PandoraPartyProject

シナリオ詳細

祝福の鐘が鳴るころに。或いは、ご結婚おめでとうございます…。

完了

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ハッピー・ハッピー
 ところは鉄帝、ヴィーザル地方。
 咲花・百合子(p3p001385) の治める地、美少女道場からほど近く。
 美少女道場開拓地の外れ、大きな湖畔の傍に建てられた白いチャペルが今回の舞台だ。
 結婚式を前日に、百合子とセレマ オード クロウリー (p3p007790)は最後の準備と、会場の確認、リハーサルを終えていた。
 明日は2人の結婚式。
 おめでとうございます。
 開拓地を式場に選んだのは「ここから2人で新たな道を切り開く」という決意の表れだろう。少なくとも、セレマが会場として人通りの少ない開拓地を推薦した時、百合子はそう思った。
 実際には、少々荒事、厄介ごとの気配を感じたセレマが可能な限り無関係の赤の他人を巻き込まないよう、最大限に配慮した結果である。
「うむ引き出物の準備も出来ているし、料理の方も問題無かった。当日は我が美少女道場より選りすぐりの楽師たちを呼んでいるのでな、式のBGMも抜かりない」
「そうか。こう言ったことには不慣れかと思っていたが、存外上手く回っているみたいで安心するよ」
 式の段取りを整えたのは主に百合子だ。
 当然、セレマも意見を出しているし細部の調整には知恵を貸しているものの、主な段取りは百合子に任せている。
 結婚式に興味が無いというわけでは無い。
 何しろ、結婚式とはある種の契約の儀なのである。セレマは決して契約を軽んじることは無い。
 契約の怖ろしさは、誰よりも知っているつもりだ。
 だが、結婚式の準備にばかりかまけていられなかったことも事実。
「そろそろ時間だな。ボクは“友人”たちと会って来る」
「うむ。バチェラーパーティーというやつだな」
 バチェラ―パーティーとは、結婚を控えた男性が「独身最後の夜」を友人たちと楽しむ催しのことである。つまり、新生活が始まる前に盛大に羽目を外そうぜ! ということだ。
「……まぁ、そんなところだ」
 そう言ってセレマは、チャペルを後にした。
 その手には1枚の百合の花弁。
 百合子の元に送られて来た白百合の花弁には、黒いインクが染みている。
「白い百合なら、花言葉は純粋や無垢辺りになるが……黒となると、な」
 黒い花言葉は恋と呪いだ。
 セレマの杞憂なら良し。そうでなければ、きっと悲惨なことになる。
 悲惨の芽を未然に摘むべく、セレマは結婚式の準備と並行して対策を打っていたのである。

●テオフィールの影
「テオフィールの魔力の残滓を感じた。この1件、奴が噛んでいるに違いない」
 チャペル近くのコテージに、セレマは人を集めていた。
 ローレットを介さず、独自の伝手で呼び集めた2人……レオナ (p3p010430)とマッチョ ☆ プリン (p3p008503)は、セレマの手元の百合の花弁に目を向ける。
「どういう手合いだ。その、テオフィールというのは」
 そう問うたのは、レオナである。
 "求血鬼" サン・テオフィール・ド・アムールヘィン。
 セレマの契約する魔性の1柱にして、優雅で自己中心的な女性である。
「テオフィールは、ほとんどの場合は無害な奴だ。だが、ある特定の条件下において、奴ほどに面倒で危険な存在はいない」
 苦い顔をしてセレマは語る。
「テオフィールとの契約で与えられる力は、主に“美貌”、“限定的若返り”、“健康”、“長命”、“性的魅力の獲得”、“カリスマ性”、“身体強化”……力を貸す対象は、恋に悩み、愛に苦しむ人間だ」
 つまり、今回の場合は“百合の花弁”の送り主である咲花・百合華がその対象となる。
 百合子の従妹にして、ローレットの事務員。
 そして、おそらく百合子に対して羨望や憧憬の念を抱いている美少女である。
「強いぞ。きっと……事務員とはいえ、百合子の同門だ」
「敵対スルトモ限ラナイノデハナイカ?」
 マッチョ☆プリンの疑問ももっとも。
 だが、セレマは確信に近い予感があった。
「テオフィールが噛んでいるんだ。血を見ずに済むことは無いだろう。身体強化をかけられた程度なら軽い方で、最悪の場合は精神が汚染されている可能性もある」
 テオフィールの言葉は毒だ。
 致死性の毒を、そうと気付かせないままじわじわと対象に侵食させる。
 対象が毒の存在に気付くことは無く、また周囲がそれに気が付いた時にはもう手遅れ。かつて、テオフィールの関与によって式場を血の海にした女をセレマは知っている。
「百合子の前で、従妹を傷つけたくはないが……最悪の場合は想定しておく必要がある。とはいえ、式を楽しみにしている百合子に事実を告げるのも躊躇われるからな」
「隠し通せるものなのか? あぁ、いや……そのための私たちか」
「モウ少シ頭数ガ必要ダナ。用意シヨウ」
 レオナとマッチョ☆プリンが、腕を組んで悩んでいた。
 状況は単純。
 されど、面倒なシチュエーションだ。
 百合子にそうと知らせぬまま、テオフィールと百合華を抑えること。そのために、何が必要か。百合子にそうと気付かせないままに、2人を退場させるためにはどうするべきか。
 考えることは多い。
「テオフィールが使うのは【重圧】【封印】の付いた魔術と、広範囲への【魅了】【恍惚】【不運】の散布。そして、対象の能力強化だな」
 それがテオフィールの持つ手札の全ては無いだろうが、得てして彼女は“こういった場合”、直接手を下すことはせず、ほんの少しの後押しと最前列での見物を好む。
 テオフィールにとって、恋に狂う人間の姿はどんな喜劇よりも愉快なものに違いないのだ。
「百合華の方は近接格闘がメインだろうな。ローレットの同僚に聞いた話だが、【必殺】【致命】【崩落】付きの格闘術を得意とするそうだ」
 どうにか、結婚式を無事に済ませたい。
 胃の辺りを押さえながら、セレマはそう呟いた。

GMコメント

●ミッション
セレマと百合子の結婚式を無事に終わらせること

●ターゲット
・"求血鬼" サン・テオフィール・ド・アムールヘィン
セレマ オード クロウリー (p3p007790)の契約している魔性の1柱。
契約者……つまり、恋に悩み、苦しむ人間に対して、主に“美貌”、“限定的若返り”、“健康”、“長命”、“性的魅力の獲得”、“カリスマ性”、“身体強化”などの恩恵を与える。
人間の恋模様、とくにドロドロとした愛憎渦巻く類のものを喜劇か何かと思っている節がある。
招待はしていないが「出席」に〇の付いた手紙が届いた。
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3551

blood&rose:神遠範に中ダメージ【魅了】【恍惚】【不運】
 広範囲に散布される薔薇の香り。

狂騒曲:神遠単に大ダメージ【重圧】【封印】
 血色の魔弾。


・咲花・百合華
咲花・百合子 (p3p001385)の従妹……という設定の美少女。
百合子に対して羨望や憧憬のような感情を抱いているようだ。
その結果、百合子と結婚することになったセレマに対して思うところがある様子。
今回、百合子に招待され結婚式に参列する。
無自覚って残酷ですね……。
https://rev1.reversion.jp/scenario/ssdetail/3552

白百合清楚殺戮拳・喰牙:物至単に特大ダメージ【必殺】【致命】【崩落】
 狙うは急所。一撃で命を刈り取る獣の牙にも似た殴打。

●フィールド
鉄帝、ヴィーザル地方。
美少女道場の開拓地に建設された白いチャペル。
隣には披露宴の会場も併設されている。
当日は、美少女道場の門下生たちがBGM係を務めるようだ。
その他、庭なども整備されている。庭にはこの日のために白百合が植えられている。写真を撮るなら噴水近くの花壇前がおススメ。

※結婚式の流れは百合子さんにご確認ください。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●その他
百合子さんは、純粋に結婚式を楽しみにして、式の準備しかしていませんのでそのつもりで。
テオフィールの出席についても「なんか契約の関係で来てるんだろうな」ぐらいにしか思っていません。
百合華さんに対しても、純粋に従妹がお祝いに来てくれるとしか思っていません。
相談とか、いい感じに誤魔化しながら進めてください。

  • 祝福の鐘が鳴るころに。或いは、ご結婚おめでとうございます…。完了
  • GM名病み月
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2023年06月22日 22時25分
  • 参加人数7/7人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 7 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

(サポートPC10人)参加者一覧(7人)

日向 葵(p3p000366)
紅眼のエースストライカー
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
※参加確定済み※
カイト(p3p007128)
雨夜の映し身
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
※参加確定済み※
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一
※参加確定済み※
レオナ(p3p010430)
不退転
※参加確定済み※

リプレイ

●祝福の鐘が鳴る頃にside A
 空は快晴。
 風は穏やか。
 今日は良き日だ。
 豊穣、美少女道場開拓地の外れ。湖畔の傍に建築された白いチャペルの礼拝堂には、幾人もの人が集っている。
 百合子の門下生たちが多いが、中には『北辰の道標』伏見 行人(p3p000858)や『疾風迅狼』日車・迅(p3p007500)、『特異運命座標』陰房・一嘉(p3p010848)など、イレギュラーズの姿も散見されている。
 なお、受付に座っていたのは『与え続ける』倉庫マン(p3p009901)だ。普段は倉庫の中身を大盤振る舞いする彼とて、今日ばかりはご祝儀箱の鍵を固く締め、何者にさえ触れさせぬ覚悟を決めていた。
 今日は新郎『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)と、新婦『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)の結婚式。
 いとめでたけれ門出の日。
 と はいえ、式の開始まではまだ時間があった。『挫けぬ笑顔』フォルトゥナリア・ヴェルーリア(p3p009512)や『自然を想う心』エルシア・クレンオータ(p3p008209)などはチャペルの外で雑談を交わしている風だし、『花嫁キャノン』澄恋(p3p009412)は既に泣いている。式が始まる前からこれでは涙腺も持つまいが、溢れる涙を堪えろというのは酷な話だ。
 一方で、ピリピリとした空気を纏う者たちの姿も幾らかあった。例えば『Pantera Nera』モカ・ビアンキーニ(p3p007999)と『蛮族令嬢』長谷部 朋子(p3p008321)は結婚式のスタッフとして慌ただしく立ち回っている。
 料理の準備に、式場の警備、招待客の対応など仕事は多い。
「会長牧師さんやろうか? いらない? あ、はい」
 今しがたも、『嘘つきな少女』楊枝 茄子子(p3p008356)を自分の席へ返したところだ。

 式の開始が刻一刻と迫る。
 新郎新婦入場の時間はもうすぐだ。
「この日が来てしまったか」
 窓からチャペルの中を覗いて、セレマは眉間に皺を寄せる。参列者の中には見慣れた顔も多いのだが、中でもひと際、異彩を放っている者がいた。
「テオフィールは来ているな。いや、来ないはずは無いか」
 テオフィールが動いた。
 それは、流血沙汰の予兆に他ならない。

 
「とうとうこの日が来た。全く実感がないが……今日を区切りに本当に夫婦になるのだな」
 控室に静かに佇む百合子の姿。
 握った拳を胸に押し当て、恥じているような、照れているような、どうにも面映ゆい表情を浮かべていた。片手にヴェールを下げたまま、百合子の足は右へ左へ。
 未だかつで、これほどまでに落ち着きのない百合子の姿があっただろうか。
「嬉しいはずなのに少し不安なのは何故だろうか?」
 首を傾げた、その時だ。
「そろそろご入場の時間だ。用意は出来ているか?」
 ドアがノックされ、次いで朋子の声がした。

●祝福の鐘が鳴る頃にside B
 時刻は少し巻き戻る。
 薄暗いチャペルには、荘厳な雅楽が流れていた。美少女道場の門下たちが奏でる讃美歌である。BGMに耳を傾け、『紅眼のエースストライカー』日向 葵(p3p000366)はため息をひとつ。
「百合子とセレマが結婚っスか、ホント人との出会いって何が起こるか分かんねぇな」
「あぁ、百合子が、結婚、か。マリアと同じく、人に近しくも人と異なるモノと思っていた、が。まさかこんな日が来ようとは……なんと喜ばしいことだろう、な」
 葵に賛同の意を示したのは『金の軌跡』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)だ。
 感情表現に乏しいエクスマリアだが、その瞳には喜色が滲む。百合子とセレマの結婚を心から祝福しているのだろう。
 けれど、しかし、彼らは単なる招待客でいられない。
「穏便に済ませたいが……なぁ。別にアクシデントを願ってるだけじゃないぜ? 俺だってマトモに祝いたいんだ」
 『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)が視線を向けた先には、青白い肌の美女がいた。赤と黒を基調としたドレスを纏った、不吉で不穏、退廃的な空気を纏う彼女の名は"求血鬼" サン・テオフィール・ド・アムールヘィン。
 今回の式に波乱を起こす元凶……と目されている、セレマが契約の魔柱が1体である。テオフィールはきっと人ではないのだろう。そして、人ならざる者に人の道理を期待するのは間違いだ。

 葵やエクスマリア、カイトの主な役目はテオフィールを抑えることであった。
 そして、もう1人……。
「来たか」
 受付の仕事をしていた『たかが一兵なれども』レオナ(p3p010430)は視線を鋭くした。レオナが見やる先にいるのは、どこか百合子に似た雰囲気を纏う女性だ。
 名を咲花・百合華という。彼女もまた、百合子と同じく“美少女”であり、そしてテオフィールに並ぶ要注意人物の1人でもある。
「ドウ見ル?」
 受付に近づき『アイアムプリン』マッチョ ☆ プリン(p3p008503)がそう問うた。レオナは少し思案すると、耳打ちするよう声を潜めて答えを返す。
「一見すれば平常のように見える……が、警戒は必要か。ならば力尽くでも、しっかりと祝わせてやる」
「直グニ動クカ? デハ、オレモ同行シヨウ」
 気配を消して、レオナとプリンが行動を開始。
 式の開始より前に、百合華に接触するためだ。

 結婚式の幕が上がる。
 式場からは百合子とセレマを言祝ぐ声が聞こえて来ていた。
 華々しく、そして厳かな結婚式の始まりだ。
「…………式が、始まってしまいましたね」
「百合子は時々、汝のことを話していたよ。愛や情とはまた違う、優し……なに?」
 レオナの語る言葉を遮り、百合華は視線をチャペルへと向けた。
 その瞳には、どんよりとした濁りが垣間見えた。思わず、レオナは頬を引き攣らせる。式の開始と同時に、百合華の内心で渦巻く憎悪や殺意が激しさを増したためである。
「今、セレマさんが誰かに殺されたりしたら……どうなるのでしょうか」
「どうにもならないし、そんなことはさせない。百合子はお前の事、すっごく好きそうだった……百合香。お前が危ない事をしようってしてる話……ほんとなのか?」
 式場から百合華を連れ出したレオナとマッチョ☆プリンは、彼女の説得を試みた。だが、今の彼女に2人の声は届かない。
「本当だったら、どうだというんです?」
 平然と、百合華はセレマに対する殺意を認める言葉を口にした。
 拳を握り、腰を低くする。
 途端、百合華の纏う闘気が倍以上に膨れ上がった。気の弱い者なら、気に触れただけで意識を失いかねないほどだ。
 これが美少女。
 百合子の従妹を任されるほどの逸材、その真価。
 けれど、しかし……レオナも、マッチョ☆プリンも、その程度では気圧されない。
「お互い得物を以て殴り合うべし。美少女というのはそういう存在だろう」
 そう告げて、レオナは隠し持った剣を引き抜いた。
 刹那、レオナの視界は上下がひっくり返る。
 レオナが臨戦態勢を見せた瞬間、百合華の掌打が顎に叩き込まれたのだ。

 百合子とセレマが皆の前に並び立つ。
 万雷の拍手と喝采が降り注ぎ、そこかしこから声の限りに祝いの言葉が発された。
「御二方、ご結婚おめでとうございます」
「御結婚、おめでとう御座います。二人の今後の生活が円満たる様」
「結婚おめでとう百合子さん! 末永くお幸せに!」
「実にめでたい! ご結婚おめでとうございます! お幸せに!」
「うっ……うう……ずびっ……本当に、本当にズビビッおめでどう゛ございま゛すぅ……っ!!」
「結婚おめでとう!! ……え!? なに結婚するの!? なんで!? え!? なにがどうなって!!???」
 百合子は少し気恥ずかし気に、セレマは視線を横に逸らして、祝いの言葉を受け止めている。結婚式なのだ。結婚には、祝福が必要なのだ。
「結婚、おめでとう。今日はきっと、すごく素敵な日になるわね」
 なんて。
 テオフィールの囁く声が脳裏に響き、セレマは強く歯噛みした。

 粛々と式は進んで行く。
 誓いの言葉を交わし、2人は結婚契約書にサインを記す。
 ここにセレマと百合子の結婚は成った。
「これで本当に結婚したのか……うん。そうか」
「どうした? 何か不都合があるか?」
「いや、そう言うわけでは無い。断じてな」
「あぁ、だろう。筋書き通りだ」
 他人に聞こえないよう声を潜めて、セレマと百合子は言葉を交わした。
「……そう……全ては筋書きだ」
 予定調和の結婚式。
 笑っている者も、泣いている者もいる。
 ただ1人……テオフィールだけは、つまらなそうな顔をしている。それはつまり、彼女の描いた脚本に狂いが生じたという証拠だ。
 セレマの合図で、式場の窓に小鳥が降りた。
 客たちが立ち上がる中、何人かが行動を開始した。それを横目で見送って、セレマは再びファミリアーの小鳥を飛ばす。

「あら……何か御用かしら?」
 なんて。
 悪戯めいた笑みを浮かべてテオフィールは言う。
「今日はめでてぇ席なんスよ、そこに何のつもりでここに来た」
「俺らはあくまで祝いに来ただけ。式を勝手に主導者でないのに脚本を書き換える奴は気に食わない……この説明で分かってくれるか?」
 テオフィールの左右に、葵とカイトが回り込む。
 テオフィールの視線、指先、足元にまで注意を張り巡らせ、何か奇妙な動きがあればすぐにでも力づくで取り押さえる心算である。
「なにもするな。そうすれば、穏便に、可能な限り済ませてやる」
「断る……と、言ったら?」
「悪ぃが祝福より我欲を優先する奴を野放しにしとくわけにはいかねぇんスよ」
 葵の言葉を耳にして、テオフィールは笑みを深くした。
 唇の隙間から、鋭く尖った犬歯が覗く。
 唾液に濡れた赤い舌が、口内でチロと蠢いた。
 瞬間、カイトと葵の鼻腔を甘い薔薇の香りが撫でた。

 百合華の拳が、マッチョ☆プリンの胸部を穿つ。
 黒い鎧に亀裂が走り、金属片が飛び散った。
 激しい戦闘の末、レオナとプリン、百合華の3人は湖畔の浅瀬にまで移動している。水飛沫を巻き上げながら激しく打ち合う3人の耳に、幾つもの笑い声が届いた。
 式が終わり、観客たちがチャペルの外に出て来たのだ。
「……」
 無言のまま、百合華が強く歯噛みした。
 姿勢を低く沈めると、地面を踏み締め疾走を開始。まるで砲弾か何かのようだ。
「っ……速イナ!」
「百合子の同門だ。はじめから分かり切っていたこと!」
 百合華の進路を阻むべく、プリンとレオナが追走する。
 だが、間に合わない。
 百合華はまっすぐ、チャペルの方へと向かっていく。
 しかし、百合華は急に足を止めた。
 その足元には、一筋の裂傷が刻まれていた。
「貴女も邪魔をするんですね」
「するとも。百合子は言ったんだ。百合華が人としての見本だ、と」
 百合華の前に立ちはだかるのはエクスマリアだ。
 手にするのは、魔力で編まれた蒼き剣。
「……それが?」
「そんな人物が、大切な者の幸福を望まないわけ、ない」
 エクスマリアが剣を構えた。
 それが、エクスマリアの意思だ。
「割り切れないものがあるなら、今ここで受けて立つ。……だから」
 姿勢は低く。
 地上を低く、地面を這うようにして、エクスマリアは百合華へ肉薄。
 テオフィールの影響を受けた百合華を止めるには、言葉だけではきっと足りない。ここまでの様子を、小鳥の目を通して視ていたエクスマリアには分かる。
「頼む。百合子は今、幸せなんだ」

 チャペルに残ったのは3人。
 テオフィールと、カイト、葵だ。
「そっちが表立ってやるって言うなら、無理矢理にでも抑え付けさせてもらうぜ」
 頬を流れる冷や汗を拭い、カイトは言った。
 テオフィールは赤い舌で唇を舐めると、肩を竦めてみせる。
「情熱的なお誘いね」
「話してダメならしゃーねぇだろ。力で制圧するしかねぇ」
 2対1。
 数の上では、カイトと葵の方が有利だ。しかしテオフィールは余裕な態度を崩さない。
「もう少し時間もかかりそうだし、遊んであげても構わなくてよ?」
「そうかい。だが、レッドカードっス。さっさと退場してくれ」
 テオフィールの顔面目掛け、葵はサッカーボールをシュート。
 それと同時にカイトが術式を展開した。
 葵のシュートは、正確にテオフィールの顔面を撃ち抜いたように見えた。
 テオフィールの体を、カイトの展開した術式が拘束したように見えた。
 だが、まるで見えない壁に弾かれるようにして2人の技は爆ぜて消える。一瞬、2人の視界には飛び散る鮮血が見えた。
「な……ぐっ! あぁ?」
 突如として、葵が腹を押さえて倒れた。
 腹部に血が滲む。流れた血が、チャペルの床を赤く濡らす。
 血の魔弾だ。
 魔弾は葵のボールを粉砕し、彼の腹部を射貫いたのだ。
「レッドカード、お返しするわね」
 そう嘯いて、テオフィールは葵の後頭部へ指先を向ける。
 だが、魔弾が撃ち出されることは無い。
「あら?」
 一瞬の隙を突き、カイトが展開した術式がテオフィールの手を包み込んだのだ。魔力が霧散し、血の魔弾が飛び散った。
 鮮血がテオフィールの白い頬を濡らす。
「お前が一番望んでないだろう幸せな結末を手繰り寄せてやるさ」
 カイトが笑う。
 笑いながら、数歩だけ後ろへと下がった。
 カイトを追いかけるように、テオフィールは1歩だけ前へ進んだ。
 瞬間、テオフィールの足首を葵が掴む。
 血に濡れた手で、テオフィールの細い足首を握りしめる。
「……新郎程じゃないが、俺もそれなりに『良い性格』してる自覚はあるからな???」
「せ……せっかくの祝いの席を、メチャクチャにはさせねぇぞ」
 テオフィールはまず足元の葵を、次に正面のカイトを見た。
 その顔から、感情がストンと抜け落ちる。
 つまらなそうな顔をして、テオフィールは薔薇の香りの混じる吐息を零した。
「じゃあ、こういうのはどうかしら?」
 なんて。
 テオフィールは自身の頭上へ手を掲げる。
 膨大な魔力が渦を巻く。
 血と薔薇の香りのする魔力の渦が、その規模を徐々に増していく。
「っ……式場全部を飲み込むつもりっスか!」
 いち早く、葵はテオフィールの狙いに気付いた。
 
 青い空に、バズーカの音が鳴り響く。
 それは、1つの戦いが終わった合図だ。
 勝者はエルシア。
 種目はブーケ争奪戦。
「獲っ……っっりました!」 
 エルシアの抱く「必ずやブーケを手に入れる」という強き思いが勝利を引き寄せたのである。鬼気迫るその様に、朋子は思わずエルシアを“同族”であると誤認した。
 そんなエルシアの視線は、一嘉の方へ向いている。
 視線だけのやり取りだ。
 だが、敏感にも2人の交わす視線の意味を理解した者がいた。
 茄子子だ。
「なに結婚するの? 会長牧師さんやろうか?」
「……まあ。流石に、結婚は少し早いとして。まずは、一緒に住むと言うのは、どうだろう?」
「あ、会長、仲人とかもやろうか?」
 
「あの派手なのがいないな?」
 披露宴の会場で、ふと気が付いた百合子は言った。思えば、少し前からテオフィールの他、何人かの姿も見えない。
「あぁ、少し用事があるそうで席を外すと聞いている」
 誤魔化すようにセレマは言った。
 それから、百合子を伴い立ち上がる。モカに手渡されたマイクを、逡巡した後、百合子へ回し、開幕の挨拶を促した。
 式の段取りを整えたのは百合子だ。
 故に、開幕の挨拶などという大役を、何もしていないセレマが奪うわけにはいかない。
「うむ。皆、この度は式に来ていただき感謝する」
 良く通る声だ。
 拍手と笑いが巻き起こる。
「などと、堅苦しい挨拶は無しだ。昼食も色々用意したので是非楽しんで頂きたい。名産の美少女米を使った酒もあるぞ!」
「それと、ささやかだがボクの方でも劇団を用意している。余興として、楽しんでもらえれば幸いだ」
 
 レオナの側頭部を、百合華の拳が掠めた。
 皮膚が裂け、衝撃に脳が激しく揺らされる。
 膝を突いたレオナの口から、血と吐瀉物が撒き散らされた。体力も限界に近い。【パンドラ】を消費し、剣を支えに立ち上がるが、その目は焦点が定まっていない。
「それでも、まだ立ち上がるのですね」
「あぁ……一歩たりとも退かん。共に祝うぞ」
 手傷は負わせた。
 肩の傷など、特に深い。現に今も、百合華の肩からは血が流れ続けている。
 痛みも相当なものだろう。
 だが、百合華の意思を痛みでくじくことは難しい。テオフィールの精神汚染とは、それほどに強力なものなのだ。
 血を流す肩から手を離し、百合華は拳を高くへ掲げる。
 レオナの頭部へ振り下ろされた一撃を、けれどエクスマリアが防いだ。拳を受け止めた掌が砕け、骨と筋肉が軋む。
 地面に叩きつけられたエクスマリアの小さな体が、数度、地面を跳ねた。
 泥と血に塗れ、地面に転がるエクスマリアは、呻くように言葉を紡ぐ。
「伝わってくれ。君が、本当に優しい人、なら」
 その声が。
 眼差しが。
 百合華の脳に、僅かな痛みを生じさせる。

 絶叫をあげて、百合華は拳の雨を降らせた。
 黒き鎧が、殴打の全てを受け止める。
「百合子はな、オレにとって。友達だ。友達はこう言うやつの事を言うんだ、って。百合子と一緒に一所懸命にお祭りやって、戦って、負けて。初めて、そう思ったんだ」
 マッチョ☆プリンの片腕に罅が走る。
「だから、百合子が悲しむ様な事なんか許せるか! お前が、百合子の事を祝えるまで!
 オレが何度だってぶつかりあってやる!」
 折れかけた腕で、マッチョ☆プリンは百合華の腹部を殴打した。
 殴り合いだ。
 拳と拳の、そして意思と意思のぶつかり合いだ。
「だから百合香! お前も、百合子が好きなら……魔性なんか関係ないだろ!」
「魔性なんて、関係ありません!」
「お前のやり方、お前の言いたい事で、ぶつかってこい! その為なら、オレの運命だって賭けてやる!」
 プリンの腹部を、百合華が打った。
 鎧が砕け、地面に散らばる。
「邪魔をしないで!」
 揺らぐ巨体の芯を正しく目で捉え、百合華は強く大地を踏んだ。
 渾身の殴打が、マッチョ☆プリンの顎を穿った。

 肩を押さえ、覚束ない足取りで百合華は披露宴の会場へ向かう。
 その背を見送り、マッチョ☆プリンが起き上がる。【パンドラ】を消費し意識を繋いだプリンだが、百合華を追うことはしない。
「いいのか?」
「まだ動ける、ぞ」
 レオナとエクスマリアが問うた。
 破れたプリンの被り物を手で押さえ、マッチョ☆プリンはゆっくりと首を横に振る。

 オーバーヘッドで放ったシュートと、カイトの行使した術式が、テオフィールの魔力を霧散させる。
「ざまぁっス」
 笑う葵と、目を剥くテオフィール。
 テオフィールは葵の足首を掴むと、力任せに振り回した。椅子に、壁に、床に。葵の頭を叩きつける。その度に悲鳴があがる。
 悲鳴も、やがて聞こえなくなる。
「……、げほっ」
 咳き込む葵を投げ捨てて、テオフィールは視線をカイトの方へと向けた。
 カイトは素早く手を掲げ、眼前に2つの魔法陣を展開。
「式をぶち壊しにはさせねぇ。一応『役者』としては、そんな無粋な真似、ご勘弁願いたいからな」
 それを見て、テオフィールはため息を零した。
「卿が覚めたわ。それに、そろそろ役者が舞台に上がるみたい」
 チャペルの窓から外を見て、テオフィールは恍惚とした笑みを浮かべた。
「観客なのよ、私たちは。舞台で踊るのは別の誰か。そうでしょう?」

●良き日に乾杯
 銃声が鳴った。
 劇団たちは突如とし、セレマ目掛けて無数の銃弾を浴びせかけた。
 突然の凶行。
 笑っているのは、セレマ1人だ。
 劇団たちに、自分を撃つよう命じていたのだ。自分が凶弾に倒れれば、テオフィールの目論見も、百合華の凶行も、どちらも御破算にできるから。
 撃たれて、死んで……それでいい。
 それでいい、はずだった。
「ふむ? なるほど。新郎を守るに足る力があるか、試したのか?」
「な……あ!?」
 気づけばセレマは天井を見ていた。
 百合子によって、床へ組み伏せられていたのだ。
 その間に、劇団員たちは制圧された。
「おめでとうを言いに来た……それだけだったんだがなぁ」
「ハッピーエンドタイムだゴラァ!」
 迅速な対応。行人と迅、朋子、そしてフォルトゥナリアが動いた以上、劇団員たちに次のチャンスは巡って来ない。
連行されていく劇団員たちを見て、モカが溜め息を零した。劇団員たちがセレマの仕込みであることを説明するためだ。
 その様子を見ながら、セレマは目を丸くする。
 ほんの一瞬で、自分の仕込みが破綻した。なぜか百合子は上機嫌。セレマを立たせ、マイクを手に取る。
「なかなかの余興だったな。せっかく盛り上がっていることだし、吾もここで1つ手紙を読ませてもらおう」
 そう言って百合子は視線を会場の入り口へと向ける。
 扉の向こうに、百合華の気配を感じたのだ。
「……不味いことになった。なったが……百合子、あとはお前次第だ」
 セレマの頬を冷や汗が伝う。
 どういうわけか、百合華は動かない。
 惨劇を回避する好機があるとするのなら、今、この瞬間が最後だろう。
「うまく復縁しろよ」

「百合華、貴女は私の憧れでした」
 扉越しに百合子の声が聞こえている。
「強いものだけが肯定される世界で、貴女は自分の意思で弱い家族を助けるために卑怯者の誹りを受けても立ち向かい続けた」
 百合華は、顔を俯けその言葉に耳を傾けた。
 脳の奥を、胸の底で、百合子と過ごした日々の記憶が蘇る。
「私は貴女になりたかった」
 思わず、小さな嗚咽が零れた。
 百合子は確かに変わっただろう。
 だが、なぜ自分は素直にそれを祝えないのか。
「ただ強くある方法しか分からなくて、ずいぶん時間がかかってしまったけど、こんな舞台に立てたのは、貴女が最初に人としての見本を見せてくれたから」
 自分も百合子のようになれるだろうか。
 少なくとも、今は無理だ。
 今の時分に、百合子と並ぶ資格はない。
 だが、いつの日か……きっと。
「ありがとう百合華。憧れる貴女はまだまだ遠いけど、これからも貴女が示してくれた道を進みます」
 扉から背を離し、百合華はそっとその場を離れた。
 その夜、百合華は誰もいない暗いところで、声をあげて泣いたのだ。


成否

成功

MVP

マッチョ ☆ プリン(p3p008503)
目的第一

状態異常

日向 葵(p3p000366)[重傷]
紅眼のエースストライカー
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)[重傷]
愛娘
マッチョ ☆ プリン(p3p008503)[重傷]
目的第一
レオナ(p3p010430)[重傷]
不退転

あとがき

お疲れ様です。
結婚式は無事に終了し、テオフィールはつまらなそうな顔でどこかへ消えました。
依頼は成功となります。

この度は、シナリオのリクエストおよびご参加、ありがとうございました。
縁があれば、また別の依頼でおあいしましょう。

……とか、定型文のあとがきはいらないですね。
ご結婚おめでとうございます!!

PAGETOPPAGEBOTTOM