向勝負と往こうでは無いか、竜よ」
「この先に行く必要がある以上、仕様がありません。押し通らせて頂きます!」
ドラマの決起の声に、皆身構える。
アルディの毒が充満するのももう間近。
秋奈がこんな状況で何かを言おうとして、思い出せなかったようだが。
「いざいざ! 尋常にドラゴンスレイ!」
彼女が叫んだ次の瞬間、アルディは全身から強毒を噴き出し、イレギュラーズへと襲い掛かってきたのだった。
●
比較的見通しのよいヘスペリデスで敵がアルディ1体ならば、存分に力を発揮できるというもの。
アルディは多数の頭をを自在に操り、食らいつきやブレスを使って攻撃を仕掛けてくる。
強敵だが、初めて交戦した相手でないのはイレギュラーズにとってアドバンテージでもある。
真っ先に仕掛けるドラマは影より多数の刃を生み出し、一気にその巨体へと切りかかる。
続けて、ドラマは魔力を高めて空気を震わせ、振動によって頭の一つの気を引こうとする。
アルディも素早い動きで立ち回るイレギュラーズを個別に捕捉する。
「「「私の毒をその身で受けよ」」」
多数の頭が蠢き、集めた毒素を一気にブレスとして吐きかけてくる。
生物を一気に死滅させる威力の毒撃であるが、事前情報もあってか、毒の対策をしていた者は多い。
夢心地もその一人だ。
(対策はするも、油断は禁物じゃ)
事前準備は彼の竜を相手するに当たって必要最低限の備えであり、スタートラインと考えていた夢心地。
仲間同様、頭一つを受け持ち、落とす気持ちで名乗りを上げる。
この手のタイプには力を見せてナンボ。
そして、見せるべきは何があってもここを通るという決意だ。
「生憎ですけど、それはもうたっぷり見てるんでね!」
毒ブレスを浴びていたリカだが、黒の魔剣に強い魔力を纏わせ、雷で眼前の敵を撃つ。
その魔力で毒を振り払ったリカは、強い光をそのままアルディへぶつける。
「……今回は優しくしませんよ」
不敵に笑うリカは近場の岩を足場に跳躍し、飛び回りながら攻撃の機を窺う。
そこで、サポートに駆けつけた『期待の新人』线(p3p011013)が遠距離から仕掛ける。
(わたくしも少しは役に立てるはず)
巨大火砲NMフリークスで頭の一つ、目を狙って狙撃した。
ただ、相手も複数の目を持っており、致命傷を防ぐよう首を動かし、別の首で防ぎ、あるいはブレスで無効化させる。
さすがは竜種将星種『レグルス』といったところか。
(確実に行きましょう)
毒をやり過ごした鏡禍は仲間と協力し、やはり頭一つを受け持つ。
居寤清水で力を高めた鏡禍はその頭の正面に鏡を召喚し、自身の手鏡を介することでその頭を揚力で絡めとろうとする。
うまく注意を受ければこちらのもの。
だが、どんな攻撃をしてくるか、鏡禍は油断せずにチェックする。
やや薄暗いと感じたエルスは暗視を働かせ、しっかりとアルディを見据えていた。
すでに仲間達も交戦に入っており、エルスはその中でも癒しに当たる首、厄介そうな首を見定めて積極的に攻める。
まずはと、エルスは首の一つに簡易封印を施す。
強大な相手だ。力を封じるのも一時的なものだろうが、エルスは続けて氷の旋風を浴びせかけた。
エルスが体力の回復を防ぐのは、アルディが驚異的な回復力を持っているからだ。
「そこまぜろよー! いや、言われなくても混ざるんだけどね!」
もう一つ、危険と感じた頭は秋奈が相手取る。
「下ごしらえってのは重要だもんな!」
しばし、攻撃のチャンスを窺っていた彼女は相手の技を封じんとその目や口、喉元を執拗に切りつける。
エルスの視線に気づいた秋奈は照れ隠しに頭をかいて。
「いやはは、やり出したら、なんか興が乗ってきちゃって、気が付いたらご覧のありさまだよ、わはは!」
陽気に笑う秋奈の声が響く中、反対側にはリスェンやルカが位置取っていて。
なにせ、アルディの体は全長7mもあり、見上げんばかりの大きさだ。
それだけあれば、入れ替わり立ち回るイレギュラーズも相手を取り囲むような布陣となる。
できるだけ皆が入るように。
すでに毒に侵された者、大きく体力をすり減らす者もいる。
その仲間の為、リスェンは少し前に出て個別に福音をもたらして癒していく。
そして、ルカ。
目視でアルディの立ち振る舞いを確認していたルカは、竜の頭が複数あってもアルディ自身の意思が一つに見えていた。
ならば、多方向から仕掛けられれば意思一つで全てに対処するのは難しいだろうと判断していた。
だからこそ、メンバーは各自で頭を抑え、アルディの注意を分散させる策に出ていたのだ。
アテが外れたとしても、こっちに損はねえならやらねえよりはやった方が良い。
「加減出来る相手じゃねえ。最初から全力でいくぜ!」
この短時間でアルディはイレギュラーズにかなりのダメージを与える。
一方で、メンバーはアルディの高い回復能力を封じ、攻撃を続けている。
その最中、ルカは伝説にある竜を思い出す。
確か、その竜は頭を落としても生えていたという。
「それなら! ……ぶちかます!」
ルカはレプリカだが魔剣『黒犬』を両手で握り、赤い闘気を剣に宿らせ……狙った頭の脳天から振り下ろす。
……確かな手応え。だが、アルディにとっては手傷レベル。
「これほどの傷を同族以外から受けるとはな」
あちらこちらから血を流しながらも、アルディは幾度もイレギュラーズへと食らいつき、高い治癒力で傷を塞ごうと態勢を立て直すのである。
●
激しい戦いがヘスペリデスのあちらこちらで起こり、衝突音がここまで届いてくる。
もちろん、この場で竜種アルディと戦うイレギュラーズもまた、周囲に響くほどの轟音を響かせていた。
秋奈が狙った頭を追い、スピードを活かして残像を展開し、長刀で激しく切りかかっていく。
しばしそれに耐えていたアルディだったが。
「「「ううう、おおおおおおおっ!!」」」
「回復を始めています!」
相手の意図に気づいたドラマの呼びかけに、エルスがすかさず遮蔽物の陰から冠位封印を施す。
「ったく、お互い死ににくい様で……ならばアナタに併せてこちらも姿を変えるとしましょうか……ってね!」
人と夢魔のハーフであるリカはその片鱗を垣間見せる。
ただの人でないとアルディも見定めていたようだが、視線が集まるならリカも望むところ。
浮遊する石から石へと飛び回り、リカは首のいくつかがこちらを凝視しているのに微笑んで。
「その首が絡まったりしないといいわね!」
相手を翻弄して、気を良くするリカ。
ただ、飛びすぎると仲間の邪魔になる可能性もあるので、程々に飛ぶことに。
夢心地もまた、飛行して浮遊する石を蹴って立体的機動で頭一つを攻める。
少し苛立っている様子も感じた夢心地は邪道の一太刀を浴びせて致命傷を負わせようとする。
(先日の交戦で、アルディが麿達を完全に侮ることはないはずじゃ)
だからこそ、彼は更なるひと押しで自分達イレギュラーズの強さを、意志を貫き通そうとする。
「「「…………」」」
アルディの思考はこれだけ頭があっても一つであるとメンバーは見ている。
だが、それでも複数ある頭は自在に動いているようにも見えた。
おそらく、AIのようにある程度自律したサブ頭とメインの頭があり、状況によってスイッチできるのだろう。
他の多頭竜はわからないが、アルディがこれだけ高度な生態を持っているのはさすが上位の竜種というべきだろう。
(気を引き続けるのが最優先ですが……)
鏡禍も抑える頭の注意を自身に釘付けしようとするが、状態異常回復もかなり素早く、アルディは想像以上に早く立て直してしまう。
「できるだけ食らいつきは避けてください」
鏡禍は攻撃と同時に態勢を立て直す手段を持っていることを仲間達へと指摘し、仲間達へと口を優先して叩くよう伝え、自らも竜撃の一手で頭を叩く。
ドラマはそれを横目で見ながら、また空気を震わせて相手の気を引いていた。
立て直しが完了すれば、アルディはさらに毒素をまき散らす。
メンバーが能力を封じていることもあるが、現状、ブレスは毒以外見せていない。
「ったく、キツイな。昔から竜と戦いたいたぁ思ってたが、物語みてえにうまくはいかねえもんだ」
ルカは現状、ジリ損になってきていることに気づく。
もっと手数があればあるいはと考えるが、やはり竜種は圧倒的な種。それでも。
「だけど譲れねえよ。ベルゼーを止められなけりゃアイツは今度こそ消えねえ傷を負う」
そうさせねえって、約束した。だから。
「押し通る。何が何でもな!」
握る刃で、再度頭の一つを両断せんとする。
火力に振り切ったルカの一撃。
アルディは即座に燃え盛る炎を吐きかけてきた。
そうまでして、イレギュラーズを排除したいアルディは、イレギュラーズの力をすでに認めているのではないか。
自分達がベルゼーの元にたどり着けばどうなるか。
彼女はもう察しているのではないだろうか。
(もしかしたら、わたしたちは守りたいものを傷つけることになるかもしれません)
実際に竜種達からすれば、自分達は悪者なのだろうとすらリスェンは思う。
「でも、退くわけにはいかないんです」
リスェンもまた押し通るべく、仲間に号令をかけ、何とか体制を整えなおそうとする。
イレギュラーズの策は決して悪いものではなかったはずだが、アルディがそれを力でねじ伏せる。
赤い闘気を叩きつけるエルスが包む魔力障壁を見て、アルディはすかさず別の頭で食らいつく。
「ああ、強い……強いわ……この身が震えるぐらい強い」
よろよろと起き上がるエルスは、また一つ強くなれるかもしれないと身を震わせる。
「リカちゃんのコト、忘れられないようにしたゲル!」
翼を広げるリカがアルディの気を引き、その体を切り裂いて血の華を咲かせ、雷で撃つが、相手はそれに耐えてなおも毒ブレスで攻め立てる。
立て直しが間に合わず、リカがパンドラを使って落下を食い止める傍で、前のめりに三連撃を叩き込む秋奈もまた思わぬところから伸びてきた首に食らいつかれる。
「戦いになっちゃったからには、最後までやりたいんだ」
運命の力に頼り、劣勢に追い込まれてなお、秋奈は相手をぶちのめすつもりで身構える。
「そんなにいっぱいあるんだから、少しくらい潰れても良いと思うのですよ」
线の援護攻撃の直後、鏡禍が障壁を張りつつ身を固める。
積極的に攻めたいが、前に出て聖体頌歌を響かせるリスェンをアルディの頭複数が狙っていたのを察し、鏡禍は彼女を庇う。
パンドラを砕く鏡禍にリスェンは礼を告げてから福音をもたらして。
「ここで退いたら、今まで積み上げてきたもの、出会った人、町、世界が全て闇に呑み込まれてしまう気がして。……なので、通らせてもらいますよ」
「「「なぜ、そこまで」」」
倒しても起き上がってくるイレギュラーズに、アルディは小さく首を振る。
(……自分も故郷のファルカウに余所者が侵入してきたら全力で抵抗するでしょうから、気持ちはわかるつもりで居ます)
そんな相手の気持ちを、ドラマはくみ取って。
「ですが特異運命座標として、この先で起きようとしているコトは止めなくてはならない。だから、ごめんなさいね」
ドラマは蒼い刀身を軽やかに操り、竜の堅い鱗を切り裂き、血飛沫を上げる。
「通して貰います」
「こちらも二度は言わぬ、そこを退け竜よ。麿が通る」
僅かに怯むアルディに、浮遊する石を蹴った夢心地がその巨体を一文字斬り。
さらに飛び上がり、彼は逆袈裟に斬りかかった。
「言っただろ。アンタの事は結構好きだって」
相手を仕留めるのは現状厳しいとルカも悟りながらも、そう呼びかける。
アルディはもちろん、ベルゼーだって殺したくはないのだと。
ただ、悔しいがそれはかなわないとルカは語る。
「だから、せめてアイツの愛したものを出来るだけ護りてえって思うんだよ」
握る黒犬に力を籠め、ルカは全力で振りぬく。
「「「…………」」」
その時だ。アルディの全身を紫の霧が包み込んだのは。
飛びのくメンバー達がそれを見守ると、アルディは竜から人の姿へと変わったのだった。
●
全身を傷つける彼女はイレギュラーズの方を見ることなく、背を向ける。
(覇竜……こんな竜がゴロゴロ居るのね……)
アルディの全身は傷ついてはいたが、エルスにはそれはほとんどが細かな傷に見えた。
こんなチンケな力では満足できない。
エルスはなお自らの力の向上を強く誓う。
「ベルゼー……」
イレギュラーズを止めるのが難しいと悟ったアルディから搾り出すように漏れた声。
そんな竜の傍に、ルカは傷薬を置いて。
「ベルゼーの事は任せてくれ。アイツの事は救ってみせるさ。俺なりのやり方にはなっちまうけどな」
「ごめんなさい。でも、先に行きます」
リスェンも謝罪の言葉を口にしてから、アルディの後ろを通り過ぎる。
「勝手かもしれませんが、いつか許してくれて、わかり合える時が来たらいいなって思っています」
イレギュラーズはアルディの心境を慮りながらも、先を急ぐのである。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
リプレイ、公開です。
MVPは想いの強さを竜に示した貴方へ。
今回はご参加、ありがとうございました。
GMコメント
イレギュラーズの皆様こんにちは。GMのなちゅいです。
<黄昏崩壊>のシナリオをお届けいたします。
ベルゼーの権能が暴走に近づく中、竜種達は……。
●概要
覇竜、ヘスペリデス。
ベルゼーの元へと向かうイレギュラーズを遮るように竜種アルディが立ちはだかります。
戦場はヘスペリデスの住居が連なる場所。
住居を形作っていた石などが浮遊する中、正面からのバトルとなります。
●敵
〇竜種・将星種『レグルス』:アルディ。
全長7m複数の頭を持つ竜種。人型になると麗しい女性の姿に。
高い治癒力を持ち、全身から発する様々な種類の毒が恐ろしい竜です。
いくつかの頭を使った連続食らいつき、複数のブレスを使いこなす難敵です。
『<ラドンの罪域>多頭竜のテリトリー』に登場。こちらは読まなくても大丈夫です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
それでは、よろしくお願いいたします。
Tweet