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シナリオ詳細

<黄昏の園>燎原に坐す

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『燎貴竜』

 ――あははっ! シグロスレアは本当に性格が悪いですよねえ。
   ほら、考え方が変われば見え方も変わりますよ。そういうのって大事だと思います!

 金色の髪、明るい笑み。それが天帝種たる由縁であると認識していた。
 眩い陽の光を解いたような鱗を有する金鱗の古竜こそがシグロスレアにとっての主であった。
 彼女、パラスラエィエは300年余りも前に起きた『冠位魔種』の暴走の際にその腹を満たすが為に命を賭した。
 バシレウスの女王がその様な世迷い言をと糾弾したシグロスレアに「だって、そうしないとね?」と彼女は笑ったのだ。
(……確かに、ベルゼー・グラトニオスは強い。バシレウスの女王が身を挺したのだ。姫君もその後を継いで――)
 立派な天帝種の金鱗となるべきだった。
 だが、娘であるアウラスカルトは『甘えた』だったように思える。
 雛竜であった時代からあろう事か、母の面影でも追い求めるようにベルゼー、ベルゼー、父祖、父祖。
 独り立ちをしたかと思えば劣等種(にんげん)に汲みしているのだ。
「お前もアウラスカルトに固執するなよ」
「名を呼び捨てにするとは不敬だ。カプノギオン。即刻死ね」
「……と、言ったって」
 カプノギオンと呼ばれた黒竜は肩を竦めた。目の前のコイツとて巨竜フリアノンの面影を巫女の劣等種に感じている。
 あろう事か親子の真似事までも始めたのだ。実に馬鹿らしい行いをしていたが――本物の息子が現れ立場が揺らいだというのだからいい気味だ。
「璃煙の息子を呼んだんだって?」
「……ああ。あのアウラスカルトが汲みした劣等種達の集まりの者だとロウ・ガンビーノより耳にした。
 詰らぬ者であったならばアウラスカルトはさっさと連れ戻すべきだ。殺しても良い。まだ雛竜から精々毛が生えた程度……空席にするのも良いであろうに」
 鼻先で笑ったシグロスレアはある種、絶望していたのだ――
 どう足掻こうとも人と竜は相容れぬ。それが種の違いであったのに、あろう事か『上位種』である天帝種が歩み寄った。
 それが酷く許しておけぬ事として存在していたのである。
「人間呼んでどうするのさ」
「……暇潰しだ。あの方が動く前に、我輩も顔を見せておかねば。何、一人や二人死んだ所で人間とは山程居るのだろう?」

●『性格が悪いゴン』
『燎貴竜』シグロスレアと呼ばれているその竜種は、彼と同じ系譜に位置するパラスラディエに「性格が悪すぎるゴン」と呼ばれていた。
 悪意的な存在である。残忍で、竜であることにプライドを有している。強い矜持を傷付けたのはそのパラスラディエの娘であったのは確かだが――

「たまたま見かけたから、連れて来て、亜竜の餌にしようとするって結構イカれてると思うよ」
 正直に、月原・亮 (p3n000006)はそう言った。確かにそうだ。人間がどれ位動くのかを確認したいだけ、だろう。
 アウラスカルトが軍門に降ると決めた人間という劣等種の様子を確認したかっただけに過ぎない。
 ただ、それだけでも、余りにもあんまりだ。
「見かけたから、なァ」
 グドルフ・ボイデル(p3p000694)は迷惑な話だとぼやいた。
 訪れたシグロスレアのテリトリーの一つには巨大樹が存在している。その幹が刳り抜かれており、中には『いいオンナ』の姿が見えた。
「おい、ボウズ。お前ェの母ちゃんだぞ」
「……ああ。それに、俺の生き写しみたいな奴も居る。鬱陶しいこと、この上ないな」
 ルカ・ガンビーノ(p3p007268)が見上げた先には彼の母たる冥・璃煙とその璃煙を母と慕う黒き竜『葬竜』カプノギオンの姿があった。
 ……彼等はどうやら見学か。

「来たな、劣等種。我が前で話すことを許可しよう」
 性格が悪いゴンことシグロスレアが口を開いた。しつらえの良い椅子に腰掛けていた竜は頬杖を付いてまじまじと眺めてくる。
「我が僕が腹を空かせている。ここで相手しろ。
 さもなくば、フリアノンだったか、ペイトだったか……亜竜の里に解き放っても構わない。
 どうせ人間とは山程居るのだろう。餌になって淘汰された方が良いに決まっている。劣等種にも役割を与えて遣ったのだ、喜べ」
 ――本当に性格が悪いのだと感じずには要られなかった。
 璃煙の眸がぐるぐると渦巻き、シグロスレアこそが至上であるとでも認識しているか。
 巨竜フリアノンの巫女である彼女は『最期の時までベルゼーの傍に』という願いを叶えるため、その身を魔種とし、シグロスレア達と行動を共にして居たのだろう。
「璃煙」
「はい」
「あの黒いガキがお前の子供であたな。カプノギオンが擬態した姿にも良く似ている」
「……はい」
「餌だ」
「……はい」
「フリアノンとて、理解していたから森を抜けるなと言ったのだろう。自らの腹の仲であれば安寧を授けると。
 森を越え、餌になりに来た劣等種に情けを掛けるな。ベルゼー様の腹を満たす豚を作る為には劣等種でも喰らわせて太らせなくてはな」
 大声で笑ったシグロスレアの前には無数の猪の姿があった。涎を垂らし、餓えたそれら。
 ――どうやら、此処で猪等を処分しなくては、本当に腹拵えをしに亜竜集落を強襲しそうなのである。
 ここで、食い止めねば……。

GMコメント

●成功条件
 燎貴竜を『飽きさせる』

●フィールド情報
 燎貴竜シグロスレアが自身のテリトリーと定めている場所の内の一つ。小川が涼しげな場所です。
 燦々たる太陽も遮るような巨樹の傍であり、巨樹は幹を刳り抜かれ、その中に居住スペースが作られています。
 居住スペースには燎貴竜の従者として扱われる『冥・璃煙』と云う魔種の姿が見えますが彼女は手出ししません。
 何故か堂々と椅子を置いて人間形態でイレギュラーズの前に燎貴竜は姿を現しました。

●エネミー
・『燎貴竜』シグロスレア
 壊し、侵し、犯し、掠め、殺戮の限りを尽くす暴虐こそが己の存在証明にあると認識している暴力の象徴。
 ある意味で、シグロスレアとは竜とそれ以外を分かり易い程に区別しています。
 エルダーゴールドドラゴンの系譜を有するレグルスであり、彼の目の前で『リーティア(パラスラディエ)』がベルゼーに喰われたのを見た際にベルゼー自体は『人間や劣等種ではない上位存在』であると認め彼に従っています。
 パラスラディエには「シグロスレアは性格が悪いんですよねー、こまっちゃう!」とコメントされていました。
 バシレウスの『女王』として自身が認識していたパラスラディエ亡き後、自らを率いるはずであったバシレウスの姫君『アウラスカルト』が人間という劣等種にうつつを抜かしていることが納得できません。

 ――が、取りあえずは『姫君が好んでいる』人間達を適当に見かけたからと連れてきた様子です。
 人の姿を借り受けれども、簡単に殺してしまえると認識しているのか基本的には戦いません。
 自身に傷がついた場合は急速にやる気が削がれます。つまり、飽きさせるには彼に傷を負わせるということです。

・燎原の獣 5体
 座っているシグロスレアを護るように存在しています。モンスターです。その姿は白い牙の猪を思わせます。
 迚も強力なユニットです。非常に獰猛で有り、シグロスレアを庇う行動を行なう他に、突進や噛み付き、ブレスなどの多岐に亘る攻撃を行ないます。
 言葉を話せないのは舌がないからです。シグロスレアに意見しようとしたこのモンスターをかの竜は許さず舌を抜いたそうです。

・デミ・ドラゴン 5体
 シグロスレアの配下です。前衛タイプが多く、毒のある牙と爪を持った飛行する亜竜たちです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • <黄昏の園>燎原に坐す完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2023年06月08日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

グドルフ・ボイデル(p3p000694)
武器商人(p3p001107)
闇之雲
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
音呂木の蛇巫女
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
イズマ・トーティス(p3p009471)
青き鋼の音色

リプレイ


 ――シグロスレアったら何を怒ってるんですか? 決めた事なのに。文句言ったって仕方なくないですか?

 その声を、その笑みを思い出す度に腹が立つ。異形の軍門に降り、剰え異形の腹の中に自らが飛び込むというのだ。
 取り戻すことの出来ない女王の亡骸は、消化され何れは彼女が父と慕ったものの血肉となろうもの。
 腹が立つ。何が『決めた事』だ。勝手に決めたの違いではないか。思えばあの女は気ままだ。だからといって、その雛までもが。
「シグロスレア様」
 璃煙の声を聞きシグロスレアはゆっくりと顔を上げた。劣等種(にんげん)のお出ましかと不遜に鼻を鳴らしてから竜は眺め遣る。
「来たか。お前は見たぞ。璃煙と共に居ただろう。顔を覚えた」
 酷くげんなりした表情を見せた『山賊』グドルフ・ボイデル(p3p000694)がやれやれと言わんばかりに肩を竦めた。
 偶然の事だ。偶然その場に居合わせた男を見て『お前が最も目についた』というのだから言いがかりだ。グドルフからすれば交通事故のようなものである。
「竜なんざ、一生関わるこたあねえと思ってたんだがね。
 ……たく、見たけりゃ見せてやるよ。泥臭く足掻いて、泥水啜ってでも生き延びてきた――人間の底力ってやつをな」
「余興にしてやろう。貴様等が足掻く姿は愉快そのものであろうからな」
 にたりと笑ったシグロスレアの周辺には白い牙を有する猪の姿が存在していた。どれもが腹を空かせた魔物である。
 全く以て度し難いのは『性格が悪い』と称される竜が自身等が話に乗らなければ亜竜集落に解き放つと公言していることだ。『闇之雲』武器商人(p3p001107)はやれやれと肩を竦めた。
「困ったことだねえ。亜竜集落はサヨナキドリとしても新規顧客獲得の可能性がある集落を潰されちゃたまらない。……全力で興を削がれてもらわねばね」
「貴様等がさっさと餌にでもされれば飽きも来ようがな」
 不遜な男の顔をまじまじと見詰めてから『青き鋼の音色』イズマ・トーティス(p3p009471)はげんなりしたように肩を竦めた。
「実際何回か餌になりかけてるから、まぁ……間違ってはいない……が、喰われてやるつもりはいつだって無い。
 それにこの猪……亜竜集落を襲わせるわけにはいかないな」
 確かに自身等は魔物から見れば餌であろうとイズマは頷いた。だからといって安々と喰われてしまうのはイズマ達とてお断りだ。
 正しく傲慢な王だ。足元を見ないと掬われるが――人間がその様な存在であるとも歯牙にも掛けていないのだろう。竜とは上位種族であるが故にこの振る舞いが許されるのだと思えば『蒼穹の戦神』天之空・ミーナ(p3p005003)は嘆息したくもなる。
「なんだあの金ぴか」
「璃煙の息子だ。一度だけの暴言は許してやろう。貴様が生きているだけでカプノギオンが苦い顔をするのだ」
 何せ、カプノギオンという竜は冥・璃煙によく懐いている。その子供に『擬態』する程に――くつくつと喉を鳴らして笑ったシグロスレアに『運命砕き』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は眉根を寄せるが首を振った。
 金ピカドラゴンの態度は気には食わないが招待にあずかったのは確かだ。ご丁寧に断れない事情まで添えて来ている。
「人間がどれほどのもんか見せてやる。良いぜ、遊んでやるよ金ピカ。俺達を連れてきた事を後悔するかも知れねえけどな」
「劣等種が良く吼える」
 爪で弾くように告げるシグロスレアに『音呂木の巫女見習い』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は腹を抱えて笑って見せた。ああ、なんて――なんて『分かり易い程に上位種族様』だ。
「わははは! 分かり合う気はないのか! ま、その反応も良き良き。というわけで――」
 すらりと引き抜いた刀の切っ先が光を帯びた。戦神の眸には戦意だけが乗せられる。戦う事は命そのものなのだから。
「……そうだな。劣等種だのなんだろうと、呼べばいい。
 何かの拍子に噛みつかれて、大ケガする前に、ふんぞり返るのはそろそろ止めときな。今日がその記念日になるかもだからよ」
「ほう」
 ぴくりとシグロスレアの指先が動いた。『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は「『燎貴竜』ね」と呟いた。
「個人的に傲慢なほど誇り高い竜というのはキライではないよ。それほどに強大な存在というのは、いっそ憧れるね。ロマンがある。
 だがまあ、アウラスカルトが人間と交流するのが気に入らないとは、また中途半端だね。
 ……適当にペットと遊んでいるとでも解釈しておけば良いものを。
 挙げ句の行動がこれとは、存外わかりやすい性格なようだ。親心か、それとも別のものか……少々スケールが小さくて個人的にはがっかりだよ」
「貴様を最初に餌にしてやろうか」
 青筋を立てた竜は猪達に行けと指示をする。地を蹴って餌を求める猪等の眸はぎらりと気味の悪い色彩を浮かべていた。


「さて、ご機嫌よう。シグロスレアさんは相当に『良い性格』をしているとの事。
 ところで私も、『性格の良さ』には自信があるものでしてね。こうしてお話できる機会を得られて幸運ですよ」
 眼鏡のブリッジに指先を添えてから『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)は拳銃をす、と構えた。使い込まれ、手入れの行き届いた古い型式の自動拳銃。
 引き金に添えた指先は迷うことなどない。戦い方は理解している。劣等種と嘲るならば、それらに『ペット』が屠られるところをよく見て居れば良い。
「何かに対してお怒りですが、お聞きしましょうか?」
「貴様、余程良い性格をしていると見える。劣等種の一匹が言っただろう。アウラスカルトが貴様等のような下郎と関わることが許せぬとは狭量と。
 ……アレはパラスラディエと呼ばれる竜の残したバシレウスの姫君だ。正しき血統の意味を履き違えた竜について何を貴様等が語る必要があるか」
「成程……」
 シグロスレアは『バシレウスの姫君』であるアウラスカルトが人間という劣等種を対等な存在としてみたことが気に食わないという。
 その感覚の言語化は難しいだろう。何せ、シグロスレアは寛治や武器商人達を只の虫螻程度にしか認識していないのであろうから。羽虫に語りかける事の歪さを幾ら語られようと、羽虫の側からなんとコメントできるものか。
「まあ、羽虫であろうと、劣等種であろうとも、構わないけれどね。――さぁて。ちょいと降りてきておくれね?」
 そんな者達に降されるのは見物だと笑みを零すかのように武器商人はシグロスレアが解き放ったデミ・ドラゴン達を引き寄せた。
 切れ長の紫苑の眸が覗く。気付くデミ・ドラゴンの爪先は武器商人ばかりを目掛けていた。
「ラグビーやアメフトと同じです。全員でこちらのフィニッシャーを相手ゴールへ送り込む。ワークレートの高さが勝負を分けますので、皆さん奮戦をお願いしますね」
 淡々と指示をする寛治に応えるかの如く。その傍らを駆け抜けて行くグドルフは獣達全てを巻込むかの如く圧倒的に『ぶった切る』。勢い良く振り回した山刀の切っ先が猪に掠めれば、其れ等は怒りを湛えたように酷い形相で叫びを上げた。
「一匹でも残せばさっさと野にでも放って餌をとってこいとでも言うんだろうが、此処で殺して俺等の飯にしてやるか」
「ああ。腹拵えだと言うならこっちの台詞だ。食べてやろうか、この猪。人間が嗜む『料理』を教えてあげようか!」
 ぎろりと睨め付けるイズマの呪いの輝きが猪たちへと降り注ぐ。動きをピタリと止めた猪の呻く声を聞きながらルカは両手持ちした刃を勢い良く叩きつつけた。
 気に食わないのだ。あのの傲岸不遜で『英雄譚に出てくる敵の竜』を思わせるシグロスレアが。
 その鼻を明かせてやると心に決めた。只でさえ久方振りに出会った母親が召使いのように扱われているのだって気に食わない。
(――今は我慢だ。仲間が機を作ってくれる。その瞬間に打ち込んでやるぜ)
 クソッタレの竜を睨め付けるルカの傍らを無数の弾丸が飛び交っていく。寛治の弾丸は秋奈にとっては合図だった。
 何をすれば良い? そう聞けば『暴れて下さい』という指令が出たのだ。実にシンプルで、分かり易くて――『秋奈ならでは』だ。
「やるからには手は抜けないんだな! これが。さ、いくぜ。グフフフさんと武器商人ちゃんには任せたぜ。
 ミーナちゃんもイズマんも頑張ろうね! ウェイウェイ! ぶちかますぜー!」
 勢い良く地を蹴った。足をバネにしてぐんと跳ね上がった秋奈の切っ先が動きを止めた猪の背に突き立てられる。硬い。肉を抉る感触がしない。
 刀を軸に地へと降り立つ秋奈と入れ替わるようにしてミーナがするんと前線へと飛び込んだ。
 紅色のドレスを揺らせた死神は大鎌を振り上げる。赤き瞳が見据えた先へ、大鎌より放たれた魔力は弾丸となり降り注いだ。
「ゼファゼファ!」
「ああ。回復の方は私が引き受けよう」
 ひりつくような戦場だ。その全てを司るシグロスレアは今だ此方を見ているだけか――何処まで仲間達を『保つ』かが掛かっている。ゼフィラは滲んだ汗を拭い頌歌を響かせる。朗々たる音色、しかしてその傍らに存在する不和の気配はどれ程までに強大か。
「せいぜい見物客に我々のしぶとさを見せてやろうじゃないか」
 自身が纏うオーラに神翼獣の権能を合成し生み出した小型の神獣の群れを見送りながら、ゼフィラはシグロスレアを見て居た。余裕綽々とした態度に滲んだ不遜さ。その在り方こそが竜であると言わしめるかのような態度に『ゼフィラが煽った言葉』が竜の気を惹いたのは確かだった。
 ――アウラスカルトが人間と交流することが気に食わない。
 彼がアウラスカルトに固執するのには理由がある筈だ。それが彼女の母に当たる竜種『リーティア』に起因しているならば、安易に踏み込めぬものであろうか。
「おい」
 シグロスレアの声が聞こえ、ゼフィラが顔を上げる。頬杖を付いたまま見物をしている竜は魔猪らを眺め遣ってから鼻を鳴らした。
「まだ餌を食い切らないのか。雑魚共」
 滲む苛立ちを感じ取ったかのようにデミ・ドラゴン達が吼えた。其れ等を引き寄せる武器商人が「おやまあ」と唇に笑みを乗せる。
 耐え忍び、その場に存在することこそが自らの意義であるようにのっぺりと立ちはだかった銀の影。武器商人を、食らい付くさんと大口開いたデミ・ドラゴンの牙がぬらりと冷たい色をしていた。


「おいボウズ。今まで必死こいて牙研いできたんだろ? オマケに授業参観ときたもんだ。
 あの竜の鼻ッ柱、圧し折ってこい。その道はおれさまが開けてやるぜ!」
 グドルフがちらと視線を遣ったのは璃煙であった。ルカと同じ目許にはその面影を感じさせる。イイ女を母に持った坊主――そう呼びかけたグドルフが自身の額から滲んだ血潮を拭った。
 自らの周辺に集まる獣達。執念を以て戦いに挑むのみだ。ゆっくりと近寄る寛治の声音も至って冷静であった。
 劣勢とは言えぬ、されど圧倒しているわけでもない。流石は竜種の『飼い慣らした獣』だ。その強さは折り紙付きか。
「正面の骨は硬そうですね。側面から目や耳の穴を狙うか、正面から口の中を狙いますか」
「悪かァねぇ」
 斧を担ぎ上げたグドルフに「そう仰って下さると思いましたよ」と寛治は静かに告げ――飛び付いて来る獣へ向け弾丸を放つ。
 回復手であったゼフィラからの支援は最早届きやしない。僅かな慢心の隙を突くように、猪が駆けずり回る。
 その行く手を遮るように大地を蹴り勢い良く大鎌にて終焉を刻み込むミーナの表情にも僅かな焦燥が滲んだ。
「くそ――」
 死を齎す者。生有る限りを全うし、死に行く命を受け入れる者。だからこそ、ミーナは『この場の死の香り』を誰よりも感じ取るかのように。
 気も遠くなるような千年の時を前にして、培った研鑽がその死を払い除けんとす。回復手から瓦解したか――だが、まだだ。
 イズマは唇を噛み締めた。まだ、自身が星々の瞬きの一つでも仲間達に支援する事が叶えば。
 心に決めた行く先を見定めるようにイズマは「シグロスレア」とその名を呼んだ。
「もう終いにするか?」
「いいや、しない。シグロスレア……劣等種で結構だが、少しくらいは……目に物見せてやる!
 だいたい人間が淘汰されるべき餌ならば、なぜ貴方はその劣等種の姿形を真似てるんだ?
 ヘスペリデスもその椅子も人間の文化を参考にしてくれてる。歩み寄ってる証拠じゃないか! 何を今更、一生懸命否定してるんだ?」
「勘違いをするな。この姿は『女王の真似事』よ。我らの姿に似せて生れ落ちた事の間違いではないか?
 所詮、人など竜の奉仕種族よ。貴様等の作った文明を我らが有効に活用して何が悪い」
 ふんと鼻を鳴らし嘲るシグロスレアをイズマは睨め付けた。支え続けるにはまだ、足りない。堕ちたデミ・ドラゴンと倒れる猪たち。
 それでもシグロスレアを飽きさせ、その興味を失せさせるまでにはあと一歩の余裕が足りやしない。
(此の儘、俺が支え、粘れば――)
 武器商人は自らの傍らで囁く報復の乙女(エイリス)に囁きかけた。
「ぶち抜け、エイリス」
 蒼き槍が猪の体を貫いた。健在なる猪にふらついていたミーナが「くそ」と小さく呻く。
「ぶはははっ! やっぱ、脅威じゃん? でも、まー、私ちゃんたちもまだまだ遣るぜ」
 握る刃は曇ることはない。暴れろというオーダーに応えるが如く秋奈は駆けずり回るだけだ。
 寛治は「あと二体。お任せを」とルカの背を押した。せめて、猪だけでも倒しきる。それだけを念頭に置いた寛治は戦線の瓦解をその脳裏の片隅に置きながら、残るリソースの分配を考えて居た。
「金ピカ。テメェはデザストルから何度出た事がある。アウラスカルトは外に出て世界を知った。知らねえ奴が知った奴をみくびるんじゃねえよ」
「ルカ!」
 璃煙の声が響いた。彼女の『正気』はその傍にロウが居るからか。両親揃って『参観日』をされるのも居たたまれないが――尚更に負けられない。
「そんな心配そうな顔するなよ。俺は強ぇ。竜にも運命にも勝って見せるからよ」
 唇を吊り上げた。ああ、そうだ。何れだけ劣勢であったとてシグロスレアに一泡吹かせれば其れで構わないではないか。
「外を知る? 馬鹿者め。只の劣等種如きが、何を口にするか。貴様とて竜の何を知る。
 この高貴なる金鱗の何たるを理解しているか。竜とは所詮伝承と崇め続けた貴様等にこの身を傷付けられるとでも?」
 シグロスレアが立ち上がった。璃煙の悲痛な声が聞こえたが、それさえ、遠離ったような気がした。
 ルカが大地を踏み締めた。獣の呻き声を聞きながら流れる血潮を拭い、濃い死臭など振り払うようにグドルフが腕を振り上げる。
「性格が悪いなら、小細工には滅法強ェハズさ。色々と悪知恵働いちまうからな。
 だがそういうやつは案外……真っ直ぐ来られるのに弱ェんだ!」
 走り抜けていくルカを支援するように寛治の弾丸が周辺を掃討する。秋奈の刃が猪を切り裂き、イズマが前線に立つ武器商人を、ミーナを支え続ける。
 傷など気に留めることはなく猪を受け止めたグドルフの唇が吊り上がった。ああ、だから竜ってやつは『嫌』なのだ。
 嘲り此方を見て余裕を『ぶっこいて』。そんな奴の前で膝を付くなど、言語道断。
「しっかりと目に焼き付けな、これがイレギュラーズだ! 雑種!」
 叫ぶ。秋奈は『あっかんべー!』と竜と二度とで会いたくは無いと叫びたかった。
 重苦しい音を立てて倒れた猪にルカは気付いた。辛々、膝を立てて肩で息をするグドルフが叫ぶ。
「――行けえ、ルカ!! ぶちかませッ!!」
 背を押されるように青年は走った。コレまでの戦いで何れだけのリソースを喪ったか。そんなこと考えて居る暇も無い。
 ヒーラーが戦線を離脱し、僅かながらも其方をカバーしたとて容易に越えられる空いてでは無い事は理解している。
 だが、劣等種と嘲るあの竜に一太刀浴びせられたならば? 奴は屹度、自らを恥じ此方に興味を失うはずだ。
 最も簡単なことが『最も難しい』。
 だが、振り下ろす。形振り構う事なんてない。
「人間を舐めるんじゃねえぞーーーー!!」
 叩き着けた刃をシグロスレアは受け止めた。腕に力がこもらなかったのは、自らの余裕があと一歩足りなかったからだ。
 血を流しすぎたか。足元がふらつく。それでもルカの眼光には鋭い色が灯っていた。
「面白い」
 シグロスレアは鼻を鳴らし笑った。身構えた寛治にミーナが「来る」と呟いた。
 咄嗟に秋奈は構えるが、覇気が肌を刺す。シグロスレアは「その不敬、許さんぞ」と地を這うような声音で囁いた。
「劣等種も愉快な生き物が多い事は良く分かった――が、即刻、死ね」
 シグロスレアが腕を上げた一瞬。ルカはもう一度食らい付いた。劣等種(ざこ)に噛まれる感覚を覚えていろと言わんばかりに。
 シグロスレアの頬に走った一筋は赤い血をぽたりと滴らせ――竜はゆるやかに腕を降ろした。
「劣等種如きが……下らん。吼えるばかりで脳がないか」
「何とでも云え」
 腕位くれてやると言わんばかりに、力の入らなくなったその腕をだらりと降ろしたルカへシグロスレアはふんと鼻を鳴らした。
「飽きた。帰るぞ」
 背を向け、金鱗の竜の姿に転じたシグロスレアが飛び立って行く。その姿にグドルフは「くそったれ」と呟いた。

成否

成功

MVP

グドルフ・ボイデル(p3p000694)

状態異常

グドルフ・ボイデル(p3p000694)[重傷]
武器商人(p3p001107)[重傷]
闇之雲
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)[重傷]
夜明け前の風
天之空・ミーナ(p3p005003)[重傷]
貴女達の為に

あとがき

 お疲れ様でした。
 性格悪いドラゴンはまたすぐに皆さんに逢いに来ることでしょう。

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