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シナリオ詳細

<廃滅の海色>凍る海の上、廃滅をもういちど

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 霧が煙るような夜のことだった。
 執務室には蝋燭の明かりが一本分。片隅にあるアンティークのコートかけには大人用のジャケットと帽子がかかっている。それは部屋の重厚さとは裏腹な、海賊が着るようなジャケットと帽子だった。
 『彼女』はそれが身の丈に合っていないにもかかわらず着続けているというが、それを咎める者はいない。
 彼女が相応の実力を持っているからとも言えるし、この土地がそれだけ自由だからだとも言えるが、何より理由として挙げられるのは……彼女の父にして青の英雄、海賊ブラックスが伝説に語られる護国のヒーローであったためだ。
 彼女の名はキャピテーヌ・P・ピラータ。
 シレンツィオ・リゾートの代表執行官を務める幼き才女である。

「きゃっぴーちゃん、きゃっぴーちゃん! 大変なのですよ! また『神の国』ができたのでして!」
 部屋に飛び込んできたのはキャピテーヌの友、ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)。
「またなのだ!?」
 対してキャピテーヌは頭を抱えてぐわーと椅子の上でのけぞった。
「もうこれで何件目なのだ!? 海洋王国で頻発してるのは知ってるけれど、シレンツィオにばっかり来すぎなのだ! 何故そうなるのだー!」
「そ、それは……」
 ルシアは報告書を片手にひっつかんだまま明後日の方向へ目をそらした。
 なんといってもここは元々『絶望の青』だった場所。フェデリア、アクエリア、コンモスカを主要とするシレンツィオ諸島はそんな青き絶望の海を勇敢に攻略してきた証のような島々だ。特にフェデリア島はリヴァイアサンとの壮絶な戦いの記録が大断裂の谷という形でまざまざと残った伝説の地となっている。
 もし大遠征踏破を『なかったこと』にしたい勢力がいたとしたら、こんな大遠征成功の象徴のような場所を真っ先に潰したいと思うだろう。
 ……という考えは、既にキャピテーヌにはあるらしい。
「わかっているのだ」
 と呟いて両手をだらーんと机に投げ出し頬を机面にくっつけた。
「わかっているけどぼやきたいのだ。最近忙しすぎるのだー」
「きゃっぴーちゃん」
「わかっているのだー」
 暫くうがーと唸りながら両手両足をばたばたさせた後、キャピテーヌは顔をあげる。
「今集められるイレギュラーズを会議室に集めてほしいのだ! それと、今すぐ調査員を派遣するのだ!」


 恐るべき事態だ。と、説明しておこう。
 『神の国』が天義で発見されてから暫し、ルスト陣営は聖遺物を触媒として天義国外へとその影響範囲を広げていった。
 曰く、大遠征が失敗している世界へと書き換えるための帳を下ろすためだと。
「幸い、『帳』はまだ発動していないのだ。けど、発動してしまえば一気に『神の国』の様相へ書き換えられてしまう。それだけ恐ろしいものなのだ」
 キャピテーヌはそう説明し、フェデリア島の東に位置する海域をマッピングした。
「この場所へ帳を下ろそうと、『神の国』ができあがっているのだ。これを放置すれば帳がおり、廃滅病や当時の恐ろしいモンスターたちが再びこの世界に発現してしまうかもしれない。そうなればシレンツィオは脅威にさらされることになるのだ」

 調査員の話によれば、『神の国』は海上の風景をもち、破壊された大量の船があちこちに浮かんでいるという。
 そしてその光景をもたらした存在も、そこにはいた。
「リヴァイアサンほどに巨大かつ強大ではないにしても、それを彷彿とさせるような滅海竜型のアンデッドモンスターが出現しているのだ。
 加えて、その鱗から生成されたとおぼしき氷のゾンビたちも」
 破壊された船が浮かんでいるのはなにも浮力が残っているからというばかりではなく、周囲の海面が分厚い氷に覆われているからとも言われている。
 このあたりではそうそうありえないことだが、対リヴァイアサン戦ではそのような現象が起きていたとも聞く。おそらくその再現だろう。
「大量の氷アンデッドと竜型アンデッド。それに、廃滅病にも似た弱体化効果が現場にはあるらしいのだ。けれど核となっている竜型アンデッドを倒せば、この空間を破壊できるのだ!」
 達成は難しいが、達成目標そのものはシンプル。まさに、イレギュラーズの出番というわけだ。
「皆、頼むのだ。フェデリア島を、守ってほしいのだ!」

GMコメント

 『神の国』へと入り、レッサードラゴンゾンビとフローズゾンビの一団を撃滅しましょう。

●神の国とは?
 一時期から天義を騒がせているリンバスシティの元となる異空間です。
 この異空間が成長すると現実世界に『帳』をおろし、その領域内は異言を話すルスト陣営の領域へと変わってしまいます。
 そうなる前に、異空間の核となっている存在を破壊することで、『神の国』を破壊する必要があるのです。

●フィールド
 海面が凍り付いた海の上です。
 そこにはかつての大遠征で犠牲になったとおぼしき人々を象ったドロドロのフローズゾンビが大量に出現しています。加えてリヴァイアサンを彷彿とさせるゾンビも出現し、猛威を振るっているようです。
 また、このフィールドでは『疑似廃滅病』が蔓延しています。

※疑似廃滅病
 このフィールド内では時間経過に従って戦闘能力の低下とHP&APダメージを受けます。
 効果は経過した時間が多くなるに従って深刻化します。

●エネミー
・フローズゾンビ
 氷と腐肉でできたゾンビたちです。動きはぎこちないながらも腕力は高く、数にものを言わせて攻めてくるでしょう。
 範囲攻撃で一気になぎ払うのも手ですが、中には強度の高い強化型ゾンビも混ざっているため強力な単体攻撃で仕留めるのも必要になってきます。
 また、彼らはこちらの殲滅よりも時間稼ぎに重きを置いている雰囲気があります。疑似廃滅病にやられてしまわないよう、速攻戦をしかけるのをお勧めします。

・レッサードラゴンゾンビ(ワールドイーター)
 リヴァイアサンを彷彿とさせる巨大なドラゴンゾンビです。
 といってもワールドイーターがその造形を真似ているだけで、竜種とは関係ないようです。
 リヴァイアサンほど巨大ではないし一撃で三桁の人間を殺し尽くしたりはしませんが、こちらの戦力も少ないため相対的に苦戦を強いられるコトには変わりないでしょう。
 破壊力抜群の滅海のブレスのほか、尾を暴れさせたり直接体当たりを仕掛けたりといった攻撃を仕掛けてきます。

※撤退の可否
 この戦いは望めば撤退が可能です。その場合依頼は失敗扱いとなりますが、神の国に取り残され命を落とす心配はありません。
 もしそうなった場合犠牲覚悟でシレンツィオの兵を突入させて無理矢理神の国を破壊することになるでしょう。
 そうした犠牲を出さないためにも、是非この戦いに勝利してください。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <廃滅の海色>凍る海の上、廃滅をもういちど完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月15日 22時15分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

志屍 志(p3p000416)
密偵頭兼誓願伝達業
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
ロレイン(p3p006293)
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星
レイン・レイン(p3p010586)
玉響
トール=アシェンプテル(p3p010816)
ココロズ・プリンス
ピリア(p3p010939)
欠けない月

リプレイ

●神の国へと至る道
 ルスト・シファー(冠位傲慢)の権能によって構築された通称『神の国』。
 それは今や世界のあちこちにばらまかれた『触媒』を通じて現実のありようを書き換えようとしている。
「あの時の威容とは比べるべくもないはずなのですが、相対して震えが来るのはトラウマばかりでもないでしょう。
 脅威は認めます。その上で退く決断が難しい、となれば、打ち倒すしかありません」
 『遺言代行業』志屍 瑠璃(p3p000416)は凍った地面へと降り立ち、周囲をゆっくりと見回す。
 それはかつてリヴァイアサンと戦った壮絶な戦場を思わせ、はるか遠くからゆっくりと近づいてくるフローズゾンビの集団もまた、それを思わせる。
 『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)は今や懐かしき、しかし大切な思い出を胸に抱き、太刀『衛府』をすらりと抜いた。
「疑似廃滅病に、リヴァイアサンもどきね。いい根性してるじゃん。
 ほんとに俺のやる気へ火をつけるがうまいんだよなあ、この神の国ってやつはさ!」
 眼鏡に光を反射させ、どこか内に秘めた怒りの炎を思わせる史之。
 ロレイン(p3p006293)も魔力の糸をスッと伸ばすと、近づいてくる敵集団へと身構えた。
(大号令やその結果をなかったことにするなんて、まるで嫉妬よね。
 神の国……神の名を騙って今という時から目を反らし続けているようにしか見えないわ?)
 その一方で、『欠けない月』ピリア(p3p010939)は小さく後ろを振り返る。
 撤退は可能だ。しかしそれは、帳がこの海におりることを意味している。
 かつてこの海を静寂の青とすべく戦った人々の犠牲を、まるでひっくり返すようなことが。
「じゃあ、ピリア、にげないの!」
 キッと前に向き直り、己の中に循環する魔力を高めるべく胸に抱えていた魔導書を開く。
「みんなといっしょにたたかうなら、だいじょうぶ! がんばるの! むん!」
 一方で、『守護者』水月・鏡禍(p3p008354)と『女装バレは死活問題』トール=アシェンプテル(p3p010816)は自らの手を見下ろした。
 ぴりぴりと痺れるような感覚と、何かが腐ったような臭い。
「噂には聞いていましたが……これが廃滅病ですか」
「疑似とはいえ、これに多くの仲間が苦しめられたんですよね」
 イレギュラーズたちが参戦した大遠征は成功したとはいえ、幾度もこの廃滅病に抗う奇跡をおこしなんとか青き果てにたどり着いたのだという。
 それまで行われた幾度もの大遠征は、海を阻む戦力とこの廃滅病によって滅び去ったとも言われていた。
 そう、誰も帰ってこなかったのだ。生き残った者など、いなかったのだ。
「それが現実にまでもたらされたらどうなるか……」
「はい。なんとしても、止めなくてはいけませんね」
 トールは輝剣『プリンセス・シンデレラ』を抜き、束からオーロラの刀身を出現させる。
 鏡禍もまた妖力を高め、手をかざすように身構える。
「…………」
 そんな中で、『玉響』レイン・レイン(p3p010586)はさしていた桜色の傘をゆっくりと回す。
 仲間は皆、最後まで戦う覚悟をしていた。この海を守るために、退くことはしないと。
 ならば……。
「僕達は……それに見合う働きをしないと……」
 レインは一度目を閉じ、そして決意を込めて開く。
 『開幕を告げる星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)が翼を羽ばたかせ、ゆっくりと浮かび上がった。
 手にしたIrisPalette.2NDのセーフティーを解除し、頭上に浮かぶトゥインクルハイロゥをゆっくりと回し始める。
「そんなに壊れた世界が好きならば、ルシアがもっと壊してあげるのですよ!
 そうして実際に起こった通りのフェデリア島を返してもらうのでして!」
 羽ばたき。そして、ルシアは弾丸のごとく飛び出した。


 弾丸の如くと述べたが、実際ルシアの役割は弾丸であった。
「この世界は時間をかければ定着して、さらに昔流行った病のようなものが渦巻いていて――相手からすれば時間を稼ぐだけで勝てるのです。
 だからあの氷のゾンビたちは人で大きな壁を作るように立ちふさがっていて、とっても、邪魔でして!!!」
 豪速で低空飛行をかけたルシアはフローズゾンビの眼前まで迫ると翼を広げて急ブレーキ。
 突き出したライフルから激しい光を膨らませる。
「エネルギー充填、100%。殲光砲魔神――発射でして!」
 素威力にして7516にも及ぶ殲光砲魔神である。こんなものを零距離からぶっ放されて無事でいられるほどフローズゾンビは頑強ではない。氷でできた肉体を崩壊させ、その後続にあったフローズゾンビたちまでも吹き飛んでいく。
 そうしてできた一列の谷を、瑠璃は飛空探査艇へ乗り込み突っ切っていく。
 元々低空飛行でかなりの速度を出していた瑠璃だが、探査艇からアンカーを発射。フローズゾンビたちの更に先で待ち構えていたレッサードラゴンゾンビのボディへとアンカーを食い込ませる。
「一気に近づくとしましょう」
 アンカーから伸びたワイヤーを巻き取り、急速にレッサードラゴンゾンビへと距離を詰める瑠璃。
 そんな瑠璃の探査艇を、レッサードラゴンゾンビは尾を激しく叩きつけることで反撃した。
 サッカーボールのように飛ばされ、回転しながら地面をバウンドする探査艇。それでも壊れていないのはさすがである。
「相手は強敵です! 注意してください!」
 トールはオーロラの翼を背から展開すると、蝶のように羽ばたいて瑠璃よりも前へと出た。
 予想通りと言うべきかレッサードラゴンゾンビによる追撃が走る。トールは――。
「あまり時間はかけられません! ならば、この手に限ります!」
 輝剣『プリンセス・シンデレラ』から放出されるオーロラエネルギー濃度を限界まで高めて生成した夜色の結晶刃。
 その名も『極光の剣-虚-』。夜色の結晶刃がレッサードラゴンゾンビに叩きつけられ、交差するように叩きつけられたレッサードラゴンゾンビの尾はトールの展開したオーロラ状の結界によって阻まれた。
 いや、阻むことができたのは一撃だけだ。結界はそれによって派手に破壊され、トールは大きく吹き飛ばされる。ダメージは結界が阻んでくれたものの、すぐにブレイクされたようだ。
「やはり一筋縄では……」
「あのリヴァイアサンをモチーフにしてるんだ。これで弱かったら拍子抜けだよね!」
 史之は空中に円盤(パネル)状の斥力フィールドを点々と出現させるとそれを蹴ることで空駆けをおこなった。反発する斥力パネルを踏み込み、地面と水平になるような勢いでレッサードラゴンゾンビへと突っ込む。
 が、ここまで無視されてきたフローズゾンビたちも黙ってみているということはなかったようだ。飛行する史之に激しい跳躍によって飛びかかり、次々にしがみついていく。高度を無理矢理落とされた史之へ次々にまとわりつくフローズゾンビ。
「面倒な――」
 と、そこで仕事をしたのはロレインであった。
「神鳴りよ、我が敵を穿ち給え」
 ロレインは握っていた剣を掲げ、チェインライトニングの魔法を炸裂させた。
「リヴァイアサンを模しているとはいうけれど、この凍結はむしろ鉄帝の寒気よね。
 得体の知れない異空間で、海が凍って船を漕ぐ必要がないのは助かるけれど……。
 いくら神の国内部でも、ゾンビが俊敏に水泳するなんて状態になってなくて安心よ」
 などといいながら髪を払う。
 史之にまとわりつくフローズゾンビたちが撃ち払われ、団子状になっていたそれらの内側から解き放たれた史之は再び斥力パネルを蹴ってレッサードラゴンゾンビへと殴りかかる。
「さすがにこれなら――!」
 強烈なプラズマがレッサードラゴンゾンビを包み込む。目の色を変えたレッサードラゴンゾンビは史之をにらみ付け、その牙で襲いかかった。
 が、そんな彼を庇うように飛び出したのは鏡禍だった。鏡禍は空中に発生した大きな鏡の上に飛び乗ると、それを飛行させてレッサードラゴンゾンビへと一気に距離を詰める。
 史之をひとのみにしようと開いた口めがけ自ら飛び込み、両手を開いて妖力による結界を展開した。
 鏡状になった球型の結界が、ガキンとレッサードラゴンゾンビの牙を阻む。
「通常攻撃程度なら、なんとか……」
 そうしている間にフローズゾンビたちが集まってくる。レッサードラゴンゾンビへの集中攻撃を防ぐ狙いか、あるいはこれ以上の怒りの付与をさせないために庇うつもりか。
 いずれにせよ彼らを払いのける必要があるだろう。
 レインは傘をくるりと一度だけ回すと、畳んだ傘にキラキラとした光の粒を纏わせた。
「大丈夫……任せて……」
 レインは美しく舞うように回転し、傘で空間を大きくなぎ払う。
 光の粒はまるで巨大な海月の笠のように広がったかと思うと、集まったフローズゾンビたちを纏めてなぎ払いバラバラに破壊した。
「よい、しょ。よい、しょ」
 ちょっぴり遅れてやってきたのはピリアだ。簡易飛行効果のあるウィングシューズでぴょんぴょんと氷の床を跳ねるよううにしながらやってきた彼女は、集まっていたフローズゾンビに手をかざす。
「まわりの子と、ちょっとだけケンカしててなの!」
 最初は小さな泡だったオパールの煌めきがぶわっとひろがり、フローズゾンビの集団へと叩きつけられる。
 混乱したように目にオパールの光を宿した彼らは、互いに攻撃し合い乱闘を始めるのだった。

 レッサードラゴンゾンビの封殺は成ったとばかりに集中攻撃を浴びせる史之たち。
 が、レッサードラゴンゾンビの目の色が元に戻ったことで史之はハッとして周囲に叫んだ。
「反撃が来る、備えて!」
 その言葉とどちらが早かっただろうか。
 レッサードラゴンゾンビはカッと開いた口から破滅のブレスを放射すると、それを全方位に向けてぶっ放したのだった。
 それは集まっていたフローズゾンビたちすらなぎ払うほどの無理矢理な暴力であった。
「わっ――!」
 鏡禍は咄嗟に大きな鏡型の障壁を展開。防御力の低いピリアを守るべく庇う位置に立つと、ブレスの砲撃を障壁で受けた。いや、障壁と自分の身体で受けたと述べる方が正確だろう。それほどに敵の攻撃は強力で……それほどに鏡禍の防御は堅かった。
 同じく史之は斥力フィールドを展開してレインの前に陣取るとブレスの砲撃を防御。他の仲間達にも同じように味方を庇うように呼びかける。
「瑠璃、トール! 他の仲間をお願い!」
「丁度タンク役が半数いて助かりましたね」
 瑠璃は探査艇を盾にすることでロレインを防御。探査艇は破壊されたが、素早く脱出した瑠璃は無傷で氷の地面を転がった。
 一方でトールはオーロラの刀身をX字に払うことでブレスの砲撃を相殺しにかかる。
 空間もろとも切り裂かれたブレスの隙間を、トールとルシアはギリギリ通り抜けた。
 もし防御がちょっとでも遅れていたらルシアたちはどうなっていただろうかと考え、ぶるりと肩が震えた。
「この威力で『劣化しきったまがい物』とは……本物は一体どれだけの脅威だったのでしょうね」
 数千という数の仲間達が挑み、数え切れないほどの死者を出し、幾度もの奇跡を起こして、やっと『眠ってもらえた』程度の怪物。それがリヴァイアサンだ。今戦っているレッサードラゴンゾンビなど、おそらく比べものにならないだろう。
 さておき、トールはすぐさま反撃に出た。
「次のブレスを撃たせてはいけません! レインさん、ピリアさん。復旧を!」
 トールは再びオーロラの翼で飛翔するとレッサードラゴンゾンビへと刀身を叩きつけた。鱗をガリガリと削って肉へと至る。その間、レインは傘を広げてくるくると回し始めた。
 小さく歌を口ずさむ。
 彼女の雨と水たまりと散歩道の歌は、気付けばピリアとの輪唱になっていた。
 まるで交差する波紋のように混ざり合った歌声が美しく煌めきをもち、桜色のグラデーションをもった煌めきとオパールの煌めきは空間内へと広がっていく。
 不思議なグラデーションを描いたそれらは、ブレスの攻撃をノーダメージでは凌ぎきれなかった鏡禍や史之の体力を回復させていく。
「ここは、ピリアのこきょうだもん!
 ケガするのも病気でくるしいのもいやだけど…でも、ほかのひとがいっぱいくるしいのは、もっといや!
 ぜったいぜったい、みんなのことまもるの!」
「うん……絶対、守りきるよ……その為の僕達だから……」
 二人の治癒をうけ、史之と鏡禍は一気に攻勢に出る。
「負けるもんか――!
 あの頃も大きな犠牲を払った。
 悲劇を繰り返すのは歴史に学ばないも同然だ。
 俺たちの代わりに人柱を立てたくはない。
 イザベラ派の勇者としてはね、そう思っちゃうんだよね。
 俺だって腐肉まみれでくたばる気はないけど?」
 ニッと笑い、史之はレッサードラゴンゾンビに出来た傷口に更なる斬撃を叩き込む。
 交差された斬撃によって血が吹き上がる。
 時間が経ったせいだろうか、疑似廃滅病のダメージが、HPはともかくAP減少という形でのしかかってくる。
 そう長くは戦えない。鏡禍もそれを察し、速攻戦をかけるつもりだ。
 炎の嘆きシェームの遺した炎の欠片を燃え上がらせ、手刀から炎の刀身を展開させる。
「これで――!」
 突き込んだ刀身は傷口へずぶりと沈み、レッサードラゴンゾンビにここで初めて悲鳴をあげさせた。
「そういえばリヴァイアサンは眠りについただけで存命だというわね。こんな紛い物が代役だなんて怒られるんじゃない? 大号令は失敗し、海は凍り、死者が蠢く……。
 こちらの歴史は本当に、どこまで暗い未来ばかり選んできたのかしら?
 もしもだけど、神の国でドレイクとか生きているなら聞いてみたいところよね?」
 ロレインはそんなふうに嘯きながら、ファントムレイザーの魔術を解き放った。
 叩きつけた魔術の力に加え、瑠璃が飛びかかり忍者刀を突き立てる。
「疑似廃滅病の効果は、我慢するしかありませんね……耐えられなくなるよりも前に、レッサーを打ち倒すのみです」
 さあ、トドメを。瑠璃がそう目で合図すると、大きく飛翔していたルシアがライフルをレッサードラゴンゾンビのボディへと零距離で突きつけていた。
 ぎゅるんとトゥインクルハイロゥが回転。
「エネルギー充填120%――!」
 残り一発分しかないエネルギーを全て注ぎ込み、ルシアは魔力砲撃をぶっ放す。
「ずどーん、でして!」
 魔力の光がレッサードラゴンゾンビを貫き、同時に周囲の景色がバキンとヒビ入るように崩れ始める。
「『神の国』が、壊れていく……」
 やがて景色はジグソーパズルが崩れるように消えていき、気付けば……そこは広い広い海の上だった。

 滅びの歴史は、くり返されない。この海は、守られたのだ。

成否

成功

MVP

ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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