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シナリオ詳細

罪深き、忘却の塔

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「信賞必罰……よ、ね」
 独特のイントネーションで話す彼女の名はヴァレリア・ドウド・シャーウィン。
 幻想王国のローレット酒場に現れた、依頼人の女である。
 黒い髪と褐色の肌を持ち、不気味な光を放つ瞳をしている。
 彼女はその髪に似合った黒いローブに身を包み、ローブには薄暗い森を思わせる装飾が施されていた。手には細身の杖を持ち、その先には小さな闇の結晶が浮かんでいる。
 瞳からも、杖からも、彼女が闇の魔法の使い手であることがわかるだろう。
 もしあなたに幻想王国における魔術結社の知識があったなら、ドウドの名を持つ魔女に心当たりがあるだろう。
 魔術結社『影踏み(Shadescale)』。
 闇の魔法を専門とするギルド組織であり、闇の力を学び共有する代わりに、世に著しい害をなしたり、ギルド内の掟を破ったりした者に厳しいという側面をもつ。
 そして、ドウドの魔女は影踏み(Shadescale)において秩序と安定を保つ役割を持っているということに。
「予想、してる、とおり、ね」
 ヴァレリアは黒いキセルを一本取り出すと、その先端に小指の先を近づける。
 葉が詰まった部分に、inflammatio (インフランマティオ)と唱えると、黒い星空のようなネイルの先からポッと小さな火種が灯り、やがて煙草に火がついた。
 細い管を通して煙を吸い取り、薄紅色の唇から吐き出すそのさまは、一種完成された芸術品のように妖艶だった。
「今回は、ギルドから、掟を破った人、出た、の」
 この人よと羊皮紙を胸元から取り出したヴァレリアは、テーブルにそれを滑らせた。

「『ナイトシェード』という、二つ名を持ってる、魔術師、ね」
 ヴァレリアが胸の谷間から更に写真を一枚滑り出すと、それをテーブルに並べた資料の上にトンと置いた。
 星空を思わせるネイルアートに一瞬見た者の目が行き、それが本当の星空のようにうっすらと煌めき動いている錯覚を覚えさせる。魔法のマニキュアだろうか。うっかり目を奪われているうち、写真はいつのまにか数枚に増えている。
 まるで手品だが、実際その通りだ。彼女は魔法使いであり、同時に手品師でもある。その二つは実は彼女たちギルドにとって密接なのだ。
 さて、あらためて写真の人物を見てみよう。
 まず『ナイトシェード』。
 夜闇を思わせる黒いローブに身を包み、むき出しの頭はまるで骸骨を思わせるほどに痩せこけている。頭髪はなく、目が落ちくぼんだこともあり骸骨らしさが増していた。アンデッドなのではと思わせるが、こう見えて生きた人間だ。
 その手下にあたる魔術師たちも似たようなものだ。禁呪を使うと頭髪を失うのかと疑うほどだが、その質問にヴァレリアはうっすらとした笑みだけで答えた。

 彼は禁呪を用いて手に入れた組織内の機密を外に持ち出したほか、組織に所属する三人の魔術師を殺害し逃亡したという罪を犯しているという。
 いや、罪としているのはあくまで監査役のヴァレリアであって、これが国家ないし領土の法に基づくものであるかは別の問題だ。要するに、魔術結社『影踏み(Shadescale)』における罪が、今裁かれようとしているということである。
「今、『ナイトシェード』は、自分の作り出した塔に、逃げ込んでるの、ね。だから――」
 だからの先は言うまでもなかった。
 ローレットへ依頼したい内容というのは、己の塔へと逃げ込んだ魔術師を追い詰め、討伐することであるらしい。
 塔の名は『忘却の塔 (Tower of Oblivion)』。
 暗黒と邪悪が渦巻くそこは、巨大な闇のようなものに包まれているという。
 麓まで行けば分かるが、錆びついた鉄の装飾や尖った装飾物が目立ち、周囲には妖しく煌めく緑色の魔力が漂っているという場所だ。
 ひとたび中に入れば、ナイトシェードが師事している闇の魔術師たちや、使役している騎士の亡霊たち、生ける影などが襲いかかってくることだろう。
「ナイトシェードの手口は、並の魔術師のそれじゃあ、なかった、わ。
 とても、強大な力を、手にしている、はず。
 くれぐれも、気をつけて……ね」
 ヴァレリア・ドウド・シャーウィンは最後にそう付け加えると、前金となるコインの入った袋をテーブルに置いて席を立ったのだった。

GMコメント

※こちらはライトシナリオです。短いプレイングと選択肢のみで進むアドリブいっぱいのライトな冒険をお楽しみください。

 あなたはヴァレリア・ドウド・シャーウィンの依頼を受け、罪を犯した闇の魔術師『ナイトシェード』の討伐のため、『忘却の塔 (Tower of Oblivion)』を攻略します。

 塔外部には特殊な闇の結界が張られており、内部を順路通りに通り抜ける以外の方法で突破することができません。
 ですが逆に述べるなら、魔術師や使役する亡霊たちを倒して突破することさえできれば『ナイトシェード』を確実に追い詰めることができることになります。

●一口プレイング
 あなたの得意な戦術や、好みの戦闘エフェクトについて語ってみてください。
 武器が変形したり、足元から闇の眷属を召喚したり、太陽のプリズムを操ったりなど楽しい演出を盛って戦闘描写をお楽しみ頂きます。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。


アドリブクローズアップ
 このシナリオは戦闘描写が多く、スタイリッシュに演出されます。
 武器や技など全般的にアドリブが入りますが、特に注目して描写してほしい部分を選択してください。

【1】武器
 装備している武器やアイテムをクローズアップします

【2】スキル
 活性化しているスキルをクローズアップします

【3】非戦・ギフト
 戦闘のフレーバーとして用いられる非戦スキルやギフトをクローズアップします


戦闘スタイル
 ここではあなたのバトルスタイルを選択してください。

【1】アタッカー
 率先して攻撃スキルをどかどかと撃ち込みます。
 威力やBSなど形は様々ですが、あなたは頼れるチームのアタッカーとなるでしょう。
 相手にバフをかけたりするのもアタッカーに含まれます。

【2】ディフェンダー
 優れた防御ステータスを用いて敵の攻撃を引き受けます。かばったり引きつけたりは場合によりますが、あなたがいることで仲間のダメージ量は大きく減ることでしょう。
 味方や自分を治癒することで戦線を支える役目もここに含まれます。

  • 罪深き、忘却の塔完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別 通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2023年06月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談0日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

エマ(p3p000257)
こそどろ
寒櫻院・史之(p3p002233)
冬結
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
観音打 至東(p3p008495)
マリカ・ハウ(p3p009233)
冥府への導き手
ニャンタル・ポルタ(p3p010190)
ナチュラルボーン食いしん坊!

リプレイ

●影踏み(Shadescale)の罪人
「ここが塔の入り口、ね」
 ヴァレリア・ドウド・シャーウィンはキセルを手に黒くそびえ立つ塔を見上げていた。
「ああ、これはなかなか……面倒な『造り』だね」
 『奈落の虹』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は一目見ただけで『それ』が分かったようで、肩をすくめて首を振る。
「どういうこと?」
 『トリック・アンド・トリート!』マリカ・ハウ(p3p009233)が小首をかしげると、ウィリアムが塔の最上階を指さした。
「今の僕らにとって飛行することはなにも難しくない。ワイバーンの数匹でも借りてくればすぐさ。けれど、この塔には特別な手段を使わなくちゃ最上階にたどり着けないっていう魔術が働いてる」
「あら……博識、ね」
 ヴァレリアが笑った。そのやりとりで多くを察したらしく、『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)がなるほどなと呟いた。
「塔を下から順に上っていくように限定しているわけか。けど、それは自分も縛ることになるんじゃないのか?」
「ご名答」
 ヴァレリアは独特のトーンでそう言うと、煙草の煙を輪っか状にして吐いた。
「相手の進行ルートを限定する代わりに、自分の退路も塞がってる。だけど、それだけに……強力」
「こう見えて背水の陣ってわけか」
 『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)がパチンと自らの頬を叩いて気合いを入れる。
 ヴァレリアがこうして依頼してくるだけあって、敵の防衛は充分に頑強なのだろう。巣穴に閉じこもった獣へ迂闊に手を伸ばせば怪我をする。実際犠牲を覚悟して飛び込んでいけば罪人である魔術師『ナイトシェード』を倒す事は不可能ではないはずだ。
 それでもやらないということは、手を出して負う怪我と『ナイトシェード』を裁くメリットが釣り合っていないということだ。
 そして……。
「メリットとデメリットを釣り合わせるのが、私たち……と」
 『刹那一願』観音打 至東(p3p008495)は肩なの柄をそっと撫で、居並ぶ仲間達の顔ぶれを見た。
 ローレット・イレギュラーズといえば各国を廻りそれぞれ国滅の危機を救った英雄であり、幻想王国に至っては新時代の勇者とまで称えられている。
「ふむ、大体分かった」
 『ナチュラルボーン食いしん坊!』ニャンタル・ポルタ(p3p010190)は三色団子が刺さった串から赤い団子をはぐっとかみちぎると、もぐもぐしてから堂々と言った。
「…………つまりどういうことじゃ?」
「大体分かったんじゃなかったの!?」
 『そうだね!』と眼鏡でもキリッとやりながら言うつもりだった『若木』寒櫻院・史之(p3p002233)がつんのめる。
「分かる必要が無いことが分かった」
「間違ってないけどさ」
 実際そうだ。自分達のやるべきコトはこの塔に突入してアンデッド兵や魔術師たちを千切っては投げ千切っては投げ、最後に悪しき魔術師『ナイトシェード』を倒せば良いということなのだから。
「ま、スケールの大きいこと考え続けてると疲れちゃいますからねえ。えひひ」
 『こそどろ』エマ(p3p000257)は昔からよくみせる引きつったような笑みを浮かべ、最近使い始めた『メッサー』の柄を撫でる。最近は色々な戦術を試しているようで、今日も何かしら試すつもりのようで表情の暗さと反比例して目はどこかキラキラしている。
「そういうこと、よ」
 ヴァレリアは薄く笑うと、塔の入り口に仕掛けられた魔術を解きにかかった。
 ミーナは希望の剣『誠』とよばれる片手剣を抜くと、手の中でくるりと回して深呼吸をする。
 塔のロックを解除すれば、当然内部に警報が走ることだろう。
 風牙も己の槍『烙地彗天』を背負っていた魔術式の固定具から外し、両手でしっかりと握りしめる。
 背筋に走るスッとした感覚。緊張とも違う、集中状態に入るぞくりとした感覚。
 それが皆にあるのだと直感して、風牙はあえてリラックスしたような笑みを浮かべる。
「さ、行こう――!」

●忘却の塔 (Tower of Oblivion)
 外観からはさして大きいとは思えなかった塔だが、中に入ってみるとスポーツの試合が好きなだけできるほどのホールが広がっていた。
「空間魔法、か。ってことは……皆気をつけて、早速囲まれそうだよ」
 ウィリアムがいつでも治癒魔法を使えるように構えると、彼の言った通りのことが起きた。
 こちらを半円状に包囲するかのように床面に無数の魔方陣が展開し、そこからせり上がるようにして亡霊騎士たちが姿を見せたのだ。
「早速お出ましですね!」
 エマはメッサーを抜くと頭を守るように翳した。
 剣による打ち合いを誘った構えだ。
 相手の騎士はそれに応じるように冗談から打ち込むが、エマは頭の上で円形を撫でるような動きで剣を振るう。
 直線的な剣での打撃を曲線の動作で弾くという基本的な動きだが、エマのジグザグとした急所狙いの高速機動とは逆の、待ち姿勢かつ柔軟で堅実なバトルスタイルだ。
 そうやって幾度も剣を撃ち払っていくうち、エマはへらっと唇の肩端を吊り上げる。
「隙有り」
 おそらく騎士からはエマがフッと消えたように見えただろう。
 剣を払いのける動きでできた死角を使い、絶妙なタイミングで相手の斜め後方へと回り込んだのだ。静と動と使い分けた、変幻自在のバトルスタイルである。
 当然エマは隙だらけとなった騎士の首に剣を当て、刃をスライドさせその首を切り落とす。
 亡霊騎士でも首は弱点だったようで、オオオと声をあげて消滅した。
「ははあ」
 ミーナはその動きを一通り見てから、エマとは逆方向にいる亡霊騎士へと目を向けた。
 剣と盾を構えた騎士はじりじりとこちらに距離を詰めようとしている。包囲を縮めるのが目的なのだろうが……そうはさせない。
「なら、こっちは受け持つか」
 ミーナは鎌をくるりとまわし盾のように前に突き出し、剣を腰の後ろに引くような姿勢で構えた。ともすれば二刀流にも見えるミーナのスタイルで、しかも動きの読みづらい鎌を使っての攻防姿勢に相手の亡霊騎士が若干戸惑った様子を見せる……が、そこは相手もさるもの。ミーナを油断できない相手とみてもう一人の亡霊騎士を呼び出した。
 魔方陣が発動して現れたのは首なしの騎士だ。手には真っ赤な血にまみれた大剣が握られている。
「死神相手にデュラハンとはな。皮肉か?」
 ミーナは笑うと、まず首無し騎士めがけて突っ込んだ。相手は振り上げた大剣によってミーナを叩き壊しにかかるが、そこは百戦錬磨のミーナである。紙一重で斬撃を回避。突っ込んだはずの動きから素早く横向きのスウェー移動に転じる動きはさすがの一言で、ミーナはそこから鎌の刃部分を相手に引っかけるようにして走った。それで何が起きるかと言えば、相手を軸にした急速な回り込みである。それに、腕を下ろした姿勢でそんなことをされれば強引に腕と武器を押さえつけることになる。
「――!」
 危機を察した首無し騎士がせめて防御を固めよう――とした途端。盾持ちの亡霊騎士がシールドバッシュを仕掛けた。二人でサンドしてしまうことでミーナの豪快な動きを止めようというのだ。が、それはミーナも読んでいた。パッと鎌から手を離すと、突っ込む亡霊騎士の盾の下をスライディングで抜けていく。
 二度も不意を突かれた形の亡霊騎士。その背めがけてミーナの剣が突き刺さる。
 対して首無し騎士はどうしたかと言えば、風牙の放った槍の一撃によって身体を貫かれていた。
「なにも1対2で戦うこともない、よな?」
 オオオと声をあげ消えていく亡霊騎士。
 風牙は息つく暇も無く、その場から大きく飛び退いた。と言うのも、槍を持った亡霊騎士が風牙の足を狙って突きを放ってきたためである。
 相手は大柄。槍もまた大きく、リーチは非常に長い。
 対する風牙は小柄で、槍はそれをおぎなうだけのリーチがあるとはいえ相手に勝るほどではない。
 それを察してだろう。相手の亡霊騎士は槍先を突きつけるような姿勢から連続の突きを繰り出してきた。
 幾度も後ろに飛び、時には槍で捌くかたちで回避する風牙。
 しかしそんな風牙も壁際へと追い詰められる。
 相手が兜の下でほくそ笑むような気配を感じ、風牙は――。
「もらった」
 胸をひと突きにしようと槍を繰り出した相手に対して、風牙は地面に顎がつくのではと思うほど低く屈み回避。そのまま突っ込み相手の懐へと入ると、あえて短く持った槍を繰り出す。
 こつん――と相手の鎧の胸元に穂先がぶつかった、瞬間。
 まるで爆弾でも爆発したかのような衝撃と光が亡霊騎士を中心に暴れた。
 ――『天凌拝(てんりょうはい)』。
 相手の懐に飛び込むと同時に力を溜め、気を爆発させ打ち貫く風牙必殺の技である。
 衝撃によって吹き飛んだ騎士は高い天井に激突し、そして地面へと転げ落ちる。
「ううむ、今日は皆シブい戦い方をしますねえ」
 至東はにっこり笑うと、楠切訃墨村正『塵仆』『眩偃』の大小二振りを抜き攻防の構えをとった。
「では、お見せしましょう――『乙女算段』」
 対するは、シミターめいた片手剣と丸盾を装備した亡霊騎士。
 構えた両者は一度沈黙すると、ジリッ――とすり足で間合いを埋め始める。
 互いの剣の間合いを奪い合う静かな戦いだが、先に動いたのは亡霊騎士だ。
 盾のガードをあえて解き、強烈な上段からの打ち込みを――というその刹那。至東の大太刀の先端が亡霊騎士の剣をコツンと叩いた。
 そんな『点』の防御をされるなどと思わぬ亡霊騎士は、振り下ろす寸前の姿勢のまま、まるで影でも縫い付けられたかのように動きを止めてしまう。
 そこへするりと懐へ滑り込む至東。小太刀が亡霊騎士の首をとらえ、そして吹き上がる鮮血が亡霊騎士と共にかすんで消えていく。
「この技は……いわゆる『外三光』。もはや手の加えようもない、完成された技でした」
 他流派の技を組み込むこともある観音打流だが、こればっかりは、なのである。
 しかしそれでも使う者によって技の冴えが違うというのは、今の打ち合いで分かることだろう。
「そろそろ、派手に攻めても良い頃合いかな?」
 ウィリアムが軽くだが怪我を負った仲間達を見て治癒魔法を唱えた。
 両手を翳し、魔方陣を展開する。一枚だけ展開されたように見えたそれは別々の方向に回転する複数の多重魔方陣である。まるで重厚な丸い板でも翳しているかのような分厚さになったところで、ウィリアムは魔方陣を一斉展開。自らの周囲10メートルにわたって覆う半球状のフィールドを形成すると、パチンと両手を合わせる動きでそれを手の中に収束させた。魔方陣が通り抜けたその一瞬で、まるで手品のごとく仲間の怪我がすっかりと無くなっている。
 なにせ歩く砲台とまで言われたウィリアムが、その魔力を治癒に大きく振ったのである。これほど『破壊力』のある治癒もない。
 恐ろしいのは、この一瞬で展開した魔法の術式は極めて高度に効率化され、かつ循環構造になっていることだ。消費魔力を控え、かつ自身の魔力まで回復してしまう。使った時より魔力が増すほどだ。
「皆、『ダメージ覚悟』で大丈夫だよ。一瞬で取り返してみせるから」

「トリック・アンド・トリート!デッド・アンド・アライブ!
 ハロウィンといえばたいがいお菓子、死んだ子はだいたい『お友達』!」
 そこからは快進撃という言葉が相応しい。
 マリカは地面を強く踏みならすように踊ると周囲に展開した魔方陣から先ほど見た亡霊騎士と似たようなアンデッドたちが次々に召喚される。
 対抗して襲いかかってくるのは『動く影』やナイトシェードの弟子たちだ。
 炎の魔術弾を放ってくる敵にはカイトシールドを構えたアンデッドが立ち塞がり、雷の魔術を放とうとする魔術師には片手剣を持ったアンデッドが斬りかかる。
「あなたも『お友達』になってみない? ずっと終わらないハロウィンにみんなで駆り出そう!」
 マリカはハイテンションに叫ぶとパチンと指を鳴らし、シャドウデーモンたちへと指を向けた。
 更に召喚されたアンデッドたちがマリカへと跪き、そして武器を構えて整列する。
 シャドウデーモンがその影でできた爪で斬りかかろうにも、分厚く整列するアンデッドたちを軽く壊すのが精一杯だ。
 一人を崩してもまた一人が現れるというその構造を見るに、追い詰められているのは明らかにシャドウデーモン側だろう。
 いつしかシャドウデーモンはアンデッドたちに取り囲まれ、振りかざした剣やメイスによってタコ殴りにされるのである。
「さて、と。久しぶりに」
 史之は腕の斥力発生装置を操作すると、魔術師達の集団へと走り出した。
 魔術師達は手をかざし、開いた魔方陣から電撃を放ってくる。
 今や防御にはそれほど使わなくなった斥力フィールドは拳大へと収まり、代わりに『史之専用イザベラ派バッジ』がもたらす不思議な魔力が彼に浴びせられる電撃をパチパチとキャンセルしていく。
「こやつ……まさか『イザベラ派』の勇者か!?」
 魔術師のひとりが叫ぶ。海洋では絶大な有名人である彼だが、隣国である幻想王国でも決行に顔の知れた男なのだ。
「今更気付いても――」
 史之の拳が魔術師の一人に命中。と同時に赤いプラズマが迸り、魔術師達の目の色を変えた。
 彼らは持っていた杖や魔導書で史之へ殴りかかろうとするも、それは史之の術中。
「――秘技『秋霖』」
 秋宮家に代々伝わる剣術が牙を剥くのだ。
 抜刀した太刀『衛府』から繰り出す数多の斬撃が衝撃波を生み出し、群がった魔術師達のことごとくを切り捨てる。
 血しぶきがあがるその中心で、史之は眼鏡のブリッジにそっと指をあてるのだった。
「負けてはおられん!」
 ニャンタルは『うちゅうやばい』と書かれた剣を振りかざすと、深い髭をたくわえた魔術師へと走り出した。
「く、来るな!」
 魔方陣が無数に開き、マジックミサイルが次々にニャンタルへと浴びせられる。が、彼女は防御も回避もすっとばしてまっすぐ突っ込んでいく。
「くらえぃ! ニャンタル・ビックバン・スペシャル!」
 ずがん、と剣を繰り出し魔術師の後ろへと走り抜けるニャンタル。剣を振り抜いた姿勢で見栄を切ると、一瞬遅れて魔術が大爆発に巻き込まれグオオと良いながら吹き飛んでいった。更にはなぜだかわかんないけど背景が宇宙になっていた。
「い、いちばん派手だ……それも謎に……」
 ニャンタルの怪我を魔術で治療しながら、ウィリアムが思わず呟いた。

●ナイトシェード
「な、なぜだ。どうやってここまで上ってきた!」
 塔の最上階。閉ざされた部屋の扉を開けると魔術師『ナイトシェード』が狼狽えた様子で椅子から立ち上がった。
 その痩せ細った身体と顔、そしてスキンヘッドの頭は骸骨めいて見える。
 そんな彼に、どんな口上を述べたものか迷ったニャンタルが『あー』と言っていると、勝手に理解(?)をしたらしいナイトシェードが叫び始める。
「奴だな!? おのれ王権に縋るなど恥知らずが! だがここへ来たのは間違いだったようだな。我が邪法の極み、その目に焼き付け滅びるがよい!」
 ナイトシェードは両手を翳し、巨大な魔方陣を生成。
 そこからは巨大な竜めいた亡霊が姿を見せる。さすがに竜種の亡霊を使役したなんてトンデモなことはないだろうが、近い何かをやらかしたのだろう。
「死ねぃ!」
 ナイトシェードが叫ぶと同時に破壊のブレスを放射する邪竜亡霊。
 が、それに対してウィリアムは巨大な治癒の魔方陣を展開。と同時にマリカが大量のアンデッドを召喚しその隊列によってブレスを防御した。
「何!?」
 と、そこへ飛び込む史之と至東。
 二人は抜いた刀を絶妙なタイミングで交差させると、クロススラッシュでナイトシェードを斬り付けた。
 咄嗟に翳した腕が切り裂かれ、宙を舞う。
 次の瞬間には天井まで飛翔していたミーナと、高く跳躍したエマがそれぞれ剣を構える。
 大上段も大上段から繰り出される斬撃が、ナイトシェードへ直撃。
 更に――風牙とニャンタルの『突き』が同時にナイトシェードへ炸裂した。大爆発が、ナイトシェードを包み込む。

●おしまい
 ボッ――という音と共に塔の最上階が爆発し、そしてぐらぐらと揺れた塔は崩れ始める。
「あらあら」
 ヴァレリアはそんな様子を遠巻きに眺めながら、煙草の煙をふぅっと吐き出したのだった。
 依頼の成功を確信しているその反面、あの面々が怪我を負って帰ってくるなどとは、みじんも思わぬ表情で。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――mission complete

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